第14.5話 おまけ回 2人の夜会話
二日目の宿屋でのピヨヒコとアルマの夜会話になります。
本編の流れの妨げになるので別枠扱い。会話のみで展開します。
おまけ回 2人の夜会話
自分が記憶喪失だと打ち明けたピヨヒコ。アルマは真剣に聞いてくれた。
これからも仲間として共に使命を成し遂げる為に寄り添う事を誓った。
昨夜の感じだとこのまま寝ると意識が飛んで次の日になる筈なのだが、未だに暗転は起きない。気になっていた事もあったのでアルマに質問する事にした。
「……ねぇ、アルマ」
「はい、なんでしょう勇者様?」
「少し気になってたんだけど、俺達って出会って今日で二日目だよね?」
「ええ、そうですけど、それがどうかしましたか?」
「その間ってトイレとかお風呂ってどうなってんの?」
「え!?」
「いや、これからも長い冒険になるし当然トイレとかお風呂の問題とかもあるとは思うんだけど、この二日間そういう事をしてない気がするんだけど……?」
「なに言ってるんですか……ちゃんとしてますよ?」
「あえ? そうなの!?」
「そうですよ現にこの宿の部屋にも備え付けのトイレがあるじゃないですか」
「え? あ、本当に何かそれっぽいドアがある、入り口付近にあったのに何故か気が付かなかった」
「それにギルド施設内にもちゃんと備わっていますし、午前中に向かったお肉屋さんやククリコのお店とかにもトイレはあったじゃないですか」
「え、そうだっけ、いや、そう云われると確かに、あったような気もするかも……?」
「この国には冒険者も多いですから、ギルドの連携してる各お店や施設には誰でも使えるトイレは備え付けてあるので心配しなくても大丈夫ですよ」
「うーん? 自分が気が付かなかっただけでちゃんとトイレあったのか」
「それに勇者様もセーブの合間にトイレは済ませてたじゃないですか」
「え、そうなの!? てかセーブってなに?」
「あ、いや、私も詳しくは分からないので、気にしないで下さい」
「む? アルマでも知らない事もあるのか? でも確かに目覚めてからここまで特に尿意とかも感じてないし、いつの間にかしてるのかも? 少し腑に落ちないけど、取り敢えずトイレに関しては納得した、教えてくれてありがとう」
「いえ、納得したなら良かったです」
「つまりアルマも合間を見てちゃんと済ませてるって事か、そう言えばククリコの店では一時的に離れてたっけ……その時とかに済ませてた感じか」
「……っ」
「?」
「そ、そうですけど……その、恥ずかしいのであんまり詮索しないでくださいね、これでも一応女なので、一緒に冒険する仲間ですが、出来たらその、もう少し気を遣ってください……お願いします」
「ああ、ゴメン、確かにデリカシーがなかったかも、気を付けるよ」
「いえ、分かってもらえたならいいのですが……」
「クエストの時とかはどうするの?」
「え!?」
「いや、この町の施設にトイレが備え付けてあるのは分かったけど、クエストとかで探索したり、それこそ長距離の遠征とかの場合は、外でそのままする感じ?」
「あう、そ、それは……その……」
「いや、別に恥ずかしい事じゃなくて必要な確認なんだけど」
「むぅ」
「言いたくないなら無理には聞かないけどさ……」
「いえ、わかりました、そんなに気になるならちゃんと答えますよ、そうですね、当然ですが外で催した場合は最悪そうなりますね」
「まあその辺に都合よく簡易トイレなんて設置されてないし、そうなるよな」
「町には雑貨のお店とかで携帯用の拭紙とかも売ってるので、探索や夜営の合間に、その……その辺の茂みとか草むらで隠れて済ます必要があります」
「そっか、まあそうなるのか……」
「もう、これでいいですか? 納得しましたか!?」
「え? あ、ああ、納得した、何かごめん」
「いえ、疑問に思った事なら大丈夫です、知らないといざという時に困りますし、勇者様もしたい時にはちゃんと隠れて済ませてくださいね、別にわざわざ報告とかはしなくていいですけど」
「そう言えば魔女の森の泉で料理を作る前に、アルマも枝を探しに一旦その場から離れてたっけ……姿が見えなくて少し心配したけど、もしかしてそれって用足しも含めての事だったのか……」
「ふぇ!?」
「あ、ゴメン、またデリカシーのない発言だったかも……」
「むぅ~……」
「……アルマ?」
「もう、知りません!」
「いや、生理現象だし必要な行動だからさ、少し気になってたから聞いたんだけど詮索しないように気を付けるよ、不快な気分にさせたならゴメンな」
「……」
「……アルマさん?」
「はぁ……いえ、私もちょっと取り乱してしまいました、すみません」
「うーん、ちょっと試しにトイレに行ってきていい?」
「ええどうぞ、報告しなくてもしたくなったら勝手に行けばいいですよ」
ジャー……
「ふぅ、本当にトイレ行けたんだけど……なんかスッキリした気がする」
「それなら良かったですけど、別に云わなくてもいいですからね?」
「いや、でも勝手に居なくなると心配になるから出来たら一言伝えてからにして欲しいんだけど、お花摘みとか濁した感じでも良いから」
「むぅ~……」
「別に町の施設とかなら構わないけど、魔物が出る森とかで探索中に何も告げずに突然居なくなると俺は多分探したりもするけど、それでもいいの?」
「ふぇ!?」
「子供じゃないのは分かるけど、なにかあってからじゃ遅いし」
「うー……」
「アルマだっておしっこしてるところを鉢合わせなんて嫌だろ?」
「わ、わかりました、今後は一言伝えて行きますから、具体的な事を言わないで、変な想像しないでください!」
「ああ、ゴメン、俺も知らない内に済ませてるみたいだけど、催した時は雉射ちに行くとでも一言伝えるから」
「……キジ?」
「それにしてもこんな宿屋の一室にもちゃんとしたトイレが備えてあるんだな」
「……この国は水路や井戸とかもありますし、下水道とかの水回りはしっかり整備されてますよ、水の魔道具を使用した水洗式ですし」
「座るところもちゃんと陶器だったし鍛冶職人の技術の高さが窺えるな、何か便座カバーまで付いてたし」
「大昔ですが国全土で衛生面の不備が原因で疫病が発生したので、今では国が率先して水回りは徹底して管理されてるんですよ、それに魔法で生活に必要な最低限の水は確保してるのでライフラインは保ってますから水不足になる心配はありませんし、魔法の性質を利用する事で生活排水とかもちゃんと洗浄してから放流するので今では衛生面の問題はないですね」
「ふむふむ、魔法はやはり便利だな」
「それにこの国には魔導修道院という施設があって、各ギルドと連携して魔法で生活基盤を便利にするお仕事を生業にしてる専門職が居ますから、私もその修道院の出身なんですけど一応その関係もあって今回、国からの要請で勇者様のサポートをする役目を私が承った感じですね……」
「成る程そういう経緯だったのか、詳しい選考の基準とかはよく分からないけど……ところで、お風呂はどうしてるの?」
「え?」
「いや、トイレは分かったけど、この宿部屋にお風呂は備え付けてなかったから、まさかずっと身体を洗わずにそのまま冒険する訳ではないと思うんだけど……」
「……はぁ」
「え、露骨なクソデカため息!?」
「あ、いえ、お風呂には入りたいですよね」
「うん、入りたい、無いなら我慢するしかないけど……」
「えっとですね、お風呂に関しては浴槽にお湯を張って、湯船に浸かるのは手間も掛かるので、毎日そんな贅沢をしてるのは国の王族関係者とか一部の貴族様とかにはなりますね」
「確かに水を溜めれば排水もそれだけ出るし、お湯を沸かす手間も掛かりそうだけど、トイレ関連は徹底してるけど水の確保とか難しい感じか」
「そうですね、川なども流れてはいますが、この地方は時期によって乾期と雨季に分かれていて雨季の方が期間も短いので水はそれなりには貴重なんですよ」
「そう言えばずっと天気はいいな、雲もあまり見ないし」
「乾期に全く雨が降らない訳ではないですが雨量は多くないですね」
「ふむふむ」
「それに水魔法の専門家が居るとはいえ、毎日お風呂の為に全ての住民に必要な水を供給するのは流石に難しいですからね」
「まあ魔法も術者が居てこそだしなぁ」
「水魔法の術式で発動する魔道具とかもありますが、水を無から産み出すのはそれなりに魔力コストも掛かるので難しいですね」
「ふむふむ?」
「でも宿屋の女店主さんに頼めば少し追加でゴルドは掛かりますが、温かいお湯を大きめの手桶で用意してくれるので、身体を拭いたり髪を洗ったりは出来ますよ、石鹸や洗髪シャンプーはククリコのお店にも売ってますし」
「なるほど、身体をお湯で拭くだけでもスッキリはしそうだな」
「浴槽を買って自宅にお風呂を設置してる人も居るようですけどね、それに一般居住区には入浴出来る施設もありますから、利用してる人は多いみたいです」
「なんだ、銭湯みたいな施設も一応あるんだ?」
「私はあまり利用する機会はありませんが、でも冒険者が汚れた身体でどかどかと浸かるとも聞いたのであまり綺麗なお湯じゃないのかもですが……」
「うーん、それはちょっと嫌かも」
「それに同性でも裸で同じ湯船に浸かるのは抵抗感もあったりはしますからね」
「確かに、お風呂に入るなら1人でゆっくり肩まで浸かりたいよな」
「そうですね、お湯で身体を拭くにしても誰か居ると気を使いますからね」
「いつか拠点とか自分で持てるなら風呂場や浴槽は出来たら欲しいな、アルマも女性なら衛生面は気になるだろうし」
「私の場合、魔導修道院がその手の専門職でもあるので住んでいた環境には浴槽付きのお風呂も一応ありましたけど」
「あ、そうなんだ」
「ええ、それに身体を綺麗にするだけなら町中には魔法の洗濯屋さんも居るので、一般の住人でもそんなに不衛生ではないですよ」
「魔法の洗濯屋?」
「風魔法にエアロクリーナーと言う洗浄魔法があるんですが、風の拡散力で身体や着ている服の垢や汚れを綺麗にして、それを商いにしてる人達が居るので、湯船に入れなくてもその風魔法だけでも結構スッキリしますよ」
「へぇ、そんな便利な魔法もあるのか」
「水魔法と掛け合わせると更に効果は増しますが、身体や着ている服の汚れ程度なら風の洗浄魔法でも問題ないですね」
「魔法を掛け合わせたりも出来るのか、魔法は奥が深いな」
「風属性の魔法は種族特性によりエルフが得意なのでククリコも使えますし、私も風の特性はあるので、一応その洗浄魔法は使えますよ」
「そう言えば森で属性は4つ扱えるとか言ってたけどもう1つは風だったのか」
「ええ、そうですね、別に隠してた訳ではないですけど、魔物の弱点や相性的に、今回のクエストではあまり使う場面はありませんでしたけど」
「風魔法でも攻撃は出来たりはするの?」
「もちろん可能ですよ、鎌鼬を発生させて単体にはなりますが遠距離から剣で斬り付けたような斬撃を与えたり、私はまだ使えませんが竜巻を引き起こして敵全体を巻き込んで真空の刃でダメージを与えたりも出来ますね」
「おお、それは何か凄そうだな」
「その竜巻の魔法が使えたらあの大きなスライムの液体も拡散作用で分離させて、一時的に弱点の魔石を剥き出しにも出来たとは思うのですが、私の力不足でした、すみません……」
「え、いや、全然大丈夫だよ、俺の方が役に立たなかったしアルマの魔法には何度も助けて貰ったから気にしないでいいよ」
「……」
「そ、それにお互いまだ見習いなんだし冒険は始まったばかりだからさ、これから成長すればいいから、使命を果たす為に一緒に頑張ろうな」
「……そうですね、私ももっと頑張ります」
「でもあんまり気負わなくて良いから焦らずに行こう、それよりも魔法の事とかもっと色々と聞きたいなー」
「そうですか? えっと、風魔法に関しては洗濯屋さんのように、生活を便利にするのにも利用される事は多いですね、音を拡声させて有事の際には連絡手段としても使われますし、その逆で風壁で周囲の音を外部に音を洩らさないようにしたりも出来ます、先ほど話した生活排水の処理にも利用されてますよ」
「風の力で飛んだりも出来る?」
「そう言う魔法もあるにはありますが、魔力をコントロールしてずっと放出し続けるのは難しいので、飛んだり滑空するのは人族には少し厳しいですね」
「そうなのか、もし空を飛べたら気持ち良さそうなんだけどなぁ」
「風の力で跳躍の補助をしたり落下ダメージを押さえたりは可能ですから高い所から飛び降りたりする場合は役には立ちますけど、そんな事態にはならないに限りますけど」
「そうだな、でも使えたら便利だよな、風魔法でハイジャンプして敵の頭上から槍で突き刺したりとか出来たら何か凄くカッコ良さそう」
「1ターンの間、飛んで敵からの攻撃を避けられたりもしそうですね」
「いや、そこまで滞空時間はないんじゃないかなぁ……確かに強そうだけど」
「空を飛ぶなら風魔法じゃなくて、重力操作の魔法で近いのならありますよ、体積を一時的に操作する魔法と掛け合わせて空中に暫く滞空したりも出来るようです、私はまだ使えませんが、修道院にはそんな魔法を使える人も居ますね」
「そんな事も可能なのか、そう言えば属性以外にも色々な魔法があるんだっけ」
「ですね、寧ろそっちの方が多いくらいですし私も属性魔法以外にも使える魔法も一応ありますよ」
「ギルドでも云われたけど、俺も魔法の適正を調べる為にアルマが住んでいたその魔導修道院って施設にもいつか行く必要もあるんだよな、それこそ風魔法が使えるなら、あのスライムが湖に引き下がった時も遠距離からの攻撃が可能だったのになぁ……」
「でも魔法職になるなら武器の制限があるので近接が弱いですよ」
「ああ、そっか忘れてた、うーん、でも魔法は魅力的だよな、魔術師にならなくても適正次第で使える魔法もあるなら何か覚えたいなぁ」
「本格的な攻撃魔法は難しいですが、生活魔法とか簡単な初歩の魔法なら覚えれば魔法職じゃなくてもある程度は使えますけどね、ただ職業補正がないので威力はかなり落ちますが」
「風呂に入る為にも水魔法の適正はあって欲しいな、飲み水にも使えるし」
「勇者様は既に魔法の資質は発現してはいますけど……」
「え、そうなの!?」
「ええ、でも他の魔法の適正もあるかもしれないので後で修道院に寄るのも良いと思いますよ、私の知り合いも多いですし、ククリカ先生や魔族の友人の事も会った時にはちゃんと紹介は出来ますし」
「そう言えばその魔族の友人は自分の種族を隠してるとか言ってたけど、そこでも正体を隠して生活してる感じなの?」
「いえ、全員ではないですが事情を知ってる人は多いですよ、ククリカ先生とかその辺は騒ぎにならないように対処してますし、王国の偉い人にもちゃんと知らせて理解も得ているので、この国の民として認知はされてます」
「そっか、それなら大丈夫そうだな、何となく種族が原因で周りから迫害されてるのかと思ってたけど」
「魔導修道院では基本的に自由奔放と言うか、あまり関係なく振る舞ってますよ、魔王の独断で魔族全体のイメージが悪くなった、とか思ってるみたいですが、知らない人に種族の事で絡まれるのが面倒だから普段は隠してる感じですね、それに種族特性で珍しい魔法も使えるので普通に身を守れるくらいには強いですから」
「何か思ったよりはサバサバした感じなんだな、後で多分立ち寄るとは思うから会った時には紹介とか頼むよ」
「わかりました、きっと驚きますよ」
「驚く?」
「いえ、まあ会ってみれば分かります」
「ふーむ、別にいいけど、アルマって何かわざと言葉を濁すと言うか、そんな癖もあるよな……」
「え? そんな事はないと思いますけど」
「その魔族の友人の性別を聞いた時とかも……気になります? とか濁されたから、少しあざといと言うか、何となく気になって質問した感じだから答えるかどうかはアルマの自由だけどさ〜」
「そんな感じでしたっけ? 覚えてませんねー」
「むぅ、別にいいけど、会った時の楽しみに取っておくよ」
「ふふ」
「トイレやお風呂の疑問は解けたけど、今のところ俺はこの冒険者の服しか持ってなかったから着替えとかどうするのかと思ったけど、汚れたらその洗濯屋に頼めば問題ないのかな、必要なら新しく買うとは思うけど」
「私は替えの服とかも鞄に入ってますけど、一張羅でも洗浄魔法を使えば破れたりしない限り清潔には保てるので大丈夫かと、湯船にゆっくり浸かるようなお風呂とかは今の状態だと少し厳しいですが……」
「お風呂なぁ、ゆっくり入りたいけど、アルマも何かゴメンな」
「ふぇ? なにがです?」
「こんな冒険に付き合わせたからゆっくりお風呂とかにも入れないだろうし、男女2人の状態で一緒の部屋だと気兼ねなく身体を拭いたり髪を洗ったりもしずらいだろうから」
「いえ、大丈夫ですから、気にしないで下さい」
「いや、でも……」
「……それも踏まえてお互いのプライベートもありますので、出来たら個別に部屋を取るように頼みたかったのですけど、拒否されましたので」
「あ、いや、それは俺じゃなくて……」
「まだ冒険も始まったばかりですし所持金にも限りがありますから、私の我が儘でそんな部屋を個別に取るわけにはいきませんよね、気にしないでください」
「!」
「勇者様が二人部屋で良いと決めたなら私はそれに従うだけですから」
「!!」
「別にお湯で身体を拭けなかったり、髪を洗えなくても死ぬわけではありませんから、勇者様がそんなに気にする事はないですよ」
「!!!」
「男女二人のパーティーで二人部屋を頼む場合は、そう言った身体を洗ったり髪を洗ったりする行為も二人で一緒に行ったりする場合もあるので、その、それで恋人同士と誤解されるらしいですけど、別に私達はそんな関係ではありませんから、もし勇者様がどうしてもお湯で身体を拭いたり髪を洗いたいなら、私はトイレにでも籠ってますので、気にせず仰ってくださいね」
「!!?」
「……」
「いや、その、俺は別にそんなつもりで二人部屋を選んだ訳ではなくて、勝手に、はっ!? そうか、さっきお風呂の質問をして何かため息を吐かれたのはそういう意味合いがあったからか、ゴメン、俺はそんなつもりじゃ……」
「いや、冗談ですからそんなに気にしてないので、大丈夫ですよ?」
「えぇ?」
「ですから、私も風の洗浄魔法は使えるので実は昨日もこっそり使ったんですよ、なので衛生面は問題ないですよ、まあ温かいお湯でゆっくり身体を拭きたいって気持ちもありますが」
「そ、そうなのか? いやでも、やっぱり何かゴメンな……」
「そんな事でいちいち気にして落ち込んでたらダメですよ、もっと堂々としていてください」
「あ、ああ……」
「それに勇者様も言ってたじゃないですか、まだ冒険は始まったばかりですから、ギルドのクエストをこなして成長していけば、お金も貯まって生活基盤も段々と充実していきますから、一緒に頑張りましょう」
「うん、そう言って貰えると助かるけど……」
「それに私の方こそさっきのトイレの件で少し恥ずかしい思いをしたので仕返しのつもりで勇者様の事を責めるような発言してしまい、すみませんでした」
「いや、俺の方こそデリカシーのない発言してゴメン」
「まあどうしても湯船に浸かりたいなら一度その入浴施設を試してみるのも良いと思いますけどね、サッパリはするとは思いますし私も聞いた話なので実際はどんな感じなのかはあまり分かりませんから」
「そうだな、時間があれば立ち寄ってみるかもだな」
「それに必要なら洗濯屋さんに頼まなくても言ってくれれば、私がその洗浄魔法を唱えますよ?」
「え、いいの?」
「ええ、魔力消費も大したことはないので大丈夫です、ちょっとそこに立っていてくださいね」
「ああ、わかった頼むよ、ありがとう」
「もう乾きましたがお互いスライムと戦って液体まみれになって汚れたので、私も一緒に風魔法で洗浄しちゃいますね、よっと……」
「わかった、詠唱とかはよく分からないけどじっくり様子を見させてもらうよ」
「いきますね、……くぁwせdrftgyふじこlp」
「おお、何か不思議な詠唱に合わせて魔力が杖に集まっていくのが分かる、仄かに光って綺麗だな」
「撫風よ慈しみを持ちてその穢れを落とせ、エアロクリーナー!」
ブォオォォォ……
「おお、これはスゴい、微風が身体に纏って汚れとか確かに落ちてく感じがする、本当に魔法はスゴいなぁ……あぇ!?」
「? どうかしましたか勇者様……?」
「あ、いや、何でもない、何も見てない!」
「ふぇ? ……ああ!!?」
フシゥゥ……
「…………」
「その、本当にちゃんとは見えなかったから、その、ごめんなさい」
「……」
「アルマ?」
「……」
「アルマさーん」
「……」
「いやだってそんな格好で風を纏えばスカートだってはためくし、目の前でそんな事が起きたらどうしても視線が釘付けになると言うか……てか何で」
「あーもう、いいですよ、こちらこそ大変失礼しました、もう知りません!!」
「はぁ、でも確かにスッキリしたな、これならお風呂に入れなくてもあまり不快感は感じないかも、チラッ」
「むすぅ……」
「機嫌を直してよ、別にわざとじゃないし、ちょっとしたハプニングでしょ?」
「ぷくぅ……」
「じぃー……」
「? なんですか、人の顔をじろじろ見て?」
「いや、改めて見るとアルマは整った容姿で綺麗だし美人だよな」
「ふぇ!?」
「その、自然に見せる仕草とか今の膨れっ面も何か可愛らしいし俺は好きだな」
「ふぇぇ!?」
「それと先日もお風呂に入ってなかったのにアルマから何か良い匂いがしてたのはこの魔法で洗浄してたからか、危険な冒険でもちゃんと身だしなみに気を遣えるのは女性としても素晴らしいよな」
「……っ」
「それに色々な事を知っていて博識だし、魔法の才能もスゴいしまさに才色兼備って感じだな」
「そ、そんな私なんて、まだまだですよ」
「仲間になった切っ掛けは、国から要請されて選考で選ばれた感じなのかもしれないけど、俺はアルマに出逢えて本当に良かった」
「……勇者様」
「ありがとなアルマ、魔法の事もだけど、記憶喪失の事で不安になって悩みを打ち明けたけど、それにもちゃんと応えてくれて嬉しかったよ」
「いえ、私の方こそ、話してくれて……私の事を信用してくれて嬉しかったです」
「良かった、機嫌を直してくれたかな、それにしてもやっぱり魔法は便利だよな、何かなんでも出来そうなイメージすらあるし」
「まあこの世界には欠かせない力ですからね」
「そう言えばもう1つ気になってたんだけど」
「……今度は何ですか」
「いや、そんな警戒しないで欲しいんだけど?」
「だってさっきから変な質問ばかりじゃないですか」
「だって気になってたんだもん、それで質問なんだけど、“これ”もワープポットやアルマの持ってる魔法の鞄と同じような魔法の道具だったりするの?」
「ああ、これですか? そうですね、魔法の術式が付与されている魔道具ですよ」
「ふむふむ、色々な魔道具があるんだな」
「探索にも使えるので私も1つ持ってますね」
「ギルド宿屋には固定されて備え付けてあるけど、そう言えばアルマも帰り道では使用してたけど、持ってたんだな」
「冒険者には必須ですからね、装飾品の扱いになるので1枠は使いますけど、取り外しは出来るので状況によって付け替えられますし、腰に掛ければ両手も塞がらないですから、でも状況によっては使わない方が安全かもですが」
「え、使った方が安全なんじゃないのか?」
「確かにそうなんですが、例えば今回の森の奥でハングリーグリズリーと遭遇した時に使っていたら逆に危険だったかもしれないですよ、ウォーキングウルフも何匹か残っていたので、下手したら乱戦になってましたし」
「なるほど、確かに、持っているなら魔女の森の奥でも使えば良いのにとも思ったけど、あの状況だと魔物に見付かってたかもだな」
「そうですね、使っていたら気付かれて不意討ちでの先制行動は出来なかったとは思いますよ、でも必要なものなので出来たら個々で持ってた方が良いかもですね、遠征に行ったり、夜営するのにも必須なので」
「道具屋でも一応見かけたけど所持金が不足してて買わなかったな……でも確かに個人で持っていた方が良いかもだな、まあ使う前に基本的には町に引き返したいところだけど」
「安い買い物ではないですからね、道具屋にも売ってますけどこの手の魔法の術式が付与された道具は魔導修道院でも取り扱ってるので、訪れた時は魔道具の専門家も知り合いにも居るので紹介は出来ますよ」
「そっか、わかった、所持金に余裕が出来たらになるとは思うけど、ギルドに登録する時もお金は掛かったし、その魔法の適正とかを調べるのにもお金は掛かりそうだしな」
「確かにそうですね、それに魔法を覚えるには修練の他に魔導書も必要になりますから」
「え、魔法って修行とかで覚えるものじゃ無いの?」
「修練も必要ですけど覚えるにはその魔法が記載されている魔導書が必要ですね、それに基本的には消費アイテム扱いなので、使用すると使用者に吸収されて消失しますね」
「え、吸収? 消失!?」
「えっと、説明すると少し長くなるので、その辺の講義とかも魔導修道院に行けば魔法の適正と一緒に教えてくれると思いますよ」
「そ、そうなのか」
「まあどの職種でも冒険を続けるにはお金は色々と掛かりますね、魔導書も種類によって値段は変わってきますが、中位や高位の魔導書はそれだけ貴重ですから手に入りずらいのも多いですね」
「そっか、適正があれば直ぐに魔法を使えるものでも無いのか……」
「個人の才覚で使えたりもしますけどね、それに固有スキルとかもあるので、私も1つ使えますけど」
「そうなんだ? 因みにアルマはどんな固有スキル使えるの?」
「えっと、戦闘向きではないですが“アナライズ”と言って相手を分析して弱点や特徴を解析するスキルですね……まあ知識が有れば必要ないかもですが」
「なるほど、敵の弱点が分かれば攻撃魔法とかも適切に使えるし便利だな」
「ですね、私もこのスキルには何かと助けられてはいます」
「そう言えば俺も何か巨大スライムに勝ってレベルが上がった時に1つ覚えたな、と言うか、何かこう覚えたって感覚があったな」
「スキルを覚えた時は“魂”にその情報が刻まれるので感覚でも分かりますね、魔法や他のスキルも覚えた時は何か嬉しくはなりますよね」
「ああ、確かに成長してる事を実感は出来るな、それに"魂"に情報が刻まれるか、何かカッコいいな」
「ふふっ、勇者様も男の子って感じですね、気持ちは分かりますけど」
「剣の基本スキルも1つ覚えたみたいだし早く試してはみたいな、それにギルドで特別講習? を受ければスキルを教えて貰えるとも言ってたし」
「魔法も下位の魔法や、先程のエアロクリーナーみたいな生活魔法なら、魔導書もそこまで高くないですし、それに適正があれば基本的な初級魔法は冒険者ギルドの講習と同じように1つ教えてくれますよ、受講料は掛かりますけど」
「そっか、何かやりたい事が沢山ありすぎて迷うくらいだな」
「そうですね、何をするかは勇者様にお任せしますので好きに選んでくださいね」
「よし、それじゃあ、そろそろ寝るとするか」
「え? あ、はい、そうですね……」
「何かアルマ、また警戒してない?」
「ふぇ!? いや、別にそんな事はないですけど!?」
「……」
「な、なんですか?」
「いや、風の洗浄魔法を唱えてもらってスッキリしたら何か眠くなってきたし、強い魔物との連戦で疲労もかなり貯まったからな、アルマも魔法をたくさん使ったから疲れただろ? 無理せず自分のベッドでゆっくりと休んでくれ」
「あ、はい、そういう意味での寝るですよね……」
「……他にどんな意味があるの?」
「あ、いえなんでもないです、そうですね、あの巨大スライムに関しては予想外の戦闘でしたからね、私も疲れました、もう寝ましょう」
「? ああ、そうするか、もう灯りも消すよ?」
「は、はい!」
「それにしてもやっぱりこの“魔法のカンテラ”は便利だよなー、明るさも調整出来るみたいだし俺も1つ欲しい……何かアルマ緊張してない? 声が強張ってるんだけど?」
「し、してないですよ!」
「そっか、それならいいけど、我慢しないでツラい時は伝えてくれよ」
「……はい」
「もしかしてまたそう言う勘違いした感じかな」
「何ですか?」
「いや、なんでもないよ」
「?」
「明日からもよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
「おやすみなさい」
暗転する世界。そして夜は更け、日はまた昇る。
実験的に会話のみで書いてみたけど思ったより楽しかった。




