第五話:豹変
この物語はフィクションです。
カードデッキと、カードを入れるケースと、その他小物を少々、優さんに買ってもらった。
優さん曰く、
「プレイ人口が増えるのは、良いことだからね」
らしい。
「それに、余ったカードで組んだ予備だから」
とのこと。
聞けば、他にも優さんからカードをもらって遊ぶようになった子は何人かいるらしい。
今日は良いことがあった、とホクホク顔で和也の隣を歩く。
……この時の私は気付いてなかった。
和也が、何を考えているか、気付いてなかった。
付き合うことになってから、毎日のように通ってる和也の家。
勝手知ったるなんとやらと言えるくらいには、慣れた。
冷蔵庫から、いつも冷やしているというお茶を出して、二人分注いで部屋に入る。
相変わらずの汚部屋だけれど、二人で座れるくらいのスペースは確保している。
和也は、その程度の努力はするようになったらしい。
折り畳み式のミニテーブルを用意して、冷えたお茶を置いて、さっそく二人でカードゲームしようと和也の方を見ると、今まで見たこと無い無表情。
……怖い。
彼氏のことを、初めて怖いと思った。
「どした?和也?」
声が震える。和也はしばし無言。それがまた怖かった。
今日は帰ろうかと、カードを片付ける手を、和也が強く掴む。
「いった……和也、痛い……和也?」
形容しがたい、彼氏の顔。
なんだか、人の姿をした、人とは違うなにかが目の前に居るようで、怖かった。
「おまえさ」
彼氏に声をかけられたはずなのに、ビクッと震えてしまう。
「おまえさ、俺の彼女だろ?」
「だったら、なにさ」
逃げたい。けれど、目の前のナニかが、逃がしてくれない。
「俺以外の男に、色目使ってんじゃねぇよ!」
気が付いたら、家に着いていた。
ふらりとよろめいて、壁にもたれかかると、なんだか無性に涙がこぼれてきた。
バタバタと廊下を走る音に目を向けると、なんだか変な表情をした弟がいた。
「姉ちゃん……、や、今日はオレが全部やるから、風呂入って寝ろ」
「……そうする。……ごめん、よろしく……」
ふらふらと覚束ない足取りで、風呂に入って、部屋に戻って、布団に潜り込んだ。
……どうして、こうなったんだろう……?
涙が枯れるほど泣いても、答えなんか出てこなかった。