第41話 王城攻略戦・1F
少女のモチベーションが少し回復したので、再び冒険が再開された。
その結果お城の庭園に侵入して、植えてあったハーブを勝手に引っこ抜き、更にはこの国の第三王女様が落とした所有物を黙ってネコババしようとした。
罪悪感に押し潰されたピヨヒコは遂に固有スキル、ストレージのコツを掴んだ。
その後、個室に戻って何やかんや思考していたら身体がドアの方に向かった。
個人的にはもう寝たい気分なのだが画面の少女はまだ何か行動させるようだ。
?? いや、待て、何かがおかしい。何故か不思議な喪失感がある。
何だこれ?
ベッドで寝る時の意識が暗転する感覚や、たまに唐突に起きるブラックアウトの時の感覚にも似てるけど、それらとも少し違う様な……何か変な気分だ。
部屋に備え付けてある時計を見ると、時刻は23:45、もう少しで日を跨ぐ。
そうだったかな? 何か体感的には既に1:00を過ぎていた気もするけど?
それに確か誰かが部屋に訪れて……う、でも何か思い出そうとするとトラウマを抉られるような嫌な感覚もあるから取り敢えずはこのまま記憶を封印しておこう。
身体が勝手に部屋の外に向かったので、不本意ではあるがそれに従う事にする。
背後を見てみると、いつもの画面といつもの少女がそこに居るのだが……
《よっしゃ、やるぞー、今度こそ負けないぞ、絶対に突破してやる!》
何やらテンションの高いヤル気に満ちた声が聞こえた。
こんな深夜にも関わらずこの少女はまだまだ元気なようだ。子供はもう寝る時間だと言うのに全く。
とは言え、楽しそうな雰囲気が画面から伝わってくるので気分は少し和らぐ。
個室から出ると、深夜の城内は物音もしないで静まり返っていた。
それでもどうやら巡回してる衛兵は何人か居るようで、其々の持ち場を決まったルートで見廻っているようだ。
幾ら勇者の立場でも、見つかったら呼び止められて咎められるだろう。
立ち入り禁止である三階にある王族の寝室に向かったら尚の事だ。
そもそも客人がこんな時間に勝手に部屋から出歩いたら駄目なんじゃないか?
そうも思うのだが、背後の画面の少女は気にせず探索を強要させる気のようだ。
あ、そんな事を考えてたら向こうから人影が、このままだと見つかるぞ!
「……あれ?」
視認できる距離に巡回してる衛兵が居るのだが、何故か向こうは無反応だ。
深夜で廊下が暗いとは言え、距離的にはお互い見える位置だと思うのだが……
あの兵士は目が悪いのか? そう思い手を軽く振ってみるのだが反応しない。
衛兵はそのままこちらには気付かず、巡回ルートを引き返して歩いて行った。
この城の衛兵が装備してる防具は統一されていて、頭にはすっぽり被るタイプの革製の兜を付けてるのだが、見た目はみんな同じに見える。
武具屋で鋼鉄のバレルメッドを試着した時には、俺も視界がかなり遮られたし、この衛兵の兜も同じくらい視界が狭そうな印象はあるけど……
深夜だから衛兵達は手に携帯式のカンテラを持っているのだが、灯りに照らされない様には立ち回っていたから、それで気付かなかったのか?
……と言うか、逆に俺の方が暗闇でも視界が良く見えている感じなのかも?
庭園では月明かりと外灯があったけど、この廊下は外よりも更に暗い。それにも関わらずやけに夜目が効いてる気がする。暗闇に目が慣れただけだろうか?
衛兵が見えなくなったのを確認すると再び身体が動き出す。
サッ、ササッ、スッ、クルッ、スタタタ……
そんな事が二度三度と続き、何となく理解した。おそらくランタンの灯りの範囲内に入らない限りは衛兵に認識されないようだ。
つまりはサーチライトの様に照らされた灯りと、衛兵の視界がリンクしているみたいだ。いや、そんな事ある!?
普通に考えたらあり得ないのだが、先程なんて直ぐ真横を通り過ぎたのに巡回してる衛兵はこちらに全く気付かなかった。それどころか直ぐ真後ろを追従してるにも関わらず気付かれなかったのだ。
たまに振り向きカンテラを背後に向けるのだが、灯りに照らされないよう真横にサッ、と回避したら目の前に居るのに気付かれなかった。
いくら何でも節穴過ぎる。ここの衛兵達は寝ながら巡回でもしてるのか?
こんなザルな警備でこのお城は大丈夫なのだろうか?
まあ高台に建っていて四方を堅固な城壁に囲まれているから、潜入する賊なんてそうそう居ないだろうし、衛兵も気を抜いて警戒が疎かになっている可能性もありそうだけど……それにしたってズサンな警備だ。
そのまま難なく一階の中央にある大ホールの入口手前まで辿り着いた。
お城の二階に上がるには、吹き抜けになってる中央のホールの両端から繋がる大階段を上がる必要があるのだが、流石にここを突破するのは難しくないか?
天井にはシャンデリアがあるから廊下と比べて明るいし、警備してる衛兵も何人か居るようだ。
確認すると何故か等間隔に衛兵が配置されていて、一定の間隔で上下左右に振り向きお互いの視界をカバーするように動いている……え、何これ?
こんな開けた場所でそんなに視界が狭いならその兜を脱いだら良いんじゃね?
更にはホールの四隅に3人の衛兵が居て、壁に沿って一定方向にグルグルと歩き回っているんだけど……これは何かの儀式でもしてるのか?
しかも1人足りないからタイミングを合わせて空いてる隅に入り合わせて動けば衛兵の持つランタンの灯りに入らずに階段の付近まで進めそうなんだけど……
こんな無駄な巡回するくらいなら階段の前にでも立っていれば良いんじゃね?
まあ厳重に警備してる印象はあるしマニュアルに従って巡回してる可能性はあるから、本人達は真面目に勤めてるつもりなのかもしれないけど……
それにこんなヘンテコな警備でもタイミングを見誤えば直ぐに見つかるだろう。
画面の少女はどうするつもりなんだろう? このまま二階に上がるつもりなら、本当に三階を目指している可能性はあるけど、と言うか何か手慣れてるんだが?
それに俺も何故か既に何度か体験したような不思議な既視感があるんだけど……
◇
前回の時はこのホールでも油断して一度捕まったけど、行動パターンは既に把握してるからこのまま衛兵の視界に入らず二階までなら余裕で行けるけど、安全策で一応あのアイテムを取りに行くかな。
回り道にはなるけど、このタイミングでしか入手は出来ない感じだったし。
それと今回は本気で一発クリアする予定だから、二階に上がる前にあの場所にも寄って行こう。こっちは攻略とは直接関係ないけどポイント稼ぎにはなったし。
後で咎められる可能性はありそうだけど、まあバレなきゃ問題ないだろう。
前回の探索時は最初に部屋から出たら真っ暗だったので、一度部屋に戻って備え置きされてた魔法のランタンを持って行けたので使ったのだが、それが罠だった。
こちらのライトの灯りに衛兵が触れると速攻で見つかり捕まった。それで二回目移行は盗賊のスキル【暗視】を修得してから挑んだらランタン無しでも挑めた。
セットスキルの枠は1つ埋まるけど暗闇に対して補正が掛かり、灯りに頼らなくてもある程度なら周囲の確認が出来る。夜間に行動するなら便利なスキルだ。
これお風呂イベントの聞き耳も含めて、盗賊のスキルが必須な感じなんだけど、プレイヤーが最初に盗賊を選ぶとは限らないんじゃない?
まあ普通にベッドで寝れば飛ばせるイベントみたいだし、使えるスキルが偶然噛み合った感じなのかもだけど。
でもこれで”二刀の心得”のスキルはまた遠のいたな……まあ仕方ないか。
まだもう少しポイントは残ってるけど、他にも使えそうなスキルがあるから1人で行動が出来る内に積極的に盗賊の職業ポイントを貯めておこう。
前回はピヨヒコの視線と、訴えがちょっと煩わしかったけど、今回も無視だ。
◇
「シュー、コフー……」
てっきりそのまま二階に進むかと思ったら大ホールをスルーして向かった先は、一階のお城の裏口だった。
このお城にはどうやら正面の正門以外にも2つ裏口があるようでこっちの右側の裏口は大浴場に行くのに使った左側の裏口の反対側に位置する。
お城を逆三角形に見立てるとそれぞれの先端に出入り口がある感じだな。▽
こっちの裏口は城下町からの資材や食材の搬入なども行うようでかなり大きい。
因みにスタート地点である指定された客室は左側の廊下の奥にある。
大回りにはなったけど奥の通路は中央に衛兵が立ち塞がって通れなかったから、迂回する事になった。その付近にある地下への階段も衛兵が居て行けないようだ。
それで結果から言うと、まず裏口から外に出て衛兵たちの屯所になっている宿舎に向かい、そのまま宿舎にあるシャワー室に侵入して、男性用ロッカーから衛兵の装備一式を拝借した。この地点で操られてる事に対して軽く目眩がした。
しかもそのまま衛兵に変装して宿舎の中の漁れるものをバレないように漁った。
お城の見取り図を手に入れたのは収穫だったけど、俺が確認する前にストレージに収納されたんだけど、これ画面の少女の方は内容を把握してる感じなのか?
更には衛兵の槍や弓、矢などもあったので、それらの備品にも手を出した。
しかも淡々と、まるで何処に何があるのか分かっている様な感じでさも当然に。
もちろん念じて抵抗はしたさ、でも少女は全く聞き入れない様子だった。やはり庭園で勝手に落ちてたペンダントを返却したから不満に感じていたのだろうか? いや、でもこれ俺の身体だからね!? 流石に文句の一つも言いたくはなるわ!!
この場にアルマ達が居ないのが唯一の救いだが、もしかしたら画面の少女も仲間が居たから今まで漁りを自重していたのかもしれない。おのれ、本性を表したな。
やはりこの背後の少女も例の少年と同じで常識が全然足りてないようだ。
お風呂での覗き行為もあるしどんどん悪い行動が目立ってきてる。
このままじゃ本当にいつか【窃盗犯】の称号でも与えられそうだ。確か覗き魔の称号も本当にあって、ギルドカードにも反映されるとかメアリーに聞いたっけ?
あれ、そうだったっけ? 何か記憶が曖昧なんだけど。
取り敢えず勇者が犯罪者の烙印を押されるなんて洒落にならない。
しかし操られてる状況なのでどうしようもない、ここで抵抗行動で大声でも出して衛兵に捕まったら、結局被害を被るのは自分自身なのだ……ぐぬぬ。
ものすごく不満なのだが強く念じても無視されるので諦めて今は従う事にした。
宿舎にはまだ起きている兵士も何人かは居たのだが、衛兵の装備に着替えたら、こちらに気が付かなかった。それどころか普通に会話にまで応じる始末だった。
そこで色々と情報を聞いたのだが、この城下町の些細な噂とか、実は王国騎士団に憧れてるとか、建国祭の準備の話とか。
更にはメイドのメアリーさんが可愛いだとか、それよりも騎士団に所属しているカーラとか言う女騎士の方が可憐だとか、兵士2人が論争してたので、俺は図書室を管理してるエマさんが知的で美人だ、と一押ししておいた。
まあ内容的にはただの雑談なのだが、そこそこ盛り上がったので楽しかった。
結局そのまま気付かれる事なく宿舎を後にして、再びお城に戻って来たのだが、今度は一階の厨房に勝手に侵入して、獲れる食材や調味料などを漁り始めた。
いや、だからさっきから本当に何やってるのコイツ!?
食材なんて肉屋で買ったのがまだあるんだから、わざわざ盗む事ないじゃん!!
しかし少女は聞き入れない、それどころか何処か鬱陶しそうな顔をされた。
いや、何だよその態度、不満があるのはコッチだわ!!
全ての食材を盗んだ訳ではないが、目に付くアイテムを物色して回った。お城の厨房だけあって肉や野菜など、個数もかなり有るから数個程度なら減ってもバレないかもしれないが、それでも罪を重ねる度に罪悪感に押し潰されそうになった。
“カルマの天秤”が、徐々に悪の方向に傾いているのを何となく感じた。
深夜にコソコソと忍び込んで、これじゃあ本当にただの泥棒じゃないか!!
更には明日のデザートと思われる美味しそうなスイートロールまで勝手に取ってストレージに収納した。
こんなの盗んだら確実にバレるだろうと念じて反論したが、それでも聞き入れて貰えなかったので、仕方なくストレージから自力で取り出してスイートロールだけは何とか元の場所に戻した。強く念じて説得したら納得したのか諦めたようだ。
でも何か不満そうに舌打ちをされたからスゴくムカついた。
いや、だからさっきから何だよその態度! 舌打ちしたいのはこっちの方だ!!
それにしても手慣れていて驚いた。この少女には罪悪感が無いのか?
俺を操っての行動だから、罪の意識や自責の念は特に感じないのだろうか?
いや、それでも人としてどうなの? ぶっちゃけ最低の行為だよ!?
しかも衛兵の宿舎と同様、まるでどこに何があるのか全て把握している感じで、スムーズに獲れるアイテムを躊躇わずに漁った。
それに俺の方もやっぱり何か既視感のようなものを感じるんだけど……以前にも同じようなやり取りをした気がする。
これはもしかしてギルドの宿屋で暗転して時間が飛ぶ時みたいに、画面の少女が何か不思議な力を行使してるのだろうか?
「そこに居るのは誰ですか? 厨房は立ち入り禁止ですよ!」
「!!」
そんな事を考えて油断してたら背後から突然声を掛けられた。
驚いて振り向くと、そこにはケープを羽織り、フードを深く被った見知らぬ若い女性が立っていた。
「あ、いや俺は、その……」
「見廻りの衛兵さんですか? もしかして勝手に盗み食いとかしてたんですか?」
あ、そうか、今は変装してるから俺の事をこの城の衛兵だと勘違いしてるのか。
よし、それなら返答次第では見逃してもらえるかも……
見た感じ料理人には見えないけど、この厨房を管理してる人か?
と言うかこの人多分エルフだな、フードで隠してはいるが、尖った耳が少し見えている。それにかなりの美人だ。浅黒い肌に銀色の髪がとても似合っている。
背後の少女も突然の出来事に戸惑っている様子だったけど、取り敢えず取り乱すのは不味い、落ち着いて返答をしよう。
「えっと、すまん、スイートロールの甘い匂いに誘われて、つい厨房に立ち入ってしまった」
「え、もしかしてアレ食べちゃったんですか!?」
「あ、いや大丈夫……です、思い留まったから、食べてはいないよ」
「そうですか、でも深夜に勝手に調理場に入って来られると困ります」
「ああ、城内の見廻りで小腹が空いてしまいつい魔が差して入ってしまった、直ぐに出ていくので許して欲しい、ゴメンなさい」
「分かりました、もし盗みや漁り行為を発見した場合、一応、上に報告する義務はあるのですが、未遂みたいなので今回は注意勧告だけにしときますね」
「あ、ありがとう、それじゃあ俺は見廻りに戻るとするよ」
「……そうですか、お勤めご苦労様です」
良かった、何とか切り抜けたみたいだ。
食材とか幾つか漁ったけど、この場で取り出して見せたら確実に咎められて報告されるだろうから、このまま大人しく立ち去ろう。背後の少女も流石にこの状況で留まるのは不味いと思ったのか、出口に向かって身体が動き出した。
「あ、ちょっと待って下さい」
「ビクゥ! な、なんでしょう!?」
引き止められて焦ったが、慌てて逃げる訳にも行かないので会話に応じる。
「いえ、空腹ならこれを差し上げますので食べて下さい、他の人には内緒ですよ」
「え、ああ、ありがとう……これは?」
「携帯食のカロリーバーです、レシピを開発途中なのですが試作品が余っていたのでもし良ければ、要らないなら別にあげませんけど」
「あ、いや助かります、貰えるなら有り難く頂戴します、それじゃ俺はこれで……」
思ったよりも親切で優しい人だ。
でもこれ以上絡まれたくないのでさっさと退散しよう。
スタスタ……
「あ、ちょっと待って下さい」
「ビクゥ! な、なんでしょう!?」
再び引き止められて焦った、まだ何か用があるのか!?
「いえ、出来たらこの場で食べて行ってくれません? まだ試作の段階なので味や食感などの感想を聞けたら嬉しいのですが」
「え、それは……」
「あー、もしダメだと言われたらショックで勝手に厨房に侵入したのを上に報告しちゃうかもしれませんね、あ、でも無理にとは言いませんよ」
「ぐぬぬ、何て断りずらい言い回しを……」
「ふふふ、さあさあ、どうします?」
◇
いや、何このキャラ? 前回この厨房を訪れた時はこんなイベント起きなかったんだけど、もしかして本当に時間帯によって発生するイベントが変化する感じ?
だとしたらリセット前に起きた事とそのまま全て同じって訳ではないのかな?
それに衛兵の厩舎でも前回はなかった会話イベントが起きて、ピヨヒコまで勝手に雑談に参加してたし。本当に意思があるならそんな事も起きるのかも? と無理やり納得したけど、ゲームなのにイレギュラーな展開が多すぎて困惑するわ。
と言うかまたしても只のモブキャラではない感じだけど、エルフの料理人?
衣装的には何か全体的に紫で、占い師とか王宮の魔術師って印象なんだけど。
しかも貰ったアイテムを食べるか断るかの選択肢まで出てきたし。
普通ならそのまま黙って食べれば良いんだろうけど、選択肢が既に怪しい。
もしかしてこれも罠か? ランタンの時みたく結果的に衛兵に捕まる展開になるなら断るべきかな……
いや、でも断ったら断ったで、何かしら難癖をつけられそうだし、どうしよう。
うーん、そうだな、取り敢えずセーブはしたから……
◇
「いや、美味しそうだけど、こんな深夜に食べると太るし、胃がもたれそうだから今は遠慮するよ、それにまだ見廻りの仕事もあるので、後ほど食べます」
「あら、意外ですね、まさか断られるとは思いませんでした、小腹が空いて深夜にコソコソと厨房に侵入してたとは思えない返答ですね、まあ私は別にそれでもいいですけど、少し残念です」
「くっ、それはスイートロールの甘い匂いに誘われたからであって、いや、厨房に侵入したのは事実だし見苦しい言い訳は止めるけど……取り敢えず俺はもうこれで立ち去るけど問題ないかな」
「ええ、構いませんよ……あ、因みに貴方のお名前は?」
「い、いえ、名乗る程のものでもない只の一介の見廻りの兵士であります」
「そうですか、もういいですよ、呼び止めてしまいコチラも申し訳なかったです」
そのまま挨拶を済ませて何とか厨房を出た。何かヤバそうな雰囲気を感じたので少し緊張した。
個人的にはそのまま食べても良かったんだけど、背後の少女も何処か警戒してるのが伝わってきたので貰った携帯食はストレージの中にそのまま封印した。
まさか毒とかは入ってないと思うけど、変な味付けで腹でも下したら大変だ。
と言うかあのエルフ? は何者だ?
どう見ても料理人には見えなかったし、アッチはあっちで厨房に勝手に侵入して来た不審者とかなんじゃないのか? フードで顔も隠してた感じだし。
いやでもスイートロールが置いてあるのを知っていたし、関係者ではあるのか?
まあこれ以上関わりたくないから立ち去ろう、また拘束されても厄介だしな。
あれ、“また”って何だ? うーん、何かやっぱり奇妙な既視感があるな。
ふと背後を振り向き、画面の少女を見てみると誤魔化すように目を背けられた。
何か怪しい、これまでの行動も含めて段々と不信感が溜まる一方なんだけど。
◇
いや、やっぱり罠だったか。
まさかそのまま食べたらピヨヒコが的確に味の感想を言い出して、このキャラに気に入られて、他の携帯食の試食も勧められて意気投合したと思ったら、新レシピ考案の手伝いクエストにまで発展するとは……
何か料理人とか美食家の才能があるとか褒められたし。
貰った携帯食のカロリーバーは普通に甘いお菓子みたいな感じで、食感も良く、更には即効性のバフ効果も付く優れものだったけど、雑談が始まってかなりの時間拘束されて、結果的には衛兵に見つかった時と同じくらいのペナルティーだった。
多分このキャラの好感度に影響するサブイベントとかだったんだろうけど、今はタイミングが悪い。流石にそのまま進めるのは嫌だったので、緊急手段を行使して選択肢を変えた。
でもこれ便利だけどあまり使い過ぎるのは良くないよな、それにやっぱり面倒だからなるべく自重はしよう。
その後は楽勝だった。本来なら中央のホールの巡回の衛兵に見つかるとアウトなのだが、兵士の宿舎で手に入れた”衛兵の装備一式”に着替えると疑われる事もなくそのままフリーパスな状態になる。それにここでも会話は可能だったりもする。
おそらく救済アイテムなんだろうけど、実はこれにも罠があって、二階の衛兵には不審に思われ質問、と言うかクイズを出されて、正解しないとそのまま捕まる。
答えのヒントは宿舎や一階を巡回してる衛兵達と会話することで分かるようにはなっているようだが、時間も掛かるし面倒なのでそんなの覚えてられない。
しかも不正解だと衛兵の装備を没収されたので、今回は階段の踊り場でいつもの装備に戻す事にした。そうすれば例え見つかっても没収はされないだろう。
それに一式装備すると重量デバフに引っ掛かり、微妙に移動速度にも影響したからコソコソ忍び込むならいつもの装備の方が適してるのだ。
それと中央ホールのクルクル回る衛兵に合わせて動くと、先に辿り着くのは右の階段なのだが、そのまま上がるとその先に衛兵が待ち構えて居て、質問されたので左の階段から上がる必要があるようで、何気に理不尽な罠が多い仕様なんだけど。
三階に上がれたとしても情報収集くらいしか出来なそうなのに厳重な警備だ。
前回の失敗は生かせてるけど、これ初見じゃ一発クリアとか無理そうだよなぁ。
宿舎でお城の地図を手に入れたら”ミニマップ”が表示されるようになったから、移動は迷う事なく楽にはなったけど、深夜だからか入れない部屋も多いようだし。
最初はランタンの罠で、2回目はホールで油断して見つかって、3度目は宿舎に立ち寄り変装したけど階段の罠にハマって質問されて、4度目は他にも何かないかと厨房を探索してから、ホールの衛兵を上手く避けて二階には上がれたけど、機敏な動きをする衛兵に見つかり、5度目も同じく右の通路を巡回している最後の衛兵に追い詰められて、結局は見つかった。
捕まる度に同じ台詞を言われて、暗転して部屋に戻されるので正直ムカついた。
それで回数制限があったのかクエスト失敗になり、メアリーの添い寝イベントのフラグが立った感じだ。
取り敢えず少しズルはしたけど、今回は実質的にはまだ1回目なので、出来たらこのままクリアしたい。
とは言え最後の衛兵が一番の難所なんだけどね、あんなの避けきれないし。
まあ前回よりはかなり気が楽だし失敗しても何か攻略法が見つかれば良いかって気持ちで挑むとしよう。
でも何かピヨヒコのこちらを見る視線が段々険しくなってる気がするんだけど、きっと気のせいだよね? 操られて不満があるのは分かるけど、そう言うゲームの仕様なら私も遠慮しないで遊ぶだけだし……なので文句を言われる筋合いはない!
またいつか唐突に話し掛けてきたりもしそうだけど、その時はその時だ。
◇




