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第46話 前哨戦

 魔王城に突入した勇者ピヨヒコ一向は長い旅路の末、遂に魔王と対面する。

 そんな思い描いていた幻想を打ち壊され、寝起きの魔王と対峙する事になった。

 実力差は歴然、逃げ場もないこの状況を打破する事は出来るのだろうか!?


 ピッカァァ……!!


 手の甲の紋章が唐突に発光して寝ていた魔王タナトスが目を覚ました。


 ジャン、ジャジャジャン、ジャララーン♪♫♩♬


 それと同時に何処からか戦闘開始を告げる騒がしい曲が流れて来た。

 どちらも理由に心当たりがあるのでピヨヒコは困惑した。


 と言うか”ゲート”で魔王城まで強制転移されたのに、まさか此処まで付いて来てたのかアイツは!? そもそも寝るから帰るとか言ってなかったか?

 あの吟遊詩人を見つけて問い詰めたいところだが、今はそんな場合ではない。


「グゥゥ、なんじゃい、こんな時間に、我の魔王の座を狙う不届き者か!?」

「え、さっきから何を言ってるんだコイツは!?」


 どうやら魔王も突然の出来事に戸惑っている様子だが、寝惚けているのか?

 いや、そもそも初対面だしアルマの話だと魔族の中には人族と見た目もそんなに変わらない奴も居るらしいから、俺が誰なのか分かってないのかも知れない……


 しかしこのままだとどのみち魔王の寝込みを襲った逆賊として処罰されるかも。


 ピッカァァ……!!


 あ、また光った。眩しい、これブックルの仕業だよな? 悪ふざけでこんな真似しないと思うからやっぱり何かあったのか?

 風呂に入る前にネムのポーチに避難したけど、もしかしてそのまま取り出すのを忘れて異空間に閉じ込められたとか? だとしたらネムに何かあったのだろうか?


「グォォ、目がァ、目がァァ!!」


 お、魔王が露骨にこの光を嫌がってる、まさか光が弱点なのか?

 ブックルの事は気になるが、今はこの状況を何とか切り抜けよう!!


 ピヨヒコはここぞとばかりに手の甲の光を魔王に向けた。


「そりゃ、そりゃ!」

「おのれぇ、や、ヤメんかぁ!!」


 あ、また光が消えた。ブックルなら俺が既に寝ている可能性も考慮しそうだし、こちらから合図を返さなければこれ以上は助けを求めないかもしれないな。


 しかしどうする? 戦闘はもう始まっているようだが、魔王はまだ状況を理解してないのか未だに玉座に座ったまま身構えてすら居ない。行動順は分からないが、不意打ち判定でどうやらこのターンは俺から動けるようだ。


 今なら攻撃すれば確実に当たるが、ここでの選択が命取りにもなり兼ねない。


 それともこのまま戦わず魔族のフリでもして誤魔化すか? 既に寝首を掻いてる状況ではあるが、なりふり構わず同族として許しを乞えば命だけは助かるかも……

 玉座で寝ていた”魔王様”を心配して起こしに来た(てい)で話し掛けたらどうだろう?


 いや、いくらなんでも”勇者”としてそんな惨めな真似は出来たらしたくない!

 尻尾を巻いて逃げるにしても、戦って敗れるにしても、せめて一矢報いたい!!


 ピヨヒコは強い意志で戦闘体制に移行して武器を身構える。


 行動の選択は少女の判断次第だが、俺の意志が伝わったのか先制攻撃を仕掛けるようだ。本来なら逃げる一択なのだが、逃げ場もないから覚悟を決めるしかない。


 不意打ちにはなるが、隙だらけの魔王タナトスに力の限り剣を振り下ろす!!


「魔王タナトス、お命頂戴する、くらぇぇ!!」


 ザシュ!!


「グワァー!」


 どうだ! 少しでもダメージを与えたか!?

 手応えはあった、躊躇なく首筋を狙ったし渾身の一撃(クリティカル)だったはずだ!!


《あ、これダメなやつだ、倒すのは無理だわ》

「えぇ!?」


 しかし背後からそんな諦めの台詞が聞こえて来た。


「グヌゥ、逆賊め、我に歯向かうなら相応の覚悟は出来てるんだろうなぁ!!」

「いや嘘だろ、ちょっと待って、まさかの無傷!?」


 決死の覚悟で全力で斬りつけたにも関わらず、魔王が纏っている宵闇の衣に阻まれたのか殆どダメージは与えられなかったようだ。

 斬った箇所を手で摩ってはいるけど、まるで蚊にでも刺されたような反応だ。


 背後の少女がどうやって判断したのかは分からないが魔王の反応を見るとやはり大したダメージは受けてない様子だ。


「ぐぬぬ……」


 いや、実力に差があるのは最初から分かっていた事だ。

 絶対絶命のピンチだが気持ちを切り替えていこう。撤退だ、俺は絶対にこんな所で諦めたりしない、なんとしても生きて帰るぞ!!


 先制ターンが終わり次のターン、行動順は……どうやら魔王からだ!

 玉座から立ち上がった魔王はその拳を振り上げた。一体何をする気だ!?


「むぅ、さっきから小癪な真似ばかりしおってからに!」


 シュッシュッ、ブオォォン!


 うわっ、普通に殴り掛かって来たし! まさか物理での鉄拳制裁!?

 この魔王は魔法で戦うタイプじゃなかったのか!? 予想に反して魔王は華麗なフットワークで距離を詰め、攻撃を仕掛けて来た。

 迫り来る拳に対してピヨヒコは玉座から離れ、咄嗟に小盾を身構えた。


「逃がさん!!」

「くっ!!」

  

 ドゴォォン!! ビギィン!!


 魔王の腰の入った拳を何とか小盾で受けたが凄まじい衝撃だ。

 しかも今の攻撃で軽鉄のバックラーが欠けてヒビが入った。

 

 このバックラーで今までも何度か魔物の攻撃を防いでたから、耐久度もそれだけ下がっていた可能性はあるけど、これ以上受けると完全に壊れるかもしれない。


 しかし何とか耐え切ったぞ。次の行動で取り敢えずこの場から離れよう。

 距離を取り全力で廊下まで逃げれば、何とか次の一手に繋げて……


 しかし、魔王は再び動き出しもう片方の腕を振り上げた。


「え、嘘だろ!? まさか2回行動!?」

《あ、ヤバいなこれ、ピヨヒコ何とか避けろ!!》


「フン、甘いわ!!」 


 シュッシュッ、ドッガァァン!!


「ゴフッ!!」


 咄嗟に避けようと動いたが、そのまま直撃を受けてしまい衝撃が身体を貫く。

 鉄をも砕く魔王タナトスの重い一撃に、ピヨヒコは後方まで吹っ飛ばされた。


 ゴロン、ゴロン、ズザザザァァ……


「ゲホッ、ゴホッ」


 ぐうぅ、なんて威力だ、死を実感して一瞬だが走馬灯が見えた気がした。

 しかし倒れている場合ではない。

 転がりながらもピヨヒコは即座に体勢を整えて身構える。


「ハァ、ハァ……」


 ゴゴゴゴゴ……


 玉座から立ち上がった魔王と対峙すると、その圧倒的な存在感が音と鳴りいびきではなく擬音として聞こえた気がした。圧迫感に息が詰まる。


 纏っている”宵闇の衣”がまるで魔王が放つオーラの様にも見えて凄まじい威圧感を感じる。その姿を見ていると心の芯が身震いして足が竦んでくる。


 それにやはりデカい。

 こうして対面すると実際の体長は3メートルくらいなのだが、圧巻の迫力がありそれ以上の大きさに感じる。


 しかもこの魔王、明らかに手を抜いてやがる! それが何よりもムカつく!!


 ピヨヒコは魔王タナトスに格下扱いされて、舐められている事実を直感的に感じ取り、屈辱的な気分になった。


 ジャンジャンジャン、ジャジャジャンジャン♪♫


 と言うかさっきからやたらと荘厳な戦闘曲が煩わしい!!

 今までは気にならなかったけど、奴が隠れながら奏でてると思うと凄く不快だ!


 しかも同時にいくつもの音が重なって聞こえるし、何かパイプオルガンみたいな音まで聞こえるんだけど? これ本当にあの吟遊詩人が1人で演奏してるのか? 


 それにこの演奏は対面している魔王タナトスには聴こえてないのか?

 深夜に唐突に鳴り出した騒音に何も反応してないってどう言う事だよ!?

 まさかあの変な喋る杖みたく俺の脳内に直接響いているとかなのか?


 しかし聞いてると不思議と勇気が湧いて、痛みが和らいでいく気がする。それに魔王に対しての恐怖心が薄らぐと言うか、何か強い意志のようなものを感じる。


 もしあの吟遊詩人と”パーティー”を組んでいる状態なら、この演奏による効果が奴の行動の扱いになるのかもしれない。


 戦闘中に仲間全員に演奏によるバフ効果を掛けられるなら便利だとは思うけど、それでもやっぱり不思議だし、隠れて覗き見してる事に対しても怒りを感じる。

 本当にこの場に居るならお前も姿を現して正々堂々と戦え、と、そう叫びたい。


 ピヨヒコは色々と理不尽な状況に対して憤り、痛みと恐怖心を払い退けた。


 とは言え今の攻撃で体力もかなり削られた。もし”バンデットメイル”を購入していなければさっきの一撃で死んでいたかもしれない。

 小盾も壊れる寸前だし、この状況でもう一度あの拳を受ける訳にはいかない。


 どうする、考えろ!!


 このまま反撃しても勝負にはならない。逃げるにしても廊下には徘徊する魔物が何体か居たし、この体力で魔王に背を向け逃走するのは悪手とも言える。

 手持ちのポーションで回復したとしても、今の連続攻撃をまた喰らえばおそらく次は耐えきれないだろう。


 万事休すか? 背後を確認する余裕はないが、画面の少女も次の一手をどうするか考えているようだ。

 殴られた衝撃でかなり吹っ飛ばされたが、この状況で反撃して斬り付ける選択肢は流石にしないはずだから、取り敢えずこのまま魔王から一旦距離を取ろう。


 ピヨヒコは魔王の動向を注視しつつ、ジリジリと後退した。


「ほう、我が一撃を盾で防ぎ、更に直ぐ立ち上がるとは、中々どうして根性はあるようだな、しかし我に(そむ)き眠りを妨げた罪は償ってもらうぞ!」

「!!」


 次の一手を思案していたら魔王から話し掛けて来た、これは予想外な展開だ。


「しかもその格好、まるで冒険者みたいではないか、最近は魔族の中にも我に反抗して冒険者の真似事をする連中が増えていると聞いたが、貴様もその一派か?」

「……?」


「それもたった1人で我の寝首を掻いて襲うとは、何とも浅はかな行動よ」

「……?」


 一体コイツは何を言っているんだ? 確かアルマにそんな話は聞いたが、魔族の中には魔王に逆らいその命すら狙う反乱勢力がいるって事か?

 この魔王は俺がその離反した一派の1人だと勘違いしてるのか?


「ふむ、無言を貫くか、だがその沈黙は肯定したも同義よ、それに我は既に貴様らを裏で束ねている首領の情報も掴んでおるわ、せっかく大幹部にまでしてやったと言うのに恩を仇で返すとはな」

「……、な、何故その事を!?」


 よし、せっかくなので情報を引き出そう。しかし大幹部って、もしかして……


「やはりそうか、四天魔族の1人【炎のレギオン】貴様も奴の思想に誑かされて、こんな愚かな行為をしたのだろう?」

「……は?」


「全く忌々しい、我がこの領地に縛られてるのをいい事に地上で好き勝手しおってからに、どうせベリアルの暴走の件も奴が裏で暗躍してたのだろう?」

「え、いや、何を言ってるんだ?」


 ちょっと待て、ベリアルって”土のベリアル”の事か? 


「大層な魔力を秘めているようじゃが、貴様は何も聞かされてはおらぬのか?」

「魔力だと? それにベリアルって……」


「ふん、寝込みを襲って来るような輩にそこまで伝えてはおらんのじゃろうが、我には全てお見通しじゃい! レギオンの奴め、ベリアルの後釜に就いたと思ったらあらか様に我に背くようになったからな、ここ最近は我が疑ってるのに勘づき警戒しているのか”定例会議”にも顔を出さんし、全くどいつもコイツも魔王に対しての忠義と畏敬の念が足りてないわ!」

「……定例会議?」


 情報が足りてないから話が見えて来ないんだが、今の内容だと”炎のレギオン”とか言う四天魔族の1人が実は裏切り者で、コソコソと暗躍しつつ魔王の座を狙っている感じか? と言うか魔王軍って幹部を集めて定例会議とかしてるの?


 それで今の魔王の運営方針に不満のある魔族が離反していって、それをレギオンが裏で統率して反旗を翻す計画をしてるのか? そしてこの魔王もその情報を掴みつつも泳がせてお互い牽制してる状況?

 そんでもってこの魔王は俺がそのレギオン派の1人だと勘違いしているのか?


 それに大層な魔力って何の事だ? もしかして魔王は俺から何か”秘めたる力”を感じ取ってそれで俺が魔族だと勘違いしてるのか?

 実は俺は英雄ジークフルドに拾われた孤児で、その正体は魔族だったりする?


 いや、流石にそれは突飛な考えだろうけど……そんな事はない筈だ、多分。


「……うーん?」


 それにしてもこんな状況にも関わらず勇者としての立場がまるでないな。


 こうして直接対決しても魔王に勇者だと認識すらされてないし、本来なら魔王と対峙してお互い死闘を繰り広げていた筈だったのに……

 俺が何もしなくても魔族同士が内部抗争してるとか、一体どうなってるんだよ。


「おい、何ださっきから黙り込んで、何を考えておるのじゃ?」


 色々と思考していたら業を煮やした魔王が再び口を開いた。

 取り敢えず有益そうな情報は得たけど、最悪な状況なのは変わらないな。


「ふん、もう良いわ、どのみち我に逆らった者には制裁を加える、その様子を見るに抵抗の意志も既に無いようじゃし、貴様には三つの選択肢を選ばせてやろう」

「三つの選択肢?」


 いや、抵抗する気は満々だけど、取り敢えず耳を傾けよう。

 話を合わせれば、まだ何か情報を引き出せるかもしれない。


「いくら我に背き歯向かったとは言え、同胞を次から次へと処分する訳にもいかんからな、今後は我に従い裏切らないと誓うなら命は助けてやろう、勿論その場合は貴様が所属している反乱組織の情報は全て吐いてもらうがの」

「……それが一つ目の選択肢か?」


「いや、それよりも貴様には今後はスパイとして泳がせて反乱組織の情報を流してもらう”パイプ役”になってもらうのもありかもだな、我に忠誠を誓わせるだけならやり方はいくらでもあるし、バレたとしても奴への警告にはなるだろうしな」

「……、俺に仲間を売れと言うのか?」


 意外と知恵が立つのかこの魔王は? 策士って感じはしないが……


「命が助かるだけでもマシじゃろう? それに抵抗しても我は相手を”隷属化”させる契約魔法もやろうと思えば行使できるからな、あまりやりたくはないが」

「な、なんて卑劣な……」


 あまりやりたくないなら何でそんな提案したし……意外と温厚派なのか?


「我とて同族同士で抗争なんてそもそもしたくはないんじゃが、それでも牙を剥くなら返り討ちにするまでじゃ、それとも貴様が我の命を狙うのは”天啓”に与えられた”使命”に従った行動なのか?」

「……使命だと?」


 つまりは人族に限らず魔族にも天啓や使命の概念があるって事か……


「もしそうなら”天啓の楔”の強制力で更生させるのは難しいじゃろうし、このまま生かしておいても厄介だから処分するか”無限牢獄”にでも投獄するかの」

「無限牢獄?」


 それに天啓の楔か、確かメアリーからそんな話を聞いた気がする。


「我の秘術による封印領域じゃい、今までも天啓に従い歯向かって来た魔族は何人か居たが追放してもいつか再び我の命を脅かす様なら牢獄送りに処してやるわい」

「……俺に与えられた使命はそれとは違うが、もしかしてその”追放”ってのがもう1つの選択肢なのか?」


「なかなか察しが良いな、そうじゃい、我に従わない魔族になど用はないからな、反乱した大半は裏切り者の”称号”を与えてから地上に追放してるんじゃよ」

「……裏切り者の称号?」


 地上に追放か、これはもしかして助かる可能性が出て来たのでは?


「その【反逆者】の称号を与えられると、我が生み出した魔物と敵対関係になり、地上の何処に居ようと全ての魔物に狙われるようになるのじゃい、それに不名誉な称号じゃから同族からも嫌厭され、忌み嫌われる事になるだろう」

「……ふむ」


 勇者の”称号”を持つ俺としては、魔物や魔族とは立場的には最初から敵対してるようなものだしあまりリスクを感じない称号だな。

 魔族からしたらそれなりに厳しい”レッテル”の称号なのかもしれないけど……


「しかも転移先は果ての大地【ヨルムンガルド】脆弱な貴様など生き残る事も叶わんじゃろうな」

「……ヨルムンガルド?」


「元々は魔王領があった場所なのだが、枯れた大地に痩せた土地が広がる何もない場所じゃよ、しかも我が試行錯誤して生み出した最強最悪の魔物【蛇の王】が徘徊しておるから貴様ではこの土地で生き残る事も儘ならないだろうな」

「蛇の王? そんな凶悪な魔物が居る場所なのか?」


「ああ、アレは我が作った魔物の中でも”グラトニースライム”に次いで飛び抜けて凶悪な特性を秘めておるからな……思い返すと我も与えられた力に溺れて、調子に乗って生み出した事を後悔さえしておるわい、他にも実験的に生み出したバランス調整が上手くいかなかった魔物も何体かおるし、控えめに言っても”地獄”みたいな場所じゃな……まあ元々生物が生きるには厳しい場所ではあったようだが、それもあり過去の魔王は多種族同士の条約を破り反旗を翻したらしいからな、どうだ怖いか、(おのの)くがよい!」

「……そ、そんな恐ろしい場所に追放するつもりか、処罰が厳しすぎないか?」


 そんな場所に追放されたらどのみち生還は難しそうだが、希望が潰えたか?


 それに何か色々と情報が出てきたし、与えられた力にグラトニースライム?

 もしかして魔王は誰かに力を与えられて魔物を生成してるって事か?

 それに過去の魔王って何だ? 封印されてた魔王はコイツではないのか!?


「ふん、我の命を狙ったならそのくらいは当然じゃろうが、この場で処分されないだけ温情だと思って欲しいくらいじゃわい」

「……要は自分の手を汚したくないだけなのでは?」


「ええい愚痴愚痴と煩い、反逆者がどの口でそんな事を言っておるんじゃい!! 寝込みを襲われて機嫌が悪いんじゃから発言には気を付けんか! そもそも貴様の処遇を決めておるのだぞ!? 追放が嫌なら忠誠を誓えば良いじゃろうが!!」

「それは出来たらどっちも断りたいが、それにしても反逆者の称号か……」


「どうしたんじゃ、何を考えておる?」

「いや、その”炎のレギオン”て四天魔族が反乱組織の黒幕で間違い無いなら、その反逆者の称号をレギオンって奴に与えればいいんじゃないか?」


「むぅ、中々鋭い指摘だが、貴様はレギオンの配下ではないのか?」

「あ、いや、それはそうなんだが……そもそも炎のレギオンが裏切り者だと確信してたなら何で土のベリアルの後釜に就かせたんだ? ベリアルの後任って事は王国との攻防戦の指揮官とかだよな? 反乱分子を統率するにも便利そうな肩書きだし何でそんな重要なポジションに就かせたんだ?」


「我も魔王としてある程度の権限は持っておるが、減った魔物の生成にダンジョンの管理などする事は多いからな、それに移動の制限もあるから、そう言った魔族の人事に関しては我をサポートしてくれる者に大体は一任しておるのじゃい」

「サポート?」


「それと当時はベリアルの奴が張り切り過ぎて、予定よりも支配領域を拡大していたからな、それだと何かと都合も悪かったのでその調整をするのにレギオンはよく働き役に立ってたのじゃよ、その後の”例の件”でベリアルを無限牢獄に幽閉していたのだが、その際に適任だったのでレギオンが後任に就いた感じじゃい……まあ今考えるとあの頃から密かに我の魔王の座を狙っていたのかもしれないがな」

「……??」


 何か情報が多すぎて理解が追い付かないな……


 魔王が魔物を生成してダンジョンの管理をしているのはマルクスの話でも聞いたけど事実だったって事か、何気に大変そうではあるな。


 四天魔族以外にも魔王を陰でサポートしてる者が居るのか? そう言えばお城で王様と会話してた女が居たけど、もしかしたらそいつがそのサポーターなのかも?


 魔王には移動の制限があるのか? 自由に行動出来ない理由が何かあるのか?


 領土が拡大すると都合が悪いってどう言う事だ? 最終的に世界を支配する事が魔王タナトスの野望であり目的ではないのか?

 それに例の件って何の事だ? 何で魔王がベリアルを幽閉する必要があるんだ?


「レギオンの奴には我が与えた”火の魔石”の力があるから、我の呪法に対して耐性があるし魔王軍の指揮官として他の魔族からの信頼も得ておるから、我が反逆者の称号を与えたとしても周りがそれを信じなければ称号はその効果を発揮せずに消失するんじゃい」

「……ふむふむ、与えられた魔石にはそんな力もあるんだな」


 確かに称号は周りの認識によって影響を受けるとかメアリーに聞いた気がする。


「本当なら我が与えた火の魔石の力を取り上げたいところじゃが、レギオンの奴は我の前だと本性を隠して猫をかぶっておるから、今こうして確たる証拠を突き止めようとしてるところじゃい!」

「……なるほど、そう言う事か」


「何が成る程じゃい! 貴様がその情報を持ってるならさっさと吐かんか!!」

「……いや、残念ながら俺は組織では下っ端だから何も聞かされてはいないなぁ」


「ぐむむ……そうか、なら貴様にもう用はないわい」


 そもそも俺の素性もまだ明らかになってないのに何でコイツはこんなベラベラと情報を漏らしてるんだ?

 しかも自分の命を狙った逆賊に対しフレンドリーな感じで話し掛けて来たし……もしかしてこの魔王には気軽に相談したり出来る同胞や側近があまり居ないのか?


 魔族の王として君臨してはいるけど配下の四天魔族は何かみんな自分勝手に振る舞っている感じだし、サポーターとか言う相手も王国に滞在してるなら今は魔王城に居ないだろうし、信用できる相手がそんなに居ないのかも?


 それで寂しくて”ゲート”をこんな場所に設置して宿敵である勇者が来るのを待ち焦がれていたとか? いや、流石にそれは飛躍した考えか?


「……何か魔王ってのも色々と苦労が絶えないんだな」

「ああ、全くじゃ、しかもあんな理不尽な使命まで与えられて……と言うか敬意が足りん、何が魔王じゃい! 忠誠を誓うならせめて魔王様と呼ばんかい!」


「魔王様にも何か天啓から与えられた特別な使命があるのですかー?」

「ええい、喋りすぎたわ、貴様には関係ないわ! それよりもどうするんじゃ? 忠誠を誓うか追放されるか、どちらを選ぶんじゃい!!」


「……ちなみに三つ目の選択肢は?」

「フハハ、そんなの決まっておろう!!」


 ドンッ


「!!」

「その瀕死の状態で我に挑み、そのまま無様に朽ち果てるがよい!!」


 会話しながらも後退していたら、いつの間にかゲートを背にしてぶつかった。

 視線の先には魔王が居るし、何処にも逃げ場がない状況だ。


 情報を引き出しつつ時間を稼いではいたが解決策は見つからなかったか。

 “追放”を選べば取り敢えずこの場からは離脱できそうではあるが、どうするかは画面の少女の選択次第なんだよな、俺としてはどうにかしてお城に帰りたいが……


 背後で今の話を聞いてたようだが、この少女はどうするつもりなんだろう。


 と言うかこれもし俺が何も行動しなければ、ずっとこの膠着状態が続くのか?

 いや、何もしなければ”待機状態”になるのかな?


 取り敢えずもう一度この”ゲート”に触れてみるか……

 流石に触れるだけなら行動の扱いにならないとは思うし、もしかしたら都合良く起動して帰れるかもしれない。


 しかし再びゲートに触ってみたがやはり反応はなかった。


     ◇


 うーん、何か結局また会話イベントっぽい感じになったな。

 しかも思った以上に重要そうな情報も色々と出たし……


 ピヨヒコが思考スキルを発動したままだったから、意思を汲み取って先制攻撃してみたけど、全然ダメージを与えられなくて”負けイベント”なんだと思ったけど、何か戦闘中にも関わらず会話が始まって変な展開になったんだけど……これ選んだ選択肢によって”ルート”が分岐する感じなのかな?


 忠誠を誓えば、炎のレギオンとか言う四天魔族を魔王の指示に従って倒す流れ?

 そのまま魔王軍に加入して、いずれは王国軍とも対立する展開とか?


 追放を選んだら、ヨルムンガンドとか言う場所に飛ばされて、そこで魔王に追放された反逆者の魔族とかと出会い、協力してその土地から脱出する感じ?

 蛇の王って魔物はもしかしてラスボスよりも強い”裏ボス”的な扱いなのかな?


 もう一つの選択肢は、このまま挑んで魔王に敗北するか、無事にお城に帰れるかだと思うけど、ゲートを起動するのに必要な魔力はまだ溜まってなかったな……


 まあ今までのヒントから選ぶべき”選択肢”は何となく察してるけど。

 魔王の一撃で体力が削られたから、最初はハイポーションを使ってHPを全快しようと思ったけど、このターンであの”アイテム”を使った方が良さそうだ。


 これで私が予想した通りの展開になるかは分からないし、他のルートがあるなら選んでみたい気持ちも少しあるけど、ここはピヨヒコの意思を尊重しよう。


 それに私も出来たらお城には戻りたいしな。


 プレイヤーの桜子はコマンド画面から、とあるアイテムを”選択”した。


     ◇


 え、この状況でこれを使うのか!?


 背後の画面から少女の選んだ行動が伝わってくる。ぶっちゃけ予想してなかった選択肢なんだけど……でももしかしたら正解なのかも? 記憶を失う前から持っていたし、特殊な効果がある装備やアイテムがあるとマルクスは言っていた。


 それにこの少女は始めから魔王に対する対抗策を知っていたのかもしれない。

 もしかしたら敵なのかもと疑ったが、やはり目的は一緒なんだな。


 ピヨヒコは生死を分ける状況にも関わらず画面の少女の選択を信じる事にした。


「む、なんじゃ、結局は我に恐れをなし何も選ばず”待機”するのか? たった1人で魔王に挑む気概がある若者だと思ったが、見込み違いじゃったかの」

「……魔王タナトス、お前に1つ伝えておきたい事がある」


「なんじゃい?」

「俺は今よりもっとレベルを上げて成長して強くなり、いつか必ずお前を倒す!」


 自分に課せられた使命や両親の仇など、思う事は他にもあるのだが今はそれだけ伝えられればいい。この魔王はいつか”勇者”として俺が必ず討ち滅ぼす!!


「フハハはは、脆弱な小物無勢がよく言ったものだ、ならば我も敬意を払って全力で貴様を排除する事にしよう!!」

「なっ!!」


 魔王タナトスは自身を纏っていた”宵闇の衣”のオーラを解き放ち、禍々しいまでの魔力を開放した。それに呼応するかの様に浮遊城が揺れ動く。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「貴様の心意気は伝わったが我には成すべき使命があるのでな、邪魔だてするなら仕方ない、此処で貴様には退場してもらう事にしよう!!」

「うわっ、何だその凄まじい魔力は!?」


 放出された黒い靄がその形を変化させ、黒い獄炎となり魔王の拳に収束される。

 どうやらこの”力を溜める”動作が一回分の行動になっているようだ。


 しかし2回行動が可能な魔王は即座に次の動作に移行する。

 拳に凝縮されたエネルギーの塊が形を成してピヨヒコに襲い掛かる!!


「喰らうがよい、必殺、デッドリーブロー!!!」


 ヴゥオオォォォ!!


 高速で迫り来る魔王の死に至る渾身の一撃!!


 と言うかやっぱり殴り掛かってくる戦闘スタイルなのかよ!

 ダメだ、背後にも下がれないし速すぎて避けきれない!! 覚悟を決めろ!!!


 ピヨヒコは決死の覚悟で魔王の拳にタイミングを合わせて”頭突き”をした。


「うおりゃあァァ!!!」


 ガキィィンッ!!! ビィキ、ビキビキィ!!


「なっ、なんじゃと!?」


 魔王の拳が額に直撃するその寸前、ピヨヒコを守るバリアがその衝撃を防いだ。


 ブゥワアァァ……  


 それと同時に魔王の拳に纏っていた黒炎が霧散して靄となり放出される。


 ブシュウゥゥ……


 そしてこの場に撒き散らばった魔力が固有スキル”マジックポット”の効果によりピヨヒコの体内に吸収された。


「こ、これは、魔力が溢れてくる!?」

《やった、概ね予想してた通りの展開だ、これで多分帰れる!》


 ビリビリ、ビキビキビキィ……パリンッ!!


「!!」


 魔王の一撃を防いだピヨヒコが装備していた【鉄の額当て】が今の衝撃で壊れ、嵌まっていた”琥珀色の石”が光を帯びながら、コロコロと床に転げ落ちた。


「この力は……やっぱりこの石がそうだったんだな!?」

「な、なぜその”魔石”がここにある!? 貴様が何故それを持っている!!」


「もう此処には用は無い、“俺達”はもう一つの選択肢を選ばせてもらう!!」

「な、なんじゃと!?」


 ピヨヒコは少女の台詞で即座に状況を理解し、拳に魔力を集中させて放出した。


「俺の行動ターン、これで最後だ、コイツを喰らえぇ!!」

 

 ピッカァァー!!!


「ぬわぁ!? 眩しい、目がぁ、目がァァ!!」


 ピヨヒコの手の甲に刻まれた紋章が強く光り輝き、魔王タナトスは目が眩んだ。


「よし、撤退だ、さらばだ魔王タナトス!!」


 ピヨヒコは床に転げ落ちていた【土の魔石】を即座に拾い上げて、ストレージに収納して更に背後にある”ゲート”に触れながら帰るべき場所を強く念じた。


 するとゲートはそれに呼応するかのように淡い光を灯す。

 それと同時に白い光が発光し、周囲を眩く照らす。


「グヌゥ、ま、待て、待つのだ、まさか貴様は勇──……」


 プォーーーーン♪


 その瞬間、意識が飛んだ。


 こうして魔王タナトスとの前哨戦は終わりを迎えた。

 

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