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第20話 軍師マルクス

 吟遊詩人のベオルフは幽霊みたいな男だった。後で塩を撒かなくては。

 てかアイツは仲間とは認めない。絶対にいつか追い出してやる。

 そんな事を考えながら図書室に入るとそこに居た男から声を掛けられた。


「やあ、待っていたよ、勇者殿」


 そんな事を言われたのでこちらがこの場所に来るのを分かっていたようだ。


「ああ、えっと軍師様? 勇者の使命を成す為にも魔王の事を調べに着たんだが、時間が大丈夫なら知ってる事を詳しく教えてくれないだろうか?」


「ああ、もちろん大丈夫だよ、アルマもお勤めご苦労様」

「いえ、マルクス様もお仕事お疲れ様です」


 魔王の情報を得るためにお城の図書室にやって来たが、そこでこの国の防衛大臣である軍師様と出会った。どうやら名前は【マルクス】と言うらしい。


 この国の第二王子らしいが、見た目は三十代半ばくらいで、帽子などは被ってないが神官のような和装な衣装を着崩している。モノクルの片眼鏡を付けていて如何にも軍師っぽい風貌なのだが、多忙だからなのかその髪は無造作な感じで無精髭も生やしているからか、少しだらしない印象も受ける。


 ビシッとしていれば風格のある優男な印象でカッコいいとも思うのだが。


 それに表情は穏やかで一見人懐っこい雰囲気もあるのだが、糸目なので何か狐とかを彷彿とさせて見た目とは裏腹に少し腹黒い感じもする。

 この国の重鎮だし、味方だとは思うが、取り敢えず油断はしないでおこう。


「……まあ立ち話もなんだし奥の窓際のテーブルで話そうか、そこで魔王に関しての情報を関連書物を含めて分かってる事を伝えるとするよ」


 そう笑顔で言いながらその側に居た司書と思われる美人の女性と、メイドの格好をした給仕と思われる可愛い印象の女性にそれぞれ何か指示を出してからピヨヒコ達を窓際にある奥のテーブルに招いた。


 この軍師の秘書と思われる綺麗な印象の女性は、そのままマルクスの後ろを付いて歩くようだ。容姿端麗だが寡黙で少し怖い雰囲気もある。


 睨まれたりはしてないが例の泥棒行為とかも聞き及んでいる可能性もあるから、あまり良い印象は持たれてないのかもしれない。

 そう言えば此処に来る途中、騎士団の集団とすれ違ったけど若い女性の騎士からも何か怪訝な表情で敵視のようなものを向けられたけど、同じ理由なのかも……


 でも過ぎた事を考えても仕方ないので、あの吟遊詩人にも言われたが取り敢えずは深く考えないようにしよう。嫌われているなら甘んじて受け入れるだけだ。


 それによく見たらこの男、一番最初に目覚めた時にも見たような気がする。

 あの時は周囲を確認する余裕もなかったが、思い出してみたら先ほど廊下ですれ違った、騎士団長の第一王子様もあの場に居合わせてた気がする。


 王族ならあの場に居ても違和感とかはないが、2人とも只者ではないようだ。

 それにどうやらアルマとも面識があるようだし。


 3人の女性を侍らせて口説いているような佇まいだったので、もしかしてアルマとも親しい仲だったりもするのかな? そう思いそれとなく2人を見比べて歩いて居たのだが、マルクスがその視線に気が付いたようで口を開く。


「アルマを勇者殿の使命のサポート役として選考したのは僕の判断でもあるから、当然面識はあるけど、別に君が考えているような親しい間柄とかじゃないからそんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

「え? い、いや俺は別にそんな事は……」


 まるで心を読まれたかの様に的確な返答をされて焦るピヨヒコ。

 そんなに顔に出てただろうか?


「本当はもっとちゃんとした戦闘経験も豊富な剣士や、ベテラン魔術師も居たのだが、勇者として使命を果たすには君自身の成長も必須だからね、その辺も考慮してまだ見習いだけど知識も豊富でこの国の事情にも詳しいアルマを抜擢したのだが、ふむ……どうやら仲良くしているようで良かったよ」


 そう言われて少し戸惑うピヨヒコと、少し恥ずかしそうに俯くアルマ。


 確かに出会ってまだ数日だがその知識は豊富で、こちらが知らない常識的な事も文句も言わずに教えてくれる。

 それに一緒に冒険して魔物を討伐する事でお互い仲間意識とかも芽生えていた。


 記憶喪失の事に関しての唯一の理解者でもあるから今更違う人間を派遣されても困惑するし、自分の”先生”でもあるので離れたくはない。


「それに君もむさ苦しい中年剣士とか、口煩いプライドの高そうなベテラン魔術師よりもアルマの方が接しやすくて親しみやすいだろう?」

「確かにそうだな、そう言われるとアルマ先生で本当に良かったとは思う!」


 ピヨヒコは素直にそう思ったのでマルクスの意見に激しく同意した。


「先生か、フフ、それは良い、素直に分からない事を学ぶ姿勢は大切だね」

「……っ」


 それを聞いたアルマは更に恥ずかしそうに俯いたのだが、自分に与えられた役目をちゃんと果たせている実感を感じたのか、少し嬉しそうな表情も見せた。


 その反応が何となく可愛くも思えた。


 アルマは博識で容姿も可愛いし、スタイルも良いから何の文句も無い。

 おっさんの剣士や、性格のキツい魔術師とかじゃなくて本当に良かった。


「それにしても君も隅に置けないねぇ、そんな愛らしい少女まで仲間に迎えているとは、それに、ハーピアとは珍しい」

「あ、あう……えと、ネムと言います」


「ちゃんと挨拶が出来て偉いねぇ、さあテーブルに座って、お茶菓子の用意を頼んだからゆっくり過ごすといい、それと何か気になる本とかがあれば好きに探して、自由に読むといい」

「お菓子? わーい♪」


 そう言いながらマルクスは同行していたネムを興味深そうに観察した。

 今この場に例の吟遊詩人の姿は見えない。しかし何処からか曲が流れているので見えないだけでこの場には居ると思われる。何て恐ろしい能力だ……


 これ要人暗殺とかもやろうと思えば可能なんじゃ……


 ベオルフの事を信用はしていないが、そこまでの外道じゃないと信じたい。


 と言うか何処からか流れてるこの演奏に対してマルクス達は何か変だと感じないのだろうか? あまりに自然に場の雰囲気に溶け込んでいるから俺も意識しないと普段は気にもならないけど、明らかに異常な事だと思うのだが……とも思ったが、これまでも不思議な事は多いので深く追求はしない。


 ネムも相方の姿がなくて不安だったのか、この場の雰囲気に緊張してたのか少しぎこちない感じだったが、お菓子と言われてあっという間にマルクスとも打ち解けたようだ。


 その無邪気で自然体な振る舞いがネムの魅力なのかもしれない。ただし馴れ馴れしく頭や翼を触られるのは嫌いみたいなので、そこは気を付けないとだ。


「この国ではハーピアの種族はあまり見ないね、仲間になった経緯とかは詳しくは聞かないけど、個人的にはあまり幼くてか弱い少女を危ない事には巻き込まないで欲しいがね、魔王を倒す使命も大事だが、それには危険も伴うからね」


「ああ、その辺は俺もアルマも気を遣うし、ネムの事はちゃんと守るよ」

「むぅ、ネムはもう大人だ、ちゃんと戦えるよー」


「おお、そうだね、これは失礼した、本当なら危険な魔王軍との戦いに女性が関わること事態に抵抗があるものでね、別に女性だからと卑下しているつもりはないのだが、もしプライドを傷付けたならお詫びするよ、すまない」


 自分の立場とか省みず、マルクスはまだ幼いネムに紳士的に謝罪した。

 ピヨヒコはその大人な対応に驚いたが、ネムも同じく戸惑っているようだ。


「あう、いや、大丈夫……です、ネムも早く平和になって欲しいし頑張る」

「その意気だ、僕も自分に出来る事を頑張るよ、一緒に協力して魔王を倒し平和な世界を取り戻そうじゃないか」


「おー♪」


 何か2人で意気投合しだした。

 そしてマルクスは女性の扱いに関して自分の意見を更に続ける。


「ギルドには女性の冒険者も多いのだが、魔物以外にも野盗や傭兵崩れのならず者による被害報告もあってね、ただ傷付けられるだけじゃなくその身体を弄ばれて、酷い目にあったとかの報告も何度か聞いて心を痛めたよ」

「確かにそれは酷いな、弱い立場に浸け込んで女性に乱暴するとか許せないな」


「おお、君もそう思うかね? 冒険者同士の男女のいざこざとかもあるのだが女性に厳しい世の中だからね、危険な目に合わせない為にもなるべく矢面には立たないで欲しい気持ちもあるのだよ」


 そんな事を言うマルクス。何か想うところもあるようで真面目な表情だ。

 ピヨヒコもマルクスの話に同調したのでそれには同意した。


 話の途中で茶菓子を準備する為に離れていたメイドさんがティーセットを持って戻ってきたのだが、こちらの様子を見て会話の邪魔をしないように用意した紅茶とお菓子を音も立てずに手早くテーブルに並べていく。


 良い香りの紅茶に美味しそうなチョコとクッキー、お煎餅まで用意してくれた。お菓子類は平べったい器にそれぞれ盛り付けてあり好きなのを選べるようだ。


 俺の前にも紅茶が置かれたので、それとなく感謝の会釈をする。

 その際にメイドさんと目が合うのだが、一瞬だけ沈黙した後、無言で優しい笑顔を向けてくれた。


 主人を立てる優秀なメイドさんだとピヨヒコは感心した。

 マルクスもその様子に気が付きメイドさんに目配せでお礼を言いつつ、出された紅茶が淹れられたティーカップを手に持つ。


「まあ取り敢えずティータイムにしようか、おやつを食べながらする話題でもないのだが、こちらの準備もまだなのでもう少し話を続けよう」

「ああ、俺は別に構わないぞ」


 どうやら指示を受けてこの場を離れた美人な司書の女性が、魔王に関する文献や書物などの資料を探して準備してくれているようだ。


「~♪」


 ネムは出されたお菓子をモクモクと美味しそうに食べ始めた。

 甘いお菓子よりも煎餅が気に入ったようだが、こちらに配慮しているのかあまり騒ぎ立てたりしないでポリポリと静かに食べている。とても幸せそうな顔だ。


「女性被害に関わらず最近は野盗による襲撃被害も増えていて荷馬車の積み荷とかも狙われたりしてね、こちらも動いてはいるのだが、解決には至ってないのだよ」

「そう言えばギルドのクエストで護衛の斡旋とかもあるみたいだな」


 アルマも紅茶には手を付けてなかったがチョコやクッキーを摘まみつつもこちらの話を黙って聞いていた。女性の身としては他人事ではないし、真剣な表情で……いや、そうでもないな、こちらもネムと同じで何処か幸せそうな顔だ。


 甘いお菓子が美味しかったのか甘味で顔が緩んでいる。

 そう言えばククリコのお店で出逢ったミランダに出して貰った手作りクッキーを美味しそうに食べていた気がする。


 冒険をしてると甘いお菓子を食べる機会も少ないだろうし遠慮しないで味わって欲しいところだが、何処かのお店でこの手のお菓子も売ってたりするのかな?


 幸せそうな2人を見て少し気が抜けたが、マルクスは気にせず話を続ける。

 ピヨヒコも出された紅茶を飲みつつその話に耳を傾ける。


「野盗やならず者に関してはどうやら徒党を組んで集団で身を潜めているようで、アジトの調査もしているのだが中々尻尾を掴めなくてね、発見次第で編成を組んで掃討するかクエストとして貼り出して冒険者ギルドの力も借りるかもしれないが、現状だと滞っているのだよ」

「野盗の話は商人に最近は物騒だとかそんな話は聞いたけど、結構深刻な状況なんだな、それにアジトか……」


 何かその響きには少し憧れるが、アジトじゃないにしても自分もいつかは拠点となるホームを持ちたいものだ。でもそんなお金は無いから夢のまた夢だが。


「それにどうやら裏でなにやら悪巧みもしてるようでね、それも含めて現在調査中なのだよ」

「悪巧み? それと話は戻すけど魔物によって女性がそんな風に乱暴される事とかもあるのか?」


「ああ、色々あるのだが特に”ゴキブリン”と呼ばれる人型の小鬼の魔物は性欲旺盛で繁殖力も高く、数が多くて野放しにすると危険だな」

「ゴキブリン?」


「1匹見付けると20匹は居ると言われていてね、この近隣の村でも被害報告が出てるようだから状況によってはこちらで兵を編成して対処しなくてはならないね」

「ああ、そう言えばその調査クエストならギルドで見掛けたな、数が多そうだったから現状だと厳しくて受注はしなかったけど」


「いい判断だと思うよ、個々の強さはたいした事ないのだが、小型のダンジョンと化した洞窟とかを棲み家にしてる事が多いから、暗く狭い通路とかでなだれ込まれるとベテラン冒険者でも苦戦するだろう、それにある程度の知恵もあり粗末な武器や罠を使うとも聞くからね」

「人型で武器を使う魔物もいるのか、それに罠まで……危険な魔物なんだな」


「規模によってはキングが統率していたり、上位種のボブなどが居る可能性もあるから調査や、掃討クエストに挑むならしっかり準備を整えてからにするといいよ」

「ああ、そうするよ、情報や準備は大切だよな」


 ピヨヒコは先日の少女の選んだクエストがゴキブリンの方じゃなくて良かったと心から思った。

 魔女の依頼クエストもキツかったけど防具もない状況でゴキブリンの方に挑んでいたら、もしかしたらもっと酷い事になっていた可能性もある。


「近隣の村での被害報告以外にも見付け次第、討伐や報告を推進しているのだが、見た目も醜悪でズル賢い連中だからクエストをしたがる冒険者も少ないようでね、あまり増える前に巣窟ごと叩くのが一番なのだが、中々難しくてね」

「そうか、厄介な魔物なんだな、俺も出来たら何とかしたいところだが……」


「まあゴキブリン専門の冒険者とかも居るし、他にも二つ名持ちのベテラン冒険者も居るから、君は先ずは勇者の使命を優先すれば良いとは思うがね」

「分かった、助言としてしっかり覚えておくよ、ありがとう」


 その名前から何処と無く触覚の生えた黒い蟲みたいのを想像したがどうやら違うようだ。

 しかし女性を襲い武器や罠を扱う魔物か……許せないな。いつか討伐する準備が出来たらクエストを受注して徹底的に駆逐したいところだ。


 でもスタンピードが起きる前にはマルクスも動くだろうし、言われた通り任せるのもありなのかな。どうするかは背後の少女の判断にもよるけど……


 思い出したかの様に背後を覗いてみると、少女は真面目な様子でこちらを見ていた。普段は楽しそうに微笑んでこちらを眺めている印象だけど女性が襲われるとかの話もしてたし、少女としても何か思うところがあるのだろうか……?

 

 それにしても、この軍師マルクスは思ったよりもこの国や民の事を真剣に考えているようだ。最初は王族でもう中年なんだし、おそらく結婚して正妻や子供とかも居ると思われるのに、美人の司書や、可愛いメイドや、綺麗な秘書を囲って口説いている感じだったから女性にだらしない”ナンパ野郎”なのかとも思ったけど……


 そんなピヨヒコの思考を読んだかのようにマルクスは口を開く。


「むう? またなにやら失礼な事を考えているようだが、僕はこれでもまだ独り身でね、確かに女性は好きだし気に入った相手には声を掛けたりアプローチもするけど身分を振りかざして無理やり迫るような事はしないぞ? 本気で愛した女性には男としてちゃんと責任は取るつもりだし、その辺は誤解しないでもらおうか」

「え? あ、いや、俺は別に……」


「……見境なく女性を口説くのはどうかと思いますけどね、それにあの人以外に、誰かを本気で愛す事なんてもう二度とない、とか前に仰ってたじゃないですか」

「!?」


 またしても考えていた事を読まれたような発言をされてピヨヒコが焦っているとマルクスの後ろに立っていた秘書の女性が、口を開き反論した。マルクスも突然の秘書の反抗に戸惑ったのか慌てて弁解する。


「いや、これでも僕はこの国の第二王子だからね? 国の為にも子孫は残さないとだし、それに親父殿ももういい歳だから僕もそろそろ孫の顔を見せないとだね」


「略奪愛はどうかと思いますけどね、それにお孫さんなら既に3人居ますし、王様もまだまだ現役じゃないですか、第三王子様もまだ幼いですからマルクス様が世継ぎ問題でそんなに頑張る必要ないですよ、大体あの時だって……」


 秘書の女性は更に反論した。どうやらこの男、アルマが言ったように少し性格に難があるようだ。やっぱり只の女好きのナンパ野郎じゃないか!


「き、君はまたそんな事を、客人も居ると言うのに、あまり大人げない発言は控えたまえ、他の女性とも仲良くしているからって嫉妬でもしてるのかね?」

「なんですって!!」


 これは失言だな。その言葉を切っ掛けに大人の【論争バトル】が勃発した。


 いや、なにこれ? 何が始まったの? 論争バトルってなに!?

 軍師マルクスからの先制だ。 


「アーダコーダ」 マルクスは理論武装を展開する、鉄壁の守備が発動する。


 アルマはその様子を見て困惑しながらオロオロと狼狽えていた。


 メイドさんは口喧嘩の様子を呆れた顔で見ていたが困惑していたアルマの向かいに座って何やら話し掛けて落ち着かせている。流石は優秀なメイドさんだ。


 アルマは落ち着きを取り戻した。


「ガミガミ!」 秘書はネチネチと更に過去の話を持ち出す、効果は抜群だ。


 メイドさんはそのまま落ち着きを取り戻したアルマと一緒にお茶菓子を楽しんでいる。どうやらこの手の口論は日常茶飯事の光景なようだ。

 アルマも安心したのか論争など気にせずに、甘いお菓子と紅茶を堪能し始めた。


「ダガシカーシ」 マルクスは反論する、しかし理論武装は既に崩壊寸前だ。


 アルマはこのお城には子供の頃から訪れてたみたいだし、もしかしたらマルクス以外の3人の女性とも既に知り合いなのかもしれない。


「ガミガミ!」 立て続けに口撃だ、畳み掛けるようにお説教を始めた。


 ネムもお煎餅を食べて満足してたけど退屈なのかその辺の周囲をキョロキョロと見渡していた。またあの吟遊詩人でも探しているのだろうか……?


「ギャース」 マルクスの理論武装はアッサリと砕け散った、ブレイク状態だ。

 

 ピヨヒコも最初こそ戸惑ったが、あまりにも興味がない内容だったので出されたお菓子を適度に摘まみつつ、ネムに吊られて周囲を確認する。


「ガミガミ! ガミガミ!」 秘書はこの隙を逃さず追い討ちの連続口撃だ。


 周りには本棚が立ち並び如何にも図書室といった様子だ。司書の女性がしっかり整理してるようで乱雑な印象はなくきちんと棚に本が区分けされている。カビ臭いとかではないが古い本の紙とインクの匂いがして何となく気分が落ち着く。


「ギャフン」 マルクスは既に瀕死の状態だ、何とか抗おうと両耳を塞ぐ。


 それにこの図書室は壁際を大きな窓で覆っているので適度に明るい。

 バルコニーにも出れるようで、お城が高台に建てられている事もあり、此処から城下町や外の風景を一望出来るようだ。


「スゥー……」 秘書はとどめの必殺技、癇癪を引き起こす準備を始めた。


 王国の軍師としてこの図書室を占有してると聞いたが、確かにこの場所なら外部の様子を確認しつつ、軍事や書類関係の仕事にも打ち込めそうだ。


「ペラペーラ」 マルクスは機転を効かせ、防御を解除して愛の言葉を放つ。


 天気は快晴、時刻はそろそろ夕方時だ。ククリコのお店では思ったよりも時間を取られたが窓から城下を眺めると人々は普段と変わらぬ日常を過ごしている。

 魔王の脅威に怯えながら生活してはいるが、一見するととても平和に見える。


「!?」 秘書の女性は突然のアプローチに戸惑う、しかし何処か嬉しそうだ。


 その空を良く見ると、前にも外で見たことがある浮島のようなものがうっすらと見える。どうやらこの世界には空に浮かぶ浮遊島があるようで、もしかしたら其所には竜が住まう、天空の城とかもあるのかもしれない。


「ヒソヒソ……」 マルクスが秘書に近寄って耳元で何かを囁いた。


 このまま冒険を続けていれば自分もいつかそんな幻想的な場所に辿り着けるたりするのだろうか? まあ空を自由に飛ぶ手段があるかどうかは分からないが……


「キュン///」 秘書官は顔を赤らめて何かモジモジし始めた、効果は抜群だ。


 魔法という便利なものもあるし、自分が知らないだけで空を飛べる飛空挺みたいなもがあるのかもしれない。既に廃れたらしいけど機械と呼ばれるドワーフの技術があるとも言ってたし……それに他にも何かしらの手段があるのかもしれないな。


「フゥ……」 マルクスはどうにかこの場を収めたようだ、バトル終了だ。


 そんな妄想に耽っていたら、どうやら下らない大人の論争も終わったようだ。

 実に醜い言い争いだった。聞くに耐えなかったので”スルースキル”を発動した。


 しかしこの秘書のお姉さんはかなり鬱憤が溜まっていたようで、怒らせるとヤバいな。相手はこの国の第二王子であり、防衛大臣であり魔王軍からその知恵と策謀で民を守る軍師でもあり、更にこの女性からすれば直属の上司でもあるはずなのにまるで気にもせず愚痴を溢して説教を垂れていた。


 しかしマルクスは更に一枚上手だった。流石は軍師と呼ばれるだけの事はある。


 だが尊敬の念などは微塵も感じない。こいつは最低なナンパ野郎だ。

 論争の切っ掛けもきっと身から出た錆なのだろう。

 マルクスに対して同情などはしない。ピヨヒコに同調するかのように周囲の冷たい視線がマルクスに突き刺さる。


 秘書の女性は悦に浸った表情なのだが一体どんな台詞を囁かれたのだろうか?


「ゴホン、まあ僕の話はもういい、少しみっともないところを見せてしまったが、準備も出来たのでそろそろ本題に入ろうか」


 そう言うと席を離れていた司書の女性も、いつの間にか戻って来ていたらしく、テーブルの上には何冊かの本や書物が置いてあった。


 どうやらこれらが魔王に関係する文献や資料らしい。

 司書の女性と秘書の女性がマルクスの側の椅子に座る。紅茶のお代わりを注いだ後メイドさんは正面の椅子に腰掛けたが、位置的にはマルクス側に近い。


 広い四角いテーブルを挟んで、ピヨヒコ側とマルクス側で分かれた感じだ。

 そして軍師マルクスはこの世界の情勢や魔王の事を教えてくれた。


 その勇者の宿敵の名は【魔王タナトス】と言うらしい。


     ◇


「ふーむ、ゴキブリンね、言い得て妙なネーミングセンスだな」


 このゲームやたらとリアリティーに拘るけど、ゴブリン、じゃなくてゴキブリンのクエストに女性の仲間を連れて行ったらまたエッチな感じのイベントとか起きないか少し不安なんだけど……


 それにスタンピードとかの要素も出てきたし、何か時間の概念もあるらしいからもしかしてクエストをずっと放置してると消失したり、事態が悪化したりもするのかな?


 何か"二つ名"の冒険者とかの話も出てきたし、ギルドとかでNPCとまだちゃんと会話してないから情報不足だけど名前持ちのキャラとか他にも居そうな感じだな。


 てかゴキブリン専門の冒険者って、何処かで聞いたことある設定なんだけど。


 やたらとオマージュが散りばめられているけど本当に大丈夫なのか?

 桜子はその話を聞いた時には真面目な様子でそんな事を考えていた。


 まだ何人くらい仲間が居るのか分からないけど職業の数はそれなりにあるみたいだし、弟が懸念してたように仲間がどんどん増える可能性も確かにあるんだよね。


 どのみちそんなに居ても育てきれないが、何か面白そうな性能のキャラが居れば使ってみたいけど。てかこの軍師は有能なキャラっぽいけど女の敵だな。

 紳士振ってはいるけど、この手のキャラは裏の顔とかありそうだし、糸目キャラは油断が出来ない。物語の終盤でいきなり裏切るとかも無いとは言い切れない。


 それとこのゲーム、会話パートの途中でもメニュー画面を開ける仕様なのだが、前にも長い会話が続いた時にセーブしたくて試したら可能だったので戸惑った。


 バックログとかは読めなかったけど、会話中にメニューを開ける仕様も珍しい気がする。遊んでる印象的にはRPGと言うよりはテキストアドベンチャーやノベルスゲームって感じもあるけど。


 会話パートがとにかく長くて多いので何処でもセーブは助かる。メニュー画面を開いてる間は会話も止まってるので離席するには都合がいい。


 それに主人公が会話中に何かアイテムを要求する時は、使うかどうかの選択肢が出るんだけど、メニューを開いてこちらからアイテムを選択して選ぶと会話に反映されたりもするようだ。いやどんだけ細かく会話の分岐パターンがあるんだよ。


 楽しければ別になんでもいいけど、何かやっぱり変なゲームだな。


 それより魔王の名前が早々に出たね。ゲームによっては最後の決戦までラスボスの名前が出てこないRPGとかも結構あるんだけど、意味的には【死】とかかな?


 何か安易な名前だけど、その名前を呼んだら不吉な事でも起きそうな感じだな。

 桜子はそんな事を考えつつ、セーブして話の続きを遊ぶ事にした。


     ◇

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