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第23話 斜陽

 軍師マルクスに果敢に挑むもピヨヒコは敢えなく敗北した。

 勇者としてもっと実力を付けて、いつか必ず倒すと心に誓った。

 話の流れで遂に自分の知らない過去が明かされる事になった。


 テーブルを挟んで、マルクスと対話している。


 ピヨヒコの隣に座っていたアルマも真剣な眼差しで一緒に話を聞いていた。

 マルクスの側に座っていた3人の女性も沈黙しながらその話を聞いている。


 それにいつの間にかネムも元の席に戻っていた。


 その手には何か本を抱えていたが、それを読まずに、はしゃいだりする事もなく邪魔しないよう、静かにこちらの話を聞いているようだ。

 天真爛漫で無邪気な性格だが空気を読んで気遣う事も出来る、賢くて良い子だ。


 この場の雰囲気に合わせたのか知らないが、いつの間にか演奏も止まっていた。

 だがおそらく例の吟遊詩人もまだ隠れてこの場に居るとは思われる。

 しかし面倒なのでコイツはそのままずっとスルーだ、もう出て来なくていい。


 背後の画面の中の少女も、顔は見てないが多分真剣に話を聞いていると思う。

 ピヨヒコも黙って自分の知らない過去の出来事をマルクスから聞いていた。


 その内容を要約すると、過去の魔王との戦いの後、4つの種族の大国はそれぞれ復興していた。しかし復活した魔王とその配下による侵略で再びその領土を奪われていった。どうやら全土の七割くらいは既に制圧されており、かなり逼迫した状態ではあるらしい。


 それでも今なお略奪された領地で魔王軍に怯えながら隠れて暮らしたり、故郷を取り戻す為に抗ってる者達も居るようで、前にククリコから聞いたはぐれエルフの集落などがそれに該当するようだ。


 そしてピヨヒコの生まれた国もその侵攻に抗うも、遂には滅びる事になった。


 復活した魔王に対抗すべく人々はこのグランバニラに集まりギルドを設立して、魔王軍と交戦しながら生活していた。人族以外の土地を追われた他の種族も次第にこの国に集い、それでこの王国は人々から"最後の砦"と言われるようになった。


 神妙な面持ちで起きた事の経緯を更に詳細に語るマルクス。


 魔王の命を受けた四天魔族【土のべリアル】が黒いドラゴンを携え、魔物の大群を引き連れて隣国、まだ若き王ジークフルドが統治する王国に攻め込んできた。


 四天魔族の一角が自ら指揮を取り、直接現れた事で国は慌て混乱に陥る。


 その目的は領土侵略もあるがその時に既に勇者の天啓を受けていた息子、つまりピヨヒコを狙っての事だとも云われているが、真意は定かではない。


 そして激しい攻防の末にジークフルドはその黒きドラゴンを倒し、べリアルにも深手を負わせて一時撤退させる事に成功した。

 しかしその代償に国の王妃、つまりピヨヒコの母であり、この国グランバニラの王の娘でもあった【聖女アリシア】は魔王軍の手に堕ちる。


 魔王軍は撃退したが、数多の魔物による侵攻で国は壊滅的な被害を被った。

 信頼する仲間と家臣、多くの民を失い、愛する自分の妻すらも守れなかった。


 大切な物を失いそれでも生き残った王ジークフルドは決断する。

 国を棄ててまだ幼かった息子のピヨヒコを連れて同盟国でありアリシアの出身国でもある、このグランバニラ王国に亡命する事を。


 復興を望む者も居たが、再び魔王軍に攻められたら今度こそ全てを失う。

 苦渋の決断だったがジークフルドのそんな意志を理解し、尊重して民もその決断に従う。そして自らは王の座を棄てて、1人の冒険者として生きることを誓った。


 倒した黒きドラゴンの素材で装備を整え、いつか来るべき日に備える。

 残された民もグランバニラ王国に生活の基盤を移し、国の発展に努めた。


 それから暫くは平穏とも言える日々を送っていた。始めこそ自国も守れず敗れ、墜ちた王として罵られたりもしたが、それでもジークフルドは積極的にクエストをこなして数多の魔物を倒していく。


 魔王に遣える魔族との攻防戦ではその比類なき強さを見せ、迫り来る魔王軍から多くの兵の命を救った。魔族からも一目置かれ、竜殺しのジークフルドの名で畏れられた。


 その勇姿を見たグランバニラの民からは厚い信望と、羨望を受ける。自ら行動を示す事で批判的な意見を払拭した。そしていつしか竜殺しは【英雄】と呼ばれるようになる。


 そんな父親の背中を見て成長するピヨヒコ。


 しかし母を失い国を壊され、その心には魔物に対する恐怖の感情、それと同時に魔王に対する強い憎しみの感情を秘めていた。混沌する2つの感情はまだ幼い少年の心を蝕んでいった……だがその事をこの時はまだ他の者が知る由もない。


 そしてその日は再びやってくる。


 幾度かの攻防戦を繰り返し、ついに傷が癒えた土のべリアルが魔物の大群を引き連れて再び侵攻して来たのだ。


 ジークフルドは親友でもあったこの国の第一王子の騎士団長グラウスや第二王子の軍師マルクス達と共に魔王軍に対抗する。ギルドの冒険者達とも協力して魔物の軍勢を押し退け、土のべリアルを追い詰める。


 しかしべリアルも意地を見せ、自滅覚悟でジークフルドに深手を負わせた。

 瀕死のジークフルドは最後の力を振り絞り、遂に魔神べリアルを撃破した。


 その死の間際、勇者の天啓を受けた息子のピヨヒコに己の願いを託す。


 そしてグランバニラ王とジークフルドとの間で交わされていた盟約により16歳の誕生日を迎えたピヨヒコは父の想いを心に刻み【勇者】としての称号をこの国の王様から与えられ、今に至るのだった。


「……」


 その話を聞いたピヨヒコ。


 目を閉じて過去の記憶を辿ると、ぼんやりとだが浮かぶ光景があった。

 それは剣を携えた勇敢な父の背中と、杖を持った優しい母の姿だ。


 上空には黒き龍が、空を我がもの顔で飛び回り、周辺の建物は破壊され炎上し、周囲からは魔物の足音と息づかい、それに人々の悲鳴が聞こえる。

 ピヨヒコはその声に怯え、恐怖し、泣いていた。その姿に気付いた母親。


 父親も振り向く、幼き我が子を安心させようと微笑む両親の顔を思い出す。


「……っ」


 自分の記憶を少しだが取り戻した喜びなのか、両親を失った悲しみなのか、それともこの世界で不確かだった"自分"の存在を確かに実感したからなのか、ピヨヒコのその瞳からは、一筋の雫が零れる。


「勇者様……」


 その姿を見て心配するアルマ。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」 


 流れた涙を手で拭い、アルマの優しさに感謝する。

 ピヨヒコは自分が勇者として使命を与えられた経緯を理解した。


 思い出したのは両親の勇姿と優しさ、そして失った悲しみ。

 全てを奪った魔王に対する確かな怒りと憎しみの強い念。

 魔王軍に対する恐怖の感情もあるが、思ったよりは冷静だ。


 それにまだ分からない事は多い。

 自分はそもそも何故記憶を失ったのか。


 マルクスが言うにはその天啓とやらを受けて両親の仇を討つため、魔王を倒すと自ら名乗りを上げたと言っていたが、その辺の記憶は未だに自分にはない。


 おそらく何処かのタイミングで、いや多分だがこのお城で目覚めたその直前まで記憶があったと思われる。だとしたら疑うべきは……


 そう考えると記憶喪失の話をマルクスにするのはやはり少し憚られる。

 そして最大の謎は、背後に浮かぶ画面の中の”謎の少女”の存在だ。


 何故自分はこの少女の意思によって操られているのだろう?

 その理由も冒険を続けていけばいつか分かるのだろうか……


「……はぁ」


 悩んでも仕方ないので、今は分かった事を整理しよう。


 新たに分かった事実は"聖女"と呼ばれた母親はこの国のお姫様だった事だ。

 つまり最初に会った冴えない白髪の髭のおっさんだと思っていた国の王様は実は自分のじいちゃんで俺はその孫だったって訳だ。


 話を聞いて途中でその事を理解して戸惑った。うーん、亡国の王子の件もだが、まさか自分がこの国の王族関係者だったとは……


「やはり君にとってツラい思い出だったな、無理せず心を落ち着かせるといい」

「ああ、ありがとう、えっと、マルクス……伯父さん?」


「ぬ!?」

「いや、母親がこの国のお姫様だったなら関係的にはそうなるんじゃないかと」


「むぅ、確かに君の母親は僕の妹で三姉妹の長女だが、別にそんなに改まらなくても構わないから先程までと同じ感じで気兼ねなく話して欲しい、何か君にそのように呼ばれるとむず痒いと言うか、落ち着かないのでね」

「そ、そうか、わかった」


「アルマもネムも何か神妙な感じになってゴメンな」

「いえ、大丈夫ですよ」


「ネムも気にしてないから大丈夫だよ、ピヨピコはちゃんと頑張ってる」

「!?」


 涙を見せた事でネムに余計な心配をさせたのか励まされた。

 しかし聞き逃さなかったので気持ちは嬉しいが一応訂正する。


「ネム……あの、俺はピヨ"ピコ"じゃ……」

「む?」


「いや、まあ別にいいか、どっちもどっちだし」

「もうご本読んでもいーい?」


「ああ、気にせず読んでいいぞ、何か気を使わせてゴメンな」

「平気だよー」


 ネムはそのまま持って来た本を読み始めた。何やら不気味な雰囲気の装丁で表紙には眼のような紋様があるのだが、魔物の生態など挿し絵付きで載っているようで楽しそうにそれを眺めている。


 もしかしたらこの本が前にアルマが言っていた"魔物図鑑"なのかもしれない。


 しかし"ピヨピコ"って……

 まあ幼いネムに呼ばれるなら何か可愛い感じだし別に構わないか。


「さてピヨピコ君」

「おい、わざとだろ止めろよ」


「おお、これは失礼ピヨヒコ君」

「ぐっ、出来たら先程みたく"君"とか"勇者殿"とかで頼む」


「ふむ、そうかね?」

「あまりしつこいとこちらもまた伯父さんと呼ばせて貰うが?」


「おお、怖い怖い」

「ぐぬぬ」


「まあどちらでもいいが、取り敢えず僕が知ってる事の経緯はこんなところだ」

「そうか、教えてくれてありがとう」


「記憶が朧気だとは言ってたが、少しは役に立ったかね?」

「ああ、父の意志を継ぎ勇者としての使命を果たしいつか必ず魔王を倒してみせるよ、その為にはもっともっと頑張らないとだな」


「むぅ、何度か言ってるが気負わなくても良いから焦らず頑張りたまえ」

「分かった、そうだな、そうするよ」


 確かに、あまり気負いすぎても自滅しそうだし焦らず頑張ろう。

 先日の事もあるし、無茶をしてアルマやネムを危険な目に晒す真似だけは絶対にしたくないしな。


「英雄ジークフルドの活躍もあり四天魔族の1人を討ち取り、その後は魔王も警戒したのか、そこまで大規模な侵攻は起きてないな」

「そうか、それなら良かった……」


「まあ奪われた領地を巡る奪還や国の防衛での攻防戦や、魔物による小競り合いは絶えないがね、それ以外にも野盗やならず者による被害もあるしな」

「なるほど、あと、そう言えば気になる事があるんだが……」


「ふむ、なんだね?」

「魔王を倒す為にも魔石が必要だと云っていたが、その1つはもう手に入れたって事か? 土のべリアルって事は土属性の魔石? だと思うけど」


 その質問に対してどこかばつの悪そうな顔をするマルクス。


「……実は、王国も先の大規模侵攻によりかなりの被害にあったのだが、その混乱に乗じてその魔石の所在が分からなくなったのだよ」

「えぇ!?」


「倒した時は確かに手に入れたはずなのだが、もしかしたら誰かが勝手に持ち出しこの国の何処かに流した可能性はあるようだ」

「え、盗まれて売られたって事? それじゃあ魔王と戦う時はどうするの!?」


「状況によっては土の魔石の力なしで魔王に挑む事になるが、それより更に最悪な事態はもしその魔石が魔王に回収されている場合だな」

「うえぇ、その可能性もあるのか!?」


「その場合、新たな土の四天魔族が既に任命されている可能性があるな」

「そうか、最悪の場合そうなるのか、と言うかその魔石がなくても新たに四天魔族が出現する可能性はないのか? その場合は他のヤツを倒したとしても次から次へと出て来そうだが……」


「おそらくその心配はないだろう」

「ふむ?」


「文献によると四天魔族に与えた特別な魔石は魔王が自らの魂を分け与えて作ったものだと言われている、なのでそう簡単に幾つも作る事は出来ないはずだ」

「成る程、それなら大丈夫なのか……」


「取り敢えず魔石の行方はこちらも調査しているので、君は勇者として出来ることをしてくれ、こちらも指針は示すが、まずはクエストに挑み力を付けるといい」

「わかった、色々と教えてくれてありがとう」


「それと先程も云ったが魔王軍との”攻防戦クエスト”も準備が整ったら君にも参加してもらう予定だ」

「攻防戦クエスト?」


「うむ、ちゃんと説明したいところなのだが……」

「?」


「少し休憩しようか、ここまでずっと話を聞きっぱなしで君も疲れただろう」

「あ、ああ、そうだな……それでも構わないが」


 窓から外を観ると既に夕刻なのか日はだいぶ傾いていた。ククリコのお店は夕方には閉じると聞いたけど、このお城も夜間は閉じるのかな?

 まだ話が長引くようなら日を改めて訪れても別に構わないのだが……


「……ふぅ」


 ここまで色々と新たな事実も含めて話しっぱなしだったし確かに少し疲れたな。

 ピヨヒコは張っていた気を抜く、お腹もそろそろ空いてきたかもしれない。


 テーブルを見てみると、給仕のメイドさんが用意してくれたお茶菓子も殆ど食べきったようだ、と思ったけど一口チョコとお煎餅がまだ1つずつ残っていたので、何となく甘いものを欲して、チョコに手を伸ばす。


 するとそのチョコを掴む前に横に座っていたアルマの手が伸び、指先がアルマの手の甲に当たり慌てる。


「あ、ゴメン」

「いえ、こちらこそすいません、えっと、食べます?」


「え、あ、いいよアルマの方が早かったし気にせず食べてくれ」

「そうですか、すみません」


 そう言うとアルマは美味しそうに最後のチョコを食べた。

 相変わらず幸せそうな顔をしている。

 その顔を見て少しだけ、イラッ、とも感じたがそれは伝えない。


 所詮この世は弱肉強食、競争に負けたからには潔く諦めよう。


「それじゃあ、俺は残ったお煎餅でも……て、あれ?」

「どうかしました?」


「いや、煎餅がもう1つ残ってた気がするんだが? 消えた?」

「? 私は見てませんけど、確かに言われてみたら残ってた気もします」


 アルマとのチョコのやり取りの合間に誰かに食べられたのだろうか?


 周囲を見回すがマルクス側の女性も特に怪しい素振りはなく、知らない様子だがとぼけているのかも知れない。でも別に俺のものでもないし用意して貰ったお菓子なので、追求するだけこちらの印象が悪くなるので潔く諦めよう。


 そう言えばこの城に来る前に屋台で魔豚の串焼きを買ってたんだった。

 確かまだ2本余っていた筈だが、この場でいきなり串焼きを頬張ると周囲に白い目で見られそうなので、今は我慢しよう。


 ピヨヒコは、ティーカップに残っていた冷めた紅茶を飲み干す。

 冷めても美味しいな。流石は優秀なメイドさんが淹れてくれたお茶だ。


 今回はなるべく空腹にならないよう気を遣って色々と摘まんではいたが、自分が思っている以上に、体力や精神力を消耗しているのかもしれない……


「確かにちょっと疲れたな」

「そうですね、私もなんか少し……」


 ピヨヒコはお昼に起きた、とある出来事を思い出すが、それを忘れる事にした。アルマの様子を見ると目が合うが、同じ事を考えたのか顔を逸らされた。

 その頬を少し染めていたがアルマもきっと色々と疲れが溜まっているのだろう。


 ~♪


 ネルの方を見てみると、まだ楽しそうに探して来た本を読んでいた。

 魔物図鑑らしく何か面白そうだから自分も読んでみたいのだが……

 手を出したらまた馴れ馴れしいとその羽根で弾かれそうだから自重する。


 そんな様子を観ていたマルクスが提案する。


「どうするかね? もし続けて話を聞くなら今夜はこの城で一晩泊まっていっても構わないが、ギルドの宿屋に一度帰るならそれでも良いし、判断は任せるよ」 


 うーん、その事は俺もどうするか決め兼ねているのだが……

 背後の画面の少女を見ると同じくどうするか考えてる様子だ。


     ◇


「いや、ここで帰る選択肢を提示される事に寧ろ驚くんだけど」


 これ時間帯をずらして朝とかに訪れた場合は、別の会話パターンが発生したりもするのかな、どんだけ細かい分岐を組んでるんだろう。


 てかこれ最初に情報の選択肢が出たけど、結局何だかんだと決まった順番で情報開示される感じなのか?

 一番上を選択したらそのまま順々に会話イベントが進んでるし、まあどんな情報があるか確認出来ただけでも、分かりやすいから良いとは思うけど。


 このままお泊まりイベントに突入すると、また何か色々と変なイベントとか起きそうな気もするから、区切れるなら一度出直して他のクエストを遊びたい気持ちもあるにはあるんだけど、断ると何か重要なフラグとかも見逃しそうな気もするな。


 でも今のところメインクエストに関わる会話イベントだけで戦闘は特にないし。

 仲間も増えたから、その性能を早く試したいって気持ちも正直あるなぁ。


 取り敢えず一旦セーブはするとして、う〜ん、どうしようかなー……


     ◇


「分かった、それならご厚意に感謝して今夜は泊めてもらう事にするよ」


 少女の判断だが、このままお城に一泊させてもらう事にした。

 隣の席を見るとアルマも表情に変化はないので異論はないようだ。


「そうか分かった、それなら客室にはなるが部屋の用意をしよう、個室にするのでゆっくり休むといい」

「ごはんはー?」


「もちろん夕食もご馳走するよ、それに時間帯は指定するけどお城のお風呂も解放するので、使っても構わないよ」

「わーい♪」


 お城に泊まる事を伝えたので、マルクスは給仕のメイドさんに指示を出した。

 いつの間にかテーブルの上のティーセットやお菓子の入っていた器を片していたメイドさんはそれを聞いて部屋を出て行く。どうやら準備をしてくれるようだ。


「何か至れり尽くせりで申し訳ないな、ありがとう」

「いやなに気にしなくてもいい、本当なら君の立場からすればこのくらいの対応は当然の事だしな、しかし……」


「む? 何か問題でもあるのか?」

「すまないが食事に関しては城の貴族や兵士達が普段から利用する一階の大食堂ではなく他の部屋、もしくはこの図書室に用意するのでそれで済ませて貰うよ」


「いや、別にそれで全然構わないけど、何か理由があるのか?」

「……ふむ」


 何故か口籠るマルクス。そして少し間を置いてその理由を教えてくれた。


「身に覚えはあると思うが、今の勇者に対しての印象はあまり良くないものでね、城の者からすると歓迎パレードまで用意したから特になのだが、君としても多くの視線に晒されて食事をしても居心地が悪いと思ってね」

「ふぁ!?」


 どうやらお城の中で向けられた冷たい視線は、勘違いとかでは無かったようだ。

 ピヨヒコは顔が強張り、責めるような視線で背後の画面の少女を見る。


 すると、いや私はそんなの知らないもん。だから私は悪くない! とでも云わん感じの悪ぶれない表情で顔を左右に振っていた。

 確かにお城や町で漁り行為を強要していたのは例の少年であって、この少女ではないのだが……


 やり場のない憤りを感じて気分が一気に落ち込む。ズズズズーン……

 その様子を見ていたマルクスが口を開く。


「別に僕は責めている訳ではないのだがね、寧ろ果敢にアイテムを集める姿勢には感心したし、まあちょっとタイミングとやり方は上手くなかったがね」

「……やり方?」


「盗賊はこのギルド、即ちこの国にちゃんと認められた職業だからね、その技術は探索や冒険の役に立つし、場合によっては必要不可欠な職種と言っても過言ではないと僕は考えているよ」

「むぅ、今のところ盗賊の有り難みはそんなに感じないのだが?」


「今回に関しては身から出た錆だから、勇者の悪評に関しては今後の君の活躍次第だが、盗賊は何かと便利なスキルも多いぞ、情報収集にも役立つし」

「いやでもやっぱり泥棒行為は良くないんじゃ……周囲の反応も冷たいし、自分で言うのもなんだが」


 そう言うとマルクスは不適な笑みを浮かべてこう言い返す。


「やるならもっと巧くやれば良いのだよ、目撃されればそれはもちろん勇者としての評価や、期待度に影響するのは当然だろう?」

「!?」


 つまりマルクスは盗賊の技量(スキル)を磨くなら要はバレないように行えば問題ないと暗に伝えてるのだった。いや、勇者以前に人としてそれはどうなの!?


《……フフフッ》


 背後の画面を見ると、そこには薄ら笑みを浮かべた悪い顔をした少女が居た。

 いや、なにその表情!? まさか不穏な事とか考えてないよね!?


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