第55話 幻獣アステリオス
二匹のダイヤウルフを撃退した。ピヨヒコはようやく終わりだと安堵した。
しかし胡散臭い吟遊詩人の格好をした男は、更にこちらを煽って来た。
ピヨヒコはその挑発に対して有利な条件を提示して吟遊詩人を煽り返した。
そして煽り耐性の低い吟遊詩人のべオルフは、ついに本気の演奏を始めた。
〜♪♬ 〜♪♫♩
ピヨヒコの目の前に居るのは、雄牛の頭をした筋骨隆々な化け物だ。
体長は5メートル近くあり、更には両手で扱うデカい戦斧を持っている。
しかもテンションがやたらと高く、鼻息が荒くヤル気に満ちた様子だ。
フンス、フンス! ブモォォォ!!
迷宮の番人ドミノタウロス、勇者一向は果たしてこの魔物を倒せるのだろうか。
◇
「いや、無理でしょ……」
桜子は早々に倒すのを諦めた。
アルマの固有スキルの”アナライズ”で敵の情報を解析した結果は以下の通り。
レベルは47 いや何このレベル。
演奏者であるベオルフのレベルすら余裕で凌駕している。
王国騎士団の団長でもある第一王子のグラウスが、確か48レベルとか言ってた気がするから、それと大差ないレベルって事になるのか。
この魔物と遜色ないと考えると、グラウスも相当な実力者なのが伺える。
とは言え敵によっては行動パターンや特性で強さの基準は変わるから、レベルが高いだけじゃ一概に強いとは言い切れないけど。
即死とかの耐性がなければ、それこそ経験値が美味しいカモにもなるし。
それでもこのドミノタウロスが弱いって事はあり得ないけど。
……だって、HPが16.400もあるんだもん。
攻撃力や防御力とか詳細なステータスは記載されないから、このイベントに合わせて調整されている可能性はあるけど、それでも脅威のHP1万5千越えである。
因みにさっきまで戦っていた、ダイヤウルフのHPは大体800ちょっと。
前に戦ったハングリーグリズリーですらHPは1.600くらいだった気がする。
まああの熊のボスは手負いだったから、本来はもっと強いのかもしれないけど。
弱点は火だけど毒も効くみたいだから、やり方次第では体力を徐々に削る事とか出来そうだけど、そもそも毒状態にする手段を持ってないからやっぱり無理だ。
とにかく現状だと、どう足掻いてもこちらに勝ち目はない。
つまりピヨヒコが提言した様に、この戦闘は如何にこの魔物の攻撃を回避して、背後のベオルフを攻撃するかで勝敗が決まる”特殊ルール”って事だ。
もしくは残り6ターンを何とかしてやり過ごせば、ベオルフのスタミナが尽きて演奏が止まり、こちらの勝利になる可能性もあるのかもしれない。
まあターン経過に関しては、前の戦闘も含めてだから、逆にこちらが不利な状況になる可能性も高いけど。
それよりも何かピヨヒコ達が仲間同士で集まって作戦を考案して、更にその概要を思考スキルを発動して、私にまで伝えて来たんだけど……何この展開?
『……取り敢えずこちらが考えた作戦は伝えたから、後はそっちの判断を信じる』
とか言われたから、思わず私も首振りジェスチャーで応答しちゃったわ。
でもこれはゲームなんだからピヨヒコの意向が気に入らなければ、プレイヤーの私が勝手に違う行動を選択しても別に問題ないんでしょ?
それとも何か不都合とか起きたりする? 反発したら主人公の私に対する好感度は確実に下がりそうだけど、でもそれはいつもの事か。
とは言えピヨヒコも操られている事を理解してるから、そっちの判断を信じる、とか敢えて付け足したんだろうけど。
提示して来た作戦の内容的には私も納得、と言うか同じような戦法しか思い付かなかったから、あまり大差はないのだが。そもそも選べる選択肢がまだ少ないし。
でもさっきの会話の流れだと、ベオルフはこちらの攻撃を避けないみたいだからネムの攻撃とかでも今度は普通に当たりそうではあるけど……
それに何か見落としているような、もっと最適な攻略方法とかもあるような気がするんだけど、残念ながらそれが何なのか咄嗟には閃かない。
何気に伏線も多いシナリオだから何となくだけど、今までのイベントの中に攻略のヒントがある気がするんだけど……うーん?
それ以前に、もしピヨヒコがべオルフの挑発に乗って余計な煽りをしなければ、もっと弱い魔物が出現していた可能性もあったのかも?
どう考えてもこのミノタウロスはこちらの適正レベルの範疇を超えているし。
てか何でドミノ? 駄洒落で語呂が良いからって名前が適当じゃない?
『あ、ちょっといいか? もう一つアイデアを思い付いたんだけど……』
「?」
そんな事を考えていたら、ピヨヒコが思考メッセージで作戦を追加して来た。
そのまま放置していたから、その間にピヨヒコも何か妙案を思い付いたようだ。
と言うかこの”戦法”って、ゲーム的にはありなの!?
プレイヤー視点だとまず思い付かない奇抜な作戦だったので少し困惑した。
「……ふーむ、まあ悩んでも仕方ないし、取り敢えず試してみてもいいかな」
今回は主人公の意思を尊重して指示された通りに行動してみる事にした。
しかし面白い事を考えたものだ。普通のゲームならまず何も起きないけど、このゲームは普通じゃないから、確かに何か起きそうな気はする。
特にリスクは無いと思うけど、どうなっても自己責任だからね?
それにこれ、いつの間にかピヨヒコも思考スキルを発動すると、その内容を私に読まれる事に気が付いている感じなんだけど、昨日の私の態度や言動で察したか?
部屋に戻るまでにループ現象の事とかも色々と考察してたし、思考スキルを解除した後も、こちらの反応を伺う感じで見てきたので少し不快だった。
しかもベッドに入ったのに寝る選択肢が直ぐには出なくて、隣で寝てたベオルフとの会話イベントが唐突に発生して、最後は勝手に動いてトイレに向かってたし。
それにさっきなんて、まだ幼いネムも加入したし、食事には気を遣って欲しい、空腹デバフになったらそれこそ勝てる戦いにすら勝てなくなる、とか言いながら、もしそちらが意図的に食事を摂らせない様な真似をしたら、こちらも例え操られていようとも今後は全力で抵抗する所存だから、そのつもりで!!
とか割と真剣な感じで念じて宣言してきたから、正直かなり戸惑ったわ。
……これやっぱりピヨヒコにはちゃんとした自我が確立してる感じだよね。
私としてはゲームを放置していた期間も、この主人公とどう接すればいいのかで少し悩んではいたんだけど、ストーリーを進める度にピヨヒコの方はプレイヤーの私に対して積極的に意見を伝えて来るようになってきている気がする。
私に対しての好感度が上がってる感じではないんだけど、正直ちょっとウザい。
まあ何も考えないでプレイヤーに依存する主人公ってのも面白みに欠けるけど。
とは言え、思考スキルで一方的に語り掛けられるのも、もどかしい気分だけど。
画面に向かって首振りジェスチャーで受け答えをするのも少し面倒だし、距離を置くとは決めてたけど、向こうが”コミニケーション”を望んでいるなら、こちらもコントローラーのマイクで喋り掛けてみるのもありなのかな……
でもやっぱり抵抗感はあるし、対話するにしても何か違う方法を模索したいな。
◇
〜♪♫♩ 〜♪♬
目の前にはドミノタウロス、その奥にはべオルフが居る。
作戦会議も終わり、先ずはアルマが魔法の詠唱を始めた。
魔牛はこのターンに喚び出されたから、次は俺の行動順だ。
そして背後の少女に伝えて俺が取った行動は……
「……」
〜♬♩♪♫
その行動とは!
「……」
「あのー、いい加減に諦めて攻めて来て下さいよ」
「……」
「あ、もしかしてアレですか? このまま何も行動しないで焦らせば、私が疲れて演奏を止めるとか思ってます?」
「ギクッ」
「図星を突かれて焦りましたね、何て小賢しい、それでも勇者ですか?」
「……ぷい」
「あ、耳が痛いからってそっぽを向くのは狡いですよ」
そう、俺が考えた作戦、それは先日の魔王戦でも少し思った事なのだが、待機を選ばずにそのまま”何も行動しない”場合はどうなるのか。
気になっていたので、それをこのタイミングで少女に伝えて試してみたのだ。
名付けて”放置戦法”!!
本当に”待機状態”にはならないみたいなので予想外だったけど、ベオルフは常に集中して演奏しているから、これは絶対に効果がある筈だ。
そのままずっと演奏を続けて腱鞘炎にでもなってしまえ、フハハハッ!!
〜♬♪
暫くすると、流れていた戦闘曲はループして冒頭から再び演奏が始まった。
放置してからこれで2回ループしたので、この演奏で既に3週目に突入した。
魔牛を喚び出してからずっと演奏しているから実際はもっと多いはずだ。
しかし演奏が止む気配はない。思った以上にベオルフは粘り強い性格なようだ。
と言うかよくよく考えると移動中もずっと演奏してるって事だよな?
褒めるつもりは全くないが、流石はストーカー気質なだけはあるな、恐ろしい。
「……」
「まだダンマリを続けるんですか、いくら待っても無駄ですから諦めて下さいよ」
ざわざわ……
この場に居た観衆も流石に違和感を感じたのか、ざわついて来た。
しかしまだまだ粘るぞ。ベオルフも話し掛けて来たし確かな変化と言える。
寧ろ時間稼ぎするなら、このまま奴の会話に応じるのもアリかもしれない。
「プモォ?」
「ほら、せっかく喚び出したアステリオスも意気込んで出て来たと言うのに、これじゃ何か気まずい空気になっちゃいますよ」
「……アステリオス?」
「ええ、この子の名前です、カッコいいでしょ?」
どうやらコイツは自分の演奏で創った魔物に愛称を付けているようだ。
と言う事は喚び出す魔物にはちゃんとした自我があったりするのか?
さっき倒したダイヤウルフも何かベオルフに懐いていた様子だったし。
ピヨヒコは気になったので、その事を素直に質問してみた。
「ええ、私の演奏スキル”幻想曲”で創った魔物はちゃんと各々意思があって、私に取っては”家族”のような存在ですよ」
「……えっと、それはその、そうなのか」
「あ、何ですかその反応は? もしかして私が孤独を紛らす為に、試行してこんなスキルを編み出したとでも思っているのですか?」
「え、違うのか?」
「全然違いますよ、そもそもこの”幻獣”は私が大陸各地を旅した際に手に入れた、特別な”譜面”を読み解き、習得した演奏スキルで契約した感じですから」
「譜面? 魔導書のようなものか?」
「ええ、多少違いはありますが、まあそんなところですね」
「えっと、それじゃさっきの白狼やファーラビットにも名前を付けてたりする?」
「勿論ですよ、因みに先程の2匹のダイヤウルフは、タロにジロと言います」
「ふむふむ、と言うか俺達で倒しちゃったけど問題ないのか?」
「分類的には”召喚魔法”の扱いなので、倒されたとしても大丈夫ですよ、私の演奏によるイメージの集合体なのは違いないので、寧ろ負担は私にある感じですね」
「あ、大丈夫なのか、それなら良かったけど……召喚魔法?」
「あ、あの、勇者様、召喚とは……」
「ふむふむ?」
放置戦法を実行中の為にまだ戦闘が始まらないので、警戒を少し解いたアルマが寄ってきて詳しく教えてくれた。魔法の詠唱は既に終えているようだ。
順番待ちの状態で退屈したのかネムとブックルもその話を一緒に聞いている。
どうやらこの世界には【精霊】や【幻獣】と呼ばれる存在が居て、条件を満たして契約する事で共に戦ったり、その力を借りて行使したり、契約者の能力を増幅させたりと、色々な恩恵を得る事が出来るらしい。
更には過去の文献によると【悪魔】と契約した者も居たとか居ないとか。
「……なるほど、教えてくれてありがとう」
「いえ、お役に立てたなら良かったです」
「このアステリオスは私の”奥の手”とも言えるので、滅多に人前で披露する事はありませんが、最初に喚び出したファーラビットは普段から弾き語りする際に、気分次第でお披露目してるので、観客にもある程度は認知されてますね」
「ああ、それで住人達もそこまで騒がずにファーラビットを受け入れていたのか」
そう言われると、目の前に居る魔牛も何となく愛嬌があるように見えてきた。
と言うかネムはベオルフの相方なんだから、当然その事は知ってたんだよな?
「タロもジロも、ネムの友達だよ」
「プモォ?」
「牛さんも仲間だよー」
「ブモォォッ♪」
そんな疑問を投げかけると、ネムは率直にそう答えた。
あれ、でもさっきはその”友達”に容赦なく投げナイフを突き刺してたよね?
「ナンダ、そうだったのカ?」
「そーだよ、牛さんは久しぶりに見たけど」
それならこの魔牛に恐怖を感じる事もないし、ダイヤウルフに対してもそんなに警戒しない訳だ、別に魔物に対して油断していた訳じゃないんだな。
それに確かファーラビットが跳ね回っていた時に、ベオルフが修行の一環だとか言っていたから、普段からネムの戦闘の練習相手として戦ってたりするのかも?
「この体格だと流石に目立つので、アステリオスは久し振りに喚び出しましたが、それもあってヤル気満々ですから、そろそろ戦闘を始めようじゃないですか」
「なるほどな、でも何かそんな話を聞いちゃうと気分的には少し戦いずらいなー」
「そんな事を言って戦闘を引き延ばすのはいい加減に止めにしません?」
「……チッ、バレたか」
一応ベオルフから情報は引き出せたけど、演奏を止めるつもりはないようだし、これ以上は引き伸ばしても時間の無駄か。
それに観客の目もあるし、あまり時間が経過すると騒ぎを聞きつけてお城の衛兵が押し寄せてくるかもしれない。
ピヨヒコは剣を構えた。そして念じて背後の少女に攻撃の要請をした。
魔牛も油断しているようだから、斬り込むなら今がチャンスだ!
「……あれ?」
しかし何故か少女から攻撃の指示はいつまで経っても来ない。
気になって背後の画面を見てみると、そこに少女の姿は無かった。
「えぇ!?」
え、ちょっと、嘘だろ!? 暫く放置して相手を焦らす作戦だとは伝えたけど、本当に放置して昨日みたく何処かに行ったのか?
確かに俺も放置しろとは頼んだけど、今回は相手も寝てないし今は戦闘中だぞ。
と言うかまたかよ!! 俺の事まで放置してどうするんだよこの状況!?
〜♫♪♩ 〜♪♬♩
どよどよ……
観客もいつまで経っても始まらない戦闘にどよめいてきた。早く始めろと野次を投げかけて来る声もチラホラ聞こえる。
吟遊詩人のベオルフもそのまま演奏しているが何処か呆れた視線を向けている。
既に詠唱を終えて待機していたアルマも、俺が行動しないからどうすればいいか分からずに困惑している様子だ。しかも詠唱で杖に宿した魔力が暴発しないように制御に奮闘しているようにも見える。
「むー、ピヨピコどうするの?」
「ピヨヒコが先に行動しないとネムも飛べないゾ?」
「あうう、勇者様……」
「あえ、えっと、それはその……」
ネム達にまで催促されて焦るピヨヒコ。
その様子を見てベオルフが再び声を掛けて来た。
「もしかしてアステリオスの迫力に気圧されて怖気付いてしまわれましたかね?」
「なっ!」
いや、寧ろ恐怖心は払拭したのだが、ここは反論せずに話を聞くとしよう。
「レベル的にも今の勇者様がこの子に勝てないのは私も理解してますが、最初にお伝えした通り安全は保証しますし、仮に負けたとしても死ぬ事はないですよ」
「……そうなのか?」
いや、でもさっきの白狼の氷魔法のダメージとか確かにあったんだけど?
この痛みも実は曲のイメージで、戦闘が終わったら消失する感じなのか?
「ええ、それにアステリオスは賢いですから、相手の力量に合わせて手加減はしますし、まあ私としては如何にしてこの子を出し抜いて、私に攻撃を仕掛けて来るのか少し期待していたのですけどねぇ」
「……っ」
確かに今の実力だと、どう足掻いてもこの魔物には勝てそうにないが……
「小賢しい手段ではありましたが、私に回避を禁止させたのも感心はしましたし、ステータスやスキルの能力以外で勇者様の強さを垣間見た気がしたのですけどね」
「……ぐぬぬ」
と言うかさっきからコイツは何様のつもりだ、上から目線なのが凄くムカつく。
褒めてるつもりかも知れないが、全然嬉しくないし小賢しい手段とか言うなし。
こっちはこれでも背後の少女に操られながらも、必死に試行錯誤してるんだよ!
「とは言え本当に戦う気がないのなら、やっぱりこれで止めにしますか?」
「……え、ここで止めてもいいのか?」
「私もノリで勝負を受けた感じでしたし、これ以上放置され続けると演奏している身としても流石に疲れますし、私は別にそれでも構いませんが」
「……ふむ」
正直これは願ってもない提案だ。アルマ達も居るし仲間がこの魔牛に攻撃されるくらいなら、ベオルフに謝罪をしてでもここで止めるのは全然アリだよな。
しかし、個人的にはこの憎々しい吟遊野郎に一撃でも入れて雪辱を晴らしたい!
「ブモォ!?」
「ピヨピコ、牛さん何か悲しそう」
「それはそうですよ、アステリオスだって出番を貰えて意気揚々と出現したのに、まさかこんな感じで出鼻を挫かれるとは、そりゃ落ち込みもしますよ」
「……うぅ」
ベオルフにグサリとくる嫌味を言われて、ピヨヒコは焦燥感に駆られた。
そんな事を言われても戦闘を続けるにしても止めるにしても、不思議な強制力に阻まれて俺にはどっちの選択肢も選べないから、どうにもならないんだよ!
こんな事になるなら放置戦法を試したいなんて少女に伝えるんじゃなかった!!
本当の敵は魔牛でもこの胡散臭い吟遊詩人でもなく、背後の少女だったか。
ピヨヒコは心の底から放置戦法を、少女に提案した事を後悔した。
「お!?」
そんな事を考えていたら、唐突に身体が動き出す。
画面を確認する余裕もなくピヨヒコは目の前の魔牛に向かって走り出した。
どうやら少女がいつの間にか帰って来たようだ。念の為に思考スキルを発動したままだったので、俺の思考を読まれて攻撃の指示を出したのかもしれない。
「む、やっと戦う気になりましたか、それともこちらの隙を窺ってたので?」
「そうだよ、こんちくしょう!」
画面の少女に念じて一言文句を言いたいが、今は攻撃に集中しよう。
最初のファーラビットの時の様に避けられたら貴重な1ターンが無駄になる。
そして俺が選んだ攻撃は……狙い斬り!
ターゲットは目の前のドミノタウロス、狙う部位は軸足だ!!
近接攻撃しかない俺が直接ベオルフを狙っても魔牛に阻まれるので、今回は初めからドミノタウロスを狙った。
それに攻撃を仕掛ければ魔牛の敵視も俺に向くので、背後に居るアルマやネムが狙われるリスクを少しでも下げられる。
本当は前の戦闘で白狼から氷魔法を受けたからヒールポーションで回復しようかとも考えたけど、どのみちこの魔牛の戦斧を一撃でも受けたらアウトなので、それなら脚を狙って少しでも魔牛の速度を落として、こちらの回避率を上げる算段だ。
手元を狙って攻撃の威力を下げる事も考えたが、体格的に脚のほうが狙い易い。
ザシュッ! ブモォォ!!
隙を付けたので思惑どおり上手く魔牛の脚を斬り付けることが出来た。
しかし硬い皮膚に阻まれたので、効果があるかどうかは微妙なところだ。
ブモォォ、フンス、フンス!!
不意打ちで足を斬られたアステリオスは戸惑いつつも憤慨している……
様子は全くなく、何処か嬉しそうに息巻いて鼻息を荒げていた。
やっと戦える事に対して喜んでいるようにも見える。狙い斬りは決まったのだが斬撃に対して痛がっている感じはしない、何てこった!
「くっ、物理攻撃だと効果はイマイチなのか?」
弱点が炎らしいから別案でハングリーグリズリーの時の様に、瓶詰めの油を投擲して、アルマの火球で延焼させて体力を削る事も考えたけど、大衆の面前でそれをやると間違いなく”放火魔”の称号を与えられそうなので、この案は却下した。
アルマにも危険なので、これ以上の火魔法は控える様に事前に伝えておいた。
とにかく何とか隙を突いて背後に居るベオルフに一撃だけでも攻撃を入れよう。
「ネム、ブックル、アルマ、待たせてすまない、手はず通りに頼む!」
「あいあい!」「オウ、任せろ!」「が、頑張ります!」
そして次のターン、ネムは腕の翼を羽ばたかせて再び上空に飛び上がった。
このターンは攻撃は出来ないが、これなら安全圏からベオルフを直接狙える。
「いきます、我が敵を打ち砕け、サンダーボルト!!」
そしてこのターンの最後はアルマの詠唱による魔法攻撃だ。
今回の狙いはベオルフ、ではなく敢えて最初からドミノタウロスだ。
魔法なら後方も狙えるのだが、それをベオルフも理解しているので図体のデカいアステリオスの背後に身を隠して、アルマの魔法の射線を遮っていた。
これだとダイヤウルフの時の様に身を呈して守るまでもなく魔牛に阻まれる。
それなら初めからドミノタウロスを狙った方が良いとアルマに提案されたのだ。
どうやらターゲットを定めていた方が魔法の威力や精度にも影響があるらしい。
仲間に対して魔法のダメージが作用しないのも、その辺が関係してそうだ……
そして使った魔法は雷属性のサンダーボルト。
これも雷撃でダメージを与えるよりも、感電によるスタンを狙った感じだ。
バチバチバチッ! ブモモモォォ!
アステリオスは身構えるが、避ける事なくサンダーボルトの雷撃を喰らった。
もしこれでスタン状態になれば次のターンは行動は不可。
そうなれば、俺の次の行動で魔牛を素通りして直接ベオルフに仕掛けられる。
「どうだ、感電は効いたか……なっ!?」
ブモォォォ!! バチッ、バリバリ!
しかしドミノタウロスは2本の角に電流を収束させて、そのまま放電させた。
サンダーボルトによる雷ダメージは少しはあるようだが、残念ながら感電によるスタンはしていないようだ、何てこった!
そして次のターン、行動はベオルフからだ。
〜♪♫
「電撃によるスタンを狙ったようですが残念でしたね、とは言えまだネムの攻撃も残っていますし、私は油断しないですよ」
そう言うとベオルフは何やら身構えて、こちらの攻撃に警戒している様子だ。
特に何かしてくる訳ではないので、この動作自体が行動になっているようだ。
もしかしたら何かのスキルや、防御系の魔法を発動したのかもしれない。
俺がネムに頼んだ戦法は、ベオルフが予想した通り、飛行状態からの投げナイフによる投擲攻撃だ。
ネムが使える技スキルも聞いたのだが、投げナイフを二本同時に放つ、スワローショット以外には、”スナイプショット”と言う、命中率重視の投擲スキルも使えるようなのだが、残念ながら地上からだと魔牛に射線を阻まれて狙えなかった。
更に飛行してる間は使えるスキルが制限される為に、修得している投擲スキルは使えずに通常の攻撃しか出来ないらしい。
それを考慮しても直接ベオルフを狙えて、尚且つ魔牛から狙われないメリットを優先して、ネムには前のターンで空に飛んでもらった感じだ。
しかしベオルフも回避しない条件を受け入れていたし、流石に三度目ともなるとネムの攻撃には用心しているようだ。
それを確認してアルマは再び魔法の詠唱を開始した。
攻撃魔法を連発すると魔牛の敵視が向く可能性があるので、もしスタンが効かなかった場合は、サンダーエンチャントによる支援を事前に頼んでおいた。
雷属性の斬撃なら感電による判定もあるし、今度こそスタンするかもしれない。
そして次の行動順は……どうやら俺からみたいだ。
狙い斬りの効果があったのか、それとも元々ドミノタウロスよりも俺の方が速く動けたのかは分からないが、先に仕掛けられるならチャンスだ。
とは言え俺に出来る攻撃は限られているから、もう一度”狙い斬り”を使用する。
狙う部位は、再び脚だ!
効果が重複するかは分からないけど、手元を狙うよりはずっと当て易い。
魔牛も今度は攻撃を押さえ込もうと腕を伸ばして来たが、それを上手く躱す。
と言うかこれで捕まっていたら、もしかして拘束されてたのか!?
どうやら味方の行動ターンだとしても、敵によってはカウンター系の抵抗行動をする事もあるようだ。こんな巨大な腕に掴まれたら一貫の終わりだよ。
しかし素早さならこちらの方が上だ、恐れずに攻撃を仕掛けよう。
ザシュッ、ブモォォ!!
なるべく先程と寸分違わぬように斬り付けた。やはり硬い皮膚に阻まれる感触はあるが、効果があるのかドミノタウロスは少しだが嫌がっている素振りを見せた。
そして次は、どうやらネムが先に動けるようだ。
「よーく狙えよネム!」
「おー、任せろー!」
ネムは上空で器用に滞空しながら、腰のポーチから投げナイフを取り出した。
俺の連続”狙い斬り”が効いたのか、デカい図体もあってかドミノタウロスはそこまで機敏には動けないようだな。素早さで翻弄すれば攻撃にも対応できるかも。
それといつの間にかブックルもバインダーから飛び出して、一緒に飛んでネムを応援しているのだが、飛行中で距離もあるからそこまで目立ってはいない。
寧ろ翼を大きく広げて、優雅に空を飛んでいるネムの方が注目を集めているな。
なんにせよこの攻撃がベオルフに当たれば、魔牛の行動の前にこちらの勝利だ。
まあ当たったら痛いじゃ済まないだろうから流石に避けるとは思うけどな……
ビュン!!
ネムの放った投げナイフは、演奏しているベオルフを正確に捉えた。
しかも角度的にはベオルフの頭部だ、よしいいぞ、そのまま当たれ!
バシュン! ガキィン!
「なっ!?」
「ふっふっふ、残念でしたね」
しかしベオルフは放たれたナイフの軌道を見極めて、タイミングを合わせてその場で旋回し、あろう事か装備していた”マント”でその攻撃を弾き返した。
ざわざわ……
「むー、また当たらなかったー!」
「何だ今の?」「パリィか?」「え、外套でパリィなんて可能なの!?」
ネムは悔しがり、観客達も今のベオルフの曲芸に驚いている様子だ。
確かメアリーから少し聞いたけど、どうやら今のが”パリィ”と言う技術らしい。
てか嘘だろ、事前に身構えてはいたけど、どんな反射神経してるんだよ!?
「どうです? 攻撃を”回避”はしてないので、これは勿論アリですよね?」
「ぐぬぬ……」
本当なら攻撃を避けたら即座にそれを批難するつもりだったのに、何てこった!
そして行動順は、遂にドミノタウロスだ。
ズシン、ズシン、とこちらに向かって来るのだが、地面が軽く揺れている。
そしてそのターゲットは狙い通り俺のようだ。今は回避に集中しよう!
後方のアルマを攻撃して来る手段もあるかと少し懸念していたが、見た目通りの近接パワータイプなので、両手に持っている戦斧で攻撃を仕掛けてくる筈だ。
ブモオォォ!!
ドミノタウロスは雄叫びを上げて一気に距離を詰めて来た。
狙い斬りの効果で攻撃速度が鈍っていると信じて、斬撃の軌道を見極めて……
ドドドドドド!!
見極めて……
って、なんかそのまま突進して来てるんだけど!?
え、え、嘘だろ、手に持ってる戦斧での物理攻撃じゃないのか!?
ピヨヒコは慌てて回避しようとしたが間に合わないと即座に判断して持っていた小盾で咄嗟にその突進攻撃、”ショルダータックル”を受け止める。
ドガーーン!!! バリィン!!
しかしこんな巨体を抑え切れる筈もなく、衝撃でそのまま吹っ飛んだ。
更に軽鉄のバックラーも、今までの蓄積ダメージにより粉々に粉砕した。
ゴロゴロゴロ、ズシャ!
「ウボァ!」
「ゆ、勇者様!!」
あ、ヤバい、気絶判定が来る。クラクラする……
耐えろ、耐えろ、堪えろ、ここで俺が気絶する訳にはいかー〜ーん!!!
「ぐぬぬぅ、ゲホッ、ゴホッ!」
「だ、大丈夫ですか勇者様!?」
「あ、ああ、何とか気絶はしなかった」
アルマの近くまで吹っ飛んだピヨヒコは気合いで気絶の判定を耐え切った。
しかし白狼から受けていた氷ダメージも含めて既に満身創痍の状態だ。
ざわざわ……
観客も俺が吹っ飛ばされる展開を予想していなかったのか、何やら困惑する声が聞こえてきた。あくまでも”戦闘パフォーマンス”による見せ物として観戦していたから最後には味方サイドが華麗に勝つ、と思い込んでいたようだ。
もちろん俺も勝つつもりで挑んではいるが、今の一撃は思った以上にキツい。
と言うかなんでこんな事になってるんだよ……
そうだった、俺がノリであの胡散臭い吟遊詩人に勝負を仕掛けたからだよ。
こんな事ならスルースキルでも発動してやり過ごすんだった、何てこったぁ!
◇
「うーん、今の攻撃で体力の半分以上も削られたし、流石にキツいかこれ?」
プレイヤーの桜子はそんな事を呟きつつも、まだ諦めてはいなかった。
気絶は免れたけど、流れてくる思考メッセージを読んだ感じだと、ピヨヒコ自身の精神力や”気の持ちよう”にも関係してる感じなのか?
と言うかスルースキルって何のこと? 私はそんなの知らないんだけど。
最初は放置戦法を試してたけど、戦闘曲がループして3週目に移行しそうだったから、これは何も起きないと思って少し離席したんだけど、戻って来たら何か会話イベントが発生してたようで、そのまま暫く眺めていたら、ピヨヒコが私が居ない事に気が付いて、慌てふためいていたから何か面白かった。
しかも戻ってきた時は私も設置してあるカメラから”映らない角度”でその様子を観ていたようで、ピヨヒコからだと私の姿が見えていない感じだった。
これならやり方次第では、ピヨヒコにこちらを覗かれずにゲームを遊べるかも?
まあ試すのは後にするとして、戦闘の要請が来てたので攻撃を選択した感じだ。何かまた選択肢も出てたけど、あの吟遊詩人は私もムカつくのでそのまま挑んだ。
それに離席中にモヤモヤしていた”最適の一手”を閃いたので、それも実行した。
感電のスタンが決まれば必要ないから、最初のターンはそのままサンダーボルトを選んだけど、このターンはピヨヒコに指示されていたサンダーエンチャントではなく、私が思い付いた”奇策”を試してみる事にした。
状況的にも”あの魔法”の方が有効そうだったので、勝手に選択肢を変えた。
私がプレイヤーなんだから、もちろんその権利は当然あるのだ!
とは言え今の突進攻撃でピヨヒコが瀕死に近い状態だから、先にハイポーションで立て直してから次以降のターンに賭けるか?
このままだと攻撃の命中率や、回避率とかにも影響しそうだし……
いや、でも行動順を確認すると寧ろそっちの方が機能するかも? ピヨヒコ達が考えたもう一つの”奥の手”もあるから、これならベオルフに攻撃が当たるかも。
戦闘が終わったら回復はするから、ピヨヒコにはもう少し我慢してもらおう。
ハイポーションは1つ余ってるけど、戦闘後なら普通のポーションでいいか。
寧ろこの後はギルドで食事をする予定だから回復はそこで済ませてもいいかも。
昨日は魔王城から無事に帰還して奮発したけど、こんな茶番にハイポーションを使うのは勿体無いし。てかハイポーションがこのゲームだと、”エリクサー”みたいな効能だとは思わなかったし……
でも説明文を読むと、森の魔女のお手製ハイポーション、とか書いてあるから、もしかしたら他のハイポーションよりも性能が良くて、希少な扱いなのかも?
まあ昨日は魔王タナトスから攻撃を受けて、ゲートの再起動でMPも減ってたから、使った事に対して別に後悔とかはしてないけど、それにエリクサーだからといって有難がって使わない性分でもないし。でも現状だとかなり貴重な回復アイテムだから、残りの一本は窮地の状況で使うとしよう。
今がその窮地の状況ではあるが、制限ターンはまだ残っているけど上手くいけば次のターンで決着が付く。もし私の読みが外れて、ドミノタウロスに阻まれたら、その時はその時だ。
何か愚痴を溢しているけど、ピヨヒコにはもうひと頑張りしてもらうとしよう。
そして桜子は意を決して、ピヨヒコに喝を入れた。
「ほら、自分で仕掛けた勝負なんだからしっかり気合を入れなさい!」
《んなっ!?》
勢いでマイクに向かって喋りかけたら、画面の中のピヨヒコは少し驚いていた。
戦闘中でも呼び掛けに反応するあたり、やっぱり不思議なゲームだと実感する。
◇
ビックリした、画面の少女が突然話しかけて来たから戸惑った。
しかも気絶しそうになった俺に対して、気合いを入れろ! だってさ。
つまりこの少女もまだ諦めていない、憎きベオルフに立ち向かう気概のようだ。
いや、実際に立ち向かってるのは、俺やアルマ達なんだけどな。
しかも瀕死の状態だし、小盾が無かったら今の攻撃で死んでいたかもしれない。
くそ、あの嘘つき吟遊詩人め、何が安全は保証するだ!!
そしてこのターンの最後、次はアルマの行動順なのだが……
その前に側に居たアルマが、詠唱していた魔法の事を俺に伝えてきた。
「あの、すみません勇者様、ごにょごにょ……」
「え、雷属性の付与じゃないのか? と言うか何でその魔法? あ、いや待てよ、そうか、確かに”その魔法”ならあの吟遊詩人を出し抜けるかもしれない」
「その、指示された魔法を唱えられずに申し訳ないです」
「あ、いや大丈夫、寧ろアルマの機転には感謝してる!」
「……っ」
「アルマ?」
そう言うとアルマは何処か居心地が悪そうな態度を見せた。お菓子の件もあったから知っているけど、このよそよそしい態度は何かを隠している時のものだ。
実はこの国の第一王子のグラウスの娘だった件もあるし、アルマが何を隠しているのか俺には分からないが、きっと詳しく言えない事情があるのだろう。
なら俺はアルマからいつか云ってくれる事を信じて、黙って待つとしよう。
「よし、アルマ!」
「ふぇ、は、はい?」
「ネムもお昼ごはんを楽しみにしていたし、俺も魚料理が食べてみたい、さっさとこの茶番を片付けて飯にしよう!」
「え、あの……」
「その為にもアルマの力が必要だ、頼むぞ!」
「っ、はい!」
アルマの曇っていた表情は今ので少しは晴れたようだ。
そしてアルマは杖に宿した魔法を唱える。
その対象は、俺だ!!
「……よし、ちゃんと効果はあるな、これならいける!」
自分の意思で解除する事も出来るとアルマに説明されたし、便利な魔法だ。
正面を見てみると視線の先には憎きベオルフが居る。今度は逃がさないぞ。
しかし次の行動はその憎きベオルフからだ。
先程はネムの攻撃を警戒して身構えていたけど、次は一体何をする気だ?
そして憎きベオルフは口を開く。
《いや、ピヨヒコ本当にどんだけベオルフの事を憎んでるのよ、ふははっ》
何か背後から少女の笑い声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。
「ふむ、何やらアルマさんから支援魔法を掛けてもらった様ですが、アステリオスの一撃をくらってもまだ諦めてないのですか、勇者様も大概しぶといですねぇ」
「……」
「おや、だんまりですか、まあいいでしょう、何を仕掛けてきても無駄です、私もそろそろ演奏に疲れたのでこれで終演と致しましょう」
吟遊詩人のベオルフはそう言うと、奏でていた曲のリズムをテンポアップした。
ファーラビットの時にも使っていたけど、素早さを上げる演奏スキルだ。
〜♪♩♫ 〜♪♬♩
しかもファーラビットの時よりも曲の激しさが増してる気がする。
そして演奏も再び終盤に差し掛かる。今度はベオルフも曲をループさせるつもりはない様で、魂のこもった演奏にギャラリー達も思わず聴き入っている。
その行動を確認してから、再びアルマが詠唱を開始する。
アルマにはもし俺が失敗した場合、今の魔法を次の行動の後に降りてくるネムか、アルマ自身に掛けるように事前に頼んでおいた。もしもの時の為の対策だ。
そして次の行動順は……
ダメージを負ったピヨヒコよりも先に、更にはそのまま滞空しながら自分の順番を待っていたネムよりも先に、幻獣アステリオスが動き出す。
ブモォォオォォ!!!
ベオルフの演奏により素早さのバフを掛けられたアステリオスは、雄叫びを上げその場でピョン、と高く飛び上がり、空を飛んでいたネム……
ではなく、その勢いのまま両手を大きく広げて豪快に地面にダイブする。
そしてそのターゲットは、目の前に居たピヨヒコだ!
ヤバい、このままだと押し潰される!
いや大丈夫だ、アルマの魔法を信じろ!!
この魔牛は奴の演奏によるイメージなんだから、この方法なら耐えられる筈だ、いや、やっぱり怖い、これで潰されたら絶対に助からない!!
てかそのデカい両手斧は飾りなのかよ、使う気が全く感じられないんだけど!?
ズドーーーーン!!!!
「うわぁ」「きゃー」「地響き!?」「まるで地震だぁ!」「ヒィ!」
“ドミノ”タウロス渾身の必殺技、”フライング・ボディプレス”が炸裂した!!
その巨体の重量から繰り出される破壊力は、先日の巨大スライムの比ではない。
ズズズズズズ……
その衝撃は凄まじく、地面は割れて、職人ギルドが仕上げたと思わしき大広場の石のタイル床は無惨は程に粉々に瓦解した。
もくもくと立ち上がる砂埃にギャラリーも視界を奪われる。
「……っ!」
「オワッ、ピヨヒコ、大丈夫か!?」
「むー、ピヨピコ潰されちゃった?」
魔牛の真正面に居たピヨヒコは、逃げる事も出来ずにそのまま下敷きになった。
しかもその振動はアルマの詠唱をも妨げ、このターンはスタン状態にされた。
ネムは上空で待機してたから地響きの影響は受けてないが、万事休すの状況だ。
既にかなりのダメージを受けていたピヨヒコが、その押し潰しに耐えられる筈もなく吟遊詩人のベオルフは自身の勝利を確信する。
〜♫♪
「ふぅ、少しやり過ぎましたが、何はともあれ私の勝ちですかね」
「……っ、まだです!」
ベオルフの勝利宣言に水を刺したのは意外にもアルマだった。
残されたアルマやネム達は、まだこの戦闘を諦めてはいないようだ。
「おやおやアルマさん、貴女ともあろう人がこの現状を理解出来ていないので?」
「勇者様は貴方の様な人には、決して負けません!」
「そーだそーだ、ピヨピコはベオルフなんかに負けないぞ!」
アルマの気丈な振る舞いを見て、傍らに居たネムもそれに便乗する。
「そうですか、ですがその勇者様はご覧の通り、アステリオスの巨体に潰されて、ぺちゃんこになってしまいましたよ? もしこれが私の演奏スキルによる幻じゃなかった場合、本当に死んでいたところですね」
「……っ」
「私も嗾かける様に煽りはしましたが、実力の違いを理解していたのなら私が停戦を申し出た時に、素直に受け入れるべきだったと思いますけどね、状況によってはその判断次第で自分の身はもちろん、大切な仲間をも危険な目に遭わす事にもなるのですから」
「……っ!」
「それでも貴女はそんな愚直な勇者様を信じると?」
「……でも、私達はまだ負けてはいません!」
「つまり、この状況でまだ私に勝てるとでも?」
「ええ、そのつもりです!」
「何とも愚かな、ならばそれを証明してもらいましょうか!」
「……ああ、ならお前のお望み通り、証明してやるよ!!」
「なっ!?」
ボフッ! シュタタタタッ
そんな台詞と共に砂煙の中から、剣を強く握ったピヨヒコが飛び出して来た。
迫るピヨヒコ、しかしベオルフは焦らずにその攻撃に対応する為に集中する。
前回の行動で身構えてはいたけど、もしかしたらネムの飛行スキルのように継続するタイプの防御スキルなのかもしれない。本当に厄介な男だ。
「ふふふ、どうやってアステリオスの攻撃を回避したのかは分かりませんが、詰めが甘かったですね、私の”カウンターパリィ“はまだ発動中です!」
「そうか、しかし残念だったなべオルフ、こっちにもまだ”奥の手”はある!」
「な、何ですって?」
「このターンはまだ俺の”行動順”じゃない、俺はお前に”接近”しただけだ!!」
「なっ、まさか!」
「頼んだぞ、ブックル!!」
「オウ、任せろピヨヒコ!」
ピューンッ、ガバッ、ボフッ!
「ムガッ!?」
「ギャハハハ、ヤッたゼ、今だやっちまえ!」
「おー、ブックル、スゴい!」
「勇者様、今です!!」
そう、さっきの魔牛の突進攻撃で負傷した俺は、行動順が変動してネムの行動が先になったのだ。そしてネムはブックルを”アイテム”として使用した。
そのブックルはタイミングを見定めて飛び込んで、ベオルフの顔に張り付いた。
その結果、ベオルフの視界は本の身体に遮られて無防備な状態になった。
「これでこの茶番も終わりだ、覚悟しろべオルフ!」
「モガモガ!?」
「くらいやがれぇ!!」
仲間の助力もあり、ピヨヒコの渾身の一撃が遂にベオルフを捉えた。
狙いを定めて飛び込んで、その持っていた剣を全力で振り下ろす。
ズバァッ!!
「ぎにゃあァぁーー!!」
そのまま真っ二つに斬られたベオルフは素っ頓狂な悲鳴を上げて……
その身体は陽炎のように揺らぎ、何故かその場から消失した。
そして演奏は止まり、アステリオスも音符に戻り音が弾けて消失する。
魔牛は久し振りに出番が貰えて嬉しかったのか、満足げな表情だった。
それと同時に観客から拍手喝采が湧き上がる。
こうしてノリで始まった想定外の、対ベオルフ戦は終わりを迎えた。




