その男シクザル
モンスター合体を題材にしたショートエピソード集です。
毎日更新していきますの、気軽に読んでいただけると嬉しいです!
私の名前はシクザル。
「合体の館」の主人としてこの世界に生きている。
この世界はモンスターと人間たちがはびこっている。
人々はその中で「冒険者」を職業として世界を旅しているものが多い。冒険者には野生に生息するモンスターを仲間にすることができる。
そして、仲間のモンスターと一緒に強く成長しながら、この世界の仕組みを明かそうとしている。
私の役目は「合体」を用いて冒険者の強化の手助けをしてやることだ。
この世界でモンスターが強くなる道は2つしかない。
1つはレベルを上げて強くなること。もう1つは2体の生き物同士で合体をすることで新たなモンスターとして生まれ変わることだ。
私たち生き物は生まれてきた種族から突然変異することはできないが、合体をすることで、より力の持った新しい存在に生まれ変わることができるのだ。
今日も一人、また力を求めて冒険者がやって来たようだ
「お願いします!」
少年が初々しい顔立ちでやって来た。
新品の鎧に、まだ使い込まれていないような剣。とりわけ駆け出し冒険者というところだろう
「ふむ。今回はどのようにしたいのか」
「今回はベルスライムとゴブリンで」
「確かに受けたまわった。今回は同じ種族同士の合体だから種族の変化は起きないぞ」
少年はうなずく。
ベルスライムとゴブリン。どちらも下級モンスター同士の合体だ。合体もきっと初めてなのだろう。
「それではしばしお待ちを」
私はモンスターを引き連れて合体の間に入る。
モンスターの合体は、この部屋で儀式を行うことで可能になる。
ここから先は第三者は立ち入り禁止だ。
「ねえ、僕はこれから何になるのかな」
ベルスライムが訊ねてきた。
私はモンスターと話ができる。冒険者とモンスターは基本会話はできない。
それこそが私がこの館の主人をしている一番の理由だ。
話せることはモンスターに安心感を与えるからな。
「ゴブリンと一緒に強いモンスターになるんだ」
「俺の意識はどこに行くんだ」
今度はゴブリンが訊ねる。
きっと2体とも初めて合体を味わう野生種のようだ。
初めての体験。それだけ恐怖もあるのだろう。私はできるだけ恐怖を与えないように優しく説明する。
「君らの意識は新しいモンスターの魂となって合流する。今はよくわからないと思うけど、実際になってみれば意外と自然に受け入れられるものだ。怖いものなどないよ」
「そんなものなのかあ」
ゴブリンにはよくわかっていないようだった。
「まあ、今より強くなれるのならそれでいいや」
「実にモンスターらしい回答だ」
私はゴブリンの素直な反応に笑った。
「僕もね、なんでだろうね、怖いはずなんだけど、不思議な安心感もあるんだ」
ベルスライムも恐る恐る心情を吐露する。
強さを求めること。それは彼らの種族「魔獣」に与えられた本能のような物だ。
いくら今は下級でも、その本能は変らない。
私はそっと彼らの頭を撫でてやる、。
「さあ、楽しい合体の時間だ」
2体を祭壇の上に載せる。
まだ体も大きくない2体にとっては、祭壇はやけに大きく見えた。
「次来るときはこの祭壇一杯の体になっていたいな」
「楽しみだな。その姿を私にもちゃんと見せてほしいな」
「約束だね」
私は祭壇のスイッチを押す。
合体の間だなんて言うのも、結局はただの雰囲気だ。
彼らが落ち着けるような、静かな分に気を演出しているに過ぎない。
2体を青白い光が包む。
そのまま彼らの体は粒子となり、混ざり合い、新しい生き物へと生まれ変わる。
新たな力を求める者だけが体験できる、素敵な瞬間だ。この瞬間が、この世界の中で何よりも美しい。
やがて光が消え、合体が終わる。祭壇の上には新しくオーガが立っていた。
ゴブリンの倍はある体の大きさ。ようやく魔獣としての強さを体に備えたようだ。
「ようこそ、世界へ」
「へっ、何だか力がみなぎって来るや」
オーガは生まれつき持っているハンマーを振り回す。軽々とした動きだ。
「君の仲間が待っているぞ。早く顔を見せてあげよう」
「細かいことはいいから早く暴れたいぜ」
駆け出しの冒険者はオーガとともにまた旅立っていった。
彼にとっての新しい仲間。これから彼らはさらに力を求めてここにやって来るのだろう。
まだ無垢な彼はこれから何を学び、その度に何の力を求めるようになるのだろうか。
駆け出しの冒険者の未来を勝手に想像することは楽しいものだ。
ここは合体の館。
私は力を求める生き物すべての味方だ。
今日もまた一人力を求める者に手を差し伸べる。
お読みくださりありがとうございます!
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・異世界からの刺客を最強勇者が迎え撃つドタバタコメディ!
「勇者様は異世界転生が許せない!」
・個人的な短編集(不定期更新)
「おさむ文庫の気まぐれ短編集」
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