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第48話 長い1日の終わり 後編

 背後の少女の判断で向かった先は一階の廊下の突き当たりの通路だった。


 確かここは中央の辺りに地下に降りる階段があったはずだけど、もしかしてこの少女は今からお城の地下に侵入して探索を強要するつもりなのか?


 いや、どんだけ元気なんだよ! 詳細な時間まで分からないけど既に真夜中だし丑三つ時くらいだよ? もう部屋に戻って寝ようよ。ねぇ、ちょっと、聞いてる?


 本当に心が読めるなら聞こえてるよな? 巡回してる衛兵が居たら困るから一応配慮してあまり声を出さないようにしてたんだけど、実は聞こえてるよねぇ!?


《……ぷいっ》


 むむむー〜、ああ、くそっ強く念じてるのに無視してるな! こん畜生め!!


 いくら活性ポーションを飲んだからって俺も流石にもう疲れたし、ベッドで時間が飛んだとしても、そろそろ部屋で休みたいんだけど!!


 こんな深夜まで操られてる事に対して流石にうんざりしていたピヨヒコは少女に訴え掛けたのだが、無情にもその提案は却下された。


 あ、でも階段前にまだ守衛が居るな、交代制で寝ずの番をしてるのか?


 ピヨヒコの願いが通じたのか、地下への階段の前には衛兵が居て携帯ランタンの灯りも固定で照らされていた。


 以前に確認した時と同じ状況だな、このまま進むと捕まるだろう。

 はぁ、良かった、流石に通れないなら背後の少女も諦めるしかないだろう。


《……、チッ》

「うわ、露骨に舌打ちしやがったし、なんなんだよもう!」


 さっきから何故か不機嫌な少女もついに諦めたのか部屋に引き返すようだ。

 ……まさか吟遊詩人のベオルフを連れて来てまで通ったりしないよな?


《!!》


 おい、なんだよその『その手があったか』みたいな顔は!?

 コイツやっぱり俺の思考を読んでるだろ!? 


 ピヨヒコは何らかの方法で少女に思考を読まれている事を確信した。


 でも地下に何があるのか俺も少し気にはなるな、この城は高台に建っているから掘り起こせばそれなりの深さと広さはありそうだし……

 最初は罪人を閉じ込めておく”牢屋”でもあるのかと思ってたけど、衛兵が寝ずの番をしているくらいだし、他にも何か重要な施設でもあるのか?


 魔石や魔物の研究をしてるとは聞いたけど、もしかしてお城の地下施設で密かに魔物を使った秘密の実験でもしてたりして? マルクスなら王国の利益になるならそのくらいは平然と行いそうだし……まあ別に俺が口を挟むことではないけど。


 この少女なら機会があればいつか本当に地下への侵入を試みそうだな。


 そんな事を考えながらも用意してくれた客室の部屋までたどり着いた。


「ハァァ……やっと部屋に戻って来れた、ここまで長かった」


 部屋に入ると備え付けてあるカンテラの灯りはそのまま点いたままだった。

 奥のベッドを観ると毛布がこんもりしてるのでベオルフは既に寝ているようだ。


 もしコイツを起こしてまで地下に向かうつもりなら俺も流石に抵抗しよう。

 と言うか本当に遠慮なくこの部屋のベッドで寝てたし、図々しい奴だな。


 それにしてもこの”暗視”のスキルっていつまで継続してるんだ?

 そこまで精神的な疲労感は感じないけど、逆に光に過敏になるから状況によっては不利にもなりそうなんだけど、目の前が突然光った時は俺も目が眩んだし。


 暗い場所ならよく見えるから便利だけど、明るい場所だと攻撃の命中率と回避率にも影響しそうなんだけど、もしかしてずっとこのままなのか?


《!?》


 そんな事を考えていたら背後の少女が何かしたのか視覚が通常の感覚に戻った。


 どうやら暗視のスキルが解除されたようだ。なんだかんだ適切な状況でスキルを活用しているようだし判断は任せるしかないけど、強く念じていた訳ではないからこれやっぱり少女に心を読まれてるって事だよな?

 

「……あれ、何かあるな?」


 俺も自分のベッドで寝ようと思ったら机の上に何か置いてあるみたいだ。


 確認してみたら、そこには包装された”チョコレートケーキ”が置いてあった。

 一緒に手紙も添えてあるので読んでみたが、どうやらアルマからのようだ。


 手紙と言うか手帳を一枚だけ破って書いたメモって感じなんだけど……


 内容的には例のお菓子騒動で迷惑を掛けて申し訳なかった事と、反省の気持ちを兼ねて俺から貰ったケーキではあるけど、どうか食べて下さい、との事だ。


「うーん、別にもう気にしてないし、気を遣わなくても良かったんだけど……」


 三階から降りたあと寝る前にこの部屋に立ち寄った感じかな? 何か声が聞こえたと言ってたから、もしかしてマルクス達のやり取りで何かを察して、俺が部屋に居るかどうかを確かめに来た可能性はありそうだ。


 深夜だけどお詫びを兼ねて部屋に訪れたなら、俺が部屋に居てもそこまで不自然な行動ではないし、もし俺が既に寝てたら引き返してた可能性はありそうだけど。


 アルマも状況の理解力はあるし、何気に勘も鋭そうだから俺が部屋を離れて何をしていたか、ある程度は察したかもしれないな。

 まあアルマになら別に素直に全部伝えても良いけど、従姉弟(いとこ)同士の関係って事を隠しておきたいなら、このまま知らない振りをしておくかな……


 立場的にも色々と事情はありそうだし、もし向こうから打ち明けてきたら、その時は俺も実は知ってたとか云わずに素直に聞くとしよう。


 と言うかお菓子の件に関しては何故か結構前の出来事って感覚なんだけど、よく考えると今日の夕食後に起きた事なんだよな……


 アルマとしてはお菓子の事で罪悪感も抱えていただろうし、ケジメのつもりならありがたく頂戴するか。気を利かせてフォークも用意してくれたみたいだし。


「……ちょっと待て、何か一口食べた形跡があるんだけど?」


 メアリーが三種のケーキを用意してくれた時に確認はしてるから間違いない。

 デコレーションのチョコクリームが明らかに減ってるんだけど?


 いや、嘘でしょ? いくらアルマが甘味に目が無いからってお詫びで差し出したケーキに手を付ける真似をするか? いや、一度アルマにあげたケーキなんだし、別にそのまま全部食べても特に問題はないんだけど。


 返すの前提でバレない様に一口だけ食べたなら流石に問題あるよ!?


 いや待てよ、これはもしかして……


「そうか分かった、犯人はお前だな、吟遊詩人のベオルフ!!」

「……すやすや」


「おい、実は起きてるんだろ!?」

「……いやだなぁ、いくら私でもそんな真似はしないですよ?」


「あ、やっぱり起きてたし、普通に寝た振りをして俺の様子を窺ってる辺りが既に怪しいんだよ!」

「……、隠れるのスキルをずっと使用してると精神的に疲れるんですよね、それでつい美味しそうなケーキがあったので一口頂いちゃいました、テヘッ」


「テヘッ、じゃねえよ、全然可愛くないわ!!」

「ほらほら、そんな怒鳴ったら隣の部屋のアルマさんが起きちゃいますよ?」


「ぐぬぬ……」

「まあ一口くらい良いじゃないですか、私の方は夕食のご馳走も食べられなかったんですから、手持ちの質素な携帯食で夕飯を済ませたんですよ?」


 まるで可哀想でしょう? 憐れんでくださいよ、とでも言いたげな様子だ。

 ダメだ、コイツには何を言っても無駄だな、やっぱり信用なんて出来ない。


 どうしよう、取り敢えずケーキを食べるか? 上っ面のクリームが少し食べられただけだからこのまま食べないのも勿体無いし、アルマの気持ちは尊重したい。


 ピヨヒコはベオルフの事を無視して、お詫びのケーキを食べることにした。


「モグモグ……」


 ビターなチョコレートが好みの甘さで普通に美味い。こんな深夜にケーキなんて何か背徳的だけど、ずっと思考をフル回転していたから甘味が脳に染み渡る。


 あ、そう言えば魔王と対面してから”思考スキル”をずっと発動したままだった。

 それで普段以上に精神的な疲労を感じていたのかも?


「と言うかこんな長時間持続するんだな、モグモグ」


 あまり意識してなかったけど、もしかして”スルースキル”と組み合わせる事で、ずっと発動したりもするのかな?


「モグモグ、このままどのくらい継続するか試してみるかな」

《はぁ!? ちょっと何を言ってるの? 意味わかんない!》


 いや、流石にそれは疲れるから止めておこう。


 と言うか画面の少女が何か背後から文句を言ってるし、まだ不機嫌なのか?

 魔王城から帰還した時は何かやたらと上機嫌だったのに、何があったし?


 いや、機嫌が良かった理由には心当たりはあるけど。偶然とは言え”土の魔石”も見つかったし、他にも幾つか戦利品もあるしな。


 情緒不安定なのか? もしかして生理か?

 まあいいか、取り敢えず思考スキルを解除しよう。


「ハァ、何か思考スキルをずっと使っていたと意識した途端にどっと疲れたな」

《ハァ、やっと解除したか……てか最後にまた失礼な事を考えてたし!!》


 いや、何でこの少女まで深い溜め息を吐いてるんだ? それに今の台詞……


 もしかして俺の心を読む条件って”思考スキル”の発動だったりする?


 高速思考が可能で物事を冷静に捉えられるし、考えを整理するのに便利だけど、強く念じている状態にも似てるから、それで画面の少女にも筒抜けだった可能性もあるのかも?


 もしそうならこの少女の機嫌が悪くなった理由に心当たりはあるけど……

 年頃だからエッチな事にもやっぱり興味あるんだな、とか考えちゃったし。


 お、ケーキを食べ終わったら身体が勝手にベッドに向かった。

 まあとにかく疲れたから今日はもう寝よう。


 ……トコトコ


 え? あれ、ちょっと待って、まさかこの格好のまま寝るつもりか?

 寝巻きのパジャマには着替えないの? いくら時間が飛ぶ感覚があるからって、実際にはちゃんと寝てるとは思うし、せめて鎧くらい脱がせてよ、ねぇ?


 むむむ! ピヨヒコは操られながらもパジャマに着替えたいと念じて訴えた。


《…………》


 ゴソゴソ……


 しかしその願いは受け入れられず、そのままベッドに入った。

 しかも今ちょっと考えてから却下したよね? なにそれ意地悪のつもりか!?


「ハァァ、もういいや、寝れるなら何でもいいわ!」


 脱ごうと思えば自分でも装備の着脱は可能なのだが、画面の少女にバレると後々面倒な事になりそうだから今回はそのまま従う事にしよう。硬い鎧じゃなくて軽鉄を輪っか状に編み込んだメイルだから、そこまで寝苦しくはないし。


 魔王の一撃をくらった時はこの防具のお陰で助かったな……


 今考えちゃったけど、本当に思考スキルの発動の有無が条件なら、今はもう心を読まれてはいないよな?


 ベッドには入ったけど例の暗転はまだ起きてないな。

 確証を得る為にもちょっと実験してみるか。


 ピヨヒコは念じない程度に背後の少女に対して心の中で軽く悪口を言ってみた。

 鬱憤が溜まっていたので背後の少女に対して心の中で侮蔑の言葉を放った。

 更には調子に乗って背後の少女に対して心の中で罵詈雑言を浴びせた。


 もしこれで心を読まれてたら絶対に怒るし、何かしら反応は示すだろう……

 と言うかいくら何でも言い過ぎた、これでもし聞かれてたら確実に報復される!


《……?》


 あ、大丈夫そうだな……危なかった。

 怪訝な表情はしているが反応を見た感じ今の悪態を聞かれてる感じはしない。


 途中から不満が爆発して禁止コードに引っ掛かりそうな事まで考えたから、内心かなりハラハラしたけど、バレてなくて本当に良かった。


 怒らせて機嫌を損ねるだけならまだしも、泣かれでもしたら手に負えない。不満はあるけど俺よりも歳下の女子なんだから強く念じて罵倒するのは止めておこう。


 でもこれで思考スキルの発動が少女に心を読まれる条件なのは分かったな。


 常に考えてる事を読まれてはいないと分かっただけでも収穫だ。

 俺の意志で使える便利なスキルだけど、今後は使うタイミングはよく考えよう。


 それにしてもこの操られている状況が少女の”能力”によるものなら、ベオルフの隠れる以上にチート性能じゃないか?

 背後の画面を通して遠くから安全に相手を自分の好き勝手に操るって相当だぞ?


 しかも俺以外にはこの画面は見えないようだし、誰かに話そうとしても不思議な強制力で伝える事が出来ないし。


 あれ、でも最初に謁見の部屋の前に居た衛兵にこの画面が見えるか聞こうとした時は別に強制力とか起きなかったような……

 いや、でも画面の事を直接は言わなかったし無視されて隠し部屋のランプの事を話していたから、それで強制力が働かなかったのかも?


 それならやり方次第では画面の事を誰かに教える事も可能なんじゃないか?

 それこそアルマみたいにメモで書いて残すとか……


 でも誰かに伝えたところで、この状況が改善する訳でもないけどな。


 それに自分の意志とは関係なく発言する事も多々あるし、戦闘では背後の少女の意向が伝わって来て自分の思考とリンクする感覚もあるから、心を読まれる以前に思考を操られている可能性すらありそうなんだけど。


 今こうして考えてる事は俺の判断で間違いないとは思うけど、戦闘中だと何故か画面の少女にどう行動するか判断を仰ぐ傾向すらあるし。


 お昼にもそんな事を少し考えたけど、あまり深く悩むと気分が滅入って闇落ちしそうにもなるから精神的にはかなりしんどいな……


 でも最初は例の少年が俺の事を操っていたんだから、この少女の能力って訳でもないのか? もし魔法やスキルが要因じゃないとしたらどう言う原理なんだろう?


 それにこの世界には天啓やら使命やら不可思議な強制力も存在してるようだし。何となくだけどこの背後の画面と関連があって、それも踏まえて全てが繋がってる気もするんだけど……


 だって、天啓の鎖の”正体”って、おそらくこの”画面の少女”の事だよな?

 不思議な強制力ってまさに今の俺の状況そのものだし……


 あれ? という事は実はアルマや他の人達の背後にも俺には見えない謎の画面が存在していて画面の中の”人物”に操られてたりするのか?


 なにそれ、怖っ、いくら何でもそんな事あり得るか!? いや、でも今まで得た情報から推測すると案外そこまで的外れでもない気がする。


 うーん? スルースキルを駆使して普段はあまり考えないようにしていたけど、真実がどうであれ、いつかは向き合わないといけない事ではあるよな……


 それが例え受け入れ難い事実だとしても、取り敢えず覚悟はしておくか。


 背後の少女が全てを知りながら黙ってるなら、碌なもんじゃなさそうだが。


 魔王と対峙して、少女の選択を信じて”俺達”、なんて軽々しく魔王にもアピールしちゃったけど、一方的に操られている事には変わりないし、例え目的が一緒だとしても、やっぱりまだそこまで信用しない方がいいのかも知れないな……


 と言うか思考スキルを解除しても結局は考え込んでるし、長時間スキルを発動してたからその余韻が残ってる感じかな……脳を休める為にも今日はもう寝よう。


「勇者様も何やら色々と苦労されているのですねぇ」

「!!」


 そんな事を考えていたら隣のベッドで寝ている吟遊詩人のベオルフが話し掛けて来たので無視しよう。


「……」

「あれ、もう寝てしまわれましたか?」


「……」

「もしもーし?」


「……ぐうぐう」

「まだ寝てないですよね?」


 狸寝入りしてもしつこく話し掛けて来たので諦めて聞き返す事にした。


「……何か用か?」

「いやぁ、別に大した事ではないのですが……」


「そうか、なら特に聞く必要もないな、さっさと寝ろよ」

「うーん、私は別にそれでも構わないのですが、些細な事ですし」


「? あ、そう言えば俺の方も聞きたい事があった」

「えぇ、人の話は聞かずにそちらは質問するんですか?」


「別に答えたくなければ答えなくてもいいけど、後でネムから聞くし」

「……なんでしょう? 内容によっては私がお応えしますよ」


「やけに素直だな? いや、少し気になっていたんだけど、お前とネムってどんな関係なんだ? 相方とは言ってたけど別に兄妹とかじゃないよな?」

「ふむ?」


「年齢もかなり離れてるし種族も違うから関係性が気になったんだけど、弾き語りの演奏と踊りで日銭を稼いでいたみたいだけど、一体どう言う経緯で一緒に居るんだ?」

「そうですねぇ、これから勇者様の仲間になるのですから、信用を得る為にも少しお話ししましょうか……」


「え? お前を仲間と認めた覚えはこれっぽっちもないんだけど?」

「そう、あれは今から3年前、例のベリアルの大規模侵攻を切っ掛けに私とネムは行動を共にするようになり……ボロロン♪」


「ねえ聞いてる?」

「ネムは元々はとある【クラン】に所属していたのですが……」


「クラン?」

「勇者様もこれから多くの仲間を集めるなら、当然クランを立ち上げる必要もあるとは思いますが、おや、まさかご存じない?」


「え? いや、そ、そんな事はないぞ、勿論そのつもりだったし」

「まあ冒険者なら一般常識ですから知っていて当然ですよねぇ」


「ぐぬぬ……」


 ピヨヒコは”知ったかぶり”をして誤魔化す事にした。アルマにならまだしもこの吟遊詩人にこの手の質問を聞き返すのは何かスゴく屈辱的だ。

 と言うかコイツ、おそらく俺が記憶喪失のせいで一般常識に疎いのを知っていてわざとらしく煽って来やがったな……


 その後もベオルフは相方のネムについて語り出した。


 話によるとネムはどうやら幼い頃に魔王軍の侵略により故郷を奪われ、その際に家族や同胞と離れ離れになり、その出来事がトラウマになり当時の記憶が曖昧なようだ。


 俺と同じで一種の”記憶喪失”のような状態らしいのだが、無理して思い出そうとすると当時のトラウマを呼び起こし”恐慌状態”になる可能性があるので、直接ネムに過去の事を聞くのは出来たら控えてくれとの事だ。


 まだ幼いネムが俺の時の様な壮絶な体験をしたなら、それだけショックも大きいだろうしその時の話を聞くのは確かに酷だな、そこは配慮しよう。


 それでベオルフは俺がネムに質問するようなら自分が応じると言ったのか?

 だとしたら保護者として一応ネムの事を気遣ってはいるのかもしれないな。


 それに声しか聞いてないけど、あの時お風呂場でネムが幼児退行したような行動を取ってたのは、もしかしてそのトラウマが要因だったのかも?


 その後ネムは、魔王軍に故郷を奪われ、全てを失った者達が集まって結成した、【幻影雑技団(ファントム・ビレッジ)】と言うクランに拾われ、そこで暮らしていたらしい。


 其処ではネム以外にも多種多様な種族が集い、生活を共にしていたようだが、元々は”難民キャラバン”のような集まりだったらしく、大勢の仲間が居たようだ。


 つまり”クラン”ってのはギルドとは違う、志を共にした者達が集うチームみたいなものか、大規模なパーティーとか多分そんな感じだな。

 もしかしたらこの国の”王国騎士団”とか、メアリーが所属している”暗部”とかの組織もクランと言う括りで分けられているのかもしれない。


 幻影雑技団はグランバニラ王国を拠点とし、時には周辺の街まで遠征して魔物を倒しつつ活動してたらしいのだが、多種族の特性を生かし時には”サーカス”の様な催しも各地で開いていたようで、建国祭イベントの際にはこの王国でも何度か開催したようだ。


 確かアルマとお城に向かってる時にそんな話を聞いたけど、その幻影雑技団ってクランがサーカスの一座だったって事か?

 それならネムのポーチに入っていた投げナイフも、そのクランで生活していた時にサーカスの見せ物として覚えた技術なのかもしれないな。


 と言う事はベオルフもそのクランに音楽家として一緒に所属してたのか?

 いやでもそれなら最初に、私とネムは元々、って前提で話すよな。うーん?


 しかし王国を襲った土のベリアルの大規模侵攻により、幻影雑技団も多大な被害を被り、チームを束ねていた団長を亡くしたようで、残された者達で復興を試みるも色々な弊害もあり、クランを維持する事が難しくなりサーカスの方も含めて解体を余儀なくされたらしい。


 それでその団長と旧知の仲だった吟遊詩人のベオルフがネムを引き取り、それから約2年半、この大陸を旅をしながら各地を訪れて、弾き語りと踊りでいつか復活する勇者の伝説を謳って廻り、魔王に怯える人々に希望を与えていたようだ。


 しかし時は来たりて、自身の使命を果たす為に勇者である俺と出逢い、こうして仲間として同行して、今この場にいる……との事だ。


 つまりお城の前の大広場で弾き語りをしてたけど、最初から俺と接触するつもりだったって事になるのか?


「……とまあ、大体そんなところです」

「ふーむ、成る程、そう言う経緯があったのか」


「ええ、ですからそんなに邪険にせず仲間として認めて欲しいですね」

「……何か胡散臭いな」


「えぇ? ここまで話を聞いておいてそんな感想なんですか?」

「ネムの生い立ちに関しては理解したけど、お前の素性はさっぱり分からないし、その解散したクランの団長と知り合いとかでいきなり登場したけど、今の口振りだとお前はその幻影雑技団ってクランに所属してた訳ではないんだよな?」


「ええ、まあそうですが」

「それなのに何でまだ幼いネムをお前が引き取る流れになったんだ? 例の大規模侵攻を切っ掛けにって事はその当時のネムはまだ7歳とかだろ?」


「……その辺はまあ、色々とあったんですよ」

「その辺の事情を詳しく知りたいんだけど、それにあの広場で会う前からコソコソ俺の事を隠れて尾行してたみたいだし、つまり偶然を装って接触するタイミングを謀ってたって事だよな?」


「そうなりますね」

「いや、そうなりますね、じゃないんだか?」


「まあ細かい事は良いじゃないですか、過去を振り返るよりも未来の事を考えようではないですか」

「……天啓の楔とやらで二人がどの程度の使命を感じているかは分からないけど、ネムに関しては俺も既に仲間として迎えたけど、お前はどうするつもりだ?」


「ふむ? どうする、とは?」

「このままずっと隠れて付いてくるのか? それとも今後はちゃんと皆の前に姿を現して仲間として付き添うのか? 返答次第では俺の対応も変わるんだが……今後も仲間は増える予定だし、コソコソと隠れてるストーカー野郎なんて誰からも信用されないし、不信感を招くだろ?」


「そうですねぇ、私としては隠れていた方が何かと都合は良いのですけど、戦闘においても私の出来る事は限られてますし、それに事前に伝えた通りお邪魔でしたら私の事は”演奏担当”とでも思ってくれれば良いですよ?」

「……そうか、分かった、なら出来るだけ姿を現さない様にしてくれ、俺はお前の事は正直全く信用してないし、そんな態度なら今後も信用する事はないからな」


「なかなか手厳しいですねぇ、これからパーティーのリーダーとして責任を背負う立場なら正しい判断だとは思いますけど」

「だってお前、多分だけど王様と一緒にいた怪しい女と何か繋がりがあるよな?」


「……何の事ですかね? 怪しい女とは?」

「誤魔化すなよ、明らかに俺が王様の部屋に聞き耳していたタイミングで邪魔するように姿を現したし、何か聞かれたら拙い事でもあったから出て来たんだろ?」


 あの時もそんな事を考えたので、この機会に思い切って切り込んでみよう。

 コイツの正体は分からないが、もしかしたら何かボロを出すかもしれない。


「残念ながら私のスキルでは話してる内容までは分からないので、誰がどんな会話をしてたかまでは分かりませんねぇ」

「……」


 本当にそうか? そう言われると確かにそうかも知れないが……

 それならあのタイミングで妨害するように出て来たのは何でだ?


「それに私があの場に出て来たのは、固有スキルの特性でマルクスさんが気配察知のスキルを使ったのが分かったので”助け舟”のつもりでそれを伝える為ですから、そのまま傍観していたら勇者様が捕まると思ったので」

「……いや、それは嘘だろ? だってお前、アルマが部屋から出て来た時に普通に自分だけ隠れて逃げるつもりだったよな? しかも私まで共犯にされたら困るとか言ってたよな!?」


「……それは私がせっかく助言しようと声を掛けたのに、勇者様が盗み聞きに夢中で無視したからじゃないですか、私もあの場で見つかってたら咎められますので、泣く泣く見捨てた次第ですよ」

「いや、だってその能力があれば普通に助けられたよな? 偶然掴みかかったからその能力の恩恵を俺も受けれたけど」


「それは普段は自分用にしかこの”隠れる”のスキルを使っていなかったので、失念してた感じですね、それに”固有スキル”は使い手に取っては”奥の手”のようなものですから、私も基本的には能力の特性を進んで他人に教えるつもりはないですよ」

「……」


 確かにそう言われると言ってる事に矛盾は感じないが、固有スキルの特性は俺も信用してない相手に進んで教えたいとは思わないし。


 いやでも何か見落としてる気がする……うーん? ダメだ、思考スキルをずっと活用していた弊害なのか考えが上手くまとまらない。


「もしかして鎌を掛けました? 私が何かボロを出すとでも?」

「ぐぬぬ……」


 これ以上は情報を引き出すのは無理そうだな、指摘したところでなんだかんだと言い逃れされそうだし、コイツと話してると精神的に疲れる。


「別に信用してくれないならそれでも構いませんが、私は勇者様の”敵”ではないですから、それだけは信じて欲しいですね」

「……分かった、聞いても無駄だろうし邪魔しないなら許容するしかないか、でももし仲間を裏切るような真似をするなら俺はお前を絶対に許さないからな」


「了解です、肝に念じておきますよ」

「ハァ、もういいや、これ以上話してもストレスが溜まるしさっさと寝るぞ」


「……まあいいですけどねぇ、それでは、おやすみなさい勇者様」

「? そう言えばお前の方は何の用件だったんだ?」


「……すやすや」

「おい、寝たふりするなよ!」


「いやぁ、大した事ではないのですか、少し気になったので」

「?」


「隠れて見てた感じだと色々と”飲んでいた”ようなので寝る前にトイレに行った方が宜しいのでは? と、思っただけです」

「ふぁ!?」


 そうだ、確かにお風呂に入る前にトイレは済ませたけど、その後サウナで逆上せてグラウスから飲み水を貰い、更に風呂上がりにはコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を飲んで、王城を攻略中にも活性ポーションを飲んだし、ゲートで魔王城に飛ばされ回復ポーションを計4本と、更には帰還してからハイポーションまで飲んでる!!


 思い出すと同時に尿意を感じたピヨヒコは、背後の少女に操られているとか考える前に、即座に身体が動き、部屋のトイレに駆け込んだ。


 ジャー……


「ふぅ、スッキリはしたけど、危なかったかも……」

《……》


 ピヨヒコはトイレを済ませて、手を洗い再びベッドに戻った。


 もしあのまま寝て何か”悪夢”でも視たら、下手したら10歳の誕生日の出来事をそのまま”再現”するところだったかもしれない。


 いや、流石に大丈夫だとは思うが、それに寝ると時間が飛ぶ仕様ならそんな事にはならないとは思うけど……

 でももしこの歳でまたおねしょをして、それをアルマやネム、更にはマルクス達にまで知られたら、一生の恥として心に深い傷を負うところだった。


 ピヨヒコは心の中で吟遊詩人のベオルフに対して深く感謝した。


 その様子を背後から観ていた少女は何処か呆れている様子だ。


 そして訪れる暗転。

 意識がブラックアウトする感覚に襲われ────ーーブツンッ


 こうして長い長い1日は今度こそ終わりを迎えた。


     ◇


「おねしょフラグを回避してたけど、トイレの要素なんて本当に必要なの?」


 セーブしてゲームを止めた桜子は率直にそんな感想をもらした。


 配慮してるのか主人公がトイレに入ってる時は画面はドアの前で固定されるので中の様子までは見れないけど、ぶっちゃけ男主人公でトイレの描写なんかされても困惑するんだけど……いや、もし主人公が女性だったら余計に困惑しそうだけど。


 実際にゲームの世界で生きてる前提なら必要な事かもしれないけど面倒だ。


 これ食事による空腹デバフどころか、隠しパラメータでトイレの我慢ゲージまであるとかじゃないよね?

 トイレの概念があるのはアルマとの夜会話イベントで知ってたけど、まさか飲み過ぎると回復ポーションの使用を制限されるとかないよね?


 それに思考スキルをやっと解除したかと思ったら、寝るならパジャマに着替えたいとか念じて来たし。

 面倒だから無視したけど、そこまでリアルに拘る必要があるのか? まさか鎧を装備したまま寝たら寝違えて体力回復しないとかないよね?


 もしそうだとしたら装備の説明文には特に書いてないけど、寝巻きのパジャマに着替える事でぐっすり寝付けるとか、何かそんな隠し要素もありそうな感じだな。


 それに今回は活性ポーションを飲んだから平気だったけど、寝不足によるデバフとかは本当にありそうな気がするし。


 ならせめてベッドに入ったらオートでパジャマに着替えてくれない?

 湯浴みのタオルの時は風呂場の脱衣所に着いたら勝手に脱ぎだしたんだし。

 正直あまり管理が面倒だとモチベーションの低下にも繋がるんだけど。


 桜子はあまりにも細かい設定や、描写にゲンナリした気分になった。


 まあストーリー自体は予想外の展開も多くて、個人的には楽しめたけどね。

 まさかこのタイミングで勇者の宿敵である魔王と遭遇すると思わなかったし。


 それに色々と有益な情報も手に入ったから、添い寝イベントをリセットしたのは間違いではなかったけど、こっちの方がやっぱり正規のルートなのかな?


 でも飛ばそうと思えば飛ばせるみたいだし、それ以前にお城に泊まるかどうかの選択肢まであったから、どんだけ分岐ルートがあるかもよく分からないんだけど。


 まあリセットしたお陰で戦利品も幾つかあったし結果的には大満足だけどね。


 とは言え手に入れたアイテムはどれも現状だと持て余すんだけど、用途がよく分からないものまで幾つかあるし。

 ピヨヒコが勝手にストレージに収納した宝箱も鍵がないからこのままだと開かないけど、取り敢えず鍛冶屋にでも持っていけばいいのかな?

 

 それに魔王から手に入れた”指輪”の性能はかなりヤバいんだけど。これクリア後のおまけ要素的な感じなんだけど、この段階で手に入れても本当に良かったの? 


 メニュー画面に新しい”項目”まで追加されたから、普通のアイテムとは別枠扱いになるみたいだけど、盗み損ねたもう1つの指輪も似たような性能があるのかな?


 とにかく面白そうだし、もし条件が揃って余裕が出来たら後で試してみるか。


「ん〜、ふわぁ……私も今日はもう眠よっと」


 そんな事を考えながら、桜子は就寝する事にした。


     ◇

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