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第45話 深淵を覗きし者

 突如乱入して来た吟遊詩人を追っ払い、四階の宝物庫に侵入してバレないように鑑賞していたのだが、迂闊にも設置されていたワープポットに触れてしまった。

 そしたら強く念じてもいないのに、勝手に起動して目の前が眩い光に包まれた。


 プォーーーン♪


「うっ、何が起きた!?」

《え、何ここ?》


 ゴゴゴゴゴ……


 気が付くとそこは見知らぬ場所だった。周囲には暗闇が広がっている。

 突然の出来事に困惑するピヨヒコと桜子。


「ここは何処だ? 真っ暗で何も見えない」


 何故か目の前が突然光ったので目が眩み、余計に暗く感じる。

 しかも何か割れたような音まで聞こえたんだけど、まさか展示用の硝子のケースが割れたんじゃないだろうな?


 だが周囲を見渡してもそれらしい痕跡は何もない。


 それに雰囲気も全然違うので、先程まで居たお城の宝物庫ではないようだ。

 そこそこ広い空間のようだけど、何処となく漂う空気が重苦しい。


 もしかしてさっきのワープポットに触れたから、それで強制転移したのか?

 いや、でも俺は行き先なんて念じてないぞ!?


 暫くすると段々と暗闇に目が慣れて来たのか薄らと部屋の輪郭が見えてきた。

 何となくだがお城の謁見の間に似た感じがするけど、何処か不気味な雰囲気だ。


 もしや画面の少女が何かしたのだろうか? 何か焦ってたみたいだけど。

 背後を見てみると、この状況に少女も戸惑っている様子なのだが、視線が合うと気まずかったのか、やましい事でもあるかのように露骨に目を逸らされた。


 え、何その反応? やっぱりこの少女が何かしたのか!?


 それに何か一気に力が抜けたような脱力感と言うか、精神的な疲れを感じる。

 夕飯は食べたし空腹デバフではないと思うけど、なんだこれ?


     ◇


 うわぁ、やってしまった。謎のオブジェクトを調べたら『起動しますか?』とか選択肢が提示されたから、お城の宝物庫が登録されるのかと思って『はい』を選択したら、いきなり変な場所に飛ばされたんだけど。


 もし宝物庫に好きな時にワープ出来るようになれば、後でまた展示品のアイテムを漁れるかと思ったのに、まさか即座に発動して強制移動するとは。


 と言うかここは何処? 暗視のスキルのお陰で何となくは見えるけど、何かまだお城の中っぽいな。

 どこか城内の別の場所に移動した感じかな? でもそれにしては全体的に重々しい雰囲気なんだけど。


 もし”転移罠”とかで戻れない状況だとしたら最悪ここでセーブすると詰むよね?

 しかも例の隠し部屋からずっとセーブしてなかったし、迂闊な行動だったかも。

 

 あ、ピヨヒコが何か疑惑の表情でこっちを見てるし、そんな目で私を責めるな!


 だって城下町のワープポットは弟が遊んだ時に登録してたみたいだから、最初に調べた時の反応とか知らなかったし、起動して登録するものだと思ったんだもん。

 

 そもそも何であんな宝物庫の奥にワープポットなんて置いてあったの?


 それも仕切りでバリケードされてたにも関わらず普通に跨いで入れたし。

 こう言うゲームって障害物とかあると通れなかったりするものじゃないの?


「それに、あのワープポットってもしかして……」


 桜子はお城に訪問してから得た情報を思い出す。リアル時間だと既に3ヶ月以上前の事だから記憶も朧げなのだが、1つの仮説を思い浮かべる。


「もしそうだとしたら、この場所って……いや、でもそんな事ある!?」


     ◇


 少女は何やら考えているようだが、取り敢えず俺も状況を確認しよう。


 周囲は明かりもなく暗いのだが背後を見てみると、この場所にもワープポットが設置されているようだ。

 暗くて気が付かなかったが、お城の宝物庫にあったのと同じやつに見える。


「ほっ、良かった、取り敢えずこれがあれば帰る事は出来そうだな」


 しかし触ってみたが反応がない。


「え、何で? 戻れないのか!?」


 お城の宝物庫や城下町にあるワープポットを思い浮かべて念じてみるが、やはり反応しない。何か割れるような音がしたけど、まさか故障でもしたのか? 


 それとも画面の少女の判断で戻るのを拒否してるとかじゃないだろうな!?

 しかし背後を見てみると、少女も何やら狼狽えている様子だ。

 それに何か独り言が聞こえたけど、この場所に心当たりでもあるのだろうか?


「いや、待てよ、確かアルマの話だとワープポットは元々は……」


 ピヨヒコも今まで得た情報からあのワープポットが何なのかを推測した。

 そして1つの答えを導き出した。


「……もしかして”ゲート”か? え、それなら此処ってまさか、魔王城か!?」


     ◇


 どうやらピヨヒコも気が付いたようだ。そう、おそらくここは”魔王城”だ。


 名前からして黒曜石で作られた”門”みたいなものを想像してたんだけど、まさかゲートがそのままワープポットの形状だとは思わなかった。

 それに何処かのダンジョンか、祠にでも厳重に封印されていると思ってたから、お城の宝物庫にあんな無造作に置いてあるとは思わなかったし。


 でも確かマルクスの話だと封印処置してあるから今は使えないとか、魔王に挑む判断はこちらでするとか言ってなかったっけ?

 それに魔王と戦うには四天魔族を倒して4つの魔石で弱体化させる必要があると言ってたから、幹部の撃破が判断の基準になってると思ってたんだけど……


 いや、黙って使用したからマルクスの判断は関係ないのか? でも封印の方は?


 もしかして直接的には倒してはいないけど、”土のベリアル”が討伐されたから、それがフラグになってゲートが使用可能になったとか? でも”土の魔石”の所在もまだ不明の状態なんだけど、ラストダンジョンに挑むのは流石に無謀じゃない!?


 それにゲートに触った時に結界みたいなのが割れるエフェクトが発生したけど、あれが封印が解かれた演出だったのかな?

 もしそうだとしたら何かしら要因があって結界が割れたって事だよね? それにあの光の演出も何か意味不明だったし。


 あ、でももしかしたらあの”アイテム”がそうなのかも?

 何気に特別な感じはしてたんだけど、そうだとしたら起こり得る事かも。


 桜子は状況を整理してゲートの封印が解かれた原因に目星を付けた。


 取り敢えずこのまま突っ立っていても仕方ないから、状況確認する為に気配察知のスキルを使ってみたけど、手前の方に1つ気配があるようだ……


 こんな場所で魔物と遭遇でもしたら、今の状態だと勝ち目なんて無いけど、会話が出来る相手の可能性もあるから取り敢えず近付いてみるかな。

 メタ読みだけどお城の訪問イベントに関連してるなら、いきなり理不尽な難易度の戦闘とかはないとは思うし。


 それにここのワープポットを調べたけど無反応だったから他に手段もないし。

 推測はしたけど、魔王城の説明とかしてくれるキャラとかが出て来るかも?


「……え、嘘でしょ!?」


 近寄ってみたら気配の正体を何となくだが把握した。まさかいきなりこんな展開だとは思わなかったけど、これ状況的にはかなり拙いんじゃ……


 あれ、でもこれって……


     ◇


 ゴゴゴゴゴ……


 気配察知のスキルを閉じてたから今まで気が付かなかったけど、かなりヤバそうなのが近くに居るんだけど!?

 しかも何か呻き声のようなものまで聞こえるし。まさかハングリーグリズリーのような凶暴な魔獣でも居るのか!?


 ピヨヒコは警戒度を高めて武器を身構えた。


 周囲には暗闇が広がってる。

 そして目の前には威圧感を放つ異様な存在が居る。

 気配察知のスキルが、この存在の圧倒的な強さをヒシヒシと伝えてくる。


 ヤバい、悪寒がする、絶望感にも似た感覚だ……トコトコ……

 暗闇からこの気配の主に不意打ちでもされたら、多分ひとたまりもない。


 ゴゴゴゴゴ……


 ちょっと待て、何でこんな事になった!?

 ヤバい、身体が竦む、今の俺では絶対に勝てない。このままだと殺される!!

 

 どうにかして気づかれない様に今すぐにでも逃げないと……トコトコ……


 って、おいぃ、それなのに何で無警戒に気配に向かって歩いてるんだよ!?


 ピヨヒコの焦りとは裏腹に身体は勝手に気配に近付き歩く。

 この少女には警戒心や恐怖心がないのだろうか? そりゃ何処か安全な場所から俺を操ってるなら危機感なんて微塵も感じないのかもしれないが、コイツは本当にヤバいんだって!


 ちょっと止まって? 一旦止まろう、ねえ!?


 ツカツカツカツカ……


 ボッ、ボッ、ボッ……


 しかし強く念じるも願い届かず、そのまま気配に向かって歩き出す。

 そしてそれに合わせるかの様にこの部屋の左右の端にある燭台が灯る。

 点々と灯る蒼白い炎が、この場の不気味さを更に強調する。


「こ、これは……」


 周囲が明るくなると部屋の様子も一層よく分かる。

 やはり王城の謁見の間の様な感じだ。正面には玉座が1つあり、そこにこの気配の主が座っている。


 ピヨヒコは操られるままその目の前まで近付いた。


 デカい、玉座に座ってるのだが、おそらく体長3メートル近くはある。

 しかも何か全身が黒い靄に包まれていてその姿がよく見えない。それでもこれだけ近付くと、相手の正体を本能で理解した。


 ゴゴゴゴゴ……


 もう確定だ、コイツは、”魔王”だ!!


 デデドン!


 しかも何か寝てるんだけどぉ!!?


 ゴゴゴゴゴ……グゴゴゴォ……グゴゴォ……グゴゴゴォォ……


 魔獣の呻き声だと思っていたものは魔王のいびきかよ!? いや、既に深夜だし魔王でも流石に夜は寝るだろうけど、でも何か色々と台無しだよ?

 せっかく近寄るのと同時に左右の燭台の炎が灯る、カッコいい演出とかも、肝心の魔王が寝てたら全く意味ないよ!?


「嘘だろ? ほ、本当に寝てるのか?」


 フゴゴォ、ゴゴォ……ムニャムニャ……


 信じられないが確かに寝てるようだ……

 いや、とにかく命拾いしたのも事実だ。早くこの場から立ち去ろう!!


《あはっ、あははははっ♪》


 って、何で画面の少女はこんな状況で笑ってるんだよ!?

 しかもケラケラと爆笑してるんだけど!?


 そりゃ確かに俺も宿敵の魔王との初対面が、こんな感じでちょっと拍子抜けではあるけどさ。と言うか何で魔王がこんな深夜に玉座で寝てるんだ!?

 寝るにしたってこの城の主なんだし、専用の寝室くらいあるんじゃないのか?


 と、取り敢えず落ち着こう、この状況がヤバいのには変わりない。

 いつ魔王が起きるとも限らないし、取り乱さないようにしよう。


《ふふ、ふはっ……あははっ》


 いや、いい加減笑うのは止めろよ。寝てる魔王にツボったのか?


 とにかく落ち着こう、両親の仇とも言える相手だがこの状況で憎しみに飲まれて感情的になるのは危険だ。

 それに魔王に対する恐怖心で”恐慌状態”にでもなったら最悪の事態だしな。


 ピヨヒコは状況を冷静に判断する為に”思考スキル”を発動した。


 グゴォォ……グゴゴゴゴォ……


 うん、寝ている魔王を見てたら何か人間味を感じて、そこまで恐怖の感情は湧かないな。記憶を失った影響もあるとは思うが。

 マルクスが懸念していた”怨嗟の炎”とかの怒りや憎しみの感情も特に感じない。


 よし、これなら落ち着いて冷静な判断は出来る。


 心無しか先程よりは謎の疲労感も治ってきた感じはあるけど、それでもまだ全快とは言い難いな。体調不良とも言えるこの状態で戦闘にでもなったら絶望的だ。


 もしかしたら魔王の気配を本能的に感じ取って焦燥感とかを感じてたのかも?


 薄暗いとは言え部屋に灯りも付いたので、周囲の様子も先程よりもよく見える。

 どうやら魔王の玉座があり、少し離れた対面にゲートと思われるワープポットが設置されているようだ。更にその奥には部屋の入り口の扉もあるな。


 そもそも何でこんなところにゲートが設置されているんだ!?


 ここが魔王城なら、例の四天魔族や他にも配下の魔物もたくさん居ると思われるのに、まるで魔王が直接やってきた勇者を歓迎するような配置なんだけど?


 普通なら浮遊島の何処かに設置して数多の魔物を倒して、ようやく魔王城に突入して更にそこから迷宮のように複雑な城内を攻略して、よくぞここまで辿り着いたな勇者よ、ならば我が自ら相手をしよう……って流れじゃないの!?


 グランバニラのお城のゲートは宝物庫に保管するように設置されてたから移転は可能だよな? つまりこのゲートは魔王の意志でここに置かれたって事か?


 でも何でだ? まさか本当に勇者を歓迎している訳でもあるまいし……


 理由は分からないが、取り敢えずゲートが使えない以上は何かしらの手段でこの場から脱出するしかないけど、どうすればいい?


 気配察知のスキルで確認すると廊下にも何か複数の強い気配を感じるから魔物が徘徊してるのか? それに何とか魔王城から出たとしても、マルクスの話だとこの場所は空に浮かぶ浮遊城のはずだし、どうやって地上まで戻るんだ!?


 確か地図だとこの下は大きな湖だった筈だから、思い切って飛び降りたとしても案外助かるかも? いや、流石にこんな高所からそのまま落ちたら自殺行為だ。

 しかもそこからどうやって王国まで帰るんだよ? 装備や食料も殆ど無いのに。


「あれ、これ詰んでね?」


 ピヨヒコは自分の置かれた状況を理解して絶望した。


 取り敢えず間近で寝ている魔王、確か名前はタナトス? を観察してみたのだが黒い靄のようなもので全身を覆われていて、その姿がよく見えない。

 何かツノみたいなものは生えてるけど、一見すると大きな黒い人影にも見える。


 まるで魔王の身を守るバリアが張ってある感じだ。


 言うなれば”宵闇の衣”とでも言うべきか、でもこの黒い靄って魔物が瀕死になった時に噴き出す靄に似てる気がするな。

 だとしたらこのバリアの正体は、魔力で成形された防御魔法とかなのかも?


 このままだと物理も魔法もダメージがあまり通らなそうにも見えるけど、寝ていても常に発動してるなら、どうにもならないんじゃないか?

 もしかして4つの魔石を使う事でこの障壁を剥がして弱体化する感じなのか?


 それに寝てるとは言え、魔族を統べる王だけあって、その存在感は圧倒的で見ているだけでも恐怖して畏怖の念に飲まれてしまいそうだ。

 俺も勇者としてまだまだ実力不足なのは分かるが、ここまで差があるとは……


 いや、魔王の情報が少しでも分かったなら収穫だと思う事にしよう。

 今は無理でも経験を積んでレベルを上げて、いつか挑んで必ず倒してやる!


 まあ無事に生還出来たらの話なのだが、背後の少女はどうするつもりだ?

 途中から笑うのは止めてたけど、結局はこの少女の判断によるんだよな。


 いくら常識が足りていない少女でも、まさかこの状況で寝ている魔王を起こしてまで挑んだりする愚行はしないと思うけど……しないよね?


 そんな一抹の不安を感じていると身体が勝手に動き出し、魔王に背を向けて再びゲートに向かって歩き出した。

 取り敢えず魔王との戦闘は避けたようで安堵した。もしこの少女が調子に乗って不意打ちでもしようとしてたら、俺も全力で抵抗はしたけどな。


 いくらなんでも仲間も居ない今の状態じゃ挑んでも絶対に勝てないし。

 いや、寧ろこの場にアルマやネムが居なかった事を幸運に思おう。こんな事態に巻き込んで、もしもの事でも起きたら、後悔してもしきれないからな……


 その後もう一度ゲートに触れてみたのだが、やはり反応はない。

 すると画面の少女はストレージを操作してポーションを取り出した。


「これは、お昼にククリコの店で購入したスタミナポーションか?」


 ゴクゴク、ピヨヒコは操られるままにそれを飲み干す。


 ふぅ、気配察知などの盗賊のスキルで減っていたSPが回復した気がする。

 少し気分が楽になったけど、それでもまだ謎の疲労感は感じるな……


 そんな事を考えていたら続けて少女はマジックポーションを取り出した。

 何でだ? 俺は魔法は使ってないからMPなんて回復する必要はないんじゃ?


 ゴクゴク、しかしピヨヒコは操られるままにそれを飲み干す。


 ふぅ、すると感じていた疲れが緩和して快復した気がした。

 もしかして疲労の原因はMPが枯渇してたからか? え、でも何で?


 続けて少女はもう2本程マジックポーションを取り出した。

 ええ、ちょっと待って? 何で3本も必要なの!? 魔法職のアルマでさえ1本飲めばMPは殆ど回復するって言ってたから、俺がそんなに飲む必要ないよな?


 ゴクゴク、ゴクゴク、しかしピヨヒコは操られるままにそれを飲み干す。


「ウプッ……飲み過ぎた」

《あれ? これ超過分はマジックポーションだと蓄積されないのか?》


 疲労感は全く感じなくなったから、原因はMPが減っていたからで間違いなさそうだけど、つまりこのゲートを起動するには相応の魔力が必要なのか?

 もしそうならさっきまでの唐突な脱力感も理解できるし、このゲートに触っても反応しなかったのも納得は出来る。


 それならMPが回復した今ならこのゲートを起動して、王城の宝物庫に帰れる?


 希望が見えてきたピヨヒコは、意気揚々とゲートに触れてみた。

 しかし反応はない。


「ええ、なんだよ? 期待させといてやっぱり帰れないのか!?」


 あ、ヤバい、つい大声を出してしまった、これでもし魔王が起きたら大惨事だ。

 気配察知で確認してみると、どうやら気配に動きはないようだ。


 ゴゴゴゴゴ……


 それにいびきも聞こえるからまだ寝てるな、危なかった、気を付けないと。

 はぁ、しかし困ったな、現状だとこのゲートが唯一の脱出手段なんだけど……


 そのあと少女の判断で廊下の方も確認してみたけど、やはり魔物が何体か徘徊しているようで、何か触手が生えたギョロ目の魔物がフヨフヨ浮いてるのが見えた。


 あれも絶対にヤバいヤツだな、目から光線でも撃って来そうな雰囲気があるし、今のレベルだと戦っても勝てない。そもそも1人じゃどうにもならないだろう。


 常識が足りていない背後の少女も、ここから廊下を通ってお城の外まで行くのは無謀だと分かっているのか躊躇してるようだ。

 画面を見てみると何やら悩んでいる様子なのだが、視線が合うと何故かめっちゃ怪訝な表情で見られたんだけど、なんだよその不満げな顔は?


 操られてこんな所にまで連れて来られて、不満なのは寧ろコッチの方だ!!


     ◇


 あー、もう、なんなのコイツ!?


 久し振りに”思考スキル”を発動したと思ったら、めっちゃ色々と考えてるし。

 何かする度に思考メッセージが流れてくるから煩わしいったらありゃしない!


 メッセージで考えている事が分かると、やっぱり状況に合わせてピヨヒコが自分で思考してるのが伝わってくるけど、私の事をさっきから常識が足りていない少女とか失礼にも程があるわ。

 これでも私は今まで色々なゲームをクリアしてきた”熟練プレイヤー”だぞ。

 今のピヨヒコが、寝てる魔王や廊下の魔物に勝てない判断くらい出来るわ!


 と言うか、常識がないのは寧ろこのゲームの方だからね?

 普通のゲームの主人公はそんな色々と思考を伝えてなんて来ないから。


 それにメッセージでも背後やら画面の少女やら言ってたから、やっぱり主人公の背面にはお互いの姿を映す”画面”が存在してるで確定したな。

 ピヨヒコに見られてると思うと正直気分は良くないけど、慣れるしかないのか?


 だから普通はこんな画面とかあり得ないから、常識がないにも程があるわ!


 それと何か疲労感があるとか呟いてたから、ステータスを確認したらMPが枯渇してたので、ピヨヒコが考えた通り魔力を消費する事でゲートが起動するようだ。


 それでマジックポーションでMPを回復したけど、このゲートを使うにはそれでもまだ魔力が足りないみたいだ。


 それなら何故、宝物庫のゲートを使えたかと言うと、それは例の巨大スライムを倒した時に覚えた固有スキル【マジックポット】のお陰だ。


 このスキルは使用者のMPの上限とは別枠で、MPを貯蔵する効果があるのだが説明文だと戦闘中に仲間に自分の魔力を譲渡したりする事も出来るらしい。

 しかも大気中の魔素からも吸収して、自然回復でも徐々に貯まる優れものだ。


 低レベルで覚えたし、かなりの量を蓄積出来るので、”魔力タンク”としても活用も出来るのだが、今回のようにイベントとかても使う機会が今後もありそうだ。


 でも手持ちのマジックポーションだと、ピヨヒコのMPの上限以上は回復しなかったから、このゲートを再起動するには、魔力が足りなかった感じだ。


 城下町に設置されているワープポットは、MPを消費しなくても使えるのだが、ゲートの方はどうやら使用者の魔力を糧にして起動する仕様なようだ。

 何かご都合主義な気もするけど、古代の遺産とか言ってたし、そう言うゲームの設定なら仕方ない。


 うーん、でも自然回復するならこのまま待ってればいずれ魔力が溜まってゲートを使って帰れる感じかな? どのくらい必要なのか表示されなかったけど、魔王城は大気中の魔素が濃い設定なのか、MPの自然回復が城下町よりは速い気がする。


 本当ならこの場でセーブして、廊下の魔物を避けつつ宝箱の1つでも探しに行きたいけど、もし魔王が起きて戦闘にでもなったら状況によっては詰むから悩むな。


 しかし魔王が寝てるとか、見た事もない展開だったからめっちゃ笑ったわ。


 後はどうするかな、取り敢えずこの魔王の玉座の間をもう少し調べてみるか……もしかしたら玉座の裏側に秘密の階段とか、隠し宝箱とかあるかもしれないし?


     ◇


 ゴゴゴゴゴ……グゴゴォ……ゴゴォォ


 少女に操られて取り敢えずこの部屋を探索する事になった。


 俺としては”眠れる獅子”がいつ起きるか気が気じゃないのだが……でも何かよく寝てるし熟睡してるな。コチラから手出ししなければ起きそうにない感じだ。


 まさかこの魔王も自分が寝てる間に勇者が訪れて、部屋を物色してるとは夢にも思わないだろうなぁ……お、何か落ちてるぞ?

 魔王の周辺を調べていたら、玉座の裏側に四角い箱のような物が置いてあった。


 これは、宝箱か? こんな所に置いてあるなら魔王の所有物なんだろうけど。

 しかし少女は嬉しそうに意気揚々と、さも当たり前の様にその宝箱を漁る。


 魔王に対しても全く遠慮がないな、なんて度胸だ。

 こんなの勝手に盗んで、もしバレたらヤバいとは思うが、どうせ止めたところで聞き入れないだろうしピヨヒコも諦めてそれに従った。


 ガチャガチャ……しかしどうやら鍵が掛かっているようだ。


 少女は悔しそうに憤慨してるのだが、諦めたのかそのまま別の場所に移動する。

 何か珍しく潔く諦めたけど、少女もこの状況で獲るのは不味いと判断したのか?

 

 それと左右の燭台も調べてみたけど、蒼白い炎が灯されていて何かカッコいい。

 普通の炎の色とは明らかに違うから何か特殊な魔法とかなのかもしれない。


 松明などは持ってないのだが、背後の少女が機転を利かせて肉屋で買った”薪”にその炎を焚べて、何本かストレージに収納したんだけど、大丈夫なのかこれ!?


 確かブックルがアイテムボックスの中身は何か魔法みたいなもので包まれるとか言ってたし、ストレージは空間保存が可能とかの説明も聞いたけど、まさか炎までそのまま収納できるとは思わなかった。


 珍しい種火だとは思うけど、こんなものを手に入れて何に使うつもりだ?


 その後も暫く部屋を探索したのだが、残念ながら他に目ぼしい物はなさそうだ。

 もしかしたら城の外に繋がる秘密の階段でもあるかと少し期待してたのだが……


 そんな事を考えていたら、背後の少女はどこか微妙な表情をしていた。


 ゴゴゴゴォ……ゴゴゴゴォ……


 部屋の探索もひと段落したけど状況は変わらない、どうすればいいんだ?


 直ぐ目の前では魔王タナトスが気持ち良さげに寝息を立てているのだが、まさか俺まで一緒にこのまま此処で寝る訳にはいかないよな……

 時間が飛んだと思ったら寝起きの魔王と鉢合わせ、何て事にでもなったら洒落にもならないからな。


 と言うか何でこんな魔王の目の前で立ち尽くしてるんだよ、せめて隠れろよ。

 ピヨヒコは不満を感じて背後を振り向いた。


 ……しかし画面の中にいつもの少女は居なかった。


「あれ? あの少女は何処に行った?」


 え、嘘だろ、この状況でまさかの放置!? 今日だけで二度目だよ!?

 いや、マジで何処に行った? 画面に映ってないって事は離席でもしたのか?


 そう言えば例の少年に操られてた時にも一度こんな事があったっけ。

 あの時は確か暫くしたら帰って来たけど……


 あ、もしかしてトイレか?


 今まで当たり前のように一度も画面の前から離れなかったけど、普通に考えたらあの少女だっておしっことかしたくなったらトイレくらい行くよな?

 そう考えれば離席も納得は出来るけど、こんな状況で放置するとか勘弁してよ。


 ピヨヒコは戸惑い焦りつつも”思考スキル”の効果により冷静に状況を判断した。


 少女が居なくても不思議な強制力で移動を拒まれるからどうにもならないな。

 試してみたがやっぱり一定距離を移動すると何故かそれ以上は身体が動かない。


「ぐぬぬ……」


 お花を摘みに行ったとしても、せめて魔王の視界に入らない場所に移動してから離席できなかったのだろうか、そんなに我慢の限界だったのか?


 もしかしてう◯こか? いや相手は女子だし詮索するのは止めておこう。


 他の理由で居なくなった可能性もあるけど、突然画面から消えると不安になるから黙って居なくなるなよな。先日のアルマといい自由に行動が出来て狡いぞ!


 危険な状況なのだが、滅多にない機会なのでせっかくだから、画面の中を改めて確認してみる事にした。すると以前とは違う変化があった。


「あれ、なんか前とは部屋が違うよな? 家具の配置も以前とは違う気がする?」


 どう言う事だ? あまり意識してなかったからどのタイミングで切り替わったのか分からないけど、明らかに前とは違う部屋だと思う。

 それに何処となく以前よりも女の子っぽい雰囲気だけど、あの少女の自室か?


 少女はいつも画面の前で楽な姿勢で座っているのだが、奥にはベッドが見える。


 壁にはハンガーに制服が掛けられているようだ。確か最初に会った時にも着ていたヤツだな、と言うかいつの間にか着てる服が変わってる事もあるんだよな……


 基本的にはゆったりとした部屋着だから気にも留めなかったけど、考えてみたら脱衣所で放置プレイを食らった前と後でも何故か少女の着ているシャツの柄が変化してた気がするし。感覚的には既に2、3回は切り替わってるとは思う。


 つまり俺が気が付いてない内に、いつの間にか着替えてるって事になるよな?

 常に背後の画面を意識してる訳ではないけど、見てない間に着替えてるのか?


 しかも何気に髪型も変わってたし、前まではロングヘヤーだったのに今回は髪を括ってポニーテールっぽい感じにしてたな。

 まあ少女も身だしなみには気を使うだろうから、それは些細な変化なんだけど、でも何となく前よりも髪が少し伸びてた気もするんだけど、気のせいか?


 それと食事に関しても違和感は感じてたけど、画面を見てる限りだとこの少女が何かを”食べている”ところ、を見た記憶がないんだけど……

 俺が目覚めてからこの3日間のあいだ、全く何も飲まず食わずなんて、この少女が不思議な力を持ってたとしても流石に無理だよな?


 それに不思議な力と言えば、例のループもだけど、突然”ブラックアウト”して、意識が途切れる事がたまに起きるけど、あれはどう言う現象なんだろう?


 意識を取り戻した後はその直後から何事もなかったかのように身体が動くけど、一緒に居たアルマも特には気にしてなかったし、時間も経過してないんだよな。


 割と一瞬の出来事だけど、感覚的には何か長い間寝ているような感じもするんだけど、目眩や立ち眩みとかなのか?

 いや、でもその間に少女の服が変わっていた気がするな。


 つまり画面の向こうでは、俺が意識を失ってるその瞬間に時間が経過していて、少女はその間に着替えや食事を行なっているとか?

 空間魔法は場合によっては時間の経過が違うとマルクスの実験で分かったけど、この画面も魔法が関係してるなら有り得なくはないのかな。


 それならもしかして、止まっているのは寧ろこの世界なのか?

 でも宿屋で寝ると何故か時間が飛んでいつの間にか朝になってるんだよな。


 つまり俺の意識がいつの間にか途切れて、その間に時間が経過してる?


 あれ、でもそれだと”ブラックアウト”の時の時間の感覚とは違うよな?

 むむむ? つまりどう言う事だ?


「……うーん??」


 何か閃きそうなんだけど、まだ推理するには情報が足りないな。

 と言うかあまり深く考えない方が良いと俺の直感がそう告げている。


 取り敢えずもう少し画面の中を観察してみよう。


 ベッドの上には何か大きなクマの縫いぐるみが置いてあるけど、少女の私物か?

 他にも何体か人形があるので、やはりあの少女は少しメルヘン思考なようだな。


 それに壁にはコルクボードが吊るされていて、そこに写真が貼ってある。

 ここからだとハッキリとは見えないけど、同い年くらいの女の子と一緒に映っているので、背後の少女の友人とかなのかもしれない。


 それにその隣に貼ってある、写真に写っているのは誰だろう?

 若い男性だけど、もしかして恋人や好きな相手とかだったりするのかも?

 いや、プライベートな事だしあまり詮索するのは気が引けるから止めよう。


 それでも、どうしても気になる物が1つあるのだが……


 なるべく見ないようにしてたけど、何か壁に絵が描かれたポスターが貼られてるのだが……何故か男同士が仲良さそうに絡んでいる構図なんだけど?


  何だこのイラスト? 上手いけど何か背徳的と言うか、いや、それ以前に何であの少女は男同士が密着して見つめ合っているポスターを部屋に飾ってるんだ!?


 もしかして男性同士が”イチャイチャ”するシチュエーションが好きとか?

 ま、まさかあの年齢で、既にそういう特殊な性癖を開花させているのか?


 そう言えば風呂場のサウナでは、何かグラウスの事をじっとりとした視線で見ていた気がしたけど、え、まさか何か如何わしい妄想とかしてたのか?

 しかもグラウスの相手は俺? 嘘だろ、年齢的には親子ほども離れているぞ!?


 いや、俺もククリコの動く耳に執着している自覚はあるから、あの少女の趣味や嗜好、フェチズムをとやかく言うつもりはないけど……ちょっとドン引きだわ。


 理解し合える気がしないから、あまり性癖についてはお互い言及しない方が良さそうだな。とにかくこの部屋で観たことは俺の心の内に秘めておこう。


 もちろん強く念じて、あの少女を問い詰めたりするのも絶対に止めておこう。

 部屋を覗き見したのがバレたらヤバいし、状況的にも俺の方が圧倒的に不利だ。


 ピヨヒコは少女の深淵を少し覗いてしまったが、それを見なかった事にした。


 でも結論からすると前にも考えたけど、画面の中には別の空間が広がっていて、あの少女や例の少年が普通に生活してるって事になるのかな?

 あの2人が姉弟の関係だとして、何処か遠くから俺の事を操ってる感じか?


 それ以前にこの世界と画面の中の空間は同じ世界なのか? 夕食の時にマルクスが異世界の話をしてたけど、別世界だと考えた方が確かにしっくり来るんだけど。


 いや、そもそも写真ってこの世界にもあるのか? 何故か当たり前のようにその知識はあるんだけど、ポスターならまだしも写真なんて城下町でも見てないよな?


 それにアルマの話だと過去のドワーフの機械文明は既に廃れたと言ってたけど、この写真がその機械の技術だと知識として何故か理解してるんだけど。


 何で俺はそんな事を知っているんだ? 今までも色々と変な知識の齟齬はあったけど、これも記憶喪失やこの宙に浮かぶ画面と何か関係があるのだろうか?


 うーん、こっちも情報不足で分からないな……誰かから教えて貰ったとか?

 記憶を辿ってみても思い出せないけど、とにかく覚えている”知識”として戦闘とかでも活かせるなら最大限に活用しよう。


「ハァ……何か色々と考えてたら疲れたな……」


 もしこのまま少女が戻って来なかったらどうしよう。


 ゴゴゴゴォ……ゴゴゴゴォ……ムニャムニャ……


 相変わらず背後からは魔王のいびきが聞こえる。


「それにしてもよく寝てるなぁ、寝てる時が一番隙だらけとはまさにこの事だな、起こしちゃいけない相手なのは分かるけど、何か緊張感が削がれるなぁ……」


 俺の方は寝た記憶すらなく時間が飛ぶってのに暢気なものだ、正直羨ましい。


 暇だったので、いずれは倒すべき相手を改めてよく観察してみる事にした。

 もちろん寝ている魔王を起こさないように細心の注意は払う。


「じぃー……」


 うーん、黒い靄が覆ってるから顔はよく見えないけど、何かローブみたいなものを着てるな。と言う事は魔王タナトスは武器とかで戦う”戦士タイプ”ではなく魔法を使ってくる”魔道士”タイプか?

 魔物を使役するほどのスゴイ魔力を秘めている様だし、その可能性は高そうだ。


 それにこの全身を覆っている”宵闇の衣”も、魔法で形成された障壁っぽいし。

 魔力を帯びているならもしかしたら魔王の力を増幅させる効果すらあるのかも?


 つまり実際に戦う場合4つの魔石は必須だとして、他にも魔法防御に優れた防具とか魔法に対抗する手段があった方が有利には戦えそうだな……覚えておこう。


 この場に居ない少女にも後で念じて伝える事は出来るし、聞き入れてくれるかは分からないけど、目的が一緒なら役には立つ情報の筈だ。


 それに有効的な攻撃手段も必要だよな。


 今後のクエストをこなす為にも、今以上に強い武器は必須だし、魔法特性があるミスリル製の装備とか、ダンジョン産の特殊な装飾品とかもいつか欲しいな。

 それに父の形見である”錆びた剣”を強化する為にも、いずれドラゴンを討伐する必要はありそうだし。


 装備の強化や作成にも強い魔石は必要みたいだけど、それこそあの宝物庫に保管されていた武具や魔石を自由に使えたら助かるんだけどなぁ……

 ドラゴンメイルはもちろんの事、あの変な喋る杖とかも厳重に保管されてたって事はそれ相応の性能なんだろうし。


 まああんな不気味な杖、アルマでも装備するのは嫌がりそうだけど。他にも指輪とかアクセサリーの類も幾つかあったから、どんな性能なのかは気になるな。


 むむ? よく見てみると魔王の手にも指輪が填められている様だ。

 それも両手の中指にそれぞれ1つずつ、何か特殊な効果がある装飾品かも?


「……」


 1つ閃いてしまったんだけど、どうしよう。


 画面の少女は居ないけど相談なしで試してみようかな、多分これくらいなら魔王も起きないとは思うし。

 今ならストレージから必要なものを取り出しても少女にもバレないよな?


 ピヨヒコは好奇心には勝てなかったので、思い付いた事を少女に内緒で実行してみる事にした。


 まずはストレージに入っていた”アレ”を取り出して……


 お、これか? よし、そしたら次は……


 ゴソゴソ……


 おお、成功したか? 唐突に閃いたから実行してみたけど何とかなるものだな。

 それなら”コレ”は取り敢えずストレージに収納するとして。


 うーん、それから”コッチ”はどうするかな……流石にこんな真似をしたら魔王に侵入した事がバレるよな? リスクもかなり大きいし、やっぱり止めとくか?


 でもいつか倒すべき相手なんだし、少しはここに来た”(あかし)”を残しておきたい。


 このアイテムが無くなったら後で少女にもバレそうだけど、まあいいか。

 いつも操られているんだし、それにこんな機会は二度と訪れないだろうしな。


 えっとそれなら、”コレ”を魔王に……

 む、何か仄かに光ったけどこれでいいのか?


 それで、うーん、後はさっきの宝箱が置いてあった近くにでも置いておくかな。

 流石に魔王の懐に仕込んでおく訳にもいかないし。


 ポイッ


 よし、取り敢えずこれでいいか。

 と言うかあの少女は何で置いてあった宝箱を諦めたんだ?


 どうするかな、俺が魔王城に侵入した事は今の行動で魔王にもバレるだろうし、宿敵である魔王タナトスに一泡吹かせられるなら、ついでに貰っておくか。


 ピヨヒコは意を決して”ストレージ”を発動した。

 そして”置いてあった宝箱”をまるごと亜空間に収納した。


 どのみち鍵はないから開けられないけど、少女も欲しがっていた様子だったし、ハンマーとか使えば箱だけ破壊したりする事も出来るんじゃないか?

 もし無事に此処から帰れたら、鍛冶屋のガラム親方にでも頼んでみるか。


 魔王の性格や気性が分からないから、こんな真似をして”逆鱗”に触れる可能性もあるけど、今まであのゲートを使って魔王軍が攻めて来てないなら、取り敢えずは

大丈夫だろ、いや、魔王にとって大切なものなら取り返しに来るかもだけど。

 

 まあその時はその時だ、今後の判断は少女に任せるとしよう。


「ふぅ、それにしても我ながら奇抜な事を思い付いたものだ……でも満足した」


 今まで画面の少女に操られて自分のしたい行動も出来なかったからな。

 普段なら思い付いても実行はしなかっただろうけど、記憶を失い訳も分からずに操られている現状にそれだけ鬱憤が溜まっていたのだろう。少し爽快な気分だ。


「よし、あとはこの魔王の指に嵌めてある指輪を外して……」


 ゴソゴソ……


 て、え、何やってるんだ俺は!?

 あ、それにこの勝手に身体が動く感覚は、もしかして!!


 背後の画面を見てみると、不敵な笑みを浮かべた少女がそこに居た。

 どうやらいつの間にかトイレから帰って来ていたようだ。


 それにまた何か新しいスキルを覚えた感覚がある。

 まさかこの指輪を盗む気か!? と言うかもしかして今の行動を見られてた?


     ◇


「ふっふっふっ……ふははははっ」


 まさかピヨヒコがここまで自由に行動するとは、流石に予想外だった。


 ゲートを使用する為にMPの自然回復を待ってたので、メニュー画面を開かずにそのまま放置して水分補給とトイレを済ませて来たけど、そしたら離席してる間もピヨヒコの”思考メッセージ”がそのままオートで勝手に流れてたから驚いたわ。


 メッセージのログは見返せないから、どんな事を考えてたか読めなかったけど、どうせろくでも無い事だろうし別にいいか。

 それに多分ピヨヒコは、思考スキルの特性を分かってないから、何かあれば後で念じて伝えて来るだろうし。てかいつまで発動してるんだよ。


 もしかして思考スキルを使っているのを忘れてるのか?

 主人公の特殊な専用スキルみたいでプレイヤーから解除が出来ないんだけど。


 とにかくそれで帰ってきたら何か面白い事をしてたので、そのまま黙って様子を観ていたのだが、私でも思い付かない様な行動をしてたので素直に関心した。


 他のゲームでも見た事はあるし、確かに有り得ない事ではないけど、その発想は私には無かったな。しかもメニュー画面から確認すると本当に成功してたし。

 まあオマケ的な要素だとは思うけど、現状だと使い道があるとは思えないし。


 でも律儀な事にちゃんと手順を踏んでいたから、あの会話を考えるならもしかしたらいつか有効的に使える機会があるのかも?


 それに設置されてた宝箱もだけど、普通のゲームの感覚だと鍵が掛かってる場合そのまま宝箱ごと持っていけるなんて発想ないからピヨヒコの行動に戸惑ったわ。


 メニュー画面からストレージは一応は使えるけど、こんな応用も出来るの?

 普通に魔物を倒したりアイテムを入手した時は勝手に収納されるから気に留めてなかったけど、任意のタイミングでも使えるなら他にも活用方法がありそうだな。

 

 まあ正直かなり危険を伴う行動だけど、主人公が自ら決めて選んだ選択なら私もそれを尊重しよう、と言うかそっちの方がぶっちゃけ面白いし。


 あーもう、セーブしちゃうか、ここまで来てまたやり直すなんて面倒だし。

 ピヨヒコの記憶が継続されるなら繰り返して同じ事が起きるとは限らないよね?


 それに私もしてみたい行動があったから試したいんだけど、もし魔王が起きたらヤバいから遠慮してたのに、ピヨヒコがそれ以上に危険な行為をしてるんだから、別に構わないよね?


 という訳で、なけなしの職業ポイントを使って盗賊の真髄とも言える【窃盗】のスキルを取得した。もちろん狙うのは魔王の指に嵌まっている指輪だ。


 とは言え確率は低いんだよな。盗賊の熟練度が低いからなのか、確認してみると寝ている魔王に対して成功確率は8%しかない。


 でも何か絶妙に期待は出来そうな数値だよな。これが3%とかなら諦めるけど。

 ここで”セーブ&リトライ”する、最終手段もあるけど、どうしよう。


 ギャンブル性は削がれるけど、安全に盗めるなら全然ありだよね?

 既に下の階でも”リセット戦法”は何度か使っちゃったし。


 これでもしセーブして詰むような展開にでもなったら、萎えてそのままゲームを辞める可能性もあるけど、その時はその時だ。


「あれ、何これ!?」


 そう考えてセーブしようとしたのだが異変が起きた。

 何故かセーブが出来ないのだ。選択してもブブー、とか鳴って拒否された。


 え、もしかして魔王城だとセーブ出来ない仕様なの?

 それとも製作者がリセット戦法を見越して窃盗スキルの対策されてるとか!? 


 いや寧ろリセット対策するなら、窃盗スキルを使用したらオートセーブされる方が厄介な気もするけど、とにかくこの場所ではセーブは出来ないようだ。


「……まあそれならそれで別に構わないけどね」


 ここまで来て諦めるのも嫌なので、もちろん構わず盗むを実行した。


 私のガチャ運を舐めるなぁ!!


     ◇


 グイグイ……スポンッ


「あ、手が滑った、失敗だな」

《ああん、もう、なんでよぉ!!》


 ゴゴゴォ……ヴ〜ン……


「あ、ヤバい魔王が起きる!?」

《にゃ!?》


 グゴゴゴ、ゴゴゴォ……グゴゴゴゴォォ……


 どうやら大丈夫なようだ、そのまま寝てるな。


《……ほっ》


 それにしてもやっぱりこの少女は常識知らずだな、次はどうするつもりだ?

 まさかまだ指輪を狙って窃盗のスキルを実行するつもりなのか?


《うーん、盗むの仕様なのか合間を空けないと同じ箇所から連続で盗めないみたいだけど、てかまた常識知らずとか失礼な事を言ってるし、何かムカつく!!》


 あ、もう片方の手に嵌まっている指輪を狙ってるな。

 抵抗しようとしても勝手に身体が動くし。

 よし、こうなったら俺もこの指輪の性能は気になるし本気で盗むぞ!!


 それに魔王の戦力を少しでも削げるなら本望だ!!


 グイグイ……スポンッ!


「やったか!?」

《おい、止めろ、フラグを立てるな、その台詞は危険だ!》


 しかし丁度そんなタイミングで2人とも予想もしてなかった異変が起きた。


 ピッカァァ……!!


 突然ピヨヒコの手の甲が眩い光を帯びて輝き出した。


「うわっ、何だ? 何が起きた!?」

《え、何コレ!?》


 あ、もしかしてブックルか!? え、こんな深夜に何かあったのか!?


「ウォ、まぶし……」

「あ、ヤバい、今の光で魔王が起きた!?」


「ヴゥ、誰だ? 我の眠りを妨げる者は? 我の命を狙う逆賊か? 許さん!! ムニャムニャ……」

「え、逆賊? もしかして寝惚けてるのか!?」


 光は程なくして収まった。しかしこれ以上ないくらい最悪のタイミングだった。

 ブックルに何が起きたのか気にはなるが、今はそれどころじゃない。


 ジャン、ジャジャジャン、ジャララーン♪♫♩♬


 それと同時に何処からか荘厳なオーケストラのような曲が流れ出す。

 これは、戦闘開始の合図か? いや、と言うか何だこの演奏は!?


 え、嘘だろ!? まさかあの吟遊詩人もこの場に居るのか!!?


 こうして勇者ピヨヒコと、魔王タナトスの決戦の火蓋が切られた。


バグ(誤字脱字)取りついでに内容を少し修正しました。

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