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冴えないおじさん、JKを拾う

「ね、大丈夫?」


 純一は、びしょ濡れになりながらも、背中に背負った少女に声を掛けつつ、なんとかアパートに辿りついた。


(こんなとこ見られたら、誤解どころじゃなくなる)


 そう思いながらも、鍵を差し込み、ドアを開けた瞬間···


「あ、やべ。窓開けて仕事いったんだっけ」と窓から雨粒が侵入し、フローリングの床が池のように広がってるのを見て、思い出し少女を玄関口に座らせてから、純一は慌てて床を拭きに行った。


「ふぅっ。なんとか、かな」


 幸いにも、その付近にコンセントの類などなく、ベッドも離れた壁側にあったのが幸いだった。


 ···のも束の間!


 ハッ!と我に返り、玄関口に少女を置きっぱなしにしているのに気付いた純一は、固まる。


「どうしよう?」


 そのまま寝かすと、ベッドが濡れてしまうし、服を脱がすと···


 で、考えたのは···


「ごめんね。ごめんね···」


 目を固く閉じながら、少女の衣服を脱がす→バスタオルを巻く→ベッドに寝かす行動に出た。


「髪は無理だから、ごめんね」


 少女のまだあどけない寝顔を見つつ、頭の下にタオルを敷こうとし、顔を曇らせた。


「きみっ! ちょっと待ってて」


 少女の荒い息遣いと真っ赤な顔。純一は、体温計で熱を計る。


「ひっ! 39℃もある! そだ、びょ···」


 病院へ!と思った純一だったが、名前も住んでる所も知らない。


 バス停のベンチに座っていたから、誰かを待っていたのかも知れないが、時刻は既に23時を回っていて、バスは既に終わっていた。


「あんなとこで、なにしてたんだろ?」と思った純一だったが、少女の苦しそうな声に我に返り、冷凍庫からアイスノンや冷えピタを取り出し、処置を始めた。


「ご、ごめんね。見ないから!」


 目を閉じ、手を少女の脇や太腿に滑らせ、冷えピタを両サイドに貼っていく。高熱が出た時、元妻が純一にしてたのを思い出した。


 暫く様子を見ながら、純一も着換え、呼吸が安定した頃にやっと···


「風呂にでも入るか。今夜は、予備の布団で寝よう」


 雨に濡れた少女の事も気になったが、濡れた身体のままでは純一も風邪をひく。幸いにも明日、いや、今日は土曜日で休み。


 冷えた身体を少し熱めの湯で温まらせ、ホカホカとした身体の上からパジャマを着て、部屋に戻る。


 ピピッピピッ···


 真っ赤な顔ををしていた少女の顔は、少し赤みが失せてきていた。


「それでも、38℃か。高いな···」


 布団に潜り混んでも、少女の事が気になり、寝ては起きてを何度か繰り返し···


「やっと、37.7℃まで落ちたな。これで、やっと···」


 少女の熱が、微熱程度に落ち、呼吸も安定してきたのが良かったのか、純一はベッドにもたれかかるように眠りに落ちていった。



 が···。


 本来、土日は休日の筈が、急に仕事になり、上司からの電話で起こされた純一は、慌てて着換えながらも、少女の熱を確認し、仕事へと向かった。


「いやー、助かったよ。ありがとうっ!」


 いつもなら、愚痴愚痴とした愚痴しか言わない係長が、休日出勤してくれた数人の社員に頭を下げ!た上に、


「これ、お詫びの寿司」と会議でしか出なかった特上寿司の折り詰めを1人1人に分けていった。


「月曜日は、お前ら休みにしていいから! 今日は、ありがと! お疲れさんっ! いゃー、助かった助かった···」


 言うだけ言って笑いながら営業課を出る係長に、誰もが···


「な、今のってほんとに係長?」


「たぬきとかじゃねーよな?」


 ポカンとしたまま、互いに顔を見合わせていたが、


「月曜日、休んでいいよな?」


「会えるーっ!」


「思いっきり寝るぞ!」


「お疲れーっ!」


 皆それぞれ言い合いながらも、課を出ていき、


「俺が最後なのか···」


 最後に残された純一は、戸締まりを確認してから、電気を消し、家へと向かった。


「熱も下がってたし、服も乾いてたから、帰ってるだろ」と思った純一だったが、アパートへ近くなる度に、段々とまた寂しさが襲う。


「嘘···。灯りついてる!」


 早歩きが、小走りになり、慌てて玄関を開けたが、玄関口に少女の靴は無かった。


「─だよな。見知らぬ家にあんな格好で寝てたんだろうし···」


 目が覚めて、その格好の自分を見た少女は、何を思ったのだろうか?


 もしかしたら、警察に行っているのかも知れない。


 そう考えた瞬間、いきなりガチャッと玄関が開いて···


「ひっ!」その少女が、入ってきて、何食わぬ顔で部屋に···


 そして···


「あぁ! お寿司だ!」と純一が持っていた折り詰めが入った袋を奪い取り、


「いっただっきまぁす!」と勝手に食べ始めた。



「─と言う訳です。そりゃ、身体には触ったけど、ほんと、見てないから! ねっ! 信じて下さい」


 お腹を特上寿司で埋めた少女は、ベッドに腰掛け、純一を見る。


「ほんとに? ほんとに、見てない?」


「うん」


(あれ? この子が着てるのって···)


「ちぇっ。JKなのに···」と少女は、小さく言ったが、純一の耳には届いてはいない。


「まぁ、いいや。私もおじさんの服勝手に借りちゃったし···。ごめんなさい」


 なんとなく顔を見合せ、笑うも···


「ところで、君の名は?」と言う純一に、


「さぁ?」と返す少女。


「住所は? 送ってくよ? ちゃんと、ご両親にも言わないといけないし」と言えば、


「住所? わかんない」と普通に返してくる。


 しかも、真顔で。笑顔はない。


「じゃ、携帯は?」


「携帯? 服とか見たけど入ってなかったよ」と少女は、壁に掛けてあった制服を指さして言った。


「ね、お風呂入りたいんだけど。駄目かな?」


「風呂? 別にいい···っ」


 純一が、最後まで言わない内に、少女は服を脱ぎだそうとし、慌てて止められる。


「ケチ! お風呂位入れてくれたっていいでしょ!」と口を膨らます少女に、困惑しながらも、


「お風呂入れてくれから! 頼むから、目の前で服を脱がないで!」純一に宥められながらも納得する少女。


 純一は、バスルームへと行き、バスタブに湯を入れるも···


(困ったな。ほんとに、名前も住所もわからないんだろうか? 確かに、服を脱がした時ポケットには何も入って居なかった。携帯もお財布も···)


「あ、溜まった」


 少女を呼びに行くと、


「ね、おじさんも一緒に入る?」と笑いながら純一に言って、バスルームへと消えた。


「参ったね、こりゃ」


 純一は、頭に手をやりながら部屋を見回す。朝バタバタしていて、布団もそのままにしていたのに、布団はきれいに折り畳まれ、壁側に寄せられていたし、干していた洗濯物も乾いたのか、折り畳まれていた。


「でも、こんな制服見たことないなー」


 壁に掛かったセーラー服。純一は、小学校〜高校に学校で使う教材を売り込む(と言っても、本当に売り込むのは営業一課)仕事をしてるから、市内近隣の制服はある程度認識はしていた。


「おじさん、着るの?」


 制服を見ながら考え込む純一に、風呂から出た少女は、バスタオル1枚の姿で言う。


「い、いや。まさか···」


「だよねぇ。びっくりした」のは純一の方だった。少女の方は、バスタオル姿のままベッドに腰掛けて、純一を見上げ笑う。


「でね、おじさん! 私の着換えないんだけど!」と膨れ顔で言う少女。


(そりゃそうでしょ。あったら怖い)


 なんて事は言わず、


「さっきまで着てたのは?」


「んー、洗濯機!」


 で、仕方なく着れそうな物をまた差し出すと···


「後ろ向いてて! えっち!」


 風呂に入りたかった純一だったが、後ろを向き顔を手で覆った。


 ゴソゴソという音だけは、耳に伝わったが···


「意外だねぇ。ちょうどいい位だよ」


 振り返った純一は、高校時代のジャージを着込んだ少女を見た。


「どう?」


「大丈夫だと思う」


 ジャージ姿の少女は、どことなく昔片思いしてた女の子に似ていたが···。


「ね、ほんとにきみ···」


「しつこいなぁ。だって、名前も住所も本当にわかんないんだから、しょうがないでしょ!」とキレ気味に言ってベッドへと潜り込んだ。


「悪かった。けど、なんて呼んだらいいかわかんないし···」


 少女を怒らせてしまった事もあり、口調が低くなる純一に、


「カレン。キリシマカレン」と少女は、言った。


「そこ退いて。テレビ見れない」


 純一は、退いてテレビに目をやると、テレビではアイドルの“霧島花恋”が出ていた。


「好きなの?」と聞く純一に、


「嫌い。アイドルなんか大嫌い」と答えるカレンに、純一はなんとなく笑いが出るも、風呂に入るとだけ言い残し、部屋を出た。


「さて···」


 制服ひとつだけを身につけていたカレン(仮)に、毎回毎回服を貸すのも申し訳ない。そもそも、毎日洗濯はしたくはない。


 よって···



「─で、どれにするの?」


 翌日の日曜日に、純一はカレンと一緒に服を買いに“たまプラ”まで来た。


 日曜日だけあって、家族連れや友達と一緒にワチャワチャしてる子供が目立つ。


「んぅ、パパはどれがいい?」


(パパ? 誰?)と周りを見、キョロキョロした純一に、


「パーパッ! こっち!」と手招くカレン。


 やっと、自分の事だと気付くも、


(なんで、パパ?)と不信感が募る。


 純一の同僚や友人にも、既に結婚して子供を設けてるのがいるが、まだ皆幼く、休み明けには家族の愚痴を聞かされたりするが···。


「俺は、この赤いのが···」


「じゃ、このピンクのお願いしまぁす」と純一の案を蹴るカレンに思わず苦笑。


「何着買うの?」


 1つの店を出れば、他の店へと移っては、あれこれ品定めをし、純一の案をことごとく蹴り続けるカレン。


「パパ、お腹すいたぁ」と甘える素振りで腕に絡みついてくる。


(服だけで3万?! しかも、バッグまで!)


 女の子の買い物は、そんなもんなんだろうと思う事にし、純一はカレンと一緒にフードコートで、オムライスを頬張る。


「気のせいかな? なんとなく視線を感じるけど」


 服を選んでる途中から、誰かに見られてる視線を背中に感じてはいた純一だったが、カレンの、


「気のせいじゃない? そこらへんにいる親子と変わらないし。気にしない気にしない!」とまで言われると、気のせいかなと思う純一。


「それに、私そんな可愛くないし」


 オムライスセットについていた小さなタルトを頬張るカレン。


「可愛くないもん」と何故か続けて言う。


「可愛いと思うよ」の言葉に笑顔になるカレン。


(言われたかった?)


 服を買い、昼飯を食って、地下で必要な物を買う。


「これなに? あれは?」の質問の連続。


「なんか、食べれないのとかある?」


「ピーマン! あれだけは死んでも嫌!」と嫌そうな顔で言うカレン。


 食材や洗剤等を買い、車で帰る。


「でも、なんで仕事は電車なの?」


「個人の駐車場料金、出ないからね。交通費も公共料金分しか出ないし」


(これは、本当だ。その分、残業すると手当が付くから)


「ケチな会社なんだね。そこ···」


「はい、これ持って。鍵渡しただろ?」


 たまプラで合鍵を作って、カレンに渡しておいた。


(でないと、開けっ放しで外出されてしまう。昨日みたいに!)


「はぁい!」


 車から降りたカレンは、自分の衣服の袋をだけを持って、いそいそと部屋へと入っていった。


「そんなもんだ···な」と若干寂しくなった純一だったが···


 部屋に入ったカレンが、戻ってきて、他の荷物まで運ぶのを手伝ってくれた。


(ちょっと楽しいもんだな)


 部屋の片付けも、夕飯の手伝いもカレンなりに頑張ってはくれた。


「美味しぃ! これなに?! カレンにもできる?!」


「なにって、ただの肉じゃがだよ? え、知らない?」


 目を輝かせ、じゃがいもの入った顔で頷くカレン。


「どの家庭でも作るよ。いい家で育ったのかな?」


「さぁ? わかんない。おじさんは、どんな家庭で育ったの?」


 肉じゃがや買ってきたサラダやカレンが作った甘い味噌汁(砂糖入り)を飲みながら、純一は地元静岡の話をした。


 東京と静岡は、近いのになかなか帰ろうとはしない純一だったが、なんとなく田舎に住む両親や勝手を応援してくれた姉夫婦の顔、姪の姿が浮かんでは消えた。


「家族かぁ。いいなぁ。カレンも家族が欲しい!」の言葉は、無視したが···



「えぇ、なんで一緒に寝てくれないのぉ?!」


 ベッドの横に布団を敷いて、風呂に入れば、その布団は片付けられ、ベッドには枕が2つ並んでいた。


「何度も言うようだけど、カレンはお客様! それに! 俺は、その···」


「男だから? だから、一緒に寝てくれないの?」


(当たり前です。一緒になんか寝て、手が出たら捕まる···)


 そんな問答を三十分も繰り返し、


「じゃ、ほんとにお休みになったら、またカレンと出かけてくれる? 約束出来る? 嘘つかない?」と懇願され、やっとひとりでベッドに寝てくれるようになった。


「······。」



『嘘つき! バカ! 嘘つき···』


 純一は、カレンの寝顔を見ながら、熱に魘され続けていた時にカレンが発した寝言が、気にはなっていた。


(何があったんだろうか?)

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