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第52話 ミゼーアの呪い

 無事にお城を出たピヨヒコ一向は新たな仲間を求めて冒険者ギルドに向かった。

 その前に王国が補助金を用意してくれたので銀行に立ち寄りゴルドを卸した。

 こんな大金見た事がないピヨヒコは、何を買おうかと心を弾ませ胸を躍らせる。


 しかしその際に確認した自身の冒険者カードに気になる記述が幾つかあった。


     ⌘


 名前 ピヨヒコ 年齢 16 職業 盗賊 信仰 なし

 レベル 5 HP 108 MP 120 SP 40


 状態 異常(デバフ)・ミゼーアの呪い【知力と精神力が半減(永続)】

 職業補正 俊敏値+10 筋力+3 重量+5


 基礎能力値

 筋力 36(+3) 体力 52 知力 16(−8) 魔力 61

 精神力 30(−15) 器用さ 25 素早さ 32(+10) 魅力 18

 カルマ値 3±7 経験値 812(1000でレベルアップ可)


 装備 制限重量 26(+5)

 メイン武器 鋼のショートソード【攻撃値 40】

  サブ武器 鋼のダガー【攻撃値 33】

  メイン盾 軽鉄のバックラー(損傷)【防御値 15(−8) 物理カット率 30%】


 アウター防具 バンデッドメイル【防御値 27 重量 17】

 インナー装備 冒険者の服【防御値 5 重量 2】

    頭防具 なし

    装飾品 冒険者のマント【湿潤耐性・防御値 3】

        理性の腕輪+1【精神耐性・精神値 22】


 所有スキル

 狙い斬り【技・斬属性】 

 ストレージ【ユニーク】 マジックポット(064/500)【ユニーク】


 盗み聞き 窃盗 気配察知 暗視【パッシブ】


 称号

 見習い勇者 適合者 深淵を覗きし者 窃盗犯(暫定) 覗き魔(暫定)

 時空の観測者 彷徨う者


 貢献度 18

 採集クエスト 1回 討伐クエスト 1回 食材クエスト 0回

 労働クエスト 0回 特務クエスト 0回 攻防戦クエスト 0回


【ループ回数 9回(秘匿事項)】

【ギルド銀行 貯金残高 20.000G(秘匿事項)】


     ⌘


「な、なんてこった……」


 背後からも戸惑う声が聞こえて来たので、画面の少女も予期してなかった事だとは思うが、身に覚えが無いとは言わせないぞ!


 称号の項目の、窃盗犯(暫定)と、覗き魔(暫定) !!


 他にも気になる点はいくつかあるが、これは見逃せない。


「どうかしましたか勇者様?」

「え!? あ、いや何でもないよ、大丈夫」


 アルマに声を掛けられて焦ったが、心配させないように気丈に振る舞おう。

 てか覗き行為がバレるから、こんなのアルマにも見せられないじゃないか!


 ピヨヒコは知らぬ間に不名誉な称号を取得してた事に対し、心の底から嘆いた。


 お風呂場での覗き行為に関してはメアリーの配慮もあり、回避したと思っていたけど、あの王様にも見られていたようだし、それで追加されたのか!?


 それに窃盗犯、これも今までの漁り行為が蓄積して追加された感じだよな?


 マルクスだけじゃなく、アルマやネムにもバレたし、それに庭園での漁り行為をレティシアにまで見られていたから、それが決め手になった感じか!?


 一応(暫定)とは書いてあるけど、つまりまだ確定はしてないって事だよな。

 

 確かメアリーから”称号”は周りから忘れられた時に消失する事もあるとは聞いたけど、執行猶予とかがある感じなのかも?

 つまりはこれ以上、悪事を繰り返すと完全にアウトって事か?


 とにかく納得が出来ない、だって俺の意志で覗きや盗みをしてた訳じゃないし!

 ピヨヒコは背後の少女に対して、強く念じて不満を訴える事にした。


     ◇


 いや、何よこれ? 昨日まではこんな変な事になってなかったんだけど?


 プレイヤーの桜子は困惑した。

 まず気になったのは状態の項目の”ミゼーアの呪い”だ。


 毒や睡眠、空腹デバフや”魔力欠乏”とかもステータスには表示されるんだけど、確か最後にステータス画面を確認したのは……魔王城に飛ばされた時にピヨヒコが思考スキルを発動して謎の疲労感があるとか考えていたからその時に確認したな。


 でもあの時は魔力欠乏にはなってはいたけど、こんな状態異常はなかった筈だ。

 つまりはこの意味不明な”呪い”は、その後に確定したデバフって事だよね?


 効果的には知力と精神力が”半減”と書いてあるから、魔法職のアルマならかなりヤバいデバフだけど、盗賊のピヨヒコにはそこまでデメリットはない感じか。


 魔法に対する抵抗力にも影響する”精神力”の低下は正直キツいけど、理性の腕輪の効果でそこそこ補えてはいるし。

 鍛冶屋で注文して作ったからランダム要素なのか+1されてたんだよね。 


 でも半減だからレベルが上がるごとにデバフ効果もそれだけ増加するのか。

 しかも(永続)とか書かれてるから、解決方法を探さないとずっとこのままデバフ状態が継続する感じなのかも……


 うーん、どのタイミングで追加されたのか分からないけど、でも”呪い”って事はあの魔王と対峙した時に何かされたのか?

 確か逆賊には”反逆者”の称号を付与して、地上に追放するとかは言ってたけど。


 でも別にそれっぽい攻撃とかは受けてなかったから、別の要因があるのかも?

 それにミゼーアって名称も聞き慣れないけど何か元ネタとかあるのかな……


「えっと、ふむふむ……」

『おい、さっきから念じて呼び掛けてるのに無視するなよ!』


「……チッ」

『あ、露骨に舌打ちしやがったな!!』


「あーもう、何度も何度も鬱陶しいなぁ」

『なっ、なんだと、このペチ……


 ピヨヒコの訴えが煩わしかったので、メニューを開いて”ポーズ”を行使した。

 内容的には称号で追加されていた、覗き魔と窃盗犯についての苦情だった。


 と言うか今なんて言おうとしてた、何か失礼な事を言おうとしてなかった!?

 それに訳の分からない”呪い”よりも不名誉な称号の方が気になるのかコイツは。


 私だってこれでも気を遣ってなるべく見つからないように行動してたんだから、仕方ないでしょ、第三王女や王様が監視してたとか予測なんて出来なかったし。

 それに最初の漁りに関しては、弟のとしをが操作してたんだから私は悪くない!


 桜子は責任転嫁して、少しだけ感じていた罪の意識を振り払った。


 と言うかアンタだって魔王から勝手に宝箱を盗んでたし、普段から女性キャラに対して不躾な視線を向けてるんだから、寧ろ原因はそっちにあるんじゃないの!?


 それに、そんなことよりも気になる称号はまだある。


 【見習い勇者】と【彷徨う者】は最初から所持してた称号で【適合者】はブックルが呼び起こされた後に追加されたから把握はしてたけど【深淵を覗きし者】って何よこれ?


 称号はステータスとは違って冒険者カードから確認しないといけない仕様なんだけど、確か最後に確認したのは、えっと、ループ前の”添い寝イベント”でメアリーからレッテルの称号の説明を聞いた後に調べたかな。


 その時は覗き魔も窃盗犯も追加されてなかった筈だけど、てか深淵(アビス)ってなに?


 魔王城で何か見てはいけない冒涜的なものでも見た感じ?

 いや、でも特にそんな覚えはないような……

 廊下に何かフヨフヨした目玉の魔物は徘徊してたけどあれは関係ないよな。


 もしかして離席していた間にピヨヒコが勝手に行動して他にも何かしたとか?

 

「……うーん?」


 それに【時空の観測者】こっちはおそらく”リセット”を使ったからそれが原因で発生した感じだよね、ご丁寧にループ回数まで別枠に記載されてるし。


 という事は、リセットしても主人公の記憶が保持されるのは仕様って事なのか。

 称号まであるって事は、ゲーム的にはバグや不具合とかじゃないんだよね?


 あとこの(秘匿事項)てのは、銀行の預金額にも表記されてるから、誰かにギルドカードを確認されたとしても見られない為の気配りって感じかな?

 いや、そもそもゲームなんだしそんな配慮が必要なのかは知らないけど。

 

 まあ面白い要素だとは思うけど……でもリセット回数が間違ってない?


 王城を攻略する時に何度かリセット戦法は使ったけど、流石に9回もやり直してないとは思うんだけど?


 えっと、確か最初はお風呂イベントの後で部屋に戻ってからセーブして、城内を探索しようと思ったら、ランタンの罠で直ぐに見つかって、まだ罠があると考えてリセット前提で攻略法を覚えるつもりで、そのまま何度か挑んで……

 それで失敗を重ねたら、メアリーの”添い寝イベント”のフラグが立って、それで最終的に少し悩んだけど、ピヨヒコの意思も汲んでリセットしたんだった。


 これが1回目かな?


 それでその後は……、


 コホン、その後はお城の三階を目指してる最中に厨房で変なキャラに遭遇して、貰ったアイテムを試食するを選んだら、新レシピ考案のイベントが始まったけど、かなり時間が掛かったから、これも罠だと思って選択肢を変えてやり直したっけ。


 結局は厨房での漁り行為も、あの褐色エルフに報告されたみたいだけど、素直に試食して好感度を上げた方が正解だったのかも? いや、でもそれだと時間経過で王様の部屋での聞き耳は出来なかった可能性もあるんだよな……


 それと二階の通路を巡回する例のヤバい衛兵に挑んだ時に3回。

 あ、いや4回はリセットしたかなー


 とにかくこれで計6回だけど、後なんかあったっけ?


「……うーん? でもそれ以外でリセットは使ってないような」


 あ、もしかしてあれか? マルクスと”論争バトル”が勃発した時に、敗北したら確かリトライされて繰り返しになったけど、それもループに含まれていた感じ!?


 えぇ、もう三ヶ月以上も前の事だし内容も既にうろ覚えなんだけど……


 確か初回は普通にマルクスに論破されて負けて、ここでリトライしたら選択肢が増えて、マルクスを追い込んだけど、途中から秘書のシルビアが参戦して、圧倒的な弁護でマルクスを庇い、更にこちらの矛盾を的確に指摘して来て論破されたな。


 それで三回目の冒頭で、ピヨヒコが”思考スキル”を開花させたんだっけ……

 えっと、と言う事はここでも3回ループしてるって事になるのかな?


 これで合計9回か?


 でも論争バトルは後から追加された選択肢もあったし、負けるのが前提みたいな感じだったんだけど、そもそもあの時はこんな称号は獲得してなかったよね?


 でもでも”観測者”って称号だから、もしかしてこの地点ではピヨヒコもループしている事を認識していなかったのかも?

 もしそうなら、この称号がアンロックされたのは王城を攻略してた時に主人公が二階の”隠し部屋”の事を思考メッセージで伝えてきたタイミングとかかな?


 ピヨヒコもリセットを重ねた事で、違和感を覚えて伝えて来た感じだったし。


 それなら一応、辻褄は合うけど……

 それに多分この観測者の称号が”ミゼーラの呪い”と関連してるよね?


 気になってネットで検索したら”外なる神”とかの、神話的生物の名前がヒットしたから元ネタから推測しても、ループが影響しているとは思うし。


 つまりこの呪いはリセット行為に対する”ペナルティー”って事になるのかな?


 露骨にループ回数を提示されたって事は、ゲーム的には”リセット”は手段として採用はしてるけど、別に推奨している訳ではない気はするし。


 魔王城から帰還した時にセーブはしたけど、それまでのリセット回数が累積されて規定値に達した事でこのデバフが発生したのかも。

 あまりリセットを行使すると地中からモグラの魔物が出現して怒られるとか?


 それに覗き魔や窃盗犯の称号も、わざわざ(暫定)とか書いてあるから、こっちもプレイヤーに対して行動の”抑止力”って感じはするな。


 要は”カルマの天秤”をあまり悪の方向に傾かせる行為を重ねると、”レッテル”の称号によって枷を与えられる仕様になっている感じか。

 ゲームのクリアが最終的な目的なら”真の勇者”の称号を得る為にも、悪い行動はなるべく控えろって言う警告なのかもしれない。


 でもリセットに関しては私だって別に使いたくて使ってる訳ではないけど、そもそもあの侵入ミッションは罠も多くてリセット前提な難易度だったんだけど……

 つまりプレイヤーのリセット行為すら展開的には狙い通りだったりするのかも?


 まあ個人的にはリセットよりも、漁り行為を禁止される方がキツいんだけど。


 でもマルクスの話だと見付からないようにスレば問題はないんだよね?

 とは言え不名誉な称号のデメリットとかまだ詳しく判明してないから、不適切な行動は私もなるべく控えるつもりだったけど。


 取り敢えずカードの内容で感じた疑問はこんなところかな。


「……うん、我ながら見事な推理だな、普通はカードの情報だけでここまで的確に推測したり、そこまで気に留めたりはしないよな」


 桜子は自身の考察力の鋭さに、少し呆れながらも感心した。


 現状だとこの呪いも直ぐに何とかなるものではなさそうだし、ストーリーを進めれば何か説明や関連イベントが起きるでしょ。


 それにまだ出て来てないけど”信仰”とかの要素もあるようだし、教会があるならお祓とかで、この呪いを解除する方法があるかもしれない。


 もしデバフの内容が、筋力や体力、素早さ半減とかだったら解除が最優先だったけど、取り敢えずこのままでも問題はなさそうだし、先に冒険者ギルドの掲示板の中から面白そうなクエストを優先して選ぶ感じでもいいかな。


 お城訪問も終わったから何か新しいクエストが増えてるかもしれないし、それに所持金に余裕が出来たから、装備もだけどギルドで”講習”とかも受けてみたい。


 そう結論づけた桜子は、メニュー画面を閉じてゲームの続きを遊ぶ事にした。


 ャパイ女!!」


 それと同時にピヨヒコが念じて来た思考メッセージの続きが流れて来た。

 セリフを繋げて意味を理解した桜子は、ワナワナと震えて憤る。


「……う、うっさいわね、私だってまだ成長期なんだから、あまり失礼な事を言うと処すわよ! こっちはアンタの意志とは関係なく、壁に向かって延々とぶつかるように歩かせる事だって出来るんだからね!!」

《ヒェッ!?》


 何でゲームのキャラにそんな事まで言われないといけないのよ!

 それもこんな可愛いくて賢い女子に対して、失礼にも程があるわ。


 た、確かに同い年の翠ちゃんの方が私よりも全然胸は大きいけどさ……


「……グスン」


 自己肯定して持ち直そうとしたが、友人のスタイルを思い出して失敗した。

 落ち込んだ桜子は、ピヨヒコの事を無視して続きを遊ぶ事にした。


     ◇


 背後の少女を怒らせてしまった、このままでは処される。

 しかも壁に向かってずっとぶつかるとか、何それ怖すぎる。


 それに年齢を考えたら確かに見た目はまだ13歳くらいなんだし、デリケートな部分を(けな)したのは失態だった、ここは素直に反省して謝っておこう……むむむ。


《……ぷぃ》


 しかし画面の少女は怒りがまだ収まらないのか、そっぽを向いてしまった。

 足は勝手に南区の冒険者ギルドの方向に進んでいるのだが、何となく気まずい。


 しかもマップから念じてワープポットまで飛べば直ぐに着くのに、そのまま歩いて向かっているし、まさか走るのを拒んでいた俺に対しての処罰のつもりか?


 少女の機嫌を損ねると今後もずっと徒歩でこの広い城下町を歩かされるの!?

 いや、それは出来たら勘弁して欲しいんだけど。


 しかし鍛錬を兼ねているならこれも修行だと思えば……でもやっぱりキツイな。

 楽な手段を一度覚えちゃうと、以前の”当たり前”が苦痛に感じるものなんだな。


 ピヨヒコはそんな事をしみじみ思った。


 とは言えこの状況に対して流石に文句の一言くらい言いたくはなるでしょ。

 画面の少女もカードの内容で何やら考えていた様子だったけど、操られてる身としてはちゃんと情報共有して、要望を聞き入れて少しでも待遇を改善して欲しい。


「ハァ……」


 取り敢えず苦言も漏らさずに素直に後をついて来てくれているアルマやネム達に話し掛けて、場の空気を少しでも和ませよう。

 と言うか気付いたらいつの間にか、お城を少し降りた大広場の辺りだし。


「……あの、大丈夫ですか、勇者様?」

「え、ああ? 大丈夫だよ」


 ため息を吐いてそんな事を考えていたら、先にアルマに話しかけられた。

 背後の少女の怒号で思わず悲鳴みたいな声を上げてしまったから、それで心配されたのかもしれない。

 それに今更だけど画面の少女の声はアルマ達にはやっぱり聞こえないんだな……


「むー、ピヨピコどうしたの?」

「さっきから無言でナニカ考えながら唸ってタガ、お腹痛いノカ?」


「あ、いや、大丈夫だ、問題ない、ちょっと思わぬ大金が手に入ったから使い道とか色々と考えて悩んでいた……感じだ」

「ソウカ? あまり無理するなヨ?」


「ああ、そうだな、悩んでも仕方ない、冒険者ギルドに向かってるから取り敢えずお昼ご飯を食べてから、お金の使い道や今後のクエストの事とか一緒に考えよう」

「おー♪」


 流石にネム達も居るし、これで食事まで抜きとかの仕打ちはこの少女もしないとは信じたいけど、もしそんな真似をしたら俺も画面の少女を敵とみなして、今後は全力で抵抗行動(ボイコット)すると今のうちに念じて宣言はしておこう。


 さっきは逆鱗に触れて怒らせたけど、こう言うのは最初が肝心だ。

 空腹デバフになったら勝てる戦いにすら勝てなくなる、届けこの願い、むむむ!


《なっ!?》


 背後の少女は少し戸惑った様子だったけど、暫く考えた後に頭を上下にコクコクと振り、首振りジェスチャーでこちらの要望を受け入れてくれた。

 俺も少女を責めた事は反省して謝ったし、コミニケーションはやはり大事だな。


 これで一応、仲直りしたと考えても良いのかな……


 それにしても俺も随分とスムーズに”嘘”を吐くようになったものだ。

 これもカルマの天秤的には良くなさそうな行為だし、いつか【嘘つき】の称号が追加されないか不安だ。


「ごっはん、ごっはん♪」

「オオ、俺様も食事は特に必要ないが、ギルドを見るのは楽しみダナー」


 ネムとブックルが楽しそうに振る舞っているけど、本当に仲が良いな。


 それにブックルはずっとお城の図書室で眠っていたから、外の景色はそれだけでも新鮮に感じるだろうし、一緒に冒険する事が出来て嬉しいのかもしれない。


「お昼時は冒険者はクエストに出掛けている事も多いですが、それ以外の町の住人や職人達が食事やお酒を求めて出入りするので、割と賑わってますね」

「オ、ソウなのか?」


「それにギルド酒場は料理の種類も多いですから、王都でも人気の食事処ですよ」

「ふむふむ、魚料理とかもあるなら俺も食べてみたいな」


「サカナか、俺様も久し振りに海も見に行きタイナ」

「うみー?」


「ああ、そうか、ブックルは元々先代の勇者と一緒に冒険してたから、海を見た事があるんだな、この大陸の地理とかにも詳しかったりするのか?」

「ウーン、ダイブ昔だから記憶が朧げだけど、色々な場所には行ったゾ」


「そう考えると、この中でブックルが一番クエストや戦闘の経験があるんだな」

「ソウカ? でも俺様がアイリンと旅をしてた時はギルドなんて無かったケドナ」


「そうなのか?」

「アア、だからどんな場所なのか楽しみダゼ」


「えっと勇者様、冒険者ギルドは今の魔王が復活してからその対策として結成した感じですから、設立したのは今から大体14年くらい前になりますね」


 疑問を投げかけたらアルマが丁寧に捕捉してくれた。


「なるほど、確か先代の勇者が冒険をしていたのは300年も前らしいから、その当時に冒険者ギルドがある訳ないか、と言う事はクエストとかも無かったのか?」

「ソウダナ、大陸中を転々と移動して魔物達を退治して回ってた感じダッタカナ」


「ふむふむ、そう言えば冒険者ギルドはこの国の第二王子のマルクスが初代ギルドマスターとして立ち上げたんだっけ……」

「ええ、私もそう聞いてますけど、それにとうさ……コホン」


 つい盗み聞きした内容を口にしてしまったがアルマは普通に返答してくれた。

 そしてアルマが何を言わんとしたのか理解したけど、聞かなかった事にしよう。


「……大丈夫か?」

「ケホッ、すみません、ちょっと咽せてしまいました」


「まあクエストってのには俺様も興味はアルな」

「ネムと一緒に戦う?」


「おお、ソウダゾ、パーティには加われないみたいダガ、俺様が出来る事でネムのサポートを一生懸命するゾ」

「ふっふっふ、ならば見せてもらおうかキサマのそのチカラー」


「あ、でもブックルはあまり目立つと不味いから、なるべくバインダーに収まって大人しくしていてくれよ」

「む?」


「オッそうだな、分かった、会話には参加するが大人しくはしてるゾ」


 本当は喋り出すだけでも悪目立ちしそうだけど、あまり束縛するのも窮屈だろうし会話くらいなら問題ないか。

 それにこの王都には多種多様な種族も居るから、目立つで言ったら金髪美少女で尚且つ有翼族のハーピアのネムはそれだけで注目されそうだし。


 それとまだ会った事はないけど確か”ハーフビット”とか言う小人のような種族やフロッグマン? とか呼ばれる”ネプト族”もこの国には居るみたいだしな。


 それに種族か、ちょっと気になってはいたからアルマに聞いてみるかな。


「……そう言えば、アルマに少し質問があるんだけど」

「はい、何でしょう勇者様?」


「えっと、この国にも魔族が居るとは聞いたけど、もしかして魔法とかで自由に姿を変えれたりも出来るのか?」

「え!?」


「え、なにその反応?」

「あ、いえ、魔族は特性によってその見た目や能力は様々ですが、魔法を使う事で容姿を変えることは一応可能ですよ、ちょっと特殊な魔法ですけど」


「そっか、なるほど……」

「?」


「いや、少し気になる事があったから聞いてみたけど、答えてくれてありがとう」

「いえいえ、疑問があればなんでも聞いてくださいね」


「あ、それじゃ早速もう1つ、気になってた事があるんだけど」

「……はい?」


 ピヨヒコは冒険者カードの内容は伏せて、あの事を聞いてみる事にした。


「えっと、アルマは”ミゼーア”が何か知ってる?」

「ミゼーア……追憶の女神ミゼーアの事ですかね?」


「女神?」

「ええ、御伽話とか神話とかになるんですが、この世界には【十二依神(じゅうによりかみ)】と呼ばれる12体の神が存在していて、それを信仰の対象として崇めているんですよ」


「へぇ、そんな信仰対象があるのか……何気に多いな」

「まあ古くからある風習のようなものなので全ての神が信仰の対象って訳でもないのですが【追憶の女神ミゼーア】もその十二依神の内の1体ですね」


「ふむふむ」

「他にも、万物の神アザトス、種と豊穣の女神二グラス、均衡の神ユグソトスとか色々居るのですが、女神ミゼーアは、時間と記憶を司る神とも言われています。


 なるほど、そう言えば冒険者カードにも”信仰”とか書いてあったっけ?

 宗教とかの対象だと何かお堅いイメージもあるけど、追憶の女神ミゼーアか。


 それじゃカードに書いてあった”呪い”はその女神が与えたって事になるのか?


 邪神の間違いなのでは? と言うかその依神とやらは実在するのか?

 何かどれもあまり良い印象は感じない、名称し難い名前な気がするんだけど。


「人々は其々の依神に信仰を捧げる事で恩恵を得るとも言われてますね、まあ私は特に崇めている神は居ないですけど」

「あ、そうなんだ」


「天啓もその依神が与える”試練”とかの話は聞きますけど、真意の程は定かではないですし、元々が迷信じみた御伽噺みたいなものですから……それにあまり1つの思想や教えを盲信するのも危険なので」

「なるほど、アルマは結構ドライな思考なんだな」


「でも信仰する事で特殊な恩恵のバフを授けられるとも聞いた事はありますから、特に祈る神が居ないなら、自分の気に入った依神を信仰するのもありかもですね、対応する石碑にお祈りして、お供物を捧げるだけでも信仰した事にはなりますし」

「え、そんな軽いノリで信仰って成立するものなの?」


「信仰は本人の心の持ちようですから、まあ依神がその祈りに応じてくれるかは、それこそ神のみぞ知る、ですけどね」

「……何か面倒そうな感じだな、俺は正直あまり神とかは信じてないけど」


「私もあまり興味はないのでそこまで信仰心はないですけど、でも神を讃える詩や曲などでも、その恩恵を授かったとかの噂は聞いた事はありますね」

「ふむふむ」


 何かアルマもその依神とやらにはあまり関心がなさそうな感じだな……

 まあ俺も知らぬ間に”呪い”を授けてくる神とやらに心酔するつもりはないが。


 キャッキャッ♪  ギャー!


 ネムとブックルも興味がないのか2人で戯れあって遊んでいるようだ。

 何かブックルの悲鳴が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだよね。


 ……でも”時間と記憶”を司る追憶の女神ミゼーアか。

 冒険者カードにループ回数とか書いてあったからそれにも関係してそうだけど、もしかして俺の”記憶喪失”とも何か関係がある感じだったりするんじゃないか?


 それに神に捧げる曲か。そう言えばお城を出た辺りから、いつものように自然な感じで奴の演奏が流れてたんだよな、煩わしいから普通にスルーしてたけど。


「ふーむ、まあ”信じる者は救われる”とも言うし、信仰することで抱えている心の不安が取り除かれるなら、神様に祈ってみるのもアリなのかもな」

「……そうですね」


「えっと、アルマは信仰には否定派なの?」

「あ、いえ、別にそういう訳ではないのですが」


 ♬〜


「信仰それすなわち魔王の脅威に怯える人々にとっては古くから伝わる心の依代(よりしろ)、信じる心を育む事は、他者を想う慈しみの心を培う事にも繋がるのです」

「!!」


 そんな話をしていたら、背後から突然ハーブの音色と共にいけすかない吟遊詩人の風貌をした謎の男が話に割り込んできたので無視しよう。


「ウオッ、誰だコイツ!?」

「あ、不審者はっけんー♪」


「! ブックル、ネム、コイツは敵だ、戦闘準備!!」

「ダニぃ、そうなのカ!?」


「おー!」

「え、えっ、勇者様?」


「アルマ、油断するな、後衛に回って援護を頼む!」

「は、はい!」


「おやおや随分とノリがいいですねぇ、まさか私に敵うとでも? いいでしょう、ならば少しお相手になって差し上げましょう」


 ジャンジャン、ジャーン、ジャララン♫♪♩


 吟遊詩人のベオルフが奏でる曲を合図に戦闘が開始された。


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