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第54話 ホワイトファング

 吟遊詩人のベオルフは演奏のスキルで5匹のファーラビットを喚び出した。

 それを難なく撃破すると続けて2匹のダイヤウルフを喚び出した。

 そして更にベオルフ自身はその姿を消した。


 なんて厄介な相手だ、ノリで勝負を挑むものじゃないとピヨヒコは後悔した。

 そしてベオルフが姿を消したのを確認して、アルマは次の詠唱を始めた。 


 それと同時にベオルフの側にいたダイヤウルフが動き出す。この白狼はさっきのターンでその身を呈してベオルフを守った方だな。

 どうやらこのダイアウルフの方が俺よりも速く行動が出来るようだ。


 走り出したダイヤウルフは地上に降りたばかりのネムに敵視を向けている。

 主人を上空から狙う面倒な相手をターゲットとして定めたようだ。

 もう1匹のダイヤウルフもその様子を伺いながら自身の順番を待っている。


「ネム、危ない!」

「む?」


 疾走してくる白狼。近くに居たピヨヒコは咄嗟に前に出てネムを守ろうと小盾を構えて動くが、それよりも速く”ホワイトファング”の鋭い牙がネムに迫る。

 警戒を怠って油断していたネムは、回避する事も出来ずにその攻撃を喰らった。


 ザシュッ! ギィィン!!


 きゃー、うわー


 周囲からは悲鳴が飛び交い、ネムの安否を心配する声が聞こえてくる。


「ネム、大丈夫か……っ!?」

「安心シロ、ネムは大丈夫ダ!」


 どうやら白狼の攻撃が当たる直前、ブックルが咄嗟に飛び出し、身を呈してその攻撃からネムを守ったようだ。


「いや、ブックルは大丈夫なのか!?」

「俺様も無事だぞ、バリアで防いだ」


「おー、ブックル、ありがとー」

「ドウダ、俺様だってちゃんと役に立つダロ!」


「ああ、スゴいぞ、ブックル」

「ギャハハ、ネムの事は俺様がしっかり守るゼェ!」


 魔物の情報でアルマにマウントを取られて落ち込んでいたが、ネムに感謝されてブックルも嬉しそうだ……そう言えばこんな下品な笑い方だったな。

 後方で詠唱を続けていたアルマも、二人の無事を確認して安心した様子だ。


 と言うかバリアなんて便利そうな防御魔法を使えたんだな。

 つまりブックルはネムの盾の代わりになれるって事か。

 とは言っても本体の材質は紙だし、バリアにも限界はありそうだが。


 それに俺も咄嗟にネムを守ろうと動いたのだが、やはり何か戦闘における制約があるようで、不思議な強制力により途中で動きを制限される感覚があった。

 敵が攻撃を仕掛ける前なら敵視を向けさせる事は可能だが、スキルや特性などを駆使しないと仲間のカバーは難しい感じなのかもしれない。


 歯痒い気持ちになるが、取り敢えずネムもブックルも無事でよかった。


 そして攻撃を仕掛けた白狼は謎のバリアに阻まれた事に戸惑っている様子だ。

 ピヨヒコは状況を把握すると、直ぐにそのまま次の行動に移る。


 もう一匹のダイヤウルフは、前のターンに放った”狙い斬り”の効果で、後ろ脚を怪我した為に、行動順が変動して俺の順番になったようだ。

 ピヨヒコはそれを感覚で感じ取りネムを襲ったダイヤウルフを剣で斬り付けた。


 ザシュッ、ギャイン!


 ピヨヒコの手際の良い動きに反応しきれずに白狼はそのまま斬撃を受ける。

 しかし白狼はダメージを負いながらも、背後に飛び退けて距離を取った。

 もう一匹の方も、それを確認して何か仕掛けてくるような行動に移行する。


「むー、スワローショット!」


 そしてネムは両手に持っていた投げナイフを距離を取った白狼に勢いよく放つ。

 しかも技名まであるので、どうやら投擲のスキルのようだ。

 ネムの放った二本のナイフは鋭い軌道で、ダイヤウルフを逃す事なく捉えた。


 ピュゥゥッ、ズババッ、ギャイン!!


 手痛い反撃を受けて深手を負ったダイヤウルフは、仲間の元まで下がった。

 まだ倒しきれてはないが、アルマの火球も受けていたので既に瀕死の状態だ。


 もう一匹のダイヤウルフは脚を負傷したまま近付くのは危険だと判断したのか、先程の行動で纏っていた冷気を操り、自身の頭上に一本の”氷の槍”を創り出した。


 ビキビキッ、ピキィィン


「なんだあれ、魔法か!?」

「勇者様、気を付けてください、あれは氷魔法の”アイスランス”です」


 詠唱を終えて後方で待機していたアルマが注意を促す。

 しかし行動順はまだ視線の先に居るダイヤウルフだ。

 生成したのと同時に、その氷槍を遠距離からこちらに向けて撃ち出した。


 ビュゥゥ!!


 そしてそのターゲットは、ピヨヒコだ。


 前のターンで脚を狙い斬りされたので、その仕返しだと言わんばかりに氷魔法のアイスランスを放ってきた。ピヨヒコは背後にいるネム達を巻き込まないように、避けずに軽鉄のバックラーでその攻撃を受ける。


 ガキィィン、ビキビキッ、ビュワァァ!!


「ぐわあっ、痛い!? そして冷たいぃぃ!!」

「オワッ、ピヨヒコ大丈夫か!?」


 アイスランスを真正面からバックラーで受け止めて直撃するのは防いだが、辺りに冷気が漂いピヨヒコは氷の魔法の影響をモロに受けた。

 どうやら軽鉄のバックラーでは魔法の効果までは防ぎ切れないようだ。


 ここ、これは本当に奴の演奏による幻なのか?

 普通に痛いし、しかもめっちゃ冷たいんだけど!?


 あまりの寒さにガチガチと歯を鳴らすピヨヒコ。

 手が悴んで、剣を握る腕に力が入らない。

 抵抗行動に失敗したピヨヒコはアイスランスの冷気で”凍傷状態”になった。


【凍傷状態】になると徐々に体力を奪われて、回避と命中にデバフが掛かる。

 冷気に強い専用装備があれば抵抗できる。気候によってターン経過で回復する。


「ピヨピコ、だいじょうぶ?」

「ダダ、大丈夫だ……ガチガチ」


 ネムとブックルに心配されたので、ピヨヒコは気丈に振る舞い安心させる。

 そしてその様子を見ていたアルマが杖をこちらに向けて魔法を唱えた。


「剣よその刄に炎を宿せ、ファイアーエンチャント!」


 まるで予期していたようなタイミングでアルマが支援魔法を掛けてくれた。

 剣に宿った火魔法の熱で、ピヨヒコは凍傷状態から回復した。


「ふわぁ、あったかい、生き返るぅ」

「だ、大丈夫ですか勇者様?」


 心配したアルマも駆け寄って声を掛けてくれた。


「ああ、助かったよアルマ」

「魔法攻撃は通常の盾だと防げないので、無事で良かったです」


「あったかいねー♪」

「オオ、アルマの魔法はスゴいんだナ」


「いえ、そんな、大した事ないですよ」

「アルマ、なんか照れてるー」


「……っ」


 ブックルも既に機嫌を治したようで、アルマの魔法を素直に称賛した。

 魔物の知識の件で二人がギスギスした空気にならなくて良かった。

 もし険悪になった場合、火魔法が使えるアルマの方が有利そうだけど。


 と言うかアルマもそろそろ魔力が尽きるんじゃないか? MPの消費量は分からないけど、確か攻撃魔法を3回に、今ので支援魔法も1回使ってるし。

 俺も昨日”ゲート”の使用で魔力欠乏を体験したけど、結構しんどい感覚だった。

 

 そう考えてピヨヒコは、アルマにマジックポーションの使用を促した。

 アルマもそれに従い魔法の鞄から取り出して、このターンは回復する事にした。


 そして次のターン、どうやら順番は俺からみたいだ。


 前のターンではダイヤウルフが先に動いたが、反撃を受けて瀕死の状態になったので行動順が更に変動したらしい。俺も白狼の氷魔法で多少ダメージはあるけど、出来たらこのターンでダイヤウルフを仕留めたいところだ。


 コソコソと隠れている吟遊詩人の行動は、どうやら今回はスルーされたようだ。


 〜♪♫


 まさかこんな大衆の面前で”固有スキル”を使って隠れるとは思わなかったけど、観客はこの戦闘に注目していて、そこまで騒いでいる様子はない。

 奴の演奏により幻を見せられているので、本人が姿を消す不可思議な現象すら、パフォーマンスの”演出”なのだと勘違いしてる可能性はありそうだけど。


 武器に炎のエンチャントも付与されたし、このまま手負のダイヤウルフを狙えば一匹は確実に倒せそうだが、どうしたものか……

 強く念じてこちらの意向を伝える前に背後の少女の指示が伝わる。どうやら俺と同じ事を考えていたようで、素直にそれに従う事にした。


 俺のHPの回復はその後だな、さっさとこの戦闘を終わらせるとしよう。 

 ピヨヒコは熱の篭った剣を強く握り、ダイヤウルフに向かい突き進む。


 ターゲットはもちろん瀕死の方……

 ではなく脚を怪我した、まだ余力のある方のダイヤウルフだ!


 グルルゥゥ……ビュォォ


 白狼は冷気を纏いこちらの攻撃を防ごうとするが、剣の熱でそれを振り払う。

 そしてピヨヒコは、切り返した刃でそのままダイヤウルフを鋭く斬り付ける。


 ザシュッ、ギャイン!! グガァ!!


 斬撃によるダメージと炎の熱に悶え苦しみながらも、そのダイヤウルフは反撃を仕掛けて来た。今の一撃ではまだ仕留め切れなかったようだ。

 しかし動きが鈍い、ピヨヒコは冷静にその攻撃を見極めて回避する。


 そしてネムの行動順、再び投擲スキルのスワローショットを使用する。


 ピュゥゥッ、ズババッ、ギャイン!!


 その追撃を避けきれずに、手負のダイヤウルフは音を弾かせて消失した。

 これで残りは瀕死の一匹だけ、こちらの勝利は確実だ。


 もし瀕死のダイヤウルフを先に狙った場合、エンチャントの効果も含めて過剰なダメージになりそうだったので、体力の多い方を狙った方が効率的だと考えたが、画面の少女もその辺はちゃんと理解してるようで、こちらの杞憂になった感じだ。


 しかしなんとも後味が悪い。命を賭けたやり取りで魔物を屠るならこちらも覚悟を持って挑んだ結果だし、手加減などしないのだが……

 主人を守り勇敢に戦った手負のダイヤウルフにとどめを刺すのに抵抗感がある。


 アルマはこのターンで手持ちのマジックポーションを使用したから、今の行動順はこの残された瀕死のダイヤウルフなのだが。


 グルルルゥゥゥ……


 その瞳には怯えはなく死を覚悟しながらもそのまま向かって来そうな様子だ。

 もし攻撃を仕掛けてくるなら、俺も次のターンでとどめを刺すしかないが……


 〜♫♪


「どうやらこちらの負けのようですねぇ」

「!!」


 そんな気丈なダイヤウルフを気遣う様に、演奏者のベオルフが再び姿を現した。

 そしてその主人の姿を見て、ダイヤウルフは近くに寄りその身をすり寄せる。


 クルルル……


 ベオルフは労うようにそのダイヤウルフの頭を撫でて、そして演奏を止めた。

 すると白狼は音符に戻り、音が弾けて消失する。


「……か、勝った、のか?」

「ええ、お見事でしたよ勇者様」


「はあぁ、疲れたぁ……」


 わぁー、パチパチパチパチ!


 演奏が終わり、観客の拍手や歓声が聞こえる。

 やはり見計らったようなタイミングで曲が終わったので、聴き入っていた者からすると今の戦闘よりも、ベオルフの演奏に満足感を感じているのかもしれない。


「さて、勇者様」

「む?」


「それじゃ次の曲目に逝きましょうか」

「ええ、嘘だろ!? まだやるつもりなのか!?」


「もちろんですよ、それにまだ勝負は着いていませんし」

「いや、お前が喚び出した魔物はちゃんと倒したぞ」


「確かにそうですね、ですが”私は”まだ一太刀も受けていませんよ?」

「!!」


「まあ勇者様がどうしても疲れて無理だと仰るなら私も強要はしませんし、これで止めにしますけどねぇ」

「……ぐぬぬ」


 コイツ、ここにきて更にこちらを煽って来やがった。

 しかも然りげ無く”逝き”ましょうとか言ってきたし、ムカつく奴だな!!


 と言うかこの吟遊詩人だってここまで休まずに演奏して、途中から固有スキルも併用していたんだから、発動に必要なSPだって相応に減ってるんじゃないのか?


 それとも隠れるのも含めてそんなに消耗しない感じか? でも昨日はアルマから貰ったケーキを摘み食いしていたし、スタミナが無尽蔵ってわけでもないよな?


 あ、もしかしてさっき何もしてこなかった合間に隠れながらスタミナポーションでも飲んだのかも。これまでは何かしら行動してたからその可能性はありそうだ。

 もしそうなら回復アイテムがあれば、そのままずっと隠れてる事も可能なのか?


「さあ、どうするのですか勇者様? 悩んでいる余裕はありませんよ?」


 そう言うとベオルフは、催促するように持っていた楽器に手を掛ける。

 先に勝負を仕掛けたのはこちらだけど、これは俺の一存で決めてもいいのか?


 背後を見てみると、アルマはコクリと頷き、ネムとブックルもヤル気みたいだ。

 どうやら3人ともこの”茶番”とも言える戦闘に、臆している様子はない。


 周囲を見ると観客もいつの間にか増えていて、次の演目を期待している感じだ。

 ベオルフの誘導もあり完全に”パフォーマンス”だと思い込んでいるみたいだ。


 それにそこまで注目してなかったけど、冒険者らしき人物も何人か居るようだ。


 強そうな装備を身にまとったゴツい男が仲間と思わしき数人と今の戦闘について話していたり、こちらを心配した様子で眺めている白いローブ姿の女性も居る。

 それと集まったギャラリーを相手にドリンクなどを売って、商売しているカエルの風貌をした変な奴までいるんだけど、あれが噂のフロッグマンか?


 それとさっきから何か、嫌な視線を感じる。

 例の悪評もあるし、俺の事をあまりよく思ってない奴も居るとは思うけど……


 見せ物として公共の場で戦闘している手前、勝手に観るなと文句も言えないが、思った以上に注目されている事実をピヨヒコは改めて認識した。


 しかし個人的には面倒だから、もうこれで止めにしたいところなんだけど。

 それに朝飯も食べ損ねたから早くギルド酒場の食堂でお昼ごはんが食べたい。

 ……とは言え実際のところ、俺にそれらの選択の決定権はないのだが。


 背後を振り向いたピヨヒコは、いつもの様にそこに浮かんでいる画面を見た。


     ◇


「うーん、このタイミングで選択肢が出ると思わなかったけど、どうするかなぁ」


 設けられていた制限ターンは12ターンで、会話や演出を挟んだけど思ったよりもスムーズに倒せたから、次の行動で6ターン目だ。

 出現する敵の強さにもよるけど、残りのターン数で倒せる感じなのかな?


 でも選択肢が既に怪しいから、これも罠とかの可能性はありそうだけど……

 魔物も段々と強くなってるし今のレベルじゃ勝てない難易度になるのかも?


 プレイヤーの桜子は、突き付けられた選択肢を前に判断を決めかねていた。

 このゲームは味方は当然の事なのだが、敵にも”レベル”が設定されている。


 そしてアルマの覚えている固有スキル”アナライズ”は、何故かパッシブとは別枠扱いで、所有しているだけで戦闘中に敵のレベルや特性、弱点に残りの体力までも表示されるのでスゴく便利なんだけど、今のダイヤウルフはレベル9で、その前のファーラビットはレベル3だった。


 因みに以前に魔女の森で戦ったウォーキングウルフはレベル4、クエストのボスとして戦ったハングリーグリズリーはレベルは13くらいだった気がする……

 そしてその帰りの道中に森の泉で出現した巨大スライムはレベル15だった。


 魔王タナトスに関しては、あの場にアルマが居なかったので詳細不明だ。


 こちらは装備や職種によるステータスの補正もあるから、敵のレベルが高いからと言って絶対に勝てないって感じではないけど、ベオルフは確かレベル35だったから、もしかしたら、それに近いレベルの敵を喚び出せる可能性はありそうだ。


 意地が悪そうな性格なので、プレイヤーの嫌がる事とか好んでして来そうだし。

 でも断るとそれはそれで仲間や観客からの評価にも繋がりそうなんだよな……


 あ、いやでもこれベオルフに一度でも攻撃が当たればコッチの勝ちなのかも?

 何か戦闘中の会話でも、ピヨヒコがそんな事を言ってたし。


 それにターン経過とかで戦闘に負けたとしても、何かしら展開が変わるだけで、流石にゲームオーバーにはならないとは思うし……

 何よりも私もこの”ストーカー野郎”には一泡吹かせたいからこのまま挑むかな。


 でもコイツ、またピンチになったら消えたりしないよね?


     ◇


 画面の少女の選択が伝わってくる。どうやら戦闘を継続するようだ。

 まあ楽しそうな空気が画面から伝わって来たから、そうだとは思ったけど。

 ピヨヒコはその決定に従いつつも、考えていた要望を追加する事にした。


「分かった、戦う!」

「ふふっ、よい覚悟です、それではやりましょうか」


 おおー、いいぞー、わーわー♪


 観客達もアンコールしたかった様で、ベオルフの次の演奏に期待している。

 それに応えるように吟遊詩人のベオルフは持っていた楽器に手を掛ける。


「あ、ちょっと待った」

「……なんです?」


「戦うのはいいけど、さっきみたいに途中でピンチになったからって隠れたりして逃げるのは禁止にして欲しい、出現する敵の強さによってはこちらに全く勝ち目がないかもしれないし」

「それはつまり積極的に私を狙うと宣言しているようなものじゃないですか?」


「そうだけど?」

「まあいいでしょう、それでも構いませんよ、私もこうして姿を晒した事ですし、この私に一太刀でも入れたら素直に負けを認めましょう」


「よし、言質はとったぞ、絶対に攻撃を避けるなよ!」

「? いや、狙われたら私も回避くらいはしますけど」


「俺は”逃げる(回避する)”のは禁止だと確かに言ったぞ!」

「なっ!?」


 ピヨヒコは小賢しい言葉遊びでベオルフを追い詰めた。

 さっき煽られたのでその仕返しを兼ねて、意地悪な提案を無理やり通した。

 これで訂正して断ってきたら奴の器の狭さを責め立ててやるつもりだ。


「……ふふふ、そうですか分かりました、いいですよ、ならばコチラも少々本気を出す必要はありそうですね、ではとっておきの演目を披露しましょうか」

「!!」


 ベオルフは意外にもこちらの無茶な提案を受け入れた。

 だがそれならそれで好都合だ。

 本当に回避しないなら、アルマとネムも居るしこれなら何とかなりそうだ。


 性格的にもあまり煽られる事とかなさそうだし、煽り耐性は低いようだ。

 少し悔しそうな顔をしていたのでピヨヒコは満足した。


 しかし直ぐに下手な挑発なんてするんじゃなかったと後悔する事になった。


 気合を入れた吟遊詩人のベオルフは、今まで奏ででいた銀色のハープを仕舞って代わりにリュートのような楽器を取り出して、持ち換えた。

 どうやらコイツが肩に掛けている鞄にも空間魔法が付与されているようで、もしかしたら他にも演奏スキルに対応した楽器をいくつか所持してるのかもしれない。


 そしてベオルフは、ついに本気の演奏を始める。


 〜♪♫♩ 〜♪♬ 〜♫♩♬


 何処か重厚で威圧感を感じるクラシック調の戦闘曲で普通にカッコいい。


 複雑な音が重なり、そのイメージが次第に明確になっていく。

 重々しい感じの”黒い色”の音符が集まり、魔物はその姿を露わにする。


「いやいや、何かめっちゃデカいんだけど……え、ナニこの魔物!?」

「さあ、これが最終幕です、お立ち合いの皆々様も是非楽しんで逝ってください」

 

 体長は5メートル近くもあり、横幅も広く、浅黒い色の肌に筋骨隆々の肉体。

 二脚で立っているのだが、下半身は牛か馬の様で薄い毛に覆われ蹄がある。

 そして腰ミノを着けていて、その体格に見合う巨大な戦斧を両手に持っている。


 そして何よりも特筆すべきは、その印象的なデカい雄牛の頭だ!!


「うわー」「ヒエッ」「何だコイツ!?」「え、まさかドミノタウロスか?」


 観客からは悲鳴にも似た歓声が上がっている。吟遊詩人が奏でる旋律のイメージで創り出している事は理解しているようだが、その迫力に圧倒されている。


 そして動き出すと同時に、その牛の頭をした巨大な魔物は雄叫びを上げる。


 ブモオォオォォ!!!


 ビリビリビリ……


 その咆哮に周囲はどよめき立つ。巨大な体躯も相まって凄まじい迫力だ。

 と言うかコイツ、昨日会った魔王タナトスよりもデカいんだけどぉ!!


「ピヨヒコ、アイツはヤバいゾ!」

「勇者様、あの魔物は危険です!」


 アルマとブックルも出現した魔物の事を知っているようで、お互い牽制する事もなく各々が知っている情報を交えて説明してくれた。


 その情報によると、あの魔物は【ドミノタウルス】と言うらしく、”迷宮都市”と呼ばれる古くからあるダンジョンの最下層に出現した魔物らしい。

 アルマの話だと現在では目撃情報も皆無らしいが、こちらも過去に書かれた有名な童話などにも登場するようで、一般人にもその容貌が知れ渡っているようだ。


 まあ実物を見たり、それこそ戦った事がある者なんてほんの一握りだと思うが。

 でもこの吟遊詩人がここまで再現できるって事は、実際に見た事があるのかも?


 それにブックルの話だと先代の勇者とその仲間達で、そのダンジョンを攻略中に遭遇して何とか討伐したらしいのだが、純粋なパワータイプなので攻撃力や防御力はさる事ながら体力もかなり高く、倒すのに相当な苦戦を強いられたとの事だ。


 獣系の魔物なので火が弱点らしいのだが、半端な火力では効き目は薄そうだ。


 いや、こんなの今の俺達で勝てるのか!? いやいや、流石に無理だろ。

 出現した魔牛は一匹なのだが、それにしたってあまりにも規格外だ。

 てかベオルフの奴はこんな公共の場でなんてものを喚び出してるんだよ!


 しかし観客達はその迫力に気圧されてはいるが逃げ惑ったりはしていない。

 子ども達も居るのだが、怖いもの知らずなのか純粋に目を輝かせている。

 重厚でカッコいい戦闘曲も流れているので、娯楽として楽しんでいる様子だ。


 危機感が足りてないと思うのだが、これも”演奏スキル”の効果なのだろうか?

 とは言え最初にベオルフがこの魔物を出現させていたら、絶対パニックになっていたと思う。ファーラビットを始めに喚び出したのは計画的だったとも言えるな。


 いや、でも結局はこの魔牛も奴の演奏による”イメージ”の産物でしかないのか?

 ピヨヒコはそう考えて目を擦り、改めて目の前の巨大な魔物をよく見てみた。


「じぃー……」


 ブモォ?


 うん、やっぱり実際にそこに居るようにしか見えない。

 てか目が合ったし、怖いからこっちを見んなし。


 しかも何か粗悪な腰ミノを身に着けて、デカい両手斧まで持っているし。

 あんな両手で扱うような戦斧で斬られたら一発でアウトなんじゃないか?

 アルマの風魔法で斬られたファーラビットの様に、真っ二つになるよ!?


「カタカタ……!」


 そんな事を具体的に想像をしてしまったピヨヒコは、身体が小刻みに震える。

 先程の自信が消失したのか、アルマとブックルも少し後込み(しりごみ)している感じだ。

 

「牛さんでっかいねー」


 それでもネムだけは相変わらずマイペースなのだが。

 肝が据わっていると言うか、楽観的な性格なのかあるいはハーピアの種族特性なのか、巨大な魔牛に対しても特に恐怖とかは感じていない様子だ。


 まあ魔物に臆して戦闘中に”恐慌状態”になられるよりは全然マシだけど、慢心してさっきみたく油断する事もあるので、あまり危機感が足りてないのも少し困る。


「ナンダ、ネムは怖くないノカ?」

「む? ブックルは怖いの?」


「ンナ!? お、俺様に怖いものなんかナイゾ!」

「ほんとにー?」


 でも何処か楽しげな2人の会話を聞いていると、気が抜けて恐怖心が和らぐ。

 アルマと目が合うと、お互いに緊張していたのが伝わってしまった。

 身体が強張っていたのでピヨヒコは深呼吸して気持ちを切り替える事にした。


「よし、相手は強敵だが勝つ為にどうするかみんなで考えよう!」

「おー!」「オオ、ソウダナ」「は、はい!」


 とは言え普通に戦っても、今の俺達のレベルだとあの魔物には絶対に勝てないと思うので、演奏者であるベオルフを叩く意向を伝え、作戦を考える事にした。


 戦闘は既に開始されているが、今までの状況からしても喚び出されたこのターンは相手は行動して来ない筈なので、少し打ち合わせするくらいなら可能だろう。


 それにドミノタウロスもその背後に居るベオルフも、何故か律儀にこちらが行動するのを待ってくれているし。まあこれも戦闘の”ルール”なんだろうけど……


 〜♫♪ 〜♬♩♪


 あれ、これこのままずっと焦らしていたら、そのうち演奏が終わるんじゃね?


 いやでも流石にそれだとベオルフや、周囲の観客達も納得はしないか。

 出現したドミノタウロスも何やら鼻息を荒くして何故かヤル気満々みたいだし。


 それにもし仮にあの両手斧で斬られたとしても、曲のイメージによる虚像なら、実際に死ぬ事はないだろうし、どうにかしてドミノタウロスの攻撃を潜り抜けて、憎きベオルフに一撃を入れて、ギャフンと言わせてやろう。


 そう決心したピヨヒコは、画面の少女と連携を取る為に思考スキルを発動した。


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