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第47話 長い1日の終わり 前編

 寝起きの魔王に果敢に不意打ちするもレベル差もあり手痛い反撃を受けた。

 追い詰められて死を覚悟したが、少女の機転でゲートを起動する事が出来た。

 それに有益な情報など収穫もあったので、実質的には勝ったようなものだ。


 プォーーーーン♪


「う、此処は……戻って来れたのか?」


 周囲を見渡すと見覚えがある場所だ、確かに元居たお城の宝物庫のようだ。


「ハァァ……疲れたぁ、た、助かった……んだよな?」


 まさかこのゲートを使って魔王が追い掛けて来たりしないよな?

 今まで魔王軍がゲートを利用して侵攻して来てないなら大丈夫だとは思うけど。


 それに魔王タナトスは行動に制限があると言ってたから、何かの制約であの領域から出られない理由があるのかもしれない……あ、そうか、あの浮遊島は魔王の力で浮いているとマルクスから聞いた気がするから、それに縛られてるのかも?


 魔王が魔力を解き放ったら影響を受けて島全体が揺れてたしあり得るかも……


 最後に俺が勇者だと気が付いたっぽいけど、きっと悔しがっているだろうなぁ、相手が格下だと油断してるから足元を掬われるのさ、ざまぁ!!


《……ド派手に喧嘩を売っちゃったし次は魔王も本気で殺しにくるだろうなぁ》

「!?」


 背後からまるで心を読まれたかのようにそんな呟きが聞こえてきた。


「ま、まあ戦闘では負けたけど、色々と収穫もあったし実質的には勝ちだな!」


 ピヨヒコは魔王の勇者に対する警戒度が跳ね上がった事実から目を背けた。


 この”ゲート”を使うには魔力以外にも何かしら条件があるとは思うけど、最初に触った時に目の前が眩しかったのって鉄の額当てに嵌っていた”土の魔石”がゲートに反応して光ったからだよな?

 何か割れた音もしたけど周囲を見渡しても硝子の破片とか落ちてないから、多分マルクスが言っていたゲートの”封印”が魔石の力で偶然にも解除された感じか?


 何で俺が土の魔石を所持していて、しかも欺くように”鉄の額当て”に嵌っていたのかは分からないけど、ジークフルドの形見の”錆びた剣”も俺が所持してたから、土のベリアルが攻めてきた二度目の大規模侵攻の当時に何かあった感じかな……


 朧げだけど、なんとなくそんな記憶があるような、ないような?


「うーん? よく思い出せないけど、取り敢えずあの魔石のお陰で助かったな」


 それに魔王の一撃をバリアで防いで纏っていた宵闇の衣を剥がす事も出来たから有用性も実証されたし、他の3つの魔石も同じような効果があるのかも?


 しかしどうしよう、この事をマルクスにも伝えた方が良いのかな?


 何かオークションを開いてまで土の魔石を探していたみたいだし、勇者の立場としては一応報告するのが義務だよな。でもそうすると俺が魔王城に突入した経緯も伝える事になるし、この宝物庫に勝手に侵入した事もバレちゃうって事だよな……


 部屋の聞き耳に関しても気付いていたようだし、ゲートの封印が解けたならそれも踏まえて後々バレそうだけど、マルクスから問い詰められる前に正直に話すか?


「ハァ、まあなんでもいいや、今は無事に帰って来れた事を喜ぶとしよう」


 ピヨヒコは気が抜けたのか、生還を実感してその場に大の字に倒れ込んだ。


 再びゲートを使ったからかまた魔力がゴッソリ減った感覚はあるけど、魔王から奪った魔力の量が多かったのか最初に転移した時よりは平気っぽいな。

 それでも攻撃を受けて体力もかなり減ったし、何か精神的にも疲れたけど……


 一階の部屋に戻ってベッドで寝れば回復するかな?

 それともどうせマルクスにバレるなら、いっその事このままここで寝るか?


 そう思っていたら画面の少女が気を効かせたのか、ストレージからポーションを取り出した。しかも奮発したのか魔女のクエストで貰った”ハイポーション”だし。


 流石にここで使うのは勿体無くない? そんな事を考えたが画面の少女は何処かご機嫌な様子だ。それに少女が判断したなら強制的に飲むしかないんだけどな……


 正直かなりしんどかったのも事実なので、有り難く頂くとしよう。

 ピヨヒコは起き上がり、腰に手を当てて飲む定番のポーズをした。


「ゴクゴクゴク……プハァ、五臓六腑に染み渡るぅぅ……美味いなコレ」


 しかも体力だけかと思ったら魔力と気力も同時に回復したみたいだ。

 一本飲んだだけでほぼ全快した感じがする。


 クエスト報酬で貰ったハイポーションはもう1本あるけど、残りはピンチの時に使った方が良さそうだな、一応少女にも念じて伝えておこう。むむむ〜……む?


 あれ、そう言えば何か忘れてるような……


「あ、そうだ、あの吟遊詩人はどうなった? すっかり忘れてたけど、もしかして魔王城にそのまま1人、置き去りにしたんじゃ!?」


 ……まあ別に構わないか、問題ないな。

 置き土産として魔王タナトスに差し出そう。


《ぷっ、あは、あははははっ♪》

「む?」


 そんな事を考えてたら画面の少女が何故か爆笑してるんだけど、どうした突然?

 何かまたツボったように笑ってるし、この少女も魔王と遭遇する予想外の展開に困惑してたみたいだし、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか?


     ◇


「ヤ、ヤバい、ツボった、アハハはは、はひっ、ふふっ……あははは」


 いや、ピヨヒコあの吟遊詩人の事どんだけ嫌ってるんだよ、心配してるような事を言ったかと思ったら心の中で即座に見捨てたから何か可笑しかったんだけど。

 普段は割と温厚な性格なのに、吟遊詩人のベオルフに対してだけ辛辣すぎない?


「はぁ、はぁ、ふふ……ふぅ、いやぁ、笑ったわ」


 と言うか本当にいつまで思考スキルを継続してるのよ、まさか今後はずっとこのまま思考メッセージが垂れ流しの状態になるとかないよね!?


 戦闘ではピヨヒコの意向が伝わってくるから一応メリットはあるけど、割と失礼な事も平気で考えるから正直あまり読みたくはないんだけど、それにテキスト文も無駄に増えるから話のテンポも悪くなるし……


 まあ私もゲームを遊ぶ時は人の事は言えないくらい色々考察するタイプだけど。

 格ゲーとかFPSの対人ゲームとかだと割と頭を使って分析して行動するし。


 と言うかさっきの最後のターン、私はコマンド選択してないのにピヨヒコが勝手に動いて魔王に対して光で目眩しを仕掛けたんだけど……そもそも思考メッセージと同じでコマンドから選択して紋章を光らせる事が出来ないんだけど、何これ?


 これメタ読みするとプレイヤーの意向と関係なく主人公がいつか自由に行動するんじゃないの? シナリオ的にもそう言う展開が用意されてそうなんだけど……


 天啓の”強制力”から解放されたピヨヒコが勝手に動き出して何かを果たすとか?


 でもムービー演出だった可能性もあるのかな? 前にもメアリーの攻撃を勝手に防いだ事はあったし、しかも最近はストレージを使って抵抗までして来るからな。


 プレイヤーとしてはゲームのキャラが自分勝手に動くのは困るけど、個人的には楽しければ別にそれでも良いけどな、なるべくピヨヒコの意思は汲みたいし。


 まあ盗み行為とかの件もあるし、そんな事をピヨヒコに伝えても信じては貰えなさそうだけど、これアルマとか他のキャラの好感度とか以前に私の選択肢によっては主人公からの信用度にも影響しそうだよな、あらか様に抵抗する事も増えたし。


 そう言う”システム”だとしたら思った以上にクリアが難しいゲームなのかも?

 しかも”リセット”してもその時の記憶を覚えてるとは思わなかったんだけど。


 ピヨヒコの思考を読んだ感じだと全てを明確には覚えてないようだけど、迂闊な行動をしちゃったかも……もし”あの事”まで覚えてるならヤバいよなぁ……


 と言うか魔王タナトスも何かそこまで悪者って訳ではなさそうだな。それに言葉を濁してたけど、与えられた”使命”ってのも私の想像していた通りっぽいし……


 まあそれでもピヨヒコからしたら両親の仇みたいなものだし、倒すべき宿敵には変わりないんだろうけど。

 シナリオの都合なのか重要そうな情報をペラペラ喋って何か間の抜けた感じはしたけど、それなりに強そうだったしラスボスとしての風格は感じたかな。


 はぁ、しかしどうやって一階まで降りようかな。


 取り敢えずセーブは解禁されてたので速攻でセーブしたけど、こんな場所で寝るわけにもいかないし、捕まる覚悟で衛兵の装備で変装してから階段を降りるかな。


 お、移動しようと思ったらまた何かイベントが発生した?

 

     ◇


 ピッカァァ……


「あ、手の紋章が光った、これはブックルからの返事だな」


 魔王から逃げる為に目眩しで俺も使ったけど、両方とも光るみたいだからさっきのが俺からの返答になってブックルもそれに反応して合図を返したな。

 これは一階に降りたら寝る前にブックル達の部屋を確認した方が良さそうだ。


 どうやってあの衛兵にバレずに降りるかが問題なんだけど……ん? 


 あれ、何か変な影が出来てるんだけど? これってまさか!!


 ガシッ!!


 ピヨヒコは直感的にその”影の正体”に気が付き掴み掛かった。


「よし、捕まえた、今度は逃さないからな!!」

「……やぁ、これは勇者様、ご機嫌よう、私が居るのがよく分かりましたね?」


「あの場で流れていた演奏でお前が付いて来てたのは分かったし、この場所に居る可能性は十分にあったからな、気配を察して偶然見つけただけだ」

「いやぁ、これは油断してましたね……流石は勇者様です」


 ゲートを使用した時に一緒に便乗していたのか、吟遊詩人のベオルフもどうやら無事に帰還していたようだ。

 存在感すら朧げになるので意識しないと見える見えない以前に、そもそも認識が出来ないのだが”自分の影”までは完全には隠せないようで捉える事が出来た。


 その影ですら確実に居ると確信してないとハッキリとは見えないのだが。


「個人的にはそのまま魔王城に置き去りにしたかったけど、取り敢えず一階までこのまま隠れながら降りようか? まさか断らないよな?」

「まあ別に構わないですけどね、それに私も勇者様のお陰でインスピレーションが湧いたので素晴らしい曲が作れそうですし」


「……俺が魔王と遭遇して戦った事はマルクスにバレると色々と都合が悪いから曲にして広めるのは禁止で頼むぞ、もちろん分かってるとは思うけど、プライベートに関しては配慮すると言ってたよな?」

「イタタタだ……分かりましたから、そんな強く握らないで下さいよ」


「ハァ、取り敢えずお前も無事で良かったよ、流石にあのまま魔王城に置いて来てたら目覚めが悪かったしな……」

「おや? おやおや? もしかして私の事を心配してくれてたんですか? 口では文句を言いつつも仲間として認めてくれてるんですかね? 嬉しいですねぇ」


「何を言ってるんだ? 今はお前のその”隠れる”能力が必要なだけだ、それよりも俺も部屋に戻って休みたいしサッサと降りるぞ」

「それは良いのですが首根っこを掴むのは止めて下さいよ、せめて腕とか肩にして下さい、それとも仲良く手でも繋ぎますか?」


「掴み掛かったら偶然にも襟首だったけど、別にこのままで良いか……ギリギリ」

「痛い、ちょっと? 本当に痛いですってば」


「ほらさっさと歩くんだ!」

「ヒィー」


《……この組み合わせ、案外ありかも?》


 ゾクッ


 何か背後から只ならぬ視線を感じたのだが? 取り敢えず吟遊詩人のベオルフを確保したのでこれでバレずに一階の部屋まで降りられる筈だ。


 二階に降りたら案の定あの例の衛兵と鉢合せしたけど、何か気配を感じ取ったのか周囲をキョロキョロと見渡していたので緊張した。

 気付かれる事はなかったけど、本当にこんな時間までお勤めご苦労様だ。


 あれだけ苦労して攻略した道中も、吟遊詩人の固有スキルがあればフリーパスの状態だった。これやっぱりチート能力だよな……


 部屋の前まで辿り着いたがベオルフも今度は本当にスキルを解除したようだ。

 手を離しても目の前にその姿がある、相変わらずイケメンなので何かムカつく。


「いやはや、酷い目に遭いましたが、私もこれでお役御免で良いですかね?」

「ああ、助かったよ、もう用はないからさっさと消えろ」


「……何か私の扱いがだんだんと雑になってる気がするんですけど、今後も仲間として付き添うのですからそんなに邪険にしないでくださいよ」

「だってもう寝るから帰るとか言っといて実はそのまま後を付けてたとか、完全にストーカーの思考だし、そんな奴を信用できる訳ないだろうが、邪険にもなるわ」


 と言うかコイツは本当に今後も付いて来るつもりなのか?


「そのつもりでしたけど、勇者様がそのまま四階に上がって宝物庫にまで侵入する大胆な行動をするから気になって付いて行った感じですよ、そしたら何か光に巻き込まれてあんな場所まで一緒に飛ばされて、流石の私も戸惑いましたが、それでも自分の使命を果たす為にも見逃せない状況でしたからね」

「本当に巻き込まれた感じなのか? だったらせめて姿を現せよ、隠れてコソコソしてるから信用が出来ないんだよ!」


「隠れていた方が安全じゃないですか、それにあんな状況で寝てる魔王に悪戯するなんて命知らずな真似は私には出来ないですから」

「……それに関しては返す言葉もないけど、取り敢えず本当に曲にして広める様な真似はするなよ? もししたら町の人達にもお前の能力をバラすからな?」


「分かってますよ、忘れない為にも歌詞にはすると思いますが、曲にしてお披露目するタイミングくらい弁えていますから、勇者様の使命の邪魔は致しませんので、そこは安心していいですよ」

「……ハァ、やっぱり何か飄々とした態度で掴み所のない奴だな、ああ言えばこう言うし、本当に憎たらしい」


「お褒めの言葉と捉えておきますよ、私も流石に眠いのでこれで失礼しますね♪」

「ああ、もう二度と出てくるなよ」


 トコトコ、ガチャ……


 そんな台詞を残して吟遊詩人のベオルフはまた忽然と消えて……あれ?


 何かベオルフの奴、当たり前のように俺の部屋に入って行かなかったか?

 え? もしかして俺の部屋のベッドで寝るつもりなのか!?


「……ぐぬぬ」


 まあベッドは部屋に2つあったしこんな深夜に追い出すのも気が引ける。それに奴の能力で一階まで戻って来れたのも事実だから今回は見逃してやるか。

 スルースキルを使えば隣のベッドで寝てるくらいなら気にもならないだろうし。


 ピヨヒコは吟遊詩人の行動に呆気に取られ毒気を抜かれた。怒鳴って追い出そうとしても、言いくるめられてまたウザ絡みされそうなので諦める事にした。


「さて、寝る前にブックルの事が気になるけど、左と真ん中どっちの部屋がネムとブックルの部屋だったっけ?」


 えっと、確かアルマが隣の部屋から俺の部屋を聞き耳していたから……


 あれ? 部屋に聞き耳をしてたのは寧ろ俺の方だよな? 何でアルマが聞き耳をする必要なんてあるんだ?


 いや、これもしかしてループする前の記憶か? 確かメイドのメアリーが部屋に訪れて来て、それで添い寝の提案をされて、そしたら何かメアリーがベッドに潜り込んで来て、それでアロマの香りを嗅いだら何故かムラムラした気分になって……


《!!》


 え!? いや、ちょっと待て、何だこの記憶!? 何か薄らとだけどメアリーといかがわしい行為をした記憶があるんだけど……


 ハッキリとは思い出せないけど、ループの力を行使したと思われるこの少女なら何があったか詳しく知ってる筈だよな? と言うか確かあの時この少女も……


《……ぷいっ》


 お朧げにだが記憶を思い出し困惑したピヨヒコは、背後を振り向き画面の少女に問い詰めようと思ったが、視線が合う前に露骨に目を背けられた。


 しかも何故か頬を赤らめてるんだけど……なにその反応??

 いや、理由に心当たりはあるけど、だってあの時、背後を見たら…… 、


「ゲフンゲフン、と、取り敢えず真ん中の部屋はアルマだったのは間違いないな」

《……な、気を遣われた!?》


 この場で言及してもお互い気まずい空気になるだけなので、ピヨヒコは思い出した内容を心の奥底にしまい忘れる事にした。

 実際そこまで明確には覚えてはいないが、色々とヤバい展開になったので画面の少女が能力を使って、あの出来事を無かった事にしたのは何となく理解した。


 いや、そもそも添い寝の提案を受け入れたのもこの少女の判断なんだけどな……それも”二度“も続けて……お年頃だしやっぱりエッチな事に興味があるんだな。


《……くっ///》


 ガチャ……


 ネム達の部屋に入ると、既に灯りは消えていて真っ暗だった。


「……すピィ、すピィ」


 何か小鳥がさえずる様な声が聞こえるけど、これはネムの寝息か?


 ブックルも隣のベッドで寝てる可能性はあるのか? いや、それなら俺に合図を送ったりはしないだろうし、夕食の時の実験から考えても助けを求めて紋章を光らせたのは間違い無いだろう。


 暗視のスキルのお陰で暗くても何となく分かるが、取り敢えず部屋のランタンを探して夜行灯くらいに調整してからネムのポーチを探した方が良さそうだ。


 お、これか? 部屋の間取りは全て同じだと聞いていたからスムーズにランタンを見つける事が出来た。


 ポワッ……


 部屋が明るくなるとベッドで寝ているネムが居るがどうやら熟睡してるようだ。


「……すピィ、すピィ……ムニャムニャ」


 その寝顔はまるで天使の様な……でもないな、可愛い寝顔だが何か涎を垂らして幸せそうな顔をしている。

 気遣いも出来るし大人びた印象も少しあったけど、こうして見るとやっぱりまだ子どもだな。


 とは言えこんな場面を誰かに見られたら、俺がネムに夜這いしに来たと誤解でもされそうなので、さっさと用件を済ませよう。


「さて、ネムのポーチは何処にあるんだ?」


 部屋を見渡すと隣のベッドの上にネムが着てた服が畳んで置いてあり、アイテムポーチも一緒に置いてあった。案外あっさり見つかったけど何か違和感がある。


 寝るのにパジャマに着替えたから着ていた服を脱いでベッドに置いたのか?

 このポーチには収納しなかったのだろうか? しかも何か丁寧に畳んであるし。


 それにポーチがここにあるならネムの性格ならブックルの事を忘れずに取り出すとは思うんだけど、つまり何かイレギュラーな事態が起きたって事だよな……


 うーん? と言う事は多分……


 何となく何があったか察したが、取り敢えず先にブックルを取り出すか。


 えっと、確かアイテムポーチに手を入れると何が入っているか分かるとマルクスが言ってたよな? ゴソゴソ……確かに何かボンヤリとだが中身が分かるな。


 マルクスが用意してたお菓子に、夕食の時に収納してた果実があるな……それに武器も何本か入ってるみたいだけど、ネムはコレで戦うのか?


 ハーピアの空を飛ぶ特性とは合ってるけど子どもが扱うには危険じゃないか?


 いや、でも魔物の脅威から身を守る為にもやっぱり武器は必要か。それに何気に器用なネムならこの投擲武器の”スローイングナイフ”を巧く使えそうな気はする。

 投げた後に拾えば再利用も出来るし、空から安全に攻撃が出来るなら俺としても見ていて安心だしネムには合ってそうだな。


 他には特に気になるものは入ってないようだが、ストレージとそこまで使用感は変わらない感じかな……お、コレか?


 スポンッ


「オォー、やっと出れたゼェ!!


 ピヨヒコが掴んで取り出すとブックルが飛び出した。


 ブワアァァアァァ……


 それと同時に身体から黒い靄が噴き出し魔力が吸われる感覚に襲われた。


「あ、そうだ忘れてた、俺がブックルに触るとこうなるんだった、力が抜けるぅ」

「オワッ!? ピヨヒコ、大丈夫か?」


「……ぐぅ、ああ、何とか平気だ、それよりも何があったんだ?」

「いや、俺様もズット異空間に入ってたからワカらないぞ!?」


「ああ、そうなるのか……一緒にお風呂に入ったアルマやメアリーなら何か事情を知ってるとは思うけど、おそらくネムが風呂で逆上せて倒れたか途中で寝ちゃったかだとは思うけどな、それでメアリーが部屋まで運んだんじゃないかな?」


 少し眠そうだったしサウナを試すとかも聞こえたから多分当たっていると思う。


 それに部屋まで運んだのがメアリーなら、ネムの持っていたポーチにプロテクトが掛かっていると考えて、そのままにしておいたのかもしれない。

 マルクスから貰ったものだが、あの時メアリーは図書室に居なかったから、このアイテムポーチがネムの所有物だと思い込んでる可能性はあるしな。


 それに勝手にブックルを取り出すにしてもポーチの中身まで分かるからメアリーならその辺も配慮はしそうだし……


 アルマも居たならブックルを取り出してた可能性はあるけど、三階でグラウスと会話をしてたって事は呼び出されたって事だろうし、グラウスが風呂から上がってその時に司書のエマさんと偶然鉢合わせして、その際にアルマに伝言を頼んだならアルマだけ先に風呂から上がって、そのまま三階に向かった可能性はありそうだ。


 ピヨヒコは状況を整理してブックルが取り出されなかった理由を推理した。


「ナルホド、ソレなら取り出されなかったのも納得だケド、俺様もそんな推測をしたカラ隣の部屋にピヨヒコが居るなら紋章を光らせて事態を伝えようと思ったけど反応が無かったから半分諦めてたゾ」

「ああ、悪い、起きてはいたんだがちょっと直ぐには対応が出来なくてな」


「ソウみたいだな、魔王と会ったのか?」

「え、何でその事を知ってるんだ!?」


「さっきピヨヒコから合図があった後にページが増えた感覚があったから、それを確認したら何となくダガ起きた出来事が俺様にも理解できたゾ、それで大丈夫そうだったから俺様もまた返事を返した感じだ」

「そう言えばブックルは”冒険の書”としての機能も備わってたんだっけ、本の内容とか直接その眼を通して読まなくても感覚的に確認が出来るのか?」


「アア、分かるぞ、だから過去に戦った魔物の知識とかも俺様にはアルしな」

「なるほど……えっと、それって変な内容とか書かれてないよな?」


「変な内容? ンー、確認した感じだとお城を探索して宝物庫に侵入して、ゲートで魔王城に飛ばされて魔王と対峙して帰ってきた、とかソンナ感じだが、そこまで具体的には書かれてナイナ」

「そ、そうか……それでもかなりヤバい内容ではあるな」


 と言う事はループして上書きされる以前の事は記録には載らない感じか?


 どのみちお城の宝物庫に勝手に侵入した事まで載っているなら、マルクスにでも読まれたら非常に拙い事になるけど、仲間として一緒に居る以上は大丈夫かな。


 でも記録として残るなら悪事の証拠にもなるし、変な行動はなるべく控えた方がいいな、状況は理解してるだろうけど、背後の少女にも念押ししておくか。


 むむむー……すると背後の少女は何かスゴく面倒そうな視線をこちらに向けた。


 いや、なんだよその表情は、俺に忠告されて不満なのか? 好き勝手に操られている俺の方がよっぽど不満だよ! あ、なに視線を逸らしてるんだよ!!


「ナンダ? 突然後ろを振り向いてどうしたピヨヒコ?」

「あ、いや何でもない、取り敢えずネムも寝てるし大丈夫そうなら俺もこれで部屋に戻るけど、後は任せてもいいか?」


「オオ、大丈夫だぞ、俺様は本だから寝る必要はないけど、ベッドでのんびり(ページ)を伸ばして過ごすとするゾ」

「そっか、わかった、おやすみ」


「ア、ソウダ、忘れてた!」

「ん? どうしたブックル、何かあるのか?」


「ページが増えた時にコレが挟んであったんだが俺様には不要ダカラ渡しとくゾ」

「コレは……ふーむ? 分かった、貰っておくよ」


「オオ、それじゃあ、おやすみダゼ」

「ああ、おやすみ」


 ブックルも無事に救出したのでピヨヒコは部屋を後にした。


 あれ、でも何か少し引っ掛かるんだけど?

 まあいいか、後は俺も部屋に戻って寝るだけだしな。


 それにしてももし少女の判断でハイポーションを飲んでなかったら、ブックルを掴んだ時にそのまま魔力切れでぶっ倒れていた可能性はあったな。

 この少女はその事を事前に知っていてハイポーションを飲ませたのかも?


《!?》


 と言う事はもしかして今回も既に少女がループの能力を発動して、また繰り返しでここまでやり直している可能性もあるのか?


 そう考えて背後を見て見たら、画面の少女は首を左右に振ってそれを否定した。


 あれ、違うのか? ループが起きると不思議な喪失感はあるけど、何処から何処までやり直してるのかよく分からないな……

 不自然な既視感(デジャブ)を感じたら多分やり直してるんだとは思うけど。


 と言うかさっきからまるで心を読んだかのように反応してるんだけど……

 まさか俺が強く念じなくても考えてる事とかこの少女に読まれてたりするのか?


《!!》


 え、それは流石に嫌なんだけど、ただでさえプライバシーが筒抜けな状態なのに思考までこの画面の少女に読まれてるの? 嘘だろ!?


《……イラッ》


 あ、何かスゴく不機嫌な表情をされたんだけど、何でこの少女が怒ってるんだ?

 いや、でも心を読んでいる割には俺の思考に沿わない行動ばかり選ばれてる気がするからやっぱり気のせいか? 強く念じて伝えた時に反応される事も多いし……


 それとも何か心を読む条件でもあるのだろうか?


 少女に聞いても俺に自分の能力がバレるのを嫌がってるなら、ループの事を質問した時の様にちゃんとは答えてくれないとは思うし、思考を読まれていたとしても現状だとどうにもならないので受け入れるしかないのか?


 取り敢えずこの少女の機嫌を損ねる事はなるべく考えない方が利口かもだな。


「ハァ……」


 ピヨヒコは既に色々と受け入れて諦めているので、今回も諦める事にした。

 

 まあ何はともあれ取り敢えずこれで終わりだな、やっと部屋で寝れる。アルマもあのあと部屋に戻ったなら既にもう寝てるだろうし、俺も部屋に戻ろう……


 トコトコ……


 しかし向かった先は廊下の奥だった。この少女はまだ何かするつもりらしい。


「いや、ちょっと? 嘘でしょ!?」


     ◇


 こっちだってアンタの思考なんて好き好んで読みたくなんてないわよ!

 一体いつになったら”思考スキル”を解除するのよ全く!!


 それにやっぱり添い寝イベントの事も覚えてたしぃ! あーもう、本当に迂闊な行動だった、油断してた、何でピヨヒコの前であんな事をしちゃったんだろう……


 桜子はリセットした”二度目”の添い寝イベントでの出来事を思い出して、羞恥心を感じて恥ずかしい気分になった。


 いや、だっていくらゲームだからって、目の前であんな行為をされたら私だって変な気分にもなるし、なんなのよあの展開は!?


 興味本位で添い寝イベントをやり直してわざと連打に失敗してどんな流れになるのか試してみたけど、普通にR18展開になったから戸惑った。

 しかしまさか2人が欲情に任せた勢いであんな行為までするとは思わなかった。


 しかも今回の情報と照らし合わせると、つまりはそう言う事でしょ?


 まあピヨヒコも気まずい空気になるのを配慮して気遣っていたし、私もなるべく気にしない様にしよう、あれはリセットされた出来事なんだしもう忘れよう……


「ハァ……」


 それにしてもこの主人公は思慮深いな。何でネムが部屋で寝てただけでそこまで色々と考察が出来るんだ?

 私の方は別にそこまで深く考えてなかったけど、説得力はあったしネムがお風呂で逆上せて、それが原因でブックルが取り出されなかったのは当たってそうだな。


 シナリオの都合で魔王と対話させる為に、タイミングよく手の紋章が光って戦闘に突入したんだと思ったけど、偶然が重なってあんな展開になったのか?


 何かどこから何処までがシナリオに沿っているのかよく分からないゲームなんだけど、イレギュラーな展開も含めて全て筋書き通りなのかな?


 でもあの王様と一緒に居たヤツの話だと既にシナリオ崩壊してるのかも?

 開示された情報も含めて計画通りに話が進行してるのかもしれないけど……


 取り敢えず寝る前に少し確認したい事があるから、もう少しだけ探索しよう。


 でも区切りが良いところまで進めたら、今日はセーブして止めにするかな。


     ◇ 

想定より長くなったので分割。


添い寝イベント”R18版”に関しては伏線を張りつつ構想はしたけど

書いて載せるかは未定なので、何があったかはご想像にお任せします。

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