第44話 王城攻略戦・4F
「盗み聞きとはあまり感心しませんねぇ……勇者様」
少女に操られるまま三階で聞き耳をしていたら背後から突然声を掛けられた。
振り向くとそこには吟遊詩人の格好をした胡散臭い男が立っていた。
しかも気配察知のスキルを使っていた筈なのに、声を掛けられるまで全く気配を感じなかったんだけど、何者だこの男!?
男の素性は分からないが、取り敢えず言い逃れは出来ない状況だ。
それに目的が分からない、何でこのタイミングで現れた?
まさか邪魔でもしに来たのか? よし、こうなったら徹底的に誤魔化そう。
「しかし随分と大胆な行動をするものですね、客人として夕食やお風呂に客室まで用意して貰ったのに、恩を仇で返すとはまさにこの事、流石の私もビックリです」
「……?」
ピヨヒコは男の言葉に眉を顰め、怪訝な表情を浮かべる。
この男は何でそんな事まで知ってるんだ? 一体コイツは何者だ?
と言うかあまり大声を出すなよ。部屋に居る王族に気付かれたらどうすんだ!
「え、あれ? もしかして私が誰か分かってない!?」
「……、誰だお前?」
「えぇ、それはないでしょう? 本当に私の事が分からないんですか!? いくら私の固有スキル”隠れる”が、姿と同時にその存在感すら認識されなくなり、更には気配隠蔽のスキルまで備わっているとは言え、ほんの数時間前まで一緒に行動してたではないですか? 忘れちゃったんですか?」
「気配隠蔽?」
「おや、ご存じない? 元々はダンジョンの探索などで気配を消して、強い魔物との戦闘を避けたりするのに活用する隠密系のスキルなのですが、相手の気配察知から逃れる事も出来るんですよ、これが隠れて行動するには中々便利でしてね」
なるほど、それで俺の気配察知のスキルを掻い潜ってたのか、厄介だな。
「それで俺に何の用だ? それにその怪しい格好、お城の衛兵ではないよな?」
「いや、ですから誤魔化すのは止めましょうよ、これでも一応仲間でしょ!?」
「は? 仲間?」
この男は何を言ってるんだ? お前なんて知らんわ、仲間の訳ないだろう!!
「いやいや、本当に私の事を忘れちゃったんですか? 酷くないです!? 貴方の友人、吟遊詩人のベオルフですよ〜、ボロロン♪♬」
「あーもう、五月蝿いな、あまり大声で騒ぐなよ! それにこんな深夜にハーブを奏でるな、それと誰が友人だ、勝手に人の事を付け回すストーカー野郎の知り合いなんて俺には居ないわ!」
ピヨヒコはなるべく声量を抑えながら目の前の男に怒鳴った。
「なんだ、やっぱり私が誰か分かってるんじゃないですか」
「それで何しに出てきた? と言うか帰ったんじゃなかったのか? 何でお風呂の事まで知ってるんだよ? まさかあの後もずっと隠れて覗き見してたのか!?」
「ちょっと野暮用で一時的に離脱してましたけど、帰って来てみたら何か面白そうな事をしてるじゃないですか、それで気になったので付いてきた次第です」
「何が面白そうだよ、そうだとしても出てくんな、さっさと消えろ!!」
「なんて辛辣なお言葉、ここまで率直に罵倒されると寧ろ清々しいくらいですね」
「……ハァ」
やっぱりコイツは苦手だな、うーん、どうしよう。タイミング的に明らかに俺の妨害をして来たっぽいけど、もしかしてこの吟遊詩人は王族側の人間なのか?
そう言えば何かレティシアの会話でも知り合いっぽい感じの台詞を言ってたな。
密告でもされたら面倒だけど、コイツ自身も不法侵入の不審者にしか見えないから俺としてはこのまま徹底的に無視するのが無難な気もするけど。
……取り敢えずどうするか画面の少女に判断を仰いでみるか、むむむ。
少し合間を置いて、結論が出たのか身体が動き出す。
そしてピヨヒコは再び王様の寝室に聞き耳を立てた。
「え!? ちょっと勇者様!? 私の事は無視ですか? まさかそのまま聞き耳を再開するとは、流石に予想外ですよ!?」
「……」
部屋の中では2人の会話がそのまま続いてるようだ、どうやらドアに聞き耳でもしない限りは廊下の声が聞かれる事はなさそうだ。
まあ王族の寝室なんだし、ある程度は防音仕様だとは思ってはいたけど。
耳を澄ませると王様の声が聞こえる。相手はまた聞き手に回ってるようだ。
それにこの内容……え、何か風呂場での俺の覗き行為の話をしてるんだけど? しかも楽しそうに、流石は自慢の孫じゃろう? 若者は活力が溢れてて良いのう、とか言ってるんだけど!?
相手は困惑してるようだけど、と言うか何でこの王様がその事を知ってるんだ?
何処かで風呂場の様子を見ていたのだろうか……
あ、そうか、あの大浴場は天井が吹き抜けになってたし、間取り的には丁度この角部屋からなら風呂場の様子を覗けるのかも? 大浴場の窓から城下町を見下ろせた様に三階のこの高さなら、逆に風呂場を見下ろせるのか?
まさか女湯の方も!? もしそうなら覗き魔かこの変態ジジイは!?
人の事はあまり言えないが、いくらこの国の王様でも許されないぞ!!
あ、でも大浴場はお城からそこそこ離れてたし、位置的には右側が男湯で中央はタイル壁で隔ててあるから、奥の女湯の方はハッキリとは見えないかも?
それでも手桶のピラミッドの話まで聞こえてきたので、俺の覗き行為はバッチリ見られていたようだ。何てこった、ズズズーン……
いや、そもそも何でこのタイミングでこんな意味のない会話をしてるんだよ?
しかも自身の覗き行為すらカミングアウトしてるし、馬鹿なのかコイツは!?
「勇者様、勇者様」
「……」
無視していたら再び吟遊詩人が話しかけてきた。
「もしもーし、聞いてくださいよ、このままだと拙いですよ」
「……」
「いや、本当にヤバいんですってば」
「あー、もう、何だよ一体!?」
しつこく邪魔してくる吟遊詩人に苛立ちを覚え、聞き返す事にした。
「気配察知で確認すると分かりますが、誰か移動してドアに向かってますよ」
「え、何だって!?」
うわぁ、本当だ、聞き耳に集中していて気が付かなかったけど隣の部屋から気配が1つドアの直ぐ手前まで迫ってる。
今からでも四階の階段に向かう廊下の曲がり角まで移動すれば隠れられるか!?
いや、ダメだ、間に合わない!!
「それじゃ勇者様、見つかると私も共犯になるのでこれで消えますね、お達者で」
「あ、ちょっと待て、1人だけ逃げるなんて狡いぞ、ガシッ!!」
ガチャ。
それと同時にドアが開かれた。
隣の部屋から出て来たのはアルマだ。
おそらくグラウスとの会話を終えて、自分の部屋に戻る為に出て来たのだ。
逃げ遅れたピヨヒコはアルマと視線が合う。バレてしまった!
「……?」
しかし、何故かアルマの方は無反応だ。
明らかにこちらを見てるのに、まるで視えてないかの様に何も言ってこない。
それともあまりに予想外の出来事に混乱して硬直してるのか!?
ドクン、ドクン……
深夜の静寂に心臓の鼓動すら煩く感じる。
「……どうしたアルマ?」
「あ、いえ、何か誰かの声が聞こえた気がしたのですが……気のせいみたいです」
立ち止まってるアルマに違和感を感じたのかグラウスまで出て来た。
しかし何故かグラウスもこちらを見ても無反応だ。
それに寝巻きのパジャマ姿なんだけど、正直あまり似合ってないな。
アルマの方はいつも着ているリネン素材のロングのワンピースだ。
それにしてもこれはどう言う事だ?
いくら深夜でもこの三階は天井に灯りも点いてるし、視界が狭い衛兵って訳でもないから、この距離で見えないなんて事ある訳ないと思うのだが?
つまりこれは……いや、やり過ごせるなら助かる。今は取り敢えず動かずに息を潜めて様子を見よう。
ガチャ。
「ふむ、何かあったのかね?」
「ビクゥ!!」
「ふぇ、あ、マルクス様……と、シルビアさん!?」
「……っ」
ヤバい、何か異変を感じ取ったのか更に奥の部屋のマルクスまで出て来た。
その背後にはネグリジェ姿のシルビアも居る。髪が乱れて少し色っぽいのだが、アルマとグラウスが居る事に気が付いて、慌てている様子だ。
と言うか何だそのネグリジェ、色々と透けてるしめっちゃエロいんだけど!?
マルクスの方はガウンを着ているが、何か妙に似合ってはいるな。
アルマは相当気まずいのか赤面してアワアワしている。
「おや、これは兄上殿、何かありましたかな?」
「……いや、アルマから近況報告を聞いていたのだが、終わったから見送りに出てきただけだ、それよりもお前の方こそこんな時間にどうした?」
「何やら廊下が騒がしかったので、様子を見に来たのですが……ふむ」
そう言うとマルクスはコチラに向かって歩き周囲をキョロキョロと見渡す。
ぶっちゃけ目の前に居るのだが、どうやらマルクスにも俺が視えてないようだ。
「鼠が紛れ込んでいたと思ったんだが、どうやらもう引き返したようだね」
「……そうなのか?」
「いや、悪意は感じなかったから、ちょっとした興味本位での行動だと思うがね、特に異常が無いならもう遅いし僕等は部屋に戻るとするよ」
「……わかった、なら俺もそうするとしよう、鼠に関してはお前の判断に任せる」
「承知しました兄上殿」
「え、ネズミ??」
拙いな、これはマルクスに聞き耳をしてたのがバレてるな。おそらくマルクスも気配察知のスキルを使ったんだろう。
隠蔽のスキルは俺は覚えていなかったから、廊下の気配が筒抜けだったか。
アルマは何の話をしてるのか分からないようでオロオロしてるけど、グラウスが落ち着かせて一階の客室に戻って寝るように促した。
アルマもそれに従い、挨拶を済ませてから一階の部屋に戻った。
そしてグラウスも自分の部屋に戻り、マルクス達も部屋に引き返した。その際にマルクスがこちらを向いたので、全てを見透かしている様にも感じて緊張した。
「……ハァ、危なかった」
再び訪れる深夜の静寂にピヨヒコは安堵した。
聞き耳に関してはマルクスにバレていたみたいだが、どうにかこの場で見つからずには済んだな。少なくともアルマにはバレなかったし。
まあ後で咎められる可能性はあるけど、姿は見られてない筈だから誤魔化そう。
それに今の感じだとそこまで怒ってはいない感じだし、漁り行為に対しても寛容だったから何気に融通が効いて理解はある男なんだよな、思考が柔軟と言うか。
まあ放置して、こちらの反応とかを見て楽しんでいるだけかもしれないが……
「……あのぉ、勇者様? そろそろ手を離して下さいませんかね?」
その場で立ち尽くしていると、隣に居る吟遊詩人の男がそんな事を言った。
そう、確実に見られていたのに何故この場を切り抜けられたかと言うと、それはもちろんこの胡散臭い男の能力のお陰だ。慌てていて逃げられる直前に、ガシッ、と腕に掴み掛かったのだが、偶然にもそれが功を奏した。
「……念の為マルクスの部屋から少し離れてからその固有スキルを解除してくれ」
気配察知のスキルは、俺の感覚的には半径8メートルくらいが限界なのだが、熟練度によってはそれ以上の範囲を索敵出来るかもしれない。
と言うか相手が解除したかどうかの判断が出来ないから、まだ油断は出来ない。
「いや、もう大丈夫ですよ、マルクスさん既に気配察知は解除してるようですし」
「は? その能力は相手が気配察知を使ってるかどうかまで分かるのか?」
「えっとですね、この固有スキルが発動してる間は感知系のスキルに反応すると、何となくですが感覚的に分かるんですよ、便利でしょ?」
「いや、便利だけど、その”隠れる”って固有スキル万能過ぎないか? 何処にでも侵入出来るし、やろうと思えば背後から近付いて暗殺とかも出来るんじゃ?」
「一応制約はあるのでそれは難しいですね、隠れてる最中は攻撃出来ないですし」
「え、そうなのか?」
「この固有スキルはあくまでも身を隠す能力なので、それにしてもよくこのスキルの特性に気が付きましたねぇ」
「ああ、掴み掛かったのは偶然だけど途中から確信した、この”隠れる”のスキルは触れている”相手”にも使用者と同じ効果が発動するんだよな?」
思い返すと例の”串焼き窃盗事件”の時にも既にそんな違和感は感じていた。
あの場にはアルマやマルクス、秘書のシルビアも居て目撃していたにも関わらず俺の持ってた串肉は忽然と”消失”したかのように消えたのだ。
つまりはこの吟遊詩人のベオルフが掴んだモノ、もしくは触れているモノにも、その効果が発揮されると言う事だ。
「ええ、正解ですよ、私としてはこの場に1人残された勇者様が王族に見つかり、どんな処罰を受けるのか曲にしてみたかったのですが、残念ながら掴まれてしまいました」
「もしそんな事になってたら俺はお前の存在を全力でバラしてたけどな、スキルの特性はアルマも知ってる筈だし、そうなればお前はこの国のお尋ね者だな!」
「確かに、そんな事をされていたら危険視されて指名手配されていたかもですね、一応信用してこの能力を披露したのですが、迂闊でしたかね」
「信用されたいなら、まずはそのストーカー行為を止めろよ、コソコソ隠れて覗き見してる奴を信用なんて出来るか!」
「それは無理ですねぇ、私の与えられた使命にも関わる事なので、それよりもいい加減に手を離して下さいよ、もしかして私の事が好きなんですか?」
「ぐぬぬ……」
取り敢えずもう大丈夫そうなので、ピヨヒコは吟遊詩人から手を離した。
それに信用は出来ないがこの男のお陰で助かったのも事実だしな。
もしコイツが現れなかったら聞き耳に集中していて、部屋から出てきたアルマと鉢合わせしていた可能性もあったと思うし。
だが感謝はしない、ストーカー行為を止めない限りはこの男は俺の敵だ!!
「あ、そうだ、お前、俺の串肉を勝手に取っただろう!」
「!!」
「それにネムもお腹を空かせていたし、ちゃんとご飯を食べさせているのか? て、あれ? 吟遊詩人の奴は何処に行った!? さっきまで居たのに!?」
目の前に居たはずの男はいつの間か忽然と姿を消していた。
「おのれ、また逃げられたか、何処だ、出てこい卑怯者!!」
『怒られるから嫌ですよ、私ももう寝るのでこの辺でお暇しますね……では」
そんな捨て台詞が聞こえて来た。しかし気配察知には反応がない。
あ、分かった、さてはそのまま”隠れる”のスキルを持続してたな?
俺が手を離したから、その瞬間に奴を認識出来なくなったのかも!?
「ハァ……」
1人残されたピヨヒコは深い溜息を吐くのだが、目障りな相手が視界から消えて安堵した。しかし余韻を感じる間もなく再び身体は勝手に動き出す。
……そうだった、目障りとも言える相手は背後にもう1人居たんだった。
しかもどうするつもりかと思ったらまたもや王様の部屋に聞き耳を始めたし。
またかよ! そう思いつつも気になる内容ではあったので渋々それに従う。
「……」
しかし部屋から話し声は何も聞こえてこない。
今の騒動に気が付かずにもう寝た可能性もあるけど、どうやらこれ以上は有益な情報を聞き出せないようだ。
と言うか相手の女性もこの部屋で一緒に寝るのか? 何か愛人関係とかではなく客人とか取引相手っぽい感じだったけど、おそらくは魔王軍の関係者だよな?
《うーん、流石に何度もは聞けないか、それなら後は……》
画面の少女も諦めたようだが、やっと情報収集も終わりだ。後は部屋に戻るだけなのだが、でもこのまま下の階に降りたら例の衛兵に見つかるんじゃないか?
しかも上階から降りたら、変装してたとしても、確実に疑われて捕まるよな。
失敗したな……あの吟遊詩人の能力に便乗すればバレずに部屋まで戻れたのに、まんまと捕り逃してしまった。いや、もしかしたらまだその辺に居るのかも?
「おーい、えっと確か、ベオルフだっけ? 居るかー?」
忘れていた名前を思い出し、呼び掛けてみるも返事はない。どうやら本当に既にこの場には居ないようだ。
と言うか奴は何処で寝るつもりなんだ? まああの能力があればお城の出入りも容易いだろうし、今からギルドの宿屋まで戻るのかもしれないけど。
後は俺も部屋に引き返すだけなのだが、この画面の少女はどうするつもりだ?
何となく予想はつくけど、背後を見てみると少女は何やら深く考えてる様子だ。
これまでの聞き耳で得た情報とかを整理してるのかもしれない。
俺も人の事は言えないけど、この少女も一度考え出すと結構長いんだよな。
適当に操られるよりも色々と考えてくれる方が助かるけど、その間は放置される事も多いから、俺も何かしら思考してる事が多くなってるな。
本当は深く考えず、実力に任せてクエストに挑んでみたい気持ちもあるんだが。
そんな事を考えていたら再び身体が動き出した。
「……あ、でもやっぱりそっちに向かうのか」
そして身体が向かった先は予想していた通り”四階”に上がる階段だった。
そりゃ此処まで来たなら俺も気にはなるけどさ、ちょっとは遠慮しようよ?
◇
うーん、何か思った以上に面白い情報が色々と聞けたな……
裏設定的なのが多かったけど、でもこの聞き耳イベントを逃してたら今後の展開や行動の指針も変わってたかもしれないな。
取り敢えず気になったのは土の魔石の行方かな。予想は外れたけどオークションに出品されないなら無理して資金を集める必要はなさそうだけど、盗賊団が悪巧みしてるとかの話もあったから、建国祭イベントで何か一波乱ある感じかも?
それと人間関係も色々と分かったけど、アルマとグラウスは親子だったか。
何となく予想はしてたけど、マルクスの方は全く想像もしてなかったな。
リセットした”添い寝イベント”では、ピヨヒコへの恋心も露わにはなったけど、こっちのイベントを進めるとどんな展開になるんだろう? 血縁者同士の恋愛って割とタブーな感じだし、ジャンル的にも扱うのは難しそうな印象だけど。
あ、でも確か、親戚同士だとしても一応結婚は出来るんだっけ?
まあゲーム中にそこまで進展しないとは思うけど。それにピヨヒコもあまり恋愛には乗り気じゃないみたいだし、アルマが実は従姉弟だと分かったなら、恋愛対象にはならないのかな? 禁断の愛って感じで個人的には応援したいけど……
それとリセットしちゃったけど、本当に記憶が継続されてるなら、もしかしたらアルマやメアリーにも何かしら添い寝イベントの影響があるのかも?
普通のゲームの基準で考えたらリセットして展開が変わるとかあり得ないけど、このゲームは普通じゃないから今後の展開が全く予想できない。
でも記憶の継続は主人公だけの特殊能力って可能性もありそうだけどな。
ループものだと大体そんな感じだし。
それとやっぱり気になったのは、あの覗き魔の王様の会話だよな……
何かネタバレを含む内容だったけど、これってもしかしてこの世界がゲームだと言う前提で、それをこの世界の人達には隠しながら話が進んでるのかな?
シナリオの修正とか意味深な発言もあったけど、このゲームの世界を管理してる神様的な存在が居て、勇者と魔王の闘いを見届けながら、要所で介入してる感じ?
それなら”天啓の楔”や”使命”の正体も、ゲームの要素としては理解は出来るし。
つまりこのRPGの登場人物には其々に与えられた役割があって、それが天啓の楔による強制力になってる感じか。
ピヨヒコやアルマもその与えられた”使命感”に従って行動してるみたいだし。
それに会話の内容的には魔王にも天啓による使命が与えられてるみたいだな。
この世界と使命に対して理解があるから助かってる、とか聞こえて来たし……
うーん、面白い設定だけど、と言う事は魔王の使命はこの世界の支配者ってのは表向きな目的で、ゲームのラスボスとして君臨する事が本当の使命になるのか?
いや、神様的な存在が居るとしてゲームのクリアが真の目的なら、もしかしたら最終的には勇者に倒されるまでが使命なのかも? 何か当たってる気がする。
もしそうなら魔王も主人公に負けず劣らず不憫な境遇ではあるよな……
それにしても四天魔族の1人を王様が後妻にしたってどんな奇抜な設定だよ。
本来のシナリオは裏で暗躍してるところを、真実を映す鏡とかで正体を見破ってから戦う流れだったとか? どっかで見たことある展開だけどありそうだな。
それに水の魔石を引き継いだとかも言ってたから、既に別の水の四天魔族が居る感じかな……と言う事は、王妃や息子の正体を暴いて戦う展開にはならないのか?
それに過去にベリアルの襲撃があった時には王国側として支援してたようだし、立場的には一応ピヨヒコの義理の祖母ではあるから、味方と考えても良いのかも?
でも元々は敵側なら場合によっては裏切る可能性も普通にありそうだし、王妃とその息子の第三王子、それに傍観者とか本人は言ってたけど、あの王様に対しては念の為に警戒はしておくか。
多分ピヨヒコも本当に思考してるなら、その辺は理解しているとは思うけど。
と言うかあの情報って、ゲーム的にあの場で露見して良かったの? ピヨヒコの存在に王様が気が付いてなかったとしても、あの発言はちょっと迂闊すぎない?
謎の女性の存在とか、王妃様や第三王子の正体まで明らかになった感じだし。
まあリセット込みだったとは言え、実質ノーミスで三階まで侵入する事が出来たから、そのご褒美的な情報だったのかもしれないけど。
それに元々予定していたシナリオが既に修正されてるなら、王妃様や第三王子は本来の役割から既に外されて、本筋のストーリーにはそこまで深く関わって来ない可能性もありそうだし、まあそれ以前に、あの吟遊詩人もかなり怪しいけどな。
それに何か他にも気になる発言はしてたけど、今後の展開に関わる感じかな?
メタ読みだから違うかもだけど、それにこのゲームはあまり深く考えないで遊んだ方が個人的には楽しめそうなんだけど。
主人公に対してもだけど、本当に自我がある”生きている人間”として捉えちゃうと気分的にもしんどくはなりそうだし……
まさか鬱展開とか用意されてないよね? アルマが悲劇のヒロインとして誰かに殺される展開とかにでもなったら許さないよ?
取り敢えずあまり固執しないで今くらいの距離感で主人公と接して、あくまでも”ゲーム”として楽しむように心掛けよう。
そんな事を考えながら、お城の”四階”に上がった。
そのまま二階に降りて、あの衛兵に見つかっても流石にゲームオーバーにはならないとは思うけど、せっかくだからこの機会に四階も探索しちゃおう。
もしかしたら隠し通路とかあって、バレずに一階に降りれるかもしれないし。
それに噂の宝物庫も四階にあるなら、形見のドラゴンメイルとか、他にもスゴいお宝を盗めるかもしれないし?
まあ鍵開けスキルは使えない状況だから確認する程度だけどね。
王城を攻略して、満足な結果に浮かれていた桜子は、この先あんな展開になるとはこの時は予想もしていなかった。
◇
ゴゴゴゴゴ……
周囲には暗闇が広がってる。
そして目の前には威圧感を放つ異様な存在が居る。
気配察知のスキルが、この存在の圧倒的な強さをヒシヒシと伝えてくる。
ピヨヒコは予期せぬ展開に困惑し、恐怖していた。
ちょっと待て、何でこんな事になった!?
ヤバい、身体が竦む、今の俺では絶対に勝てない。
このままだと殺される!!
ブオォォン!!
そして迫り来る衝撃。
ピヨヒコは走馬灯の如く、どうしてこんな事態になったかを思い返した。
◆
少女の意向で四階に上がったけど、この階層も天井に灯りが点いていて明るい。
ドアを数えると部屋は全部で5つあるようだ。まあ二階の部屋ですら全て施錠されていたくらいだし中には入れないとは思うけど。
それに気配察知のスキルにも反応はないから、室内には誰も居ないようだ。
要所で何度か気配察知のスキルを使っているのだが、継続して使うとそれなりに気力を使うようで、そこそこ疲労感が溜まって来てるんだが。
誰も居ないなら解除しても問題ないかな……
背後の少女にも念じてそう訴えたら理解してくれたのかスキルが解除された。
丁寧にこちらの意図を伝えれば、聞き入れてくれるなら助かるんだけど、普通に無視される事も多いんだよな、要はこの少女の気分次第なのだ。
まあストレージが使えたなら他のスキルも自力で使えそうだけど、勝手な真似をして見つかると後が面倒そうなので、なるべく判断を促すようにはしよう。
無理に抵抗しても操られている以上は少女の方にアドバンテージがあるしな。
ガチャガチャ……
まあそうだよな、近くの部屋のドアを調べてみたがやっぱり鍵が掛かってる。
そして更に別の扉に移動する。他の部屋もさも当然のように開けようとする辺りこの少女の往生際の悪さが垣間見えるけど、いや、もう諦めろよ!
ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャリ、キィィ……
「うわ、マジか!?」
最後に一際厳重そうな扉を調べてみたのだが、何とそのまま開いた。
これはもしかしてあれか? マルクスが”記憶の雫”の有無を確認した際に施錠し忘れたのか? いや、いくらなんでも不用心過ぎない!?
背後の少女を見てみると、まあ、流れ的に入れるでしょ、とでも言わんばかりの顔をしながら何の躊躇もなく部屋に侵入した。いや、少しは躊躇えよ!
中に入ると室内は薄暗いのだが、予想していた通り”宝物庫”のようだ。
思ったよりもかなり広めの部屋だ。金庫みたいなのを想像してたけど、どちらかと言えば”展示室”っぽい雰囲気だな。
それに見た感じ、この部屋の奥にももう1つ部屋があるみたいだ。
暗くても暗視のスキルで中の様子は分かるけど、硝子のショーケースが立ち並び貴重な宝石類やアクセサリーのようなものも展示されている。
武器や防具の類もあるが、これらも全て硝子のケースで保管されているようだ。
流石にケースにも鍵は掛かっているようだが、万が一にでもこの硝子が割れたら侵入したのが確実にバレるだろう。
それにもしかしたら魔法とかで割れない様に強化されている可能性もありそうだけど、どっちにしろ下手にケースに手を触れない方が良さそうだ。
画面の少女にも漁り行為は絶対にしないように強く念押しをしておこう……
しかし身体は操られるままに硝子のケースに掴み掛かる。
ガシャ、ガシャガシャ!
「おいぃ!? 何で念押しした直後にショーケースを開けようとしてるんだよ!」
《チッ、やっぱり鍵開け出来ないと盗れないか》
どうやらケースが開くかどうか試しただけのようだが油断も隙もない。
完全に不法侵入だから、こんな場面を誰かに見られでもしたら言い逃れも出来ずに確実に牢屋にぶち込まれるとは思うが、念じて引き返すように訴えても、どうせこの少女は聞き入れてはくれないだろう。
見て廻るだけなら証拠も残らないし、バレなきゃ平気だとは思うが……
もし本当に何か盗もうとしたら、俺もストレージを駆使して全力で抵抗しよう。
流石にこの少女も三階に侵入したのがマルクスにバレてそうなこの状況で、ここの展示物を盗んだりはしないと思うが、常識が足りてないから心配だ。
しかし圧巻だな。王国の宝物庫なだけあり、見た事もないような綺麗な宝石や、魔石と思われる大きな結晶まで並んでいる。
他にもダンジョン産と思われる、用途がよく分からないアイテムも数多くあるのだが、ポーションのような瓶も何本か並んで置いてある。
盗み聞きした内容によると、結局は使用されてなかったと言っていたから、この中のどれかが”記憶の雫”の可能性もありそうだ。
まあ素人目だとどれも同じには見えるのだが。
「……これが、ジークフルドが使ってたドラゴンメイルか?」
慎重に宝物庫を見て廻ると俺の目的でもあった父の形見の【ドラゴンメイル】と思わしき黒い竜鱗の鎧も展示されていた。他にも鎧や防具の類はいくつかあるが、存在感が段違いだ。見た目的にも多分これで間違いなさそうだ。
それにその隣には”純白のドレス”が展示されているのだが、こちらも何かスゴい存在感を放っている。綺麗な刺繍も施されていて思わず目が奪われる。
ドラゴンメイルと並べても見劣りしないし、何か特別な装備なのかもしれない。
「はぁ、しかし凄いなこの鎧、黒くてめっちゃカッコいいし、欲しいなぁ……」
ガシャ、ガシャガシャガシャ!
《あ、ちょっと!? 馬鹿、止めろピヨヒコ!》
「はっ!?」
危なかった。どうやらまた操られるままにケースを揺さぶっていたようだ。
背後の少女の声で正気に戻ったピヨヒコは、自身の行いを操られたせいにした。
しかしお城の宝物庫だけあって魅力的な場所だな。俺自身そこまで物欲はないとは思っていたけど、こうも強そうな武具を前にすると欲求が擽られると言うか……己の抑えていた欲望が姿を露わにして、ガラスケースを叩き割って手当たり次第にストレージに収納して持っていきたい衝動に駆られるな。
『力を求める者よ、ナラバ我が力を授けよう、我を求めよ』
ザワザワ……
なんだ? 何か脳内に直接、呼び掛ける声が聞こえた気がする!? 周囲に気配は感じなかった筈だが、しかし明らかに俺の事を認識して呼び掛ける声がする!
『我は此処だ、力を欲する者よ、我を求めよ』
まただ、何かこっちの方から聞こえた気がする。
ピヨヒコは声の主に導かれるままにフラフラと歩き出した。そしてたどり着いた先には黒い暗幕が掛けられている、硝子のショーケースがあった。
好奇心からその暗幕を取り払い中を確認すると、そこには一本の杖があった。
先端が太陽を模してるような造形で、更には目玉が付いている不気味な杖だ。
「……何だこれ? 杖か?」
『ソウダ、我を欲する者よ、力が欲しいなら我を此処から出すのだ』
何言ってんだコイツ? と言うかこの杖が脳内に話し掛けてるのか?
ピヨヒコは杖だと分かった途端に興味を失い、正気を取り戻した。
『お、何だその怪訝そうな顔は!? 我が力が必要じゃないのか? 嗚呼、ちょっとぉ、なんで暗幕を元に戻そうとしてるのだぁ!?』
バサッ……
ふぅ、時間の無駄だったな、せめて剣とかなら興味を持ったんだけど。
『ぉ~ぃ、無視するでなぃ、我は偉大な魔導師ソーマの……』
まだ何か言ってるよ、耳を塞いでも何故か聞こえるし鬱陶しいな。
ヨイショ、ヨイショ……
『ぁ、コラ、その暗幕で我をそんなにピシッと包むんじゃにゃぃ……』
よし、声も聞こえなくなったしこれで安心だな。
ピヨヒコは暗幕で杖の入ったショーケースを丁寧に包装した。
それにしてもこんな不思議な杖まであるんだな。この杖の事は流石にマルクスも周知してるだろうし、何か特別な武器とかなのだろうか? もしかしてブックルと同じ感じの”魂”が宿った特殊な魔道具って奴か?
しかも何か可愛らしい女の声だったんだけど、性別とかもやっぱりあるのかな。
夕食の時は確か太古の魔剣の話をしていたけど、実はこの宝物庫にも似たような魔道具があったって事になるのか? でもあの時はこの杖の話をしなかったから、マルクスが意図的に存在を隠してるのかも?
それにあの暗幕で”封印”されてた感じだったから、実は呪われた杖とか、世にも珍しい喋る杖の魔物とかの可能性もありそうだ。
どのみち勝手に持ち出す訳にもいかないし無視するしかないけどな、何か不気味な形状だったし敵意があるかもしれないから、正直あまり関わりたくないな。
本来なら情報収集の為に会話を試みるのもありだけど、マルクスの所有物なら、後で報告される可能性もあるので、やっぱり無視するのが良さそうだ。
怪訝な表情とか言ってたからあの不気味な目玉で見られてた可能性はあるけど、直ぐに暗幕を掛けたし、多分大丈夫だろう。もし後で咎められたらすっ惚けよう。
画面の少女にも一応その事を念押しして、あの杖には関わらない様に促した。
少女も面倒な事になると思ったのか、頷いてそれを承諾してくれた。
うーん、取り敢えず手前の部屋は見廻ったけど、後はどうするつもりだろう? 戻るにしてもやっぱりあの衛兵に見つかる覚悟で二階に降りるしかないのかな?
そんな事を考えていたけど、やはり奥の部屋も確認するようだ。まあ当然だな。
部屋と部屋の間にはロープパーティションが設置されて仕切られているのだが、こんなのちょっと乗り越えれば普通に通れるんだけど?
もしかして立ち入り禁止の処置とかなのかな? でも既に不法侵入してる状況だし少し見学するだけなら多分大丈夫だよな?
ピヨヒコは少女に操られるまま、仕切りをヒョイと跨いで奥の部屋に進んだ。
《え、ここ普通に通れるの?》
何か背後の少女の驚いている声が聞こえたけど、どうかしたのだろうか?
「ふーむ、なんかデカいのがあるけど、これってもしかしてあれか?」
手前の大部屋と比べると狭いのだが、此処にも硝子のケースの中に展示されている貴重品が幾つかあるようだ。まあそれ以上に目立つものもあるんだけど。
それに古書と思われる本や巻物も何冊かあるのだが、これは魔導書か?
アルマの話だと禁止された魔法もあるようだし、封印された禁書とかの可能性もありそうだけど、もし稀少な魔導書とかなら戦力強化になるし、アルマのお土産に一冊くらい貰っていきたいところだけど、バレたら騒ぎになるし流石に無理か。
それに”記憶の雫”や、さっきの”喋る杖”みたいに、変な効果が起きたり呪われたりする危険な本の可能性もあるし。
確か本の姿をした”ジャガーノート”とか言う、触った人物を本の世界に引き込む異形の魔人が居るとかも、ブックルの名付けの時には聞いたから、下手に触れない方が良さそうだ。触らぬ神に祟りなしだしな。
画面の少女も宝物庫で漁り行為まではしないようだけど、結局は見学するだけな感じになったな。個人的には父の形見のドラゴンメイルを観れたから満足だけど。
後はこの中央に鎮座する”黒い柱のような物体”だけなのだが、流石にこのサイズは硝子のケースで囲う事も出来なかったようで、そのまま剥き出しの状態だ。
それにこのオブジェクトは見覚えがある。おそらくこれは”ワープポット”だな。
城下町にも幾つか設置されてるし、それに確か拠点になる館の幽霊クエスト? を解決したら1つプレゼントしてくれるとマルクスが言ってたからそこまで貴重な印象はなかったけど、もしかしてこれがその拠点用のワープポットなのかも?
よくよく考えるとこれも不思議な物体だよな、魔法の仕組みとかはアルマが一応説明してくれたけど難しくて理解は出来なかったし。それに念じただけで瞬間移動するとか意味が分からない。
でも移動するのは大変だから”ファストトラベル”は本当に便利なんだけどな。
この時の俺は完全に油断していた。もうひとつの”可能性”を忘れていた。
この少女の判断なのか、それとも俺自身が判断したのか分からないが、迂闊にもつい興味本位でこのワープポットに触れてしまったのだ。
《あ、ヤバっ》
しかも何か背後から少女の慌てる声が聞こえたんだけど!?
そしてそれと同時に目の前が光って『パリンッ』と何か割れる音がして、触れた手に反応するかのようにオブジェクトが淡く輝き出した。
触らぬ神に祟りなし、とか思った矢先にこの有様である。
プォーーーーン♪
その瞬間、ピヨヒコの意識は飛んだ。




