第七話:ふざけんな
この物語はフィクションです。
夏休みが終わると同時に、和也との冷却期間も終わる。
一応、退院の日に合わせて、和也は謝罪に現れた。両親同伴で。
土下座する勢いで頭を下げる和也。
しかし、ここは病院の敷地内。
周囲の目があるから頭を上げろと言ったところで、許してくれるまではテコでも動かんと言いやがった。
……それ、ほんとに謝罪?捨て身の脅迫じゃないの?
周囲の視線という名の圧力に負けて、不本意ながら、許す、と言うしかなかった。
そしたら、関係も、このまま続けさせてくれと言いやがった。
和也の両親に目を向ける。
首を横に振っていた。なんだよそれ?
頭を下げたままの和也を置いて、少し離れる。
そこでようやく、和也の両親が事情を説明し出した。
無駄に長い上分かり辛いので要約すると、
・和也は、とても反省している。
・和也は、私のことを強く愛している。
・和也は、思い詰めて首吊りをしてしまった。
・和也は、精神科に通ってカウンセリングを受けるほど心を痛めている。
・和也は、私に拒絶されると何をするか分からない。人を傷つけるかもしれないし、また首吊りするかもしれない。
・だから、また、彼氏彼女の関係に戻ってくれないか?
ちょいと待ってくれませんかねぇ?
それって、世間では、「脅迫」って言うと思うよ?
息子が道を踏み外さないように、私に犠牲になれと?
冗談じゃないよふざけんな。
私は生け贄か?
私の心は気にしてくれないのか?
そのまましばし、頭を下げたままで私の罵倒を受け止めていた和也の両親が、急に、しかも同時に頭を上げた。
その顔は、私に襲いかかった時の、和也と同じ無表情。
あの時の恐怖が甦り、心臓がバクバクと悲鳴を上げ出した。
「……わ、分かりました」
受け入れる以外の選択肢があるなら、是非とも教えてもらいたい。




