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第12話 魔女の森のはぐれスライム

第十二話 魔女の森のはぐれスライム


 お腹が空いて力が出ないピヨヒコは、目の前のスープが食べたかった。

 しかしその直前で突然、巨大なスライムの邪魔が入りお預けを食らった。

 なんだ、何で食事の邪魔をする? 腹減った、腹減った、ハラヘッタ。


「なんだこの生き物は!?」


 ピヨヒコが空腹デバフになったので森の泉で食事をしようと用意してたが、液体のような半透明のブヨブヨした巨大な塊が泉の底から出現した。


「スライムです、強い魔物なので用心を!」


 いつもは魔物を畏れず平然と戦うアルマがかなり警戒していた。


 この【スライム】と呼ばれる液体生物はそんなにヤバい魔物なのだろうか?

 その体躯は確かに巨大だが、その見た目の印象は無害そうにも感じるのだが……


 プヨプヨ~、と揺れるその魔物は愛嬌があってちょっと可愛くも思えた。


 その見た目は顔も腕も脚もなくゼリーのような丸い物体だ。この泉の中で生息してるのか水分を身体に含んでいるようでその体躯はとても大きく、魔熊よりも更に巨大だった。ボヨン、ボヨン、とその身体を上下に揺らしている。


「私も遭遇するのは初めてですが、その特性から武器での物理攻撃が効きづらく、種類によっては魔法の抵抗力もあるようです、拘束行動からの貼り付きが特に危険らしいので、戦うなら捕まれないよう気を付けてください」

「拘束行動?」


「このスライムは私が知ってる平均的なサイズよりもかなり大きいのですが、そのゲル状の身体に貼り付かれて拘束されて、もし顔などを覆われた場合そのまま息が出来なくなり、窒息する危険性もあるらしいです」

「そ、そんな危険な魔物なのか!?」


 フヨフヨと周囲を確認してるような素振りのスライム。


 ムフ~♪


 こちらに気が付き反応する。身構えて警戒しているが攻撃はしてこない。


「……」


 戦闘曲も流れているので既に戦闘は開始してるが、攻撃が来る素振りはないので自分の行動順のようだ。

 アルマを見るとまだ呪文の詠唱はしてないようでこちらに指示を仰いでいるようにも見える。


 そんなに危険な魔物なら逃げるに限るが、どうやらアルマが作った料理の匂いに誘われて出てきた様でプルプルと興味津々にスープを眺めている。

 敵視は感じないし攻撃してくる気配もないので、アルマに目配りで合図し逃走を促す。


 その視線に気付きアルマも杖を構えながら、ピヨヒコの後ろに近寄りスライムを警戒しつつ、逃げる準備をする。


「敵意は感じないがスープを囮にして距離を取る感じで、料理は勿体ないが得体のしれない魔物だし強いようなら無理はせずこの場を離れて体勢を整えよう、それに空腹状態で戦うのはキツい」

「そうですね、分かりました」


 そしてピヨヒコは手に持っていたスープの器をスライムの方に……

 渡さずに、そのまま自分で食べ始めた!!


「ガツガツ、ムシャムシャ……美味い、って、なにやってんだ俺はー!?」


 自分の意思ではなかったがお腹が満たされて空腹状態のデバフは解除される。


 ムーー~ー!!

 

 その行動にアルマは戸惑うが巨大スライムが先に動き出したので自分のスープを魔法の鞄に収納してから距離を取り、呪文の詠唱を始める。


 ピヨヒコの食事行動により、本格的に戦闘が開始された。


    ◇


「定番モンスターのスライムがこのタイミングで出るのか、しかも1つのクエストでボスとの連戦とか、なかなか面白い展開じゃない」


 ゲーム画面を見てた桜子は、戦闘ならボス相手に空腹状態だと酷しい。

 そう判断して戦闘中にも関わらず選択した料理を食べれたので、ゲームの仕様に少し驚くが、主人公の空腹デバフは解除されたので取り敢えずは安心した。


 作った料理とかでも収納しておけば戦闘中でも使えるようなので覚えておこう。

 何かバフ効果もあるらしいが、まだちゃんと確認していないから後回しだ。


 予期せぬイベント発生からの登場だったが、巨大とはいえスライムと言えばRPGでは定番の雑魚モンスターだし、水棲モンスターなら雷や氷の魔法攻撃が有効だ。


 ハングリーグリズリーからのボス連戦だが回復アイテムにもまだ余裕はあるし、おそらくは勝てるはずだと桜子は考えた。

 もし負けたとしても食事の直前で一応セーブはしたので、取り敢えず戦ってみる事にした。

 歯応えのある戦いを望んでいたので、その顔は何処か嬉しそうだ。


     ◇


 ムーー~ー!!


 巨大スライムは目の前で美味しそうな料理を食べられた事に憤慨したのか、動き出す。その体躯から1本の触手を拳のように伸ばして襲いかかる。スープを咀嚼していたピヨヒコは避けきれずに直撃する。


 ボヨォヨーーン!


「ぐはっ」


 その触手は手足のように自由に動かせるようで、大きな腕のような形状をしていた。その表面は濡れていて弾力のあるゴムのような質感で殴られたが、小盾も間に合わず直撃したので、そこそこ痛かった。


 伸びた触手は縮みながら再びスライムの身体に戻り、また丸い形状に戻る。このスライムの特性なのか、泉の中に棲んでたからか常に“湿潤状態”のようだ。


 詠唱が終わり控えていたアルマが魔法を発動する。


「勇者様、取り敢えず足止めします、アイスバインド!」


 ピキィィン、ムー~ー? ブルブルブル……


 氷の魔法が直撃してスライムはその表面を凍らせるが身体を振るわせて耐える、ダメージはあるようだがその巨体の為か氷は徐々に剥がれ溶けて再び動き出した。

 その動きは氷結の影響か少しだけ鈍くなってるようにも感じる。


「ごめんアルマ、目の前の料理を見てたら身体が勝手に動き食べてしまった」

「大丈夫です、戦うにしても逃げるにしても空腹状態を解除した方が有利なので、少し驚きましたが良い判断だとは思います」


 背後の画面の少女の意思が伝わり、躊躇うがアルマに伝える。


「すまない、危険な魔物なのは分かるが空腹も収まったしやるだけやってみよう、どうしても無理そうな時は敗走も考慮して深追いはしないように、回復ポーションも惜しまず使って構わない、やるぞ!」

「わかりました、私も出来たら倒したいので大丈夫です!」


 アルマはそう言ってくれた、食事で元気も出たので、こうなったら勝つつもりで挑もう。

 背後の画面の少女の判断ではあるが、ピヨヒコ自身も勇者として、こんなところで怖じ気ついてはいられない!!


 アルマもそれに同意してくれて、再び呪文の詠唱を始める。

 スライムに殴られたけどまだ体力には余裕があるのでピヨヒコも攻撃する。


 ズバシャッ


 飛びかかってその巨体を斬り付ける。スライムは避ける事なく斬撃が当たるが、あまり手応えを感じない。斬りつけた表面から液体が溢れるのだが、その切られた跡は直ぐに塞がり形を元に戻す。


「くそっ、物理は効きずらいと言ってたが確かに、液体を切ってるようで手応えがない、何か弱点とかは無いのか!?」


 そう言いスライムの身体をよく観察するとそのゼリー状の体の中心にうっすらと塊みたいなものが見えた気がした。

 しかし体内が流動していて濁っているせいか、それが何なのか今のピヨヒコには分からなかった。


 斬られたスライムも特に痛がる様子もなく平然としている、全身ゼリーみたいなその身体は痛みとか感じないのだろうか? そう考えつつ反撃に備える。


 ムムムーー~ン


 スライムの触手が手のように再び伸びてピヨヒコに向かう。今度は二本だ。

 伸びて襲いかかって来るその腕に捕まれそうになるが先程の氷結の効果もあるのか動きが鈍く今度は回避に成功する。

 どうやらこれが拘束行動のようだ。確かにこの触手に捉えられたら脱出するのは難しそうだ、捕まらないように気を付けよう。


「雷よ、我が敵を打ち砕け、サンダーボルト!」


 詠唱が終わったアルマが魔法を放つ。


 ムギャァァ―!


「おお、何かカッコいい、よし俺も続けて攻撃だぁ!」


 雷撃がスライムを貫く。その濡れた身体に電流が走り、かなり効いているようだ。その追撃でピヨヒコが再び剣で斬る、しかし斬撃だとやはり効きが悪い。


「あぁ、やっぱり物理だと効きが悪い、手応えがあまりない!」


 こんな時に俺も魔法でも使えれば良いのだが……

 アルマがその様子を見て、再び魔法の詠唱を始める。


 スライムは電流による感電スタンはしなかったようだが氷の魔法よりも雷の魔法の方が濡れた身体には有効なようだ。確かなダメージを与えていた。


 ムムー~ブー~ ボヨン、ボヨン、バシャァンッ


 スライムは電撃を嫌がってか後方に引き下がる。棲み家と思われる泉の中に踵を返しその巨体は泉に浸ける。そのまま逃げ帰ってくれるなら此方としても無理して追ったりはしないのだが、確認すると何やら泉の水を吸い上げてる様にも見える。


 ズズズズズ……ゴクゴク プキュウゥ……


 どうやら攻撃は仕掛けて来ないので、この動作が行動になってるようだ。

 何か力を溜めてるようにも見えるので、次のスライムの行動に警戒して備える。


「うーん、このまま水中に帰ってくれると助かるんだが……」


 そんな事を呟いていたら、詠唱を終えたアルマがピヨヒコに向けて魔法を発動する。突然の裏切りに戸惑う。


「え、え!?」

「雷よ剣に纏え、サンダーエンチャント!」


 アルマが魔法を唱えると、持ってた剣に魔力が宿り雷の力を帯びる。

 どうやらハングリーグリズリーを倒した時の雷バージョンの付与魔法らしい。


「雷の属性を付与したのでそれならおそらくスライムにも有効だと思います、私も次はまたサンダーボルトで応戦しますね」

「お、おお、わかった、ありがとう」


 そう言って冷静な判断をしてくれたアルマは再び魔法の詠唱を開始する。


 一瞬でもアルマを疑った事を反省しつつ、誤魔化すように武器を構えてスライムに向かって走りだす。


「よし、これならいける、任せろぉぉぉ…………お?」


 勢いよくスライム目掛けて走り出し攻撃を仕掛けようとしたのだが、スライムは未だに泉の中でプカプカと浮かんでいた。水を吸い上げて待機してるがその身体は先程よりも更に大きくなっているようで、巨大なクラゲのような印象だった。


 このままだと攻撃が届かないのだが、この場合どうすれば良いのだろうか。そう疑問に思いアルマに聞いてみた。


「このままだと攻撃が届かないがこの場合、どうすればいい?」

「ダメですね、そのままだと近接での攻撃行動は出来ないので、待機するか、他の行動選択する必要があります」


 既に詠唱を終えて杖に魔力を貯めて備えていたアルマがそう答える。


「えぇ……」


 待機した場合、次の攻撃は素早さと関係なく先制で行動が出来るらしいのだが、自分の場合は常に先制は出来てるのであまり意味がないようだ。

 武器でも弓を扱う狩人とかの職種なら遠距離から攻撃も可能そうだが。


 呆然と立ちすくむピヨヒコ。ダメージとかは特にないが、手に持ってた剣に帯びた電流が右手を少し、ピリッと痺れさせる。


「……何かビリビリする」


 仕方ないので体力はそこまで減ってないが用心して薬草を口にして回復する。

 ヒールポーションだと過剰回復になるので薬草を選択されたが、口の中に苦味が広がる。そして薬草を食べ終わった後に、ピヨヒコは判断ミスに気が付く。


「あ、そう言えばアルマもう次の魔法で連続で4回目なんじゃ? 魔力が枯渇すると疲労で気絶するとか聞いたけど、大丈夫なのか!?」

「まだ大丈夫です、サンダーエンチャントは攻撃魔法よりは魔力を消耗しないので次の魔法を放ったら一度回復しますね」


「分かった、すまない、俺の今の行動ターンでアルマの魔力を回復すれば良かったかも、あ、でも手持ちのマジックポーションは全部アルマに預けてたんだった」

「大丈夫ですよ、完璧に行動するのは誰しも難しいので徐々に慣れていけば良いと思います、お気遣いありがとうございます」


 アルマは少し苦笑いするも、ピヨヒコの素直な気遣いを嬉しく感じる。

 詠唱を終えて行動順を待っていたが、先に行動するのはスライムだ。


「なんだあれ……」


 巨大スライムに注目すると、その巨大な体躯を息を吸ってお腹を膨らませるように膨張させて、含んだ水分が体内の中で圧縮してるように流動してその内部が渦を巻いている。そしてその身体に溜め込んでいた水分を、まるで”高圧洗浄機”の如く穿き出し照射した。


 ズババババババハババァァァァァーーーーーー!!


 しかも対象は全体攻撃のようだ。勢いよく放たれた蛟の様な水撃が二人を襲う。


「あわっ、あぶ、危ない!!」


 噴き出された激流がうねるように地面を抉りながら走り抜ける。戦闘中に会話しながらもスライムの行動に警戒していたピヨヒコは咄嗟の横っ飛びで、その攻撃を何とかギリギリ避けた。


「キャァ!」


 背後で悲鳴が聞こえ、アルマの方を見るとどうやら避けきれず食らったようだ。


「大丈夫か、アルマ!!」

「っ、平気です、ダメージはありますが致命傷ではありません」


 被弾したがどうやら大ダメージは受けてないようだ、ピヨヒコは安堵する。


「判断は任せるが、体力がヤバそうなら魔力より先に体力の回復を優先してくれ、マジックポーションはその後でも構わない、俺がなるべくスライムを引き付けるから距離をとりつつ警戒してくれ……と!?」

「は、はい、わかりました……え?」


 アルマを見ると巨大スライムから吐き出された水流で身体がびしょびしょに濡れていた、どうやら水濡れによる湿潤状態になったようだ。


「……っ」


 ローブも濡れて隠れていた肢体が露わになる。

 濡れた髪も妙に色っぽくアルマもそんな自分の状況に気が付いたのか咄嗟に胸元を手で隠し、恥ずかしそうにしていた。


 しかし今は戦闘中、見とれいてる場合じゃない、強い意志で邪念を振り払おう!


 そう自分に言い聞かせてアルマの豊満な身体から視線を反らし、巨大スライムの行動に注目する。


 ブシュゥゥゥ~ーーー、ムムゥーー♪


 するとスライムは噴水の様に空に向かって残ってた水分を噴き出して、何か楽しそうにしていた。

 どうやら吸い上げた水分を全て吐き出したのか満足したようにピョンピョン、と身体を弾ませながら泉から再び陸地に上がってきた。


 そのままずっと泉から先程の攻撃をされたら厄介だと思ったが、そんな事はないようで、陸地に上がったスライムは踊るように身体を躍動してる。


 まるで濡れた子犬が体を震わせてるような、そんな印象だった。

 やはりそこまで悪意を感じない。まるで水遊びでもしてる無邪気な子供のようにも見えた。しかし相手は魔物だ、油断はしないように気を引き締める。


 拘束行動は特にヤバそうだし、それに備えつつ身構える。

 水を吐き出して大きさはそのぶん縮んだが、それでも元々が巨体だ。


 スライムの液体に濡れ鼠にされたが、気を取り直して起き上がり既に詠唱を終えて杖に魔力を宿し、行動を待っていたアルマがスライムに向けて魔法を解き放つ。


「むー~、サンダーボルトォ!!」


 ムム? ピィギャャャァァ


 巨大スライムは身構える事すらしないでそのまま雷撃が身体を貫く。

 電流が走りまるで金平糖のように激しく弾けた。どうやら感電状態になりスタンしたようだ。やはり雷の属性はかなり有効なようで大ダメージを与えている。


 その電撃には何かアルマの私怨が含まれてるのか、どす黒い感情も感じた。


 ビキビキィィ


 スライムは痺れて動けない。ピヨヒコはその隙を逃さずに今度こそ雷を帯びた剣で追撃を仕掛ける。右手に力を込めて握り締め、飛び付いて渾身の一撃を放つ。


「今度こそくらえ! どりゃぁあ!!」


 ズバッ、バリバリバリッ!!


 ピギャァァーー!!


 斬撃から轟く紫の稲妻が走り、スライムが更に悲鳴のような叫びをあげる。


 確かな手応えを感じる。今度はちゃんとダメージを与えられたようだ。

 弱点属性を付与された武器の有効性を実感する。


「アルマ、今のうちに回復を」 

「分かりました、助かります」


 連続で魔法を使用したので消耗してたので、どうやらマジックポーションで魔力の回復を優先したようだ。今の雷の魔法による感電状態のスタンでスライムは動けずにいる。その合間にアルマは手持ちのマジックポーションで回復する。


 この巨大なスライムに勝つにはアルマの魔法が頼りなので、無理はしないで欲しいが、頑張ってもらうしかない。

 ククリコの店で買ったマジックポーションだったが魔熊に引き続いての戦闘で、所持数もだいぶ減ったので後でまた補充する必要がありそうだ。


 再びピヨヒコの行動順なのだが、剣に帯びていた雷エンチャントは今の攻撃で既に効果が切れている。次はどう行動するか、このまま只斬り込んでもあまり有効なダメージは与えられない。


「アルマ、このヒールポーションでさっき受けたダメージを回復してくれ」


 アルマの次の行動を待たなくても自分の行動ターンでアルマの回復も出来る事を思い出し、ヒールポーションを差し出す。

 状況によっては手渡しで回復する必要もあるのだと実感した。取り敢えずはこれでアルマの体力も万全だとは思う。


「はい、ありがとうございます」


 手渡したヒールポーションを飲む。アルマはそのままこのターンは行動可能だ。


「アルマはなるべく距離を取りつつ、また雷の魔法で攻撃を頼む、俺はスライムの敵視を集めるように立ち回りながら回避に専念する、余裕があればまた俺の武器に雷の付与を頼む」

「分かりました、状況に応じて使い分けますね」


 ムムーー~ーー!!


 そう言って詠唱を始めるのだが、二度、三度と電撃によるダメージで魔法を脅威に感じていた巨大スライムは、ピヨヒコではなくアルマに向けてその2本の触手を伸ばして掴み掛かる。拘束行動だ。


「!!」


 その行動に焦ったのか逃げ遅れたアルマは、その触手に身体を拘束された。


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