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第5話


 新たな空間移動装置の構想を時田から受け取った丁央は、一瞬苦笑する。

「またどえらい事を考えたもんだな、時田さんは」

 そうして、R-4にそれを伝えて協力を仰いだのだが。



「やーダよ」

 移動部屋のシステムを、時田たちに見せてやってほしいと丁央が言うと、R-4は即座に断った。

 トニーと時田にこの部屋を見せれば、彼らなら簡単に同じものを作ってしまうだろう。

 だけど、R-4はそれはしたくなかった。彼らには、新たにこれよりも進んだものを作ってもらいたい。それが出来ると踏んでいるから、あえて突き放すようなことを言うのだ。

「え! R-4ひでぇ」

「ひどくナイもーん。時田ニ見せタラ、解体スルなんて言いそうダもん。絶対ヤダ」


 すると、通信が開いていたのか、急にディスプレイが浮かび上がった。

「そんな手荒なまねはしねーよ。R-4、気が小せえぞ」

 そこには時田が写っている。画面の奥の方でトニーがクスクス笑っているのが見えた。

「イーヤ。時田ハ、たまに手荒すぎル」

「ふん! R-4部屋みたいにコソコソ現れるヤツなんぞ、頼まれても作るかっての」

 生意気な口をきくR-4に、売り言葉に買い言葉で対応する時田。

「ヘーエ。どんなノが出来上がるか、楽しみに待ってルねー」

「今に見てろ! 」



 今回トニー&時田が作ろうとしている空間移動装置は、R-4たちのと同じく、部屋になっているタイプのものだ。ただ、R-4部屋と違う点は、出入り口だけが現れるのではなく、建物全体が現れたり消えたりすることだ。

 しかしそれだと戦闘中に現れた場合、敵の格好のまとになるだろう事が予想される。そこで2人は、ダイヤ国から技術提供を受けているドームバリヤで建物を覆うことにしている。

「あとは建物を探すだけだな。考えたんだけど、いったいR-4部屋は、どこからどうやって手に入れたんだろうな」

「そんなもん、知るか」

 さすがにその道の第一人者だけのことはある。2人の研究はサクサクとはかどり、犬小屋程度の大きさなら、中に入った犬形ロボットとともに無事に移動実験を終えていた。

 トニーが言うように、あとは建物の候補を探すだけだ。彼らの研究室はお手頃サイズだが、大きな工場の内部にあるので、切り離すわけにもいかない。

 丁央は、王宮に点在する建物を自由に使えと言うが、どれも「帯に短し、たすきに長し」だ。今も、かなり長いこと検索を続けていたが、なかなか2人のお眼鏡にかなう物件は出てこない。

「さあーて、こんな時は歩き回るに限る。ちょっとその辺をぶらぶらしてくるわ」

 時田がウーンと伸びをしながら言う。

 トニーは「ああ、行ってこい」と、彼を快く送り出した。


 時田はどこへ行こうという当てもなく、ただ足の向くままに歩いていた。

 と、いつの間にかロボット工学研究所のあたりへやって来ていた。見ると、前庭に変わった形の乗り物が置かれていて、その横に一角獣と泰斗がいる。

「よう、泰斗。それが、例の1人用の乗り物か? 」

「あ、時田さん。はい、今、より一層、一角獣のような小回りのきいた動きに近づけるよう、テスト中です」

「へーえ、面白そうだな」

「でしょ」

 嬉しそうに微笑んだ泰斗だったが、急に良いことを思いついたという風に時田に言った。

「あ、そうだ。実戦と同じようにするのに、一角獣に乗ってくれる人がいないかなーって今、思ってたんですよ。時田さん、お願い出来ませんか? 」

「え、俺? 」

「はい! 」

 時田は急ぐ旅? でもないし、と、快くその役を引き受ける。

 ただし。

「俺はこっちがいい! 」

 と、時田は目を輝かせて乗り物の方を指さした。


 と言うわけで、時田は今、縦横無尽に空を駆け回っている。

「ヒュ~、こりゃいいや。さすが泰斗だな。操縦もすごく簡単だぜ~」

「もう、時田さん! 一角獣の動きに合わせて下さいよ。そのために乗ってもらったんだから~」

 一角獣にまたがる泰斗が文句を言いながら横にやって来る。けれど口調とは裏腹に、なぜかその顔は嬉しそうだ。初めて乗る時田がここまで自由に動かせるのなら、この乗り物はかなり成功と言えるだろう。


「もうちょっと上まで行ってみるぜー」

 楽しそうに言いながら、ぐいん、と上昇する時田。

 すると、ブレイン地区の全景が目に入る。

 自分たちの研究所を中心に、放射状に広がる美しい地域。色とりどりの個性的な建物が立っている外れに、少し広い敷地が見える。

 その中心にそれはあった。

「…あれは」

 しばらく呆然とそれを眺めていた時田は、はっと我に返ると、ものすごいスピードで地上に降りていく。

「え? 時田さん? 」

「見つけたぜ! 泰斗、ありがとよ! 」

 横をすり抜けながら礼を言う時田のあとを、大慌てで追いかける泰斗。

 一角獣がいなくてもきちんと着陸できるようにはしたが、それにしてもあのスピードは。

 だが、心配には及ばなかった。時田は驚くようなテクニックで無事着陸を終えると、まだ空にいる泰斗に投げキッスなどして、研究室へとまっしぐらに走って行くのだった。

「…ホントにもう。でも、あんな破天荒に対応できたってことは、大成功って事かな? 」

 遅れて地上に降りた泰斗をいつの間にか取り巻いて、楽しそうにポンポン弾むリトルペンタたち。どうやら彼らは、時田の無謀運転すらも楽しい遊びだと思っているようだ。

 泰斗は何だか楽しくなりながら、ひとり「やったね」とつぶやいていた。



 バアン!

 と扉が開いて、時田が入ってくる。

 これは何か見つけたな、と、トニーは思い、おもむろにコーヒーメーカーへと歩み寄った。

「お疲れ。まあ飲め」

 マグカップを差し出すと、時田は嬉しそうにそれを受け取って、ひとくち。そして、ふうっと気持ちを落ち着ける。

「見つけたか? 」

「ああ、見つけた! 」

「で、なんだ? 」

「天文台だよ、宇宙天文台! 広さも大きさもちょうど良さそうだし。何より、望遠鏡のドームが、ドームバリヤを張りめぐらせるのにぴったりだ! 」

 なるほど、とトニーは頷く。

「それなら、とりあえず国王に連絡を取ってみるよ。使用許可が下りればいいな」

 他ならぬ歴史ある宇宙天文台だ。それを他の目的に使うと言うのだから、反対意見が出る可能性はある。トニーは急ぎ王宮に連絡を入れるのだった。


 トニーの心配通り、宇宙天文台の建物を使うことには、議会の、特に長老会と呼ばれる年寄りたちが反対の意思を表示した。

 歴史ある建物がなくなるのは寂しい。

 他にもドーム型屋根を持つ建物はたくさんあるだろう、などの理由で。

 だが、それを説得して彼らを納得させたのは、誰あろう国王の丁央だった。

「空間移動の第一人者がどうしても、と言うなら、国王としては最善を尽くしたいのです」

 と、少しずつ少しずつ彼らの固い思い込みを溶かして行く。

 もうひとつ、前国王と王妃の口添えが物を言ったのも、また確かだ。

「確かに、あの建物は歴史的にも重要な役割を多々こなしてきたと、書物などには書かれておるがな。いつまでもノスタルジーにこだわっておっても前には進みませんぞ。未来を作るのは、彼らのような若者でなくてはならん。違いますかな? 」

 そして、新しい天文台を同じ場所に作ること。機能は最新式でも良いが、見た目には今のものとあまりかけ離れていないこと、などの諸条件を満たすことを約束して、なんとか彼らの首を縦に振らせたのだった。

「ありがとう、丁央。お前の努力が無駄にならないような、すげえのを作ってやるぜ。まあ楽しみにしてな」

「はい! 」



 いよいよ天文台の改良が始まったその日、丁央は望遠鏡の取り外し作業に参加した。トニーや時田も来ていて、感慨深げにその様子を眺めている。

 そこへ丁央から依頼を受けた泰斗もやって来た。

「遅くなってごめん。ダブルリトルの調整に時間がかかっちゃった」

 彼が開発中の例の乗り物は、リトルペンタとリトルダイヤの協力を得ることから、誰が言い出したのか、ダブルリトルと呼ばれるようになっていた。

 泰斗が到着したときには、すでに望遠鏡は取り外され、中はがらんどうだ。

「お疲れ、無理言ってすまないな」

「ううん、平気。でも、望遠鏡がなくなると、すごく広いんだね、天文台の中って」

「そうだな」

「で? 僕が出来る事ってなに? 」

「ああ、あれだ」

 天井を見上げた丁央に、誘われるように上を見た泰斗の目に入ってきたものは。

「ドーム? 」

 天文台の天井は大体ドームになっていて、観測するために開閉式になっている。それがどうしたと言うのだろう。

「本当ならあの開閉部は、移動時の安全を考えて密閉するのが一番なんだけど」

「うん」

 泰斗には、ここで丁央の考えていることが大体わかってしまう。

「それじゃあ、様式的に美しくないんだよな。だから俺は空間移動装置になっても、あれが開閉できるようにしたい」

 力強く言う丁央だったが…。


 それに待ったをかける者がいた。

「おいこら」

 時田だ。

「何考えてる。さっき、移動時の安全性を考えて密閉するのが一番って自分でも言っただろうが。開閉式のままにするだと? そんな危険なこと、絶対俺が許さねえ」

 空間移動時に建物にかかるエネルギーは相当である。それを知っている時田の反論は当然だろう。

「それはわかってます」

「だったら諦めな」

「嫌です」

「なんだと」

「せっかく開口部があるのに、密閉してしまうなんて、俺の美的感覚が許さない」

「そんなもんで皆を危険な目に遭わせるのか? 」

「だから泰斗に来てもらったんですよ」

「? 」

 ニンマリ笑って言う丁央に、不審げな顔を向ける時田。

 その横では、彼らの話を聞きながら、部屋や天井を真剣に見つめて行ったり来たりする泰斗がいたが。

 しばらくすると、ふいと笑顔で振り返って2人に言った。

「えーっと。不可能ではないと思うよ」

「ホントか? 」

「うん、前にネットで見た空間移動の理論で言えばね。けどそれは、たとえば窓みたいに平面にあって開口部も小さいものって言う前提でならなんだけど。こんなに大きくて、しかも曲線になってるって言うのは、自分の中になかったから、かなり難しいかも。けど…」

 説明する泰斗を、ポカンとした顔で見ていた時田だったが、不意に口もとを可笑しそうにゆがめて言う。

「泰斗、何だか楽しそうだな」

「え? うん、だって難しいけど面白そう。考え出すとワクワクするんだ。あ、でも、トニーや時田さんの協力は不可欠だよね。装置の設置場所や方法によって、計算がずいぶん違ってくるし。それに、もっときちんと理論をたたき込んでもらわないと、微妙な誤差に対応できないかもしれないし」

 時田は本当にワクワクした様子で言う泰斗に感心したように、思わずOKを出した。

「お前はやっぱりすごいヤツだな。よし! わかったよ。特別に許可してやろう! 」

「ありがとうございます! 」


 大喜びする丁央が、ふと真顔になって泰斗に聞く。

「今更だけど、大丈夫だったか? お前、ダブルリトルの開発もあるんだろ? 」

「あっちはもうほとんど完成してるしね。あとは丁央と、うーんとそうだな、蓮とカレブあたりが乗ってみて、そのあとに移動車とかあんまり乗らない一般の人に何度か試乗してもらったら、完璧だね」

「一般人は良いとして、何でそのほかが、連とカレブと俺なの? 」

 不思議そうな丁央に、

「うーん。僕の知ってる中では、3人が一番破天荒だから」

 と、泰斗が変わった説明をする。

「はあ? 」

「戦闘中ってさ、全然動きが読めないよね。だから、その時の気分でとんでもない事をする丁央たちは、試乗にうってつけなんだよね。リトルペンタがついて行けなくて困っちゃったーっていうくらい無邪気な運転をしてもらえれば、大歓迎だよ」

「は、ハハハ。そうか、まあ言えてるかもなー。わかったよ、じゃあ俺たちは試乗するけど、一般の人にもなるべくたくさん乗ってもらえるように考えてみる」

「ありがとう」



 その日からしばらく、泰斗は天文台と研究所を行ったり来たりしていたが、ダブルリトルに納得のいく仕上げを施して試乗の目途がつくと、本格的に天文台の改装に取りかかるため、天文台に寝泊まりすることにした。

 空間移動装置はというと、同じく天文台を寝床とするトニーと時田の額に汗した奮闘によって、よりいっそう性能の良いものになりそうだし、省力化に関しては、クルスと、エネルギー開発に携わる月羽が連絡を取り合って、日々研究中だ。


 平行して、建物の強度を上げるためにうってつけの素材が見つかった。高い壁を取り壊す話が持ち上がった時に、その要因の1つになったものだ。

 それは、旧市街の外れにある高い壁の扉だった。不思議なことに、ここには扉が片方しかない。なんともアンバランスなそれが、壁の崩れを早めるのではないかと危惧されていたのだ。そのため、この扉は取り外しが検討されている。念のため、素材の構造や強度を検査したところ、その強さとしなやかさに驚かされる事になった。

 データは、建託設計の専門家でもある丁央のもとにも届けられた。

「すごいタイミング。この素材、空間移動装置のために、誰かが作ってここに置いといたんじゃないかって程ぴったりなんだ」

 丁央はちょっとした合間に天文台に顔を出し、泰斗たちに扉の話をした。

「へえ。丁央が言うなら間違いないね」

「ああ、けどさ、あんなに大きいから、ここだけじゃなくて、あらゆるものに使ってもらうつもりだよ。で、この素材の謎を、歴史に詳しい遼太朗に聞いてみたんだ。そしたら、昔、扉はもとより高い壁の素材を作るために、一角獣の角を粉砕して使っていたようだ」

「え? それって、こ…殺して」

 泰斗が驚いて言うと、丁央は首を横に振る。

「いや、壁を作ったのはクイーンで、戦闘ロボットからクイーンシティを守るため。これは知ってるよな。しかも彼女たちはかなり高い技術を持っていたから、1つの角で相当量の素材が作れたと文献にはあるんだって。だから一角獣の亡骸や、もっと昔に、武器として作られた、一角獣の角で出来た剣なんかを再利用したらしいんだ」

「そうなの、良かった…」

 ホッとする泰斗。

「けど、剣を作るために相当な数の一角獣が乱獲されたらしい」

 また息を詰める泰斗に、悲しそうな顔を見せたあと、丁央は毅然と言う。

「だから、この扉は決して無駄にしないと決めたんだ」

 その言葉に、うん、と嬉しそうに頷く泰斗を見て、丁央もまたニッコリと微笑むのだった。



 そんなある日。

 前夜にふとしたことで始まった宇宙における時間概念の意見交換が止まらなくなり、ほぼ徹夜状態だった3人が倒れ込むように眠り込んだのは、夜が白々と明けてきた頃のこと。

 昼頃に珍しくやって来た遼太朗が、ソファとベンチと床(にいるのは当然、時田)で、死んだように動かない3人を見て、一瞬息をのむ。

「遼太朗! 」

 あとから入ってきたステラもそう言って慌てたが、可笑しそうにうつむく遼太朗を見て、これは大丈夫なのだと判断した。

「まったく、科学者っていうのは変わった人種が多いよな。さて、と。あ、あそこにコーヒーメーカーがある。ちょっと借りて待ってよう」

 と、爆睡する彼らをそのままに、優雅にコーヒーなど入れ出すのだった。


「うー…、ムムム」

 しばらくすると、やはり一番寝心地が悪かったのか、床にいた時田が目を覚ます。

 そしておかしな事に、それにつられるように、

「んー、良い匂いだな」

「だからですねー、時間がー宇宙がー」

 他の2人も目を覚ました。

 身体を起こしながら目をこすった泰斗が、ようやく2人に気がついた。

「あれ? 遼太朗? ステラさん? 2人ともいつから参加してたの? 」

「なに寝ぼけてるんだ。もう昼だぞ」

 床で何度か頭を振った時田が、ようやく今の状況を理解したようだ。

「ふわぁーどうやら俺たち、議論しながら眠っちまったらしいぜ」

「そうみたいだな」

「まだ結論出てませんよ」

「そうだ! 」

 と、また話し出そうとする時田と泰斗をまあまあと押さえて、トニーが言う。

「せっかく遼太朗がコーヒーを入れてくれたようだから、ありがたくいただこうぜ」

「おお、用意がいいね」

「さすが遼太朗~」

 しばし真昼のコーヒータイムとなったわけだが、ふと泰斗が聞いた。

「ところで、遼太朗はなんで来てるの? 」

「ああ、ステラにっていうか、ラバラさま経由で強制的にね」

「? 」

 不思議そうな顔をする泰斗に、ステラが説明をはじめた。


 彼女は、泰斗がクイーンシティに呼び戻されたあとも第2拠点に残って、ララと協力しつつリトルたちのスムーズな交代に力を注いでいた。

 同じ頃、遼太朗もまた第2拠点にいて、旧ダイヤ国とジャック国の歴史を紐解いていた。

 そんなときにラバラが「ちょうど頃合い。しばし戻ってこい」と、また不思議な言い回しで強制的に2人を帰国させ、天文台へと導いたとのことだ。


「で、婆さんはあんたたちに何をさせたいんだ? 」

 時田が聞くと、ステラが首をかしげて言う。

「それがよくわからないから困ってるのよ。ところで、ここはもう全部完成してるのかしら? おばあさまが完成したって言うのよ」

「いーや」

「やっぱり…」

 返事がわかっていたように肩を落とすステラに、泰斗が遠慮がちに声をかける。

「えっと、全部じゃないですけど、僕が担当してる覆いの内側の方は、昨日ほぼ完成しました」

 すると、ステラはパチンと指を鳴らして言う。

「きっとそれだわ! その覆いを、1度見せてもらってもいいかしら」

「わかりました」

 泰斗は頷くと壁の方へ歩いて行き、手のひらを当ててディスプレイを浮かび上がらせる。

 そして何やら操作をしていたが、

「じゃあ、起動させまーす」

 と言ってポンと一点を押した。

 ブーンと心地よい羽音がしたかと思うと。

「まあ」

「これはすごいな」

 シュウーーーン、と、閉じたドームの開口部を、まるで傷口に包帯を当てるように、白い天井? が、壁の片側から反対側へと走って行く。その横に、また同じようにひとつ、またひとつ、と天井が出てきて、やがてそれらは、ドームのすべてを覆ってしまった。最後にシュッと音がして、つなぎ目さえ消えてしまう。

 真っ白い天井を見上げながら、どこかで見たことがあるな、と、考えていた遼太朗は、あ、と思ったあとつぶやいていた。

「プラネタリウム…」

 そう、今でもたまに見に行くことがあるが、それは星空を映すあのスクリーンに酷似していた。

 すると、隣で何度か大きく頷いていたステラの雰囲気が変わる。彼女は目を細めてほんのひととき手を天井に大きく広げ、心地よい響きを紡ぎ出す。

「…、…」

 しばらくして、ゆっくりとその手を下げたあと、

「わかったわ」

 と、皆に微笑みかけたのだった。


「じゃあ、外側も完成したら連絡ちょうだいね」

 ステラはそんな言葉を残して帰って行った。

「なんだ? 結局何がわかったのかわからないのかがわからなかったな」

「その言い回しの方がわかりづらいが、まあ、いいんじゃないか」

「そうですよ。完成した暁にはわかるんですから」

 3人は不思議に思いながらも、それぞれの仕事に戻っていった。




 ドーム下の明かり窓からふんだんに日が差し込む空間移動部屋。

 その床に寝そべって、天井を見上げている男。

「なーんか、癒されるんだよなー」

 つぶやいた彼は、目を閉じると、いつの間にかすうすうと寝息を立てていた。


 完成した空間移動装置の天井には、青い空に輝くペンタグラム星座とツインダイヤモンド星座が浮かび上がっている。これは、ラバラ、ステラ、ララの3人が、航行を護るために術を使って施したものだ。

 あのときステラが「わかった」と言ったのはこの護りのことだ。

 そして、2つの星座の間を縫うように飛んでいる一角獣と、3人の女神たち。

 活き活きとしたタッチで描かれたそれは、自由で、奔放で。けれどえもいわれぬ温かさをかもし出していた。

 こちらは、なんと遼太朗がラバラに頼まれて描いたものだ。浮かび上がったペンタグラムとツインダイヤモンドを見た途端、彼の心の琴線に何かが引っかかって、ほぼ1日で仕上げてしまったという代物だ。

「遼太朗にこんな才能があったなんて」

 これは、ずっと一緒に過ごしてきた泰斗と丁央すら知らなかった才能だ。

「いや、こっちの方は本当にただの趣味で、好きで描いているだけだ」

「それがこんなにすごいんなら、言うことないじゃないか」

 褒められてブスッとしたような顔をするが、実は照れているのだ。

「半分は、あの3人の力だよ」

 と、天井を仰いだ時にはもう、いつもの遼太朗にかえっている。丁央と泰斗はそんな遼太朗を間に挟んで肩を組むと、笑いながら同じように天井を見上げるのだった。


「んあ? あれ、寝ちまってたか」

「そうだよ。まったく床で寝るのが好きな奴だな。さてと、それでは祝賀会場に向かいますか」

 起き上がった時田は、トニーの座る操縦席の後ろへと立つ。テスト飛行先が完成披露の祝賀パーティ会場になっているのだ。

「目標、ダイヤ国、王宮特設広場」

「上手く飛んでくれよお、って、飛ぶに決まってるけどな」

 トニーが最後のキーをポンと打つと、心地よい振動とともに、身体か少し浮いた感じになる。そうして天文台の移動装置は、透けるようにその場から消え去った。




 ダイヤ国王宮広場では、集まった者たちが、固唾をのんで到着を待っている。

 と、フィーンと空気が揺れたかと思うと、ドーム型の建物が綺麗に姿を現した。


 途端に。

 あたりは大歓声に包まれた。

 第2の空間移動部屋が、完成した瞬間だった。




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