第18話 叙事詩と踊り子の舞
ドワーフの鍛冶士のガラム親方は凄腕の職人だった。
その仕事ぶりはまさに神業であり神速と呼ぶに相応しかった。
鍛冶屋で装飾品を作ってもらい、ククリコの店で回復ポーション類を補充して、なんやかんやあったけど、今はギルド区の中央にある噴水広場に来ていた。
この後はお城に訪問して魔王に関する詳細な情報とかを集める予定だ。
ピヨヒコの隣にはアルマが一緒に歩いている。
「この辺も何か昨日よりも賑わってる感じがするな」
「そうですね、毎年この時期になると建国祭の準備で賑わいますから、それよりもお城に向かうならマップからワープポットを使えばここよりも近くまで飛べるとは思いますけど?」
そう言われても行動の選択権は自分にないからどうにもならないのだよ。
そう思いながら背後に浮かぶ画面を見ると、いつもの少女がそこに居た。
少年と比べると、どこか楽しげな表情をしてるので悪意とかは感じない。
まあ相変わらず正体は不明だが。それでも何だかんだ信頼はしてる相手なので、少しずつだがシンパシーみたいなのも感じてたりはする。
でも会話とかは出来ないようなので基本的には無視はしているが。
「いや、建国祭の準備があると聞いたから町の様子を観ながら、たまにはゆっくり歩いてみようかと思って……あそこに何か出店もやってるようだな、美味しそうな食べ物でも売ってるなら買ってみるか」
時間は既に午後の3時過ぎだ。今からクエストとかで外に出ても夜までに出来る事も限られるので、今日はお城や城下町で情報収集する事になった。
そう考えながら屋台の方に向かって歩く。
「あい、いらっしゃい、何本お求めで?」
どうやらここではストーンポークの肉を使った豚の串焼きを売っているようだ。
魔豚の油がタレと絡んで焼ける香ばしい匂いが食欲を唆る。1本でも食べごたえはありそうなボリュームだったので、取り敢えず2本だけ買ってみる事にした。
焼きたてで熱々だしとても美味しそうだ。
「建国祭に合わせて出店もだんだん増えてくる感じかな?」
「まだ開催は1ヶ月後くらいなんですけどね、王国が主催するイベントとかも色々とあるので興味があれば観戦したり参加する事も出来ますよ、建国祭は1週間くらい通してのイベントになりますので」
「建国祭イベントか、楽しそうなら参加してみたいな」
「あ、ありがとうございます」
購入した串焼きをアルマに1本渡す。
どうやら空間収納して後で食べる事も出来るようなのだが、冷めたりしそうだし買ったのはそのまま食べる事にした。
「モグモグ、魔王を倒す使命もあるから参加するかは状況次第かな」
「毎年恒例なのは、武術大会とオークションですね、ハフハフ」
「武術大会?」
「えっとですね……」
少し興味が沸いたので話しを詳しく聞いてみたら、どうやら王国の騎士団が主催して武器や魔法を用いた戦闘競技があるらしく、王国に勤める戦士達が日頃の訓練の成果を披露し、互いの強さを誇示して競い合いながら闘う大会だそうだ。
そして優勝者には王様から”栄誉騎士”の称号を与えられるらしい。
「面白そうだけど、それだと参加は出来なさそうだし観戦する感じか、王国の騎士や衛兵に転職する機会があるなら参加も出来そうだけど、何か面倒そうだな」
「一応、冒険者でも一般参加する事は出来ますよ」
「え、そうなの?」
どうやらその武術大会に合わせて近年では冒険者達が競う”一般の部”も開催されているようで、更には個人戦とパーティー戦で分かれているようだ。
大会本選はトーナメント方式で戦うらしいのだが、それでも数多の冒険者が居るだろうから参加人数によっては予選とかもありそうだし、もしも大怪我や最悪死亡した場合の対応や、救護やら責任問題やら色々と準備も大変だとは思うのだが……
そう疑問に思ったのでアルマに聞いてみた。
「もし参加する場合はイベント期間中に受付の係員に参加の旨を伝えてくださいね、そしたらそのままルール説明と準備をしてから本選になりますので」
「え、当日の飛び入り可能でいきなり本選!?」
「そうですね、武術大会イベントが開催中の5日間の間ならいつでも参加は可能ですよ、もし出場して上位入賞する事が出来れば賞与として国から特別な武具なども贈呈されますし……でも強制ではないので、レベル不足を感じてたり装備が整っていないなら無理して参加する必要はないとは思いますよ」
「ふーむ……」
何か腑に落ちないがそう言うものらしい。興味はあるので一応覚えておこう。
観戦はしてみたいけど参加するかどうかは後々で決めるとしよう。
どのみち選択の決定権は背後の少女にあるしな。
どうやら王国管理区に闘技場のような建物があるようで普段は王国騎士団が訓練の施設として使っているのだが、建国イベントの開催に合わせて解放するようだ。
「武器や魔法を用いて戦って怪我とかは大丈夫なのか?」
「えっとですね、対決の際には魔法を使った特殊な結界を張るのでもし体力が尽きたとしても死ぬことはないですね、それに専属の回復術師も控えているので怪我をしても対処はしてくれますよ」
魔法で回復とかも出来るものなのか。やはり便利なものだな。
「オークションの方はどんなイベントなの? 競売だろうから何となくイメージは沸くけど、自分で出品したりも出来る感じ?」
「あ、いえ、こちらは一般人は基本的に競りでの買い取りになりますね、王国の方でギルドとかと連携して出品物を準備するのですが、珍しいアイテムとかも結構あるみたいですよ、それだけ価格も競り上がる可能性はありますが」
「何かオークションって貴族とか金持ちの為の道楽って感じもするけど」
「あまり一般人向けなイベントではないですけど、でも洗練された武具や、貴重な魔物の素材や魔石なんかも最近は出品されてるみたいですよ、他にもダンジョンから発掘された珍しいアイテムとかも出品されるようです」
「ああ、そう言えば何か魔石のコレクターとかも居るとか言ってたっけ」
「ですね、魔石の使い道は様々なので買い手は他にも多いと思いますが」
「面白そうな掘り出し物とかもありそうだし興味はあるけどなぁ……」
「私も参加した事は無いのでそこまで具体的な事は分かりませんが」
「うーん、取り敢えず様子見かな、武術大会の参加の方もまだ実力不足だし、魔王討伐の為のクエストを優先してタイミングが合えばオークションとかも含めて面白そうなイベントがあれば参加する感じかな、どのみち所持金も少ないから競売とかあっても何も買えなそうだし」
「わかりました、判断はお任せしますね、他にも様々な催しはあるので参加しなくても楽しめるとは思いますよ、パレードなんかもありますし、それに何年か前までは雑技団によるサーカスとかも開催されてたようです」
「色々あるんだな、パレードにサーカスか、出店も多そうだし何か楽しそうだな」
「でもサーカスの方は近年は出展されていないみたいですけどね、魔王軍の侵攻の影響もあるようですが」
「ふーむ、建国祭も魔王には関係ないだろうしなぁ」
「取り敢えず自由に建国祭イベントを楽しんでくださいね、クエストなども含めて好きなのを選んでいいので」
そう言うとアルマは優しく微笑んでくれた。
それにしても王国の建国祭か……何か色々と起きそうな予感もするので今のうちに出来る事は準備はしたいところだが、もし武術大会に参加するなら付け焼き刃にならない程度にはレベル上げや、技スキルとかの腕を磨いておきたいな。
オークションの方も有用な装備とか出展されるなら、お金に余裕があれば参加はしたいけど、金策の為に労働クエストはあまりしたくないなぁ……
◇
「ふーむ、武術大会にオークションねぇ」
何かこの段階で参加出来るようなイベントじゃない気もするんだけど。
これもメインクエストに関わって来たりするのかな? まだ開催まで期間はあるみたいだし、効率良くお金を貯められる方法とかも探せば何かあるかもだけど……
取り敢えず色々と変化を見て回るのにギルド前の噴水広場に飛んだけど、収納も出来るようなのでさっきの串焼きは空腹デバフ対策でもう少し買っておくかな。
それに色々とクエストをするなら仲間ももう1人か2人増やしたいところだけどこれ職業の種類は多いけどパーティ戦闘は何人まで参加出来る感じなんだろう?
◇
そんな会話をしてたが串焼きが美味しかったので追加でもう4本ほど買った。
背後の画面の少女の判断なのだが、それを亜空間に収納する。
いざという時にまた空腹状態になってデバフが起きても困るので、料理を確保して持っておけば安心だ。でもこれそのまま放置してたら腐ったりするのかな?
そんな事が気になったので何でも知ってるアルマ先生に更に聞いてみた。
「空間収納は出来ますが、料理は時間経過で痛むので食べるぶんだけ購入するか、保存の効く干し肉とかが冒険者には良いと思いますよ、基本的には野菜とか日持ちする食材を買って自分達で調理する感じですね」
どうやら収納は可能だがあまり長期間の保存は難しいようだ。
「ふむふむ、まあ持ち運びが楽なだけでもスゴい便利だけど、料理は食べる分だけ買うのが良さそうだな、沢山買っても食べきれないと勿体ないお化けが出そうだし腐らせるくらいなら残さずに食べたいところだしな」
「でもあまり食べ過ぎると空腹状態とは逆に、満腹状態になるので注意も必要ですけど……もったいないお化け?」
「満腹状態? それもデバフ?」
「あ、いえ、デバフではないですが、お腹が一杯になると満腹で動きが鈍るので、一部の行動に制限が出たりバフ目的で食べ続けると……その、太りますね」
当たり前と言えば当たり前の事だが、あまり食べ過ぎると太るらしい。
取り敢えず食事はお腹の空き具合に合わせて適度にする事にしよう。
そのまま町の様子を眺めながらお城に向かって歩いていたのだが、その途中で何やら楽しげな音楽や歌声が聞こえて来た。
この国のお城は町の中央のにある高台に建っていて、ここは広い階段を登ったお城の少し手前にある大きく開けた場所だ。建国祭の際には開催式と閉会式の宣言に、更には有事の際には民衆が避難したり、集まるのにも使われる場所らしい。
中央の区画にあるワープポットもこの付近に設置してある。
「ワープポットの近場だけど何か人が集まってるみたいだな」
「ええ、演奏も聞こえますし何かのパフォーマンスですかね?」
どうやら政治関係でもこの場所はよく使われるらしく、政治家を気取った貴族や宣教師が聴衆を集め自らの主張をスピーチしたり、彫刻家や楽曲家などの芸術家が自分の作った作品をアピールする事とかもあるらしい。
「ふむ、何か吟遊詩人が弾き語りをしているようだな」
その周りには聞き入っている観衆も何人か居たので、立ち寄って少し聞いてみる事にした。
そこには吟遊詩人と思われる男が何やらリュートのような楽器を奏でながら歌いその連れと思われるまだ幼げな少女が、その曲に合わせて踊っていた。
衣装かと思ったのだがよく見ると少女のその両腕が翼になっている。
先日ククリコの店でアルマから聞いたが【ハーピア】と呼ばれる有翼人の種族のようだ。
「何か可愛らしい女の子だな、羽も生えていて、まるで天使みたいだ」
「……そうですね」
「吟遊詩人の方も何だか美形ですし、何処かの王子様みたいですよね」
「……そ、そうだな」
どうやら天使のように肩から翼が生えてる訳ではなく腕を伸ばすと膜のような羽根が広がるようで鳥のような翼の手なのだが、その白い翼は天使を彷彿とさせる。
何か装飾品を装備しているのか、踊りに合わせて綺麗な鈴の音が鳴り響く。
シャンラララン ラン ラララン ランランラララー♪
おお、この大いなる 大地を 闇に染め~♪
幾千の悪意が 蔓延り~♪
空には竜が舞い 全てを焼き払い 魔王軍が 侵攻する~♪
それでも人達は 抗い戦い協力し 共にこの苦難に 立ち向かう~♪
有るものは 魔王を 倒す 導き手となる為に~♪
また有るものは 奪われた故郷を その手に 取り戻す為に~♪
そして有るものは 己が願いを 叶える為に~♪
さあ、いつの日か この世界に 目覚める勇者を 待ち続け~♪
さあ、乾杯をしよう 来る 来るは その日を 願って~♪
シャンラララン シャンランラン ランラン ラララン♪
ハーピアの少女が吟遊詩人の弾き語りに合わせて舞い踊る。演奏に合わせて時折フワリと宙に浮かび上がり、大きく翼を広げたその姿は何処か幻想的だ光景だ。
種族によってはエルフのように見た目と年齢が一致するとは限らないようだけど、見ためはかなり幼くまだ10歳くらいにも見える。
少し拙さも感じるが愛らしく元気いっぱいに踊っていたので好印象だ。
魔王と人々と勇者。どうやらこの世界の情勢を歌詞にした曲のようだ。
自分の事を勇者として語られてると思うと、少々気恥ずかしい気分にもなったが魔王を倒すと言う”使命”を改めて心に誓う事にした。
いつか世界を救い歴史に名を刻むならその英雄憚を伝える人間は確かに必要だ。この吟遊詩人はもしかしたらそんな使命を抱いているのかもしれない。
その心意気に深く感謝する。
「ご拝聴ありがとう御座います、さあお次の曲は〜♪」
どうやらまだ曲は続くようだ。
そう言えばこの吟遊詩人は以前にギルドの酒場で見た事がある気がする。
歳は20代半ばくらいだと思われ、容姿端麗な美形でかなりのイケメンなのだが何処か掴みどころのない印象で独特な雰囲気を纏っている。
アルマも何やら吟遊詩人の容姿を褒めていたが好みのタイプなのだろうか?
少し気になったのでアルマの横顔を眺めると目が合う。
すると自然な笑顔を返してくれた。何となく嬉しい気持ちになった。
シャンララララン ラン ラララン ランランラララ~♪
おお、この大いなる 大地を 踏みしめ~♪
幾千の魔物を 討ち滅ぼす~♪
目覚めし勇者に 人々は 期待と羨望を 抱いて~♪
去れど 勇者は お城に住居に 無断で押し入り~♪
往々にして宝を漁り 壺に樽 更には タンスをも漁り~♪
その身を 盗人と堕とすが 去れども それは使命を成す為~♪
その身を 悪に染めてでも 魔王に仇なす その使命を心に誓い~♪
さあ、仲間と力を合わせ いつか果たさん 魔王討伐の悲願を~♪
さあ、乾杯しよう 来る 来るは その日を 願って~♪
シャンラララン シャンランラン ランラン ラララン♪
「なぁ!?」
予想外の曲の内容にピヨヒコは、困惑し、驚愕し、絶句する。
確かに歌詞に偽りはないのだが、それでもこんな仕打ちがあるだろうか?
しかもこんな多数の観衆の面前で。
勇者としての名声を地に落とすような吟遊詩人の弾き語りに対して憤慨する。
先程までの感謝の気持ちが何処かへ消失していくのを感じる。
ワナワナと震えつつも直ぐ隣にアルマが居たのを思い出して慌てる。
「あっ」
「……っ」
アルマを見てみると、サッと顔を背けられた。スゴく気まずそうな表情だ。
職業の盗賊に対して気遣ってくれているのは感じていたが、泥棒行為に関しても知っていたようだ。自分の意思での行動ではなかったのだが今更ながら罪の意識に苛まれて気分が沈んでいく。ズーン……
背後の画面の少女を恨めしく思うも、その行動を取ったのは例の少年だ。
そんなやり場のない怒りと戸惑いの感情がピヨヒコを襲う。ズズーン……
てか背後の少女も何やら戸惑いつつも何か笑っているんだけど!?
ワー、ワー、パチパチパチ~
どうやら弾き語りも終わったようで観衆達は疎らに去っていく。男の足元を見るとリュートを入れていたと思われる楽器のケースに小銭が入っていた。
聴衆に自分が作った曲や踊りを披露する対価でおひねりを貰い、日銭を稼いでいるのかも知れない。
「御拝聴ありがとう御座いました、次作『魔女の森での決戦』も鋭意作曲中なのでお楽しみを、またのご観覧をお待ちしております」
そう言うと吟遊詩人は大袈裟に右手を前に掲げ、頭を下げ挨拶する。
その姿には何処か品性があり様になっている。本当に王子様のようだ。
どうやらこの男はこちらの動向を見聞きして曲の歌詞にしているようだ。
尾行などされた覚えはないが、町での聞き込みやギルド冒険者同士の情報交換、更には情報屋の伝など、色々な繋がりを持っているのかもしれない。
「ぐぬぬ……おのれ」
勇者としての必死な活躍を勝手に曲にしてお金を稼いでいるコイツは敵だ!
先程とは売ってかわり、吟遊詩人に対して文句の1つも云いたくなった。
「おや? そこに居られるのはもしかして勇者様ではありませんか?」
どす黒い感情を向けていると、吟遊詩人もこちらに気が付いたようで声を掛けてくる。警戒度を上げて身構える……しかしその鼻先に少女の顔が突然現れた。
「わ、ビックリした!?」
「むー?」
「え、なに?」
「クンクン、何か美味しそうな匂いがする」
その正体は吟遊詩人が連れていたハーピアの少女だった。
お腹が空いているのかピヨヒコの周りをうろちょろと嗅ぎ回っている。その姿にはどこか愛嬌があって何となく懐かしい気分になり、吟遊野郎に向けていた邪念が霧散し払拭される。
「……ああ、そう言えばこれを持ってたっけ」
そう言いながらピヨヒコは収納していた串焼きを1つ取り出して少女に渡す。
「くれるの? ありがとー♪」
そう言って受け取ると、少女は美味しそうに串肉を頬張る。
その翼の生えた手で器用に掴み食べながら、楽しそうにピヨヒコとアルマの周りを走り回って喜んでいる。
どうやら翼の先端には人のような手が普通にあり鳥のように腕を広げると肩から連結した翼が大きく広がり羽ばたく事で空を飛んだり出来るようだ。遠目だと腕から大きな翼が生えてるようにも見える。
「あー、すみませんね、勇者様、ご厚意に感謝します」
「いや、何かお腹が空いてるみたいだし別に問題ないが……って!?」
そう言って吟遊詩人は自らもその右手を差し出し私にも下さい、と云わんばかりに催促してきた。厚かましいわ、と、不服に思うが和んだ空気をまた悪くするのも嫌なので渋々この男にも串焼きを1本渡す。
演奏と踊りを見せて貰った事には代わりないのでそのお礼も兼ねてだ。
「ハフハフ、私は見ての通り吟遊詩人をしてます、勇者様のご活躍に感銘を受けてその実績を歌にし人々に伝える使命を担っております」
「使命? いや、その割りには漁りだの盗人だの、酷い云われようなんだが、まあ不本意ながら事実ではあるが、正直かなりショックを受けたんだが……」
「ああ、いやぁ、すみません、これでも幾分広めてなるべく誤解を説いて廻っていたのですがね……モグモグ」
「誤解?」
この吟遊詩人が言うには、ピヨヒコが行った泥棒行為は思っていた以上に悪名として町中に広がっていたらしく、お城に被害を訴える者まで居たらしい。
それをこの吟遊詩人は、王の勅命で魔王を倒す為に仕方ない行為だった、と民衆を説き伏せて回り、それが浸透して今は多少なり落ち着きを取り戻してるようだ。
直接的な金銭の被害はなかったが、それでも国を挙げてピヨヒコを勇者として歓迎してパレードまで行ったのにそれを蔑ろにする様な行為をされたので、今も勇者に対して不信感がある者も少なからず居るようだ。しかし王直々の特命でもあるので、不満は洩らさず内々の心に秘めているらしい。
「な、なんてこった……」
「あの、その、勇者様……」
ズズズーン……と、ピヨヒコは更に気分が落ち込む。
アルマはそんなピヨヒコを励まそうとするも何と声を掛けたら良いか分からず、出会った頃のようにオドオドと口籠る。
「大丈夫~?」
その様子を見て心配したのかパーピアの少女が慰めてくれた。
「まあ過ぎたことを気にしても仕方ないですよ、今後の活躍次第では民衆の視線もまた変わると思いますので頑張って使命を果たしてくださいね、私も陰ながら応援していますので」
吟遊詩人もそう諌める。そして、不適な笑みを浮かべて言葉を付け足す。
「盗難騒ぎに関しては多数の目撃者も居たので、私も不本意ながらこんな形で歌にしてしまいましたが勇者様も人の子、プライベートに関してはちゃんと保護して、謂えない内容なら歌にしたりは致しませんので……安心してくださいね」
「ふぁ!?」
そう言われてピヨヒコは戸惑った。この男は危険だ。
一体どこまで知っているのだろうか。アルマの方を見ると同じように男に対して警戒心を懐いている様子だ。
そう言えばさっきも次回作で”魔女の森”の決戦とか言っていたが、ギルドに報告したのは朝の事なのに、そんな直ぐに噂になる事があるのだろうか?
もしかしたらあのおっちょこちょいなギルドの受付嬢が金銭目的とか、もしくはイケメンの色香にでも騙されて、俺の情報をこの男に売ったりしたのだろうか?
あの眼鏡の受付嬢さんめ、可愛らしい顔をしてとんでもない悪女だな!
ピヨヒコはまたしても勝手な推測で失礼な設定を更に生やした。
「んー、どうか致しましたか勇者様? 顔色が優れないようですけど」
「あ、いや、なんでもない、わかった、忠告ありがとう、今後はなるべく気を付けて勇者らしい行動を心掛けるよ、それじゃあな」
そう言ってピヨヒコは話を切り上げる。この男とはなるべく関わりたくない。
本能がそう告げていた。とにかく早くこの場から立ち去りたい。
「勇者様はこれから何方に行かれるご予定で?」
「ああ、俺たちはこれからお城で魔王の情報を集める予定だ」
応えたくはなかったが、つい条件反射で返答してしまった。
もしかしたら背後の少女の選択なのかもしれないけど、取り敢えず2人に挨拶を済ませてお城に向かうとする。
「それじゃあ、俺達は急いでいるので、じゃあの」
「そうですか、それでは私達も同行すると致しましょう」
「……は?」
ラララン~ラララン~ララララン♪
唐突に仲間の加入を祝福するような曲が聞こえてくる。
「はぁ!!?」




