最終話:恋とか、愛とか、良く分からないけど……。
この物語はフィクションです。
「じゃあ、ばあちゃん、行ってきまーす」
「おばあちゃん、行ってきます」
季節は冬に移り、すっかり寒くなってきた。
「はい、行ってらっしゃい」
事件の後、ばあちゃんはなんと、自宅を処分して私達と同居し始めている。
いつの間にやら、クソ親父が自殺?したらしく、保護者不在という切実な問題が浮上。
優さんが保護者に名乗り出てくれたけど、年齢を始め、色々な問題があって、無理だそう。
気持ちはありがたいけどさ。
「おはよー」
学校行くのも久しぶりだ。
長期の休み明けみたいな、ダルさを隠さない挨拶をして教室に入ると、
「美香!?あんた今まで何してあいたぁっ!?」
沙知が血相を変えて駆け寄ってきて、また机にぶつかって悲鳴を上げた。
「ぷっ、なにやってんのよ?沙知?」
「なにってね、美香!あんた死亡説まで出てたくらいなんだよ!?」
「ちょっぷ、声が大きいわい」
やかましいのでチョップして黙らせると、痛がりはしなかったものの、代わりに睨んできた。
「バカ、心配した」
「ごめん、心配懸けた」
泣きそうな顔しながら、ぎゅっと抱きついてきた。
友達とハグ出来るって、当たり前なことがすごく、嬉しい。
「おかえり、美香」
「ただいま、沙知」
その後も、女子全員とハグした。男子もついでに来たがってたけど、女子皆が文字通り壁になって守ってくれた。
私は一応手を広げて歓迎ムードを出してみたけど、沙知にはたかれて渋々断念。
渋々だよ?ほんとだよ?
放課後、意外なほど近くにあった優さんの職場に顔を出す。
職場見学を理由にすれば、中に入れてくれる。すぐに、嫁が来たぞと囃し立てるけど、恥ずかしいのでちょっと勘弁して欲しい。
改めて、職場で仕事する優さんの事を見てみる。
ヒーローなんかじゃなく、
凄腕エージェントなんかじゃなく、
ごく普通の会社員だった。
また頭下げて、舌打ちされたり、はたかれたりしてる。
それでも、会社の雰囲気は悪くない。
この会社自体、地元密着の普通の会社だし、裏では必殺な仕事をする訳じゃない。
普通の会社に勤める、普通の人。
それでもさ、私にとっては、底無しの毒沼から引き上げてくれたヒーロー。
それでいいんだ。
私は、優さんの事が、きっと好きなんだ。
恋とか、愛とか、よく分からないけど……。
薄っぺらい言葉だけの愛してるより、
私の事を見て、大事にしてくれてるって実感できる今の方が、よほど幸せを感じてる。
そうだ。
私は、今。
母親を亡くしてから、たぶん、初めての、幸せを実感しているんだ。
これにて、終幕です。
ここまで付き合ってくださった方に、感謝を。




