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第38話 ドキドキ添い寝イベント 前編

 少女のモチベーションが少し回復したので、再び冒険が再開された。

 その結果お城の庭園に侵入して、植えてあったハーブを勝手に引っこ抜き、更にはこの国の第三王女様が落とした所有物を黙ってネコババしようとした。


 罪悪感に押し潰されたピヨヒコは遂に固有スキル、ストレージのコツを掴んだ。


 その後、個室に戻って何やかんやしてたらドアがノックされた。


 こんな深夜に誰だろう?

 警戒しつつもドアを開けてみると、そこにはメイドのメアリーが立っていた。


「あ、メアリー……さん」

「勇者様、夜分に申し訳ありません、本来なら既に就寝してる可能性もあったのでこんな時間に訪れるのは無作法なのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」


「え、ああ、大丈夫だけど、えっと?」

《……?》


 一体なんの用だろう?

 背後の画面の少女も突然の出来事に戸惑っている様子だ。


 あれ、これもしかして怒られる? 俺ですらこの時間帯に隣のアルマ達の部屋に訪れるのは躊躇うくらいなんだから、優秀なメイドであるメアリーがその配慮をしない筈がない。普通に考えてこれは異常事態だ。まあ理由に心当たりはあるけど。


「その、衛兵長さんからの伝言で、あまり深夜に城内を出歩かないようにと、三階では既に王族の方々も就寝しておられますので、これ以上騒ぎ立てるようなら例え勇者様とは言え、それ相応の対処をしざるおえない……との事です」

《えぇ!?》


 うん知ってた、ですよね。ズーン……


 5回も侵入を試みて、悉く見つかって注意されたんだからそりゃ当然だよ。

 寧ろ注意勧告までしてもらって有難いくらいだわ。そのまま賊として捉えられたとしても文句が言えない状況だったし、何か本当に申し訳ない気分になってきた。


 背後の少女の常識が足りないばかりにメアリーにまで迷惑を掛けてしまったし、もうどうすんだよこれ……これじゃ例の少年とあまり変わらないよ。


《ズズーン……》


 メアリーが目の前に居るけど、そっと目を背けて背後を見てみると、画面の少女も何処か落ち込んでいる様子だ。これはダメだな、ここは素直に謝ろう。


「えっと、そのゴメン、夜のお城を訪れる機会なんてなかったのでついテンションが上がってしまい、こんな深夜にも関わらず城内を探索してしまった」

「そうでしたか、取り敢えずこれ以上は出歩かないようにお願い致します」


「あい了解しました、こちらの配慮が足りなかったです、ゴメンなさい」

「……いえ、分かってもらえたならそれで良いです」


 ああもう、これは俺自身の性格なのか、然りげ無く言い訳をしてしまったし。

 一応メアリーも納得してくれたみたいだけど、完全にこちらに非があるから愚かな行為だったと真摯に受け止めよう。


 これはもう背後の少女も諦めて流石に今日は寝るしかないだろうな。


「メアリーもお手数を掛けてしまいゴメンな、お城の衛兵もだけどこんな時間まで仕事しているのに余計な対応をさせてしまって本当に申し訳ない」

「!」


 素直に思った事を伝えると、何故かメアリーは少し驚いた様子だ。そんなに横柄な態度は取ってないつもりだったけど、謝罪したのが意外だったのかな?


「メアリー?」

「あ、いえ、その……もし眠れないならリラックス効果のあるハーブティーなどもありますので、必要ならご用意しますが」


「え、あ、いや……、大丈夫だよ、流石にそこまで迷惑は掛けられないし」

「それに寝るのであれば、もし必要でしたら私が添い寝なども致しますけど」


「ふぇ!?」


 突然のメアリーの提案に驚いて思わずアルマの口癖みたいな声が出たわ。


「どうしますか?」

「いや、どうするも何も……それじゃお願いしようかな」


「え? えっと、分かりました、その、私も少し準備をしてきますので、勇者様はそのままお部屋でお待ち下さい、それと出来たらその間に着ている防具は脱いで、用意した寝巻きのパジャマを着ておいてください」

「え!? あ、は、はい……?」


 メアリーはそう言ってから部屋を後にした。


「……あれ?」


 えぇ? 何言ってんの俺!? いや、これは俺の意志じゃないだろ!! 背後を振り向き画面の少女を見てみると、テヘペロッ、と悪びれない表情をしていた。


 ちょっとぉ!? なにしてくれてんのコイツ!?

 今までも誘惑っぽいお誘いはあったけど、速攻で断ってたじゃん!?


     ◇


 いや、私もね、断るつもりだったのよ。何かまたハニートラップっぽかったし。

 それに最初のハーブティーの方はちゃんと『いいえ』を選んだし。

 でもまさか、隙を生じぬ二段構えで質問されるとは思わないじゃん?


 それでね、あのね、三階の侵入に何度も失敗して精神的に凹んでたのもあって、間違えてボタン連打したらそのまま『はい』を選択してたのよ。

 うん、だから決してこのまま断って普通に寝て、面白そうなイベントを見逃すのが嫌だった訳ではないからね? 選択ミスだから、それに添い寝ってあれでしょ?


 母親が子供を寝かしつけるのに、絵本を読み聞かせたりする感じのやつでしょ?

 だったらそんなエッチな展開にはならないとは思うし、多分大丈夫だよ。


 桜子は自分を納得させる為に、自ら選んだ選択肢を誤魔化した。


 それにしても三階に侵入出来なかったのは悔やまれるな、もうちょっとでクリア出来そうだったのになぁ……

 何処かで見たことあるような潜入ゲームみたいに、衛兵の視線がサーチライトの様に表示されてたから、ちゃんと作り込んであるイベントだったし、難易度も高くて結構面白かったからもう少しチャレンジしたかった。


 巡回していた兵士がそのまま廊下の奥まで突っ込んで来るとは思わなかったけど何かやり過ごす方法とかあるのかな? もう失敗しちゃったし仕方ないけど……、

 いや、でももし成功してたらこのイベントは発生しなかったのか? だとしたらやっぱりプレイヤーの行動や選択肢で話の流れもそれなりに分岐する感じか。


 それにしてもメアリーのピヨヒコに対しての好感度が何故か知らないけど、ほぼ初対面なのにも関わらず異様に高い気がする。

 もしかして記憶を失う前から主人公と何か接点とかある設定なのかな?


 アルマにも何か好かれてる感じだけど、もしかしてメアリーも恋愛対象のキャラだったりするのか? 別にギャルゲーって訳じゃないけど、会話的にはそんな要素もありそうだし、選択肢によってはこっちも攻略ルートが分岐する感じ?


 ヒロインのアルマには何か少し悪い気もするけど、面白そうな展開だから今回はメアリーを選ばせて貰うとするわ、別に二股している訳ではないけど。


 そもそもピヨヒコ本人もどっちが好きとか明確にはしてないし。

 その辺はプレイヤーの選択次第なのか? だとしたらやっぱり不憫な境遇だな。

 本当に意志があるなら好きな相手くらい自分で選ばせてあげたいところだわ。


 まあ今後も含めてどんな展開になるか予想出来ないから少し怖いけど、でも今は自室でゲームを遊んでるからもしエッチな展開になっても平気だし……

 それに本当にそんな展開になるなら、少し興味はあるから見てみたい気もする。


 取り敢えずメアリーに指示された”寝巻きのパジャマ”に着替えてみるか。


 湯浴みのタオルと同じで所持品に加わったけど、これもそのまま貰っていい装備なのかな? 見た目はシンプルなパジャマだけど。でも防御力は皆無だからタオルと同じで、見た目を変えるだけの”着せ替えアイテム”って感じかな。


 武器や装飾品とかは、会話イベントなら戦闘もないだろうし外してもいっか。


《ゴソゴソ……》


「あ、こらピヨヒコ、パジャマに着替えたと思ったら何を勝手にランタンの灯りを消してベッドに潜ってるのよ、まさか寝たフリをしてやり過ごすつもり!?」


 しかもそのまま寝るかどうかの選択肢まで出てきたし。

 まだメアリーも来てないんだから却下だ却下! 折角の申し出なんだから、失礼がないように対応しなさい!!


     ◇


「モゾモゾ……」


 少女の判断でパジャマに着替えさせられたから、抵抗行動で灯りを消してベッドに潜ったけどいつもの暗転が起きない。これやっぱり少女の判断で時間が飛ぶ仕様なのか? どうしよう? いやどうしようもないから取り敢えずこのまま狸寝入りをして様子を見るしかないけど。


 頼んでおいてそれを拒む感じでメアリーには申し訳ないけど、流石に少し抵抗感もあるし。だって添い寝ってあれでしょ?


 家族や恋人同士が同じベッドで寄り添って寝る感じのやつでしょ?

 若い男女2人だし下手したらそのまま流れでエッチな展開にもなるよね?


 あ、いやでも一応ベッドは2つあるから隣のベッドで普通に一緒に寝る感じか?

 それならギルドの宿屋でアルマと過ごした時と同じだから平気だとは思うけど。

 でも直ぐに時間が飛ぶかは何とも言えないし、やっぱり寝たふりはしておこう。


 それに優秀なメイドのメアリーならこちらの意図を察して、そのまま引き返すかもしれないし……ちょっと勿体ない気もするけど、お風呂での覗きの件もあるし、意識しちゃうと緊張する。それに展開によっては俺も理性を保てる自信がない。


 それこそメアリーに積極的にアプローチでもされたら俺もそのまま……、


「はっ、いかんいかん、ブンブンブン!」


 如何わしい妄想をしそうになったピヨヒコは正気を保ち、煩悩を振り払う。


 そんな事を色々と考えていたら、コンコン、と再びドアがノックされた。

 もちろん寝たふりをすると決めたのでメアリーには悪いけど対応はしない。


 ガチャ


 くっ、普通にドアを開けたか。よし、こうなったら……


「失礼します、用意が出来ましたので、もしかしてもう寝てしまわれました?」

「……ぐぅぐぅ」


「……っ」

「!?」


 ベッドの毛布に潜ってるからメアリーの様子が分からないけど、何だ今の反応?

 俺の狸寝入りは完璧だったはずなのに、何故か笑われた気がする。


 バタン……ペタ、ペタ、ペタ、ポワッ、コトン、ギシッ


 ヤバい、少し合間はあったけど入ってきた。それにドアも閉めて消したランタンを夜行灯くらいに調整されて、机に何か置いて、隣のベッドに腰掛けた?


「安眠作用を促す為に、リラックス効果のあるアロマオイルの入った小瓶を持ってきましたので蓋を開けて置いておきますね、そのまま寝ても構いませんので、私も暫くは居ますが、もし必要ない場合は直ぐに退室しますからお申し付け下さい」

「……」


「もちろん勇者様が就寝された場合も退室しますので」

「……うん、わかった、ありがとうメアリー」


 完全に寝た振りがバレているので素直に返事を返す事にした。

 ここまで丁寧な対応をしてくれたのに無視は出来ない。

 布団からそっと顔を出して覗くいてみると、視線の先には隣のベッドに座った、パジャマ姿のメアリーが居る。


 メアリーまで寝巻きのパジャマに着替えて来るとは思わなかったけど、どうやら本当に一緒に添い寝するつもりで来たようだ。

 しかも何故か胸元のボタンを外しておっぱいを強調してない? え、これもしかして本気で誘惑するつもりだったのか!?


 と言うかこれって俺が求めたら、添い寝”以上”の事をされるのも覚悟して来たのだろうか? メアリーの真面目な性格から考えるとありそうだけど。


 妙な期待をしてしまったピヨヒコは気持ちが昂り、心臓の鼓動が速くなる。


 いや、真面目な性格ならそもそも誘惑して来ないよね? でもメアリーの方から特に何かをしてくる訳ではないようだ。こちらを不安にさせないように配慮してるのだろうけど、その表情を見ると少し頬を赤らめて緊張しているようにも見える。


「……ゴクリッ」


 もし俺が望んだら本当に一緒に寝てくれるのだろうか?


 視線が合うと、お互いに緊張してるのが伝わって来る。それでもメアリーは目を背けずに真っ直ぐ見据えて、こちらの反応を伺ってる様にも見える。


 ふむ、ならばこちらも負けてはいられない。

 この際だから改めてメアリーの事をじっくり観察してみよう。


「じぃー……」

「!」


 髪型はボブカットで少し紫が掛かった黒色だ。瞳の色も漆黒で三白眼っぽい感じなのだが気の強そうなキリッとした眉も相まって意志の強さを感じる。整った容姿だけど何処か幼い雰囲気もあるので、凛々しいと言うよりは可愛らしい印象だが。


「じぃー……」


 身長はそこまで高くはないけど、小柄なアルマやネムと比べると大きい。

 それに優秀なメイドであると同時にマルクスの護衛も兼任しているので、鍛えているのか健康的で腰回りはくびれているし、脚もすらっと長くてスタイルは良い。


 おっぱいに関してはアルマほど大きくはないけど、形のよい程よい大きさだ。

 お風呂場では一糸纏わぬ姿も見たけど、とても魅力的で綺麗な身体だった。


「……っ」


 そんな邪な視線を向けていたらメアリーに目を背けられた。

 失礼な行為だとは自覚してるけど、少し勝った気分だ、わーい。


 と言うかこの状況、寧ろ逆に俺が何もしないとメアリーに恥をかかせる事にもなるのではないだろうか?

 据え膳食わねばナンタラの恥とも言うし、いや、流石にそれは考えすぎか。

 

 ただの添い寝なんだし、別にそう言う展開を期待している訳ではないけど、このままだとどのみち緊張して眠れそうにないので、メアリーに何か話し掛けよう。


     ◇


 あれ、何か思ってた展開と違うんだけど? 部屋も薄暗くて何となくアダルトな雰囲気が出てるよ? 絵本を取りに行ってたんじゃなかったの? それにメアリーも何でパジャマに着替えてるの? しかも然りげ無く胸元を開いて強調してない?


 ま、まあまだ予想の範疇さ、私を見縊ってはいけない。これでもエッチな事には理解はあるのだよ、まあまだ経験は無いけど……ゲフン、それよりもピヨヒコからの要望で何か気になっていた事があるから、選択して質問を選べるようだ。


 えっと、なになに、仕事に、お風呂に、武器に、スキル?

 全て選べるなら取り敢えずは順番に聞いていくかな。何か気遣うような選択肢もあるし何気に多いな、まあ良いけど、まずは仕事の事を聞いてみるか。


     ◇


 深夜の個室に男女2人、気まずくなる前に会話でこの場の空気を和ませよう。


「えっと、メアリーに少し質問なんだけど」

「はい、なんでしょう勇者様?」


「メアリーは今の仕事、と言うか役職、に就いて長いの? 年齢的には俺とそんなに変わらない感じにも見えるけど」

「え?」


「もちろん言いたくない場合はスルーしても構わないから」

「あ、いえ、大丈夫ですよ、そうですね、私は今年で16なのですが、このお城に給仕として勤めたのは大体10歳くらいからですね、それまでも色々と技量は磨いて来ましたけど、マルクス様の護衛を兼任するようになったのは14歳からです」


「そ、そうなのか……」


 何か思ってたよりも若いな。てっきりアルマと同じで18 くらいだと思ってたんだけど、今年で16歳って俺と同い年じゃん。


「最初の頃はメイドとしても全然ダメダメで、ミスしてばかりでした」

「え、そうなの? それはちょっと意外だな」


 まあ10歳ってネムと同じ歳だし、それで給仕の仕事を完璧にこなすのは流石のメアリーでも難しいよな、何事も積み重ねで覚えていくものだし。


 それに14歳で王族のボディーガード? メアリーが優秀なのは知ってるけど、どんな経緯でそんな年齢で抜擢されたのだろうか? 護衛としての技術もだけど、マルクスに素質を見出されて気に入られた感じなのかな? ま、まさかマルクスの奴は、まだ成人してない幼いメアリーまでもその毒牙に掛けたんじゃ……


 もしそうなら許せない、本当にゲスで最低な女誑しの屑野郎だな。ぷんぷん!

 そんな無粋な邪推をして、心の中で憤慨していたらメアリーに補足された。


「いえ、あの、私は元々は王族を守護する暗部の家系なんですよ、それもあり幼い頃からアサシンとしての技量を磨いて来たので、王族警護の任務も私の”使命”として課せられているものなので、それで今の仕事に就いてる感じです」

「アサシン? 暗殺者って事?」


 それにまた使命か、やっぱり天啓とか言うのが存在してる世界なんだな……


 てか然りげ無くメアリーにまで心を読まれたように返答されたし、そんなに顔に出てただろうか? それにしても”アサシン”か、何か響きがカッコいいな。


「ええ、冒険者ギルドに登録してある職種的にはそうなりますね、護衛にも使えるスキルも多いので……それに魔王軍や魔物討伐に関しては王国の騎士団の方々や、冒険者の人達が専門ですが、犯罪を犯した咎人や、秘密裏に処罰すべき逆賊などの対応に、表向きな処刑も含めて暗部の役目なので……暗殺者と言うと聞こえは悪いですが、ちゃんと国に認められている役職ですよ、まあ一般の人が就くには色々と条件が難しいですけど」

「そ、そうなのか、何か言いずらい事を聞いてしまったかも、内密にするけど答えてくれてありがとう」


 そう言えばマルクスも然りげ無く暗部の存在を仄めかしてたっけ。


 それに何か、それ以外にもデジャブ? のような感覚もあるんだけど、以前にもどこかでこの話を聞いたことがあるような……

 

「大丈夫ですよ、それに勇者様が就いている盗賊も、この国にはそれに束ねる組織があって、暗部とは横の繋がりもあるので、もし勇者様が本気でアサシンを目指すなら盗賊のスキルもある程度は転職の必要条件になりますね」

「そうなんだ、確かに情報収集にも優れてそうな盗賊なら、国の情勢や裏事情にも精通してそうだもんな、アサシンの条件か、一応覚えておくよ」


「盗賊のスキルの”二刀の心得”は特に便利なのでオススメです」

「二刀の心得?」


「えっと、両手にそれぞれ違う武器を扱えるようになるスキルですね、両手が塞がるので盾は持てませんが、そのぶん手数は増えるので火力は上がりますよ、それに基本スキルのパリィを使えば、武器で敵の攻撃を受け流す事は出来ますから」

「パリィ?」


「え?」

「え?」


 あ、ヤバい、これ魔石とかと同じで冒険者としての一般的な知識のやつだ。あ、何かメアリーの視線が何処となく呆れてる感じに見えてきた。アルマになら素直に質問するけど、メアリー相手だと無知なのが恥ずかしい。話を誤魔化さないと!!


「ゴホン、そっか、アサシンか、それであんなに身のこなしも凄くて、ブックルと対面した時もマルクスの安全を最優先に考えて行動した感じか」


「……そうですけど、あの時は私も冷静な判断が出来てなかったですけどね、もしあの場でブックルさんを傷付けていたら、とんでもない失態になるところでした」


「いや、でもそれは自分の役目を優先した結果だから……」

「勇者様の適切な行動のおかげで救われました、その節は有り難うございました」


「え、いや、そんなの全然、気にしなくても良いよ、俺も身体が勝手に動いた感じだったし、それにメアリーも色々とこちらを気遣ってくれてるし寧ろ感謝するのはこっちだから、今のこの状況もだけど本当にありがとうな」

「……っ」


 いや、今のこの状況に関しては、正直ありがた迷惑な感じも少しあるけど。


 迷惑と言うよりは困惑かな、そもそも何でメアリーは俺にこんなに尽くしてくれるんだろう? 勇者としての立場を抜きにしても、まだ会ったばかりなのにやたらと良くしてくれるし、何か異様に好感度が高い気がするんだけど……


「もしかしてメアリーって……」

「はい?」


 俺が記憶を無くす前にも何か接点があったのかを聞こうと思ったのだが、何故か言葉が詰まってしまった。どうしよう、取り敢えず他の質問をして誤魔化そう。


「あ、そう言えば、メアリーって何であの時、俺の事を助けてくれたの?」

「あの時?」


「あの、その、お風呂場で俺が……ごにょごにょ……」

「ああ、勇者様が先程の入浴中に女湯を覗き見した時の事ですか」


「……その節は見逃して頂き本当にありがとうございました」

「まあ正直かなり驚きましたけど、それよりも怪我とかしませんでしたか?」


「怪我? ああ、そっか、そう言えば盛大に転んだんだっけ、何故だかだいぶ前の出来事な気がしてたけど大丈夫だよ、気遣ってくれてありがとう」

「そうですか、それなら良かったです」


 でもその転倒の切っ掛けになったのも、半分はメアリーのせいなんだけどな……うーん、どうしよう、前の質問にはまだ答えて貰ってないけど話の流れでこっちも聞いちゃうか、おそらく聞いてもそこまで怒ったりはしないと思うし。


「えっと、メアリー、あの時なんで俺が覗いてるのを知りながら自分から湯船から出て裸を見せてくれたの?」

「!!」


「理由が分からなくてちょっと気になってたから」

「そ、それは、その……」


「いや、全然良いんだけどさ、寧ろ嬉しかったと言うかラッキーだったと言うか、その、スゴく綺麗で見惚れちゃって、それでバランスを崩して手桶のピラミッドから転倒した感じだったからさ」

「……っ」


 すると、その時の事を思い出したのかメアリーの顔が赤く染まっていく。


 あの時も何故か自分から見せてきたのに恥ずかしがってたから、何か腑に落ちない感じだったけど、状況的に見つかってたらかなりヤバかったから優秀なメイドのメアリーとしては不自然な行動だとは思ったけど、俺の事を挑発してたのかな?


「それはその、私だけ見たのはフェアじゃなかったので、それで……」

「?」


 え、フェアじゃないってどう言う意味だ?


「それにあの場でもし勇者様が覗きをしてたのが全員にバレていたら【覗き魔】の称号が与えられていたと思うので、見逃したのは一応それに配慮した感じです」

「え、何その不名誉な称号、本当にあるの!?」


「ありますよ【称号】はその人の個性や、転職の条件以外にも、他者からの印象を象徴するものなので、不埒な行動による【レッテル】でも与えられてギルドカードにも反映されるので”覗き魔”の称号は当然、マイナスのイメージに繋がります」

「えぇ!?」


 何となく考えはしたけど、本当に実在する称号なのか。しかもギルドカードにも載るとか犯罪履歴みたいなものじゃん。そう考えると何て軽率で危険な行為だったのかを改めて実感するな、おのれ画面の少女め、覚えてろよ!!


《ぴゃっ!?》


 そう思い背後を振り向き少女と目が合うと、ビクッとして視線を逸らされた。


「どうかしました勇者様? いきなり後ろを振り向いて」

「え? あ、いや、何でもないよ、質問に答えてくれてありがとう、納得した……と言うか本当に見逃してくれてありがとう」


「いえ、大丈夫ですよ、それに称号は他者から忘れられた時に”消失”する事もあるのでそれも一応覚えておくと良いですよ」

「そうなのか? ……だとしたら俺も気を付けないとだな」


「え?」

「いや、この国の王様から与えられた”勇者の称号”を消失しないように、行動には気を付けないとと思ったから、使命を果たす為にも勇者らしい行動を心掛けるよ」


 そう強く画面の少女にも念を押す、むむむ〜!


「……そうですね」

「まあまだ全然勇者っぽくないんだけどな、武器も店売りのものだし、そう言えばメアリーの武器は何かカッコ良かったよな、バックラーで防いだ時に少し見ただけだけど、赤と黒の刃で形状も独特な感じだったから何か印象に残ってる」


「え、あの、はい……」


 メイド服の時は確か太腿にそれぞれホルスターを付けて装備していたけど、今は寝巻きのパジャマを着てるから、流石に外して来たようだ。


 実物もちょっと見てみたかったけど……て、えぇ?

 何かメアリーの胸元から唐突に武器が出て来たんだけど!?


 ジャキィン


「これですね、どちらも私の大切な武器です」

「え!? あれ、今何処から出したの!?」


「フフッ、秘密です♪」

「!?」


 え、なにそれ、もしかしておっぱいに挟んでたの!? 嘘でしょ!?

 どっちも短剣とは言え、刃のついた凶器だよ!?


「私が使ってる武器は、右手と左手でそれぞれ特性が違うんですよ」

「そ、そうなの?」


「右が利き手なのでメインになりますが、こっちの赤い刃の方が”レッドラム”で、左手でサブ武器としても使ってる紫黒色の刃の方は”ポイズンレター”と言います」

「レッドラムにポイズンレター?」


「レッドラムの方は私の家系に代々伝わる短剣なのですが、刃の形状が独特で負傷ダメージをかなり与える事が出来るんですよ」

「負傷ダメージ? ……あ、しまった、これももしかして基礎知識だったか!?」


「……ぷっ」

「ああ、笑われた、パリィの方は上手く誤魔化したのにぃ!!」


「……っ、いえ、すみません、大丈夫ですよ、確かに”パリィ”も”負傷ダメージ”も基礎知識にはなりますけど、勇者様の記憶喪失の事も聞きましたので」


「そうそれ、記憶喪失、だから知らなかったの」

「まあ冒険者ギルドで講習を受けていれば知り得る知識なんですけどね」


「ぐぬぬ……だって、所持金にそんな余裕がなかったんだもん」

「え? あれ、そうなんですか? それは……」


「む?」

「いえ、そうですね、その辺も後でマルクス様に伝えておきますので」


「え、何の話?」

「いえ、取り敢えず負傷ダメージに関しては、獣系の魔物とか、肉体を持つ相手に対して抉るような攻撃を与えた時に発生する”追加ダメージ”みたいなものですね、傷口が塞がりずらいので自然治癒の妨害も出来ます、その代わりに素材が傷付くので倒した後のドロップ確率が大幅に下がるのがネックですが」


 何か話を遮られたけど、お金に関してマルクスから後で説明がある感じかな?


 負傷ダメージの事は教えてくれたけど、確かにメアリーが持っているレッドラムは相手の命を刈り取るような、名状し難い形状をしているから、これに斬られたら痛そうじゃ済まなそうだ。

 まさに”アサシンダガー”とでも言うべきか、とにかく赤い刃がカッコいい。


「それにもう1つの方は私が自分で魔物の素材を集めて、鍛冶屋で制作して貰った武器なのですが、ミスリル製で魔力を込めて斬ると相手に毒の状態異常を付与する特性があります」

「なるほど、それでポイズンレターか……」


 こっちは両刃で持ち手を守るガードも付いているから攻撃を受け流すのにも使えそうだ、マインゴーシュのような感じだけど、とにかく黒い刃がカッコいい。


 と言うか武器の名前ってもしかして自分で名付けたりも出来るのか?


「職業によって扱える武器は制限されますが、色々使えるようになれば状況に応じて使い分ける事も出来ますから、一度試してみて慣れる事も大切ですね」

「メアリーは武器に詳しいんだな?」


「そうですね、私の恩師の影響もありますけど、武器は奥が深いので、素材集めも含めてハマると楽しいですよ、戦闘の経験も自然と積めますし」

「ふむふむ」


「私の使ってる武器はどちらも癖があるので扱うのは難しいですが、魔法付与などの特性のある武器を使いこなせれば自身の戦力アップに繋がりますね」

「俺の方はまだ店売りの鋼のショートソードと、ダガーだけど、今後は特殊な効果のある武器を手に入れる機会もありそうだし参考にさせてもらうよ、武器も見せてくれてありがとうメアリー」


「いえ、また何か分からない事があれば、なんでも聞いてくださいね」

「ん? ああ、機会があればそうさせて貰うよ」


 そう言うとメアリーは再びその武器を胸元に仕舞った。


 あれ? また何か唐突に消失したんだけど、本当に胸に挟んで隠してるの?

 でもアルマと違い隠せる程の谷間を作れるくらい大きくはないんだけど。

 それにいくら大切な武器だとしても、信じられないくらい危険な行為だよ!?


 そんな失礼な事を考えながらメアリーの胸元を見ていたら声を掛けられた。


「……あの、そろそろ寝ませんか? 寝れないなら本当に添い寝もしますけど?」

「えぇ、もう少し聞きたい事もあったんだけど……あ、でも俺が寝ないとメアリーも寝れないから、それなら早く寝た方が良いのか」


「あ、いえ、別に急かした訳ではないのですが……」

「メアリーも疲れているならベッドで寝て休んでも良いから、そのままずっと隣で座っていられると、こちらも何か申し訳ない気分になってくるし」


「!!」


 あれ、何か驚いてる反応だけど、俺なんか変な事を言ったかな?


「……分かりました、では失礼して、私も一緒に寝させてもらいますね」

「え!? あ、そうか、いや、そうじゃなくて!!」


 ゴソゴソ……


 うわぁ、疲れてるなら隣のベッドで横になってくれと伝えたつもりだったのに、誤解させたのか、それとも意図してやってるのか、俺の方のベッドに入ってきた!


 ヤバい、何か柔らかい感触が当たってる。それに風呂上がりだからか何かスゴく良い匂いがする。ちょっ、こ、こんなの耐えられるかぁ!!


 妄想はしてたけど本当にそんな展開になり戸惑い困惑するピヨヒコ。

 ベッドの中でお互いの吐息すら聞こえてくる距離感に緊張しつつも興奮する。


「……もし望むなら、そのまま貴方の好きなようにしても良いですよ?」

「!!」


 懐に潜り込んで密着したメアリーは、囁くような小声でそんな事を言った。


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