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第40話 ドキドキ添い寝イベント 後編

『ドンッ!!』


 メアリーとベットの上で色々と話していたら言葉を遮るように轟音が鳴った。

 まさか敵襲!? 深夜にも関わらず魔物の軍勢が攻めて来たのだろうか!?


 いや、そんな事はない。実際はこの部屋の左側の壁から何故か聞こえたのだ。


「え、なに今の音!?」

「さあ、なんでしょうねー」


 突然、壁から音がした。まるでイチャつくカップルに苛立ちを感じた隣の住人がドンッ!! と壁を叩いたような感じだった。


「また添い寝の提案をされたから、隣のベッドでなら一緒に寝ても良いよ、と妥協しようと思ったんだけど、え、なにこれ? 隣の部屋から誰かが壁を叩いた!?」

「……っ」


 あれ、何か笑いを堪えてる!? あ、もしかしてこれって……


「あの、メアリー、もう1つ気になってた質問があるんだけど……」

「はい、何ですか勇者様?」


「メアリーって、もしかして”気配探知”とかのスキルが使えたりする? お風呂の時もやたらと女湯の状況を説明口調で俺に伝えてるようにも感じたんだけど?」

「!!」


 どうやら今の反応を見ると、俺の予想は当たっていたようだ。

 と言う事はもしかして、今の音の原因は……でもそんな事あるのか?


「……どうなんだ?」

「ええ、アサシンと言うか盗賊や斥候でも覚えられる”気配察知”のスキルなら私も使えますけど、でもお風呂に関しては勇者様の考え過ぎじゃないですかねー」


「語尾がさっきから怪しい、それにもしかして俺の事を試してた本当の理由って」


 これまでの状況から推理して、ピヨヒコは隠された答えを導き出す。


「隣の部屋に居る”アルマ”を煽っていた? その理由はアルマの俺に対しての恋心みたいなものを感じ取って嗜虐心をくすぐられたとか? それにメアリーも、俺に好意を抱いてると言ってたからアルマに対抗意識とかも密かに感じていて、更にはこのタイミングを逃すと誘惑する機会もなさそうだから今回の添い寝の提案をして俺が受け入れたから、それに乗じて俺がメアリーの事を抱くかどうか試しながら、なお且つ、隣の部屋のアルマの反応を伺っていた感じ!?」

「!!」


 そう、隣の真ん中の部屋には確かアルマが居たはずだ。


 ネムに部屋を選んでも良いと提案した時に、俺はそのまま右の部屋を使ったからアルマは残った部屋を選んだけど、俺が支度をして出た時には、ネムとブックルは自分達の部屋の前で待ってた気がする。その後3人で会話してたら遅れてアルマが俺とネム達の間の部屋から出てきたんだ。


 ネムがどの部屋を選んだかうろ覚えだったけど、位置的にそれで合ってたはず。


「……流石ですね勇者様、殆ど正解です」

「わーい、当たったー、じゃなくて、それならもしかしてアルマの方もずっと隣の部屋でこちらの様子を伺ってたの!? 一体いつから?」


「最初からですよ、私がパジャマに着替えてからこの部屋に来る間にアルマさんと偶然ですが鉢合わせしましたから、私用があって個室から出てたみたいですね」

「えぇ!?」


 それならアルマはこのやり取りを隣の部屋で壁に聞き耳を立てて、ずっと聴いてたって事!? なにやってるの!? いや、聞き耳に関しては俺も身に覚えがあるからアルマの事はあまり責められないけど。


 それに壁ドンはもう既に止まってるし、隣の部屋に乗り込んで、無理やりアルマを連れてくる訳にもいかないので、手の打ちようがない。

 取り敢えずメアリーにはまだ聞きたい事もあるから先にそれを問い詰めよう。


「お風呂でもその気配察知のスキルで、俺が女湯の方が騒がしかったからドギマギしてたのを感じ取り、その様子を伝えて俺の反応を楽しんでいた感じ?」

「それは違いますよ、勇者様が女湯に興味津々に聞き耳を立てていたので、メイドとして勇者様のサポートをしていただけです」


「いや、それ言い方が違うだけで結局は反応を見て楽しんでるよね!?」

「そんな事ないですよー」


「くっ、白々しい……」

「それに嗜虐心なんて言い方、酷いですよ、それじゃまるで、私が獲物を傷付ける事を好んでしているみたいじゃないですか」


「いや、だって過去の話をしていた時に自分で言ってたじゃん、俺のオドオドした態度を見て何か苛めたくなる感じですね、少しゾクゾクします、とか言ってたし」

「そうでしたっけ?」


「それにお風呂の時だって、無理やり服をひん剥いて辱められたし、その後の部屋でも魔物に対して、斬った時の感覚が堪らないんですよね、とても快感です、とか熱弁していたし、そのせいでこっちは怖い夢まで視たんだからな!!」

「本当に見事な世界地図でしたよね……くすくす」


「やめてぇ、思い出させないで、俺のトラウマを抉らないで!!」

「はぁ、でも残念です、あれからピヨヒコ君、全然お城に来てくれなかったので」


「だって、怖かったし避けられて当然だと思うけど、それなのにメアリーに何故か好かれてたから話を聞いていて困惑したわ」

「それはその……あまり同世代の異性と接する機会なんて無かったもので、それに言ったじゃないですか、ピヨヒコ君は私の初恋の相手だって」


「いや、だってそれは、冗談半分で俺をからかってたんだろ?」

「ですから……残りの半分は本気ですよ」


「!!」


 こちらを真剣に見つめながら突然そんな事を言われたので、まるで背後から不意打ちを受けたように、ドキッとした。


 よく見るとメアリーもほんのり頬を染めて少し恥ずかしがってる様子だ。好意を抱かれてたのはこれまでの言動からも間違いはないと思うので素直に言葉を返す。


「メアリー……その、あの頃はずっと避けていて何かゴメン」

「!!」


「メアリー?」

「……勇者様のそう言うところ、何か狡いです」


「え、なにそれ、どう言う意味?」

『ドンッ!!』


「うわ、ビックリした!!」

「……はぁ」


 少し良い感じの空気になったと思ったら、再びアルマの怒号が放たれた。なんで邪魔するようなタイミングで壁を叩くのか、理由は分かるけど心臓に悪いから壁を叩くのは出来たら止めて欲しい。メアリーも何か少し呆れてる様子だ。


 でもアルマ的には多分、これが精一杯の”抵抗行動”なんだよな。


「……そう言えば、殆ど正解とか言ってたけど、他にも何か理由があるって事?」

「そうですね、私としてはそのまま黙っているつもりでしたから、別にそこまで追求する事でもないのですが、気になるならアルマさんも交えてお話ししますか?」


「え、アルマも交えてって、一体どうやって?」

「そんなの簡単ですよ」


「?」

「あん、勇者様、いきなりそんな大胆な事を、でも受け入れてくれて嬉しいです」


「ちょっ!? メアリー!!?」

「ああ、でもそんなに逞しいの、そんなに激しくされたら、壊れちゃいますー」


『ドン! ドン! ドンドドン!!』


「ひぃ!?」

「勇者様……私、再び貴方に会えて本当に嬉しかったです」


 ガチャ、パタパタパタ……


『バタンッ!!』


「ア、アルマ……その、これは」

「メアリー、勇者様に露骨な誘惑するなと言ったでしょ、今すぐ離れなさい!!」


「もう離れてますよ、はい釣れました」

「なっ!?」


 スゴいな、本当に簡単に釣れたよ……そうなんだよな、既にメアリーは俺の居るベッドから離れて、隣のベッドに座りながら今のわざとらしい演技をしてたのだ。


 いや、どうするのこの状況、寧ろ悪化したんだけど。


「えっと、アルマ、その……」

「わ、私、あの、勇者様のお部屋にメアリーがパジャマ姿で入って行ったから……それで、そんな盗み聞きするつもりではなくて、その……うぅ……」


 あ、また泣かれる。心を閉ざして逃げる可能性があるから直ぐに宥めよう。


「あ、うん、大丈夫だから、誰も咎めてないし怒ってないから安心して、聞き耳に関しては全然気にしなくてもいいよ、それよりもメアリー、どうしてこんな真似をしたのか説明してくれ」


「それは私の個人的な趣味で……」

「!?」


「ではなく、一応2人の為を思っての行動だったんですけどね」

「俺とアルマの為の行動?」


「何が2人の為よ、こんな勇者様を誑かすような真似をして!」

「あー、アルマ、取り敢えず一旦落ち着こう? どー、どー」


「酷い、その宥め方はあんまりです、もう知りません!!」

「勇者様、これを……」


「あ、それは、助かるよメアリー……ガシッ」

「離して、離してください!!」


「ほらほら落ち着いて、この香りを嗅ぐのだ!」

「うぅ、ぐすん……すぅ」


 泣き崩れて今にも逃げ出しそうだったアルマを拘束して、メアリーが手渡してくれたククリコ特製アロマの小瓶を嗅がせてリラックスさせた。効果は抜群だ。


 落ち着いたアルマをメアリーの隣に強引に座らせて、俺は2人と対面して自分のベットに座っているのだが、まるで浮気がバレて2人の女性に問い詰められている二股男みたいな構図だ。何かとても居心地が悪くて気分が沈んでくる。ズーン……


 アルマが双方に向ける視線が少し怖いが、メアリーが気にせず話を切り出した。


「それで私が2人の為と言った理由ですが、えっとですね、勇者様は今後も勇者として魔王を倒す使命を果たす為に、仲間を増やして活動する予定じゃないですか」

「え、まあそれはそうだけど……それが何か関係あるのか?」


「つまりはギルド名簿の内容次第では、魅力的な女性の冒険者と出逢う機会もある訳ですよ、そう、新たな仲間が集うのです」

「た、確かにネームドカードの説明を受けた時はランダムで名簿から仲間が決まるとは聞いたけど、女性の仲間が加入したとして、この状況と何の関係があるの?」


「今のアルマさんを見てください」

「ふぇ!?」


「アルマがどうかしたのか?」

「こんな聞き耳をしてまで勇者様に”執着”しているアルマさんが、もし他の女性の冒険者が仲間になったとしてどう感じるのか」


「え、そ、それは……」

「……っ」


「そうです、間違いなく”嫉妬”するでしょう!」

「なな、何を言ってるのメアリー、そんな事ある訳ないでしょ!」


「ハァ、本人が無自覚と言うのは非常にマズいですね」

「なっ!?」


「考えてもみてください、お風呂に案内する間ですら、ネムさんの容姿を勇者様が褒めた時にそれに対して嫉妬して不機嫌に頬を膨らませて怒ってたんですよ?」

「わ、私は別にネムちゃんに嫉妬なんて……」


「そうですか? 私にはまだ幼いネムさんにすら”やきもち”を焼いてる様にも見えましたけど、ネムさんは何も悪くないのに、まあ矛先は勇者様に向いてましたが」

「あー、確かに、俺もちょっとそれは感じたかも」


「な、勇者様まで!?」

「いや、最初は何でそんなに怒ってるのか分からなかったけど、もしかして嫉妬なのかなって何となく……それにこれまでも何度か感じたけど、食事の時も何かリスみたいに頬を膨らませてたし」


「ふぇ!?」

「それは私がアルマさんの事をからかっていたのもありますね、勇者様を見つめて優しく微笑み掛けていたので」


「えぇ、あれもメアリーが狙ってやってたの!? 何かやたらと好意的だな、とは感じたけど、アルマを煽って反応を見て楽しんでたのか」


「……ぷくぅ」

「あ、それ、その膨れっ面」


「……ぐすん」

「あ、ゴメン、別に責めてる訳ではないんだが、いや、それにそもそも嫉妬なんて自分でそこまでコントロール出来るものでもないんじゃないか? シルビアですらマルクスに対してあんな感じなんだし、感情的にはあまり経験がないから、俺にはよく分からない気持ちだけど」


「その辺はその人の性格にもよりますが、色恋や嫉妬以外にも、期待や失望、贔屓や疎外感、承認欲求など様々な感情が仲間内で交錯するとそれだけパーティー内の不和にも繋がりますから、私としてはそれを早めにお二人に認識して貰い、正す為にこんな作為的な事をした感じです」

「それで2人の為を思っての行動か、そう言われると何となく理解は出来るけど」


「もちろん考え方は人其々ですから簡単ではないですけどね」

「……何かメアリーってマルクスとやり口が似てるよな」


「なっ!?」

「あ、それ私も思いました、メアリーがパジャマ姿で勇者様の部屋に入って行った時の人の神経を逆撫でする様な感じとか、あの人みたいで不快に感じました」


「そ、そんな事ないですよ、不服、不服です、あんな人と一緒にしないで下さい」

「あんな人って一応マルクスの護衛なんでしょ?」


「むぅ……」

「その言葉に詰まった感じも何か似てるよ」


「もういいです、あまり虐めないでください、取り敢えず私の言いたい事はそんなところです、特に”嫉妬”に関してはシルビアさんを身近で観てるので、個人的にもあまり良い感情ではないですから」

「うーん、そんな事を言われても、解決手段なんてあるのか?」


「もちろんありますよ、アルマさんの嫉妬に関してにはなりますが、なるべく人間関係が拗れない環境を先に築いちゃえば良いんですよ」

「人間関係が拗れない環境?」


「……?」

「つまりは、とっとと2人が付き合っちゃえば良いんです」


「ふぁ!?」

「ふぇ!?」


「今後も仲間が増える以上は人間関係、特に男女の関係はより複雑に絡み合うこと必須です、中には勇者様に対して、憧れや好意、それこそ恋心を抱く女性が現れるかもしれません、かく言う私もその1人ですし」

「ちょっと、メアリー!?」


「なのでその前に2人が周囲も公認する”恋人関係”になれば、例え女性の冒険者が加入したとしても牽制になるし、私の様に変な虫が付きにくいという事です」

「えぇ、自分の事すら悪い虫扱いするの!?」


「アルマさんが勇者様に対して”恋愛感情”があるのは既に自明の理なので、それに応えるのも勇者として、いえ、男としての務めです」

「ふぇ!? メアリー、そそ、そんな、何を勝手にバラしてるんですか!!」


「あー、いや、まあそれは薄々感じてたけど……」

「ふぇぇ!?」


「それに私もピヨヒコ君の事は好きなので、それにもちゃんと応えてください」

「なっ!?」


「さあ、勇者様、どうするんですか?」

「いや、それ以前の前提なんだけど、俺の気持ちはどうなるの!?」


「そんなの私達が知りたいですよ」

「……コクコクッ」


「ア、アルマまでそんな頷いて……」

「で、どうなんですか? 優柔不断なのは勇者としても失格ですよ、可愛い2人の女性を前にして、まさかどっちも断るんですか?」


「自分で可愛いとか言うのは何かあざといと思うのだが……えぇ、これ、この場で選ぶ感じなの? 持ち越し案件にしたらダメ?」

「それでも構いませんが、それに私は別に愛人……コホン、側室のポジションでも良いですけどね、身分的にもアルマさんの方が正室って感じですし」


「え? なにそれ、どう言う意味?」

「ちょっとメアリー、それ以上余計な事を言わないで!!」


「すみません、口が滑りました」

「??」


「コホン、取り敢えず、女性2人からここまで慕われているんですから、勇者様も真摯に受け止めて答えを出してください」

「うーん、そんな事を言われても、そもそも恋愛とかよく分からないし」


「……勇者様は誰かを好きになった事はないんですか?」


 不意にアルマにそんな質問を投げ掛けられた。


「……分からない、そもそもその記憶が俺にはないから」

「あ、ゴメンなさい、私……」


「いや大丈夫だよ、気にしないで」


 お昼にもそんな事を少し考えたけど、誰かを好きになる感情か。ククリコもよく分からないとは言ってたけど、俺もよく分からないな。記憶を失う前の俺は誰かを好きになったり、恋愛したいと思ったりもしたのかな?


 アルマもメアリーも女性として魅力的だし可愛いとは思うけど、恋愛感情が湧くかと言われると良く分からないし、天啓の楔がそれ以上に、使命を果たす事を強く要求してくるような感覚もあるような……いや、そこは俺の気持ち次第か?


 でもメアリーも言っていたけど優柔不断な性格だと、仲間が増えたとしても頼りにはならないし、パーティーのリーダーとしても失格だよな。そもそも俺にそんな大役が務まるのかもまだ分からないけど。


 それに例え記憶が無くとも俺自身の事なんだから、慕ってくれてる2人に対して真面目にその気持ちに応えないと……


 とは言え、この状況でどちらか片方を選ぶなんて俺には出来ないけど。

 それ以前に何で2人がそこまで俺を好きになってるのかが良く分からないし。


 アルマとだって会ってまだ数日だし、メアリーに関しては10歳の誕生日に色々と話はしたけど、会ったのはその一回だけでその後は俺の方から避けていたから、慕われてる理由がよく分からないんだけど。

 初恋だとは言われたけど、顔や性格が好みだったとかもあるのか?


 いや、それより一緒にいて楽しいとか安心するとかの方が重要か? 相性とかもあるし、でもこれ本人に直接そこまで色々と聞いたらダメなヤツだよな……


 好きになる切っ掛けなんて人其々だし、それこそ些細な事だったりもするし。


 俺も2人の事を好きかと聞かれたら、容姿や性格も含めて好きとは言えるけど、でもどちらかを選べと言われたら、今すぐには決められないってのが本音だ。


 それにメアリーの方は当時の記憶を思い出して怖いって気持ちもあるんだけど。

 いや、それだとアルマの方も嫉妬も含めて面倒な性格って感じもあるんだけど。


 あれ? これもしかして俺、2人の事をそんなに好きだとは感じてないんじゃ?

 いや、でもここできっぱりと拒絶したら、今後の冒険に確実に影響しそうだし。


「うー〜ーーん?」


「……あの、勇者様、大丈夫ですか?」

「何か頭から湯気が出てるように見えますけど」


 何とも言えない複雑な感情が自分の中で渦巻いて、考えがまとまらない。

 こちらの返事を待っている2人に対して申し訳ない気持ちになってくる。


「……」


 それでもピヨヒコは悩みつつも自分で考えて1つの答えを出す。


「……ごめん、今は色恋よりも冒険を優先したい、2人の好意はとても嬉しいし、真剣に受け止めるけど、今の俺には、まだその想いに応える事は出来ない」


「……っ」


 望んでいた答えとは違う返答に暫しの沈黙、気まずい空気が流れる。


「分かりました、私はそれで構いません」

「私は……私も、それで問題ないですよ」


 アルマの方が先に返答したけど、記憶を失った俺に配慮してるのを感じて、少し切ない気分になった。

 メアリーの方も無理して微笑んでくれたその笑顔が、何処か哀しく見えて、少し苦しい気分になった。


 結局は先延ばしでしかないけど、これが今の俺の本心だからどうしようもない。


 その後、2人で何やらコソコソ話してたけど、アルマがメアリーを引っ張り部屋から出て行った。そして自分だけがこの場に残された。


 今日1日の最後がこんな感じで幕を閉じるとは思わなかったから複雑な心境だ。

 2人に告白された感じで悪い気はしないけど、今後に影響しそうで少し億劫だ。


 ハァ、何かしんどいな……俺はもっと気楽に冒険がしたいのに……

 そう思いながら背後を振り向くと、いつもの画面と少女がそこに居た。


 途中から存在を忘れてたけど、この少女も恋愛で悩む事がいつかあるのかな?


     ◇


「どうしよう、これ、何か私が思ってたよりも重要そうなイベントだった」


 と言うか、観ていて私まで少し切ない気分になったんだけど……

 こんなゲームに、そんな三角関係とかの恋愛要素を入れないでよ。


 いや、私もそれっぽい事は望んだけどさ。

 これアルマもだけど、メアリーも実はピヨヒコに対して、割と本気で恋心を抱いていた感じでしょ? どさくさに紛れて再び貴方に会えて本当に嬉しかった、とか本心だと思えるセリフも言ってたし。


 アルマの方も過去に何か主人公と接点があった可能性も普通にありそうだけど、それにお菓子以外にもまだ隠し事とかあるみたいだし。

 会話中にそれっぽい発言もあった気はするけど、私の感覚だと既に3ヶ月以上前の事だから重要そうな伏線っぽい会話とかも既にうろ覚えなんだよね……


 ピヨヒコの気持ちは今回に限って思考メッセージで伝えて来なかったから、良く分からなかったけど、何となく板挟みの状態でキツそうには見えたな。


 コミカルな展開もあったからそこまで修羅場って感じでもなかったけど、それでもシリアスな空気にはなったし、やっぱり痴情の絡れなんて碌なものじゃないね。


「はぁ、さて、どうしようかな……これはリセットしてやり直すか悩むな」


 最初はもしエッチな展開になったら内容次第でリセットして、その前の別ルートをやり直すつもりだったんだけど、何か思ったよりも今までの会話の伏線とか回収してたし、ここまでの流れを無かった事にするのは流石にちょっと躊躇うなぁ……


 それに何か称号の説明やフラグっぽい会話とかもあったし、”天啓の楔”とか言うそこそこ重要そうなキーワードまで出てきたし。


 でも頑張ればお城の三階に上がれるのは、殆ど確定だし侵入イベントの凝り方的にも、あっちはあっちで何か重要そうなイベントも起きそうなんだよね。


 失敗する毎に時間が経過してたから、実質ワンチャン位の意気込みで挑まないと発生するイベントがどんどん消失する感じだとは思うけど。

 5回失敗した後でメアリーが部屋に訪れてこのルートになったから、時間経過で違う展開にもなりそうだ。何かアルマも自室には居なかったみたいだし。


 取り敢えずは、あの二階の階段の前を巡回する兵士を越えないと駄目だけど。

 でもやり直したとしても、また失敗してこのイベントを繰り返すのは、気分的には私も正直キツい。

 とは言えこのままセーブして進めたら、ピヨヒコとアルマの関係も何となく今後は微妙な距離感になる気がする……


 それに個人的にはアルマの思いの丈は、出来たら本人から聞きたかった。

 それとイベントの最後にピヨヒコが少しだけ念じて来たけど、まあそうだよね。


「うん、やっぱりここは主人公の意図を汲んだ事にして……ポチッとな」


 カチッ、ブツンッ


 桜子の判断で、今回の添い寝イベントは敢えなくリセットされた。


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