第十三話:新生活に向けて
この物語はフィクションです。
「東城美香」
それが、私の新しい名前らしい。
母方の祖母の旧姓だとか。
六十代らしいその人には会ったこともないけれど、結婚して家を出た娘の残した子供達、つまり、孫の私達の事は気に掛けていたそうだけど、同居していない以上、過度の干渉は避けるべきとがまんしていたらしい。
それが、母が亡くなってからは、連絡も途絶え、住んでるはずの家にも別人がいて、途方にくれていたらしい。
今は、優さんの運転する車に揺られて、母方の祖母に会いに行くところだ。
私と弟の親権とやらを、父親から奪い取り、祖母に渡すところだとか。
で、そのクソ親父、目を覚ましてから一度も会ってないんだけど、どこ行ったんだろ?
「ところで優さん、あなた何者ですか?」
そんな失礼なことを聞いてしまう私は、きっと悪くない。
「何者って……一人では何も出来ない、苦しんでる女の子一人救いだしてやれない、ただの給料ドロボウだよ」
「ただの給料ドロボウが、警察とか弁護士とか児童相談所とか裁判所とか、あとは病院に医者とか、とにかく色々な人に指示を出して顎で使うとか、無理だと思う」
弟も、優さんの超人ぶりに口許を引きつらせていた。
「ひどいなあ、透くん。俺は、きみたちより世の中の仕組みに少しだけ詳しかっただけだよ?」
大したことないと言うけれど、納得はできない。
少し遅れてきたけれど、悪夢のような日々から私を救いだしてくれた人だ。
大したことを、してくれた人なんだ!
「むー!」
ぶーたれてみても、車の中で暴れるわけにはいかない。
抗議します!と態度で表すにとどめた。
けれど、よーしよしと頭を優しく撫でられると、反発心も萎んで心がとろけてしまいそう。
「イチャつくのは、二人きりの時にしてもらえませんかねぇ?」
弟の、透の、呆れたような声に、我に返った。
しまった!めっちゃ恥ずいんですけどー!?




