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第21話 管理者権限

 この国の第二王子の防衛大臣の軍師様は、女(たら)しのエスパーだった。

 そしてその専属の秘書は怒らせると怖い、癇癪持ちの嫉妬深い女性だった。

 大人なのにあんなにみっともなく罵り合う姿を見ると何か逆に仲良く見えた。

 

「魔王タナトスか……」


 神妙な表情でピヨヒコはマルクスから聞いたその名前を心に刻む。それが魔物を生み出し魔族を従え魔王軍を率いてこの世界を侵攻し、この大地に悪意を蔓延らせる魔族の王の名前らしい。勇者としていつか倒すべき相手だ。


 軍師マルクスが教えてくれたこの世界の情勢をまとめると……


 この【アルメシア大陸】には元々5つの種族の大国が存在していたらしい。

 人族の王、エルフの王、ドワーフの王、ネプトの王、そして魔族の王。

 それぞれに特性があり、容姿や棲まう場所も違ったが協定を結び、異種族同士でありながらも共に共存して繁栄していた。


 しかし魔族の王が、己の力を示し領土を広げる為に反旗を翻す。


 その結果、2つの大国は滅び、領土は奪われ、その勢力を失った。

 生き残った人達もまた魔王軍の脅威に晒され、畏怖し怯え、世界は荒廃した。


 そんな絶望的な状況に1人の勇者が現れた。


 そしてその勇者と共に4つの種族は協力して、遂には魔王を追い込み、力を奪い封印する事に成功した。……今から300年以上も前の話だそうだ。


 4つの種族はその後、それぞれ違う道を歩むが、世界は再び活気を取り戻した。


 しかし今から約15年前にその封印が解かれ、魔王は再び復活する。

 失われた力を徐々に取り戻し、この世界は再び闇に包まれ魔物が蔓延り、人々の安寧は脅かされた。それでも過去の経験を生かし、冒険者ギルドを設立して魔王軍の侵攻に抗いながら今も戦い続けているのだ。


 そして人々は、再び魔王を倒す新たな勇者が現れるのを待ち続けた。


 ざっくりまとめるとこんな感じらしい。


「つまりその復活した魔王を倒すのが勇者として俺に与えられた使命って事か」

「まあそうなるね、天啓がありこの国の盟約国であった隣国の王子だった君にその使命が与えられた訳だけど」


「天啓? 隣国の王子?」


 マルクスの突然の発言に混乱するピヨヒコ。


「んーと……? ちょっと待って整理するから」


 確かアルマには自分はこの国の出身ではないと云われたが、王子ってなんだ? もしかして偉大な英雄と云われたその父親はその隣国の王様だったって事!?

 てことはその息子の俺はその国の王子様って事か!? いやまてまて落ち着け、まだ慌てる時間ではない……


 ピヨヒコはこんな形でいきなり自分の素性が明らかになり困惑した。


「君のお父上とあの国の事は残念だったけど、亡国の王子がその父の仇を討つべく立ち上がり、勇者として名乗りを上げた時は少し驚いたよ、天啓で定められていた事とは言え、臆する事なく自ら勇者として魔王に立ち向かうのだから我々としても出来うる限りのサポートはするつもりだ、頑張ってくれたまえ」


「ふぁ!?」


 いや待って、情報の整理が追い付かない。亡国? つまり故郷の国は既に魔王軍の侵攻で滅びたって事か!?

 それに俺が父親の仇を打つべく自ら勇者として名乗りを上げた? そんな記憶は俺には全く無いんだけどぉ!?


 いや、そもそも【天啓】ってなんなんだよ!? 俺が勇者として魔王を倒すのが定められていた事ってどういう意味だ?

 

「天啓とはこの世界の摂理であり、皆が抱いている使命の根源みたいなものだよ、まあ分かりやすく言えば、神から与えられたお告げみたいなものだね」


 またしてもこの男は、俺の思考を読んだかのように得意げに答えた。

__________________________________


 誰かに呼ばれた気がした。


「君も魔王を倒す使命感を抱いているだろう? 君だけではなくこの僕や他の誰しもが自分の成すべき使命を持っている、それが天啓によるものと言われているね」


「……あれ?」


「どうかしたかね?」

「勇者様、大丈夫ですか?」


 右隣に座っていたアルマが少し心配そうに見ている。


「ああ、大丈夫だ、問題ない」


 何か一瞬、意識が飛んで不思議な喪失感があるけど気のせいか?

 心配させるのも申し訳ないので平静を装い平気だと伝える。

 少し違和感があるが、身体も特に異常はないようなので話を続けよう。


 えっと、確かこの軍師様にまた心を読まれたように天啓は自分が抱いている使命感みたいなものだ、とか言われたんだっけ……うん、そうだ、そうだったな。


 うーん? 何か納得は出来ないけど、確かに勇者として魔王を倒す。

 そんな訳の分からない使命感を感じているのは事実なのだが……

 例の吟遊詩人も歌を残すのが自分の使命と言っていたし、その"天啓"と言うものがこの世界にはあるようだ。


 と言うか何度も何度も考えてる事を読んで、本当にエスパーかこの男は!?


「まあ使命の話は取り敢えず置いといて魔王に関する説明を続けようじゃないか、君達もそれを調べる為にここに来たのだろう?」

「……ああ、確かにそうだな」


 少しは信用出来るとも思ったけど、この男も例の吟遊詩人と同じでどこか掴み所がない性格をしている。

 考えてる事を的確に読まれて良いように話を進められて、何か気味が悪い……

 支援をしてくれるとは言っていたけど、あまり鵜呑みにしない方が良さそうだ。


 記憶喪失の件に関しては云わないで、なるべく考えないようにしておくか。

 もしかして吟遊詩人の"隠れる(ハイドアンドシーク)"のような何か特別な固有スキルの可能性もありそうだしな……


 そう思い周りを見てみるとやはり何処からか演奏は聞こえるのだがベオルフの姿はない。そして左隣に座っていたネムもいつの間にか居なくなっていた。


「おー♪」

「あ、居た」


 どうやら長い話に飽きたのか、図書室の本を物珍しそうに見回しているようだ。

 マルクスに自由に本を読んでも良いと言われたので興味のある本を探しに行ったのかもしれない。


 その自由気ままな性格には癒される。見ていると何だか心がほんわかする。


 アルマはそのまま隣の席で神妙な様子でこちらの会話を聞いていた。他の3人の女性も会話には参加して来ないが紅茶やお菓子を楽しみながら仲間内で雑談しつつも、耳はこちらに傾けている感じだ。


 それを見てアルマも然り気なくお菓子を摘まんで美味しそうに食べている。

 相変わらず甘味に顔が緩み、幸せそうな顔をしている。

 少し緊張感が抜けるが、その様子を見ていると何処か気持ちが楽になる。


「ふぅ~……」


 王子だの亡国だの、新たに判明した事実に自分はちょっと深刻に考え過ぎているのかもしれない。

 ここに来た本来の目的を思い出し、余計な事をぐだぐだ考えるのは止めにして、今は知りたい事を聞くことにした。


 ピヨヒコは持ち前のスルースキルを発動して心を落ち着ける事に成功した。


「分かった、とにかくその復活した魔王タナトスを倒すのが俺の使命である事には変わりないから、知ってる事を教えてくれ」

「ああ、懸命だね、僕が伝えられる事なら教えるからまず何から聞きたい?」


 そう聞かれて幾つか回答を提示されるが暫しの沈黙が訪れる。

 自分としては国が滅びた事や、自分の記憶の事も聞きたいのだが、背後の画面の少女はなにやら考えてる様子だ。


     ◇


「うーん、また何か色々と選択肢が出たなぁ……」


 桜子はマルクスから提示された聞ける要点を見て悩んでいた。


 まずは魔王が居るラストダンジョンと思われる魔王城の場所。

 それと四天魔族と呼ばれる魔王に従えてる幹部の事。

 それに過去に魔王を封印した方法。

 更に今も進行中の魔王軍との攻防戦クエストの説明。

 そんでもって国として勇者にサポート出来る内容と今後の指針の説明。


 【四天魔族】とか唐突にキーワードが出たけど、城下町での聞き込みで、そんな情報とかあった感じなのかな? 引き継いで遊んでるからよく分かんないや。


 それにしても多いな、【攻防戦クエスト】って何?


 どうせ全部聞かないといけないだろうし順番に聞くとして、また説明が長くなりそうな予感がビンビンするんだけど、どうしよう。


 さっきの過去の説明みたくざっくり読んで内容を理解するか、それともじっくり身構えて会話イベントを楽しみながら理解するか……


 まあテキストはそこまで苦にならないしゆっくり読むか、ボイス付きだから流しながらでも内容は何となく入ってくるし。


 よし決めた。取り敢えずちゃんと会話イベントを見る事にしよう。

 そんでもって長そうな説明があればその時は簡単にまとめて整理する感じで。


 それに、ここまでの情報を整理すると主人公の立ち位置とか人間関係もだいたい予想も出来るな。

 メタ読みだけどあの”イベント”が関連をしてるなら、ピヨヒコもこの国の王族の関係者だとみたけど、てことは聖女はおそらく……まあいいか。


 ストーリーを読み進めれば明らかになる事だし、メタ読みは禁止だ。


 それにしても、何かさっき会話の途中でノイズみたいのが入ったような?

 主人公の様子も少し変だったし、何か記憶に関するフラグでも立ったのかな。


 それと『大丈夫だ、問題ない』なんてセリフを自然に言ってくるとか、また古いゲームのネタを使ってるけど、著作権的には大丈夫なのか?

 他にも色々とパロディやオマージュ的な要素も結構ある感じだけど、大丈夫か?


 多分問題ない、そんな事を考えながら話を進める事にした。


     ◇


「取り敢えず魔王城の場所を教えて欲しい、それとこの大陸の詳細な地図とかあれば欲しいかも、他種族の国や滅ぼされた国の場所とかも把握したいし、周辺の町や村や探索エリアを行き来したり、遠征するにもまず土地勘を身に付けたいからな」

「うむ、了解だよ、ならばこれを君に渡そう」


 そう言ってマルクスはこの大陸の詳細な地図を出してくれた。


 司書の女性が魔王に関する書物や文献と一緒に用意してくれていたようだ。


「ありがとう、成る程、これなら分かりやすいな……」


 確かにこの地図なら何処に何があるかもよく分かるし、目的地までの道順や距離とかも詳しく載っていた。どうやら近辺には近隣の村や森、鉱山に連なる山脈に海や港町とかもあるようだ、それに少し遠いが大きな湖とかもあるようだ。


 でもこの地図、なんか足りないような……


「その地図はそのまま君が持っているといいよ、使命を果たす為にも必要になるし探索の役にも立つだろう、余裕があれば滅びた亡国に足を運ぶのも良いとは思うがそれは君の自由だ」

「ああ、ありがとう、ところでこの地図には肝心の魔王城の場所が載ってないようなんだが、この大陸の地図に載ってない遠方にあるのか? それともこことは違う異世界のような場所とか? まさか魔界みたいな場所にあったりするのか?」


「ふむ、異世界に魔界か、君はなかなか優れた想像力や発想力を持っているようだね、そうだな、まあある意味それに近い感じだが……」


 そう言うとマルクスは立ち上がり、窓の外に向かって指差した。


「あれが魔王城だよ」

「……あれ?」


 疑問に思いその指先の示す先を見ると……


 そこには例の空に浮かぶ【浮遊島】があった。


「えぇ!?」


 どうやら自分は既に【魔王城】を見ていたようだ。

 と言うか本当にあの空にぽつりと浮かぶ島がそうなの?

 思ったよりも全然近いんだけど、目視が出来る距離だよ!?


 そんな近所で大丈夫か!?


__________________________________


 ※ ここから先のシーンは管理者権限により修正され、カットされました。


「天啓とはこの世界の摂理であり、皆が抱いている使命の根源みたいなものだよ、まあ分かりやすく言えば、神から与えられたお告げみたいなものだね」


 またしてもこの男は、俺の思考を読んだかのように得意げに答えた。


「また使命か、何か断るごとにその言葉を聞くな、何かさっきも聞いたし」


 確かに自分も勇者として魔王を倒す使命感を抱いてはいるが……ここに来る前にも吟遊詩人に同じような事を言われたのでそう返事をした。


「ふむ、僕から言わせてもらえば使命と言うより【役割(ロールプレイ)】と言った方がしっくりとはくるけどねぇ」

「……は?」


 今まで自分を支えていた使命感をマルクスは役割(やくわり)だと言い放った。


 いや、この男は一体何を言っているんだ? 使命じゃなくて役割だと?

 ピヨヒコはその言葉に酷く動揺する。


 隣国の王子やら、亡国やら、自分の記憶にない行動やら、記憶喪失の件も含めて更には訳の分からない”天啓”やらで既にピヨヒコは理解が追い付いていなかった。


 そのタイミングでのマルクスのその発言に、ついには”混乱状態”に陥る。


「ちょっと待て、何を言っているのかが分からない、役割? そんな何処かの誰かに勝手に決められたような事をこの世界の人達は納得しながら”演じている”とでも言いたいのか?」

「これは僕の持論なので実際はどうかは分からないが、天啓と言うものが存在している以上は、その事象に何かしら理由はあると思うのだがね、拒みたくても強制力に突き動かされる衝動を”役割”だと感じるのは寧ろ自然な事だろう?」


「俺は魔王を倒しこの世界を救う、その為に勇者として今この場所に来たんだ……それが天啓なんて訳の分からないものに役割を決められたから、それに従って来たとでもいうのか? 俺は誰かに決められたものじゃなくて自分の意思で……っ」


 否定しようと反論するも、自身の言葉に矛盾を感じて言葉が止まる。


 違う、最初から自分の意思なんて無かった。だって俺は、この背後に浮かぶ画面の中の”少女”の意思によって"操られて"今この場所に居るのだから……


 蓋が開いたように身体の奥から徐々に闇が溢れていく。そんな感覚に襲われる。

 ずっと考えないようにして避けていた事実を改めて実感させられる。


 "使命"じゃなくて"役割"


 それは自分自身の為ではない他の誰かに見せる為の言葉だ。それなら俺は、誰の為に"勇者"を演じているのか、その答えは──


 ピシッ


 ピヨヒコは自身の中で何かがひび割れるのを感じる。


 そう考えると自身の唯一の存在意義であった【勇者】の存在にすら疑念が生まれもう何も信じられなくなる。


 自分が何者なのか、余計に分からなくなった。


 隣に居たアルマがその異変に気が付いたのか不安そうにこちらを見ている。

 しかし更なる追い討ちを掛けるような言葉をマルクスは続ける。


「もしかしたら、その復活した魔王ですら天啓によって魔王と言う役割を演じてるのかもしれないね、それこそ、このせ……」


 何かを言おうとするがマルクスはこちらの方を見てその言葉を遮った。

 そして何か判断ミスを侵したような、気まずい表情を見せる。


「……いや、少しお喋りが過ぎたようだ、すまない、忘れてくれ」


 マルクスの変化は気になったが、それを冷静に分析出来るほど、今のピヨヒコに余裕はなかった。疑念の渦が黒く濁り、心がだんだんと闇に支配されていく。


 言葉を遮ったが、マルクスが言わんとする事をピヨヒコは理解してしまった。


 記憶もなく背後の少女に操られて、突然王子だの国が滅びただの言われ更に自分が唯一支えにしていた勇者の使命が”役割”だと言われ、この【世界】の全てが信じられなくなる。ピヨヒコの支えていたものは崩れさり、精神は限界を迎えていた。


 ビキッ……


「魔王が役割を演じている? 何を言ってるんだ? ならこの世界はまるで遊戯のようなものじゃないか! 勇者も魔王も、何もかも役割を演じてるだけの”傀儡”だとでも言うのか!? ならばこの”世界”はなんだ!? そんな茶番を誰かに見せる為の”舞台”だとでも言うつもりか? そんな馬鹿げた話を信じられるか!!」


「ゆ、勇者様、大丈夫ですから、落ち着いてください」


 怒声と共に態勢を崩し嫌な汗が頬を伝う。呼吸が乱れて冷静じゃないのが自分でも分かる。突然のピヨヒコの変貌に青ざめた顔をしたアルマが、動揺しつつも声を掛け、寄り添い、優しく身体を支えてくれる……


 ビシッ!!


 しかしピヨヒコはその手を振り払った。


「ハァ、ハァ、くっ、離せ!!」

「……勇者様」


 アルマが切なそうな顔をしている。その瞳には涙を溜めていた。

 そんな表情は見たくなかった筈なのに、その手を振り払い、拒絶した。


「大丈夫だと? 一体何が大丈夫なんだ、全然大丈夫じゃない!」

「……っ」


 自分が唯一信じていた相手すら、もしかしたらそう言う"役割"を演じているだけなんじゃないのか? そう疑い、ピヨヒコは疑心暗鬼に陥る。


 そしてその瞬間、突然、激しい頭痛に襲われる。


 ビキッ……


「ぐぅ、俺は、うっ、頭が!」

「勇者様、自分を見失わないで!!」


 そんなアルマの声も今のピヨヒコには届かない。


 記憶はないが自分の父親は魔王が従える魔王軍に無惨にも殺された。

 ならばその父親は魔王軍に殺される事が”役割”だったとでも言うのか?


 そして自分が住んでいた祖国も滅びた。大勢の人が死んだ。

 犠牲になったその人達はそれが自分達の”役割”だったとでも言うのか?


 そんな事ある筈がない、それが使命によるものだと納得が出来る筈ない。

 それに残された人達も家族を殺され悔しくて悲しくて辛かった筈だ。


 理不尽な魔物の侵攻に対して、それぞれに感じる事もあった筈だ。

 そんな魔王に対するこの憤怒の気持ちも全て偽りだとでも言うのか?


 いや、違う……

 そもそもそんな怒りの念すら今の自分にはないのだ。


 魔王に対する恨みや憎しみも、恐怖すらこの記憶の中には何ひとつない。

 まるでただ操られているだけの”人形”のように、何もかも分からない。


 ……俺は一体、誰なんだ。


 ビシッ、パリンッ


 ブワァァアァァ


 その瞬間、ピヨヒコの身体から黒い靄が溢れだし、闇に包まれる。


「いかん、魔力暴走だ!」

「……様!!」


 誰かに呼ばれた気がした。しかし振り向いてもそこには誰も居ない。


 周囲を確認すると何処までも続くような暗く深い闇が広がっている。

 自分はこの闇を知ってる気がする。

 普通なら突然こんな訳の分からない事態に陥り、戸惑い、焦り、暗闇に対して、恐怖を懐く筈なのに、目を瞑り身を任せると、気持ちが落ち着く。


「……もう疲れた」


 そうして青年はその闇に身を委ね、考える事を放棄した。

 それと同時に世界は停止する。


     ◾️


 ピヨヒコの背後にはいつもの浮かぶ画面も少女も居ない。代わりにその姿を背後から見つめる白い人影が居た。


『どうやら【バグ】が発生して紛れ込んでいたようだね……はぁ』


 人影は考える。やはり当初とは違う【シナリオ】を強硬したのが問題だったのかもしれない。魔王サイドの不手際もあるけど初めは自分も乗り気だったし、こちらも余計な介入により更に改変もしたので、責任は寧ろ自分にあるのかもしれない。


 もう遅いけどやはりあまり積極的に主人公には関わらないで、遠くから観測した方が良かったのかもしれない……さてこの状況、どうしたものか。

 他の管理者に相談している余裕など流石にないから自分で対応するしかない。


 私はこのゲーム【ワンダークエスト】の管理者の1人だ。


 担当は勇者サイドのサポートとシナリオの管理と調整。

 このゲームを無事にクリアするまで見守り見届ける。


 それが私に課せられた使命であり、与えられた役割だ。


 シナリオの本筋に関しては他の管理者とも相談してどうするかは決めている。


 しかし困った事になった。このままじゃ早々にシナリオが崩壊しかねない。

 プレイヤーの意向もあるけど、やっぱり想定した通りには行かないな。


 記憶に関しては当初の予定通りなのでシナリオを進めれば明らかになるのだが、主人公がこの世界の理を知るのは今じゃない。


 あちらの管理人は魔王には全て伝えたと聞いたけど、どちらも与えられた役割を演じてるだけじゃそれはただの遊戯になってしまう。そんなのは私は認めない。


 プレイヤーが自ら主人公に目を向けてその真実を伝えるなら、それはそれで仕方ないけど、勇者様にはこの世界が【ゲーム】である事をまだ知られてはいけない。


 そもそも”窓”を繋げたのが失敗だったのかもしれないけど、そっちの方が面白いと判断されたのでそこは別に否定はしないが、それだけリスクも多い。


 それに色々と緩い制約だから、早々にこんな状況になってるんだけど……

 でも多少のイレギュラーは容認されているし状況によって対応するしかないか。


『仕方ない、取り敢えず発生したバグを少し修正して、この世界から”役割”と言うワードを必要な時を除いて  に指定する、そして不本意ではあるけど時間を少し遡り、一連の出来事を無かった事にさせて貰おう……』


 今までも  に指定した言葉はあったけど”役割”か、見落としていたな……


 突発的なアクシデントに備えて、こうして”近く”で観測して用心はしてたので、バグが発見された地点で何とか対処は出来る。

 少しノイズは残るけど、プレイヤーにこの事態を気付かれる事はないだろう。


『それにしてもマルクスは思ったよりも思慮深いな』


 勇者サイドで私が【協力者】としてこの世界の真実を伝えたのは2人だけだが、自力でこの世界がゲームであると疑い真実にたどり着いたようだ。

 本当はあまり改変はしたくないが、危険な思想をあまり広げない為にも少しだけ修正させて貰おう。


 まあ既に”イレギュラー”は幾つか混じっているのだが、こっちはシナリオ的にも面白いと判断されたのでそのまま採用されたが、どうなる事やら……


 それに魔王サイドの管理人の方も色々と準備してるみたいだから、私が知らない展開も用意されている可能性はある。


 まあ私も相談なしでシナリオに干渉してるからお互い様だけど。私がこのゲームの登場人物の1人として紛れ込んでいる事は他の管理人には伝えてないし。


 と言うか他の2人もシナリオに関わって来そうだしな。まあその方が私も楽しいから良いけど。


 でもやっぱり損な役回りだったかな、何だかんだ魔王様は理解もあるようだし、あの”使命”によく納得してると感心する。

 いや、納得はしてないと思うけど、このゲームの”ラスボス”として、魔王様には頑張ってもらうしかないか。


 それに私もこの舞台に参加した以上は自分の役割を最後まで演じきるとしよう。


 管理者はそんな思考を巡らせながら修正作業に移行する。


 カタ、カタカタカタ……


 目の前で沈黙し佇む青年を見てクリアまで頑張って欲しいと心の中で応援する。

 覚えてはいないだろうけど、それがこのゲームの主人公に選ばれた”君”の望んだ願いでもあるのだから……


 まあ、それも全ては   とプレイヤー次第なのだが。


【修正作業が終了しました、ここまでのシーンはカットされます】


     ◾️


 そして覆われていた黒い霧は次第に晴れて、青年は再び覚醒する。


__________________________________


「……あれ?」


バグ(誤字、脱字)は発見したら修正する予定です。


話の展開によってはシナリオが改変される事もあるので

その場合こちらの不手際ではありますが、ご了承下さい。

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