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第26話 命名の儀式

 冒険の書が消えてしまったので、新たな冒険の書を作成した。

 そしたら何か知らないが仲間が増えたので名付ける事になった。


「それなら、グリモンなんてどうだろう?」

「ええ、それだとちょっと可愛すぎないです? やっぱり魔物足るものそれなりに威厳がある名前じゃないと」


 ピヨヒコは画面の少女の案を出しているのだが既に幾つか却下されていた。

 皆も参加して名付け大会になったのでネムも図鑑を読むのは止めて考え中だ。


「威厳のある名前……ルシファとかデアブロとかですかね?」

「流石はアルマさん、それです、そう言う魔王的な感じのもアリだと思います」


「確かにカッコいいが、この魔本のイメージには合わないような?」


 アルマも提案してくれたが、自分の考えた名前を司書さんに却下されたのが気に入らないのか反抗するかのように、背後の画面の少女が"決定権"を行使してそれを却下する。さっきからこれの繰り返しでいつまで立っても決まらないでいた。


「私は何かスゴく良いと思いましたけど、ダメなんですか?」

「い、いや、俺も別にそこまで悪いとは思わないんだが……」


「えー、じゃあ何で反対したんですかー」

「俺様は別にナンデモいいんだが、面倒ならそのままマホンとかでもイイゾ?」


 魔本はネムに(かか)えられながら会話に参加している。既に仲良しだ。


「マホン、マホトン……何か相手の魔法を封印とか出来そうな名前だな」

「そう言う魔法も実際にありますよ」


「そうなの?」

「はい、直接的な封印ではないですが相手の魔力を乱す魔法を掛けて魔法の発動を妨げたり、前にも話した結界魔法になりますが、魔力に干渉するフィールドを張る事で魔法の発動や詠唱を妨げたり、風魔法でもそれに近い事は出来ますね」


「確かに、相手の魔法を封じれば有利になるな」

「それと防御魔法にはなりますが対魔法障壁を作って相手の魔法を打ち消したり、跳ね返したりも出来ますよ、他にも呪印魔法の呪術で相手に特定のデバフを与えて行動に制限を設けたりも出来るようです」


「じゅじゅちゅ? そんなのもあるのか」

「……魔法職には呪術士と呼ばれる職業もありますね、まあ呪術はリスクもあるので扱うのは難しいですが、適性を持ってる人も少ないようです…………ぷふっ」


 聞き返して噛んだけど、アルマはそれに気付きつつもそのまま答えてくれた。

 少し恥ずかしい気分になったがその気遣いに感謝……と思ったら笑われたよ。


「そ、そうか、魔法は奥が深いな、でもその妨害魔法って対人を想定している感じだよな? 魔術師同士で戦ったりもするのか?」


「コホン、いえ、魔法を使う魔物を想定した戦術ですよ」

「ええ!? 魔物も魔法を使うのか!?」


「えっと、魔物は魔力を糧にして活動してるので、種類によってはドラゴンのように火を吐いたり、他にも風を操ったりなど様々ですが、それらも性質的には魔法の扱いにはなりますね、なので妨害魔法も魔物には有効です」

「ふむふむ、ドラゴンのブレスとかも魔法には分類されるのか」


「それに魔物図鑑を読むと普通に詠唱で魔法を使う魔物も居ますね、ジャーマンと呼ばれる魔物は呪術を操り、デバフでこちらの行動を邪魔してくるようです」

「ふーむ、魔法はやっぱり色々と便利だな……」


「勇者様、勇者様、アルマさんもですが、魔法のお勉強も大事ですが話が脱線してますよー」


「あ、すまん」

「すみません」


「む~……」

「ネム、そんなに悩まなくても気楽に考えればいいぞ?」


「む?」

「俺も大した名前は浮かばないし、マモノンとか、エイボンとか、テケリリとか、ルルイエとか、提案して却下されたけど、色々と案を出して良さそうなので決めれば良いと思うぞ」


「何か女性みたいな感性のネーミングセンスですよね」

「そ、そうかな?」

 

 不意討ちで怖い秘書のお姉さんに鋭い指摘をされた。

 自分では思い付かなかったので画面の少女に任せてたけど、確かに可愛い感じもするが……何となく冒涜的な名前な気もする……


 少年が自分に付けたピヨヒコもどうかとは思うが、この少女のネーミングセンスも少し微妙だ。まあグリモンは個人的にはアリだとは思ったけど……


 何かレベルが上がると進化しそうな感じがする。


 そしたら背後の画面の少女は取って置きだと云わんばかりにお気に入りの名前を提案した。


「カッコいい名前ならシキとか、セツナとか……ハルトならどうかな?」

「それこそこの魔本ちゃんには似合ってないじゃないですかぁ、それならさっきのルシファとかの方がまだ良いと思いますー」


「何でも言いとは言ったが、俺様もハルトよりはまだデアブロの方がイイナー」

「そ、そうか」


《ズズズズズーーン……》


 背後の画面の少女をそれとなく見てみると全否定され、打ちのめされたので何か落ち込んでる様子だ。頑張って色々と考えていたのに、少し不憫だとは感じた。


「天気の名前とかどうですかね、何かカッコいい感じのもありますし」

「おお、流石はアルマさん、分かります、分かりますよ、何か主人公っぽい感じがしますよね」


「天気? クラウドとかレインとか? 曇りに雨に、晴れはなんだっけ?」

「晴れはサニーですかね、あと豪雨ならスコールとか雷鳴でライトニング、雪ならスノウとか、それと濃霧でミストとかも名前っぽくはありますが……」


「ライトニングか、何か凛々しい感じがしてカッコいいけど、どれもこの魔本には合わない感じかな、それにあまり長い名前だと呼ぶのも大変そうだし、それと何となくだが、これらの名前は危険な気がする……」

「言われてみれば確かにそうですね、もっと本に関連した感じの方がしっくりくるかもですね」


「シンプルな奴なら、ソラとかリクとか、カイとかも何か主人公っぽいですよね」

「確かに呼びやすいけど、別に主人公の名前を決めてる訳ではないからね?」


「人は誰しも一度は主人公に憧れるものなのですよ」

「いや、そうとも限らないんじゃ……」


「む~……」

「おや、何やら愉しそうな事をしてるね」


「む?」

「あ、マルクス様、今はこの魔本ちゃんに何か良い名前を考えてるところなんですよ、色々と候補はあるのですが中々決まらなくて」


 命名の儀式をしていたら退室していたマルクスもいつの間にか戻ってきたようで会話に参加した。


「名付けか、確かに呼び名は大切だね、どれ、僕もなにか考えてみようかな」

「軍師様まで参戦カヨ、俺様としては別に名前なんてドウデモいいんだが」


「いやいや魔本君、魔物にとって名前は大切なのだよ、名前を与えられる事で契約する場合もあるし、それによってお互いの力を共有したりも出来るようだよ、君も先代の勇者様から何か名前を与えられてたんじゃないかな?」

「ンー、そう言われると確かに、彼女に愛称みたいので呼ばれてた気もするが……ページが抜け落ちたせいか、その辺の記憶が朧気で思い出せないなぁ」


「記憶か……自分の事も分からないと言ってたがツラくはないのか?」

「いや、記憶以前に気が付いたらコンナ本の姿だったしナ、彼女と会う前の記憶もヨク覚えてないから特にツラいとかはないかな、一緒に冒険してて楽しかったし、でも自分が何者であるかとかは、当時は少しは悩んでた気もするナァ……」


「そうか……」

「そもそも彼女の名前が何故か思い出せないダヨナ、一緒に冒険した相棒なのに、魔物と戦った記録は残っているから、その時の戦いの記憶とかはアルけど」


「詳しい容姿とかは分からないが文献によると、先代の勇者は【アイリン】と言う名前のようだが」

「アイリーン? ……うん、ソウかも、確かにそんな名前だった気がスル」


「少しでも思い出せたなら良かった、それに君の名前だが語り部の使命を有してるなら、カタリナとかはどうかな、他にもアルカナとかも思い付いたが」

「えー、それだと何か女性っぽくないですか?」


「本だから別に性別とかはないと思うが、それに女性らしい名称の方が呼んでいて愛着も沸くと思うのだが」

「軍師様は大変女性がお好きなようですね、でもベッドの上でお相手の名前を他の女性の名前と間違えるのはどうかと思いますけどね……」


「いや、あの時は少し酔っていて、と言うか何で君がその事を知っている!?」

「あら、私はマルクス様の秘書ですもの、知っていて当然じゃないですか?」


「ひぃ!?」

「マルクス様、最低ですねー」


「むー……マルクスはサイテーなのか?」

「ああ、コイツは酷いな、屑ダナ」


「私も、その、複数の女性に色目を使うのは駄目だと思います」

「日頃の行いの悪さが垣間見えるな……」


「いや、それは、だが、女性から誘われたら男としては無下には……」

「それでお相手の名前を間違えるって、男としてどうかと思いますけどね……」


 秘書の女性の鋭い口撃が直撃する。マルクスは慌てて弁解しようと試みるも周囲の視線が冷たく刺さる。やはりコイツは女誑しの最低の屑野郎だな。それにしてもこの秘書の情報網はかなり優れているようだ、とても恐ろしい。


「ゴ、ゴホン、まあ名前に関しては君たちで決めたまえ、僕は口出ししないで傍観させてもらうよ」

「それよりも何か取りに行ってたんじゃなかったのか? それに美人の司書のお姉さんにも、何か本を何冊か探してもらってたようだが」


「ああ、そう言えばそうだったな……」

「あら勇者様、美人だなんて嬉しいですね、私ちょっとドキドキします」


「あ、いや、思ってた事を言ったんだけど、つい言葉に出てしまった」

「ナチュラルに女性を褒める辺りは血筋って感じですよね、流石は勇者様です」


「!?」


 マルクスの言葉を遮るように司書のお姉さんが割り込んできた。

 その結果アルマに何か俺まで冷たい目で見られたんだが……マルクスと同類扱いされて何かスゴく気分が落ち込む、ズズズズズズーーン……


「まあ男なら女性に優しく接するのは使命みたいなものだよ、君達も粗暴に扱われるより紳士な対応をされる方が良いだろう?」

「そ、それはそうですが……」


 マルクスにフォローされて更に気分が落ち込んだ。しかしこの言いくるめスキルがこの軍師のスゴいところなのかもしれない……


 ちなみに今更ながら聞いてみたらこの美人の司書さんの名前は【エマ】

 怖い秘書の名前は【シルビア】

 そしてあの可愛い印象のメイドさんの名前は【メアリー】と言うらしい。


「名前と言えば、魔物図鑑に載ってた魔物の名称も何かユニークなのが多いよな、ウォーキングウルフとかも群れでの動きに何か統一感があって本当にウォーキングしながら歩いてる感じだったし」

「魔物の特性や名付けは魔王が決めてるようだが、確かに名が体を表すような名称が多いね、忌むべき相手ではあるが独特のセンスはあるとは思うよ」


「魔物を作り出す時に何か参考にしてたりもするのかな?」

「どうだろうね、長い時間を生きているようだからその知識や経験ももしかしたら我々の及ばない領域なのかも知れないね」


「そうか、そう言えば魔物図鑑にこの魔本自身の情報は載ってないのか? 自分が何者か分からないと言っていたが、そもそもコイツは魔物なのか?」

「ふむ、見た目は魔物にしか見えないが、どうなんだろうね」


「ウーン? よくワカランが、この図鑑は俺がアイリンと一緒に戦った記録だからな、魔王が作った全ての魔物を網羅してる訳ではないと思うが、自分と同じような本の姿の魔物も居た気がするなぁ、よく覚えてないが強かった気がスル」

「あ、それならきっと”ジャガーノート”って魔物ですね、本の形態なんですよ」


「そんなのも居るのか、それがこの魔本の正式名称なのかな?」

「いえ、特徴的にはおそらく違うかと、ジャガーノートは”本の魔人”とも言われていて、相手をその本の世界に取り込むらしいです、正体は本の世界に住まう魔人でかなり脅威度の高い魔物のようです」


「本の世界に取り込む? そんな危険な魔物も居るのか」

「この魔本ちゃんは確かにジャガーノートではなさそうですね、この魔物は普段は普通の見た目の本なので、獲物が本を読むのを待って本の世界に取り込むようで、魔法で相手を誘導したりもするそうですが”ミミック”と呼ばれる魔物の特性と似ていますねー」


「ふーむ、確かにこの魔本とは別物みたいだな」

「まあ魔物図鑑で読んだだけなので実際に実物を確認した訳ではないですけどね、でもダンジョンとかだと、他にも擬態する魔物もいますからね」


「そうか、取り敢えずそのジャガーノートには用心した方が良さそうだな」

「過去の魔物だから今もまだ居るとは限らないが、いざという時に備えて、各々の力を付けながら、なるべく無理せずに勝てる魔物を選んで挑む事を推奨するよ……急がば回れとも云うからね」


「そうだな、準備不足で自分の身の丈に合わない強い魔物と戦っても、身を滅ぼす可能性が高いからな……」

「ですね、なるべく自分達の出来ることからしていきますか、その図鑑には魔物の生息地域とかも載ってますから、脅威をある程度は避けることも可能ですし」


 ピヨヒコは先日戦った二匹の強敵を思い出した。

 少なくとも本来は防具も装備しないで本来は勝てる相手ではなかったはずだ。


 思い出すと身震いがしてくる。アルマも巨大スライムに気絶させられたし、あの戦闘には何か思うところがあるようだ。


 そう心掛けても、行動の決定権は背後の少女の気分次第なのがもどかしいが……それでも魔物と戦うのは自分達なので、もっと強くなればリスクも減るだろう。


「それと忘れていたが、これを取りに行ってたんだよ」

「これは?」


 マルクスは魔本を納める革製のブックカバーのようなものを渡して来た。

 説明を聞いたらどうやらマルクスの所有物で遠征などの時に大切な本や資料などを持ち運ぶ際に使っている、魔法の”ログブックバインダー”らしい。

 本を覆い守りつつ腰に付けられて取り出しやすい構造になっているようだ。


「レザー製だが特別な魔物の素材を使用していてね、これならおそらく君でも持ち運べるとは思うよ」

「そうなのか?」


「ああ、それには強力な防御魔法も付与されているので、炎や水なども防げるし、収めている間はおそらく魔本君の魔力吸収も押さえられるとは思うのだが」


「そうか、それならちょっと試してみるか、と言っても俺は触れないんだけど……ネム、悪いがちょっとその魔本をこのカバーに納めてくれるか?」

「む? あ、あいあい」


 そうお願いするとネムは素直に抱えていた魔本をこちらに渡してくれた。


「ああ、ありがとう」

「ううん、大丈夫だよ、それと名前を考えたよ」


「お、何か良いのを思い付いたのか?」

「うん♪」


 一同がネムに注目する。

 その視線を感じたのかネムも少し緊張してる様子だ。


「えっと、【ブックル】なんてどうかなぁ?」

「ブックルか、うん、悪くないんじゃないか」


「ブックルちゃんですか、何か愛着が沸きそうな名前ですねー」

「フムフム、それが俺様の新たな名前か」


「マルクス様の案よりは全然良いと思います」

「むう、まだ言うか、でも似合ってるし良いんじゃないかな」


「本にも関連した感じですし、私もその名前で良いと思います」

「えへへ~♪」


 一同その名前に同意した。

 あれこれ案を出しても決まらなかったし、ネムが悩んで考えてくれた名前なのでそれを否定する者は居なかった。


 背後の画面の中の少女は、どうせ私はネーミングセンスないですよ、はいはい、もう何でも良いですよー、とでも云いたげな表情をしていたが。

 名前を考えるのは自分も苦手だがこの少女もあまり得意ではなさそうだ。ネムの提案を却下しないで聞き入れてくれて、取り敢えずは安心した。


「マア魔物の威厳はあまり感じないが、悪くはないんじゃなイカ」

「む? 他にもゲラゲラとか、ポロンゴとかも思い付いたけど、そっちにする?」


「!? ブックルか、良い名前ダナ、気に入ったゼ、アリガトウ!」

「~♪」


 どうにかこうにか名前も無事に決まったようだ。

 ネムも満足した表情でブックルを差し出したブックカバーに挿れた。


「ナスがままに運ばれたが、別に俺様が自分で飛んで入ることも出来タナ」

「そう言えばそうだな、それよりもこれ本当に大丈夫なのか?」


「ウーン、口は少し動かしずらいガ、革の素材が全体を覆ってる感じがするな……それに直ぐに出られる構造で視界も特に遮られないし、剥き出しの部分があるのに何かこう、包まれてイル安心感はあるな」

「そうなんだよな、中身をすっぽり覆ってる感じじゃなくて本が落ちないようにはなっているが表面の上部は剥き出しの部分もあるんだよな」


 見た目的には表紙の目の紋様の辺りが、そのまま見える感じだ。


「付与魔法が掛かって居るからその状態でも魔法に対する耐性に問題ないのだよ、それにそっちの方が本のタイトルも分かりやすくて良いだろう、貴重な魔物の素材を使って、ハーフビットの店で頼んだオーダーメイドの一品なのだよ」

「でもこれ元々はマルクスが使ってるやつなんだろ、譲って貰っても良いのか?」


「まだ予備があるから構わないよ、貴重ではあるが体防具じゃないので素材もそこまで多くは使ってないからね」

「そうか、それなら遠慮なく使わせて貰うが、うーん、これ以上魔力? を吸われると俺としてもキツいのだが、試すには触ってみるしかないか……」


 ピヨヒコは恐る恐る、そのブックバインダーに入ったブックルに触ってみた。


 すると……何も起きないな。どうやら大丈夫なようだ。


「ふぅ、これなら大丈夫そうだけど、このバインダーも装飾品の扱いみたいだな、まだ2枠空いているから一応装備は出来るが……」

「ふむ、まあベルトに付けて腰に掛ける感じだからそこまで動きを阻害されたりはしないと思うが、もし戦闘の邪魔になるようなら戦う時は外すなり、ブックル君に飛んで離れて貰っても良いとは思うがね」


「そうだな、近接戦闘で巻き込まれても危ないし、その方が良さそうかな」

「もしくはアルマにその装飾品を渡して、ブックル君を預かって貰うとかでもいいとは思うが、別に君が四六時中、所持しなくても契約を結んであるなら離れていてもページは増えていくとは思うよ」


「え、私ですか……?」

「え、これ俺が所持してなくても大丈夫なの?」


「契約は済んでるから離れていても効力は発揮するケドな、俺様もよくワカランがページは問題なく増えるとは思うゾ、アイリンと冒険してた時も離れ離れになってた期間があったけど、その間の冒険の記録もちゃんと追記されてたみたいだし」

「そうなのか? それならアルマに任せても俺は別に問題はないけど……」


 それなら無理してこの魔本を冒険に連れて行かなくても良いんじゃね?

 とも思ったが、また何だかんだと言いくるめられる流れになりそうだったので、ピヨヒコはその提案をするのを止めた。


 名前も付けたし貴重な装飾品まで用意して貰ったので、責任をもって仲間としてブックルを受け入れる事にしよう。ネムとも既に仲良くなっているしな。


 問題は、アルマがブックルに馴染めるかだけど……


「確かにアルマなら後衛だし俺よりもレベルが高いからブックルが危険に晒される事はなさそうだが、それに俺が間違って直で本を触る心配もないし、その方が安全かも……?」


「……わ、わかりました、勇者様がそう言うなら」

「あ、いや別に嫌なら無理にとは言わないが……」


「アルマはブックルの事キライ?」

「え!? いや、そ、そんな事はないですけど……」


「まあコンナ見た目だし別に嫌われてても仕方ないガ、俺様は悪いスライムじゃないから、変な事とかはシないので、そこは安心していいぞ?」

「何処からどう見てもスライムではないと思うんだが?」


「そう言うお決まりのセリフがあるんダヨ、いわゆるテンプレってヤツだな」

「テンプレ? 何か何処かで聞いたような……」


 アルマは承諾しつつもやはり少し戸惑っている様子だった。


 ブックルに対して、あまり良いイメージは持ってなかったようだし、こんな訳の分からない喋る本を装備するのに抵抗感があるのは、気持ちは俺も分かるけどな。


 それでも名前が決まり周りとも打ち解けて、ブックルに悪意が無い事も分かったのか、さっきまでよりは受け入れているようにも見えるのだが……


 その様子を見ていたマルクスが声を掛ける。


「まあ仲間内ならその装飾品は自由に装備出来るので、誰が持つかは君たちで決めればいいと思うが、それとアルマにはこれを渡そうと思ってね」


 そう言うとマルクスはテーブルに置いてあった三冊の本を、アルマに渡してその目の前に置く。


「あの、これは?」 

「この図書室で保管してた魔導書だね、この三冊が記してる魔法は今の君ではまだ使いこなせないかもしれないが、いつかは君達の助けになるはずだよ……クエストをこなし、魔術師の熟練度が上がればいずれ使えるようにもきっとなるだろう」


 どうやら司書のエマが持ってきた三冊の本はアルマの為に用意したようだ。

 食い入るように見てたから多分アルマも期待してたんだとは思うけど、そんなにこの本はスゴいものなのだろうか?


「見た感じ属性魔法の上位の魔導書なんですが……そんな貴重な本を貰って良いのですか? 国の防衛に役立てるならもっと他の優秀な魔術師に渡す選択肢もあると思うのですが……」

「君には勇者を支える役目があるんだから遠慮する必要はないよ、使命を果たす為にも自身の強化は必要不可欠なんだし、利用出来る物はなんでも活用するといい」


「そ、それはそうですが……」

「……そうか、そんなに言うなら仕方ないね、君の気持ちを尊重しよう」


 そう言うとマルクスはアルマの目の前に置いてあった魔導書の一冊を、ひょいと取り上げて、自分の席の前に戻す。


「あっ」

「ん? どうしたのかね?」


「い、いえ……」

「そうかね?」


 そう言うとマルクスは残りの二冊を、一冊、また一冊と自分の方に戻す。

 最後の一冊を手で掴み、ぶらぶらとアルマの目の前で左右に振って見せる。その動作に吊られるようにアルマの視線が左右に動く。


「おやぁ、どうしたのかな? そんな切なそうな顔をして」

「え!? あっ、いや私は別に……」


「ほぉら、手を伸ばせば属性魔法の上位の魔導書があるのだよ? しかも三冊とも君の適正に合わせた本だ、それも中位じゃなくて上位のものだよ? 魔術師ならば誰もが欲しがる垂涎もののレアな魔導書だ、それが三冊もだよ?」

「あ、あう、わ、私は……っ」


「まあ君もまだ見習いとは言え優秀な魔術師だ、もちろん興味はあるのだろう? 取り敢えずよく見て考えると良い」

「え、あっ」


 そう言うとマルクスは手に持っていた一冊を再びアルマに手渡す。アルマも拒みきれずにそれを受け取る。


 ……これは止めた方が良いのだろうか?


 しかし明らかにその三冊の魔導書に興味を持っているのに、遠慮しているアルマに何とか受け渡そうとしてるようにも見える。

 もしここで止めたら最悪何も貰えない流れにもなりそうなんだが……取り敢えず様子を見守るしかないか。


「それは炎の上位魔法、クリムゾンファイアの術式が載っている魔導書だね、それを使いこなせたらもう立派な上級魔術師とも言えるな」

「こ、これがあの有名な炎の上位魔法……はっ!」


「そう、かの有名な紅蓮の魔術師グレアの得意とする魔法だね、扱いこそ難しいがその爆炎に巻き込まれたら、そこいらの雑魚など一瞬で消し炭にする程の威力とも云われている、術者の力量が問われるまさに上位に相応しい魔法だね」

「こ、こんな凄い魔法、今の私では……でも」


「それだけじゃないぞ、他にも君の得意とする雷属性の上位魔法の載った魔導書もあるんだよぉ」

「あ、う……そ、それはまさか、入手困難な幻の一冊とも云われる……」


 そう言って悪ノリしているマルクスはもう一冊の魔導書をアルマの前に見せる。

 何故か顔を赤らめているアルマは、条件反射で手が伸びその本を掴むも受け取りきれないでいる、まるで何かに抗っているような印象だ。


「おや、欲しがりさんだね、本当は一冊じゃ満足出来ないんだろう? 欲しいならちゃんと自分の意思で考えて、どうするか決めたらどうだねぇ?」

「わ、私は……でもこんな貴重なものを、三冊も」


「……はぁ」


 煮え切らないアルマの態度を見て、マルクスは軽くため息を吐いて口を開く。


「いつか自力で手に入れる機会もあるとは思うが、君は今この機会を見す見す逃すつもりかね? それに君もテーブルに置かれていたこの本をずっと物欲しそうな目で見ていたじゃないか? 白々しい演技は止めてもっと自分の心に素直になったらどうかね?」

「っ!!」


「マ、マルクス、それは言い過ぎだ、確かにテーブルに置かれていたその三冊の本をじっとり食い入るように眺めてはいたけれど、アルマはそんな演技なんてしないし、別にズル賢い女じゃないぞ!」

「ふぇ!?」


「なんだ、君もその視線には気が付いていたのかね? 中々の観察力じゃないか、しかし女性は多少ズル賢いくらいが丁度いいとは思うのだが、自然体を装っているが心の内では何を考えているか分からない、そのミステリアスな感じが女性の魅力だとも僕は思うのだが?」


 何か話の論点がずれてきている気がして困惑するも、ピヨヒコは反論する。


「いや、今はそんな女性の趣味の話はしてないが、確かにアルマは少しあざといと感じる時はあるけど、計算するタイプじゃなくて博識だけど知性をひけらかさない謙虚さも兼ね揃えた、包容力のある優しくて素敵な女性だぞ!!」

「ふぇぇ!?」


「そうかそれは失礼した、君は幼くして母親を失い母性に飢えていたのだったね、適任かと思ってアルマをサポートに付かせたが、気に入ってるようで何よりだ」

「なんだと!!」


 マルクスの挑発とも取れる発言にピヨヒコは戸惑いつつも激怒した。

 その傍らに居たネムとブックルも困惑している様子だ。


「……なにこれ、コント?」

「イヤ、こう言うのは茶番って言うんだゾ」


「茶番?」


 と思ったがそうでもなかった、どちらかと言えば呆れている様子だ。


 ジャンジャンジャン、ジャラン、ジャジャジャン♪


 それまでの落ち着いた曲調とは違う、緊張感のある演奏に突然切り替わる。

 対マルクス戦【論争バトル】が突如として勃発した。


     ◇


「……なにこの展開?」


 主人公の背後で様子を見ていた桜子は困惑した。


 これRPGじゃなくてこう言う会話パートを楽しむテキストゲームと認識を改めた方が良さそうだな……


 会話中の選択肢もそれなりにあるのだが、アルマを庇う為に主人公が反発するかどうか選択肢が出たから『はい』を選んだけど、もししなかった場合、話の展開も分岐してたのかな?


 それにそれなりに悩んで考えた名前も悉くあの司書の女に否定されたし。


 しかも何回も別の名前を入力させられたし、会話の流れで名付けが決定するなら始めから決められた選択肢の中から選べる感じにして欲しかったわ、まったく。


 しかもこっちは四文字の縛りで考えているのに、普通に六文字の名前も提案してくるし、それにクラウドやライトニングって、そんな危険な名前を選べるか!!


 いや、ブックルも少し危ない感じはするけど、捻ってるから問題ないのか?

 それに何時までも決まらないから、もう何でもいいやって感じだったしなー


 そもそも只のモブキャラと思ったのに突然キャラ付けされ過ぎなんだけど!?


 これ絶対あのメイドも何か一癖ありそうだよな、それに然り気無くベットの上でとかセンシティブな発言も飛び交うし、また変な展開にならないでしょうね!?


 お泊まりでお風呂とかも用意するとか言ってたけど、嫌な予感がするんだけど、まさかアルマやネムの入浴シーンを覗く展開とかにならないよね?

 いや、それならそれで主人公の反応とか含めて、面白そうではあるが……


 用心して一応なるべく小学生の弟が部屋に居ない時間帯を選んで遊んでるけど。

 てか、全然ストーリーが進まないし……いや、進んでるのかこれ?


 魔王城は何か王国が所有してる転移ゲートで行けるみたいだし、チュートリアルが終われば、案外サクサク強化してラストダンジョンに挑める仕様なのかも?


 でも封印の祠とか面倒そうな場所が出てきて、その転移ゲートまでの道程がまた長かったりもしそうだけど、戦闘が出来るならそれでも別に良いんだけどさ……


「今のところ戦闘2:会話8くらいの比率だよな、個人的にはもっと魔物と戦闘もしたいのに、まあ会話パートも読んでて面白いけど、RPGとしてどうなのそれは」


 取り敢えず展開次第でストーリーもまた分岐しそうだからセーブはしとこっと。


 魔王城の突入方法の時もなにやら選択肢が出てきてマルクスと心理戦でもしてる感じだったけど、あの女誑しの屑の最低な変態軍師に今度は負けないぞっと!


 そう意気込むのだが、再びマルクスとそれを影で支える怖い秘書の女性に完膚なきまでに敗北する事を、今の桜子はまだ知らない。


     ◇

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