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5.晴れて乙ゲーのヒロインになったが、整形はしない!

ため息が出た。

死ぬほど嫌がっても朝は来る。母に手を振り、戦場に向かう兵士のような心地で私は自転車をこいだ。

これから始まるであろう怒涛の一日に頭痛を覚える。そんな私とは裏腹に、頭の中で神様は陽気にぺちゃくちゃ喋っている。彼女の言葉に耳を傾けられるほど、今の私に心の余裕はない。


(…で、私は思ったんです!浅野直哉ももちろんいいのですが、せっかくこの世界に転生したんです。やっぱり狙うべきは隠しキャラかなと!)


「へえー」


(でも、それには問題があって…。公式は隠しキャラはいると断言しているのですが、それが秀蘭の生徒か、教師か、はたまた学園外の方なのか、未だに誰もわからないんです)


「ふーん」


(隠しキャラエンドをクリアした人はまだいない。…そこで!!もし私たちが彼を見つけ出せば、未踏の地を始めて踏んだ達成感を覚えるに違いありません!)


「んー」


(ですから、整形したら浅野ではなくその隠しキャラを攻略しましょうよ!…さくらさん、聞いてます?)


「聞いてる聞いてる。プリンの話でしょ」


(違います。)


ぷーっと神様がほほを膨らませた音が聞こえたが、気にしている暇はない。

…着いてしまった。魔王城に。ゴクリと無意識に唾をのむ。戦の始まりだ。


「私って一年生なんだっけ」


(…1-Cですよ。二階の西側にある教室です)


先ほどの会話で完全に拗ねてしまった神様だが、疑問にはちゃんと答えてくれた。

意を決して学園内に足を踏み込む。まだ正門をくぐっただけなのに、私が敷地内に入った途端、空気がガラリと変わるのを肌で感じた。それもそのはず。正門に入った瞬間から、私は注目の的になったからだ。…もちろん、悪い意味で。


「あ、あれが例の特待生?」

「らしいな。噂どおりのブスじゃん。わかりやすっ」

「てかもしかして自転車通学!?ウケる~」

「こんなのにケンカ売られた椿様がかわいそう」


あちらこちらから聞こえる、決して好意的とは言えないささやき声。

聞かないようにと意識したが、哀れかな、耳は勝手に音を拾った。…役に立たない耳め。


気にしない、気にしない。耐えるんだ、私。昨日もこの悪意の洗礼を受けたんだ。多少の耐性はついたはず。余計なダメージを負わないために、できる限り聞き流すように努める。素早く自転車を近くの芝生に止めて、私は建物の中に入った。


「うっわ…無駄に豪華絢爛…」


校内に入った瞬間、学校にあるはずのないシャンデリアが私の目に映りこんだ。それも小ぶりなものではなく随分とでかい。学校にシャンデリアって。ホテルかよ。

そのほかにも、ところどころに高そうな絵画や花瓶が飾られていた。地面だって大理石でできてる。もはや内装は学校のそれではなく、完全にどこかの五つ星ホテルだ。さすが国内一の金持ち学校。勉学に疲れた生徒のため、とか言ってシングルルームも完備しそうなほどの豪華さだ。


えーと、二階…二階…。

階段を探して歩きまわっていると、不意に左からなにかがぶつかってきた。


「いった…!」


ガン、と肩をぶつけられ思わずよろめく。重心がそれてどさりと地面に尻餅をついてしまった。打ち所が悪かったのかかなり痛い。すぐさま、遠目から私を見ていた生徒たちがくすくすと笑い始めた。


-・・・・・・・最悪だ。

ぶつかってきたやつを睨んでやろうと上を向く。だがその前に声をかけられた。


「ったく、気をつけろよ!」


....

.......

.........はあ?

ほざけ!気をつけるべきなのはどう考えてもお前だろーが!

少しイラつきながらも、私はそいつの顔を確認しようと顔を上げた。

...が、すでにそばには誰もいなかった。


「...あいつ...」

逃げやがったな。なんてやつだ。

けど声はばっちり覚えた。ふてぶてしそうな男の声だ。今度会ったら懲らしめてやる。


(なんかキャラ変わってません?さくらさん)


「変わってません。私は悪口は許せてもこういうのは耐えられないんです」


いつの前にか、学園への怯えは薄まっていた。



ガラッと無造作にクラスの扉を開き、教室の机を一瞥する。自分の席はいとも簡単に見つけることができた。「ブス」、「消えろ」、「学園から出て行け」、「椿様の敵」...机の上にでかでかと書かれて無数の罵言が、ここが私の席だと強調している。

金持ちも庶民もやることは一緒か。溜息が出そうになった。


「あれー、今日も登校してきたんだ。いい度胸してるよね、キミ」


...案の定、というか。やっぱり誰かが絡んできた。いじめられっ子もある意味人気者かもしれない。全くもって嬉しくはないけれど。


声がする方に目を向けると、そこにはまだ幼さが残る顔をした、金髪碧眼の美少年がいた。

...ん?待て。金髪碧眼?ガイコクジン?

それにしては日本語がやけに流暢な気が...。


「ねえ湯本、オマエこういう根性ある女子が好きなんじゃないの?構ってあげなよ」


金髪美少年が隣を向く。指名された湯本という男子は、これまた赤髪に金の瞳といった異国の風貌を持っていた。呼ばれた彼は切れ長の目を不機嫌そうに細めて私を見る。


「ブスは論外って言っただろーが」


なんだとこの...。

確かにこの2人はどこからどう見ても美男子だけども!!心なしかキラキラエフェクトがかかっているような気がするけれども!発言はかなりゲスい。仮にも私は女子だぞ。レディーだぞ。


えーつまんない、と金髪っ子は笑ってもう一方を向いた。


「なおちゃんは?幼馴染でしょ〜

このままじゃこの子、椿ちゃんにいじめ倒されちゃうよ?」


なおちゃん、と呼ばれた男はちらりと私を一瞥した。ふと視線が混じり合う。サラサラとした銀髪に、透き通るような翠の目。同じ教室の中にいるのに、彼だけが違う世界にいるような、浮世離れした印象を受けた。


ああ、彼が「浅野直哉」か。何故かすぐに合点がいった。

この美貌なら一条椿もぞっこんになるだろう。納得納得。たしかに眼福だもんね。容姿と名前の違和感半端ないけど、こんなのが幼馴染だったら羨ましがられるわ絶対。


「......興味ない」

ふい、と無情にも視線を逸らされた。


...前言撤回。なにこいつ。

仮にも幼馴染になんて冷たい態度を取るんだ。小学校の時はいつも一緒でべったりなんじゃなかったのか。


(言ったじゃないですか、人が変わったって)


変わりすぎだろ。

...私のいじめが発展した7割方の理由がこいつの態度にあるように思えてきた。

こいつがどうでもいいという態度を示すほど、私は無様にもこいつに恋をし続けるイタイ庶民として見られるということだ。机の上に「椿様の敵」と書かれていたし、クラス中の人の私を見る視線が、他人のものを略奪しようとした最低な奴を睨むようなそれだったから、違いない。

勘違いも甚だしい。

初日に親しく声をかけたりなんかしたから。

願わくば入学式当日に戻って全力で奴を無視したい。


(それは無理です。ゲームの始まりはプールに突き落とされるところからと決まっているので)


...知ってた。

私が転生する前の木下いずみよ。君の行動は軽はずみすぎた。そのせいで今の私は大変苦労しています。


(整形すればすべて済む話ですよ)


そうは言うけども、そう簡単に収まる話かな、これ。


(ゲーム補正でなんとかなります)


適当...。


「ねえ、木下ちゃん」


ふと、金髪っ子のがまた私に話を振ってきた。


「...なんですか」


「正直な話、キミっていつ退学するの?」


「は?」


思わず眉を顰める。なんの話だ。

金髪っ子は人好きしそうな笑顔でにこっと笑った。


「だって、キミは椿ちゃんの男を奪おうとしたサイテー人間でしょ?そんなやつに秀蘭の生徒を名乗る資格はないじゃん」


学園の恥だよね、と彼が言うと、そうだそうだとクラス中から同意の声が上がった。

...やっぱり勘違いは起きていたか。


「お言葉ですが」

私は気を強く持って反論した。


「私は浅野くんを一条さんから奪おうとしたことなんて一度もありません。彼を好きでもありません」


「浅野くん?[なおくん]じゃねーのか?」


茶化すようにそう言ったのは湯本だ。だまれ赤髪野郎。


「あなた方は勘違いをしています」


そう言い切ると、クラス中がしん、と静まり返った。理解してくれたかな、とほっとするのもつかの間。金髪っ子の顔を見て、私はそうではないとすぐさま悟る。


「あのさあ...」


さっきの人懐っこい笑みから一転、金髪っ子は気だるげに私を見る。


「キミこそ勘違いしてるよ」


え、と思わず声が出る。どうしてクラス中の人が、金髪っ子と同じように興が削がれた顔をしているのか、私には理解できなかった。


「ボクらはショーが見たいのさ」


一歩、一歩と金髪っ子が私に近づいてくる。なんとなく気圧され、私もまた無意識に一歩、一歩と退いていた。


「退屈なんだよ、この学園。だからショーが見たいんだ。痛快で、爽快で、あと半年分はそれを思い出して笑えそうなショーをね。そう、たとえば......ブスな庶民が特待生の座をもぎ取られて、泣く泣く退学する話とか?」


「なっ...」


だから理由とかその子の都合とか、この際どうでもいいんだよね、と言う彼を見て、私は呆気にとられてしまった。


「...あ!面白いこと思いついちゃった!木下ちゃんがいつまでこの学園にいられるか、みんなで賭けてみない?」


まるで面白いおもちゃを見つけたかのような口調で彼は言う。周りの人間もそりゃあいいと口々に賛成し始めた。私は、その光景が信じられず、ただただ唖然としていた。


「ベット、1週間後に10万!」


なに、これ。


「じゃあ俺レイズ!三日後に30万!」


なんなの、これ...。


「レイズ、二日後に40万!」


「ボクもレイズ。明日に50万〜」


金髪っ子が掛け金を上げた途端、ぎゃはははと耳障りな笑い声が聞こえてきた。その腹たつ面を見て、私の中でなにかが切れる音がした。


ふと、頭の中に選択肢が出てくる。


整形しますか?

>はい

>いいえ


私はーーーー





私は、迷わずいいえを選んだ。


(さくらさん!?!?)


「レイズ」


口を開ける。思いのほか大きな声が出た。クラス中の視線が、私のもとに集まる。


私は、金髪っ子を睨みつけながら、一文字1文字はっきりと声に出した。


「ーー三年後の卒業式に、100万」


しん、と。今度こそクラス中が静まり返った。無言の時間は長かった。まるで世界中の音がかき消されたような、静寂の瞬間。


...それを破ったのも、また、この目の前の金髪っ子だった。


「はは、ハハハハハ!」


先ほどまで驚きに目を見開いていた彼は、今度は壊れたように笑い出した。


「面白い!ねえキミ、ほんっと面白いよ!」


クラスで1人、あはははと彼だけが爆笑している。なにが面白いのかさっぱりだが、この際だ。言わせてもらう。


「本気ですよ。私は」


金髪っ子が笑いを止めて私を見た。


「負けず嫌いなんですよ、自分。ーー必ず三年後、あなたから100万巻き上げてやるんで」


せいぜい用意して待っていてください。そういうと、彼は「へえ...」と微笑んだ。


「退屈だから待ってやるよ。...キミの方から100万差し出されるのをね」


「寝言は寝てから言ってください」


「ふふ...」


クラスの人々は、私たち2人の会話に追いつけていけないようだった。みんながみんな、困惑したような顔をしている。


「ま、そういうわけだからさ」


金髪っ子がクラス中の生徒に向かって喋った。


「今朝のショーはこれで終わり!みんな、楽しめたかな?」


「「は、はい!須藤様」」


慌てたようにみんなが言った。

なにがショーだ。なにが。

こっちは人生かかってるって言うのに。


「じゃあ先生が戻る前に席にすわろっか」


金髪っ子が合図を出すと、クラス中の人が一斉に自分の席に戻り始めた。...どうやら、一旦この話はおしまいらしい。

無意識に私は肩の力を抜いた。


「ーーせいぜいボクを楽しませてよ、木下ちゃん」


去り際に金髪っ子がそう耳打ちしてきたが、無視だ無視。

私はお前を愉しませるために存在しているわけではない。


(さ、さくらさん...どうして...)


自分の席に座ると、酷く動揺した様子で神様は聞いてきた。どうして?そんなの簡単だ。あんなゲス野郎どもと恋をするためだけに整形するなんて、馬鹿馬鹿しい。母さんが必死に稼いだお金をドブに投げるようなことだし、昨日まで自分を虐めていた奴が、突然甘い言葉をかけてきたらと思うと、吐き気がする。


(で、でも、このままじゃバットエンド...!)


「大丈夫」


私はクラス中を見回した。今や全ての人が敵と化した、このクラスを。


「私、売られた喧嘩は倍で買う主義だから」


退学エンドは必ず回避してみせる。整形補正がついた顔ではなく、この、初期のブサイク顔で。

やってやろうじゃないか。

必ず三年間、この顔でここを生き延びてやる。

やっとストーリーが動き出した感...。

今回はちょっと構成が雑なので、誤字脱字やこうしたほうがいいんじゃないのというアドバイスがあれば遠慮なくおっしゃってください!

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