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第19話 奏でる者

 魔王の情報を調べる為にお城にやって来た。

 この世界を救う為には宿敵である魔王の事をまず知る必要がある。

 途中で変な吟遊詩人にも絡まれたけど、足はそのままお城に向かう。


 現在の勢力図や”魔王城”と呼ばれる根城は何処にあるのか。魔王とはどんな人物なのか。配下はどのくらいいるのか。倒す手段や弱点はあるのか。

 それに記憶を無くした俺にとっては、この世界の事や、この大陸や国の歴史なども含めて、まだまだ知るべき事が多い。


 それに勇者となった経緯や、失われた記憶に関しても、もしかしたら詳しく知る事が出来るかもしれない。


「止まれ、ここはグランバニラのお城だ、どのような用件だ」

「あ、いやその、俺は勇者だ、お城に用があり訪ねたのだが入れるかな?」


「おお、これは勇者殿でしたか、失礼しました、どうぞお入りください」

「……ああ、ありがとう、お邪魔します」


 以前にお城で情報収集をした時にも門兵に止められたが、今と全く同じやり取りをしてから迎えられた。

 勇者の特権なのか、入城は問題なく可能なようだ。


 最初は戸惑ったが、こう言う質問に対して口が勝手に用件を伝える時も多々あり自分で考えて喋ったりも出来るのだが、意図せぬ発言に対してはやはり背後の画面の少女に操られているんだと再認識させられるので気分が沈んでくる。ズーン……


 城門から中に入ると、そこは花壇や噴水のある大きな中庭が広がっており、その奥には大きなお城が悠然と建っている。

 それにお城と言っても敷地は広く、アルマに聞いた話だと兵士達の詰所や厩舎もあり、各ギルドを管轄する【中央区役所】などもあるようだ。


 冒険者ギルド以外にも”生産ギルド”や”職人ギルド”など、他にも色々とあるようだが、取り敢えずは登録したギルドだけ利用すれば問題ないだろう。


 お城の全ての施設は見てないが、ここもかなりの広さだ。ここから左側に見える庭園も綺麗に整っているので、専属の庭師が管理してるようだ。

 それに何人か貴婦人らしき人影もちらほら見えるから優雅にお茶会でも開いて、交流会でもしているのかも知れない。城下町と比べても何処か別世界な印象だ。


 それらの施設も含めて、お城の回りを強固な城壁がぐるっと囲っており侵入者を阻んでいる。城内も含めてかなり広いので、巡回する衛兵もそれだけ多そうだ。


「? あれ、何か前に来た時と違うような?」

「どうかしましたか、勇者様?」


「あ、いや、大丈夫だ、特に問題ないから」

「わかりました、目的地の王国の図書室はこのお城の二階ですけど詳しい場所とか分からなければ聞いてくださいね」


「ああ、ありがとう、前にも城内は探索したから多分大丈夫だとは思うけど迷ったらアルマを頼るとするよ」

「はい、任せてください」


 お城に入ったら何か変な違和感を感じたので咄嗟に声が出たが、アルマがそれに反応して声を掛けてくれた。

 違和感の正体は分からないが、取り敢えず問題がある訳ではなさそうなので気にしないで、そのままお城に向かい王城の中に入る事にした。


 入口で再び門兵に止められたが、先程と同じようなやり取りをして入場出来た。


 アルマは国からの要請で勇者のサポートを担っているが、元々はこの王国に属す魔導修道院と呼ばれる施設に居たようだが、王族が依頼して勇者の支援者を選別してそれで選ばれて派遣されたようだ。


 何故アルマが選ばれたのかは詳しく聞いてないが、既に信頼のおける仲間だし、博識で魔法も頼りになるので何も問題ない。


 お城勤めではないのだが、魔法の先生の付き添いで調べものや雑務など、幼い頃からこの城に来る事も多かったようで、王国の情勢や内情にも詳しいようだ。


 移動の合間に、本人からそのような話を聞いた。


 お城の中にある図書室には魔王軍の事に詳しい人も居るらしく、取り敢えずその人物に会う為に"5人"でその場所に向かってる途中だ。


 なんで5人なのか、俺にも分からないし、納得も出来ないのだが……


 傍らを見るとアルマの他には先程出会った胡散臭い吟遊詩人と踊り子の女の子、そしてその背後を追従する画面の中の少女がこちらを眺めている。

 5人が俺の背後に順々に並び歩いている訳ではないので、それは本当に良かったとは思うが、勝手に仲間を気取って付いてきた吟遊野郎には早くお帰り戴きたい。


 帰れ、帰れ、と念を送ると、取ってつけた様にその吟遊詩人が口を開く。


「いやぁ、流石は勇者様ですね、私のような一般市民などは普通お城に入る事すら出来ませんから、いやはや見事なものです、大きな大理石の柱に床には豪華な赤い絨毯が敷き詰められていて、中央ホールの大広間は天井も高くて実に壮観、まさに圧巻、感動しますねぇ」

「いや、何でここまで付いて来てるんだよ、お城だぞ、帰れよ」


「それは重々承知です、しかし私にも勇者様の活躍を歌に残し、後世に伝える責務が有りますのでそれを全うしたい所存、まあ私の事は気にせずに居ないものとして扱ってくれても構いませんので、どうかご容赦を」


 吟遊詩人は悪ぶれる事もなく、達者な口先でそう云い放った。


 名前は【ベオルフ】と言うらしいのだが、ここに来る途中で串焼きを与えたら、手懐けたようで何故か仲間になった。いや、なんでだよ!?


 一緒に歩いているアルマを見てみると、言葉や態度には表さないが、俺と同じくこの男に対して、何処か居心地が悪いと感じている様子だ。


 格好こそ吟遊詩人といった風貌なのだが、容姿だけなら王子様とも思えるくらい美形だし、何処となく気品も感じるので、もしかしたらこのお城の関係者だったりするのか? しかしこの男の態度はどうにも胡散臭くて、全く信用が出来ない。


「この人には何を言っても無駄だよ、ネムも邪魔しないから、気にしなくていいよ?」

「え、ああ、わかった、取り敢えず邪魔をしないなら付いて来てもいい」


「わーい♪」


 そう伝えるとベオルフとハイタッチしながら2人して喜んだ。

 連れにまで無駄とか言われてる始末だし、言っても本当に無駄なのだろう。


 と言うか、大の大人が子供と一緒になってはしゃぐな!

 お城の中には他にも人が居るのに周囲の目などお構いなしだ。


 俺達と一緒に動向しているもう1人は”ハーピア”と言う種族の少女だ。


 ベオルフの相方らしいのだが、その姿は腕が翼の様になっている有翼族で、確認したら【ネム】という名前のようだ。

 見た目はまだ幼く、吟遊詩人のベオルフとは違いこの少女は何処か愛嬌があって好印象なので邪険に扱うつもりはない。


 しかし、何故こんな事になったのだろうか。


 俺としては、まだこの2人を仲間として迎えるつもりはないのだが、体は勝手に図書室に向かって歩いているし、今すぐ追い払うのは無理そうなので、取り敢えずは受け入れる事にした。


 不満はあるが、背後の少女の決定には逆らえないので仕方ない。


     ◇


「いや、このタイミングで仲間が増えるとは思わなかったな」


 画面の中の少女、プレイヤーの桜子はそんな感想を言った。


 メインのシナリオがお城のワープポットの近くで発生するのは、シナリオ進行の確認で分かっていたけど、この吟遊詩人のステータスを見ると色々とおかしい。


 まずレベルが既に35もある。


 そして装備が固定で変更出来ない。更に吟遊詩人のスキルツリーを既に全て修得していた。吟遊詩人と言えば演奏により味方にバフなどを掛けるイメージだけど、どうやらこのキャラ専用の固定ジョブのようだ。


 メニュー画面からスキルを確認すると、かなり便利そうな効果のある演奏とかも取得してるのだが、もしかしたら戦闘では操作不能なイベント関連のゲストNPCとかの可能性もありそうだ。


 戦闘に参加させてないからまだ何とも言えないけど、唐突に仲間になったし唐突に離脱とかもしそうな印象はあるな。

 ステータスもレベルに見合って強いけど、武器はメイン、サブ共に楽器で、攻撃値が殆ど無いんだけど、支援要員の非戦闘員キャラとかそんな感じなのかも?


 でも固有スキルも取得していて説明文だとかなり尖った性能をしている。

 しかもサブ武器が『ロキの竪琴』って、如何にも道化師っぽい感じがする。


 それに【語り部】と【奏でる者】なる意味不明な称号まで所持していた。

 アルマの方も【導き手】の称号は持っているのだがこちらも用途はまだ不明だ。


 シナリオに何か関係ある感じだとは思うけど、吟遊詩人の歌詞にも”導く者”とかあったし、他にも歌詞にあった”故郷を取り戻す者”と”願いを叶える者”に関連するキャラクターも後々で登場したりするのかも知れない。

 

 と言うか歌の歌詞で弟が遊んでいた時の城下町でのアイテム集めを”泥棒行為”として取り上げられていたから、困惑したけど笑ったわ。

 これってプレイヤーの心理を逆手に取って、アイテム漁りを想定して、シナリオに組み込んでたりしてる感じなのか? 


 この手のRPGで調べられる場所を漁るのはゲームでは”常識”なんだし、それを咎める感じにして、勇者としての評判や評価を下げてから、信望を得る流れにしているなら中々に面白い仕様だけど……

 もしお城や城下町でアイテムを何も漁らなかった場合はどうなってたんだろう。


 今後もプレイヤーの行動が反映されて、歌の歌詞が増えていく感じなのかな?

 まあ今の状況で推測しても何も分からないけど。


 それと連れのネムの方だが、こちらはレベル4で、装備やセットスキルの変更も出来るようだから、普通に初期加入の仲間っぽい感じだ。


 それに名目上は踊り子みたいだけど、職種を確認すると”軽業師”になっていた。


 吟遊詩人とは違ってこれから覚えられる職業スキルも多く、更にハーピアの種族特性の固有スキルもあるようで面白そうなスキルを取得してた。

 武器もスローイングナイフ、投擲用の投げナイフなので使い勝手は良さそうだ。


 そして謎の称号【見据える者】と【辛党】……なんだこれ?


 “見据える者”はおそらくシナリオ関連だとは思うけど、”辛党”ってなに?


 アルマの方はそれとは逆に【甘党】の称号を持っているのだが、単なるキャラの個性付けなのかもしれない。効果はよく分からないけどギルドとかで食事も摂れるので、好みに合わせて選択すると何かメリットとかもあるのかも?


 と言うかこのキャラあれだ、前にログイン画面で出て来たマスコットの少女だ。


 他にも変なギザギザ口の生えた本の魔物みたいのも居たんだけど、あれも後から出てくる感じなのだろうか?

 それに第一印象での人懐っこさと言うか、雰囲気が何処か昔飼ってたピヨコッコに似ていて、何か不思議な懐かしさを感じる。


 今後のキャラの掘り下げや、戦闘での使い勝手次第では”推しキャラ”になりそうな感じはあるかも。それに吟遊詩人のベオルフもだけど、キャラデザはどちらも私の好みだし、今後の物語にどう絡むのか楽しみだ。


 どっちも仲間になったばかりだしキャラの特性を掴む為にも、戦闘に参加させて性能を試してみたいけど、取り敢えずこのままメインストーリーを進めるかな。


 次は二階の図書館に行くと何かイベントが起きるみたいだけど、シナリオを進めないと、いつまで経ってもゲームをクリア出来ないしな。


 と言うかこんなにあっさりと仲間が増えるなら魔女の森のクエストを受ける前にお城に立ち寄るのもありだったかも。

 そんな事を考えたが、過ぎた事を気にしても仕方がないので気にせず進めよう。


     ◇


 このグランバニラ王国の城は四階建て、地下一階の造りで広くて大きい。


 一階の中央には多目的に使えそうな二階の天井まで突き抜けた大広間のホールにその奥には二階へと続く両階段。他にも大きな食堂に厨房。

 客人や来賓が寝泊まりする為の個室も幾つかあるようで廊下も広くて長い。


 地下に続く階段は侵入禁止だったが、もしかしたら罪人を閉じ込める牢屋や、城下町に続く秘密の通路とかあるかもしれない。


 二階には中央の大広間の吹き抜けを囲う様に部屋が連なり、玉座がある謁見室に執務室、魔王軍との攻防に備える為の作戦会議室や、城下町を一望出来るラウンジなどあるようで、今回の目的でもある魔王に関連した文献や書物などが収められている”図書室”もこの階にあるらしい。


 他にも何やらランプで起動する”隠し部屋”もあったので、まだ探せば秘密の部屋とかありそうな感じはする。


 三階には王様やお妃様、王子様などの個室があり王族の専用フロアになっているようだが、守衛が通せんぼしていてこの階層は侵入禁止だった。

 以前に探索した時はこちらの動きに合わせ衛兵が無言の高速反復飛びでブロックしてきたから、ちょっとシュールな光景だった。


 見取り図が無いので四階はどんな感じなのか分からないが、父親のジークフルドが愛用していたと云われるドラゴンメイルなど納めた噂の”宝物庫”はもしかしたらお城の上層階にあるのかもしれない。

 記憶は無いが亡き父親の形見でもあるし機会があれば拝見してみたいところだ。


「お城でっかくて広いねー」

「そうだねぇ、とても大きいねぇ、口頭で説明するだけでも大変そうだし語彙力が足りなくて、相手に上手く伝わらない可能性も大いにありそうだねぇ」


「そだねー」


 なにやら吟遊詩人のベオルフと相方のネムがこちらを煽る会話をしていた。

 この手の建物や城下町の細かい描写の説明をするのは俺も苦手なのだが、想定を含めて詳しい配置とかを覚えておけば、後々何かの役には立つかもしれないのだ。


 伏線を張りつつも情報収集する事は大切だ。いや、何だ伏線って?


「ハァ、このお城に対して緊張するとかは特にないけど、何か気疲れするな」

「このお城には身分の高い貴族様も居ますからね」


 そんな感想を呟いたらアルマが返答してくれた。

 それになんと言うかなんとなく懐かしい感じもする。記憶を失う前にも訪れてはいるだろうし、それでそう感じるのかもしれないが。


 お城の中には定位置で佇む衛兵や、メイドの格好をした給仕、貴族みたいな格好をした人物も居るのだが、基本的にはこちらから話し掛けないと無反応だ。


 勝手にお城を歩き回ってる事に対して特に咎められてはいないけど、泥棒行為で悪評が広まっている話を聞いたからか、その表情や視線は皆どことなく勇者を歓迎しているようには見えない。


 何処か冷ややかな視線を感じてピヨヒコは目を背けた。そして背けた視線の先にあった大きなおっぱい、じゃなくて容姿の整ったアルマに目を奪われる。


「この先の左の通路の突き当たりの部屋が目的地の図書室ですね、奥のバルコニーにも出れるので外の景色も堪能できますし、窓も大きくて広くて明るいですよ」

「そうなのか? じぃー……」


「ちょっ、何処を見てるんですか、あ」

「む?」


 階段を登り図書室に向かう途中の廊下で、騎士と思われる集団を見掛けた。

 作戦会議室もこの二階にあるようなのでその最中とかだったのかもしれない。


「おっとこれはいけない、私は少し姿を消しますね」

「は? 姿を消す?」


 スゥ……


 そう告げると勝手に付いてきて居たベオルフは、だんだんと存在感が虚ろになるように認識が出来なくなり、本当にその場から唐突に姿を消した。


「あれ? あの吟遊詩人は何処に行った、え? 今さっきまで居たのに!?」


 突然の出来事に困惑していると、この王国の騎士団の団長と思わしき先頭を歩いていた男と視線があったので、そちらに注目する。


「……」

「……」


 どちらから会話する訳でもないが対面して暫しの沈黙が続く。


 威圧感などは特に感じないのだが、黒銀色の鎧防具を着ていて、風格のある厳格な佇まいに少し緊張する。これはこちらから挨拶でもした方が良いのだろうか?


「……ペコリ」


 すると鎧の男は無言のまま会釈をしてきたので、俺もそれに反応し会釈を返す。


「ペコリッ」


 傍らに居たアルマとネルも、それに習って無言で会釈をした。


「…ペコリッ」

「ペコッ」


 男はそれに満足したようで、そのまま振り向かずに部下と思われる騎士達を大勢引き連れて歩いて行った。すれ違い様に連れていた騎士達も其々が軽く会釈をしてくれたが、若い男性が多く、今の団長と思われる男を慕っている雰囲気が伝わる。


「ペコリッ」))  「ペコリッ」)       「ペコリッ」)

    「ペコリッ」))  「ペコッペコッ」)「ペコリッ」)) 「ギロリッ」))


    「ペコリッ」

「ペコッ」「ペコリッ」


 その際に騎士団の最後尾を歩いていた若い女性の騎士と目が合ったのだが、何か少し不機嫌そうな感じで敵視を向けられた、気がした。

 特に会話を交わす事もなく集団はそのまま階段を降りて一階に降りて行った。


 一体なんだったんだろう? 騎士団長の方は何処かで会った気もするのだが。

 

 気になったのでアルマに今の人物について聞いてみた。


「……今のお方はこの王国の騎士団の団長で、この国の第一王子です」

「第一王子?」


「名前はグラウス様と言いまして、自ら兵を率いて魔王軍を迎え討ち、国民からの信頼は厚いですよ、先の魔王軍の大規模侵攻の際にも獅子奮迅の活躍をして勇者様のお父上のジークフルド様と共に魔王軍を退けた第一人者です」

「そんな身分の高い人物だったのか」


「……おそらくはジークフルド様の死去の事もあり、勇者様に対してもなにか思うところがあるのかと」

「えっと、もしかして俺も知り合いだったり?」


「ええ、そうですね、詳しい経緯は私も聞いてませんが、勇者様と面識はあるはずですよ、ジークフルド様とは無二の親友でしたので」

「そうか、魔王軍の情報に関してもだけど、父親の事とか俺が勇者として任命された詳しい経緯とか、今の俺は分からない事ばかりだから、自分の過去の事も含めて何か知っているなら聞いてみたかったけど、王子様を相手に話すタイミングがあるかな、それに何か厳格そうな印象だったから緊張して少し萎縮してしまった……」


「まあ多忙な人ですから、それに魔王の情報に関してはこの先の図書室を占有されている軍師様に聞くのが良いとは思いますが」

「軍師様?」


「ええ、この国の防衛大臣を担っていて魔王軍が攻めてきた際にはその計略と指揮能力の高さで的確な指示を出して兵を動かし、魔物が溢れてスタンピードを起こりそうな場合はその前兆に事前に対応して、この周辺の地域の安全に勤めています、その知謀はこの王国の頭脳とも謂われていますね」

「そんな凄い人物が居るのか? 確かにそれなら魔王軍の事にも詳しそうだけど、ところで、スタンピードって何?」


 あまり聞きなれぬ言葉だったのでアルマにそれも聞いてみた。


【スタンピード】とはダンジョン内の魔物が討伐される事なく増えすぎて溢れだし外部に出てきて大群を成し、その周辺に害を及ぼす状態の事を言うらしい。


「スタンピードが起きたダンジョンは内部に巣食う魔物も蓄積された魔素の影響で普段よりも強くなるらしいです」

「なるほど、そんな状況になる前に情報を集めて調査を送り対処するこの国の防衛大臣か、軍師としての手腕も一流みたいだし何か凄そうだな」


「ちなみにこの国の第二王子ですね、性格には少し難がありますが……」

「えぇ、また王子!?」


 アルマの話だと長兄、次兄とはかなり歳の離れた第三王子様も居るらしい。

 そして長女に次女、更には三女、つまり三人姉妹の王女様まで居るそうだ。


 それにも関わらず兄弟、姉妹による醜い跡目争いとか、謀略なども特になく王国全土が一丸となり、魔王から平和を取り戻す為に頑張っているようだ。


 こんな魔物が蔓延る世界だし王政を絶やさない為にも世継ぎも多く必要なんだとは思うけど、この国の王様もただ者ではないようだ。

 王の謁見室で会って、初めに話した印象だと何か同じ台詞を繰り返していたし、ボケた老人なのかとも思ったけど。


「このグランバニラ王国は過去に偉大な人族の王が統治し繁栄させて300年以上も続く由緒ある系譜で、今の王様は15代目にあたるらしいです」

「ふむふむ、最初にこの城で目覚めて会った時はあまり威厳とか感じなかったけどこの国の王様も実はスゴい人物みたいだな、家族関係も良好みたいだし」


「王様はもう結構なお歳ですがそれでも民からの人望も厚くて人気ですね、普段はあまり表には出ないので二人の王子様の活躍が目立ちはしますが、私も実際に王様を見る機会なんて殆どないですね」

「むー?」


「あれ、でも最初に再びお城を訪れた時は普通に会えたような、寡黙な感じだったから特に会話はしなかったけど、それと隣に居た大臣に何度か話し掛けたら、何か怪訝な顔をされて軍資金で300ゴルド程貰ったけど、それでどうやって魔王を倒せと言うのか、問い詰めたくなったわ」

「むむ?」


「え? それはその……大変でしたね、でもまあ王様の側近の大臣様は国の財務も担っているお方なので色々と考えがあっての事だとは思いますが……」

「む〜」


 やたらと相槌を打っていたネムを見てみると、難しい話に飽きたのか何やら視線をキョロキョロと動かして辺りを見回していた。

 その仕草は何処か愛嬌があり、見ていると何か気分が和らいでくる。


 何となく挙動や雰囲気が犬とか猫のようなペットのような感じもするんだけど、流石にそれは失礼極まりないので本人には絶対に言えないな。


「取り敢えずその”軍師様”から話を聞けば、魔王の情報やそれ以外にも俺が勇者に任命された詳しい経緯や理由は分かりそうだな、それに記憶の事もあるし、他にも三人の王女様もこのお城に居るなら何となく気になるし一度会ってはみたいかも」

「あの、それでしたら……」


 三姉妹の話を聞いてみたらどうやら今この城に居るのは三女だけらしく、長女と次女は既に結婚して何処かの国の王族や、貴族に嫁いだらしい。


「ですが聖女様は、魔王軍の手によって……」

「聖女様?」


「何やら興味深いお話をしていますねぇ」

「うわ、ビックリした!!」


「あ、ベオルフいたー」


 突然声を掛けられて振り向くと、今まで消えていた吟遊詩人が音もなく現れた。

 まるで初めからそこに居たかのように、いや、幽霊かこの男は!?


 そう言えばさっき騎士団長と挨拶した時に消えてたんだ。何故かそのまま存在を忘れてたけど、ネムが視線を追ってたのは、このベオルフの事を探してたのか?


「何か記憶がどうたら言ってましたが、勇者様に関わる事なら私も知る権利があると思うのですが、良ければ詳しく知りたいところですねぇ」

「いや本当に図々しいわ、別になんでもないから気にするな」


「そうですか? まあ強要はしないので無理に聞き出すつもりはないですが」


 また勝手にあることないこと歌にされでもしたら困るので誤魔化す事にした。


 吟遊詩人のベオルフは少し不服そうだが特に反論はせず、それ以上の追求はしてこなかった。

 やはり何処か掴み所がなくて、油断できない性格なのでこの男は何か苦手だ。


 美形な容貌や気品を感じる風格だったから、てっきりお忍びで吟遊詩人の格好をして城下町に繰り出している、この国の王子とかなのかと思ったけど、今のアルマに聞いた話と照らし合わせると無関係なのか?


 いや、もしかしたらコイツが第三王子の可能性はあるかも? さっきすれ違った第一王子様は見た目的には三十代後半から四十くらいにも見えたけど、ベオルフは多分まだ二十歳半ばくらいだから、かなり歳は離れてるとも言えるよな?


 でもそれならアルマが第三王子様の容姿とかは知っていそうだし、目の前に居るのに黙ってる理由がないよな? ならやっぱりコイツは王族とは関係ないのか? 


 それに突然消えたり現れたり、一体どうなってるんだ!?


「おや、何か考え事ですか勇者様?」

「え? いや、何でもないから気にするな、それよりもさっきは忽然と姿を消したけど、あれは何なんだ?」


「自分の事は教えずに、こちらの情報は求めますか? でも勇者様の信用を得る為にもお教えしましょうか……一介の吟遊詩人でしかない私が先程の騎士団の人達に見付かったら、咎められて追い出される可能性があったので、私の”固有スキル”で見つからないように"隠れて"いたのですよ」

「固有スキル?」


 飄々(ひょうひょう)とした態度でベオルフはそう答える。

 どうやらこの吟遊詩人は固有スキルの【隠れる(ハイドアンドシーク)】を使う事で自分の姿や存在感を隠す事が出来るらしい。

 それによって戦闘では敵視を外したり、街中をひっそりと徘徊して聞き耳や覗き見したりも可能なようだ。


 いや、なにそのチートスキル? 盗賊よりもずっと盗賊らしいのだが…… 

 もしかしてそのスキルを悪用して勇者の動向を探ってたりもしてたのか!?


 ピヨヒコはその話を聞いて、ベオルフに対して不信感と警戒心を強めた。


「まあコソコソと隠れてその動向を探られそれを歌にされてたら、誰だって気分は良くないですよね、私もそう思ったので黙っていようとは思ったのですが、ずっとそのような疑念を抱かれるよりも、さっさとカミングアウトした方がお互いに傷も浅いでしょう?」

「はぁ? え、じゃあそのスキルで本当に俺の事を尾行してたのか!?」


「ええ」

「ええ、じゃないんだけど!?」


 吟遊詩人はアッサリと隠れながら尾行してた事を認めた。内心かなり吟遊詩人に対して戸惑い憤慨してるが、お城の中なので、声を荒げずに心を落ち着かせよう。


「いや、そもそもそんなスキルを使って隠れてまでこちらの動向なんて追わないで欲しいんだが、勇者の活躍なんて冒険者ギルドとかで情報を集めれば伝えられるんじゃないか!?」

「人の噂など宛にはなりませんよ、この目で見て初めて勇者様の真の姿を歌にすることが出来るのですから、それに先述しましたがプライベートに関しては私も配慮して覗き見などは致しませんし、謂えないような事は歌にしたりもしませんから、信じられないかもしれませんがそこは信用してくれていいですよ、それに私も別に四六時中、勇者様をストーカーして観察している訳ではないので」


 そんな事を言われても全く納得が出来ない。

 てかはっきりと"ストーカー"発言しやがったよこの男。

 何かもう怒りを通り越して呆れるんだけどぉ!?


「それにこれは私に課せられた"使命"でもあるので、貴方様だって勇者として魔王を倒すという使命感を抱いているでしょう? それと同じような気持ちを抱いてると思って戴ければ少しは納得してもらえるとも思うのですが」

「使命?」


 そう云いながら、ベオルフはその視線をピヨヒコの方に向ける。


 使命。その言葉は確かに今のピヨヒコにとっては自分自身を証明する存在意義であり、行動理念であり、アイデンティティーだとすら感じていた。


 記憶もなく背後の画面の少女に操られている訳の分からないこの状況で、与えられた勇者としての"使命"だけが自分と言う存在を支える”唯一無二”のものなのだ。


 アルマには記憶喪失の事は告げたけど、この使命感がなければ自分はどうすれば良いのかすら分からずに、ただ翻弄して精神が疲弊していたかも知れない。


 この吟遊詩人もそんな使命感を感じて、理念として行動しているのだろうか?


 しかし、それでも、うん、やっぱり納得は出来ないな、何か嫌だぁ!!


 そう思い苦虫を噛み潰したような渋い顔をしてたらベオルフが再び口を開いた。


「ふむ、仕方ないですね、それなら私は普段のお役目に戻るとしますか」

「え、帰る気になったのか? いいぞ、仕事があるならそっちを優先してくれ」 


「いやぁ、別にそう言う訳でもないのですが」

「む?」


 すると、吟遊詩人のベオルフはその持っていた銀色の竪琴を奏で始める。

 どうやら弾き語りの時のリュート以外にも幾つか楽器を所持してるようだ。


 そしてその曲を聞いたピヨヒコは、このお城に入った時に感じた”違和感”の正体に気が付く。


 ~♪♫♩


「ああ、それだ!! お城に入ると何処からともなく聞こえてくる曲だ、何時もの演奏が流れてなかったから、それを違和感に感じてたのか」

「ええ、その場の雰囲気に合わせた楽曲で、盛り上げる事も役目の1つですから、無音のまま魔物と戦うよりも何か戦闘に合った曲が流れていた方が気分も高揚してテンションが上がりますし、使命を果たすモチベーションにも繋がるでしょう?」


 そんな事を淡々と告げる吟遊詩人のベオルフ。

 この男の底知れない”不気味さ”が露になった。


「ちょっと待て、という事は、お城以外の城下町や森で流れてた曲や魔物と戦う時の戦闘曲も全部お前が演奏していたって事なのか? え、それならもしかして最初からコソコソと隠れて俺に付いて来てたのか!?」

「む?」


「うーん、詳しく説明すると、全部ではないですが、戦闘曲とかに関しては、まあそうですね、あまり雰囲気にそぐわない場合は環境音のみで、状況によっては無音にしたりもしてますけど、それと先程も言いましたが常に隠れて付いて居る訳ではないので、そこは誤解しないでくださいね、ギルドの酒場や城下町での弾き語りや作曲活動など、他にも色々とする事もありますので、これでも演奏家として人気者なんですよ」

「いや、うっそだろお前、真面目に言ってるの!?」


 そう言えばお昼にククリコのお店に入った時に何か曲は流れていただろうか?


 ピヨヒコは記憶を辿るがよく思い出せない。その様子を見ていたベオルフは何やら楽しそうにしてる。いやどんな状況でも隠れて覗いてたとか許せないんだが!!


 アルマも今の話に動揺しているが、口は出さずに黙って話を聞いている。

 いや、プライベートの侵害だし、そこはアルマも怒っていいと思うぞ!?


「私は戦闘での攻撃手段も限られてるので、別に真の仲間として迎えなくてもいいですし【演奏担当】とでも思っていただければ構いませんよ、一緒に同行して気になるのなら、今まで通り隠れて付いて行きますので」


「いや、ちょっと待て、やはり納得出来ない、そもそも隠れて以前に付いて来ないで欲しいんだが!?」

「まあまあ、そう冷たい事を仰らずに、諦めて受け入れてくださいよ」


 そう言うと、ベオルフは再びその存在感を朧気にする。目では見えてるのにその姿はだんだんと稀薄になっていく、まるで本当に幽霊のようだ。


「ああ、ちなみにネムに関しては私の連れではありますが、普通に戦闘もこなせるので良ければこれから仲間として迎え入れ、仲良く接してあげてくださいね、私も気分次第でたまに姿を見せるかもですが、その時は出来たら優しく接してくださいねぇ、ではまた後程……ポロロン♬♩」


 ~♪


 そんな捨て台詞を吐きながら、吟遊詩人のベオルフはそのまま姿を消した。


 しかし相棒のネムの視線はその消えた方向を見据えているし、お城で流れる演奏もそのまま聞こえて来るので、見えはしないのだが確かにこの場には居るようだ。


「……くっ、おのれ」


 何なんだこの男は……そう思いつつもピヨヒコは、背後から追従してくる画面の少女の事もあるので、この吟遊詩人に関してもそういう存在なんだと思い込めば、持ち前のスルースキルを使用して、普段通りに振る舞える、確かな自信があった。


「すぅー、ハァ……」


 ピヨヒコは深呼吸して心を落ち着かせる。

 取り敢えずネムを仲間に迎えて厄介な存在のベオルフの事は忘れる事にした。


「それじゃ図書室に行って魔王の事を調べようか」

「え? あの、はい……」


 何かを悟ったような、諦めたような表情でピヨヒコはそう言った。

 アルマも困惑するもそれに同意した。

 ネムも黙ってはいるが素直に後を付いてくるようだ。


 憎きベオルフの連れで一緒に連れては来たけど、ネムはこの状況を分かっているのだろうか? 

 使命を果たす為には先日のような命懸けの戦闘になる事もあると思うんだけど、まだ幼いネムを本当に仲間に加えて良いのか? いや、危ないし絶対ダメだよな。


 ピヨヒコは自問自答して、ネム本人の意向を聞く事にした。


「なあ、ネム?」

「なぁに~?」


「あの吟遊詩人との関係性はよく分からないけど、世界の平和を脅かす魔王を倒す冒険について来てネムは平気なのか? まだ子供のネムには危険じゃないか?」

「ネムは子どもじゃない、もう大人だよー」


「え? そうなのか?」

「今年で10だぞー」


「いや、それ子供だから、全然大人じゃないから」

「!?」


 何やらショックを受けているようだが、もしかしてハーピアの種族だと10歳はもう大人扱いなのだろうか?


「ネムが一緒に居ると邪魔?」

「あ、いや、そんな事はないけど、ベオルフも消えたしこんな状況でいきなり追い出したりはしないけど、魔物とも戦うしネムには厳しいんじゃないか?」


「ネムはちゃんと戦えるよ、それにお空も飛べるから大丈夫だよ」

「いや、それは大丈夫と言えるのか……?」


「そんなにネムの事を追い出したいんだ……」

「え、あ、いや……分かった、ネムが良いならちゃんと戦力として期待もするし、仲間として歓迎するけど、危ない事はしないように気を付けてくれよな?」


「わかった、ネム頑張る!」

「俺もアルマも気を遣うけど戦闘では絶対に無理はしないこと」


「おー♪」

「危ないと思ったらとにかく命を大切に」


「おー」

「あと探索中に勝手に離れたりしない事、それから」


「心配性?」

「いや、だって心配だし、うーん、本当に大丈夫なんだろうか……」


「大丈夫だよー」

「そうか、それなら信用するけど、よろしくな」


「よろしくね♪」


 ネムはこの状況が分かっているのかいないのか、屈託のない無邪気な表情をして何だか楽しそうだ。その振る舞いにはやはり何処か癒される。


 吟遊詩人のベオルフは仲間とは絶対に認めないが、ネムの事は仲間として認めてちゃんと大人として……扱うのは難しいので仲間として見守っていく事にしよう。


 なんか仲間というよりは可愛い妹でも出来たような感覚なのだが。


 ピヨヒコは何となく可愛い妹の頭を撫でたくなり、自然とネムの頭に手を伸ばした……ビシッ!


「あいた!?」


 しかしネムにその翼で手を払い除けられた。


「ネムご飯くれる人はスキ、でもあまり馴れ馴れしい人はキライ」

「ご、ごめんなさい」


「それに仲間同士でもマナーは大切だと思うの」

「う、確かにその通りだ、その、本当にごめん」


「うぅん、わかればいい」

『……プフッ』


 何処からともなく吟遊詩人の小馬鹿にするような笑い声のようなものが聞こえた気がして何かムカついたが、自分のした軽率な行動を恥ずかしく思った。


 アルマも何処かその視線は冷たい。ククリコの件もあったのでその反応は正しいと思った、ちゃんと反省しなくては。


 吟遊詩人のベオルフと踊り子のネム。この2人の関係性も少し気になるし機会があれば後で聞いてみたいところだ……


     ◇


「なんか不思議な立ち位置のキャラクターだな、お目付け役か?」


 ゲームのBGM担当とか、あまり聞かない奇抜な設定だけど、どうやら吟遊詩人のベオルフと踊り子のネムは今回限りのゲストキャラとかではなく、本当に今後も冒険の仲間になるようだ。

 それに、スキルの説明した時に主人公じゃなくて何か"こちら"を見ているような奇妙な視線を感じたんだけど、気のせいかな?


 まあどんなに美形でもストーカー野郎は私もあまり好感は持てないかな。

 性格も何か破綻してる感じだし、てかコイツ絶対にいつか裏切るでしょ……


 最初はこの国の王子様とかかと思ったけど、何か違うみたいだし。それこそ魔王軍の手先とかの可能性とかもありそうだな。取り敢えずは様子見だけど。


 この王国の王族関係者の情報も色々と出てきたし、魔王の事もその軍師とやらに聞けば詳しく分かりそうだ。

 ストーリーも少し進展を見せて面白くなって来たかもしれない。てか相変わらず突発性の会話イベントが多いけど……お城に入って目的地に着くまでに何度も立ち止まって、どんだけ会話してんだよコイツら。


 桜子はそんな事を考えて、少しげんなりしつつお城の図書室に向かった。


     ◇


 王城の二階、図書室に着いたピヨヒコ達。


 そこに居たのは、この図書室の司書と思わしき美人な印象の女性。

 それにメイド服を着たお城の給仕と思われる可愛い印象の女性。

 そして秘書のような制服をピシッと着こなした綺麗な印象の女性。


 を、(はべ)らせ口説きながら緩い表情でだらしなく佇むこの国の軍師様だった。

 そしてこちらに気が付いたその男は不敵な笑みで口を開く。


「やあ、待っていたよ、勇者殿」


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