第43話 王城攻略戦・3F
デジャブに悩まされるも、記憶を頼りに隠し部屋の存在を画面の少女に伝えた。
その結果、迫り来る追手から逃げ切り、ついに王城の三階に辿り着いた。
対話も成立して互いの要望を伝えるも反発しあってどちらの意見も却下された。
背後の少女の秘密が1つ明らかになった。なんと時間を遡り”ループ”する能力を使えるらしい。時間を操る魔法は禁止されてるとアルマが言ってたけど、この少女は実は凄腕の魔術師とかなのか?
それなら俺の背後を追従するこの画面も実は魔法で、遠隔操作で俺の事を何処か離れた場所から操っているのかもしれない。
時間を操れるならそのくらいは可能なのかも。見た目は13歳くらいの少女なのだが種族すら明らかになってないし侮れない。
と言うか名前すらまだ知らないんだよな。常識に欠けた行動も強要するし、危険な思想を隠しながらその能力で何かとんでもない事を企んでるのかもしれない。
もしかしたらこの少女は実は魔族で魔王の幹部とか?
まさかその正体は四天魔族の1人だったりして? 失踪事件や記憶喪失の件も、魔族が絡んでる可能性は十分にありそうだし、この少女も何か関連があると考えた方が寧ろ自然な気がする。
疑心暗鬼になりそうな憶測ではあるけど、決してあり得ないとは言い切れないので使命を果たす同士ではあるけど、警戒はしておこう。
とは言え操られてる現状では出来る事も限られるし、どうしようもないのだが。
そんな事を考えていたら何故か唐突に部屋から複数の気配を感じ取った。
何かドアの向こうにうっすら人影が見える、何だこれ!? あ、もしかしてこれ【気配察知】のスキルか?
よくよく考えたら風呂場での盗み聞きや、暗闇でもやたらと夜目が効いてるのも全てスキルの効果なのかも? と言う事は盗賊のスキルは画面の少女の判断で取得してるって事か? それで今までもスキルの修得ポイントを貯める為に、泥棒行為を積極的に行ってた感じなのかも?
覚えたスキルは”魂”に情報が刻まれるとかアルマから聞いたけど、何となくだがこれが”気配察知”のスキルなんだと理解は出来る。
そう言えばメアリーも斥候や盗賊でも覚えられるとか言ってた気がするな……
ループする前の記憶だから、そこまで明確には覚えてないけど多分そう聞いた。
確かに盗賊のスキルを活用すれば情報収集するにはかなり便利だな。まさかこの状況を見越して画面の少女は盗賊を選択したのか? だとしたらやはり侮れない。
お城の三階は廊下を挟んで其々4つの部屋が連なって、8部屋ほどあるのだが、下の階層と比べてもかなり豪華で廊下を照らす魔法のライトが天井にも付いてるので深夜でも明るい。ここに衛兵が居たらいくら視界が狭くても見つかるだろう。
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⇅
┌──────┘ 簡単な図にするとこんな感じか。
↓ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
廊下の奥を曲がった先に四階に上がれる階段もあるようだが、この少女の目的はどうやら予想した通り、聞き耳による情報収集らしい。
もし画面の少女が本当に魔王の配下なら、敵である王族の秘密を調べてる可能性はありそうだけど、それなら俺はその共犯って事になるのか?
でも少女の指示で討伐クエストに挑んだり、魔物を屠っても来たから、俺の考え過ぎな可能性もあるけど。
それにこの少女の性格なら味方に対して聞き耳くらいは平然と行うだろうし。
そもそも記憶の雫の件もあるから、王族を味方とは思ってないのかもしれない。
疑念は膨らむが身体が勝手に動き躊躇する事なく部屋のドアに聞き耳を立てた。
《さてさて、苦労して辿り着いたけど、どんな情報が聞けるかな♪》
ほらね、全く遠慮がないよ。しかも何か楽しそうだし。しかしここまで来て抵抗するのも疲れるし、時間的には既に寝てる可能性もあるので、ここは俺も大人しく聞き耳を立てるとするか。個人的にも少し気にはなるしな。
人の気配を感じる部屋は全部で6つだが、複数の気配を感じる部屋が3つある。
会話を聞ける可能性があるのは2人以上居る部屋なのだが、少女は手当たり次第聞き耳するつもりなのか、先ずは近くの1人しか居ない部屋のドアに耳を当てた。
流石にドアの鍵穴から覗き見は出来ないみたいだが、何か話し声が聴こえる。
女性の声だ。聞き覚えがある、おそらく庭園で会った第三王女のレティシアだ。
あれ、でも感じる気配は1つだけなんだけど、誰かと話してるのか?
@
「……そうなんですよ、私も興味があったので接触の機会を伺ってたのですが」
「ええ、ですから私、真意を確かめようと”王家のアミュレット”を、庭園の見つけ易い場所に置いたのですが、そのまま拾い上げて持って行こうとしたんですよ」
「そうです、それにその後も庭師のトーマスが大切に育てていたハーブまで引っこ抜いて根こそぎ漁って、信じられない光景でしたわ」
「そうなんですか? でもお姉様も例の件にはガッカリしてたじゃないですか……え、とても立派に育ってた? 一体何の話をしてるのです!?」
「そうですよ、それで私もそのままネコババされたら困るので、隠れていましたが思い切って姿を見せて少しお話ししました……ええ、ですがそれとなく質問したら知らないと誤魔化したんですよ、流石の私もあの時は困惑しましたわ」
「それで目撃してたので今は諦めて後々マルクス兄様に頼んで咎めて返却してもらおうとしたのですが、良心の呵責に苛まれたのか下手な演技で誤魔化しつつ返却してくれましたけど、後ろめたかったのか何処か狼狽えてましたよ」
「え、いやでも、やっぱり私はあの方の事は信用出来ませんわ、歓迎パレードまで用意したのに台無しにされましたし、弟のルキウスも苦手だと言ってましたから、いつか絶対に勇者の称号を剥奪してこの国から追放してやりますわ!」
「だからお姉様はさっきから何の話をしてるの? 擁護したい気持ちは分かりますけど泥棒行為に関しては住人から苦情も寄せられてるのですから、騒ぎを広めない為に吟遊詩人に噂の緩和は頼みましたけど、私の立場としては許せないですわ」
「ええ、大丈夫ですよ、仲良くはしてますし、え、何を言ってますの? そう言う意味じゃないですから、私はそんな行為はしないですよ!?」
「お姉様はかなり酔ってるようですね、そんなに楽しい事でもあったのですか? まあ詳しい情報共有はまた今度一緒に食事した時にでもしましょうか……」
@
いや、何この会話!? 何か初っ端から衝撃的な内容なんだけど!? 何となく理解はしたけど情報の処理が追い付かない。
背後を見てみると画面の少女も、今の内容にかなり戸惑っている様子だ。
つまりあれか? レティシアは俺の事を監視していて、風呂上がりに少女の判断で庭園に向かったけど、偶然を装いあのペンダントをわざと落として俺が見つけてどうするかを試してたのか?
しかも俺が画面の少女に強要されて、植えてあったハーブを引っこ抜いてた漁り行為まで見られてたみたいだし。
という事はあの場での会話とかも全て演技だったって事か!?
確かにそう考えると不自然な遭遇だった気もするけど、そう言えば俺の事を衛兵と勘違いしたと言ってたけど、客人だと分かると湯冷めの心配をされたな。
つまりはあの状況にも関わらず、俺が風呂上がりだとは知ってたって事か……
マルクスにも言われたけど漁り行為での騒ぎや歓迎パレードの件で、レティシアは俺の事をかなり敵視してる感じだな。
勇者の称号を剥奪するとか物騒な事も言ってたから正義感は強いけど、やってる事はストーカー行為に近いし結構ヤバいな。なるべく関わらない方が良さそうだ。
まあ今の状況的には俺も人の事は言えないんだけどな。ズズズーン……
それに”お姉様”とか言ってたけど、該当するのはこの国の第二王女様だよな?
確か既に嫁いでお城には居ないとアルマに聞いたけど、この部屋に居るのか?
でも気配は1つだけだし、今の会話の感じからすると、独り言と言うよりは何か通話してる感じだったな……もしそうなら何かしら通信手段があるって事か?
第二王女様か。レティシアと同じく俺の叔母に当たる人物にはなるけど、どんな人なんだろう……あれ? でも何か既に知ってるような既視感があるんだけど?
もしかしてループする前の世界線では明らかになった感じか?
でも無理に思い出そうとすると何故かトラウマを抉られるような嫌な感覚があるからこのまま記憶を封印しておこう。まあ、多分あの人だとは思うけど。
そんな事を考えていたら、身体が勝手に次の部屋に移動した。
今の部屋の対面に位置するけど、ここも人の気配は1つだけだ。
「……」
何も聞こえないな……気配も動いてないから既に寝てるのかもしれない。先程の会話にも出てたけど、まだ幼い第三王子様がこの部屋の主の可能性はありそうだ。
確かまだ6歳とか聞いたけど、既に0時を過ぎてるし流石にもう寝てるか……
そのまま更に左隣の部屋に移動した。この部屋からは2つ気配を感じる。
ドアに聞き耳を立てると今度は話し声が聞こえてくる。この声はマルクスか? それに何か女性の声も聞こえるな……判別は難しいけど、おそらくは恋人関係だと思われる秘書のシルビアと一緒に居る感じかな?
今回の情報収集の本命とも言えるけど、勘が鋭い相手だからなるべく物音を立てないように息を潜めよう。
少し不安なんだけど、まさかいきなり変な喘ぎ声とか聞こえてこないだろうな?
@
「……それは確かなのですか?」
「ああ、間違いない、僕が直接確認して来たし、まさかこんな結果になるとはね」
「それでどうするんです、実は記憶喪失の原因が”記憶の雫”では無かったと勇者様に伝えるのですか?」
「ふむ、そうだね……この事実を知ってるのは今のところ君と僕だけだが、勇者殿を不安にさせない為にも実際に記憶の雫が使われた事にして、持ち出された形跡があったと虚偽の報告をするのもありかな、嘘だとしても明確な原因が分かっている方が精神的には安心は出来るだろうし」
「それは捉え方次第だとは思いますけど、騙される方がキツいのでは?」
「もちろん真相に関しては僕も調査するよ、それに素直に教えるよりそっちの方が面白そうだろう? 疑心暗鬼になって僕の事も既に疑っているなら、それはそれでどんな行動をするのか楽しみだし、きっと彼の成長にも繋がるだろう」
「身勝手な人ですね……貴方がそう判断したなら私はそれに従いますけど」
「まあタイミングを見計らって真意は伝えるつもりだが、ドヤ顔で引き止めて自信満々に記憶の雫が原因だと言った手前、少しは見栄を張らせて貰うとしよう」
「そうですか、でも、そうなると何か他の要因があるんですかね?」
「それは僕にもまだ分からないが、それでも今回の訪問で記憶を取り戻す切っ掛けは見つかったようだし、失われた記憶もそのまま使命を果たしていればいずれ思い出すなら、僕としては自分の役目に従い、彼等のサポートをするだけだよ」
「マルクス様が予想を外すなんて珍しいですね、話を聞いて症状的には私も記憶の雫が原因なんだとは思いましたけど」
「ふむ、まあ想定外の出来事だったしそんな事もあるさ、それより君の方こそ例の件の進展を聞かせてくれないかね……それともお風呂も済ませた事だし、話の続きはベッドの上でするかね?」
「……っ」
「おや、珍しく緊張してるようだね、そんな初々しい反応をされると僕もなんだか若かりし頃を思い出すよ、あの頃の君は今よりも素直で可愛かったのになぁ」
「別に緊張なんてしてないですよ、少し酔ってるだけです……」
「そんなに酒に強くないのにワインの3本目を開けるからそうなるのだよ、優秀なんだから自分の許容量くらい把握しておきたまえ」
「今の私は酔ってないと素直になれないんです、それに若かりし頃って、なんだか年寄りくさい言い方ですから止めた方がいいですよ」
「いや、僕はもう三十路をとっくに過ぎているし普通に中年のおじさんだからね、君からしたら義兄さんかもしれないけど……それよりも報告を頼むよ」
「調査の結果やはり今回のオークションに例の物品は登録されてはいないですね、相変わらず所在は不明です、それと情報によると魔石関連で例の野盗の集団も動きを見せているようで、建国祭の開催に合わせて悪事を企み、仕掛けてくる可能性はありそうです」
「ふむ、そうか……オークションを開けばいつか紛失した”土の魔石”の行方も分かるとは思ったが中々上手くいかないものだね、取り敢えず引き続き調査を頼むよ」
「ここまで情報が集まらないなら誰かが個人的に所有してる可能性もありますが、野盗供の対応はどうします? 情報によると裏では貴族とも何かしら繋がりがあるとの事ですが、決定的な証拠はまだ掴めて無いようです」
「奴らに関しては尻尾を掴み次第対応するしかないね、問題は山積みだがとにかく建国際に合わせて人も増えるだろうし、警備の強化を怠らないように」
「分かりました、そう伝えておきますね」
「ここ最近は王城の兵士も気が緩んでるのか警戒が疎かになってる印象だからね、この城に直接忍び込むような勇敢な賊なんてそうそう居ないとは思うが……む?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ、フフッ、それと少し気になったのだが君は今の勇者殿をどう思うかね? ずいぶんと嫌ってはいたようだけど」
「前にも言いましたけど、私は正直あまり良い印象はありませんね、例の騒ぎでの影響もありますけど、記憶を無くしてたとしても、あまりにも常識に欠ける行動が目に付きますし、お城の備蓄も幾つか漁られたとの報告も受けてますから、兵士達も不満を漏らしてましたし」
「そうか、まあ盗賊の転職条件をクリアするための行動だった可能性はあるがね、それに思ったよりも大胆な行動もするようだし、報告によると冒険者ギルドに立ち寄る前にソロでメメントの森まで足を運んだとも聞いたね」
「それがそもそも常識に欠けてますよ、それにレティシア様も泥棒行為に関しては憤慨されてましたし、魔王討伐の支援や、歓迎パレードに出資してくれた貴族からの印象も良くはないですね」
「あまり周囲の期待を背負い過ぎて、勇者としての責務や重圧に押し潰されるよりは良いとは思うが、宝物庫に保管されてる記憶の雫が要因じゃなかったにしても、心に余裕のない状態のまま冒険するよりは、記憶を無くした今の勇者殿の方が個人的には期待も出来るし好印象なのだがね」
「天啓を信じてやまない聖堂の人達からしたら、あの泥棒行為ですら使命に従った行動だと思い込んでそうですけどね、歓迎パレードの時も随分とはしゃいで勇者様の事を讃えていましたし」
「あの連中は今更だからどうにもならないね、それに教祖も頭の硬い奴だしな」
「そう言えば例の【勇者教】の教祖様はマルクス様の幼馴染でしたっけ……」
「悪事を働くような奴ではないのだが、頑固で鬱陶しくて困ったものだよ」
「それは大変ですね……まあ私も使命に従い出来る事はするつもりですが」
「そう言えば君も条件付きで一応ギルドに名刺を預けてはいたね、天啓の楔による強制力を受けての行動なんだろうけど、不服かね?」
「いえ別に、それでも私の場合カルマの天秤の値も関係しますから……今の状況で私が仲間になる事はないですよ、それに選ばれたとしても私よりも優秀な冒険者を優先して迎えると思いますし」
「ふむ、上位の氷魔法の使い手【氷塊のシルビア】が随分と謙虚な事を言うね」
「唯一無二の”軍師”の専用ジョブに特殊なスキルも扱えて、更には冒険者ギルドを立ち上げた功労者でもある、”初代ギルドマスター”の貴方と比べたら謙虚にもなりますよ」
「ゴホン、そうかね……まあそれより夜も遅いし、そろそろ寝るとしようか」
「……それは、どのような意味で捉えればいいのですかね?」
「おや、君は何か期待してたのかね? 僕は今夜の予定は空けておくから、報告も兼ねて一緒に過ごそうと囁いたが、”添い寝”の提案をしたつもりだったのだがね」
「私の気持ちを知っているくせに、それなのにいつも他の女性に色目を使って……貴方は本当に酷い人です、後でまた姉さんにも報告しますからね」
「むぅ、出来たらそれは勘弁して欲しいところだが……最近の君は少し棘があると言うか、ちょっと僕に厳し過ぎないかね?」」
「亡くなった姉さんの事をいつまでも想ってくれてるのは嬉しいですけど、余り女遊びが過ぎるなら、それを管理するのも秘書としての役目ですから」
「何度も言ってるが相手から誘って来たら、男としては無下には扱えないからね、それにこれでも君の事は大切にしてるし、特別に接してるつもりなのだがね」
「本当にそう思っているなら、今後は私だけを見ていてください」
「……やはりかなり酔っているようだね、束縛は氷魔法だけにして欲しいものだ」
「もう、酔ったから素直に本音を伝えてるだけです、それにマルクス様こそあの子の事を側に置いてまで守りたいなら、もっと素直になって……んむ?」
「いくら酔ってるからってあまり人の秘密をべらべら喋るのは止めて貰おうかね、そんな軽い口はこうして塞いでしまおう……」
「んっ、あっ……ん」
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何か艶やかな声が聞こえてきたので、これ以上聞くのは控えよう。
しかし、またしても衝撃的な内容だったな……
情報不足で分からない内容もあるけど、結局のところ俺の記憶喪失の原因は記憶の雫を使った訳ではなかったって事か?
まあ原因が違ったところで解決策は自力で思い出すしかない様だし、それは別にいいとして、マルクスの見栄の為に騙されるのは納得いかないんだけど……しかもそっちの方が面白そうってなんだよ!!
それに土の魔石の行方を調査してるけど見つかってないようだな。紛失したとか言ってたけど、マルクスなりに責任を感じてるのかな? 建国際のオークションで見つかるかもと俺も少し期待してたけど、そのオークション自体が土の魔石を探す目的もあって開催されてるのか。
野盗が悪巧みしてるとも言ってたけど、魔石の行方も含めてその辺はマルクスに任せるしかないかな……土の魔石を探すにしても、俺が個人で出来る事には限界があるだろうし。
それにしてもこの国の第二王子で、防衛大臣でもあり、更には軍師に初代ギルドマスターって、マルクスにはどれだけ肩書きがあるんだよ。それにシルビアの方も只者ではないようだし、”氷塊のシルビア”って多分二つ名だよな?
最初に会った時は何か少し怖い印象もあったし、やっぱり例の漁り行為で印象が悪くなっているようだ。第三王女のレティシアもその報告を受けて俺の事を敵視しているようだし。
自業自得ではあるけど、責任転嫁するなら漁りを強要した例の少年が元凶なんだけど……一度下がった好感度を上げるのは難しそうだ。
それに、”勇者教”とか言う素っ頓狂な単語も出てきたんだけど、なにそれ?
聖堂の連中って事は俺が2年間過ごしたらしい教会とも何か関係ある感じか?
うーん、記憶を辿ってみてもさっぱり思い出せないし取り敢えず保留かな……
あと、もしかしてマルクスって既婚者だったりするのか?
独身とは言ってたけど、今の会話の内容だと亡くなったシルビアの姉さんと恋人関係だったみたいだけど、公表してないなら身分の違いとかであまり表に出せない感じなのか?
しかも今はシルビアと付き合いながら、他の女性とも遊んでいるみたいだし。
亡くなった姉の代わりに、その妹や他の女性と大人の関係を築いてるのか?
だとしたらやっぱりマルクスは女誑しの最低な屑野郎だな。
それに他にも気になる会話はしてたけど、プライベートな感じだしあまり深くは追求しない方が良いか……まあ何となくは察したけど。
背後の少女の反応は? 何かウンウン唸ってるな、俺と同じで会話の内容を整理してるのかもしれない。でもやっぱり何処か楽しそうなんだよな……
情報が多くて何か混乱するけど身体は勝手に動き、そのまま隣の部屋に向かう。
この部屋からも2つ気配は感じるけど、おそらく第一王子のグラウスの部屋だ。
この部屋とマルクスの部屋に対面する二つの部屋には、人の気配は無いから部屋割りも何となく理解してきた。
多分こちら側が王様や王子の部屋で、対面側が妃や王女の部屋になる感じだな。
そう思い部屋に聞き耳を立てるのだが、聞こえて来たのは女性の声だった。
いきなり予想を外して項垂れる……あれ? でもこの声って、もしかして……
アルマか!?
え、何で? 何でこんな深夜にアルマが王族の部屋に居るの!? 相手は誰だ?
何かボソボソとは聞こえるけど、かなり聞き取りずらい声量だな。
いや、でもこの特徴的な喋り方は、やっぱりグラウスか?
だとしても何でこの国の第一王子の部屋にアルマが居るんだ!?
もしかしてマルクスとシルビアの関係みたいに、グラウスとアルマも恋人同士の関係だったりするのか!?
不安を感じつつ、ピヨヒコはドアに耳を当て、集中して盗み聞きを行使した。
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「ええ、だからそんなに心配しなくても大丈夫です」
「……しかし本当なら護衛として従者を2人付ける予定だっただろう」
「必要ないですよ、いきなり大人数で接触したら勇者様に警戒されたと思いますし、それにネムちゃんとブックルさんも仲間として迎えましたし、今後もギルドの名簿から仲間も増えるとは思うので問題ないです」
「……だが先日はイレギュラーな展開に巻き込まれて危険な目にあったらしいじゃないか、最初からタンクとヒーラーを連れていればもっと安全に戦えただろう?」
「そ、それは確かにそうかもしれないですけど、勇者様と協力して結果的には勝てたんだから良いじゃないですか、それにパーティーの人数が多いとそれだけ経験値が分配されるので良し悪しですよ」
「……それでも初心者が2人だけで討伐クエストに挑むのは流石に無謀だろう? 何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「だから父様は心配し過ぎです、私だっていつまでも子供じゃないんです、使命を果たす為に努力もしてきたんだから自分の身くらい自分で守れます!」
「……娘を心配するのは親としては当然の事だろう!」
「それを言うなら心配してるのはこっちも同じです! 父様の方こそもっと自分の立場をわきまえて行動して下さい」
「……むぅ」
「私が口を挟む事ではないけど、何で第一王子が自ら魔王軍との攻防戦の最前線で戦ってるんですか、騎士団長なら司令官として後方で指揮に専念すれば良いじゃないですか、万が一何かあったらどうするんですか!」
「……俺が率先して戦えば兵士の士気も高まるし余計な被害を抑えられるだろう、それにこれは俺に課せられた使命でもあるからな」
「父様が強いのは知ってますが心配なんですよ、それに母様もいつも不安な気持ちを抑えて見送って帰りを待ってるんですから少しは母様の事も気遣ってください、それこそ何かあってからじゃ遅いんですからね!」
「……分かった、今後はなるべく気を付ける」
「それなら良いですけど、私としてもあまり無理はして欲しくないので」
「……それを言うなら俺も言いたい事はあるがな」
「な、なんですか?」
「……アルマは昔から責任感が強くて、気負いすぎる性格だから見ていて不安だ、それに頑固だから護衛を付けると言っても聞き入れなかったし」
「頑固なのはお互い様です!」
「……それと言うつもりはなかったが、さっき風呂場でピヨヒコ君と偶然会ったからそれとなく娘を頼むと伝えておいた」
「ななな!?」
「……戦闘の時とか勇者殿がアルマの事をよく見ていてくれれば、俺も少しは安心出来るからな」
「あ、そう言う意味での頼むですか」
「……他にどんな意味があるのだ?」
「な、なんでもないです、それにちゃんと私の残りの体力や魔力も気遣ってくれてましたし心配ないですよ、それより勇者様に余計な事とか云ってないですよね?」
「……余計な事とは何の事だ?」
「……私が実は貴方の娘だとか、そう言う話です」
「言ってはいないが、なぜ隠す必要がある?」
「そ、それは、魔道修道院でも、私が第一王子の娘なのは隠した方が都合が良いと判断されて一部の人にしか知られていない事ですから、それに勇者様のパーティーでも私が実は王族だと知られると変に気を遣われるかもしれないので、私としてはなるべく隠しておきたい事なんですよ」
「……立場的には少し違うがピヨヒコ君も同じ王族なんだし、気にせずに伝えれば良いんじゃないか? 隠しておきたいなら別にそれでも構わないが」
「と、とにかく余計な事は言わないで下さい、それでどんな話をしたんです?」
「……ああ、記憶喪失の件なら本人から聞いた、それと両親の事を知りたがってたので少し昔の話をしただけだ」
「そ、そうですか」
「……幼い頃の怯えた感じに比べると記憶を失ったとは言え今のピヨヒコ君は堂々としている印象ではあるが、精神的に少し不安定な感じもするからアルマも仲間としてピヨヒコ君を支えてやってくれ」
「分かってますよ、それが私の天啓に与えられた使命なんですから」
「……あと、さっきも言ったがあまり気負い過ぎないようにな」
「だから大丈夫ですよ、それにしても普段は寡黙なのに、今日は随分と本音で喋るじゃないですか、それに近況報告を兼ねてるとは言え父様から私を呼び出すなんて珍しいですし……何か心境の変化でもあったんですか?」
「……」
「別に云いたくないなら言わなくてもいいですけど」
「……ゴホン、ピヨヒコ君と話してみて俺ももう少し自分の子供と本音で語り合う事も必要だと思っただけだ、当時のピヨヒコ君は父親のジークの厳格な態度に対して怖がって萎縮してた感じだったからな」
「ああ、その気持ちは分かりますね、私も王族としての立場や周囲の期待、使命に対しての責務にプレッシャーを感じてはいますし」
「……そうか、まあ焦らず自分達のペースで成長するといい」
「そうですね、マルクス様からも同じような事を言われました」
「そうか」
「それと話は変わりますけど、実際に討伐クエストに挑んでみて感じたのですが、ギルドの依頼クエストの内容に合わせて、有利な職種や適正レベルなど提示されていれば、なるべく危険を避けつつ実力に見合った手頃なクエストを選べるとは思いましたね」
「……ふむ、確かに言われてみればそうかもな、適正レベルかどうかは受付で一応判断はしてくれる筈だが、掲示板の段階で分かれば冒険者にとっても自分のレベルに合わせて依頼を選べるか……一応ギルドには俺から進言しておこう」
「いっその事ギルドカードの実績や熟練度でランク分けして、受けられるクエストに制限を掛けるのもありだとは思いますけどね」
「……その辺の事はマルクスが決めた事だから俺はあまり関与してないな、ランクの優劣で冒険者同士の確執が生じるのを配慮してるらしいが、まあギルドの名簿に関しては星で最低限の区分けはされているがな」
「そう言う理由なら納得は出来ますけど……それと常識的な事ではあるのですが、クエストに行く前には食事を済ませてから挑むようにギルドの方から推奨するように呼び掛けてくれると個人的には助かりますね」
「……ふむ?」
「初心者の冒険者とかもですが、戦闘に慣れてないのに空腹デバフになるとかなり不利な状況に陥るので、食事の重要性をもっと理解して欲しいと思ったので」
「……成る程、酒や食事によるバフ効果も種類によって違うし、使い分け出来れば戦闘も楽にはなるな、攻防戦クエストだと専門の料理人の兵団も居るには居るが」
「クエストに合わせておすすめ料理をギルドで推奨してくれると良いかもですね」
「……参考にさせて貰う、他には何かあるか?」
「そうですね、あとは戦術的な事になるので意見を聞きたいのですが、敵を中心にサークル内を移動する際に後方の敵視を分散させる為には……」
@
……何か専門的な会話になったのでこの辺にしよう。
しかし驚いたな、まさかアルマとグラウスが親子だとは思いもしなかった。
年の離れた恋人同士とかじゃなくて安心はしたけど、父と娘の関係か……
あれ、と言う事はつまり俺とアルマは従姉弟同士の関係になるのか?
廊下でグラウスとすれ違った時はそんな素振りは見せなかったけど、自分が王族だと俺に隠しておきたかった理由でもあるのかな?
それと他に気になったのは、天啓に与えられた使命って台詞だな。つまりアルマも俺と同じように、幼い頃から魔王を倒す使命を天啓により定められてたのか?
だとしたら勇者のサポートの選考はマルクスが決めたと言ってたけど、最初からアルマが選ばれるのは決まっていたって事になるのか?
うーん、使命に関しては俺も不思議な強制力を感じてるけど、天啓の事や王族としての素性とか、誤魔化さないで最初から教えてくれても問題ないとは思うけど、俺はまだそこまで信用されてないって事なのかな。
でもアルマも言ってたけど、最初から護衛や従者を連れて話し掛けられてたら、警戒したり遠慮してたかもしれないな……真意は分からないけど勇者としての俺の立場に配慮してくれてたって事にしとくか。アルマの事はあまり疑いたくないし。
それにしても何でどいつもこいつも俺が聞き耳をしているタイミングに合わせてそこそこ重要そうな会話をしてるんだ?
何か必然性と言うかご都合主義と言うか、変な違和感すら感じるんだけど。
背後の少女はそんなの気にもしてないようだが、聞き耳ってこんなピンポイントに情報を得られるものなのだろうか? まあ別にいいけどさ。
残すは王様と王妃の部屋だけど、隣の王様の寝室と思われる部屋から2つ気配を感じるんだけど、誰と一緒に居るんだろう?
普通に考えたら王妃なんだろうけど、その王妃の部屋には気配が1つあるから、他の誰かの可能性はあるんだよな。
そんな思考を巡らせていたが、背後の画面の少女はどうやら対面の王妃の部屋を先に聞き耳するようだ。
「……」
しかし部屋からは何も聞こえない。気配も1つだし動いてもいないので、部屋の主は既に寝てるのかもしれない。
ふーむ、この国の王妃様とは最初に謁見の間で目覚めた時に会っただけで、その後は会話もしてないからどんな人物なのか全く分からないな……関係性で言うなら俺の祖母に当たる人物だとは思うけど。
でも王様は白髪混じりで六十過ぎに見えたけど、王妃様の方は見た目的にはまだ三十代くらいにも見えたんだけど、グラウス達の母親ならもっと年齢は上だよな?
しかも第三王子はまだ幼く6歳って話だし……兄弟で歳が離れ過ぎてないか?
王女様も含めて年齢とかよく分かってないけど、後でアルマに聞いてみるか。
再び身体が動き出し王様の寝室に向かう。これで情報収集も最後だけど、どんな話が聞けるのだろうか。
こんな場面を誰かに見られでもしたら捕まり投獄されても文句も言えないけど、これでもし王様の部屋に居るのが女性なら、ちょっとしたスキャンダルだよな。
まさか王妃様が直ぐ対面の部屋に居るのに堂々と浮気してるのか?
それとも側室みたいな相手が居て、正妻や子供達にも黙認されてたりするのか?
と言うか俺が忍び込んでるのにこんな深夜に国のトップが誰かと密会してるってどんな状況だよ。しかも御付きの護衛や衛兵も居ないし、不用心にも程があるわ。
聞き耳を立ててみると王様と思われる声が聞こえる。相手は聞き手に回っているようで声がよく聞こえないから性別の判断が出来ない。
もしかしたら例のケチな財務大臣が一緒に居る可能性もあるのかも?
いや、それならおっさん2人でこんな深夜に何してるんだって話になるけど。
あ、でも何か女性の声が聞こえるな、それにこの声って……
@
「……それで今後はどのような展開になるのかね?」
「いくら協力者でもそれはお応えし兼ねます」
「ふぅむ、少しぐらい教えてくれても良いじゃないか」
「ダメですよ、と言うか貴方のせいでまたシナリオの変更を余儀なくされたんですから少しは反省して下さい、修正するのも大変なんですからね」
「それはお互い様だろう? あんなタイミングで魔人ベリアルが我が国まで攻めて来るなんて聞かされてなかったし、どれだけの被害を被ったと思ってるんだね」
「それに関しては確かにこちらの不手際が原因ですが、元々は敵対してるんですからある程度は許容してくれないと困ります」
「ああ、だから許容してそちらが送ったスパイも受け入れているし君の正体を知りつつ迎え入れ、こうして情報共有がてら密会までしてるのではないか」
「それはそうですが、だからって限度があるでしょう……何で送り込んだスパイを懐柔して妻に娶ってるんですか……」
「8年前に同盟国がベリアルに襲撃されて崩壊し多くの難民を受け入れたが、娘を攫われ元々病気がちで身体が弱かった妻が心労で倒れ、懸命に看病するも助からず傷心していたワシの隙に付け込んで来たから、正体を暴いて逆に色々と事情も聞いたが、そしたら君まで介入してきたんじゃないか」
「ええ、そうでしたね、それで貴方には立場的にも何かと融通が効くので両サイドの協力者になってもらいましたが、まさか送り込んだスパイを寝取って後妻にするとは思いませんでしたよ、しかも子供まで……」
「苦労話など聞いてたら共感してお互い恋に堕ちて、成り行きで後妻に迎えたが、まさかその正体が四天魔族の1人【水のエレノア】だとは思わなかったがの」
「……そもそも人族と魔族じゃ子供は出来ない筈なのに、どうやったんですか?」
「それは秘密だ、取り敢えずエレノアと息子のルキウスには手出し無用で頼むぞ」
「貴方のせいで長年掛けて準備していたシナリオが台無しになりましたよ、それに別の諜報員も用意しなくちゃならなくなりましたし」
「だからそれはお互い様だろう、しかしエレノアのお陰でベリアルの襲撃の情報も事前に得られたし被害はかなり抑えられたがの、息子達の功績も大きいが、それでも執念でジークフルドと一騎討ちになり、あの結果だからな」
「取り敢えず水の魔石はエレノアさんから返還してもらいましたから、四天魔族の引き継ぎは済ませましたが、土の魔石の所在はどうなってるんです?」
「さてさて、どうなったのかの……」
「その反応だと見当は付いてるんですよね? 一応シナリオの”キーアイテム”なんですから、あまり勝手な真似をされると困ります」
「ふん、所詮ワシは傍観者でしかないからの、孫達の活躍を見届けるだけじゃよ」
「何を言ってるんですか、既に随分と関与してるじゃないですか」
「紛失したならまた用意すれば良いじゃないか? お主なら可能なんじゃろ?」
「私だって別に万能って訳ではないですから、色々と制約もあるんですよ、それに魔王様も魔物の生成やダンジョンの管理でそこまで魔力に余裕はないですし」
「魔王か、倒すべき相手ではあるが話を聞くと色々と苦労も絶えないようじゃの」
「まあこの世界と自分の使命に対して理解はあるから助かってますけどね……」
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ちょっと待て、コイツらは一体何の話をしてるんだ!?
なんだこの会話!? スパイに協力者? 妻が水の四天魔族?
それに魔王様って、この国の王様は魔王軍と繋がりがあるのか!?
それと”シナリオ”って何の事だ!?
いや、それよりも今の内容が事実なら、もしかして……
「盗み聞きとはあまり感心しませんねぇ……勇者様」
「!!?」
今の話に困惑して油断していたら背後から突然声を掛けられた。
振り向くとそこには、吟遊詩人の格好をした胡散臭い男が立っていた。




