夢見る卵
「おじさん、もういいよね?」
少女が卵を私に手渡した。緑色のずっしり重い卵だ。一応【卵龍】という種族でドラゴンの卵となるモンスターだ。
「どう? おじさんが言ってた卵が揺れている状態になったでしょ?」
卵はほんのり暖かく、私の胸元でかすかに振動している。
「ああ、確かにちゃんと揺れているね」
「じゃあ!」
「時は来たみたいだ。もう合体できる」
【卵龍】はレベルがあるわけではないが、その状態によって特性が異なる。まだ揺れていないうちは、ただの卵で、食用にされることもある。この状態ではまだモンスターではない。
しかし、卵が揺れているときは、もう中にいる龍の命が芽生えている。こうなるとモンスターとして扱われるようになる。
私は少女から卵とゴブリンを預かって合体の間に入る。
「君はこれからどんな力を手に入れたいんだい?」
私は抱えている卵に訊ねてみた。卵は答えを返してくれるわけではないが、しきりに強く揺れていた。自分の変化の時が来たことを卵の中でも悟っているのだろう。
私はそのまま合体のスイッチを押した。
合体が終わった時、そこには【子龍】ベビラがそこにいた。ドラゴン子供であるベビラはまだ龍というよりかは、大きなトカゲといった方が似ている。
「ようこそ世界へ」
私はベビラを撫でてやる。まだ未発達のうろこはぷにぷにと柔らかい。
「早く世界を羽ばたきたいな」
ベビラはしきりにそういった。
「今はこんな体だけど、早く強くなってこの空を羽ばたいてみたい」
「君は野望持ちか。それなら心配いらないな。すぐに強くなれるさ。より強い力を求め続けることだね。秘訣は今の気持ちを忘れないことだよ」
私はベビラを連れて少女のもとに戻る。少女はまだ小さなベビラの体を軽く抱き上げて胸元に持ってきた。
「ずいぶんと小さいのね」
「そりゃあまだドラゴンの子供だからね」
ベビラは力を求めていると言っても、まだ子供。少女に抱かれて安心したようにくつろいでいた。
「ドラゴンはマスターの育て方次第で様々な成長の仕方を見せてくれる。強くなるのも弱くなるのも君次第さ。幸い、この子は力を求めているみたいだし、存分に暴れさせてあげるといい」
「ありがとう。そうするわ」
少女はドラゴンを抱えたまま出て行った。その後ろ姿は小さな子どもをあやしているようにも見えた。
いずれは、ドラゴンが少女を抱きかかえてくる日もやって来るのだろうか。
私は次に少女が来ることを楽しみにしながら、新しい冒険者を迎えるのだった。
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