第24話 魔物図鑑
失われていた自分の幼い頃の記憶を、少しだが思い出したピヨピコ。
亡き父の想いを継ぎ、いつか必ず魔王を倒す事を改めて心に誓う。
いつの間にか夕刻を過ぎてたのでお城でお泊まり会になった。
食事とお風呂の用意もしてくれるらしく、気分はウキウキだ。
この場にはピヨヒコと隣には仲間のアルマ、本を読んでいるネム。
対面には軍師マルクスにその連れの怖い秘書と、美人な司書の女性が居る。
可愛い印象の優秀なメイドさんは夕食とお風呂などの準備の為に退室した。
話を区切り今は休憩中だが、何処からか落ち着いた雰囲気の曲も聞こえる。
〜♪
「取り敢えずまだ時間はあるからこのまま少し休んでから説明を続けようか」
「ああ、そうだな、それより俺も何か本を探して読んでも良いかな?」
「もちろん、丁寧に扱うなら読んでも構わないよ……あと、そうだな」
「?」
そう言うとマルクスはまた美人の司書の女性に何やら指示を出した。
司書のお姉さんはそのまま部屋の奥に向かう、何か探しに行ったようだ。
「ピヨピコも一緒にご本読む?」
「え、いいのか?」
「いいよ、一緒に読もう♪」
何処か気味の悪い装丁の本なのだが傍目で観てたら魔物の情報とか挿し絵付きで詳しく載ってるようで少し興味はあった。他にも探せば色々と面白そうな本もありそうだけど、ネムがせっかく誘ってくれたので、その提案を受ける事にした。
「これは、魔物図鑑か?」
「そうですね、私も読んだ事はありますが、数多くの魔物の生態や特性、生息地域とかも載っているので為になりますよ」
「ふーむ、何か面白そうだな」
「その魔物図鑑は先代の勇者の時代からある古い本でね、我々が遭遇した事がない未知の魔物の詳細なども網羅されていて凄く便利なのだよ、写本した複製もあるのだが、原本であるその本を見いだすとは、ネム君の心眼はなかなかのものだね」
「えへへ~♪」
質問したらアルマとマルクスが答えてくれた。褒められたネムも嬉しそうだ。
開いてたページを一緒に見ると、そこにはカラスのような魔物が載っている。
そう言えば魔女の森では烏や梟のような鳥の鳴き声が聞こえていたけど、それももしかして魔物だったりするのかな?
傍目にページを眺めてたけど、ふと気になった事があったので質問してみた。
「先代の勇者って事はこの本は300年以上も前の代物なのか?」
「そうなりますね」
「それにしてはずいぶんと綺麗だな、楠んでもいないし、本の装丁は何か不気味な雰囲気だけど、丁寧に扱っているから保存状態が良いのか?」
「ああ、それは魔法で劣化を抑えているからだよ、紙やインク自体も特殊なものでね、この図書室の貴重な本や資料とかは大体魔法で保護されているね」
「なるほど、魔法は色々な活用法があって便利だな」
「ですね、生活にも欠かせない力ですから」
質問してたらネムは既に次のページを捲っていた。
「あ」
「さっきのマモノまだ見る?」
「いや大丈夫、ネムの読むペースに合わせるよ」
「ん、わかったー」
さっきのカラスの特性どころか名前すら見逃してたけど、余所見をしてた自分が悪い。気を遣わせるのも悪いので読むペースはネムに合わせるとしよう。
開いていたページにはなにやら強そうな鷲の頭にライオンの胴体を付け、強靭な鍵爪に翼を生やした魔物が載っていた。名前を見ると"グリュプス"と書いてある。
「こんな魔物も居るのか、何か強そうだな」
「グリュプスか、この近辺でも目撃情報はあるが空を自由に飛び回るので討伐報告はあまりないな、手強い魔物だし手負いになると空を飛んで逃げるとも聞くので、準備不足ならあまり深追いしない事を推奨するよ」
「そうか、それにしてもこんな鳥と獣が混ざったような魔物も居るんだな」
「他にもライオンの顔に翼の生えたキメイラや、ピポポグリュプスと呼ばれる亜種も居るね、魔物の形態や特性は魔王が決めて生み出してるようだが、その姿は多種多様だな」
「コッコトリスならネムも知ってるよ」
「コッコ?」
「えっと、これー」
そう言ってネムはその魔物のページを開いて見せてくれた。
そこには何やら大きな鶏のような魔物が載っていた。
「コッコトリスは鶏に蛇の尾が生えた魔物ですね、その肉や卵は貴重なので高値で取引されてるようです、初心者向けではないですが食材クエストでの発注もあると思いますよ」
「ふむふむ、体長2メートル近くもあるのか、デカイな」
「まあコッコトリスも危険な特性があるので、こちらも準備不足なら相手をしない事を推奨するよ」
「危険な特性?」
「石にされちゃうんだよ」
「ええ!?」
「その妖しい瞳で睨まれてもし抵抗に失敗すると”石化状態”になるようでね、解除するアイテムもあるが、1人で挑むのは無謀とも言えるね」
「ふーむ、そんな危険な状態異常の能力を使ってくる魔物も居るのか……」
冒険を続ければそのような強い魔物とも戦う機会もあるのかもしれない。しかしこれくらい臆さずに勝てるようにならないと、きっと魔王は倒せないだろう。
ピヨヒコはいつか強くなりグリュプスや、コッコトリスを倒そうと心に誓う。
更にページを捲るがそこにはチョコボルトいう名前の鳥の魔物が載っていた。
何かダチョウのような体型で、黄色い羽毛に覆われた脚の速い魔鳥のようだ。
「鳥の魔物の項目なのかな、ネムは鳥の魔物を倒す事に抵抗とかないのか?」
「うーん? 大丈夫、マモノはマモノだから、平気だよ」
「そうか」
「それにハーピアは有翼族だけど別に鳥じゃないから、誤解しないでね?」
「え、あ、そうなのか、ゴメン」
「ううん、わかればいいよー」
何となくその翼の印象で鳥のイメージがあるが、本人からすれば違うようだ。
しかし抵抗感か。そう言えばゴキブリンは武器を扱う人型の魔物らしいが人の姿をした魔物や、それこそ場合によっては野盗やならず者など、人族と戦う可能性もあるのか……
その場合、自分は平然と敵を斬り伏せる事が出来るだろうか。
行動の決定権は俺にはないが、もし戦いたくない相手と対峙した時に自分はどう思うのだろう。まあ女性を襲うゴキブリンや野盗に容赦するつもりはないが。
ネムが次のページを捲る。するとそこにはとても巨大な鳥の怪物が載っていた。名前はロックムルグ、全長30メートルを越すとか書いてあるんだけど……こんな化け物みたいな魔鳥も居るのか?
こんな魔物には絶対に勝てる気がしないので見なかった事にしよう。
「おっきな鳥さんだねー」
「そうだな、何かデカ過ぎる気もするが、これドラゴンよりもでかいんじゃ」
不意にその名を口にしたが、ピヨヒコ自身の記憶にある黒くて恐ろしいドラゴンを思い出した。その当時の強烈な印象がフラッシュバックして恐怖を感じるが強い意志でそれを跳ね退ける。
そんな様子に気が付いたのか向かいに座っていたマルクスが口を開く。
「ドラゴンか、あまり目撃情報はないが魔王軍との攻防戦の時に見掛ける事はあるね、それと君の父、英雄ジークフルドが討伐した黒いドラゴンもそうだが、他にも色々と亜種が居るようだ」
「そうか……いつか俺もドラゴンを倒せるくらい強くならないとだな」
少ししんみりしてたのだがそこに割って口を開く者がいた。
「あ、一緒に魔物図鑑を読んでたんですか、ドラゴン、良いですよねぇ」
聞き慣れない声で誰かと振り向いたらそこには美人な司書の女性が居た。
どうやらマルクスから言い付けられた探し物を終えて戻ってきてたようだ。
マルクスの手元には司書さんから受け取ったのか、三冊の本が置いてある。
アルマが何やらその本に注目してるのだが、知っている本なのだろうか?
聞こうかと思ったが、その前に司書の女性に質問された。
「勇者様もドラゴンに興味があるんですか?」
「え? ああ、何か色々と種類も居るようだし、肉や鱗も貴重みたいだな」
「そうなんですよー、私もドラゴン大好きで、もうあの凛々しい姿に大きな身体、堪りませんよね、お肉は貴重なので私も食べたことはないんですが、いつか機会があれば食べてみたいですねー」
「コホン」
マルクスが見兼ねたのか軽く咳払いをする。ピヨヒコも馴れ馴れしいとまでは思わないが、先程までの寡黙で美人な女性のイメージとの違いに少し戸惑った。
「いや、すまない、この娘は魔物と聞くと見境が無くなる性格でね、いつもは冷静でとても頼りになる司書なのだが」
「魔物は確かに大好きですけど、マルクス様の事も好きですよ?」
……何かまた茶番が始まりそうな予感がした。
「おお、それは嬉しい事を言ってくれるね、いや本当に優秀で素敵な女性だよ」
「そんな、マルクス様こそこの国を支えていてとても頼りになって素敵ですよ」
「チッ」
何処からともなく舌打ちが聞こえたが、怖いので確認はしない。
「ゴホン、と、とにかくドラゴンや魔物の事に関しては彼女に聞けば詳しく分かるよ、その魔物図鑑の複写も彼女が進んでしてくれたしな、以前にもその本を写本した複製書はあったんだがそれより字も綺麗で読みやすく、とても丁寧に纏められていてね」
「ほうほう、それはスゴいな」
「そんな綺麗だなんて、えへへ///」
マルクスに字を褒められて司書の女性は頬を少し染めて嬉しそうな顔をした。
やはりこの軍師様は女性に見境がない獣のナンパ野郎だ。
「写本するのにその図鑑は隅から隅まで読みましたよ、リアルな挿し絵とかも描いてあるので良いですよね、大きくて逞しい魔物を見てるとスゴく興奮します」
「そ、そうか、まあ確かにカッコいい魔物も居そうだが」
「もちろんカッコいい魔物も居ますよ、ドラゴンもですが他にもデュエルハーンとかサイクロンプスとか、それに可愛い魔物も多いですよねー」
「デュラハンにサイクロプス?」
「違いますよ、デュエルハーンにサイクロンプスです、どっちも好戦的な魔物ですが私は好きですね、実際に会った事はないですが、こんな大きいのに激しく攻められたら、戦闘能力のない私なんてあっという間に逝かされちゃいますよ」
「そ、そうなんだ……いや、まあ可愛い魔物も確かに居るよな」
何か言い方が卑猥に聞こえたので話題を変えた。
それにしてもよく喋る人だな。
魔物の話をしてる時の嬉しそうな顔を見ると、本当に好きなのが伝わってくる。
「ファーラビットはその代表格ですね、他にも可愛い見た目の魔物は居ますが」
「魔兎の肉は柔らかくて美味しいし、多く流通されてるみたいだな」
「ですね、可愛いくても食事は大事ですから、でも女性冒険者や貴婦人の中には、ファーラビットを守ろうの会、みたいなものを立ち上げて”デモ活動”をする人達も居るようです、私はそこまで過激な思想ではありませんが興味本意で一回だけ参加した事はありますけど、やっぱり女性が多いですね」
アルマにもそんな話は聞いたけどそこまで過激派も居るのか。確かにまんまるなボディーにつぶらな瞳で可愛いとは思ったが、ファーラビット恐るべし……
そう思い何となくアルマの様子を見てみたが、それに気付いたのかアルマも会話に参加してきた。
「私もその魔物図鑑は幼い頃から読み耽って内容は全て覚えましたよ、もし知らない魔物と出会った時にもその知識は役に立ちますし、生息域を把握しておけば現状だと勝てそうにない魔物を事前に避けられますからね」
「ハングリーグリズリーと戦った時もだけどアルマのその知識には助けられてるし他にも色々と教えてくれるから本当に有難いな」
「いえ、お役に立ててるなら私も嬉しいです」
「良いですね、私達は同志です、アルマさんこれからも仲良くしてくださいね」
「え? は、はい、こちらこそ宜しくお願いします」
「むぅ、ネムも仲間になるー」
「もちろんネムちゃんも魔物大好き仲間の同志ですよ、一緒にその図鑑を読んで色々とお勉強しましょうねー」
「おー♪」
司書の女性がそんな事を言った。初対面なのにもう打ち解けたようだ。
アルマの方はネムとまだちゃんと会話してない気もするが、これからお互い仲間として打ち解けて、仲良くしてくれる事を願う。
「……っ」
しかし意気投合してる二人の輪に入れてないようで少し遠慮している様子だ。
アルマの悲しい顔はもう見たくないので話題を変える事にした。
「そ、それよりもドラゴンの情報とかも知ってるなら教えて貰えるかな?」
「そうでしたね、その図鑑を読めば詳細は載っているんですけど例えばドラゴンはそれぞれの属性に合わせてその皮膚の色が違って――」
司書さんは嬉々としてドラゴンの詳細を教えてくれた。通常のドラゴン以外にも炎を司るレッドドラゴン、水を司るブルードラゴン、風を司るグリーンドラゴン、土を司るイエロードラゴンなども居るらしい。そしてピヨヒコの故郷の国を襲った黒い龍。闇を司るダークネスドラゴン。
なんで? そこはブラックドラゴンって名前じゃないの? そう思ったがまた蘊蓄が長くなりそうなのでピヨヒコは黙って話を聞いていた。
「それ意外にもドラゴン系統の亜種も多いですよ、ワイバーンとかは劣化ドラゴンとも言われて強さや大きさはそこまでではないですが、群れで襲われると危険ですね、それに呪いによって”アンデット化”した魔物とかも居るんですが、ドラゴンも例外ではなくボーンドラゴンとか言う骨だけのドラゴンも居るようです、まあこの図鑑に載ってるだけで実際の目撃例はないのですが、あと文献によるとドラゴンの卵が過去には発見された事もあって、ドラゴンパピーを育てた偉人が居たとか……魔物を卵から育てて手懐けるって何か凄いですよね、この国にも魔物を扱う専門家は居るのですが、私もいつか魔物に囲まれて生活してみたいです、それとドラゴンの素材は――」
「え、え、ちょっと、待って……」
黙っていたら、更に立て続けに色々と蘊蓄を披露されて困惑した。と言うか何気に重要な事とかも言ってない? ボーンドラゴン? アンデット化って何? 呪いなんてものもあるの!? それにドラゴンを卵から育てた!? いや、それよりも出来たらさっきの黒いドラゴンの話をもう少し知りたいんだけど……
「黒いドラゴン、これー?」
「あ、それですそれ、黒くて大きくてとても逞しいですよね、私うっとりします、でもその黒いドラゴンの報告例はその国を襲った一例だけらしいので属性を持ったネームドドラゴンは全て個体種とも言われてますね」
戸惑っていたがネムが話に出たダークネスドラゴンのページを開いてくれた。
司書さんを引き付ける事に成功した。個人的にもそのドラゴンには興味があったので助かる、ナイスアシストだネム!
そのページには黒くて大きくて強そうなドラゴンが挿し絵付きで載っていた。
これが英雄ジークフルドが倒したと謂われるドラゴンか……
あれ、でもこのドラゴンって300年も前から存在していたのか?
「封印されていた魔王が復活して、またその属性のドラゴンを生み出した可能性はあるよな?」
「あー、確かに、ダークネスドラゴンもこの魔物図鑑に載ってますがどれも詳細な情報があるって事は過去に勇者が戦ったり、討伐した可能性はありますね、それなら復活した魔王が個体種のドラゴンをまた生み出してる可能性はあるのかも?」
「しかし四天魔族に与えた特別な魔石ほどではないが、強い魔物を生み出すにはそれだけ魔力も必要にはなるから、数は多くないはずだがね」
「そう言えばそんな話もしてたな、確かにそんなに強い魔物が大軍で攻めて来たらどうにもならないしな……」
「それにその図鑑には載っていない新種の魔物とかも見つかってますので復活した魔王が新たな魔物を生み出してる可能性はありますね」
「そうなのか、ところで他の色付きのドラゴンって今も居たりはするのか? 普通のドラゴンや亜種は居るみたいだけど」
「他の属性のドラゴンも目撃例は殆どないですね、それこそドラゴンに限らずその図鑑でしか見たことないような魔物も多いですし、過去の勇者が倒してそのまま既に存在してない可能性はありますね、まあレッドドラゴンは山脈の火口付近で目撃されたとかの話も聞きますが……」
「それと魔王が封印されたと言っていたが、その間の魔物ってどうなったんだ? 魔王が魔物を生み出してるらしいけど、繁殖能力のない魔物とかは生き残れずに死んだりするのか?」
そんな疑問を投げ掛けると、マルクスも途中から会話に参加してきた。
「いや、魔物には寿命がないと言われているから魔王が封印されていた間も普通に活動はしていたよ、魔王が居なかった間はそこまで狂暴ではなく野生の動物のような感じで、被害報告もあまり無かったのだが、魔王が復活を成し遂げてからはその与えられた使命に従い、凶暴化して侵攻もしてきたね」
「ああ、そう言えば寿命は無いとかもアルマに聞いたっけ……」
いやでも、魔物の肉が生活の主食になっていたなら寿命が無いとしても狩り尽くして絶滅の危機とかもあるんじゃ、とも思ったけどその質問をする前にマルクスが話を続けたので、取り敢えず聞くことにした。
「魔王が封印されて居た期間に、比較的大人しい種類の魔馬とかは手懐ける事にも成功して、移動などに活用したりしているのだが、他にも穏和な特性の魔物は居るね、この魔物図鑑によりその特性を判断してるのだが、この国にも魔猫とかは普通に居るよ」
「ああ、何か城下町で黒い猫は見かけたけど、あれも一応魔物なのか……」
「穏和な特性のある魔物に関しては、国の法律でも狩るのを規制はしているので、君もその辺は気を付けて無暗に魔物だからと討伐しないようにしてくれたまえ……まあ探索エリアに居る魔物は大体が襲っては来るので戦闘になったら、敵対してると思えばいいよ」
「ふむふむ、分かった」
「それとダンジョンにはコアと言う核があって魔王が生み出さなくてもダンジョン内部に蓄積された魔素を使って、定期的に魔物をリポップするので自然と増えたりはするね、あまり放置するとスタンピードを引き起こす原因にもなり得るが……」
「成る程、ちょっと気になってたんだが、それなら納得したかも」
それなら食料不足にはならない感じかな、それに300年も封印されていてその間に飢饉になってないなら問題ないのか、気になってはいたけど大丈夫そうだな。
「魔王が復活する前はファーラビットなどは狩り過ぎて、当時はかなり数も減っていたみたいですし、絶滅を危惧されるような魔物も幾つか居たらしいですけどね」
「ふーむ、そもそもこの図鑑は誰が書いたんだ? 魔物の挿し絵も載ってるし生態やら特性とかもかなり詳細に載ってるようだけど……」
「文献だと勇者の同行者が書いたとは伝わってはいるが、そもそもその魔王の情報を記していた文献の大元もこの本だと云われてるのだよ」
「この本が大元?」
「ああ、実はその本は――」
そう言われたので魔物図鑑に注目する。そしてそこに載っていた黒い龍の挿し絵が気になり、なんとなく右手で触ってみた。
すると本が突然、光り輝き、それと同時にピヨヒコの身体から黒い靄が噴き出してその本に吸収される。
ブワァァアァァ
「え、え、な!? なんだこれ?」
「いかん、これは、魔力暴走か!?」
「魔力暴走? う、何か知らないけど力が抜ける」
「勇者様、大丈夫ですか!?」
「あわわわ、何ですか何ですか」
「きゃあ!」
「む、何が起きたー?」
「ネム、危ないから離れるんだ!」
「君もだ、早くその本から手を離すのだ」
「あ、ああ」
「ギャハハぁ、よく寝た、久し振りに目覚めたゼェ、俺様は自由だダァぁ!!」
「!!?」
ジャジャジャ、ジャララーン♪
唐突に聞き覚えのない声で、高笑いをした、そんなセリフが聞こえた。
そして何処からか流れていた演奏が激しさを増し、戦闘曲に切り替わる。
「まさかこれは、戦闘が開始されたのか!?」
突然の出来事にこの場の全員が戸惑う。見た目はそのまま本なのだが、その背にギザギザの口が生えている。表紙にあった眼のような紋様がギョロりと動き出し、まるで瞳のように瞬く。
そしてその身体を鳥の様に羽ばたかせ、器用に空を飛んでいた。
「な、なんだコイツ、本の魔物か!?」
「何百年ぶりかの食事にありつけたゼぇ、お前が今回の適合者かぁ!?」
「きぇぇ、喋ったぁ!?」
「むう、やはりさっきの声の主はこの本か、もしかしてこれは……」
「どうするんだ、戦うのか?」
「ん? チョッとまて、ここは何処だぁ!?」
行動順は自分が最初だろうか? ピヨヒコは慌てて剣を握り構える。
「オ、お? ちょっと待て、俺様は敵じゃないぞ!? その剣をしまえ」
「何を言っている、どう見ても魔物じゃないか!?」
「勘違いするな、俺様は勇者の――」
「むー!!」
バチィィン!!
「ウガァ!?」
魔本の背後に居たネムがその大きな両手の翼で、おもいっきり挟んで掴む。
ページを閉じられてその魔本は、身動きが取れなくなりネムに拘束された。
「取ったどー♪」
『ウギャギャ、ヤ、ヤメろー、動けナィィ!!』
すると激しかった戦闘曲が止まり、さっきまでの落ち着いた曲調に戻る。
戦闘が終了したようだ。
「えぇ……」
◇
「なんだ、強制戦闘かと思ったけど、ただのイベント演出か?」
何か予想外の展開になったな。背後の画面から観ていた桜子はそう思った。
しかもコイツあれだ、ゲームを起動した時にネムと一緒に出てきたマスコット的なキャラだ。このタイミングで登場するのか、もしかしてコイツも味方か?
最初はログボかと思ったけど、別の日にゲームを起動しても例のカードは貰えなかったので、おそらくイベントをある程度進めると、それに応じて起動した時にご褒美で1枚貰える感じだと思う。
ネームレスカードだっけ、今は3枚持ってるけど用途はまだよく分からない。
取り敢えずこの魔物? の正体も気になるしこのままストーリーを進めよう。
◇




