第29話 アルマの隠し事
串焼き窃盗事件が起きた、犯人と思われる容疑者は依然逃亡中だ。
いつか必ず奴を捕まえてこのお城の牢屋にでもぶちこんでやろう。
「わー、美味しそう」
「ソウダナ、良かったなネム」
「これが魔牛の肉?」
「そうです、ブルーバイソンですね、しかも一級品質のお肉だと思われます、野生の味わいに自然の甘味もあって美味しいですよ」
「魔物の肉に品質なんてのもあるんだ?」
「環境によって同じ魔物でも特性や味もまた変わるようです、基本的には生息地域が危険なエリアほど手強くて肉も上質なものになるみたいです」
「ああ、そう言えばスライムとかも個体差があるんだっけ……」
「ですね、スライムも料理に使われるとは聞いたことはありますけど、この辺ではあまり見掛けないので貴重ですね、雨季には大量に発生する事もあるのですが」
「スライムジェルを食べるの?」
「いえ、本当ならゼリーの肉も確率ドロップするのですが、あの巨大なスライムの時は魔石が割れたので肉体が維持できず中身の液体だけが残ったんだと思います、それに普通のサイズのスライムだと、魔石は霧散して残らない場合が多いですね」
「ふむふむ、そう言えばあの割れた魔石は何か使い道はあるのかな……」
そんな事を話していたらテーブルには次々と料理が運ばれて来た。
ようやく待ちに待った夕飯の時間だ。ピヨヒコ達の目の前には美味しそうな料理が並んでいる。
それとマルクスが気を使ったようで、戻ってきた給事のメイドさんも含めた3人の女性の分も用意したようだ。
"三人"とも正体が判明して、そこそこ打ち解けたので気を張らなくても良いし、ちょっとした会食の気分で楽しく過ごせそうだ。
「ふむ、それじゃあ話の続きは食べながらにでもして取り敢えず食事にしようか、君達も遠慮しないでたくさん食べるといい」
「いただきま~す♪」
置いてあった過去の文献や書物は一旦片して、テーブルには綺麗な刺繍の入ったテーブルクロスを敷き、この場で皆で食事をする事になった。
窓から見上げる空は既に暗く城下町に灯された明かりが夜景を引き立てて程よい感じの雰囲気になっていた。
豪華な食事も相まって、ちょっとした高級レストランにでも来た気分だ。
メインは魔牛のリブステーキだが一緒にビーフシチューやサラダ、他にも見た事無いような料理も幾つか並んでおり、テーブルの中央にはフルーツの盛り合わせと柔らかいパンも篭に盛られていて、好きなだけおかわりしても良いようだ。
ワインも用意されたけど、前にアルマに注意されたので飲むのは遠慮した。
「もぐもぐ、美味しいーね♪」
「ああ、肉も口の中で溶けるくらい柔らかいし素材の味が引き出されて上手いな、このシチューも具材が溶け合ってスゴく美味しいし、パンもふっくら焼けているしご馳走だな、ムシャムシャ」
空腹に耐えていたピヨヒコの腹の虫も美味しいご馳走に歓喜していた。
隣のアルマや対面に居るマルクス達も料理の美味しさに舌鼓している。
「私も普段はこの図書室の管理をしてますけど、何か此処でお食事するのは新鮮な気分になりますねー」
「そうね、外の夜景も綺麗だし良い雰囲気だわ」
「ネムはこれが好きかもー」
「これは、ペロリっ……美味いけど何か舌がピリッとする感じだな」
「それは魔豚のサラミですね、ソーセージの一種ですが、お酒にも合うのでツマミとしてお出ししたのですがマルクス様の好みに合わせて辛めにしてあるのですが、お口に合ったなら良かったです」
「魔豚は調理法も多いですし、保存食とかの加工品にも好まれて使われますね」
「ネムは辛いのは平気なのか、美味いとは思うけど、何か舌が痺れてだんだん辛く感じてきて俺はちょっと苦手かも」
「うん、全然平気だよ、辛いの好きー」
「ふむ、その味の良さが分かるとはネム君は良い味覚を持っているね、きっと美味しいお酒もたしなめる素敵な女性になるね」
「ぺぇ……どうせ俺は辛いのが苦手なお子ちゃま口だよ」
そう言いながらピヨヒコは添えてあった水を飲み干す。
その様子を見て給仕のメアリーは水を継ぎ足してくれた。
「あ、ありがとう、気が利くんだな」
「いえ、これも私のお役目なので」
流石は優秀なメイドさんだ、でも自分の食事も楽しんで欲しいところだ。
「アルマは辛いのは大丈夫なのか?」
「え?」
相変わらず上品なテーブルマナーで料理を味わっていたアルマに質問してみた。
不意の質問に少し戸惑ってるようだった。
「いえ、私も辛いのは少し苦手ですね、どっちかと言えば甘い方が好きなので」
「そっか、俺もどっちかと言えば甘い味付けの方が好きかな、このステーキは素材の肉の甘味もあって旨いし、魔豚も好きだけど個人的には魔牛の方が好きかも」
「私達もいつもは一階の食堂で食事をするんですがこんなご馳走ではないですね、食事に合わせたお酒も出ないですしマルクス様のご厚意に感謝です、食後には何とデザートまであるんですよー」
「それだと普段は君達にあまり良いもの食べさせてないみたいにも聞こえるじゃないか、このお城のシェフは一流だから食堂の料理も美味しいはずだよ」
「えへへ、そうですねー」
「マルクス様、まだ説明も済んでないのですからお酒は控えてくださいね」
「分かっているよ、そう言う君もちゃっかり飲んでるじゃないか」
「うふふ、だって美味しいんですもの」
「あーズルいですよ二人とも私もワイン飲みたいですー」
「すみません勇者様、お見苦しい感じで」
「あ、いや、何か本当に仲が良いんだなとちょっと感心したけど大丈夫だよ」
「じぃー……」
「えっと、メアリーさん?」
「いえ、何でもないです、どうぞお食事を楽しんでください」
「ああ、色々と良くしてくれてありがとう、メアリーさんも折角の美味しい料理なんだし自分の食事も楽しんで欲しいけど」
「!」
「まあ、招待されてる立場での言い分ではないけど」
「いえ、お心遣いに感謝します、私も戴いてますので安心してください」
「そうか、それなら良いんだけど……」
「……ぷぅ」
メアリーは優しい笑顔でそう言った、ピヨヒコも釣られて笑顔を返す。
その隣に座って食事をしてたアルマは何か言いたげな顔で膨れていた。
メイド服も相まって可愛い印象だけど、別に下心なんて出してないよ?
と言うかこれもしかして嫉妬してる? 頬を膨らまして何か可愛いけど、嫉妬は怖い秘書のシルビアのイメージが強くて怖いんだけど……それに食事前のやり取りでメイドのメアリーは可愛いよりも寧ろ強い印象の方が強まったのだが。
いつの間にかアルマに自分が思ってる以上には好かれているようだ。
悪い気はしないけど使命が優先なので、今は異性と恋愛する気はないのだけど、それを口には出さない。仲間内で関係性を拗らせたくはないし、自分の記憶とかもまだ分からない事だらけで状況も整理しきれてないから、そんな余裕もないしな。
四角いテーブルにはピヨヒコ側とマルクス側で3人ずつ別れて、それぞれ食事と会話を楽しんでいた。その側面にはメイドのメアリーが座って、食事を摂りつつもワインの料理のお代わりなどにも対応している、本当に優秀なメイドさんだ。
どうやらマルクス側の女性は2人とも二十歳を越えてるようだがメアリーの方は俺やアルマと年齢もそう変わらないみたいなのだが、何故かこの可愛いメイドさんに気に入られたようで、さっきから視線を感じる。
視線が気になってメアリーと目が合うと、優しい笑顔で微笑み返してくれる。
その原因なのかは分からないけど、先程ちょっとしたハプニングがあった。
料理を持って来た時にネムのアイテムポーチからブックルを取り出したのだが、動き出したブックルの事を知らなかったメアリーが、魔物が出現したと勘違いして咄嗟に襲い掛かって来たのだ。
◆
「ネム、食事も楽しみだけど、その前にポーチに入れたブックルを出してくれるか? 流石に入れっぱなしは何か可哀想だし」
「あいあい、んー、これかな? えいー」
ズポンッ、と勢いよくネムのポーチからブックルが出現した。マルクスに生物は入れないと聞いていたから少し心配だっだけど、どうやら大丈夫なようだ。
「フィー、やっぱり異空間は何か落ち着くナ、実験は成功したカ? 何か懐かしい感覚を味わった気がするゼェ」
「魔物!? マルクス様、お下がり下さい!」
「オ? ……ウェ!?」
「あ、ちょっ、待った!」
メアリーはそのメイド服のスカートの中から二本のナイフを取り出してブックルに襲い掛かって来た。どうやら太ももに装着するタイプのようで洗練された素早い動きで斬りかかる。
しかも二刀流だ、両手に違う形状のナイフを持っている。黒と赤の刃で何か凄いカッコいいんだけど!? いや見惚れている余裕はない、何とかしないと!!
ネムのポーチから出て来てまるで事態が分かってないブックルは慌てるも、構える事もできずにその攻撃を――
ガキィィン!!
ピヨヒコが咄嗟に収納してたバックラーを取り出して、その双撃を防ぐ。
行動順とかどうなってるんだろう、とも考えたが戦闘の曲も流れてないので制限なく動けるのかもしれない、条件反射で動いたのでこれが背後の少女の判断なのか自分の判断なのかは分からないが、取り敢えずブックルを守れて良かった。
「な、防がれた!? 勇者様、なんで、それは魔物ですよ、退いて下さい!」
「勘違いだから、ブックルは悪いスライムじゃないから、そのカッコいいナイフを向けないでくれ!!」
「!!」
「ヒィ、ナンダ? 何がどうなったんだ!?」
「ブックル、大丈夫?」
「勇者様、大丈夫ですか!?」
「メアリー君、落ち着きたまえ、確かに魔物に見えるけどブックル君は敵じゃないから、それと君も落ち着きたまえ、どう見てもスライムではないだろう?」
「は、はい……」
マルクスがそう宥めるとメアリーも落ち着きを取り戻す。咄嗟に言葉が出たが、確かにどこをどう見てもスライムではなかった。
マルクス達の説明を受けてメアリーも納得した。
そしてどうやらこのメイドさんは身のお世話以外にマルクスの護衛としての役目も担っているらしい。その身のこなしも、ナイフの扱い方も卓越してたし見た目によらず只者ではないようだ。
この国の軍師であり、防衛大臣であり、更には第二王子でもあるマルクスを狙う不逞の輩も居るようで普段はメイドの格好をして給仕をしているがボディーガードも兼任しているらしい。
それにどうやら秘書のシルビアも魔法の才能があるようで、そこそこの戦闘力を兼ね備えているとの事だ。そしてエマさんはその魔物の知識で……戦えるのかな?
「あわわ、ごめんなさい、私が一緒に料理を運ぶ時に事前に伝えておけば良かったんですよね、それなのに驚かせようと思って黙っていたからこんな事に……」
「ああ、そう言えばエマさんが何かサプライズがあるって言っていましたけどそれはこのブックルさんの事だったのですね……何か納得しました」
「だってだってずっとこの図書室にあった魔物図鑑が突然動き出したんですよ? しかも私の大好きな魔物のような姿で、私もう興奮しちゃって、メアリーにもその感動を共感して欲しかったんですもん、勇者様がブックルちゃんと話していた時も本当は私も会話に参加したかったのを我慢してじっくり凝視してましたよ、ええ、それはもう、離れたくないですから、私も一緒に冒険に付いて行きたいくらいですよー」
「うわぁ……」
マルクスがせっかく擁護してくれたのに、それを本人が台無しにするような感じで思いの丈をぶちまけた、おそらく挿し絵も意図して撫で回していたのだろう。
それをマルクスも感じ取ったのか、何処か気まずそうだ。
司書のエマさんは自分に戦闘能力はないとは言ってたけど、もしかしたら冒険に付いて来れる便利な魔法やスキルとかなら覚えているのかもしれない。
本当に3人とも、いや、マルクスも含めて曲者揃いだな……
「ゴホン、取り敢えず何事も無くてよかった、ブックル君にも怪我がなくて良かったよ」
「勇者様、ブックル様、申し訳ありません、突然の事で冷静な判断が出来ずに条件反射でいきなり襲い掛かってしまい、すみませんでした」
「いや、大事もなかったし大丈夫だよ、それよりも強いんだな、鋭いナイフ捌きに素早い身のこなしだったし、それに二刀流にも驚いたけど、自分のお役目を即座にこなす実行力にも感心したよ」
「俺様も、状況が分からなくて少し驚いたが大丈夫だぞ、ピヨヒコも守ってくれてアリガトナ、助かったゼ」
「ああ、問題ない、何か身体が勝手に動いた感じだったけど守れて良かった」
「ありがとうございます、勇者様の盾の扱いも流石でした、それに……」
「……それに?」
「お気に入りのナイフをカッコいいと褒めてくださり嬉しかったです」
「え? ああ、そう言えば咄嗟に言ったかも?」
「この武器を褒めてくれたのは勇者様が初めてです、ずっと手入れをして来た私の大切な物だったのですごく嬉しかったです、あんな咄嗟の状況でそんな事を言われたので不意を食らったと言うか、その、少し、ドキッとしました」
「あ、いや、そうか、自分の命を預ける武器を大切にするのは良いことだよな」
「はい」
そう言うと何故かメアリーは頬をうっすらと染めた。
それを見ていたアルマは、何処か不機嫌そうに2人の様子を見ていた。
しかしピヨヒコの方はそんな視線には全く気が付かず、運ばれたワゴンから漂う美味しそうな匂いに釣られて別の事を考えていた。
すると催促するかのように再びお腹の虫が一斉に合唱をし始めた。
「グゥ〜、ルルルルゥ……」
「そ、それじゃあ、お食事を並べますので皆さんテーブルに付いて下さいね」
◆
と、そんなやり取りが食事の前にあった感じだ。
そして食事もだいたい済んで話題はブックルの事になった。
「つまりブックルは魔物じゃなくて魔法で本に人格を移された”魔道具”って事?」
「おそらくだがそうだね、空間魔法の異空間に生物が入れない以上は、魂が存在する”道具”と考えれば納得は出来るからね」
「なるほど、と言うか魔法でそんな事も可能なのか?」
「過去にもそんな実例はあったようでね、どんな経緯でそのような実験が行われたのかは不明だが、本当の名前も持っていたと言っていたし、先代の勇者と冒険した時にその記憶とか正体も、もしかしたら一度ハッキリしたのかもしれないね」
「ウーン、何か目覚めた時よりはウッスラ記憶も思い出してるんだガ、自分の事は何にも分からないなぁ、失ったページの記録を無くしたからカモしれないが……」
「ふむふむ、その辺の記憶とかも冒険していれば一緒にいつか思い出すかもな」
「ム? ソウダナ、デモこのまま思い出せなくても俺様にはネムや皆も居るから、別に構わないけどな、新しい"冒険の書"としての使命の方が今は大切ダシ」
「ネムも一緒に色々な冒険して、たくさん思い出とか作りたいー」
「まだ冒険って程の事はしてないんだけどな、ギルドの掲示板でもクエストとかは色々あるから、自分達の実力に合わせてどんどんしていく予定だけど魔王を倒す為にもレベルを上げる必要はあるし、ダンジョンとかも攻略したいな」
「……そうだね、まあ焦らずじっくり進めばいいと思うよ、それよりブックル君に質問があるのだが、いいかね?」
「ン? なんだ?」
「先程魔法のポーチの異空間に入ってたけど中はどんな感じなのだろうか? 実際に生きている者が入った事例など無いから、空間魔法の仕組みも解明されてない事も何気に多くてね、術者の作ったイメージと一致するか確かめたいのだが、良ければ協力してくれないかね」
「ウーン、何か白い空間が広がっていて、大きさはその空間にもよると思うけど、白いから奥行きはヨク分からないな、それと何か身体が包まれてフワフワ浮いてる感じダゾ」
「ふむ、成る程、つまり術者によって空間魔法の大きさが違うから広さも変わってくる感じかな、それにしても白い空間か、それとネム君に上げたポーチには他にも僕が入れたお菓子もあったと思うのだが、それはどうなっていたかな?」
「エー? そう言えば入ってたんダッケ? あまり意識してなかったからちゃんとは見てないんダガ、地面には無かったような?」
「ふむ、そうだな、それならアルマ君」
「……え、はい?」
「申し訳ないが、検証の為に君の魔法の鞄にブックル君を入れてくれないだろうか? 持ち物が異空間の中でどう整理されているのかを知りたいのでね、もう一度ネム君に渡したアイテムポーチでも良いのだが、空間の大きさの差異なども含めて違いを知りたいのだが……どうだろう、協力してくれないだろうか?」
「え、え、あの……」
「もちろん協力してくれるよね?」
何処か圧力を感じさせる笑顔のマルクスに、そんな提案をされたアルマ。
困惑するもこの国の軍師であり、防衛大臣であり、第二王子でもあるマルクスにグイグイと迫られて、自身の立場的にもこれは断りずらい。
しかも今まで呼び捨てだったのに、このタイミングで取って付けた様な”君”付けに、アルマも少し戸惑ってるようだ。
別に悪意とかはなさそうだが、何処か意図してたような提案にも感じる。
「魔法の発展の為だよ、君もこの実験の重要性は分かるだろう?」
「あ、あう……」
予備の着替えとかも入れていると言っていたし、女性だし他人に見られたくないものとかも所持している可能性もあるのだが、マルクスの目は本気だ。
それに貴重な上位の魔導書を三冊も貰った手前、アルマも流石にこれは断れないだろう。
ピヨヒコも庇ってあげたい所なのだが、これでまた反論して、再び論争バトルに発展したら正直かなり面倒なので事の成り行きをアルマの判断に委ねる事にした。
「無理なら仕方ないが……そうか、駄目か……」
「わ、分かりました、私でよければ協力します」
「そうかそうか、ありがとう、何か強要したようで心苦しいがすまないね」
「い、いえ……」
何とも駆け引きの上手な軍師様だな。押してもダメなら引いてみろとは、まさにこの事か、背後の画面からは、え、また茶番? 嘘でしょ!? と言う、強い念が伝わってくる。
自分としてもいい加減本題に入って残りの魔王軍の情報を教えて欲しいのだが、でもこの実験にも少しだけ興味はあったので、敢えて口は挟まない。
各々の食事も大体済ませてメイド兼、護衛のメアリーは食べ終わった料理の食器を順々に片付けていた。
まだデザートもあるようだが、取り敢えずこの実験と言う名の茶番に周囲も興味はあるようなので、終わってから紅茶と一緒に出してくれるようだ。
マルクスが何やらブックルに指示を出しているが、アルマの同意も得たので実験は敢行された。
「それじゃ、この鞄に入れば良いんダナ?」
「ああ、アルマ、なんか悪いけど頼むよ」
「……わかりました」
「それじゃあ遠慮なく……アルマ、構えてクレ」
「え、え?」
「イクゾー……トリャァ!」
パピュューーン!!
また少し距離を取りつつボールの様に飛び込み、ブックルはアルマの魔法の鞄に吸い込まれた。いやだから、そのまま普通に入っちゃダメなルールでもあるの?
「行ったかね、ブックル君には中の様子を入念に確認して貰うついでに取り出す際に何か持てる物があれば掴んでくるように頼んでおいた」
「ふぇ!?」
「取り出す時に何か掴んでた場合それも一緒に引き出せるか知りたかったのでね、まあ衣類など、君のプライベートに触れるような物は取らない様に伝えたので安心したまえ、掴むと言っても口やページに挟めるような物に限られるからね」
「……ううっ」
「何かアルマさんが可哀想ですよ、マルクス様ー」
「僕だってこんな事はしたくないが、この機会を逃したら実験する事もそう無いからね、それにもし空間魔法の事が少しでも解れば魔法が更に発展する可能性もあるのでね、アルマには悪いが理解して受け入れて欲しいね」
「元々が不思議な力だしなぁ、俺もこのストレージの事とか全然分かってないし、魔法の研究をしてる施設もあるようだけど、全部が解明されている訳でもない感じなのか?」
「古代に失われた魔術も多いからね、まだ分かってない部分も確かに多々あるよ、それにブックル君の存在が魔導修道院に知られると騒ぎになるとは思うし」
「人格のある魔道具と言ってたからそれだけ珍しい感じか? でももうブックルは仲間だから実験の為に渡したりはしないぞ、ネムも悲しむし」
「ブックル連れていかれちゃうの?」
「安心したまえ、僕が権限を行使してでもそれはさせないから、それに魔導修道院の学院長は話せば分かる人だから大丈夫だよ、事の経緯はタイミングを見て伝えるとは思うけど、ブックル君が無為に実験台にされるような事はない筈だよ」
「そうか、それなら良いんだが……」
「過去の文献によると、意思のある魔剣とかも存在したらしいのだがね」
「魔剣か、そんなのもあるのか……」
「内容が曖昧で詳細は不確かなのだが、なんでも獣族の少女が魔剣を操り、魔物の大群と対峙して種族としての誇りを示したとか……」
「ふむふむ、それは何かスゴいな、あ、そう言えば……」
「ふむ、なんだね?」
「何かこの城には父のジークフルドが使っていたと言われる【ドラゴンメイル】が保管されているとか噂で聞いたんだけど……」
「ああ、それなら確かに宝具として献上されてこの国の宝物庫に厳重に保管されているよ、しかしドラゴンスレイヤーとも云われた魔剣【屠龍の剣】の方は行方不明でね、魔人べリアルとの対決で壊されたとも云われているが」
「え? あ、そうなのか」
「なんだねその反応は、何か心当たりでもあるのかね?」
「いや別に、それよりそのドラゴンメイルは防具として活用したりしないのか? 今の俺だと重くて装備は出来ないと思うけど、それこそこの国の騎士団長様にでも使って貰った方が魔王軍の侵攻に対しても強みになるんじゃないか?」
出来たらその鎧は俺が欲しいところだけど、それは云わないでおこう。
何故か所持していた形見の錆びた剣に関しても伝えると下手したら取り上げられる可能性はありそうなので、こちらも今は黙っておこう。
「その辺は色々と事情もあってね、国王である親父殿と君の父君との間で交わされた盟約も絡んでくるので、残念ながら僕の一存では自由には出来ないのだよ」
「そうなのか?」
「僕としては君のお父上の形見なのでドラゴンメイルを君に譲り渡したい気持ちもあるのだが、まあ国王も何か考えがあっての事だろう、君が立派に勇者として成長すれば、もしかしたら授けるかもしれないがね」
「あ、その可能性もあるのか、分かった、少し気になってたので聞いてみたけど、教えてくれてありがとう……って、あれ!?」
「む、どうしたのかね?」
「何か契約した時に浮き出てきた右手の紋章がうっすら光ってるんだけど!?」
「もしかして中に居るブックル君が合図を送ってるのかもしれないね、魔力の波長を合わせてそんな事とかも出来るのかもしれないし、何か起きた可能性もなきにしもあらずだ、ブックル君を引き上げてくれるかね」
「分かりました……ん」
「だ、大丈夫か?」
するとアルマに捕まれてブックルが、ポンッ、と飛び出した。
「ブハー、中々引き戻されないからちょっと焦ったゼー」
「ん?」
ブックルが戻ったと同時に、光っていた紋章も輝きを失い元に戻る。
「どうやら無事なようだね、それでブックル君、中の様子はどんなだったかね?」
「ウーン、やっぱり白い空間が広がってる感じだな、それに端まで飛んでみたけどネムの持ってるポーチよりはかなり広い感じだったゾ」
「ふむふむ、それで、他の荷物とかはどんな感じだったかね?」
「……っ」
「ああ、何か空中に浮かんでたな、周りを膜のようなもの、と言うか魔法で包んである感じだったぞ、俺様も同じで何か包まれてる感覚はあったし、それでも何とか動けたけど自分で飛ばなくても、ウーン、なんて言うか無重力みたいな感じだな、何かフワフワしてるんダヨ」
フワフワ? 無重力? シャボン玉に包まれてるみたいな感じか?
「ふーむ、そうかね、まあ何が入っていたかとか具体的には云わなくても良いが、それでお願いしたけど何か掴んでこれたかね?」
「ああ、えっとページに挟んで来たんダガ、こんなので良かったのか?」
そう言うとブックルを持っていたアルマは恐る恐るブックルを開いた。
すると、それと同時に何かがポロリとその場に落ちた。
「これは……お菓子か?」
「あ、それは!!」
それは食事前にネムがピヨヒコに渡したのと同じような、包装されたビスケットだった。アルマもその店は知っていたから自分用に所持してたのかもしれない。
それを見て明らかに動揺して焦燥の様子を見せるアルマ。
別にお菓子を持っていたからって何も可笑しくない気もするけど?
おかしだけに? ピヨヒコはこれまでの事を振り返り推測する……
そして、あ、そう言う事か、と気が付いたのでアルマに問い質す。
「えっと、アルマさん?」
「……はい」
「お菓子を所持してだけど言い出すタイミングがなくて、ネムや俺が空腹になった時にも黙ってたけど、ネムが俺に気遣ってビスケットを手渡してくれたから、それを見て、何か罪悪感とかを感じて複雑な心境になっていた感じ?」
「……っ」
「それと先日の魔女の森で帰る途中、アルマも空腹状態になったけどお菓子を食べないで我慢していたのは、もしかして俺に気を遣って言い出せなかった感じ?」
「……うっ」
「えっと、て事は、初めてアルマと出会って俺が空腹デバフになった時にもお菓子を所持してたって事にはなるのか? あの時は確かデバフを継続したまま帰りにもファーラビットと戦ったけど、食べ物を持ってたのに黙ってたって事になるのか」
「……」
「いや、どのみちお菓子1つ貰っても空腹デバフは解消されなかったとは思うし、ファーラビットが相手だったから空腹デバフの状態でも問題なく対処は出来たから全然良いんだけどさ」
「……ぐすん」
あ、ヤバい、何か泣きそうだ。
「いや、別に責めている訳ではないんだけど、その、もしかして甘いお菓子が好きだから自分用のおやつを誰にも渡したくなかったとか、知られたくなかったとか、それで内緒にしてた感じなのかな?」
「うぅ……ごめんなさぃぃ」
アルマは泣き出した。ピヨヒコはアルマの泣き顔に戸惑う。
「あ、いや、大丈夫だから、別にアルマの事を意地汚いとか思ってないから!!」
「うぅ、ふぇぇん」
「別に自分で買ったお菓子なんだから誰かに渡す義理なんてないし、甘いお菓子が好きだったんだよな? 図書室で出されたのも美味しそうに食べてたし、ククリコの店で出して貰った甘味の誘惑にも負けてたし、それで自分の買ったお菓子を誰にも渡したくなかっただけなんだよな!?」
「うわぁぁぁん!!」
今年で18歳のアルマさん、まさかのガチ泣きである。
別に責めるつもりも咎めるつもりもなかったけど、状況を踏まえて推理してたら答えを導き出してしまったようだ。どうしてこうなった? またデリカシーが無い発言をした俺が悪いのか? いや、でも今回はデリカシーとか関係あるのか?
慌てふためくピヨヒコ。アルマをフォローしたいが、追い詰めたのは自分だ。
「ああ、もう、なにこの状況!? どうするんだよこれ!!」
「うぅ……ぐすん、ぐすん、ひっく……」
その状況を見ていた周囲の反応も、かなり困惑した様子だ。
そして気を遣ってブックルがフォローするも、これが追い討ちとなった。
「アルマ、何かゴメンな、軍師様に適当のを持って来るよう頼まれて選んだんダガまさかこんな事になるナンテ、他にも何か色々な種類のお菓子が沢山あったけど、手鏡とか、手帳とか、変な木彫りの人形とか、ソッチにしとけば良かったか?」
「! も、もう知らないです、私の事はもう放っておいてください!! 勇者様のバカァぁぁ~、うわぁぁぁん!!!」
そう言うとアルマは図書室の奥の方に逃げるように走って行った。
ここからだと本棚に隠れてその姿はもう見えない。
「……」
どうやら他にも沢山のお菓子を所持していたようだ。もしかしてクエストの途中とかでも密かに摘まんでたのかもしれない……いや別に全然良いんだけどさぁ。
「ふぅむ、まさかこんな事になるなんてね、取り敢えず落ち着くのを待つしかないようだね……それよりも先程の話の続きをしようか?」
「え? いや、流石に放置は出来ないんじゃ……」
「そうですよ、酷いですよマルクス様、私ちょっと慰めて来ますー」
「むー、ネムも行くー」
「えぇ、俺はどうすれば……俺も行った方がいいんじゃ?」
「まああの二人が行くなら任せておけば大丈夫だろう、それよりもさっきの実験で気になった事があるんじゃないのかね? 何か反応してたみたいだけど」
そんな事を言い出すマルクス。確かに疑問に感じてた事もあるので話をする事にした。アルマの方は取り敢えず2人に任せて後でちゃんと謝るとしよう。
「ああ、そう言えば気になったんだが、えっと、もしかして空間魔法って時間とも何か密接な関係性があったりするのか?」
「ふむ、良い着眼点だね」
「ンン? どういう事だ?」
「いや、ブックルに聞けば分かる事なんだが、あの時アルマのアイテムボックスの中にどのくらい居た? 大体の感覚で良いんだが」
「ンー、大体15分から20分くらいかな?」
「俺達が待っている間に会話してたのは、長くても5分くらいだった気がするから異空間によって時間の進み方が違うのか? ストレージは何か時間が飛んだとかも言ってたけど、これってもしかして空間の広さに合わせて時間が引き伸ばされてる感じなのかもしれないな……」
「アレ? それだと俺様がアイリンのストレージに入った時は一瞬で取り出されて時間が飛んで怖かった記憶があるんだガ、もしかして違ってたのか?」
「もしかしたらその逆で、実はとんでもない膨大な時間をストレージの中で過ごしていて、それに耐え切れなくなって、その間の記憶が飛んだとか? もしくはそのストレージに入ってる間はブックルの時間も固定されて、意識が無くなるとか?」
「ナンダソレ、怖っ」
「憶測でしかないけど、取り敢えずストレージにブックルを入れるのは止めた方が良さそうだな、魔法の事は良く分からないけど扱い方を間違えると大変な事になりそうだし怖いな」
「そうだね、空間魔法に関しては時間との因果関係は確かにあるようだね、もしかしたら此処とは違う時間の流れの異空間、それこそ【異世界】とも言える別の場所もあるのかもしれないね」
「異世界?」
「アルマには悪い事をしたけど、実験は取り敢えず成功かな、ブックル君も協力してくれて助かったよ、ありがとう」
「うーん、成功と言えるのかは分からないけど、つまり普通のアイテムボックスは物によっては時間の流れが速くなって、通常よりも保存が効かない感じなのか?」
「ふむ、以前に行った空間領域の検証結果では保存は無理だったが、腐敗の進行が進んだとかの報告は受けてないから、ブックル君が言っていた”膜のようなもの”によって拡張空間における時間の影響はそれほど受けていないとは思われるけどね」
「ふむふむ、そうなのか?」
異世界と言われてピヨヒコは、背後の画面の中に広がる世界を思い浮かべた。
もしかして画面の少女が居る世界も何か魔法と関係があるのだろうか?
それともこの世界とは違う、全く別の異世界だったりするのだろうか?
そんな事を思ったが、答えは分からないので考える事を止めた。
「マァ何でもいいガ、俺様もアルマが心配だから様子を見てくるゾ?」
「ああ、あ、待った、その前に気になってたんが手の甲の紋章が急に光りだしたんだけど、これってブックルが何かしたのか?」
「ンー? よく分からないけど、中々取り出されないから念じて呼び掛けたけど、その時に魔力の波長が合って、その影響で光ったのカモ?」
「そんな事もあるのか? そもそも取り出されるってどんな感じなんだ?」
「ああ、確かに、僕とした事がそれを聞くのを失念していた」
「えっとだな、何か見えない大きな手に掴まれる感じだな、それでそのまま引っ張られて気が付いたら外に出てる感じダゾ」
「そんな感じなのか、何か怖いな……」
「ソウダナ、まあ原理や仕組みは俺様もよく分からないが、それよりも魔力の波長を合わせて呼び掛けてみるのも試してみるのか?」
「試すって、ブックルがまた念じて試してみる感じか?」
「いや、どうせならピヨヒコの方からヤってみていいぞ? 俺様の背表紙にも契約の紋章は刻まれてるから、紋章に魔力を込める感じで念じてみればコッチの背表紙が光るカモ?」
「うーむ、と言っても俺は魔法なんて使った事はないんだが、ストレージも魔法と関係はしてるようだけど……取り敢えず試してみるか」
そう言ってピヨヒコは、自分の右手に魔力を込める感じで強く念じてみた。
すると右手の紋章がやんわり青白く輝き出した。
「お、何か暖かいような?」
「おお、何か伝わってくる感じがスルゾ」
それと同時に両者の紋章が眩く光り出す。
ピッカァァ……
そして念じるのを止めるとその光も徐々に失われていった。
「どっちも光ったけど、これ何か意味あるのか?」
「んー、ワカラン」
「僕もそこまで魔術に精通してる訳じゃないけど、本来杖など魔法媒体を通さずに魔力を扱うのは難しいから、何も持ってない状態で魔法を発動するにはそれなりの鍛練が必要になるのだが、光らせる事で確かな魔力の流れを感じる事が出来るなら修行の一環にはなるし、それだけでも価値はあると思うけどね」
「そう言えばアルマも魔法を使う時は杖を持ってたっけ、魔法を発動するのに必要だから持ってたのか」
「杖によってステータスに補正も付くからね、属性に応じた魔石を使うことでそれに関連する魔法の威力を底上げしたりも出来るし、それに銀やミスリルなどは魔法媒体に適した鉱石だから、杖じゃなくても魔法を使う補助にはなるようだよ」
「ミスリルか、強い武器の素材にもなるようだし俺もいつか手に入れたいな」
「杖には棍棒など技スキルを使う為の近接専用の物もあるけどね、それに魔力媒体になるタリスマンなどの装飾品があれば、魔法職じゃなくても適性があれば補助的な魔法の使用は一応可能だよ」
「ふむふむ、成る程……タリスマン? 覚えておくとするよ」
「取り敢えず空間魔法が創り出す”異空間”の事が少しでも分かったのは朗報だよ、時間の進みが違うのはブックル君のお陰で確証を得た事だし以外と盲点だったね」
「そうか、それなら良かったけど……」
「実は最近はプロテクトされたアイテムボックスを不正に開く輩も居るようでね、この辺りを根城にしている、ならず者や野盗の間にもその方法が出回ってるようで被害報告も徐々に増えているんだよ」
「そう言えば野盗による被害も増えてるとか言ってたな」
「もしかしたら空間魔法を扱う魔術師が関与している可能性もあるようでね、本来プロテクトは所有者の魔力を鍵にして登録するから、容易に解除が出来るものでもないのだが、それも踏まえて何か実験で分かればとも思ったのだがね」
「そう言う意図もあったのか、ああ、何か野盗が"裏で悪巧み"してるとかも言ってたけどその事か……うーん?」
「そうだね、まあ実験に関しては僕の興味が半々ではあったけどね」
「……マルクスはアルマがお菓子を所持してた事を知ってたのか?」
マルクスは突然の問い掛けに少し眉を顰める。しかし口元は笑っていた。
「ふむ、どうしてそう思うのかね?」
「いや、何か誘導されるような、試されてるような感覚もあったし、それに聞けば分かることだけど、ブックルはマルクスに"お菓子"の中から適当なのを掴んでこいと指示を出されたんだよな?」
「ン? ソウダゾ、鞄の中にお菓子があるはずだから、何か1つ選んで持ってきて欲しいと言われたな、もし無ければ他のでも構わないとは言ってたケド」
「……ハァ」
嫌な予想が的中して、げんなりするピヨヒコだった。
裏設定 メアリーの扱う武器の名称はレッドラムとポイズンレター。
アルマの持っていた木彫りの人形は絆アイテム。魔族の親友からの贈り物で
友人のククリコも同じのを持っている。三人がパーティに揃えば条件次第で
特別な必殺技、風の精霊術、トリニティシルフィードが発動可能になる。
即興で考えたゲーム的な要素なので、本編で出てくるかどうかはまだ未定。




