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第9話


「待たせたな」

 という時田の言葉のあとに、空間移動部屋から、あらん限りのダイヤ国戦闘ロボットが投下された砂漠。

 だがそれらの前には、敵の戦闘ロボがあとからあとから起動してやってくる。


「なんだってんだよおー。まったくー。なんでここに来て、埋まってたロボットがじゃんじゃん起動しはじめるわけ? 」

「さあな、俺たちの噂を聞いて会いにきてくれたのかもな」

「クイーンシティ始まっていらいの、最強の兵士が揃ってる、てか? 」


 ドン、ドン! 

 ズギューーーーゥン

 ガガガガガ! 


 起動したロボットは、やはりひとつ覚えのようにクイーンシティの方へと進んでいく。それを迎え撃つクイーンシティとダイヤ国の戦闘員と戦闘ロボ。ただ、近衛隊もハリス隊も、時間がたつにつれてなぜか少し違和感を感じていた。

 攻撃が甘くなっている。

 と言うより、ほとんど攻撃してこずに、ただ移動しているだけの時もあるのだ。

 何かから逃げるか、どこかから離れるかのように。

 だが、攻撃が少ないとはいえ、全然仕掛けてこないわけではない。ときおり思い出したように激しくはなるのだ。そのため、ただ見過ごすわけには行かないと言うのが現状だ。


「やっぱりクイーンシティに向かってるのか。なぜ目と鼻の先にある第1拠点を襲ってこないんだろう」

 その頃丁央は、何人かの近衛隊を連れて第1拠点の逆方向にいた。起動したロボットの不思議な行動から、念のためこのあたりを調査することにしたのだ。

「報告によると、敵の攻撃がだんだん緩やかになっているようです」

「それもおかしいよな。以前に起動したヤツらは情け容赦なかったのにな。もしかして、またブラックホールが現れるんだろうか」

「え? 」

「それで、地下に埋められた戦闘ロボットが何か察知して、なーんてね。ロボットは鳥や獣じゃないよな」

 苦笑いする丁央。

 だが、このあと、その予想があながち外れていなかったのを丁央たちは知ることになる。


「特にこのあたりは異常ないようです」

「わかった。では、俺たちも砂漠へ向かうことにする」

「ラジャ」



 その頃、ラバラたちを乗せたR-4の移動部屋は、誰にも知られてはならない時間移動を果たして、第2拠点である旧ダイヤ国へ現れていた。

 グニャグニャと歪む空間が出入り口に変わると、中からラバラが降りてくる。

「あ、ラバラさまじゃないですか。実は今、第1拠点が大変なことになってるんですよお」

 ちょうど第二陣のダブルリトルを調整していた泰斗が、勢い込んでやって来る。

「ほほう、何が起こっておる」

 泰斗から説明を受けたラバラは、しばし考え込む。

「なるほど。そうか」

「ラバラさま、どうかしたの? 」

 不思議そうに聞く泰斗に、ラバラはたった今降りてきたばかりの移動部屋へと、さっさと戻っていく。

「え? 」

「R-4。ダイヤ国のロボット専門家の所へ連れて行け」

「エエー、ラバラさま。人使いガ荒い」

 むくれているR-4を尻目に、泰斗が聞く。

「なんでロボット専門家に? 」

「まあよい、お前も専門家じゃったの。一緒に来い」

 驚く泰斗を移動部屋に無理矢理引っ張り込むと、ラバラはダイヤ国本国へと向かうのだった。


 そしてここはダイヤ国のロボット工場。

 ラバラは技術担当の責任者を捕まえて、話を聞いていた。

「うちの戦闘ロボットですか? 」

「おお、そうじゃ。本人たちはどうやって敵味方を区別しておるのじゃ? 識別の仕方は、わしにはちんぷんかんぷんじゃし、何かこう、光線とかでいっぺんに指令を出して動かすことはできんのか? 」

 ロボットを人のように本人と呼ぶラバラを、思わず微笑んで見た技術者は言う。

「いえ、光線では無理ですが、一定の周波数で誘導することは可能です」

「そうか、それはよい」

 嬉しそうに頷いたあと、ラバラはあらためて依頼する。

「それなら、わしらが第1拠点に到着したならば、それらを今おる砂漠から離れるように誘導してくれんかの。できれば時田の移動部屋に納めてもらえればありがたい」

「ええっと、わかりました。やらせていただきます」

 ラバラはなぜそんなことを言うのだろう。泰斗にはよくわからなかったが、彼女の言うことなら間違いはないだろうと、思わず願い出る。

「だったら僕にも協力させて下さい」

「はい、泰斗さんなら大歓迎ですよ」

 ここダイヤ国の技術者たちの間にも、すでに泰斗の優秀さは広く知れ渡っている。責任者の彼が喜んだのは言うまでもなかった。




〈260年前のクイーンシティ。

「地下に埋もれてる戦闘ロボットが、大ダメージを受けるって出てるわ」

「え、それって、またブラックホールが? 」

「ううん、ブラックホールはあのときペンタちゃんとやっつけたはずなんだけどなあ。…あ、そうよね、ペンタちゃん」

 キュイキュイ言いながら、ポンポンと弾むこの時代のリトルペンタ。

「かーわいい」

 いつもの癖で、ステラが思わず触ってしまうと、それはパチン! とはじけて消えてしまった。

「あ! ごめんなさい! 」

 思わず謝るステラに、ルエラは微笑んで言う。

「だーいじょうぶよお。この子たちは生まれてはじけてを繰り返して、進化してるの。それが証拠に、貴女たちの時代では、触っても消えないでしょ? 」

「はい、…でも、何だか申し訳なかったわ」

「ふふ、優しいー、さすがは私の血筋! 」

 ルエラはガシガシとステラの頭をなでて、ついでにキューッとハグなどしてラバラにあきれかえられている。

「っと、いけない。でね、地下から大ダメージを受けるって事は、もちろん地上にも影響があるって事よね。でも、さすがの私にも何が起こるかまではわからない、…、…あ、待って…、雨? いえ、なにかしら、水? 」

 急に半眼になって遠くを見つめたルエラが、そんな風に言い出した。

「ねえ、オアシスを見つけたって言ったわよね。だったらそこが何かのキーポイントになるかもしれないわ」

「そうか」

「だったら決まり! 今から、お3人に水を操る力を授けることにするわ」

「え? そんなこと出来るんですか? 」

 驚くララに、ふふーんと指を回して楽しそうに言うルエラ。

「まかせなさい、私を誰だと思ってるの」

「すごーい」

「でもね、この力は1回しか使えないの。だから状況を良く見極めて、本当に手の打ちようがないと判断した時だけね。使いどころはくれぐれも間違えないで」

 珍しく真顔になって言うルエラに、ステラやララはともかく、ラバラまで思わず気を引き締めるのだった〉




 そんな経緯があったので、ラバラは、オアシスの水が地下水と混ざり合って、地下に大量に流れ込むのではないかと予想したのだ。何かのきっかけでそれを察知したロボットが起動しはじめ、オアシスから離れ出したのではないかと。

 そして、水が関係しているのなら、ダイヤ国のロボットたちは早急にその場を離れさせる必要があると判断した。精密機械の大敵は水だからだ。

 移動している間にラバラの予想を聞いた泰斗は、かなり驚いていた。

「そうなんですか? じゃあ、すべて誘導しなくちゃ。…本当なら、起動したのも救ってあげたいけど、今の技術じゃ1体ずつしか改良できないし」

 なんと泰斗は敵のロボットまで回収したいようだったが、それがとうてい無理なことは十分承知している。

「泰斗さんは殺人ロボットまで助けたいのですか? 」

 ダイヤ国の技術者が驚いて聞くと、泰斗は少し哀しそうに答える。

「ロボットを殺人兵器にしたのは人です。彼らはもともと透明で、なにも色はついてないはずですから」

 それを聞いた技術者は、絶句したあと大きく頷いた。

「…そう、ですね。本当にそのとおりだ」

 その返事に、泰斗はこちらも嬉しそうに頷くと、気持ちを切り替える。

「じゃあ、ダイヤ国のロボットは1体残らず時田さんの移動部屋に収納できるよう、頑張りましょう」

「ありがとうございます」

 そのあと彼らはR-4と別れて、第2拠点に設置された移動装置で、砂漠のオアシスへと向かったのだった。


 だが、そう簡単に事は運ばない。

 到着した彼らが第1拠点のディスプレイで見たものは…。

 ドオン、ドオン! 

 ヒューウーーーン、ドンドン! 

 行く手を阻むクイーンシティとダイヤ国の戦闘チームに、攻撃を返しながら進んでいく戦闘ロボットたち。

 起動したロボットは、まだこんなに地中に埋まっていたのかと思うほど大量で、しかもジャンプロボットもいる。ここでダイヤ国のロボがいなくなっては、戦闘ロボットを抑えきれなくなるかもしれなかった。

「これは…」

「思ったより数が多いの」

 少し驚いたラバラだが、それでも丁央に通信を入れるのだった。


 ラバラと泰斗から報告を受けた丁央は、実はその少し前からあることを考えていた。

 そこで、戦闘中のハリスとイエルドに呼びかける。

「忙しいときにすまない。実は1度、応戦をやめてみようかと思ってるんだけど」

「はあ? とうとう頭がいかれたか」

 同級生だったハリスは容赦ない。

「何か訳があるのですか? 」

 さすがにイエルドは冷静だ。

「ああ、ラバラさまから連絡があってさ、ダイヤ国のロボットをすべて引き上げてほしいってことだ」

「マジか」

「それはそれは」

 のんきに会話をしているが、3人とも各々の持ち場で戦闘中だ。

「見てると、少しずつ攻撃が甘くなってきてると思わないか? こいつらは戦闘ロボットのくせに、今は敵を倒すよりも移動の方を優先させている。だからしばらく放っておいても大丈夫だと思うんだよな。ラバラさまが言ってこなくても、やめるつもりではいた」

「で? 」

「ヤツらの行く先はクイーンシティ国境あたりだと踏んでる。だからあっちの守りを強化して、いざというときのため、空間移動部屋にも待機してもらう」

「…」

「…」

 しばらくの間、2人からの答えはなかったが、そのうちため息と苦笑が聞こえた。

「わかったよ、了解。どうせ反対しても強行するんだろ? わがままな王様だぜ、まったく」

「ふふ、同じく了解です」

「ありがとう! 」


 そのあと、丁央はすぐにラバラに連絡を返す。

 すると。

「じゃあ、ダイヤ国のロボットたちは、いったん全部引き上げるね」

 通信から聞こえた泰斗の声に、丁央はこんな時だというのに妙に楽しそうだ。

「泰斗? そうか、お前が来てるなら大船に乗ってるのと同じだな。よろしく! 」

「ラジャ」

 国王からのゴーサインが出たことで、技術者たちは俄然忙しくなる。

 第1拠点に運び込まれた誘導装置の前で、ディスプレイを見上げながら相談をはじめた。

「誘導は一方向にしないと回収が大変ですね」

「そうですね」

「じゃあ、こちらから見て右側にお願いします。砂漠がなだらかになるので、時田たちが着陸しやすいと思います」

「わかりました」


「なんだあ? せっかく運んでやったのに、また回収しろってかー」

 連絡を受けた時田は、文句を言いながらも着陸地点や時間など、かなり細かくこだわって指示を仰いでいる。

「楽しそうだな、時田」

 ニヤニヤしながら言うトニーに、照れているのか、ふん、と鼻息の荒い時田だった。


「それでは、誘導を開始します」

 ダイヤ国技術者が、装置を起動しはじめた。

 すると、ドン、ドン! と交戦を続けていたダイヤ国ロボットが、ほんの少し動きを止めて、ゾロゾロと横へ移動をはじめた。

 思った通りなのかどうか、敵のロボットはそれらをしつこく追うこともなく、また前へと進み始める。たまにダイヤ国の周波数に反応して、同じように横へそれる戦闘ロボがいたが、それらはハリス隊と近衛隊の格好の餌食となった。

「こーら、そっちへ行くんじゃない! 」

「まったく、勘違いする奴もいるとは」

 ドオン! 

 ドォン! 

 しばらくは勘違いロボを攻撃する音が響いていたが、それも止んで。

 大移動の列からかなり離れた場所にすべてのダイヤ国ロボットが集まると、あたりの空間がグニャグニャと歪みはじめた。

「よう、待たせたな」

 時田の声がふたたび響き渡った。

「時田さん、待ってませんよー」

「いやいや、ここは、待ってました! いよ、イイ男! などと言うもんじゃよ」

 泰斗とラバラが仲良く返事をしている。

「なんだそれは。まあいい、早速回収作業に入るぜえ」

 そう声が聞こえて、現れた天文台が砂漠に降り立つと、大きく出入り口の扉が開いた。

 ダイヤ国のロボットは、吸い込まれるように中へと消えていく。

 すると、敵ロボットの一部が急にそちらへと進行方向を変えだした。中でもジャンプロボットはその跳躍力を生かして、飛ぶようにやって来る。どうやら自分たちも移動部屋へ入ろうとしているようだ。

「いけない! 」

 それに気づいたハリス隊と近衛隊は、すぐさま護衛に向かった。


 ドン、ドン、ドォン! 

 キューーーウン、ドン! 

 彼らに守られつつ、ロボット回収作業は進んでいく。

「もう、しつこいヤツら。…あら、はしたないですわね」

 コホンと咳払いしたパールが言うように、後から後から、しつこいほどにやって来る。

「まだか」

 ハリスが少しじれて聞くが、

「もうちょっとー」

 脱力系の時田が答えている。その頃には、もう9割方回収は終わっていた。

「のんきな声。力抜けちゃう~」

 などと言いつつ、カレブは容赦なくロボットに攻撃を浴びせる。


「あと10体…」

 トニーがつぶやいたその時。

 遠くで、ドオン!! と、ものすごい音が響いた。

「なんだ?! 」

「え? なに? 」

「! 」

 驚きながら音の方へ目を向けた隊員たちが見たものは。


 彼らのいるところからかなり離れている第1拠点オアシスに、肉眼で見えるほど高く吹き上がっている、水の柱だった。



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