第25話 冒険の書
マルクスの御付きの美人な司書の女性は、魔物が大好きお姉さんだった。
この世界にはドラゴンにグリュプス、他にも色々と強い魔物が居るようだ。
いつか対峙した時にも臆さず立ち向かえるようレベルアップに努めよう。
ネムが読んでいた魔物図鑑に触れたら、力を奪われて何か突然動きだした。
しかしネムが先制行動でそれを制して拘束する事に見事成功した。
「それで、お前は一体何なんだ?」
「ンー? 俺様の事がそんなに気になるのかぁ? 悪いが野郎にソンナ迫られても嬉しくないなァ、お近づきになるなら可愛い女の子の方がイイゼェ」
「ネム」
「あいあーい」
ムギュウ、ギリギリギリ……
ネムに合図ちを送ると、察したらしくその両手の翼で拘束を強めた。
流石はネム、その場の空気を読める賢い子だ。
「あ、止め、中身が押し潰れる、や、止めロー!!」
「お前の望んだ可愛い女の子からの熱烈なアプローチだぞ、喜べよ」
「グヌヌぅ……そ、そう言われると悪い気はしないな、何かこう、締め付けられるのがだんだん快感になると言うか、この羽の触り心地も良いし、うん、アリだな」
「うわぁ……」
本なのに触り心地とか分かるのか?
取り敢えずコイツは特殊な性癖の持ち主のようだ。ピヨヒコは自身のククリコの尖った耳に対しての執着を棚に上げて、魔本に対してドン引きした。
隣で話を聞いていたアルマも何か虫でも見るような視線を本に向けている。
幼い頃からこの本を読み耽ってたと言っていたのに、正体がこんな訳の分からない魔物で少なからずショックを受けたのかもしれない。
「ピヨピコ、この本燃やす?」
「いや、それは流石に、せめて話を聞いてからにしよう」
「ん、わかった」
「イヤ待て、それだと話が終わったら燃やされるじゃなイカ!?」
「いや、冗談だから安心しろ」
「え? 燃やさないの?」
「え?」
「ワ、分かった、もう大人しくする、降参だ! 変な事も言わないし飛んで逃げたりもしないカラ取り敢えず離してくれ、それと何か怖いからこのハーピアの女の子を俺様に近付けさせないでくれぇ!!」
「ネム、すまない、その本を離してやってくれ」
「むー……わかった」
そう言うとネムは素直に本を離してくれた。テーブルに置かれた本の魔物はそのまま目の紋様を上向きにして大人しくしている。
ネムが本気なのを感じ取ったようで抵抗はしないようだ。ピヨヒコもネムに冗談は通じない、怒らせてはいけないと心に強く刻んだ。
司書の女性はその様子をハラハラしながら燃やすのは止めてぇ、と心で訴えてるような顔をしながら見ていた。
突然生命が宿ったように動き出した本の魔物に対して怖いとかの感情は特にないようだ。興味津々な眼差しで注目しているが、こちらの邪魔をしないように気遣っているのか、会話には参加してこない。
その背後に隠れて居た秘書の女性は、顔には出さないが魔本に対して怯えているような様子だった。
先程この本に触れて力を吸われた時にも何か可愛らしい悲鳴を上げていたので、気は強そうなのに案外怖がりなのかもしれない。いや、それが魔物に対する普通の反応だとは思うけど、そのギャップに少しだけ魅力を感じる。
もう1人の給仕のメイドさんはお泊まりの支度をするのに図書室から出ていったけど、もしこの場に居たらどんな反応をしたんだろう、少し気になるな。
そしてマルクスはその様子を興味深そうに観察していた。
「ふぅ、酷い目にあったゼェ」
「……マルクスはこの本の魔物の事を何か知ってるのか?」
「ふむ、文献によるとおそらくだが先代の勇者に連れ添ったと云われる従者だな、まさか本の形態だとは思わなかったが」
「その勇者は魔物と一緒に冒険してたのか?」
「この魔物図鑑は元々は、魔王との戦いの記録を記した”伝記”みたいな書物だったようでね、それを複写して今に伝わっているんだよ」
「伝記?」
「魔王に関する文献や書物の元にもなっているのだが、どうやら先代の勇者が亡くなった時にそのページも大半が失われたようでな、魔物の情報はそのまま消えずに載ってたので図鑑として大切に管理していたのだが、私の知る限り今までこの本が勝手に動いたとかの記録は無かったね」
「ページが失われた?」
「その通りダゼ、俺様は勇者の記録を紡ぐのが使命なんだ」
「使命?」
「いわゆる"冒険の書"ってヤツだな、色々あったが彼女とは相棒みたいな関係さ、一緒に冒険して遂には魔王を倒したんダヨ、そのあと俺様も役目を終えて力を失い、長い間そのまま眠っていたようだが」
「彼女?」
「どうやら先代の勇者は女性だと云われていてね、もう300年以上も前の話なので詳しい人物像などよく分からないが、光の勇者とも云われていたらしい」
「光の勇者?」
何となくピヨヒコはおうむ返しを続けた。先程マルクスがこの本が魔物図鑑でもあり文献でもあると言った意味は理解したが、冒険の書か。
「先代の勇者には他にも3人の仲間が居たとも云われているな」
「仲間?」
「さっきからわざとかね? 真面目に聞かないなら話はこれで終わりにするが」
「ゴメンナサイ、その光の勇者の仲間もスゴい感じだったのか?」
「ウーン、彼女の事はよく覚えているが、他の奴はあんまり記憶にナイなぁ、何かいけすかないレズの賢者が居た気もするが、俺様とは性格的に反りが合わなくて、よく言い争って、それを彼女が仲裁してた……気がスル?」
「レズの賢者ってそんな人物も居たのか、それにしても何か人間味のある本だな、そもそも何で突然動き出したんだ? 何か触ったら力を吸い取られた感覚に襲われたんだが」
「それはお前が勇者の”適合者”だからダナ、その魔力に呼応して目覚めたのさ」
「俺が勇者の適合者?」
「再び目覚めたって事は俺様も天啓を受けて、使命を与えられたって事ダナ」
「また天啓か……む、その使命ってもしかして……」
「ヒャッハァ、喜べ、これから俺様も魔王を倒す旅の仲間になってヤるぜぇ!!」
「えぇ!?」
ラララン〜ラララン〜ララララン♪
唐突に仲間の加入を祝福するような曲が聞こえてくる。
「うわぁ、マジかー……」
「ピヨピコ、この本も一緒に冒険するの?」
「……どうやらそうみたいだな」
「ふーん」
ネムの何処か冷たい視線を感じたのか本の魔物はビクリ、と少し怯えた。
アルマもやはり魔物のような動く本に対して何処か嫌そうな顔をしている。
ピヨヒコはどうせまた仲間になる流れなんだろうな、と既に諦めていた。
「あ、でもこの本はこの国の所有物なんだし、勝手に持ち出しちゃダメか、そうだよな、それなら一緒に冒険するなんて無理だなぁ」
『ダニィ!? 俺様はずっとここで寝てたんダゾ? せっかく自由に動けるようになったのにコンナところに居られるかぁ、契約者なら責任をモッテ連れてケェ!』
「契約? そんなのした覚えはないぞ?」
『ちゃんと魂の契約が結ばれてるゾ、右手を見てミロ、証があるだろ?』
そう言われたのでピヨヒコは自分の右手を見てみた。
すると手の甲に何やら変な鳥のような形の紋章みたいなものが浮かんでいた。
「え、なんだこれ!?」
「勇者の魔力を継承した事で結んだ契約の証ダナ」
「えぇ、そんなの勝手に決められても困るんだが!?」
「過去に勇者が結んだ盟約によるものだから俺様に言われても知らんゾ、別に俺様がこの魔法を行使したわけじゃないからな」
「勇者様、どうやらそれは契約魔術みたいですね」
「契約魔術?」
様子を見ていたアルマが何か知ってるようなので詳しく聞いてみた。
「えっと、種類にもよるのですが、主従関係を強制させるのにも使われる魔法で、その、奴隷落ちした者とかに契約させて、主人に逆らえなくしたりも出来るようで無理に抗うと契約内容によっては酷い目に合うらしいです」
「ええ、なにそれ、そんな魔法もあるのか!? てか奴隷!?」
「他にも契約を結ぶ際にお互い裏切らないようにするのに使われていたようです、現在は奴隷制度は廃止されて、契約魔術は禁忌として使用を禁止されているのですが、昔は普通に使われていたみたいです」
「これって契約の解除や破棄とかって出来ないのか?」
「契約魔術の魔導書は今は某所に封印されてるので閲覧は不可能ですね、おそらく解除の方法とかも載ってるとは思うのですが、そもそも契約魔術の適正が稀なので直ぐに解除するのは難しいかと……」
「えぇ……」
「先の時代の五国協定にも契約魔術が使われていたようだが、魔王がそれを強制的に破棄したと伝えられているね、それにしても勇者の継承による契約か……」
話を聞いていたマルクスが割り込んで来たが、何やら考えている様子だ。
「マルクスはこの契約の事を何か知ってるのか?」
「ふむ、えっと、魔本君? 君は自身を”冒険の書”だと言っていたが、もしかして今回も勇者の記録をその書に記す使命を担っている感じなのかね?」
『その通りだ、ちゃんとページも増えていくハズだぞ』
「ページが増える?」
「おそらく君の勇者としての活躍すればそれが伝記として増えていくようだね」
「えぇ!?」
「ページが無駄に増えるから細かい事柄までハ記載されナイとは思うけど、大きな偉業を成し遂げたらそれが記録として残る感じダゾ、俺様もどういう仕組みで増えるかとかまではよくはワカラン」
「自分の事なのに分からないのか?」
「ウーン、なんか彼女と冒険してた時に自分の正体とかも知った気がするんだが、寝てる間にそのページの記録が抜け落ちたセイか、何か記憶が色々と朧気なんだよなァ、でも彼女との冒険の日々の思い出は、俺様の中にちゃんと残ってるゼ」
ピヨヒコは何となく背後の画面の少女とこの本を重ねてしまった。一緒に冒険をする相棒か、自分にとっての相棒はこの少女なのかもしれない……
いや、一瞬そう思ったが一方的に操られているからどっちかと言えば契約魔術で縛られている主従関係の方がしっくりくるかも……やっぱり納得出来るかぁ!!
「契約と言ってモ、別に主従関係ではなくお互いの利益になるように組まれたモノだからそこまで強制力やリスクとかも無いと思うけどナ」
「そ、そうか、それなら良いが……」
そもそも何の為の契約なんだろうか、勇者の記録を残すにしても何故こんなよく分からない生物がそんな使命を担っているんだ? ……見た目は魔物っぽいけど。
「お前は魔王によって生み出された魔物じゃないのか?」
「ウーン、それもよく分からん、記憶がなくて気が付いたらこの姿だったし、でも自分の使命が勇者と一緒に冒険して記録を紡ぐ事ってのは自覚してるぞ」
自分の記憶をなくして使命感を感じてるのは俺とも通じるものがあるな。
「それと俺様は彼女と一緒に戦った時の魔物の記録を色々と持っているから、戦闘でも役に立つゼ? 敵の情報や弱点、相手を知ることは自身の生存や勝利ニモ繋がるからナァ」
確かに敵の情報を知ってると知らないとじゃ、戦闘の流れも変わってくるな……しかし、既にアルマはこの魔物図鑑の知識を持っているし固有スキルにより魔物の特性や弱点とかも分かると言っていたから、そこまでコイツは必要ないんじゃ?
そんな事を考えていたら顔に出ていたのか魔本は更に自分をアピールする。
「それに勇者の活躍を英雄憚とシテ正確に語り継ぐ為にも冒険の書は必要だろ? 俺様が一緒に動向すればそこは間違いなしだゼ」
確かに勇者としての活躍を後世まで人々に伝えるには必要なのかもしれない……あれ、でも例の吟遊詩人も同じような使命を担ってるとか言ってなかったか?
仲間として連れ添うなら正直どっちもどっちな気もするけど。
いや、寧ろあのストーカー野郎よりこの魔本の方がまだ全然ましではあるが……てかさっきから色々とキャラが被ってるよね? 空を飛ぶ特性もネムと同じだし。
そんな事を考えていたらやはり顔に出ていたようで魔本は焦り、狼狽える。
『と、取り敢えず、もう契約は済んだんだから俺様も付いていくゾ』
「うーん、そもそもお前は戦えるのか? その光の勇者や仲間と一緒に冒険したとは言ってたけど、見た目はただの本だし、あまり強そうには見えないんだが」
「そ、それは……でも一応、魔法は使えるゾ」
「いや別に付いてくるだけでも良いけどさ、手元に本とか連れてもし魔物から炎とかの攻撃を食らったりしたら危なくないか?」
「ウガ、そ、それは、確かに俺様は紙装甲だし炎や水には弱いが……」
「まあ非戦闘員になりそうなヤツは他にも居るからお前が無理して戦う必要はないけど、付いてくるならあまり騒がず敵視を取らないようにしてくれよ?」
「ネムはちゃんと戦えるよー」
「あ、いや、ネムの事じゃなくて、隠れてコソコソしてる相方の方な」
「あー、あの人には期待するだけ無駄だよ?」
「相方にそこまで言われるってある意味スゴいな」
「ナンダ、なんの話だ?」
「いや、こっちの話だ、気にするな」
「そうか、ソレよりも俺には使命があるんだから絶対に付いて行くカラナ」
「うーん、暴れたりしないなら俺は別に構わないんだけど」
「お、本当か? 思ったより話せる勇者ダナ」
「いや、こう言う事態に慣れてるってのもあるんだが、拒んだところで結局連れていく流れになりそうだし……」
「ナンだ苦労人か? 勇者も大変だな」
「ほっとけ、それよりもマルクスはこの本が勝手に付いてきて問題はないのか? 大切な魔物図鑑なんだろ?」
「うむ、確かに貴重な資料ではあるが既に写本は済ませてるから、そこはまあ問題ないが……それに」
「それに?」
「そんな自力で飛び回る魔物の本は我々では正直持て余すな、この図書室を勝手に抜け出すと騒ぎにもなり兼ねんし」
「確かにそれもそうだろうが……」
司書の女性を見ると、ええ、そんな私がちゃんとお世話しますよ、それにそんな魔物の本なんて珍しいもの手離すなんてぇ~、とでも言いたげな表情をしていたのだが、それが自分の我が儘なのも理解しているようで黙って念だけ送っている。
ピヨヒコはその圧を持ち前のスルースキルで完全に無視する。
司書の女性はそんなピヨヒコの塩対応を感じ取り、頬を膨らませた。
「本当に天啓を与えられて、使命を担っているならそれを果たさないといけないしその本は君が責任を持って連れて行くといいよ」
「何か体よく厄介ごとを押し付けられた気もするんだが、どうでもいいがコイツはずっと飛んで後を付いてくる感じなのか?」
「イヤ、飛ぶのは魔力も使うし、疲れるから何かケースにでも入れて大切に扱って欲しいぞ、ズット羽ばたいてると本が擦れて痛むしな」
「うーん、しかし、さっき触れたら何か力が抜けたんだが……契約ってのに魔力を吸われたらしいけどもう触っても大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うガ? 相棒は普通に触れてたし」
「ふーむ……」
そう言われたので試しに触れてみた、すると身体から黒い靄が溢れだして魔本に力を吸いとられる感覚に襲われた。
ブワァァアァ……
「だぁぁ、力が抜けるぅ」
「おお、何か魔力が流れ込んでくる、久し振りのご馳走ダナ」
「おぃぃ!!」
「君もお喋りしてないで早く離したまえ」
マルクスにそう言われたので手を離したが、何か触ると一定量の魔力? を吸い取られる感覚があるんだよな。一応直ぐに離せるように警戒はしてたんだが。
それにしても二度も力を吸われたせいか何か更に腹が減ってきた気がする。
食事の用意はしてくれてるみたいだが、下手するとその前に空腹状態のデバフになる可能性もありそうなんだが……
出店で買った串焼きがもう2本残ってた筈だからそれを食べれは凌げそうだが、取り敢えず図書室の中だし様子を見てから判断するか……そう考えて背後の画面の少女に届くかどうかは分からないが念を送る。むむむ。
「それにしてもどうするんだこれ?」
「ふむ、そうだな、それなら丁度いい物があるから少し待っていてくれたまえ」
そう言うとマルクスは入口の方に歩いて行き、そのまま図書室から退室した。
暫しの沈黙が続く。ピヨヒコ以外全員女性なのもあり何となく居心地が悪い。
「むー……」
ネムを見てみると、読んでいた魔物図鑑が途中でいきなり動き出したからか少し退屈そうな感じだった。しかし空気を読んでか、そのまま椅子に座っている。
その様子を見ていた魔本が黙って口を……じゃなくページを開く。
「……読んでも良いの?」
「モチロンだゼ、俺様は本だからな、誰かに読まれてこそ、存在意義を見いだせるってもんだ、好きなダケ読んでくれ」
「わーい♪」
顔の部分をテーブルに伏せながら、この魔本はそんな事を言った。
ネムに脅されて怯えていたのにこの魔本は中々男気のある紳士なようだ。
嬉しそうにネムは図鑑の続きを読み始めた。
「ネムはその魔本が嫌いなんじゃなかったのか?」
「別にそんな事ないよ? キモい事を言われてムッとしたけど、マモノの事が色々わかるから読んでて楽しいよ」
魔本に対して冷たい態度を取っていたのは、読んでた本が突然動き出して続きが読めないと思っていたのもあるようだ。
「~♪」
ネムが分からないところを質問すると、この魔本が解説したりもしている。
楽しそうに本を読んでいる2人の姿を見ると、何処か仲良さそうにも見える。
こんな訳の分からない魔物の本とも直ぐに打ち解けるなんて流石はネムだ。
少し怖いとも思ったけど、やっぱり純真無垢で良い子だな……
でも、さっきは本気で燃やすとも言ってたよね? あの目は本気だったよね?
アルマを見るとやはり何処か魔本に対して警戒してる様子だが、戦闘に関しても魔物に容赦しない印象だからもしかしたら魔物の存在自体に嫌悪感とかを懐いているのかもしれない。
でも、魔族に仲の良い友人も居るとは言ってたような? 個人的には魔物も魔族もそこまで変わりないのだが、アルマの中では違うのだろうか? そう考えながら伏せている魔本に目を向ける。
「その態勢だと表紙の目や背にある口の部分がテーブルに面している感じだけど、お前さん的には問題ないのか?」
「ンー? ああ、全然大丈夫ダゾ、それに伏せていても読まれてる感覚が伝わってくるし、今までズット眠っていて意識は朧気だったが、大切に扱ってくれる読み手の気持ちとかは伝わってたし、この場所は俺様にとって居心地は良いな」
「ここは図書室だし、本なら大切に扱われるか」
「それに読み手の中には文字を指でナゾってくれたり、挿し絵の部分を愛でるように手で撫でてクルような奴も居て、何か気持ち良かった感覚があったな」
「ネムの羽の感触も心地良いとか言ってたけど、皮膚の感覚とかもあるのか?」
「見た目は本だがちゃんと五感はアルぞ、何でかは知らんけど、マア食事の必要はないけどナ、さっきの魔力で腹一杯だし、大気中の魔素で自然回復もスルからな」
「ふむ、つまりページを触るのはそのまま身体を触られてる感じか?」
「ウーン? こそばゆい程度だがな」
「ピヨピコ、変な事を言われると読む気しなくなるー」
「ああ、そうか、スマン」
周りを見ると司書の女性とアルマも少し戸惑ってるようだ。そう言えば2人ともこの魔物図鑑は、隅々まで読んだとも言ってたし、何か心当たりがあるのかもしれない。何とも言えない恥ずかしそうな表情をしていた。
しかし、どうも2人がこの魔本に抱懐いている感情は真逆にも感じる。
読み耽った本が魔物で悦に浸っている司書さんと、戸惑っている感じのアルマ。
どこか対称的だ。
ネムの方は魔本と打ち解けたからか、既にそこまで気にはしてないようで普通に読んでいる。丁寧に扱われているので魔本も何処か嬉しそうだ。
「この本は何てお名前なのー?」
「ああ、確かに少し気になるな、勝手に魔本とかお前とか呼んでたけど、そもそも名前なんてあるのか? 魔物図鑑とか?」
「ンー、冒険の書とは呼ばれてたけど、何か他に大切な名前があった気がするが、ドウニモ思い出せないな」
「ああ、そう言えば自分は冒険の書だとか言ってたな」
「お名前ないのー?」
「何かカッコいい名前とかが、あれば好きに付けて呼んでもいいゾ?」
「おー」
「ふーむ、名前ねぇ」
そう言われても自分は特に思い付かないので背後の少女に委ねるとしよう。
どうやらネムも一緒に考えるようだ。
◇
「ええ、いやまさか、こっちで名前を付ける感じ?」
今までのキャラクターは主人公以外はデフォルトで決まってたのに唐突に名前を決めろとか言われても、良いのが思い浮かばないんだけど!?
名前の記入画面を見て固まる桜子。
普段から遊んでいる他のゲームはデフォルトの名前をそのまま使ったりしていてたので、思わぬ事態にあわあわと悩んでいた。
これ元々の名前も付いて無いんだけど、もしかして今後も他の魔物とかが仲間になったら自分で名前を付けたりもする感じ?
慌てる桜子。メニュー画面や、名前の記入画面ではポーズが掛かるので会話とかを見逃す事はないのだが……それでもやっぱり悩む。
「うーん、うーん、本の魔物、マモノ……魔導書とかで考えるなら、ネクロ……?それともグリモ……? でも個人的にはカッコいい名前が良いし、それなら……」
そう考えて自分が好きな漫画や、乙女ゲームのお気に入りのキャラの名前を付けようと思ったのだが……あれ、待って、でもこれ、四文字までしか打てない!?
いつもはリアルを追及しているのに……初期のRPGじゃあるまいし、変なところだけレトロな雰囲気に拘わらないでよ!
てか主人公の父親のジークフルドは六文字じゃん。ピヨヒコの名付けは私じゃないから仕様がよく分からないけど、魔物だけ四文字で他は六文字までOKなの?
それにこれ会話の流れでネムが考えた候補とかも選べたりする感じなのかな?
幼馴染みの2人が拾った仔猫の魔物に定められた名前を選んで付ける感じ?
取り敢えずもう少し考えてみるか。別に主人公でもないし適当なのでもいいんだけど、でもやっぱり悩むなぁ、うーん……
そうこうしている内に、リアルの時間は刻一刻と過ぎていく。
◇




