愛されしオルトロス
【大魔獣】オルトロスを従える青年がやって来た。
クリスタルがちりばめられた装備を身にまとっている。装備屋では買うことができないレア装備だ。彼がそこそこのレベルの持ち主であることはオルトロスの信頼具合からも伝わってくる。
【魔獣】系統のモンスターたちは、自らが力を認めた主人にしか従うことはない。最悪の場合、魔獣たちは主人の寝首を掻こうとすることさえある。
しかし、このオルトロスは全く反抗するそぶりを見せない。信頼の証である。
オルトロスのレベルはマックス。オルトロスとして得られる力の限りを手に入れている。
「お願いします」
青年が差し出すよりも早く、オルトロスは合体の間に飛び込もうとした。
オルトロスは私を見つめてはしきりに吠えていた。
「これこれ、私が入らないとこの扉は開かないよ」
私は急かすオルトロスをなだめる。オルトロスは興奮はしていないものの、とにかく早くこの中に入りたいようだった。
「やけに積極的だな」
「こいつがしきりに俺に訴えてくるんです。言葉はわからないけど、ずっと一緒に旅をしてきたので何考えているのかはなんとなくわかるんです。こいつ、父から受け継いだ子だから合体したくはないんですけど、こいつはずっとここに来たらしくて……」
どうやら訳ありらしい。
とりあえず、私は青年からオルトロスと【妖精】ハーピィを連れて合体の間へと入ることにした。
「なにがあったんだね」
私は入るなりオルトロスに訊ねてみた。あまり深入りもよくないのだが、どうにも好奇心が抑えきれなかった。
オルトロスは静かに答える。
「ご主人のために、私には新たな力が必要なのだ」
「彼は寂しそうだったけど、本当にいいのかい?」
「俺はご主人にずっと一緒に侍って来た。彼の父の代からずっと。そしてご主人も私を受け継いだ。しかし、彼はもっと上に行けるのだ。私がこの力のままではご主人に本当に役に立つことはできない」
「愛情は決して強さだけではないと思うけどね」
私は特に意味もないがフォローを入れてみた。
「マスコットではいたくないのだ!」
オルトロスは大きく吠えた。
そこには誰にも負けない誇りがあった。
「ご主人が今潜り始めたダンジョンは私でギリギリ勝つことができるレベルだ。御主人のやさしさは嬉しいが、それでも、魔獣としての役割はここまでなのだ。わがままだとでも何とでも言ってくれればいい」
「いや、大魔獣らしい素晴らしい回答だと思うよ」
「私は彼の父からもう十分かわいがられた。彼の役に立つこともできた。ご主人は父を越えてさらなる高みへ向かうべき時なのだ。そのための力に私はなりたい」
オルトロスは一度落ち着いてふっと笑う。
「それに、この姿でなくても、一緒に居ることができる。御主人にはご主人に一番合うモンスターがいるはずなのだ。私の思いはその者と共にいることだろう」
「それならばうんと強くならないといけないね」
「それがモンスターというものだ」
隣で見ていたはハーピィがフフフと笑う。
「なんか妬けちゃうなあ。あの方とあなたっていつも特別な関係って感じよね。皆羨ましそうに見ていたのよ」
「これからはお前も一緒だ」
「……イケメンなこと言っちゃって」
私は合体のスイッチを押す。
「それではいくぞ」
2体の合体が終わった後、そこにはひときわ大きなシルエットが浮かんだ。
【怪獣】ケルベロス。力を求める【魔獣】の最上位の種族の一つだ。
「ようこそ世界へ」
ケルベロスはたくましい体を震わせながら、自らに宿る力を確認する。
「わが力は強いぞ。人間に従えることなどできるかな」
「良い心がけだ。君のご主人さまはきっと君を満足させてくれると思うよ」
それだけ聞くとケルベロスは祭壇の下へと降りる。そして、そのまま力を求めて主人のもとへと駆け戻るのだった。
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