第40.5話 おまけ回 メアリーとアルマ
添い寝イベントでの2人のヒロインの心境の補完になります。
おまけ回なので、今回は殆ど地の文での展開になります。
「いや、どうするも何も……それじゃお願いしようかな」
それは私にとって予想外の返答だった。
サウナで逆上せたネムさんを部屋まで送り、残っていた雑務を済ませていたら、就寝前に衛兵長さんから勇者様に城内を徘徊しないよう伝える様に頼まれたので、話の流れで冗談のつもりで添い寝の提案をしたらこの返事である。
いや、どうしよう……内心は焦りつつも平静を装って返事をして、私も準備して来ると伝えて部屋を出たけど、これって、俺も君と一緒に寝たいって言われたのと同義だよね!? も、もしかして勇者様は添い寝以上の事も期待してる感じ!?
な、なんで? 今までは速攻で断ってたのに、しかも若干フェイントを掛けつつ了承して来たよ? いつの間にそんな駆け引きが出来るようになったの!?
と、取り敢えずあまり待たせる訳にも行かないから、必要な物を用意しよう。
安眠を促す為にアロマの小瓶は用意したけど、以前ミランダ様に戴いた興奮作用を促すタイプの小瓶もあるから、こちらを間違えた事にして渡す手もあるけど……これを使えば、あの臆病だったピヨヒコ君だって性的欲求が刺激されてきっと我慢出来なくなって、私の事を求める筈だ。
でもこんなアイテムに頼っても良いのだろうか? 本当に私の身体を求めて了承したなら、こんな小狡い真似などしないで、私も覚悟を決めて一夜を共にしたい。
もしかしたら本当に眠れないから話し相手のつもりで添い寝を希望したのかも?
それなら私も変な期待などしないで、メイドとしての役目をこなすだけだ……
で、でも念の為に、武器と一緒に空間魔法で収納して用意はしておこうかな……
それに私も一応パジャマには着替えておこう。流石にメイド服のままだとムードも無いし、積極的にアプローチすれば、勇者様もその気になるかもしれない。
はぁ、私は何をそんなに浮かれているんだろう。
もっと自制心をコントロールしないと。
それに期待し過ぎると、また”あの時”と同じ失敗をしかねない。
少し緊張しつつ部屋に向かうと、その途中でアルマさんと偶然鉢合わせした。
普段こんな深夜に会う事なんてないから、寝巻き姿で城内を出歩くなんて珍しいですね、とか言われたけど、まさか勇者様の部屋に向かっているとは微塵も思ってないようだ。途中で違和感を感じたのか、何か言いたげな表情をしてたけど、その困惑した顔を見てると、ついつい意地悪したくなる感情が湧いてくる。
話しを暈しつつ経緯を伝えたら、何かめっちゃ睨まれた。そんなあらか様な嫉妬と敵意を向けられると、私も対抗心が湧いちゃうじゃないですか……
アルマさんがピヨヒコ君を好きなのは知ってるけど、私も恋のライバル宣言までしたので、このチャンスをみすみす逃したくはない。
これは勇者様が望んだ事なんだと強調したら、何か泣きそうになってた。
少し可哀想だとは思ったけど、私も望まれた以上はそれに応えるつもりだ。
と言うかアルマさん感情豊かだな。昔はこんなじゃなかった気がするけど。
それだけ勇者様の事が好きって事なのかな……
その気持ちは大切にして欲しいけど、過ぎた好意は、執着や依存にも繋がるからあまり良い傾向ではないとは思うんだけど。
まあ人の事は言えないし直接そんな事を伝えても、邪険にされるだけだろうから黙ってよう。
コンコン……
部屋をノックしても返事が無かったのでドアを開けると、既にランタンの灯りが消えて部屋は暗かった。
もしかして私は勇者様にからかわれたのだろうか?
一抹の不安を感じていると、それを横目で見ていたアルマさんが、あらあら残念でしたね、勇者様もきっと思い留まってくれたんですね、とでも言いたげな表情でコチラを見ていたので、少しイラッとしたけど無視して呼びかけた。
すると普通に寝たふりをしていたので、思わず吹き出しそうになった。
誤魔化さないで気が変わったとでも伝えてくれればコチラも引き下がるのに……そんな下手な演技で騙せるとでも思ったのだろうか?
でも何か子供っぽくて少し可愛いとも感じた。
そのまま部屋に入ろうとしたら、アルマさんが無言で制しようとしたけど、それを笑顔でスルーしてそのまま入った。当然ドアも直ぐに閉めた。
その時のアルマさんの表情が何とも言えず、少し嗜虐心みたいなものを感じた。
ああ、その今にも泣きそうな顔、見てると何かゾクゾクします。
もしここでアルマさんが、自ら部屋に入って来てまで邪魔するなら、私も素直に諦めようと思ったけど、深夜に大声を出してまで止める度胸は無かったようだ。
その躊躇が自分を苦しめる事にもなるのに、これが戦闘なら致命的なミスだ。
そんな訳でアルマさんの事は一旦忘れて、添い寝の相手をする事にした。
もちろん気が変わって寝た振りで誤魔化した可能性もあるから、聞いてみて拒否されたら大人しく引き下がろう。
だがそうはならなかった。それなら私も全力でその気持ちにお応えしよう。
気配察知のスキルを使ってみたら、隣の部屋の壁際に人影を感じた。
どうやらアルマさんは壁に聞き耳をしてコチラの様子を伺ってるようだ。
そんなに気になるなら、アルマさんも一緒に部屋に入れば良かったのに。
私としては別に2人で勇者様のお相手をしても構わなかったんだけど。その方が個人的には楽しめそうだし。
まあ壁越しにアルマさんに聞かれながら、そんなエッチな展開にでもなったら、それはそれで少し興奮はするけど。
でも流石にアルマさんも、そうなる前には止めに来るかな?
色々と質問をされたけど、10歳の誕生日の時にも同じような会話をした記憶があるから、本当に勇者様は記憶喪失なんだと認識させられた。
でもおねしょの思い出と一緒にこの日の記憶を思い出した可能性はあるのかも?
まあ当時のピヨヒコ君に取って、あまり良い思い出ではないかもしれないけど。
それに私にとっても少し甘酸っぱくて苦い思い出ではあるし。
その後、魔王軍の大規模侵攻で英雄ジークフルド様を失い、その後は教会で過ごしてたらしいけど、その間も会う事はなかった。私の事なんてその時は既に忘れてしまってたのかもしれない。必要とされてないならコチラも望まない。
そんな性格だから私から会いに行く事もなかった。
それでも半年くらい前に教会から行方不明になったと聞いて、暗部の一員として私も何度か捜索に出た。でも結局は見つからず、安否も不明で不安になった。
そしたらつい先日、勇者様がお城に訪れたと聞いて無事が確認された。
何があったのかは分からないけど心から安堵した。そして16歳の誕生日も差し迫っていたので、勇者の任命の儀も取り急ぎ行われる事になった。
その際にも顔を合わせたけど、その時のピヨヒコ君は使命に囚われて、追い詰められているような、ギスギスした空気を出していたので近寄り難かった……
久し振りの再会で私は嬉しかったけど、向こうは本当に私の事なんて既に忘れているようで正直ショックだった。
まあ会って交流したのが一度だけだったから、それが普通の反応だと思うけど。
それに、私があの時のメイド見習いだと気が付いてない可能性もある。
それでも記憶を失った勇者様と、こうして色々と話をしていたら、当時の素直なピヨヒコ君の面影を感じて嬉しくなり何処か安心した。
不謹慎な事だけど、記憶を失った今の勇者様の方が私は好きだ。
なのでなるべく積極的にアピールする。添い寝を促したら疲れているなら一緒に寝ても良いとお許しが出たので、緊張しつつ勇者様のベットに潜り込んだ。
おそらく私が座っていた方のベッドで寝てくれと言う意味だったんだろうけど、ちゃんと云わなかった勇者様が悪いんだ。
内心ドキドキしながら自分にそう言い聞かせた。パジャマ越しでも密着して身体が触れ合うと、心臓が高鳴りだんだんエッチな気分になってくる。
吐息が漏れると、ピヨヒコ君がそれに反応して緊張しているのが伝わってくる。
アルマさんには悪いけど、ここで一気に畳み掛ける。この機会を逃したら、もう二度とこんなチャンスは訪れないかもしれない。
「もし望むなら、そのまま貴方の好きなようにしても良いですよ」
小声で隣の部屋には聞こえない様に、耳元でそう囁いた。
§
メアリーがパジャマ姿で勇者様の部屋に入った。何と言う事でしょう。
それにあの憎たらしい笑顔、何なのあれ、私の事を煽ってるの!?
サウナを使ってたらネムちゃんが逆上せて倒れたけど、エマさんから伝言を受けたのでお風呂を上がってから、そのまま三階の王族の部屋に向かった。
ネムちゃんの事は心配だったけど、メアリーが脱衣場の休憩スペースで少し休ませてから部屋まで送ってくれると言ったので、申し訳なかったけど任せた。
エマさんも暫く休憩スペースで付き添うとは言ってたので多分大丈夫だろう。
お城の三階の一室。近況報告も兼ねて久し振りにまともに話したけど、やっぱり少し緊張した。いや、本当ならそこまで緊張する間柄でもないのだけど、お互いに頑固な性格だから仕方ない。
それに隣の部屋がマルクス様の寝室なので、もしかしたらシルビアさんも一緒に居るのかと変な妄想をしてしまい余計に緊張してしまった。
これでもし隣から喘ぎ声でも聞こえてきたら気まずいなんてもんじゃない。
でも特に何もなく私の杞憂に終わった。そもそも王族の寝室は密談とかにも使われるので、防音対策はしっかりしてるから、ドアに盗み聞きのスキルでも使わなければ隣の部屋の声なんてまず聞こえないだろう。
用件も済んだので部屋に戻ろうとしたら、その途中でメアリーと遭遇した。
どうやらネムちゃんの事はちゃんと部屋まで連れて行ってくれたようだ。
それに何故かパジャマ姿なんだけど? 就寝時間は過ぎてるしもう寝るのかな?
メアリーが寝巻き姿で城内を出歩くなんて珍しい……と言うか初めて見た。
幼い頃から彼女の事は知ってるけど、パジャマ姿のメアリーは普通に可愛くて、それに何か妙な色気を感じた。
今年で16とは言ってたけど身体はもう立派な大人の女性にも見える。
何気に私よりも身長も高くて足もすらっとして長いし、胸の大きさだけなら私の方が勝ってるけどあまり嬉しくない。正直メアリーのしなやかな体型が羨ましい。
そのまま少し会話しつつ歩いていたけど、何か向かってる先が同じなんだけど?
そもそもお城に勤める兵士や給仕さん達が寝泊まりする宿舎は、確かお城の外の敷地にあったはずだけど、パジャマ姿でここに居るって事は、寧ろ宿舎から城内に来たって事になるんじゃないだろうか?
それじゃあメアリーは何の目的でここに居るの!? 疑問に思いそれとなく問い詰めたら、あろう事か勇者様に添い寝を提案したらしい。しかも断られずに色良い返事を返されたらしい……え、嘘でしょ?
何で!? どうして!? 困惑してたらあっという間に部屋に着いてしまった。
少し緊張しつつも何処か期待しているような、そんな楽しそうなメアリーを忌々しげに睨んだら、これは勇者様が望んだ事なんだと強調された。
なによそれ……勇者様が、そんな事……ぐすん。
しかしメアリーがドアをノックしても返事は無かった。部屋を開けると既に灯りは消されていて勇者様はもう寝ているようだった。
良かった、きっと我に返って思い留まってくれたんだ。メアリーの事は少し気の毒だとは思ったけど、そんな抜け駆けして添い寝のお誘いをした罰よ。
反省なさい、無言でそんな視線を送っていたら、あろう事かそのまま暗い部屋に歩いて行くではないか……ちょっとメアリー? 何をしてるの!? 勇者様は既に寝てるのよ? 制して止めようと思ったらその前にメアリーにドアを閉められた。
しかも何よその人を小馬鹿にしたような不敵な笑顔は、憎たらしい!!
信じられない。何て人なの!? まさか寝てる勇者様のベッドに潜り込む気!?
どうしよう、このままだとメアリーが勇者様に夜這いを仕掛ける。
直ぐに止めないと。そう思いつつも何故か足が竦んでしまった。
ドアを開けるのを躊躇っていると、中から話し声が聞こえた。どうやら勇者様もまだ寝てはいなかったようだ。ドア越しに少し聞こえた感じだと何か質問していてそれにメアリーが答えているようだ。
私もよく勇者様に質問されるけど、同じようなやり取りで少し安心した。
でもこんな状況だと余計に部屋に入りづらくなった。
巡回している衛兵さん達も居るし、このままずっと廊下でドアに聞き耳を立てる訳にもいかないので、取り敢えず隣の自分の部屋に入る事にした。
そして即座にベット際の壁に聞き耳を立ててみたけど、やはり盗み聞きのスキルがないとそこまで話している会話は聞こえないようだ。
と言うか、私は何でこんな真似をしてるんだろう……
自分のしてる行為を改めて認識すると、何かスゴく恥ずかしくて、みっともない気分になった。こんな事がもし勇者様にバレたら嫌われるに違いない。
それでもやっぱり気になるから聞き耳は続行する。要はバレなきゃ良いのだ。
もしメアリーが同じベッドで添い寝をして、更にはそれ以上の行為を始めたら。
勇者様の方も受け入れて、もしそれが切っ掛けで、メアリーを好きになったら。
そう考えると胸の奥がチクリと痛み、何かスゴい嫌な気分になってくる。お昼にも同じような気分になったけど、もしかしてこれが嫉妬って感情なのだろうか?
それから暫く会話が途切れる事なく聞こえて来たけど、どうやら10歳の誕生日の話題をしているようだ。そう言えばメアリーも記憶を失う前の勇者様と一度だけ会った事があると言ってたけど、それがその誕生日の事だったのかもしれない。
もしかしてメアリーはその頃から勇者様の事をずっと好きだったのかな?
もしそうだとしたら、スゴく純粋な恋心だとは思うけど……
あれ、というか何か今、初恋とか言う気になるワードが聞こえたんだけど!?
それに良くは聞こえないけど、他にも何か話してる……
「それじゃあ……します? もう……なら私もこれ以上は……したりしないので、一緒に添い寝だけ……しても良いですかね?」
「また然りげなくそういう事を……し、う……、でもまあそれなら……良いけど」
「え、本当ですか? 私の事を受け入れてくれて嬉しいです」
「あ、でも、その代わり……」
『ドンッ!!』
その言葉を聞いて、思わず壁を叩いてしまった。
やってしまった。今のは隣の2人にも聞かれた。つまり私が壁に聞き耳を立てて隣の様子を伺ってた事もバレる。つまりは……勇者様に軽蔑されて、嫌われる!!
どうしよう、どうしよう、どうしよう……
§
アルマさんが壁を叩いて妨害して来た。添い寝のお許しがでたので思わず喜んで大きな声を出してしまったからそれに反応したようだ。
そしたら勇者様が隣のベッドでなら良いと付け足したので、浮かれてはしゃいだ自分に対して、思わず吹き出しそうになった。
アルマさんの方も思わず釣られて壁を叩いた感じだったから、それにも少し愉快な気持ちにはなったけど、勇者様に気配察知のスキルの質問をされて、思考してた事を見事に言い当てられて少し驚いた。
でも別にアルマさんの事を煽りたくてこんな真似をしてた訳ではないけど。
純粋に勇者様ともっと親しくなりたいってのが一番の理由だし。
それに嗜虐心って、そんなピンポイントな感情までよく言い当てたものだ。
話を聞くとピヨヒコ君からしたら、あの日の出来事はトラウマだったようだ。
そんな酷いわ、私の方はとても楽しくて素敵な思い出だったのに。
そりゃ勇者様の資質を見極める為にもう少し話がしたくて、無理やり女湯に連れ込んで服を剥ぎ取ったし、更には途中からミランダ様まで乱入して来て、色々してたらピヨヒコ君が興奮しておっきくなったおちんちんも見たけど。
その後も部屋で……うん、今考えたらそこそこ酷いことをしてたかも。
それよりも今はアルマさんをどうするかだ。このまま無視をすると勇者様も巻き込んで険悪な空気になりそうだし、いっその事アルマさんも交えて話すかな。
そんな事を思案してたら、何でそんなに慕っているか聞かれたので、本心を少し誤魔化して、半分は本気だと伝えたら、逆にカウンターを食らい、ドキっとした。
そう言う素直なところは、あの頃と変わらなくてちょっと狡いと感じた。
『ドンッ!!』
そしたらまた壁を叩かれたし……今度は意図して妨害してる感じで少し呆れた。アルマさんなりの抵抗行動なんだろうけど、そんな態度だと勇者様に嫌われるよ?
云いたい事があるなら私や勇者様に直接言えばいい。気持ちは言葉にして伝えないと伝わらないんだから、相手にいつか察してもらえるなんて、そんなの甘えだ。
それで私はこの6年間、ずっと後悔したんだから。
§
うー、勇者様のバカぁ、メアリーも酷いよ、私が聞いてるって分かっていながらそのまま無視して、しかもあんな仲良さそうに会話を続けて……
それに私も、邪魔したくてまた壁を叩いて、何て嫌な性格なんだろう。
聞き耳を立ててまで2人を監視して、勇者様の立場からしたらこんな卑屈な女、好きになるはずがないのに、メアリーにもきっと呆れられた。
そんな風に自己嫌悪に陥ってると、更に隣から変な声が聞こえた。
「あん、勇者様、いきなりそんな大胆な事を、でも受け入れてくれて嬉しいです」
ふぇ!? 何この声!?
「ああ、でもそんなに逞しいの、そんなに激しくされたら、壊れちゃいますー」
ちょっと待って、嘘でしょ!? この状況で始めちゃったの!?
いや無理、これ以上は聞いてられない。嫌だ、絶対にそんなの許さない!!
『ドン! ドン! ドンドドン!!』
「ひぃ!?」
思わず連続で壁を叩いたら勇者様の悲鳴が聞こえた気がしたけど耳に入らない。
そのまま嫉妬と思われる感情に従い身体が勝手に動いて隣の部屋に駆け込んだ。
ガチャ、パタパタパタ……
『バタンッ!!』
「ア、アルマ……その、これは」
驚いている勇者様を傍目にメアリーに詰め寄る。
「メアリー、勇者様に露骨な誘惑するなと言ったでしょ、今すぐ離れなさい!!」
「もう離れてますよ、はい釣れました」
「なっ!?」
目の前には、それぞれ違うベッドに座っている2人が居た。
ランタンの灯りも付いていて部屋も明るかった。
どうやら私はメアリーの演技に騙されたらしい。まだ何もしてなかったと分かり安心したのと同時に、聞き耳していた事を咎められると思い慌てた。
でも勇者様は特に咎める事もなく私の事を許してくれた。何て優しい人だ。
そしたらメアリーが2人の為にこんな真似をしたとか言い出してムカついた。
反論したら勇者様に落ち着けと宥められたけど、まるで家畜を宥めるような言い方をされたので更にムカついた、私は魔馬じゃない! 何て優しくない人だ。
もう知らない!! そう思いこの場から逃げようとした。
そしたら勇者様に無理やり拘束されて、強引にフローラルの香りを嗅がされて、気分が落ち着いた。その後あろう事かメアリーの隣に座るように促された。
不満だったけど私にも落ち度はあるので大人しくメアリーの話を聞く事にした。
理由を聞いたら何やら女性の冒険者が加入したら、私が嫉妬するとか、訳の分からない事を言い出したのでそれを否定したら、勇者様に対して恋心を抱いてる事をバラされた。ちょっと、何で勝手に人の気持ちをバラすの!? 酷くない!?
その後もなんやかんやあり、メアリーの意見に便乗して勇者様を問い詰めた。
私とメアリー、どちらを選ぶのか? この人は私達の事をどう考えているのか?
こんな深夜にそんな詰問をされるのは酷だろうけど、その答えに興味はあった。
でも結局は望んでいた答えは聞けなかった。
それでもちゃんと悩んで考えてくれてたので誠意は感じたし、それだけで嬉しい気持ちにはなった。
それにそんなのは最初から分かっていた事だからそこまで期待はしてなかった。
私だって同じ事を聞かれたら、恋愛よりも与えられた使命を優先するとは思う。
その為に今まで自分なりに努力してきたし、この人に対して恋心を抱いてる事に気が付いてもお互いの使命の妨げになるのなら、元よりその気持ちを伝えるつもりなんてなかった。自分だけの秘密として、ずっと心に留めておくつもりだった。
でもその恋心をメアリーにバラされた時に、私の気持ちに薄々気が付いてたとか言われて驚いた。そんなに態度に現れてただろうか? いや、そんな事ないよね?
しかし思い起こすと、勇者様がネムちゃんの容姿を褒めた時には、確かに複雑な気分になってムカムカして頬を膨らませて怒ってた気がする。
それに図書室での話が終わった時に、勇者様がエマさんの事を気遣うような言葉を掛けた時も、私も惚れちゃいそうです、とかエマさんが言ったから、それに対しても何となく嫌な気分になった気がする……
と言うか、私”も”ってどう言う意味?
もしかしてエマさんは私の勇者様に対する恋心に気付いてたの?
そ、そう言えばメアリーもお風呂でそんな事を言ってたような気がする。
だとしたら、いつも人の心を読んだかの様に振る舞うマルクス様や、他人の恋愛感情とかに聡そうな秘書のシルビアさんにも筒抜けだったりする?
あれ、これもしかして、あの場にいた皆にバレてた感じ? 嘘でしょ!?
うう、何かそう考えると軽率な態度をしていた自分がスゴく恥ずかしい。
確かにメアリーが言った様に嫉妬は私もあまり良くない感情だとは思う。
こんなんじゃ本当に新しい仲間が加入しても仲良く出来ないかもしれない。
それに、シルビアさんと同類の扱いをされるのは何か嫌だ!
今後は自制心を持ち、この感情をコントロール出来るよう努力しよう。
そして使命を果たして、勇者様がいつか私に振り向いてくれるならその時は私も自分の気持ちに素直になろう。それまではこの恋心は内に秘めておこう。
まあ既に勇者様にバレたんだけどね……もう、メアリーのバカァ!!
§
アルマさんと一緒に勇者様を問い詰めたら、結局は答えを保留された。
元々ずっと避けられていた私の方は実質フラれたようなものだろう。
仕方ないから諦めよう。そう解釈しないと気持ちを切り替えて次に進めない。
アルマさんは一応その答えに納得してたみたいだけど、私としては正直どちらか選ぶか、2人とも選ぶか、もしくはきっぱり断るか、決めて欲しかった。
直ぐに答えが出ないのも分かるけど、ハッキリと断ってくれないとまたいつまでも未練を引き摺る事になる。私は自分のそう言う嫌なところを理解している。
でもあまり問い詰めて困らせる訳にもいかないので、無理やり笑顔を作り、私もそれで問題ないと伝えた。
本当は私も冒険者の名簿には条件次第だけど登録してあるから、もし切っ掛けがあれば、仲間として勇者様にお仕えする事も出来るけど、そんなのはいつになるか分からないし、それにもし抽選で選ばれて名刺を交換しても勇者様が私の事を必要としなければ、そのまま放置されて惨めな思いをするだけだ。
今までずっと避けられてたんだから、その可能性は大いにありうるだろう。
私は誰かに必要とされる事を喜ばしく感じる性格だ。幼い頃から暗部として技量を磨きメイドとして色々と習ってきたけど、精神面はそこまで鍛えられなかった。
誰かに褒められたい、必要とされたい、認めて欲しい、ずっと側に居て欲しい。
そんな面倒な性格だから、私はその本質をずっと心の内に隠して生きてきた。
そんな私の本心を、あの日のピヨヒコ君は生意気にも見事に言い当てた。
それは自分も同じだと言ってきた。勇者としての使命感を当時の彼がどのくらい感じていたのかは分からないけど、接してみたら卑屈になることのない、真っ直ぐな資質を感じ取り、私とは全然違うと反論したくなった。
と言うか反論した。だったら君がずっと一緒に居てくれるの?
とか、柄にも無い問い掛けまでしてしまった。
そしたら、分かった、俺でよければ一緒に居るよ。とか言われて戸惑った。
今考えるとその言葉が”初恋”の切っ掛けだった気がする。
何なのこの人!? そんな簡単に告白みたいな言葉をかけるの?
実はナンパ野郎なの? とか思いつつも何故かすごく嬉しかった。
そしてお互いの悩みとか打ち明けたら、勇者様は魔物に対して恐怖心があるような事を言ったので、克服出来るよう戦闘の体験談なども交えて色々と語った。
私としては戦闘の楽しさをもっと知ってもらいたかったので熱弁した。
するとどうした事だろう、ピヨヒコ君の顔色が青ざめていくではないか。
しかしその時は幼いそんな勇者様の心の機微にまで気が付くことはなかった。
その結果があの、翌日のおねしょの世界地図である。
どうやら勇者様は過去に魔王軍に国を壊滅させられる壮絶な体験をして、それがトラウマになっているようで、見事にその心の傷を抉ってしまったようだ。
その頃の私は自分の事で精一杯だったので、そこまで配慮が出来なかった。
だって同い年の男の子と接する機会なんて殆どなかったし色々話してたら楽しくて、おまけに告白みたいな事まで言われてテンションが上がってたんだもん。
それにしても10歳でお漏らしをして、それを家族や親戚一同にバレたのか。
確かにそれは思春期の少年にはキツイ出来事かもしれない。
お風呂で逆上せてたから水分を多めに飲ませたのも要因だったのかもだけど。
しかもそれが切っ掛けで、その日以降ピヨヒコ君にずっと避けられたし。
そのままあの時の口約束も反故にされてしまったみたいだし。
と言うか、記憶喪失も相まって今の勇者様も都合良く忘れてる感じだし!
避けられたのは自業自得ではあるけど、でも何か納得が出来ない。
自分の言ったセリフには責任を取って欲しい。忘れるなんて酷い!!
私はあの時の言葉のせいで、ずっと片想いをする羽目になったのに。
本当はいつかこの人と一緒に冒険が出来たら楽しいだろうと思った。
身近で勇者様を支える使命を与えられたアルマさんが羨ましかった。
本当に嫉妬していたのは私の方だ。
でもメソメソするのは私の性分ではないので、答えを保留にはされたけど、このまま2人で勇者様と添い寝しないかと、アルマさんに小声でヒソヒソと提案した。
そしたら強制的にアルマさんに連れて行かれて無理やり退室させられた。
まあアルマさんの性格ならそうなる事は分かってはいたけど、私の方は期待していたのに結局は何もされなかったから欲求不満な状態なのに!!
§
ハァ、今日一日は色々な事があって精神的にも疲れた。
やっと落ち着いてベッドで寝れる……と思ったのに。
何でメアリーは私の部屋にまで着いてくるのよ!!
しかも何で私のベッドに潜り込んでるのこの子!?
寝るならせめて隣のベッドで寝てくれない!?
え、なに? 人肌が恋しいからフラれた者同士で一緒に寝よう?
何を言ってるのよ、そもそも私は別にまだフラれた訳ではないし。
あ、ちょっとどこ触ってるのよ、あーもう静かに寝させてよぉ!!
こうして長い一日は終わりを迎える。
恋愛ゲームの要素は取り敢えず今回で一区切り。
リセットされたけど内面的にはオートセーブはされたので
本人達に自覚はないけど深層心理に記憶の維持はされてます。
妙にリアルな夢を見た感じになります。なのでアルマは嫉妬を
自覚して、自制心をコントロールするよう心掛けるので今後は
頬を膨らませる事は多分減ります。ぷくぅ……
流れ的にも話が停滞してるので、お城訪問が終わったら今後は
冒険やギルドのクエストをメインにサクサク展開する予定です。
モチベ次第ですが……投稿は不定期にはなります。




