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冴えないおじさん、動物園に行く!

「お〜い、パ〜パ〜ッ!」


 カレンが、純一の元で暮らし始めて2週間がたった。


 休みの前日、たまたまテレビで“たま動物園”の映像が流れ、純一はカレンと一緒にやってきた。


(周りは、家族連れが多いな。土曜日だから、そうだろうけど)


 純一が背負ってるリュックには、カレンが握った不格好なおにぎりと焦げた卵焼き、冷凍の唐揚げなどが詰まった弁当が入っている。


「早いって! 転ぶぞ」と言った側で、カレンは本当に転んで、純一を睨む。


(何故?)


「おわっ! キリン、長っ!」


 当たり前の事なのに、カレンはどの動物を見ても、驚き喜んだ。


「檻の中は窮屈だけど、自由があっていいなぁ」


 カレンは、水の中ですいすい泳ぐペンギンを見て言った。


「自由? カレンも自由に過ごしてるだろ? 部屋にぬいぐるみばっか置いたりして」



 ひとりで留守番させてるカレンに僅かなお金を渡すも、何故かぬいぐるみになって化けてくる。


「んぅ、ちゃんとご飯食べたよ。これは、そのお釣りで買ったの! ほら、前に一緒に行った“リキイチ”」


“リキイチ”は、純一が住んでる市では、大きなリサイクルショップ!そこにあるぬいぐるみも一つ一つ丁寧に洗っての販売だから、かなり綺麗。


「カレン、また行ったの? 好きだねぇ」


 純一は、カレンの笑顔を見るとどことなくホッとする。そんなぬいぐるみが既に十個に増えてきた。



「だって、可愛いとつい。あ、次あっち行こ!」


 カレンは、純一の手を握り、くまのゾーンへと向かう。


「クマ、ね。こう暑いと···」


 春とは言え、初夏に近い気温の四月。


「なぁに言ってんの! パパともあろうお人が。行くよ」


(なんでパパ? 俺、まだ独身。☓1だけど)


「わかったって! カレン、写真いいの?」


「いい。撮らない。ってか、カレン写真大っ嫌い!」


 眉を潜め、純一を睨むカレンに、携帯を取り出そうとした手を引っ込めた。


「いいの。ちゃんと見てるから」


 カレンは、クマがのっそり歩いてる姿を、壁に張り付いて眺めていた。


「ふーん。そんなもんか」


 純一も一緒に、ツキノワグマを眺める。


「動物っていいね。自由があるから···」


「······。」



 クマやホッキョクグマ、ポニー···


 一通り見て、芝生にシートを敷いて、昼飯。


「俺初めてだよ。こんな···」


「ごめんなさい···」


「おかしいな。ちゃんと、これが塩だって教えたのに···」


「だから、謝ってんじゃん! もぉっ!」


 塩むすびが、甘むすびに変身していた。卵焼きは、焦げてても甘かったけど···。


「今度、教えてやるよ。味噌汁も···」


 甘いおにぎりを頬張り、お茶を飲む純一。


「ありがとう」


「おにぎり以外は、うまかったし。ごちそうさま」


 なんだかんだ言いつつも、腹が満たされれば笑顔になる。


「ね、膝枕してあげようか? あんな感じに···」


 カレンは、少し離れた先でいちゃついてるカップルを見ながら、純一に言うも断る純一にキレ、


「どうだぁ〜」と半ば強引に自分の膝に純一の頭を押し付けた。


「お前、消化早いな。もう腹···」


 ペチンッ···


「えっち!」


 柔らかな足の感覚···滑らかな肌···


 ほんとちょっと、太腿を撫ぜて頭を叩かれる純一。


 前日の疲れが出てしまい、眠ってしまった純一だったが、いい夢を見ていたのはカレンには言わないでおいた。


(カレンとキスしたなんて言ったら、殺されそうだ)


「エサやり? あげれるの?」


 アザラシにエサをあげるショーがあるらしく···


「はいはい。行っといで」


 目を輝かせ、カレンは親子が列で並んでても構わないらしくひとりで最後尾についた。


 小さな子供に挟まれるように、カレンも混じってアザラシに餌をあげては、騒いでいた。


「楽しかった〜!」と喜ぶカレンにクタクタな純一。


 それもその筈で、何故かナイトショーまで見るハメになった。


「─だから、私が買ってくる、ね」


 朝来た時に、やたらと、チケット私が買ってくる!と言ってた訳がナイトショーだったのか。


「言えば良かったのに」


「だって、言ったら反対すると思ったし」


 上目遣いで純一を見上げるカレンに、少しドキッとしたが···。



「少し遠回りして帰るか」とカレンを車に乗せ、夜景が綺麗な丘まで車を走らせた。


「凄い。街の明かりが、小さくなってく···」


 カレンは、窓越しに街並みを眺めていた。


「まぁ、知ってるとは思うけど···」


“星降る丘”は、都外からも来る位に星がよく見える場所。流れ星もよく見える。都心部から離れているから。


「ここ?」


「うん。少し歩くけどね」


 車を降りて、低いライトで照らされた階段を登る。


「ほら、危ないから」と純一が、手を伸ばすとカレンは一瞬止まったが、笑顔になり手を掴む。というか、腕を絡ませてきた。


「へへっ。これなら危なくないし」


 笑うカレンに戸惑う純一。


 丘には、何組かのカップルもいて純一らには気にも止めず、個々の空間を楽しんでいた。


「ここ、座ろっか」


 手近に空いたベンチがあり、ふたり並んで座る。


「なんか、デートみたい」


 遠巻きに車のライトが弧を描いて、カレンにかぶる。


「きれいだよ···」


 そっと呟いた純一は、空を仰ぎ、


「まだ、お星様そんな出てないよ?」と返すカレン。


 想い伝わらず···。


 それでも、暫くジッと空を眺めると星もかなり見えてきて···


「あ! 流れ星! お願いお願い」と必死に何かを呟くカレン。


 純一も流れ星を見つけ、すぐさまお願いごと···。


(カレンとずっと一緒にいられますように!)


 星が雲に隠れ始めたのを期に、純一らは自宅へと戻った。


「なんでよぉっ! たまには、お願い聞いてくれたっていいじゃんっ!」とまた膨れ顔で純一を睨むカレン。


「だからさ、きみは女の子で、俺は男! わかった? んな1つの布団で寝て、なんかあったらどーすんのっ!」


 また布団のバトル···。


「カレン、さっきお願いしたのにぃ」とまた嘘なきする始末。


「ふぇ〜んっ、ふぇ〜んっ」


「······。」


 嘘なきと知ってても、流石にこればかりは···と思い悩む純一に?


「私って、そんな魅力ない?」涙目で迫るカレンに、


「いや、可愛いよ。出来る事なら、彼女にしたい位」と今まで口にした事がない台詞が出てしまう純一。


「じゃ、背中合わせだからな!」としつこい位に自分から言ったのにも関わらず?



「······。」


 目が覚めたら腕の中にカレンがいて、飛び起きた純一に、


「あたしの純血奪われたぁ〜」とまた泣き出す?カレン。


 結局、そんな事は無かったのだが···。


 ジャァーーーッとトイレの水温が流れ、


「女の子になったの···」とカレンが、赤い顔をして言っても、純一にはわからず、カレンは足音を立て、またトイレへと戻った。


「馬鹿っ! おじさんの馬鹿っ! 女の子に向かって、女の子の日ってなに?とか聞く?」とキレて言うカレンだったが、ふと我に返って、ごめんと謝った。


 で、なんとなくハッとし、純一も何故か謝る。


「じゃ、俺もう仕事行くから」


「うん。わかった」


 カレンは、お腹が痛くなったのか、布団から顔だけ出し、純一を見送った。


 カレンダーには、純一の会社の名前と電話番号がデカデカと印刷されていた。


「なんで、急になんのよ」


 カレンは、痛いお腹を摩りながら、天を睨むも···


「テレビ、なんかあるかな?」とテーブルに置いてあるリモコンを手に取り、つけた。


❨普段テレビなんか見ないから、な。何やって···❩


 テレビでは、ワイドショーを放送していた。


〘─でも、大丈夫なんでしょうか? 霧島さん〙


「霧島? 誰だっけ?」


 なんとなくアナウンサーが言った名前に、目を向けた。


 画面では、日本のトップメーカー“KIRISHIMA”の社長の顔がデカデカと出ていた。


〘脳梗塞だったらしいですが···〙


〘お嬢様の花恋ちゃんも、いまやトップアイドル! テレビで見ない日なんてない位に跳んでますからねぇ〙


「······。ふん。つまんない」


 カレンは、テレビを消し布団を被ったものの、


「寝れないから、出かけようかな」と起き上がり、買ってもらった化粧品で簡単にメイクをし、着換え···


「これなら大丈夫かな? お腹も冷えないし···」


 鏡の前でカレンは、小さく頷きそっと家を出た。



(大丈夫! この人混みに紛れれば···)


 カレンは、肩に提げた鞄を叩き駅の改札口をくぐった。


 五反田までは、淀橋線で片道20分。


 カレンは、ジッと窓から動く風景を見ていた。


〘次はー、五反田。五反田。お降りの扉は左···〙


 のんびりとしたアナウンスが流れ、降りる乗客が動き出す。


「······。」



 ガチャッ···と玄関のノブを回すと、


「おじさん! お帰りぃ〜」といきなりカレンが抱きついてきたのには、驚いたが···


「っそ! マジ? え? ほんとに?」


 テーブルに並んだ野菜炒め、ポテトサラダにスープ!


「あのね! 私だって、作ろうと思えば作れるんだよ」


 ジャージを着込んだカレンが、褒めろと言わんばかりに胸を張る。


「凄いねー」


(流しやコンロは、もっと凄いけど···)


「じゃ、食べよっか」


「うんっ! こうして家族で食べるのって幸せだねぇ〜」


 ふたりで笑いながらいろいろな事を話したり、洗い物や片付けをするのも楽しかった。


「そういや、私おじさんの名前知らない。なんていうの?」


 そういや、名乗ってないのに初めて気付いた純一は、


「純一だよ。唐沢純一···」


「へぇ。カレンは···カレンだよ。よろしくね、純ちゃん!」


(純ちゃん? 御年36の男を捕まえて?)とも思ったが、顔を引きつらせながらも、それも悪くはないなとも思ってもいた。


「でも、外にいる時はパパだよ。ねっ!」


 何故、カレンがそうも拘るのかはわからないが···


「ま、どっちでもいいよ。最初から、おじさんやらパパだの呼ばれてたから。ってことで、お風呂入って下さい」


 カレンは、少し駄々をこねたが疲れてあるのか、あくびをしきりにしていて、珍しくひとりでベッドで寝てくれた。


「助かった···」


 純一は、なんとなく自分の右手を見て頭を振る。


 寝ぼけていて、カレンの胸を触ってしまったのは、内緒にしておこう。




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