第37話 王家のアミュレット
ポロリもあるよ、ドキドキお風呂イベント、も無事に終わりを迎えた。
そしてフルーツ牛乳の味を堪能しつつ、女性陣の露わな姿を思い浮かべた。
思考スキルを発動して如何わしい妄想をしたら背後の少女の反感を買った。
その結果そのまま素っ裸の状態で三ヶ月もの間、放置プレイを強行された。
「おい、いくら何でも目の前に居るのに放置するなよな!!」
《にゃ!?》
その期間の記憶はピヨヒコにはないのだが、それでも風呂場で覗きを強要されたりと鬱憤が溜まっていたので、画面の少女に対して不満をぶち撒けた。
この場にはアルマ達も居ないし、届かないにしても何か物申さないとストレスが溜まりそうだったので発言してやった。
すると画面の少女が素っ頓狂な悲鳴? を上げて何か戸惑ってる様子なのだが、あれ、これもしかして今の俺の声に反応した?
「おーい、聞こえるかー?」
再び呼び掛けてみた。
しかしそのまま暫く様子を見るも今度は反応しない。
何かを考えているような感じではあるのだが、向こうからは特に応答は無いのでやっぱりこちらの声は聞こえてないのか?
でも何か動揺しているし、狼狽えてるように見える。
それに何か違和感を感じるのだが……うーん?
もしかして俺のおっきしたマモノにそんなにショックを受けたのだろうか?
ムクッ?
いや、確かに存在を忘れて粗末なモノを見せちゃったけど、そもそも変な行動をさせたのはそっちなんだし、俺は仕方なくそれに従っただけで……
だ、だから俺は悪くない!
◇
ヤバい、ついに直接、主人公が私に喋り掛けて文句を言ってきた。
え、なにこれ? どう反応すれば良いの!?
もしかしたらいつか直接的なアクションをして来るかもとは思ってたけど、このタイミングは流石に予想してなかった。
久し振りにゲームを起動した直後にいきなり話し掛けてくるなよ、驚くわ!!
《じぃー……》
ゲームの画面を観ると、何かこちらの返答を待っているような様子だ。
仲間にも向けていたけど、その視線は脅迫概念を刺激される感じで少し怖い。
あの軍師様ではないが、まるでこちらの思考を探っているようにも見える。
いや、でも画面には選択肢とか特に出てないんだけど? いつもなら主人公から何か行動を促したり催促する時は、それに合った選択肢とかも出るんだけど。
もしかして私の方も画面に直接何か話し掛けたら主人公が反応するの?
そんな事あり得る? 確かにこのゲーム機はオンライン対応で、本機にはカメラも設置されているし、コントローラーの内部にはマイクも搭載されているけど。
どうしよう、喋るにしても何て声を掛ければ良いの?
ずっと放置してた事に対して怒っているみたいだし、正直かなり怖いんだけど。
どうすればいいの!?
これを機に、この主人公と仲良く対話とかしながら冒険する感じ!?
「あ、う……」
桜子は悩んだ結果、今回は無視する事にした。
だって何か怖かったんだもん。
◇
あ、身体が勝手に動き出した。
やっぱりこっちの声は聞こえてないのか? ぐぬぬ、不満はあるけど、いつまでもスッポンポンで居たくはないし、ここは大人しく従うしかないか……
ハァ、風呂上がりだってのに何か気分的には既に湯冷めした感じだよ。
まあ後は個室に戻って寝るだけだろうし別に良いけど。
と言うかせっかく個室で脱いだのに、鎧やマントまでまた装備しちゃってるし。
別に戦闘も無いんだからインナーの冒険者の服だけで問題ないのになぁ……
装備を着て大浴場から出ると既に夜だから周囲は薄暗い。
でも月明かりと設置された外灯があるのでそこまで暗くないし、お城までは連絡通路で繋がっているので迷う事はないだろう。
今日はギルドのクエストには行ってないけど、精神的には色々と疲れてたので、トボトボと歩いていたのだが、いきなり脱線して足がお城の庭園の方に向かった。
不服ではあるけど少し興味もあるのでピヨヒコはそのまま従う事にした。
移動の途中それとなく背後を見てみると画面の少女と目が合った。
するとビクッ、と戸惑った様子だ。いや、何その反応?
疑問に感じるも特に何も起きないのでそのまま深夜の庭園に勝手に侵入した。
一応、客人扱いなので、ちょっと見て廻るくらいなら多分問題ないだろう。
「おお、夜の雰囲気も相まって何か幻想的な感じだな」
この庭園はどうやら薔薇をメインに植えてあるみたいだ。周囲に人は居ないが、ライトアップされていて仄かな灯りが闇夜を照らし、何処か幻想的な雰囲気だ。
水路も引いてあり結構な広さで、色とりどりの草花が咲いているのだが、中央には白いテーブルと椅子が置いてある。
入城した時にも思ったけど、普段は王族関係者や貴婦人達がここでお茶会とかを開いているのかもしれない。
「そう言えばアルマも明日の朝、ネムと一緒に見廻るとか言ってたっけ……」
花を愛でる趣味は特にないけど、確かに綺麗だし見てると心が癒される場所だ。
入り口には薔薇で装飾されたフラワーアーチも設置されていたし、何か魔物の形にカッティングされた植木もあり、庭師の高い技量が伺える。
石床のデザインも城下町を含めて全体的に凝っているし、職人ギルドとか言うのもあるようなので、鍛冶屋の職人やここの庭師も所属しているのかもしれない。
「お、あれはコロコロしてるファーラビットを模しているのか、再現度がスゴい」
暫く植えてある華やかな植物を眺めていたら、茂みがキラリと光ったので操られるままにそこを調べる。すると、細やかな装飾の綺麗なペンダントが落ちていた。
そしてそれを拾い上げると、当たり前の様にストレージに収納された。
「ふぁ!?」
え、え、嘘だろ?
どう考えても落とし物だよこれ? 何でネコババしてるの!?
少女の信じられない行動に困惑していると再び身体が動き出す。
更にそのまま庭園を暫く物色した後、お城に向かって移動しようとしてたので、流石にそれを引き留める。
こちらの声が聞こえてなくても強く念じれば何かしら反応はしてくれてたので、拾ったペンダントを中央のテーブルの上にでも置いておくように訴えた。むむむ!
朝には庭師とかも来るだろうし、見つけ易い所にでも置いて置けば仮にそのまま紛失したとしても自分に非はないし、このまま盗んだら罪悪感がヤバい。てか植えてあるハーブを引っこ抜いてまで盗んでるんじゃねぇよ、余罪が増えるわ!!
すると少女は俺の意図を察したのか、立ち止まって何かを考えている様子だ。
◇
いや何これ、スゴイ性能なんだけど。
手に入れたアイテムは【王家のアミュレット】と言う名称で、装備すると魔力と精神力がかなり上昇する。しかも毎ターンの自然MP回復量まで上がる。
更には、火、水、風、土、氷、雷、の6つの属性が同時に強化されるようだ。
アイテム欄からデザインの確認も出来るのだが、六芒星を模していて中心と其々の先端に色違いの綺麗な宝石がはまっている。
魔術師の専用装備って感じだけど、アルマに装備させればかなりの強化になる。
イベントアイテムの可能性はあるけど、正直これはそのまま使いたいんだけど。
その後も庭園を調べていたらハーブの類もあったので、これらも拾った。
目ぼしい箇所は見廻ったので、城内を探索しようと移動したら、何かピヨヒコがさっきの装飾品を中央のテーブルにでも戻せ、と思考メッセージで伝えて来た。
えっと、なになに? 朝には庭師とか来るだろうし見付け易い場所にでも置いておけば、そのまま紛失しても自分は悪くない、このまま盗んだら罪悪感がヤバい。
ですって? 紛失する前提ならそのまま貰っておけば良いじゃん。それに誰にも見られてないからかカルマの値も殆ど変動しなかったし、問題ないよ。
とも思ったけど、もしかしたら何かイベント発生のフラグかもしれないので一応その提案に従う事にした。少し不満に感じつつも指定されたテーブルに向かう。
するとタイミング良く庭園の奥の茂みから白い人影が現れて、何やら可愛らしい女性が登場した。
キャラデザ的にもモブキャラではなさそうなので、どうやら拾ったアミュレットに関連するキャラクターのようだ。
近付いたら会話イベントが開始された。
◇
目の前に唐突に現れた女性は、ドレスこそ着ていないが、何処か高貴な雰囲気を纏っている。見た目はまだ若く同世代くらいだと思われるが、透き通る様な白い肌で、透明感があってかなりの美人だ。
一見大人しそうな印象だけど一体誰だろう?
まあ、何となく特徴的に予想は出来るけど。
時間帯も遅いので少し警戒しつつ、会話に応じる。
「こんばんは、夜分に失礼します、何方か存じませんが、あの、不躾で申し訳ないのですが、この辺りでペンダントのような物を見なかったでしょうか?」
「え? ああ、それなら……」
この女性にさっき拾った事を云おうとしたら、いつものように不思議な強制力で背後の少女の判断を仰ぐように言葉が遮られた。
拾ったペンダントは既にストレージに収納されているが、会話の内容からしてもこの人の所有物で間違いなさそうだし、返却するように少女に強く念じて訴える。
「それなら、俺は見てないけど……!?」
しかし、選ばれた選択肢にピヨヒコは困惑する。
「……そうですか、すみません、どうやら何処かで落としたみたいで、それに暫く気が付かなくて何処で無くしたか分からなくて、こんな時間なのですが部屋を抜け出して探していたのですが、此処で貴方を見掛けたので聞いてみた次第です、もし見付けた場合は教えてくれたら助かります、あ、でも出来たら内密にはしておいてくださいね」
「あ、ああ……分かった」
おいぃ! 何で嘘を吐いた!? どう見てもこの人の何だから素直に返せよ。
背後を振り向いて画面の少女を問い詰めたいけど、この状態で後ろを振り向いたら何か不自然だし、強く念じても無視しているのか反応がない。むむむ〜!!
「あの? どうかなされましたか、顔色が優れないようですけど」
「え、いや、大丈夫です、えっと、その、貴女は?」
困惑していたら目の前の女性に心配されたので慌てて言葉を返した。
「あ、ゴメンなさい、御客様でしたか、鎧を着てたのでお城に勤める衛兵の方だと勘違いしてしまいましたわ、コホン、私はこの国の第三王女で名を”レティシア”と申します」
「!!」
なんとなく予想はしてたけど、やっぱりこの国のお姫様だったか。
深夜だからかゆったりとした部屋着にケープを羽織っているけど、頭には目立つティアラを付けているし、丁寧な立ち振る舞いから高貴な身分なのが見てとれた。
歳は近そうなのに言葉使いや立場の違いで、俺よりもずっと大人に見える。
アルマに聞いた話だと、第三王女様はこの城に滞在しているって話だったから、いつか遭遇するとは思ってたけど、まさか初対面で盗みを働き嘘まで吐いて誤魔化すとは思わなかったわ。今からでも正直に話して拾ったペンダントを返せよ!!
◇
嫌だ、だって選択肢が出てきたって事はプレイヤーの任意で決めても良いって事なんだし、ゲームのキャラの意向にばかり従って遊ぶのも何か窮屈だから却下だ。
それに『いいえ』を選んでもどうせ会話がループして結局返却する流れになると思っていたら違ったから、こっちだって少し困惑してるわ。
今後のイベントに関わる重要なアイテムの可能性もあるけど、性能的には魅力的だし、黙ってればバレないでしょ。何処で無くしたか分からないとか言ってたし。
それにしてもこのタイミングで第三王女まで登場するのか……
これはまだ会っていない王妃様や、第三王子とも今回の訪問イベントで遭遇する可能性はありそうだな。
てか寄り道してそこそこ重要そうなイベントが起きるなら既に幾つかイベントを見逃してる可能性もありそうだけど、憶測だからあまり気にしても仕方ないか。
◇
「……それでは、私はもう少しこの周辺や、心当たりを探してみますね」
「あ、ああ、それじゃ俺も」
「夜も遅いですし夜風も冷えますので、それに湯冷めするといけませんから御客様は個室でゆっくりお休みください、引き留めてしまい申し訳ありませんでした」
「え、あの、はい……」
レティシアにそう促されると、身体がそのまま庭園を後にしようと歩き出す。
うわあぁぁ、罪悪感に押し潰されそうだぁ!!
これこのまま立ち去ったら絶対にずっと引き摺るヤツじゃん。
しかも何か気遣いまでされたし。今の反応からすると、記憶を無くす前の俺とはあまり接点とか無かった様に感じるけど、関係性で言ったら見た感じ同世代だけど自分の叔母に当たる人物だよ? だとしたら後でまた会う機会もあるよね!?
どうする、背後の少女とこれまではそんなに意見の対立はしてこなかったけど、このまま操られるままに従っても良いのか?
そ、そうだ、以前にも少し考えたけど、アレを出来るかどうか試してみよう。
悩むピヨヒコはこれまでの行動から1つの答えを導き出した。
多分出来る筈だ。えっと、魔力を練る感じで……
こう、内なる空間を探る様な感覚で……
見えない右手で掴み取る感じで……
お、何かぼんやりとだが、所持しているアイテムが視えて来たような?
何か身に覚えのない物まであるような気もするけど……む、でもこれか!?
スポンッ!
ピヨヒコは自分の意志で”ストレージ”を発動して、収納されていたペンダントを見事に取り出した。そして然りげ無く、茂みにそのペンダントを放り投げる。
「あれれ〜、こんな所に何か綺麗なアクセサリーの様な物が落ちてるぞー」
「え!?」
「もしかして探してたペンダントってコレジャナイカナー?」
「あ、そうです、それです、良かったです、大切なものだったので、見付けて頂き本当にありがとうございます……、」
「いえいえ、偶然ですが見つかって良かったデス」
こうして何とか無事に”王家のアミュレット”を持ち主に返す事が出来た。背後の少女の機嫌は損ねたかもしれないが、罪悪感をずっと抱えるよりは全然ましだ。
もしかしてアルマもお菓子の事を内緒にしてた時はこんな気分に陥ってたのか?
思ったよりも罪悪感ってしんどいな、何か今後もまたありそうで怖いけど。
◇
「あーもう、何で勝手に返却してるんだよ、選択肢の意味ないじゃん!」
これもしかして主人公の意志でこちらの選択肢が覆されたりもする仕様なのか?
何か本当にコミニケーションを取りながらゲームを遊んでる感じだけど、それにしても”カルマの天秤”が反映されるなら、今のピヨヒコの行動は少し解せない。
てっきりカルマの値に合わせて、主人公の性格とか思考も変動する仕様なのかと思ってたんだけど、普通に良いヤツじゃん。
これじゃあネコババしようとしてた私の方が悪者みたいじゃないか。
ゲームだし別にそこまで悪い事はしてない認識の桜子は、そんな事を考えた。
それにしても王家のアミュレットは勿体なかったなぁ……
もしかしたら今後このキャラも仲間になる可能性はありそうだから好感度を上げられたなら悪くない選択だったんだろうけど、誤魔化してでも確保できれば序盤のバトルがめっちゃ有利になるのに……出来たら欲しかった。
うーん、どうしよう、まだセーブはしてないからこのタイミングでリセットして巧く立ち回ればこのお姫様との遭遇を回避しつつ、アミュレットを手に入れる事も出来そうだけど、でもこのゲームの仕様的に何度もやり直すのはなぁ……
まあいっか、取り敢えず一旦個室に戻ってから次の行動を決めるかな。
◇
レティシアは感謝して別れの挨拶を済ませてから去って行った。
ピヨヒコもそれを見送った後、お城に向かって歩き出す。
そしてそのままメアリーに案内された一階の個室に戻ってきた。
個人的にはもう少しレティシアと話してみたかったけど、時間も遅いので仕方ない、機会があればまたいつか再会する事もあるだろう。
「ハァ、もう何か疲れたぁ、やっと休める、てかベッドで寝たらまた直ぐ朝になるから寝た気もしないんだけど、それでも疲れたからもう寝たいわー」
《……えぇ?》
露骨に疲れたアピールをすると、画面の少女は少し驚いた様な反応をしたけど、まだ暗転は起きない。確証はないけど、寝て時間が飛ぶタイミングも背後の少女が決定している感じだとは思う。
お風呂でも色々な事があったから気分が昂っているのか、まだそこまで眠くないけど、どうしよう、このままじっとしていても退屈だし、思考スキルを発動して、今日一日の出来事を長々と延々と振り返るかな?
それともまた背後の少女に語り掛けて対話を試みてみるとか?
さっきみたいな意見の相違が起きると嫌だから、なるべくこちらの言い分は主張しておきたいし。
少女と論争バトルをしたい訳ではないけど、コミニケーションが取れるなら使命を果たす為にも今よりも打ち解けて、出来たら絆を深めてはおきたい。
まあ状況的には、選択の決定権がある少女の方が圧倒的に有利ではあるけど。
それに庭園で少し時間を潰したからアルマ達ももしかしたらもう個室に戻っているかもしれないけど、流石にこの時間に部屋に訪れるのは迷惑になるよな……
そんな事を色々と考えていたのだが、身体が再び動き出す。
◇
よし、このまま直ぐに寝るなんてあり得ないから、もう少し城内を探索しよう。
え、疲れてるですって? 大丈夫、大丈夫、HPは満タンだから問題ないよ。
もしかしたら空腹デバフみたいに、睡眠不足によるデバフが起きる可能性はあるけどゲーム内でまだ24:00にはなってないし寝るには早い。
それにリアルの時間だとまだ宵の口だし、夏休みだから私は徹夜でも構わんよ?
お城の三階は王族の寝室になっているみたいだから、盗み聞きのスキルを使えば何か良い情報でも聞けるかもしれないし、侵入とか出来るか試してみるかな。
それに地下室の方にも何かありそうな感じだから、そっちの方も少し気になる。
てかさっきピヨヒコが『直ぐに朝になる』とか言っていたけど、この主人公ってもしかして、時間の間隔がプレイヤーの視点に合わせてある感じなの?
宿屋で寝るとそのまま画面が暗転して、ゲーム内の時間が進んで、カウンターの前に移動するけど、まさかこの主人公は寝た実感もないままプレイヤーの私に操られて冒険してる感覚だったりするの!?
もしそうだとしたらかなり悲惨だな。少し同情したくもなるけど、まあどうにもならないからそのまま遊ぶけど。
境遇も含めて何か色々と不憫な主人公だな。まあ操作してるのは私なんだけど。
後はどうしよう、一応この部屋でまたセーブはしとくかな。
何が起きるか予想が出来ないし、下手したら三階でマルクスに見つかり捉えられて牢屋の中で朝を迎えるとかの可能性もありそうだし。
セーブすると庭園イベントで”王家のアミュレット”は手に入らなくはなるけど。
う〜ん、やっぱりセーブはしておくか。
別に詰みポイントって事はないだろうけど、もし不味い展開になったらリセットして、最悪このタイミングで寝る事も出来るしな。
用心深い桜子は、セーブしてから城内を探索する事にした。
◇
個室から出ると、深夜の城内は物音もしないで静まり返っていた。
それでもどうやら巡回してる衛兵は何人か居るようで、其々の持ち場で決まったルートを廻っているようだ。
いくら勇者の立場でも見つかったら呼び止められて、咎められるだろう。
立ち入り禁止である三階にある王族の寝室に向かったら尚の事だ。
それにも関わらずこの背後の少女は、果敢に三階を目指してアタックしたのだ。
もちろん捕まったさ、当然だ。お城の兵士だって木偶の棒ではない。
深夜で暗いから衛兵は魔法のランタンを持って巡回していたのだが、中には用心深く旋回してくる奴も居てこちらも見つからない様に立ち回っていたのだが、二階の階段を巡回する守衛には勝てなかった。
そして見つかる度にこう言われた。
「誰だ、止まれ! おお、これは勇者様でしたか、申し訳ないですが深夜に城内を徘徊するのは遠慮して頂きたい、どうかお部屋にお戻りください」
「あ、はい、ごめんなさい」
そして場面が暗転して、気が付くと何故かまたこの個室に戻されるのだ。
一体どんな原理なのか全く理解が出来ないのだが、そう言うものなんだとしてもこんなの納得が出来るか! だって一瞬でワープして移動するんだよ!?
そんなこんなで既に5回ほど侵入を試みては見つかって失敗してるのだが、それにも関わらず背後の少女はやる気に満ちている様子だ。いや、もう諦めろよ!!
確かにチャレンジする度に、少女の操作スキルは向上していた。既に一階で捕まる事は無くなったし、着実に衛兵の巡回ルートを把握して上手く立ち回っている。
さっきなんて後は階段の前を巡回する衛兵を何とかすれば、三階に上がれる感じだったし、と言うか衛兵の方も、もういっその事お城の地下牢にでも閉じ込めれば良いのに、律儀な事に個室に戻るよう忠告して、この場所に戻されるだけだ。
部屋に設置されてある時計を観てみると既に1:00近くになっている。
俺も他人事ではないし当事者ではあるけど、でも失敗を重ねる毎に時間は過ぎていくし、もし三階に上がれたとしても既に王族達も寝てるんじゃないだろうか……
それとなく背後の少女にもそう促したのだが、ムキになってるのか聞き入れてくれない。冷静な判断を欠いてたらどのみち、潜入なんて無理だとは思うんだけど。
《あーもう、あとちょっとだったのにぃ、何なのよあの兵士はぁ!!》
あーもう、めちゃくちゃ憤慨してるよ。
あの兵士とは以前にお城を訪れた時にも三階へ続く階段の前を通せんぼしていた守衛の事だ。今回は何故か階段前の通路を巡回しているのだが、とにかく勘が鋭いのかこちらの行動を予測して動いて来るのだ。
二階の渡り廊下が丁度一階の吹き抜けの大ホールを囲うように、回の字になって部屋が連なっているのだが、深夜なので既に部屋は施錠されていて、隠れる場所もなく追い詰められて、通り抜けようと挑んでみたが、結局は見つかった。
ある”方法”を駆使すればやり過ごせるとは思うけど、少女はそれをしないで敢えなく捕まった。
まあ知らないなら無理もないけど、まだ挑むなら俺も次は助言しようかな。
それにしても以前も反復横跳びで三階に行くのを阻まれたけど、優秀な衛兵だ。
と言うか三階に上がって一体何をする気なんだよ、王族の寝室のドアに聞き耳でも立てるつもりか? それ不法侵入だし、普通に犯罪行為だからね。
そんなこんなでげんなりしてるのだが、それでも身体は再び部屋の外に向かう。しかし今回に限って、いつもとは違う変化が起きた。
部屋から出ようと思ったら、その前に入口のドアがノックされたのだ。
そしてドアを開けると……そこに居たのは、メイドのメアリーだった。




