第28話 ユニークスキル
雑多な伏線回収。
二度の世界線の変動を得て、思考スキルを獲得したピヨヒコ。
ついには憎きマルクスとの戦いに終止符を打つことに成功した。
しかし影の立役者、怖い秘書のシルビアはいまだ健在だ。
論争バトルも終わりを迎えて、アルマもどこか霧が晴れたような表情だ。
予想外の連続で予定が大分ズレ込み、時刻は既に夜を迎えようとしている。
グ~……
と、誰かのお腹の虫が泣き出し、悲鳴を上げた。
「お腹の空いた~」
どうやらネムの飼っている腹の虫が悲鳴を上げたようだ。
俺の方もブックルに触れた事で魔力を吸われてそれなりに空腹を感じているが、気を遣って色々摘まんでいたので、何とかまだデバフ状態にはなってないようだ。
「ネム、大丈夫か?」
「無理ぃ、ごはん~」
15時過ぎにネムと出会い、その時に串焼きを渡してここで出して貰ったお菓子も食べてたみたいだけど、朝昼ご飯を食べたのか分からないし、曲に合わせて舞い踊ったりもしてたのでお腹が空いてたのをずっと我慢してたのかもしれない。
「マルクス、ここに来る前に屋台で串焼きを買ったんだが、それをネムに食べさせてもいいか? 図書室だから食べ物を出すのはちょっと遠慮してたんだが……」
「ああ、もちろん構わないよ」
許可を得たので、ピヨヒコは背後の少女の選択で買った串焼きを二本取り出す。
これで買った手持ちは終わりだが、夕飯ももう直ぐだからそれまで持つだろう。
タイミングを見て、自分も残りの一本を食べようかと考えていた。
その様子を興味深そうにマルクスが見ていたので少し気になったが無視だ、物欲しそうな顔をしても最後の串焼きは誰にも渡さないぞ!
「ほらネム、もうすぐ夕飯だけどそれまでの繋ぎにはなるからお食べ」
「うん、ありがと~♪」
そう言ってネムに串肉を一本渡す。
「お、旨そうな匂いだな、魔豚か?」
「はふはふ、ネムのだからあげないよ」
そう言うとネムは串焼きを取られまいと慌てて食べ始めた。
翼を広げると大きく見えるがこうして見るとまだ小さな手だ。
「俺様は本だから別に食事は必要ないぞ、取ったりしないカラ落ち着いて食え」
「ん、わかった」
「本なのに匂いは感じるんだな、五感があると言ってたけど味覚もあるのか?」
ブックルも今はバインダーから出て飛んで、と言うか器用に空中に浮いている。特にページを羽ばたかせてもいないのだが、どうやって飛んでるんだろう?
それとさっきから何か変な違和感を感じるのだが……
「ンー、味覚もあるハズだが、まあ無理して食べても本が汚れそうだけどな」
「そうか、それにさっきから何か音も立てずに宙に浮いているがそれはどんな原理なんだ? てっきりそのページで羽ばたくように飛ぶのかと思ってたが……」
「アア、飛んで素早く移動する時は羽、と言うかページを羽ばたかすが、その場で浮くだけなら俺様の魔法でも可能なんだよ、あまり激しく動くとページが擦れて傷物になっちゃうカラな」
「魔法で浮いてたのか、スゴいけどやっぱり何かよく分からない存在だなぁ」
「ふむ、もう食事の用意も出来てるとは思うが、そうだな、まだ話したい事もあるし別室じゃなくてこのままこの図書室で食事にしようか」
「本を汚さないように気を付けるけど、ここで食べても大丈夫なのか?」
「僕もこの図書室に籠りがちで食事もここで済ます事もよくあるから問題ないよ、それにここからだと城の外の様子もよく分かるからね」
確かに窓も多いしこの場所なら城下町で何かあった時にも確認は出来そうだ。
視界に浮かぶ魔王城の様子とかも観測出来そうだし、機能的な図書室だな。
マルクスはそう言うと司書のエマに指示を出す。
エマはそのまま図書室の入り口の方に歩いて行った。食事を用意する場所を給仕に伝えに行ったのかもしれない。
「俺もまだ空腹状態にはなってないが、魔力を吸われて少し体力がキツいから悪いが残った串焼きを頂くとするよ、アルマは大丈夫なのか?」
「私はまだ平気ですよ」
「そうか、それじゃあ、遠慮なく……て、あれ!?」
手に持ってたハズの最後の一本がいつの間にか消えてたんだが?
「え? 俺の串焼きは何処に消えた!?」
「ふむ、どうやらこれは事件の匂いがするね」
「事件!?」
「いや、僕も何やら美味しそうな匂いに誘われて様子を見ていたのだが、確かに君はその手に串焼きを一本持ってたけれど、突如としてその串焼きが消えたね」
「えぇ、そんなバカな!」
「いえ、マルクス様の仰る通りです、私も見ていましたが突然消えました」
「秘書のシルビアさんまで見てたのに消えたの!?」
「私も見ました、確かに勇者様の手から突如として串焼きが消失しました!」
「そ、そんな、アルマまで目撃してたのに誰にも気付かれずに串焼きが突然消えたとでも言うのか??」
確かにこれはマルクスの言う通り事件の匂いがする。
もしかして画面の少女が勝手に残りの一本を仕舞ったのだろうか?
そう考えて背後を見てみると、何だよまたかよ、茶番はもうお腹いっぱいだよ、とでも言わんばかりの面倒くさそうな微妙な表情をしていた。
あ、これは少女は関係ないな、とピヨヒコは直感した。そしてこれが茶番であると認識した。
「……しかし、だとしたら串焼きは何処に消えたんだ?」
「まるで神隠しのようだね、何とも不思議な現象だよ」
「神隠し……ハッ!」
その時ピヨヒコに電流走る。そう、この場には自分を含めて"6人"居るのだ。
まずは被害者の俺、そして目撃者のアルマ、それとマルクスと秘書のシルビア、それに串焼きを食べていたネムと、一緒に居るブックル……は一応除外。
そして最後の1人、謎のシックスメンは、美人な司書のエマさん……ではなく、コソコソと隠れながらこちらの様子を観察している例のストーカー野郎だ!!!
途中からすっかり存在を忘れては居たが、この場にはあの吟遊詩人の……名前、名前が出てこない、あ、そうだ、確かベオルフだ。きっと奴が居るはずだ。
「コホン、ネム、そう言えば相方は何処に行ったんだっけ?」
「む、俺様ならここに居るゾ?」
「ああ、そうだったな、いや確かにそうだけどそうじゃない」
「むー……ちょっと待ってー」
串焼きを食べ終わっていたネムに奴が何処に居るか促す、この場にはマルクスも居るので一応言葉を濁しつつ小声で問い掛けた。
別にバレても構わないが、何か騒ぎになっても困るので配慮した感じだ。
奴の固有スキル”隠れる”は姿だけじゃなく、その存在感すらも希薄になるので、おそらくマルクスですら気が付いてないとは思われる。
説明するのも面倒なのでそのまま黙っていたが、奴が何か問題を起こしても俺の責任ではない。
ネムはチョロチョロと辺りを見渡す。いつの間にか演奏は止まっていた。
「んー、あれ?」
「どうかしたのか?」
「むー、さっきまで気配がしてたけど、どっか行っちゃった?」
「なに!? くそ、逃がしたか!!」
「よく勝手に居なくなるからあの人には言うだけ無駄だよ?」
「ナンダ、なんの話ダ?」
「そうなのか? いやスマン、何でもないから気にするな」
「ソウカ? まあ何でもイイガ」
どうやら取り逃がしたらしい。マルクスとの論争バトルの際にはそれに合わせたテンポの良い演奏が流れていたからつい先程までは確かに居たようだが。
と言うか四天魔族の説明の後で一枚だけ残っていたお煎餅がいつの間にか消失したけど、もしかしてあれもあの吟遊詩人の犯行か!?
まだ容疑者の域は出ないが、ピヨヒコはベオルフが犯人だと確信していた。
ネムが空腹状態になったから奴も腹が減ってたのかもしれない。そのまま隠れて夕飯を食べに何処かに行ったのかも……よし、もう戻って来なくても問題ないな。
「ネム、助かったよありがとな」
「ううん、大丈夫だよー♪」
犯人は確保出来なかったが、探してくれたネムにお礼を言う。
串焼きは盗られたけどもうすぐ夕食だしそれまで何とか我慢しよう。
グゥー……
気合いを入れた瞬間、腹の虫の抗議デモ活動が活発になり悲鳴を上げだした。
無念、ピヨヒコは空腹状態に陥った。
「あ、やっぱりダメだ、お腹が空いて力が出ない……」
「大丈夫ですか、勇者様?」
「あ、ああ、アルマ……ゴクリッ」
「……勇者様?」
「空腹デバフは戦闘の際にかなりのリスクがある状態になるからね、食事の管理も冒険者の勤めだから怠らないようにしないとだね」
「ネムもお腹が鳴ると何か力が出なくて飛べなくなるよ」
「ああ、食事は大切だカラな、アイリンも食事の管理をよく怠って仲間に怒られてたな、小柄の割にはよく食べる勇者だった気がスルガ」
「ほう、それは興味深いね、文献だと先代の勇者の容姿や性格とかはあまり記されてないのだが、仲間の事とかも含めて他にも何か思い出す事はあるかね?」
「ウーン、レズの賢者が同性であるのを良いことによくアイリンに迫って、それを俺様ともう一人、よく思い出せないがソイツと一緒に阻止してた気がするな、他にもう一人……いや人族じゃなくて、魔族? の仲間が一緒に居た気がスルゾ」
「ほうほう、成る程、実に興味深い……文献だと魔族以外の4つの種族と共に力を合わせて魔王を封印した事になってはいるが、もしかしたらその魔族の仲間こそが魔王を追い込んだキーパーソンなのかも知れないね」
「ドワーフの王やエルフの長老、その娘とかとも交流はあった気がスルけど、それとネプトゥーンの皇子とかも居たナァ」
「ふむ、ネプト族は我々も殆ど接点がないが、もう少し詳しく話を聞きたいところだが、ブックル君、もし良ければやっぱり冒険は止めにして此処に住まないか?」
「ンー、確かにこの場所は居心地は良いケド、いや、でも俺様には使命がアルから断るぞ、せっかく動けるようになったんだしまた冒険もしたいしな」
「ブックルはネムの相棒だし、もう仲間だから持ってっちゃダメー」
「むぅ、まあ強要はしないからそう言うなら残念だか諦めるとしよう、それにまだ幼い可憐な少女を悲しませるような事は出来ないからね」
「相棒で仲間か、嬉しい事を言ってくれるなネム、アリガトな」
その隣で話を聞いてた秘書のシルビアが何か言いたげな様子だったが、今回は口を挟まなかった。しかしその視線はどこか冷たい。
「途中で仲間も減ったり増えたりシタ記憶もあるけど、でもあのレズ女は最後までアイリンに寄り添ってたな、俺様とは反りが合わなかったが何だかんだ悪いやつでは無かった気もスルし、まあ何かに付けてエロい悪戯をアイリンに仕掛けてたから、よく照れたり恥ずかしがったりしてたけど、満更でもなかったみたいで女の子同士なのに何か……そう、百合展開か多かった気がする!」
「ユリ~?」
「キマシタワーってヤツだな」
「塔? ダンジョンか?」
「その賢者に関しては少し文献も残っているのたが……それにしてもレズビアンの賢者とは、ふふ、実に面白いじゃないか」
「面白い?」
「ああ、実はその賢者の子孫がこの国には居てね、僕とは腐れ縁のような関係なのだが頭の固い奴でね、その先祖の事もかなり信仰していてよく自慢話とかもされるのだが、まさか自分の敬愛する賢者が百合、いや失礼、別に同性愛を否定する訳ではないのだが、何か奴の生真面目な性格を考えると面白くてね、煽りの、じゃない話のネタにはなりそうだよ……それより大丈夫なのかね?」
「ああ、平気だ」
「よかった……」
その言葉を聞いてアルマは安心する。鍛冶屋のオーダーメイドで選んだ装飾品が【ハングリーリング】じゃなかった事にピヨヒコも胸を撫で下ろす。
そう、魔熊の素材で少女が選んだのは【理性の腕輪】の方だったのだ。
まあ性能的にもこっちの方が使い勝手は良いと思うから妥当と言えば妥当だが、それにこの状況で”飢餓状態”に陥ったら流石にヤバいので、背後の少女もその前に装備を外すなりの対応はしてくれたとは思うけど……
もし選んで居たのがハングリーリングだった場合、食欲を満たすためにこの場で暴れてたかもしれない。しかしこの場に食べるものはない、最悪の場合、目の前に居たアルマに襲い掛かっていた可能性すらあったのかも……そんな事を考え思わず唾を飲んだ。
ピヨヒコは先日の魔狼に一心不乱に喰い付いてた魔熊の光景を思い出した。
想像したら本当に恐ろしい。お腹が減ると思考も鈍るし、良い事はないな。
ハングリーリングは呪いのアクセサリーなんじゃないのか?
空腹状態で火力が上がるようだが、自我を保ちつつ扱いきれる気がしない。
そう思い背後を観てみると、そう言えばそんなのもあったっけ? すっかり忘れてた、と、そんな感じの表情をしていた。
いや、そこはしっかり頼むよ相棒、こっちは自分で装備を切り替える権限すらないんだからさぁ……
画面の少女にそう強く念を込める。そういう緊急事態の時に自分の判断で決定を下せないのが正直キツい。どうにもならないが、最悪の状況に陥ったら時に判断を間違わない事を心から切に願う。
いや、でも待てよ、もしかして装備の着脱くらい、自分の意思でも出来るんじゃないか? 戦闘中の立ち回りや回避は自分の意思で出来ているんだし強制的に動いたり喋ったりして操られてる実感は強いけど、普通に考えて喋る事も出来ている。
でもここでいきなり着ていた鎧とか脱いだりしたら周囲に白い目で見られそうなので試すなら後にするかな。
それにその行動すらもしかしたら自分の意思ではなく少女の決定によるものなのかもしれないし……
取り敢えずあまり考えすぎるとまた気分が落ち込むから、背後の少女に関してはこれまで通り基本的にはスルーしよう。
そんな事を考えていたらマルクスが口を開いた。
「また何か色々と考えているようだね、あとそうだ、さっきのやり取りを見ていて思い出したが、もうひとつネム君に渡すものがあったんだ」
「ネムに?」
「何かくれるのー?」
「これを、きっと戦闘でも役に立つとは思うよ」
そう言うとマルクスは新品のウエストポーチをネムに渡した。
「アイテム入れるポッケ?」
「そうだね、これもアルマが持っている魔法の鞄と同じで空間魔法が付与されてるから見た目以上の容量が入る特別製だよ」
「貰ってもいいのか? 確かにそれがあれば戦闘中にネムが自分でアイテムを取り出して回復したりも出来るから便利だけど、貴重なものなんじゃ?」
「まあ安いものではないが、見たところネム君は鞄なども持ち歩いていなかったからね、先程のブックバインダーと一緒に余ってた予備のを持ってきたのだが、そのバインダーとも連ねてベルトに取り付ける事も出来るから便利だと思うよ」
「ネムが使ってもいいの?」
「ああ、もちろん、有効活用して欲しい」
「ありがとー♪」
「オオ、良かったなネム」
そう言うとネムは腰にそのウエストポーチを取り付け、ブックバインダーもその隣に連結するように取り付けた。
ポーチはネムには少し大きめだが、荷物の重さを感じないなら、そんなに動きを阻害する事も無さそうだ。
「おー、何か良い感じかも?」
「プロテクトは掛けられてないから必要なら後で登録するといい」
「プロテクト?」
「ああ、空間魔法を付与した鞄などは、所有者以外が漁れないようにロックする事が出来るのだよ、本当は購入の際に登録するものなのだが、パーティーで共有する場合はそのまま鍵なしで使用したりもするね」
「ふむふむ、つまり登録しとけば盗まれたとしても中身が取り出せない訳か」
「そうなるね、貴重な素材や金品などもアイテムボックスに入れる事も多いから、その対策がされてるのだよ、それでもたまに盗難の被害報告とかはあるけどね」
「ふーむ、まあ戦闘中に使う回復アイテムとか入れるだけならそこまで用心しなくても良いとは思うけど、ネムはどうしたい?」
「んー、別にどっちでもいいよー」
「そうか、それなら必要になったら登録するか」
「購入したのはハーフビットの店だからそこで登録出来るよ」
「ああ、分かった、と言ってもその店の場所がよく分からないのだか」
「それなら私が知ってるので必要なら教えますね」
その話を聞いていたアルマがそう言ってきた。確かローブや帽子とかも売ってると言ってたし、装備を新調する時にでも立ち寄る事にはなりそうだ。
「……それとついでに保存が効く携帯用のお菓子なども幾つか入れておいたから、もしさっきみたくお腹が空いた時には食べると良いよ」
「お菓子~?」
「ああ、僕が普段遠征に行く時の口慰みにしてるものだが甘くて美味しいよ」
「どうやって取り出せば良いの?」
「そのポッケに手を入れると何が入ってるか認識出来るから、そこから選んで取り出す感じだね」
「おー、何かたくさん? んー、とりゃ」
するとネムは包装されたビスケットを一枚取り出した。
「ビスケットだ、食べても良いの?」
「もちろんだよ、でもそろそろ食事も持ってくる頃だから程々にね」
「うん、わかった、ピヨピコ、はいこれー」
「え?」
「さっきのお肉のお返しだよ、お腹が空いてるなら食べて?」
「いいのか、自分で食べなくても?」
「大丈夫だよ、後でお腹が空いた時に食べるー」
「そうか、ありがとうネム」
そう言ってネムは取り出したビスケットを手渡した。
甘くて美味しい味だった。空腹状態はまだ治まらなかったけど、ネムの心遣いに心が満たされた気がした、やっぱりネムは優しくて良い子だ。
「オオ、何か感動シタゾ、ネムは良いヤツだな」
「えへへー♪」
ブックルに褒められて喜ぶネム。その場に居たマルクスや秘書のシルビアもその行動には感心してる様子だった。
アルマに関しては少し複雑な表情もしているのだが、何か思うところでもあるのだろうか……?
「……仲間との助け合いは美しいものだね、きっとネム君は素敵な大人の女性になるね、まあ食べきってポーチのお菓子がなくなったら後は君達で補充するといい、必要なら店の場所はアルマに聞けば分かると思うよ」
「む? アルマもその店は知ってるのか?」
「え、あ、はい、一応知ってますよ、必要なら後で教えますね」
「ああ、でも貴族様御用達のお店とかだと、値段もそれなりにしそうだし所持金に余裕が出来てからにはなりそうだけど、アルマはその店はよく利用するのか?」
「ふぇ? ええ、まあ……御使いとかでも買いに行ったりもしてたので……」
「そうなのか、それなら買い足しに行く時は場所を教えて貰うよ、まだ他にも気になるお店も色々とあるけどな」
そんな質問をしたらアルマが明らかに動揺しているようにも見えるのだが?
それにマルクスがなにやら不適な笑みを見せたけど、特に口は出さなかった。
なんだろうこの感じ、何か試されているような? まあいいか……
「何か色々と貰ってばかりで悪いな、アルマも持ってるけどこんな便利な魔法の鞄があるなら俺も1つ欲しいところだけどハーフビットのお店だっけ? そこに行けば売ってるのかな?」
「ふむ? 確かにその店に行けば売っているが、君には必要ないんじゃないか? 既にその上位互換とも言える”魔法”を有して使っているし」
「え? 魔法? 俺が!?」
「魔法と言うよりはおそらくは固有スキルだね、空間魔法だけではなく時間操作の能力もあるようだから”時空魔法”とでも言うべきか、とにかくスゴいスキルなのだが、もしかして無自覚で使っていたのかね?」
「多分”ストレージ”ってヤツだな、アイリンもそのユニークスキルは持ってたゼ」
「ストレージ?」
聞き返すとブックルは詳しく教えてくれた。
今までずっと不思議な現象だと思って魔物の素材や回復アイテムなどを亜空間に収納していたが、どうやらこれは【ストレージ】と呼ばれる固有スキルらしい。
背後の少女が管理はしているのだが、魔法の鞄などの空間魔法を付与した入れ物を一般的には【アイテムボックス】とも呼ぶようで所持してる装備や素材、その他諸々のアイテムを持ち運ぶのに活用されているようだ。
攻撃手段として使える能力では無さそうだが、憧れていた固有スキルを既に習得していた事実にピヨヒコは少し嬉しさを覚える。
だがしかし自分にその使用権限はないのだが、でもそう言えば森で巨大スライムを倒してレベルが上がった時に新たな固有スキルを1つ覚えたんだっけ。
確か”マジックポット”だっけ……
名称的にも魔法関連だとは思うけど、こっちは戦闘で使えるのか?
どんな性能なのか覚えた時に何となくは理解したけど、使ってみないと実用性はよく分からないな、背後の少女は把握しているのだろうか?
「我々が普段使ってる魔法の鞄などのアイテムボックスは空間魔法を付与する術者の熟練度によって容量とかも変わってくるのだが……君のそのストレージも流石に無制限ではないとは思うが、先ほど串焼きを出した時にはまるで出来たてのような匂いもしていたので恐らくは”空間保存”の能力も兼ねて要るのだろう」
「さっきのお肉、温かくて美味しかったよ♪」
「何か違和感を感じてた正体はそれか、アルマに聞いた話だと収納は出来ても保存は出来ないと言ってたから、まだ熱を持っていた串焼きを不思議に感じたのか」
「えっと、すみません、それは私の認識不足だったかもです」
「認識不足?」
「私が使ってる魔法の鞄や、一般的な空間魔法での収納は時間を停止させる力まではないので、聞かれた時はそう説明したのですが、固有スキルだとは思わなくて」
「ああ、そう言えば俺は既に魔法の適性を発現させてるとかも言ってたっけ?」
「ですね、空間魔法を普通に使用していたのでその適性があると伝えたのですが」
「うーん、自分ではよく分からずに使っている感覚なんだけど……」
「勇者様のその空間魔法での収納を一緒に戦闘した時に初めて見た時はスゴいとは思いましたけど、空間保存の能力まで兼ね備えた固有スキルだったんですね」
「どうやらそうみたいだな、そう言えば何かファーラビットの素材を回収する時にアルマにじっとり見られてた気がする」
「そ、そんなじっとりなんて見てないですよ、確かに注目はしてましたが」
「可愛い見た目のファーラビットを躊躇わないで倒して、素材を回収してたから、その胆力に対して感心されてるのかと思った」
「まあファーラビットは倒すのに抵抗感を感じる人も確かに居ますからね」
「そのあとアルマが初めて魔法を見せてくれたけど、ファーラビットに対して慈悲も容赦もなくファイアーボールを放って、過剰攻撃ともいえる火力で焼いてたから少し怖かったな、ファーラビットに対して何か怨みでもあるのかと感じたんだけど」
「え!? い、いや、あれはお互いの実力とか能力を把握する目的もあったので、それで私も魔法を披露した感じですよ、別に怨みなんてないですよ」
「そうなのか? てっきりアルマは魔物に対して強い憎しみや抵抗感とかあるのかと思ってた、戦闘の際の容赦ない戦い方を見てたからそう感じてたけど、無慈悲に葬られる骸に思わず心の中で手を合わせたわ」
「なっ、魔王やそれが使役する魔物に確かに少し抵抗感はありますけど、別に恨みなんてないですよ、私でも可愛いと思う魔物は居ますし」
「そうか、何かアルマの事を勘違いしてたかも、森で料理を作ってた時もマタンゴの素材を入れた途端、食材に対して怒りをぶつけてる風にも見えたんだけど、俺の気のせいだったか」
「ふぇ!? そうです、気のせいですよ!!」
「何か動揺してない?」
「してないです! それに別に無慈悲じゃないですよ、戦闘で油断したらこちらが殺られるので容赦してないだけですよ、勇者様もそれは同じでしょう?」
「確かに、俺もファーラビットを倒す時はそんな事を考えつつお祈りしてたかも」
「お祈り?」
「えっと、それじゃあ何でブックルに対してあんなに嫌そうな態度だったの?」
「う、それはその……」
その話になると口籠るアルマ。何となく推測してた事をピヨヒコは推理した。
先ほどの串焼き消失事件の余韻が残っていたのか、気分はまるで名探偵だ。
「えっと、予想だけどアルマは過去に魔物図鑑を読み耽って魔物の情報を覚えたと言ってたから、ブックルが文字を指でなぞられるのが気持ち良いと言っていたその読み手ってアルマなんじゃないか? その話を聞いた時に恥ずかしそうに俯いてたからそう思ったんだけど、どうだろう!?」
「そ、それは……」
「それにアルマには何か考え込んだり、悩んでる時に、人差し指を曲げて唇に当てる癖もあるし、本を読む時に文字をなぞる癖があると見た、どうかな!?」
「そ、そんな癖なんて……」
「それで今まで普通の魔物図鑑だと思っていた本が突然動き出して、魔物みたいな見た目のブックルに驚いて、抵抗感を感じたとか? ブックルの言い方も何か特殊な性癖を思わせるような発言だったし、それで嫌悪感とかも感じて、マルクスからブックルのお世話を頼まれた時に、拒否したい気持ちがあってそれで煮え切らない態度になってしまった、違うかな!?」
「あう、あのそれは、その……」
「ナンダ、あの指の主はアルマだったのか?」
「ひゃい!!」
「ふっ、どうやら当たっていたようだ、謎も解けたしこれで事件は解決だな」
「事件ってナンダ? ソレニ別にそんな特殊な性癖とかじゃないぞ? 皮膚の感覚も敏感じゃないから少しこそばゆい程度だし、それに他にも弄くり回す様に挿絵をベタベタ触って来たやつも居たんダガ……それもアルマだったのか?」
「ふぇぇ!?」
「いや、それは多分の司書のエマさんだと思うぞ、ブックルがその話をしてた時にアルマとは対極的で何か嬉しそうに、自分が読み耽っていた魔物図鑑が本物の魔物だったなんて、最高じゃないですかー、て感じてこちらの様子を見ていたし」
「ゴホン、彼女は確かに魔物に目がないけど、写本をする際には自分で挿し絵とかも描いてたからおそらくブックル君の図鑑を参考にした時に、色々触ったんだとは思うよ、なので決してそんな如何わしい気持ちではないと思うね、彼女の名誉の為にもあまり憶測で物事を言うのは止めて欲しいものだね」
「あ、そんな感じなのか……」
マルクスはそう言いエマを庇ったが、ブックルが動き出した時こちらを注目しながら少し涎も垂らして恍惚な表情をしてたので、おそらく如何わしい気持ちもあるとは思うのだが、別に言及するつもりはないので、大人しく引き下がろう。
それにしても秘書のシルビアさんもだけど、最初に感じた落ち着いた大人の女性のイメージが音を立てて崩れ去っているんだけど、あの可愛い印象のメイドさんも見た目の印象と実際の性格は違う感じなのかな……
まあエマさんは魔物に対する情熱はスゴいけど、おっとりした雰囲気だし美人には違いないし打ち解けて寧ろ好感度は上がったけど。
それに大人の女性って印象はあるので、好みで選ぶなら3人の女性の中では一番好きかもしれない……
「ピヨピコ、デリカシーない!」
「えぇ?」
そんな事を考えてたらネムに突然そんな事を言われた。
よく見ると論破されてアルマが落ち込んでいるようだった、その瞳にはうっすらと涙を溜めている。
別に責めるつもりなんて無かったのだが……周囲の視線もネムの言葉に同意するように何処か冷たく感じる。
「あ、いや、俺は別にそんなつもりじゃ……」
「……グスン」
一緒に使命を果たす為に支えると誓った相手に責め立てられて、アルマは気落ちして伏していた。その様子を見ていたブックルが声を掛ける。
「そっか、あの読み手はアルマとエマだったのか、アリガトナ」
「……え?」
「眠っていた時の意識は朧気だったケド、2人とも丁寧に優しく扱ってくれたのは伝わったから、ナンカ誤解させる言い方したけど、不快な気分にさせたならゴメンな」
「……いえ、こちらの方こそブックルさんの見た目に驚いて拒絶するような態度を取ってごめんなさい、魔物の詳細とか色々と為になって読んでて楽しかったです」
お互いの気持ちを伝えて、アルマとブックルも少し打ち解けたようだ。
「ふうむ、何か上手く纏まったみたいだが、確かに君はもう少し言葉を選んだ方が良さそうだね、観察眼や洞察力が優れているのは悪いことではないが、何でもかんでも伝えれば良いってものでもないからね? 女性とはとても繊細な生き物なんだから、もう少し言葉を選んで優しい扱いを覚えたまえ」
「……それをマルクス様が言いますか? 流石は女性の扱いに長けてるだけありますね、感心しました」
「むぅ、その割りには何かが視線が冷たい気がするのだが……ゴホン、取り敢えず君のそのスキルは使い方次第ではスゴく便利なものなので上手く活用すると良い」
「あ、ああ……」
シルビアに冷たい視線を浴びせられたマルクスは気まずい気分になったので話を誤魔化した。ピヨヒコもネムの冷めた視線を感じて気まずい気分になっているが、マルクスと同類だと思われるのも嫌だったので、アルマにちゃんと謝る事にした。
「あの、アルマ、その責めるつもりは無かったんだけど……ごめんなさい」
「……いえ、大丈夫です、それに勇者様が謝る事ではないので、平気です」
「いやでも、やっぱり今のは俺が悪かったよ、確かにデリカシーが足りなかったと思うし、反省して今後は発言にはなるべく気を付けるよ」
「……」
「そうだね、言葉というものは巧く使えば相手と良好な関係も築けるが、使い方を間違えると時に相手を傷つける凶器にもなり兼ねない、だからと言って何も伝えなければ相手にも伝わらないから扱いは実に難しい」
マルクスが最後に横槍を入れたが、取り敢えず謝罪はしたので一応はこれで解決だ。気持ちを切り替える為にピヨヒコは、アイテムボックスの事で気になっていた疑問をマルクスに聞いてみる事にした。
「そう言えばこの魔法の鞄って生き物も入ったりするのか? 少し気になったんだけど」
「ふむ? いや、空間魔法で作ったアイテムボックスに生物は入らないよ」
「あ、そうなんだ、いや、もし生物や魔物とかも入るならそのバインダーが無くてもそのアイテムポーチに入れればブックルの持ち運びも容易かな、とか思ったんだけどな」
「確かに興味深いが、空間魔法の研究では生きた魔物は入らなかったようだがね、理屈とかはよく分からないが、どうやら空間魔法の特性が生命力を拒絶するようで倒した魔物の素材なら問題はないが、生きている内は入れられないハズだよ」
「ブックルは魔物かどうか自分でも分からないとは言っていたから、もしかしたら魔法の鞄にも入るかなとも思ったんだけど、まあそのバインダーがあれば問題ないし、ちょっと気になってた程度なんだけどな」
「お、ナンダ? 俺様の話か?」
「え? ああ」
するとその話を聞いていたブックルが割り込んできた。アルマも謝罪を受けて、気持ちも少し落ち着いたようで、こちらの様子を黙って見ている。
「ストレージになら入った事はあるゾ? 入っている間は何か時間が飛んだから、少し怖かった記憶があるけど、アイリンは優しかったからその事を伝えたらその後は緊急事態の時に、数回だけ入った感じだったケドな」
「え、そうなのか?」
「多分アイテムボックスなら時間も止まらないし、普通に入れるんじゃナイカ? 朧気だけど何回か入った記憶もあるし、何かフワフワした空間で気持ちよかった気がするが、気になるナラ試して見るか?」
「試すー?」
「ああ、お願い出来るかネム、まあ確認程度だけど」
「アイアーイ」
「ヨシ、いっちょヤってみるかー」
ネムはその場で屈んで腰に掛けてたアイテムポーチを広げて構える。ブックルは少し距離を取る。そしてそれを目掛けてブックルが思いっきり飛び込んだ。
まるでキャッチャーミットを構えたネムにボールが収まるかのようにブックルはそのポーチに吸い込まれた。
バシューーン!!
何でわざわざ距離を取ったんだろう……
「おおー、中に入ったー♪」
「これは予想外だね、と言うことはつまり、ブックル君は魔物ではなく……」
ガラガラガラ……
それと同時に司書のエマさんと、長らく離れていたメイドのメアリーがキッチンワゴンを押しながら、料理を持ってやってきた。
「お待たせしました、お食事の時間ですよー、て、あれ、ブックルちゃんは?」
「わーい、ご飯だー♪」
美味しそうな匂いに反応してピヨヒコの腹の虫も歓喜の声を上げる。
グュルルルルー♪
◇
「うーむ、このゲームやっぱり設定が細かいなー」
テキストを読むこと自体はそんなに苦ではないけど、些細な会話の中にも細かい伏線みたいなのも結構あるから流し読みしずらいし、内容も全部は拾いきれない。
一応キーワードになる固有名詞は【 】とか” ”で強調はされてるけど……
オートの読み送り機能はあるから、ボイスを聞きながら会話パートを楽しむ事も出来るけど、フルボイスだからそれだけ時間は掛かる。
RPGと言うよりはテキストアドベンチャーゲームなのだが、過去ログは見返せないし、それにアルマとの初戦闘の時の会話なんて弟からデータを引き継いで遊んでいる私にはどんな感じだったのか分からないしなぁ……
ピヨヒコの固有スキルの『ストレージ』に関しては、アイテムを収納する要素をスキル扱いにしていて何か独特な設定で面白いとは思ったけど。
会話でちゃんとその説明まであるとは思わなかった。本当に設定が細かいし正直やり過ぎだと感じるのだが……
それに過去の勇者のパーティーの情報とかも少し出てきたけど、百合展開って。
これらの要素も伏線で後でメインストーリーとかに絡んで来たりするのかな?
ストーリーに深みは増すけど何か名前しか出でないキャラも何気に多くて全部は覚えきれないんだが、紅蓮の魔術師グレアって誰だよ? 何か強そうなネームドだけど、コイツも後々に出てくる感じなの?
それとやっぱりこの主人公はなんか本当に思考しているような印象だし。
鍛冶屋で選ばなかった装飾品や空腹状態を想定して、何かあった時に備え装備の切り替えは任せるから慎重に頼むって、なんだそれ!? どんな思考ルーチンをしてるんだよ。
そもそも私は慎重派だし、この状態でハングリーリングを装備していたら流石に外してるわ、てかハングリーリングなんてアイテム存在も忘れてたっちゅうに……
装飾品は戦闘中でも行動ターンを消化して付け替え可能とか説明があったから、空腹状態になったら装備してバーサク状態を引き出し、攻撃力倍増とかも狙えそうではあったけど、管理が面倒なので却下だ。
それに理性の腕輪は何気に必須なんだよ。この腕輪がもしなかったら多分もっと色々と危ない展開になってたかもしれないんだぞ!?
キノコの魔物の時に錯乱してその時も何やら危なかったから、錯乱状態にも有効ならと思ってこっちを選んだけど、魅了状態に有効ならこの腕輪はもう外せない。
何度も言うが私はこのゲームにエロゲー展開なんて望んでないんだからね!!
それ以外にも、効果があるかは分からないが、記憶がないピヨヒコの精神安定の補助にもなるなら暫くはメインの装飾品として活用する予定だ。
こっちの腕輪を選んだ英断に、主人公には寧ろ感謝して欲しいくらいだわ。
それと会話に出てきたハーフビット? のお店に行けば色々と便利な装飾品とか売ってそうだけど、魔法の鞄みたいな便利アイテムとかも他にもあるのかな?
城下町の移動も何気に大変だから、出来れば移動速度が上がるアクセサリーとかがあれば助かるんだけど、素早さ補正の装備なら盗賊ピヨヒコの強化にもなるし。
「と言うか何で走る機能がないのよこのゲームは、信じられないんだけど!!」
そんな愚痴を溢しつつも、このゲームにかなりハマってはいる桜子だった。
◇
回収してまた新たな伏線を張るスタンス。
無駄な会話で文字数が多いのはご愛敬。
チュートリアルが終わるまではこの形式ですが、色々と
試行錯誤しつつ台詞や文字数は簡略化していく予定です。




