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春夏秋冬の公式企画集

チビとネコ

作者: 大野 錦

 クリスマスをテーマに童話(?)を書いてみました。

 「これのどこがクリスマスなの?」、と思う方は多いでしょうが、とにかくクリスマス童話なのです!

チビとネコ



 ここはどこでしょう?

 魔界(まかい)でしょうか?妖精界(ようせいかい)とも、もののけが()むところといっていいかもしれません。

 (よう)するに(わたし)たち人間(にんげん)()()れることができない異世界(いせかい)だと(おも)ってください。


 そこには「お館様(おやかたさま)」といわれる老人(ろうじん)と、「くねひと」という異形(いぎょう)(もの)たちが()んでいました。

 「くねひと」たちは何百匹(なんびゃくひき)といます。(かれ)らはみんな(おな)姿(すがた)をしています。

 まず(はだ)灰色(はいいろ)で、()ているのは布一枚(ぬのいちまい)で、それはさらに()い灰色です。

 (みみ)()がっていて、()上下(じょうげ)犬歯(けんし)(くち)をはみ()すほど、でています。

 そして、きわめつきは(あたま)(ひたい)二本(にほん)(つの)()えています。


 「くねひと」は悪魔(あくま)とも(おに)ともいえる姿(すがた)をしているのです。

 (かれ)らの役割(やくわり)毎年(まいとし)の12(がつ)25(にち)(よる)までに、「お館様」に私たちの世界(せかい)でやさしい(ひと)をそれぞれ(さが)しだし、紹介(しょうかい)することです。

 そして「お館様」がその(なか)から一番(いちばん)だと(おも)った人へ、その(とし)最高(さいこう)のプレゼントを(おく)るのです。


 「くねひと」たちはどうやって私たち人間の世界を見て、やさしい人を探しているのでしょうか?

 それはこの異世界で彼らは、私たちの世界を()ることができるからです。

 「くねひと」たちは(あさ)から夜遅(よるおそ)くまで、いえ、彼らは(ねむ)ることがないので、ずっと私たちの世界を見ることができるのです。

 ごはんもお(みず)()らなくても()きていけます。「くねひと」が悪魔とも鬼ともいわるれのは当然(とうぜん)ですね。


 さて、ここに一匹(いっぴき)の「くねひと」がいました。「くねひと」には私たちの(よう)名前(なまえ)がありません。彼は()の「くねひと」から「チビ」と()ばれていました。

 それは彼が「くねひと」たちの中で一番(いちばん)のチビだからです。

 このように「くねひと」たちは自分(じぶん)たちを区別(くべつ)するために、いろいろな()()()いあっていました。

 (たん)(おお)きければ「デカ」。耳の尖がりが(とく)にすごいのは「みみ」。(かお)にホクロがあるものは「ホクロ」といった具合(ぐあい)です。

 

 チビは毎年(まいとし)、私たちの世界で一番のやさしい人を(えら)ぶのに失敗(しっぱい)しています。

 どんなに探しても見つけられず、「お館様」に紹介することすらできないのです。

「おい、チビ。お(まえ)はどんなにがんばっても無理(むり)なんだから、そこをどけ」

 ほかの「くねひと」がチビが見ていた(みず)たまりから、チビをヒョイと、どけてしまいました。

 この水たまりに私たちの世界が(うつ)っているのです。



「あ~あ。今年(ことし)もダメかぁ。どうやったらやさしい人って見つけられるんだろう?」

 チビは(はや)くもあきらめかけていました。

「見ているだけだから、見つけられないのかなぁ。やっぱり直接(ちょくせつ)人間の世界に()ってみるのがいいんじゃないのか?」

 そう思ったチビですが、それはあまりいい方法(ほうほう)ではありません。

 なぜなら、「くねひと」は私たちの世界へ行くことはできますが、その姿を私たちは見ることができず、その(こえ)も私たちは()くこともできず、(なに)より彼らは私たちに()れることもできません。

 (よう)するに、「くねひと」は幽霊(ゆうれい)のような存在(そんざい)なのです。


 ですが、チビは決意(けつい)して、私たちの世界へ行くことに()めました。

 私たちの世界が映る水たまりは(ほか)にも(おお)くあり、チビはその中の一つに(はい)って行きました。

 そうすると、彼らは私たちの世界へ()ることができるのです。


 チビはある人間の(まち)にやってきました。もちろん彼は(だれ)からも()づかれません。

 この()は、十二月(じゅうにがつ)十日(とおか)でした。

 チビがやってきた街はけっこう大きいです。道路(どうろ)はたくさんの(くるま)(はし)り、そのわきの歩道(ほどう)(おお)くの人が行きかっています。

 人間の居住用(きょじゅうよう)のいくつもの(たか)く大きな建物(たてもの)(なら)び、コンビニやバス(てい)がたくさんあり、電車(でんしゃ)がとまる(えき)には、何本(なんぼん)もの線路(せんろ)()びていました。

 あまりにも人が多すぎて、やさしい人を探すのが(ぎゃく)にむずかしいことにチビは気づき、やって()たことに後悔(こうかい)しました。



 チビがしかたなく、とぼとぼ(ある)いていると、(すこ)(ひろ)草地(くさち)がありました。私たちの世界に彼らは触れることができないので、(ただ)しくは(すこ)(ちゅう)をフワフワ()いて歩いています。

 街の緑地公園(りょくちこうえん)です。人が(すく)なかったので、チビはここに入って行きました。

「み~」

 (なに)(こえ)がします。

「み~み~」

 チビはその声の方向(ほうこう)()ると、(はこ)(なか)(はい)った子猫(こねこ)がチビを()つめて()いているではありませんか。

「お前、おれのことが()えるのか?」

「みゅう…」

 チビはそっと()()し子猫を()こうとしました。

 なんとありえないことに、チビは子猫を抱くことができました。幽霊ともいえる「くねひと」はこの世界のものを(さわ)ることができないはずなのに!

 あわてて、チビは子猫を箱に(もど)しました。

 そうです。もし人がいたら、子猫が(ちゅう)()いてるように見えたでしょう。


「なんなんだお前。おれのことが見えてるようだし、何で触れるんだ?」

「み~」

「おなかがすいてるのか?おれたちはおなかがすくということがないから、どうしたらいいか()からないな」

 箱には「(ひろ)って(くだ)さい」とありましたが、チビはその()()めません。

 チビは(こま)りました。食べ物(たべもの)()ってこようにも、「くねひと」は私たちの世界のものをつかむことができません。

 かといって、この子猫を食べ物があるところに()れて行くのは、「猫が宙に浮いてる!」、と大騒(おおさわ)ぎになります。

(よる)になったら、人が少なくなるから、そうしたらお前を食べ物のあるところへ()れて行こう」

 チビは深夜(しんや)になるのを子猫のそばで()つことにしました。



 チビは深夜になると子猫を連れて食べ物があるところを(さが)しましたが、猫が(なに)を食べるのかよく分からないので、結局(けっきょく)あきらめて、(もと)のところへ(もど)りました。

「そうだ!こいつを(たす)けてくれる人はやさしい人だ。こいつを助けた人をお館様に紹介しよう!」

 チビをそう思い付き(おもいつき)、子猫のそばでじっとしていることにしました。


 何日(なんにち)たっても子猫を助けてくれる人間は見つかりません。

 ある()、人間の親子(おやこ)が子猫を見つけました。チビは「この人たちだ!」、と興奮(こうふん)します。

「お(かあ)さん。この()をつれていってもいい?」

駄目(だめ)よ。ウチのマンションはペット禁止(きんし)だし、それに見たところ病気(びょうき)なんじゃないかしら。だから()てられたのよ」

 親子は()っていたパンをちぎり、子猫の箱の中にやり、()って行きました。

「お前、病気なのか?そういえばなんか元気(げんき)がないな。おれはよく分からないけど、今はとても(さむ)いんだろう」

 十二月も二十日を()ぎています。チビが見るところ、人間はとても(おお)くの(ふく)(かさ)()て、()(いき)(しろ)いです。


 子猫はしだいに(よわ)っていきました。(からだ)(まる)めたまま(うご)こうとしません。

「おい、だいじょうぶか。食べ物が()しいのか?」

「み~…」

「寒いのがつらいのか?」

「…」

 子猫はチビの声の反応(はんのう)次第(しだい)にしなくなりました。


 十二月二十五日の夜。この日は(とく)に寒く。(ゆき)が降ってきました。

 チビは子猫が入っている箱の上に(おお)いかぶさりました。

 チビは子猫を触れますが、雪はチビの(からだ)(とお)りすぎ、箱の中に()もっていきます。

 そして子猫はカタカタとふるえ、次第(しだい)にその(うご)きが止まりかけ、チビが声をかけても子猫は完全(かんぜん)に反応しなくなりました。

「そうだ!おれはお前をつかむことができる。もうやさしい人探(ひとさが)しはやめだ。いっしょにおれの()むところに行こう!」



 チビは異世界に(もど)りました。子猫はいません。

(なん)で?この手でしっかりと()いていたはずなのに!」

「チビさん」

 チビは(うし)ろから、声をかけられました。

(だれ)だ。お前は?」

「ぼくですよ。ずっと(まも)ってくれてありがとう」

 その「くねひと」はチビよりも(ちい)さくて、(とく)に尖った耳が猫のような(かたち)をしていました。

「お前はあのネコか?」

「そうです」

「じゃあ、お前はネコだな」

 (あたら)しい「くねひと」は「ネコ」と呼ばれるようになりました。

「でも、おれよりチビのくせに、おれをチビ呼ばわりするのは、なんか()()わないな」


「ガラ~ン!ゴロ~ン!」

お館様(おやかたさま)今年(ことし)一番(いちばん)のやさしい人探しを決定(けってい)するぞ~!」

 ひときわ大きな「くねひと」が(かね)()らして、お館様の(まえ)に「くねひと」たちの集合(しゅうごう)()げました。


 お館様は(なが)(しろ)いひげと白い衣装(いしょう)を着た人間のような老人です。

「では、今年の(もっと)もやさしい人を、(わし)紹介(しょうかい)せよ」

 「くねひと」たちはいろいろと紹介していきます。

 チビの(ばん)になりましたが、チビは今年もまた(だれ)も見つけられず、(ほか)の「くねひと」たちから(わら)われています。

「チビよ。お前はやさしい人を見つけることが、本当(ほんとう)にできないな」

 お館様はチビに(あき)れているようです。

「だが、お前はやさしい(こころ)()っている。(ゆえ)に今年の一番のやさしいものはチビとする」

「お館様!それではプレゼントはどうなるんですか?」

「お前の(となり)にいるだろう。ネコだよ」

 チビは隣の猫のような耳をした「くねひと」を見つめました。

「チビさん。来年(らいねん)はいっしょにがんばってやさしい人を見つけようね」

 チビは大喜(おおよろこ)びして、「くねひと」となったこの子猫といっしょに、今日も水たまりで私たちの世界を(のぞ)きこみ、やさしい人を探しています。


おわり

 Ihr Lieben ,


 von ganzem Herzen wünsche ich euch frohe Weihnachten

 und dann im nächsten Jahr viel Glück!


 今年は本当に色々ありましたね。

 来年は明るいことが一つでも多くある様に願っています!


【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

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【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
なるほど、この流れからの、2024年にサンタクロースをみつけるんですね。 逆順で読んだのですが、この作品は、こっちの順番で読んだほうが、楽しいかもしれないって思いました。 正しい順番で読んでないの…
[一言] こねこちゃん幸せそうで良かったです。 これからは2人でコンビですね!
2023/04/26 21:06 退会済み
管理
[良い点]  「くねひと」は、造語かと思ったのですが、  クリスマスの話なら  黒いサンタクロースのことですかね?  黒いサンタクロースの存在は知りませんでした! [一言]  実際の黒いサンタクロース…
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