第16話 バンデッドメイル
アルマお母さんに忠告されたので食事をしてからギルドを出た。
まさか38歳だとは思わなかったけど見た目はまだまだ若い。
冗談はさておき、向かっているのは職人区の武器防具のお店だ。
魔女の依頼クエストを達成して所持金も増えたので、防具を買い換える予定だ。
ハングリーグリズリーや巨大スライムなど強敵との戦闘で死にそうにもなったが背後の画面の少女もやっと防具の重要性に気が付いてくれたようで嬉しい限りだ。
プオーーン♪
何時もの効果音と共にワープポットで職人区まで飛んできた。
やっぱり便利だな、そのまま店に向かって歩き出す。
「そう言えばアルマの装備は買い換えなくても良いのか?」
「いえ、私の装備もいずれもっと強いものに買い換える必要はありますが、先ずは勇者様の装備を優先してください、私の方は余裕がある時でも問題ないので」
「そうか、俺の方も鍛冶屋の親方に武器は今のでも良いとは言われたけど、防具はそのまま初期の装備だし流石に買い替えないとだな」
「そうですね、魔物もだんだん強くなるので、アウターの防具は絶対必要です」
「アウター?」
「えっと、体装備は【アウター】と【インナー】に分別されているので、勇者様が着ている冒険者の服はインナー装備になります、その上にアウターと呼ばれる鎧やローブ、装束などの防具を、上から重ねて装備する感じになりますね」
「えぇ……」
どうやら自分はまだ【防具】を装備してなかったようだ。
鍛冶屋と連携してる武器防具の店で売っているのは、主に鉱石を使った鎧などのアウターの防具で、インナーの服やアウターのローブや装束などの服飾を取り扱う店は他にあるようだ。
そして装備とは、メイン武器、サブ武器、盾、帽子や兜などの頭装備、体装備のアウターとインナー、そして特殊な効果がある指輪や腕輪、靴や外套などの装飾品の枠が4箇所、で区分けられている。
アルマの装備を観るとフードの付いたローブと唾の広い三角帽子でいかにも魔法使いといった格好なのだが、生地は薄いようだが魔熊の体当たりにも耐えてたので見た目と防御力の性能が直結している訳ではなさそうだ。
ローブの下にはゆったりとした感じの、身体のラインが目立たないリネンのワンピースを着ているが、アルマの場合これがインナー装備になるようだ。
装備の説明で気が付いたが、アルマは装飾品で何か指輪も付けていた。
聞いてみたらどうやら【隠者の指輪】と言う付けていると敵視を少し抑える性能らしい。それでも魔熊やスライムに狙われたので、それだけ魔法の威力が強いのかもしくは自分の火力が全く足りてないかになるのだが、後者ではないと信じたい。
それにアルマは武器の先端に何か宝石みたいな石が填まった杖を持っている。
その杖から放たれた魔法には何度も助けられたが、魔法職に就くにはメイン武器を魔力の媒体として使える杖にする必要があるようで、近接武器としての性能はあまりないが、魔力や精神力に補正が掛かったり、各属性を強化する専用のものとか色々と種類があるらしい。
それと肩から掛けている”魔法の鞄”も装飾品の扱いになるようだ。
荷物の収納も見た目以上に入るようだし戦闘中にアイテムを使うのにも便利だ。
このように魔法の力を宿した装飾品も数多くあるのだが魔法付与の装備は性能に合わせて値段もそれなりにお高いらしい。
普段から履いている靴や、手袋などは何故か装飾品の扱いにはならないで特殊な効果のある靴などを装備すると、装飾品として1枠埋まるとの事だ。
装飾品の条件はよく分からないが、そう言うものらしいので無理やり納得する。
そしてそれらの装飾品に関しては戦闘中でも行動ターンを使用するが取り外して違うのに付け替えたりも可能なようだ。まあ装飾品は4枠あるので、そこまで頻繁に活用する事はなさそうだが。
一応覚えておけばいざと言う時には役に立つかもしれない。
初期装備で強敵に挑むのは無謀なようで、改めて防具の重要性を実感した。
そりゃ薄いインナーの服で魔熊の爪撃の直撃を喰らえば大ダメージにもなるってものだ。やはり最初に思った通り、防具から充実させれば良かったのに。
機転を効かせて何とか勝利は出来たから、町での準備を怠らなかったとか思ったけど、一番肝心な身を守る防具を買うのを怠ってんじゃん、どないなっとんねん!
そうは言っても選択の決定権は自分にはないのでスゴく歯痒い気分になる。
「ハァ、所持金も余裕が出てきたし奮発して高性能な強いアーマーとか欲しいな」
「えっと、それは……」
「お、先日の勇者様じゃないか、また来たのかい?」
会話しながら歩いていたら武器防具の店の前で話し掛けられた。
目を向けるとそこに居たのは先日知り合ったドワーフの親方のガラムだ。何やら鉄鉱石や石炭など入った箱を両脇に抱えているので仕事の途中なのかもしれない。
アルマが何か言いたげだったが、中断して返事を返す事にする。
「ああ、今日は防具を買いに来たんだが、何か良さげなのはあるかな?」
「この店なら工房で作った武器防具が揃ってるから気に入るのがあれば買っていけば良いぞい、試着も出来るから色々と見ていくといい」
「そうするよ、ありがとう」
「おうよ!」
そう言うとガラムは裏手にある鍛冶屋の工房に向かって行った。
ピヨヒコも足が店の方に向かったので会話を打ち切りお店に入る。
「らっしゃい、ここは武器と防具の店です、どのような品をお探しで?」
店主に挨拶してから商品を見定める。
目ぼしい防具は前に見た【軽鉄のアーマー】1.000ゴルドだが、値段を考慮しなければ一番堅くて強そうな【鋼鉄のフルプレートアーマー】2.800ゴルドも売っている。現在の所持金は大体3.000ゴルドくらいあるから、買おうと思えば買えるのだが……
盾もバックラーの他に【軽鉄のシールド】500ゴルドや【鋼鉄のシールド】900ゴルド【鋼鉄のタワーシールド】1.800ゴルド、なんかも売っている。
大きくて堅いほど扱いも難しく、値段もそれだけ高いようだ。
店主に聞いたらどうやらこの店で扱ってる防具は、革→軽鉄→鋼鉄、と強く硬くなり鉄鉱石以外にも【ミスリル】と呼ばれる上位の鉱石素材や【アダマンタイト】や【オリハルコン】と呼ばれる伝説級のレアな鉱石素材もあるらしい。
他にも強度はないけど魔力媒体に適した【銀】や、価値の高い高価な【金】などの鉱石もある。もっとも金に関しては武具としての性能は特にないようでゴルドなどの通貨の原料としても扱われるので基本的には国で管理しているとの事だ。
銀を扱った武器は幾つかあるようだが値段はかなり高い。ミスリル程ではないが魔力を帯びやすいらしく加工も難しいようだ。
性能的には鋼鉄の方が上なので今回は除外だ。武器も色々あるが目的は防具だ。
それと魔物の素材を使った武器や防具もあるのだが、店で売っていたのを見るとどれもかなり高値だ。聞いた話だと手に入れた魔物素材は鍛冶屋に卸してオーダーメイドで自分の能力に合わせて作るのが一般的らしい。
ギルドの素材解体屋でも魔物の素材は扱っているけど、あれは一体どんな用途に使ってるんだろう?
てっきり武具の素材として流通してると思っていたんだけど。気にはなるので後でタイミングを見てまたアルマ先生に質問してみるかな……
「この店だと売ってる防具は鋼鉄シリーズまで揃ってるみたいだな」
「この国から近い鉱山とかでミスリルが発掘される事もあるそうですが、流通は極稀で、そう言ったレアな鉱石素材を用いた武器や防具は国や貴族の方々が優先的に買い付けて独占してるみたいなんですよね……」
どれを買うか悩んでたらアルマにそんな話を聞いた。
「え、じゃあ冒険者が買える防具は鋼鉄の装備までって事?」
「いえ、流通はしてないですが、クエストや鉱山などの探索で手に入れたミスリルなどの希少鉱石を売らずに、鍛冶屋でオーダーメイドで武器や防具を注文したりは出来るようです、それとダンジョンとかで見つかる装備もあるので、それらも珍しい素材や鉱石を使っていたり、特殊な性能の装飾品とかもあるみたいです」
「ふむふむ」
「ギルドには鉱山での発掘クエストとかの募集もしてますけど、取り分とかは決められているので、ミスリルを狙うなら自分で探索した方が良いですが発掘クエストだと安定して稼げるので金策にはなりますね」
どうやらその手の【労働クエスト】は時間を対価に一定の金額が貰えるようだ。勇者としての使命を果たすなら、流石にそこまで寄り道はしたくないところだが。
「うーむ、まあ現状だとお店で買える装備で揃えるしかないか」
ピヨヒコはそう思ったが最終的な選択権は背後の画面の少女にある。
さて、何を買うんだろうか……
◇
「まさかこのゲーム、防具に重量の概念まであるとは……」
店の防具の選択画面を確認して桜子はそんな事を呟いた。
武器の方には重量の概念はなく職業によって装備可能かどうか決まるのだが、体装備に関しては、男女専用の装備とかで区別されたりはするが、基本的には何でも着れる。その代わりに装備の制限重量があるようだ。
基礎体力による装備可能な重量があり、そこに職業別に装備可能な重量ボーナスが加算される。それが装備の【制限重量】になるようだ。
基礎体力もキャラの体格や性別、種族など個性によって違いがあるらしい。
アルマの場合、小柄な女性で尚且つ魔法職なので、鎧などは重くて着れない。
ピヨヒコの場合、盗賊の装備可能な重量を足すと制限重量は合計30くらいになるのだが、各防具には重量があり、装備可能な制限重量を装備の合計重量が越すと【重量デバフ】によるペナルティが発生する。
これがかなりキツくて、移動速度が落ちて行動順は強制的に最後になる。
更には回避不可で攻撃の精度まで落ちるようだ。これではまともに動けず戦えないだろう。
職業によっては盾士など重い装備のスペシャリストは職業ボーナスが100とかにもなるようだが、盗賊、狩人、斥候、格闘家、などは【軽職種】とも言われ、重量制限の調整はキツいが素早さとか回避は得意分野になるみたいだ。
「うーん、どうなんだこれ、武器と一緒で職業によって装備可能か不可能かで分ければそれで済む気もするんだけど、装備の組み合わせを試行錯誤するのはゲーム的には確かに面白いかもしれないけど」
職業によってはスキルで【装備重量ボーナス追加】とかもあるようでそのスキルを獲得すれば、装備スキルセットにより他の職業でも重量ボーナスが加算されたりもするようなので、鎧を着こなす盗賊、とかも可能にはなるようだが……
と言うかそこまで拘るなら、いっそのこと武器にも重量制限とかステータスでの制限を付ければ良いのに、何でそこはリアル重視にしてないんだろう……まあ強い武器でも直ぐに装備出来るならそれはそれで楽だし助かるけど。
いやでも武器は武器で切れ味や耐久力なんてクソ面倒な要素があり、使い続けると刃こぼれして攻撃力がだんだん落ちてくるようだ。
砥石や鍛冶屋のメンテナンスで修復は出来るけど、システム的には不必要で手間なだけな要素な気がする。
それに労働クエストか、小遣い稼ぎにはなりそうだけどゲームの中でまで働きたくないと思う人が大半だと思うんだけど、しかも時間を消費するみたいだし……
「何だかなぁ、としをが匙を投げるのも少し頷けるわ」
正直かなり面倒だとは桜子も思った。
まあせっかく試着室とかもあるみたいだし鎧も試しに着てみるかな。
◇
どうやら購入前に試着室でアーマーなど幾つが着てみるようだ。
「……おお、カッコいい」
取り敢えず着てみたのは軽鉄のアーマーだ。
見た目は胴体と腰元、肩を鎧が覆っていて更に革素材の膝宛も付いて腕も守ってくれる。下半身はそのままだが動きをそこまで阻害しなくて安定感はありそうだ。
鉄鉱石を特殊な製法で加工して鉄の硬さを生かしつつも軽量化に成功して、多くの冒険者や傭兵、国に所属する兵士にも愛用されているらしい。
しかし鉄で出来てるアーマーなので、それでもかなりの重さは感じる。
今までのような回避は出来ない気もするが防御力はそれだけ跳ね上がるしこれはどうなんだろう。
試着室から出てアルマに見た目も含めて感想を聞いてみた。
「どうだろう? 何か重く感じるけど、腕は動かせるし徐々に慣らせば着こなせる気もするけど」
「着てみて重いと感じる場合、適性装備とは言えません、勇者様の場合は、その、職業が"盗賊"なので鉱石を使用したアーマーはそもそも着こなすのは難しいかと」
「えぇ……」
どうやら職業によって防具の装備可能な重量が決まっていて盗賊の場合アウターは軽い装束やローブ、革素材のレザーアーマーなどが適性防具にはなるらしい。
この店に入る前に何かを伝えようとしてたけど、どうやらその事だったようだ。
「うーん、取り敢えず他のも試しに着てみる、全身鎧のアーマーも着てみたい」
「わかりました、待ってますのでゆっくり試着してください」
着るだけならタダなので鋼鉄のフルプレートアーマーも試しに着てみた。
ついでに頭装備の【鋼鉄のバレルメット】があったので合わせて試着してみた。何やら樽のような形のフルフェイスタイプの鉄兜なのだが、視界が遮られて視野が狭くて前が見えにくい。これを装着して平然と戦う戦士とかも居るのだろうか?
「こ、これは」
鉄鉱石を特殊な製法で鍛え上げ密度を増すことで硬度を上げるがそれに比例するように重い。全身装具の鎧であり、その姿はまさに圧巻。盾士や国に所属する王国騎士が主に装備するらしいのだが、隙間なく鎧で覆われたその姿はまさに鉄壁。
「シュー、コフー……」
頭防具が重くて何だか暗黒面に堕ちた戦士のような息づかいになる。
全身鎧に身を包まれたピヨヒコが、ガチャコン、ガチャコン、と、まるでゾンビのように両手を前にしズルズルと試着室から姿を現す。
「……勇者様?」
アルマがこちらを稀有な眼差しで見てたので、身体を上下左右に振るわせながらまるでロボットがダンスをしてるような動きをしてみせる。
「フシュー……」
ガチャコン、ガチャコン、ウィーン、ガガガー
「ウゴゴゴ、うごうご、動けないぃぃ……」
「……ぷふっ」
着ることは出来たが、やはり重くて移動すら儘ならならないようだ。
こんな重い鎧を着て魔物と戦う騎士とかも居ると思うと何か凄いと感じる。
「ッ、ふふ、っ、ぷふっ」
そんな姿がツボにはまったのかアルマが笑いを必死に堪えるように耐えていた。
少しみっともない姿を見られて恥ずかしかったが楽しいようなら何よりだ。
狙ってやった訳ではなかったけど、ピヨヒコは少し調子に乗った。
「アールーマー、重いぃ、たーすーけーてー」
ウィーン、ズズズ、ガチャコン、ガチャコン、ガガガー
「あははっ、やめ、止めてください勇者様……笑わせないで……はひっ」
プシュー……
少し悪ノリしたけどアルマが笑う姿も見れたので何か満足した。装備を外し元の格好に戻って一呼吸おく。アルマも何とか落ち着いたようだ。
「うーん、店の商品を観てみると鞣した革で作られた【鞣革のレザーアーマー】が500ゴルドで売ってはいるが、これだと一番最初に買うような防具に分類されそうだしなぁ、資金に少し余裕もあるしもっと良い性能の防具があるなら正直そっちが欲しいところだが……」
「そうですね、私が着てるローブとか軽職種が装備可能な装束とかは別の服飾のお店で売っているので、物理攻撃に対しての防御性能はこのお店よりは落ちますが、そちらを見てから決めるのもありだとは思いますよ」
「そうだなぁ、何も鎧にこだわらなくても回避を生かすならそっちのお店で良いのを見繕うのもありかもなぁ……」
「!?」
そんなやり取りをしていたら店の店主が客が逃げる!?
と見兼ねたのかオススメの防具を用意してくれた。どうやら職種に適した防具とかも聞けば詳しく教えてくれるようだ。
「おお、これは……身体が、動く!」
店主が持ってきてくれたのは鎖鎧の【バンデッドメイル】と言うらしい。
見た目は普通の革の鎧っぽい感じだが、内部には軽鉄をワッカ状にしたものを帷子のように繋いで編み込んでおり軽鉄の硬さに更なる軽さを兼ね揃えて防御力と機動力を両立しているようだ。
帷子は腰回りまで覆い、レザー素材のベルトで身体に合わせてフィットするよう調節が出来るようだ。腕と下半身はそのままなのだが身体を軽鉄が覆ってるだけでもインナーのみと比べて安心感があり段違いに心強い。
防御力は軽鉄のアーマーに少し劣り、値段も加工の手間から1.400ゴルドと少々お高いが装備した感じだと特に重さも感じないし、普段通りの動きも出来そうだ。
ちなみにバンデッドと言うと"盗賊"を連想するが、特に関連性はないらしい。
「おお、これは良いものだ」
鎧の購入は決まったので他のもついでに見てみた。盾はバックラーの他にも片手で扱う重めのシールドとか、両手で扱いながら要所で武器と切り替えて戦うタワーシールドもあるが、試してみたらやはり重くて盗賊だと扱えないようなので、取り敢えずは今のまま軽鉄のバックラーを愛用する事にした。
それと、頭防具も【鞣革のヘッドギア】は売っていたが、性能的には今装備している鉄の額宛と変わらないみたいなので保留した。
鋼鉄のバレルメット以外の鉄兜とかもあるにはあるが、やはり重く視界も遮られる印象なので購入はしなかった。
それにこの【鉄の額宛】は、琥珀色の綺麗な石も填まっていて、何かこう如何にも”勇者”って雰囲気が何故か分からないがあるのだ。瑠璃色をしたフード付きの【冒険者のマント】と合わせて、密かに気に入ってたりはする。
買ったのは結局”バンデッドメイル”だけだったが軽職種に適した装束やアルマが着ているようなローブや帽子とかも服飾や装飾品を扱っている店の方で売っているらしいので機会があればそっちも行ってみる事にしよう。
「ありがとうございました、またのご利用をー」
買い物を済ませて店から出ると、カンカン、と喧しい音が聞こえてきた。
店の裏の方から聞こえてきたので、興味本意でまた覗いてみることにした。




