第8話
ジャンプロボットが起動する前日のこと。
ラバラは旧市街にある、自宅兼仕事場の占い部屋にいた。
さきほどから、どうも気分が落ち着かない。
「おばあさま、どうしたの? 」
珍しく少しイライラしたように歩き回るラバラに、ステラが心配して声をかける。
「うーむ。どうも今回ばかりは、わしの手にも余るかもしれん」
「え? 」
「そうよの…」
と、ようやく歩みを止めると、ラバラはつつっとテーブルに歩み寄り、クリスタルで縁取られたカードを取り出した。
「おばあさま、そのカードは」
「おお、そうじゃよ、よほどのことがない限り使わん奴じゃ」
「え、じゃあ何か大事な事が」
「おこるかもしれん、」
そう言った後、ラバラは歌うように何かを唱えながらカードを手のひらに乗せる。
すると、なんとカードがばらばらと空中に浮かび上がり、ラバラが手を回すと、カードもぐるぐるとシャッフルし始めた。
しばらくして手を止めると、不思議なことにカードが1枚、その手に吸い寄せられるように飛び出してきた。
あとのカードはすべて、いつの間にかもう片方の手に乗っている。
ステラはいつもながらの見事な占いに見とれるはずだったが、今日はなぜか違っていた。
手に乗ったはずのカードの山から落ちたのだろうか。テーブルの真ん中に1枚、裏を向いたカードが綺麗に乗っていたのだ。
「! 」
驚いて言葉をなくすステラとは対照的に、ラバラは落ち着きはらって、と言うより、なぜか嬉しそうに「おやおや」などとのんきに言う。
そしてまず最初に手にあるカードを見る。
「うんうん、クイーンシティもダイヤ国も心配には及ばん」
「本当? 」
「ああ。じゃが、問題はコイツじゃ」
と、テーブルに裏向きで乗っているカードを取り上げて表に返す。
「ほほお。これはまた」
「どうしたの? 」
ステラはカードをのぞき込んで言葉に詰まる。
それは、占いをする者が一生に1度お目にかかれるかどうかと言うほど不思議に、どこからともなく現れてくる伝説と呼ばれるカードだった。
「時空の旅人…」
ラバラはカードを見つめてしばし考えにふけっていたが、ふと顔を上げると、ステラに聞いた。
「R-4はどこにおるかの」
「え? そうねーあの子たちは気まぐれだから。泰斗なら知ってるかしら。ちょっと待ってね、聞いてみるわ」
そして今、ラバラはR-4たちの移動部屋にいる。
「ほほう、室内はこんな風になっておったんじゃの。お、これはなんじゃ? 」
「ラバラさま、静かに座ってテ。機械がコワレる」
「ははは、R-4は過保護じゃの」
「過保護ジャなくて、破壊魔に注意してるノ」
あのあと、ステラが泰斗に連絡を入れてみると、彼は王宮の庭を借りてダブルリトルの運転講習会を開いていた。この乗り物は、リトルの力を借りていることもあって、ちょっとしたコツをつかめば、小さな子どもでもお年寄りでも簡単に、自分の手足のように操縦できるのだ。
「え? R-4? ちょっと待ってて、連絡してみる」
ステラから依頼を受けた泰斗は、しばらくのあいだ講師を他の人に任せて、あちこち通信を開き始める。
「ナニ? 今、おやつノ時間デ、忙しいの」
ようやく繋がった時、R-4はまたそんな風につれなく言う。
「ふふ、ホントにあまのじゃくなんだから。えっとね、ラバラさまが用事があるんだって。ちょっと旧市街へ行ってあげて」
と、こんな経緯が途中にあった。
「ところデ、ラバラさまはなんの用? 」
と、エネルギーをすすりながら? R-4が聞いた。
「いや、簡単なこと。わしを過去へ連れて行ってほしいんじゃ」
すると、ちょうど人がお茶を吹き出すように、ブブーっとエネルギーを吹き出すR-4。
「汚いのう、まったく」
「純粋エネルギーだから、全然キタナクない。トコロデ、今、なんて言っタ? 」
「わしを過去へ、正確には260年ほど前に連れて行け、と言ったんじゃ」
「☆ξψ∬∞♪%★<、…………」
そこでR-4は急に動かなくなった。なにやら難しい計算をしているようだ。
ラバラは落ち着き払って、出された自分用のお茶(もちろん人が飲めるお茶だ)に口をつけてのんびり時を待っていた。
「ナンデ、わかったノ、カナ? 」
ようやく話し出すR-4。
「呼ばれたのじゃ」
「呼ばれタ? 」
「時空の旅人…。この世界には、なぜか時間を移動するという概念がない。だがR-4よ。お前なら出来るとこのカードが言った。そうして、時空の向こうで呼んでおるのじゃよ」
「ダレが? 」
R-4はわかりきった答えを聞く。
「伝説の魔女が、じゃよ」
ラバラはニッと笑ってR-4にピースサインを示して見せた。
だがR-4は最初、あまり色よい返事をしなかった。
「ヤだよ」
「ほほう、なんでじゃ」
「だって、時田ニ知られたら、えらいコッチャーに、なル」
空間移動に燃える時田が、時間移動のことを知ったら…。今度こそこの部屋を解体する!、などと、それはそれは恐ろしい事を言い出すかもしれない。
「ハハハ、大丈夫じゃ。今回のことはこのラバラと、他にはステラ、そしてララの2人にしか言わん」
「3人も」
「わしらが信用できんかの? のう、R-4よ」
「ナニ」
「ここにある2つの国は今後も安泰に行くと出ておる。しかし、時空に呼ばれたと言うことは、安泰の前に何かが起きるはずじゃ、必ずな。それが何かを知るためには、行かねばならん」
「お得意ノ、カードがあるでショ」
「そのお得意のカードが、過去へ行けと言っておるのじゃよ」
R-4は、また動かなくなった。だが今度は先ほどより早く立ち直る。
「絶対ニ、行かねばナラヌ? 」
「ああ、絶対に行かねばならぬ」
「ワカッタ、でも、絶対に時田にはナイショ! 約束ダヨー」
「おうおう、時田にも、そのほかの奴にも。そうじゃの、泰斗にも言わんよ」
ラバラは可笑しそうに、最後の泰斗にも、を付け加えた。R-4は微妙に首をかしげて「泰斗ハ」と言ったが、そのあとの言葉は言わなかった。
さすがのステラとララも、時間を移動すると聞いたときは、良くその意味がわからないようだった。
「時間って…」
「過去って…」
R-4が理論を説明しようとしたが、2人は顔を見合わせたあと、それを遮って言った。
「おばあさまが言うなら、大丈夫よ」
「そうね、ラバラさまを信じてるわ」
うんうん、と確認し合う2人を見て、R-4は感心しながらもすねたように言う。
「理論よりもラバラさま、ッテか? テクノロジーを信用しないノー? 」
「あら、ごめんなさい。そんなこと今更よ」
「そ、R-4たちのすごさは、口に出さずとも、よ」
苦笑しながらなだめる2人に、あっという間に機嫌を直すR-4だった。
「うん、ウン。よくわかってルね」
「ところデ、出発は、イツ? 」
R-4がラバラに聞くと、彼女はいとも簡単に言ってのける。
「決まっておるじゃろ、今すぐじゃ」
「ええー?! 」
これにはステラもララもかなり驚く。
「今すぐっておばあさま。まだ準備もなにも」
「そうです! 私なんて急いでって言われたから、着替えの1枚も持ってないんですから」
「そうダ、そうだ」
意義を唱える2人と1台に、ラバラはすぐさま答える。
「準備などいらぬよ。お前さんたちは、何日行っておるつもりじゃ? 話をして、話を聞いて、それですぐに帰る」
「それだけ? 」
「当たり前じゃ、他になんの用がある? わしらは今このときのために過去へ行くのじゃ。ゆめゆめ忘れるでない」
少し厳しい言い方のラバラに、気を引き締めるステラとララ。
R-4は、ラバラの言葉にようやく納得した様子で、久々に時間移動の起動をし始める。
「ジャあ、細かい年代ヲ、ッテ、ラバラさま、わかる? 」
ちょっと不安げに聞くR-4に微笑んだラバラは、1度目を閉じたあと半眼になる。
「うむ。正確には…」
声色が少し変わっている。どうやらトランス状態に入ったようだ。
そのあと、R-4があきれるほど細かく、ラバラは年代と場所を指定していくのだった。
旧市街の市場通り。
今日は次元の向こうから野菜が届けられる日だ。
「さあさあ、今日の目玉は、キャベツって言う野菜だ。こっちのキーベと同じように、生でも、煮ても焼いても食べられるよ! 」
「まあ、ほんと。じゃあこれ、いただこうかしら」
次元の扉が開かれたおかげで、その向こうにいた人類が平和を望む種であったおかげで、このクイーンシティには、こうして日々、食料や資材が届けられている。
もともとおおらかな気質のクイーンたちだったが、さすがに男が生まれなくなったことで、一時は絶滅をも覚悟していたのだが、何がどう作用したのか、こうしてまた希望を見いだしているのだった。
そんな市場のはずれ、草がボウボウと茂ったあたりの空間が、グニャグニャと歪みだす。
現れたのは、R-4たちの移動部屋だ。
ヒョイ、と、R-4が顔を覗かせて辺りを見回したあと、「ダイジョーブ、だれも、いないヨ」と、また顔を引っ込める。
そのあとに降りてきたのは、ラバラたち3人だ。
「イキナリ王宮に現れたんジャ、ビックリ仰天で攻撃されちゃったラ困るでショ? だから、旧市街のハズレに降りるネ」
そんなR-4の言葉通り、移動部屋は旧市街に到着地が設定されていた。
「ほう、これが260年前のクイーンシティか」
「あまり変わってないわね、ここの通り。でも見て、おばあさま! まだあの建物新しいわ! 」
はしゃいだように言ったステラは、ハッと気を引き締めて言う。
「あ、えーと、では王宮に向かいましょうか」
「よいよい。ララも良く見ておくとよい」
「はい」
市場は大賑わいだ。
ステラとララはそこは若い娘だ。食べ物屋の間にある装飾品や衣類の店に、思わず足を止めたりする。ラバラは、「まあ少しは良いか」と、そんな2人をとがめもせずに歩いて行く。
だが、旧市街を通り過ぎて王宮が見えるところまで来ると、さすがの2人も顔を曇らせた。
「高い壁の扉が…」
「閉まってるわ」
そう、戦闘の続くこの時代、高い壁はその中心にある頑丈な扉を閉ざし、外部からの敵を一切遮断している。しかも、空まで届いているかに見える壁のその向こうには、どんよりと暗い暗雲が立ちこめているようだった。
「乗られますか? 」
どうやら市場のはずれは、公共の移動車乗り場になっているらしい。呆然と立っている3人が乗客に見えたのか、移動車の中から声がした。
「あいにく持ち合わせがなくての」
ラバラが情けなさそうに答える。
そう、さすがのR-4も、あの短時間では260年前のクイーンシティ貨幣がどんなものか調べる暇がなかったのだ。
すると、同じように移動車を待っていた女性が気軽に声を掛けてくれる。
「どちらまで? 王宮? まあ、偶然。王宮なら私も行きますから、一緒に乗っていきましょう」
「いや、じゃが、本当に支払えるあてがないのじゃ」
「いいじゃないですか、こんなに広いのに、私1人で乗って行くなんてもったいないわ。さあさあ」
と、半ば強制的に3人は移動車に乗せられてしまった。
到着したあと、その女性は移動車を降りると、ぴょこんと頭を下げて言う。
「すみません。何だか押しつけがましかったですね」
「いいえ、本当に助かりました。でも、何かお礼を」
と言ったステラのあとからラバラが言う。
「わしは占いと呪術をしておっての。どれ、お前さんを占ったあと、幸せのまじないをかけてやろう」
「まあ、ではもしかして貴女も魔女ですか? 」
何気なくその人が言った言葉に、3人は驚いた。
「魔女を知っておるのか? 」
「はい、いま王宮に来られてますわ。あ、もしかして会いに来られたんですか? 」
「おお、そうじゃ」
「それなら、ご案内しますわ。すごい偶然ですね。良かった」
なんと、すいすいと王宮まで来られたばかりか、魔女その人の知り合いがいて、彼女の所まで案内してくれるという。やはりラバラたちは呼ばれているのだろうか。
「ところで、占いがまだじゃった。すまんが名前を教えてくれんかの」
「はい、私は…」
「今澤 柚月と申します」
「こちらでお待ちになって下さい」
柚月が案内してくれたのは、どうやら王宮にいくつかある応接室のようだ。
3人がそれぞれソファに座って待っていると、しばらくしてカチャリ、とドアが開いた。
入ってきたのは、シャツにジーンズというラフな格好なのに、ハッとするような美しさをかもし出している女性だった。
彼女はしばらく3人を見て、少しだけ不可解な顔をして。
だが、そのあとの口調に、ステラやララはもとより、ラバラですら驚いてしまった。
「ええーっと、どこからきたのかな? ああっ!わかった! ご先祖様、ご先祖様よね。わあー嬉しいー。なんで来て下さったのお~? わたし、何か失敗してた~? 」
「何を阿呆なこと言っておるんじゃ。違うわい、子孫じゃよ。お前さんの子孫」
「子孫? ええーーー?! いやだー、なんで私より年上なのよおー、おかしいわよお。ヤダー」
「ヤダー、じゃない。まったく、こんなのが本当に伝説の魔女なのか? 」
「こんなのが本当に伝説の魔女よおー。あら、そちらのお嬢さん方は? まあーかわいいー、これこそ子孫よねえ」
その人はステラととララのふたりをまとめてギュウ、と抱きしめた。目を白黒させながらも嬉しそうに照れる2人。
「で、子孫さんが、3人もお揃いで、なんのご・よ・う? 」
ピッと立てた人差し指を振って面白そうに言う彼女に、ラバラは来なきゃ良かった、と、思ったかどうか。
「ははーん。時空の旅人、ね。え? 時空の旅人? すごーい! ねえ、どんなカード? 私もまだ見たことないわ、そう言えば。見せて見せて! 」
「わしの時代に置いてきた」
「ええーー」
口をとがらせて文句を言う彼女に、ラバラはまたガクッと肩を落とす。
本当にこれが、伝説の魔女か? もしかしたら人違い?
そんなラバラを苦笑して見ながら、あらためてステラが言った。
「ところでルエラさん。身内が言うのもなんですが、うちの祖母は本当の本物の占い師なんです。その祖母が貴女に会いに行け、と言うカードを引いたからには、何ごともなく終わるはずはない、と私は確信しています。どうか、私たちのために力を貸して下さい」
真剣な口調で言うステラを、驚いたように見つめていたルエラは、ふと優しく微笑んで言った。
「もう、そんなに期待されちゃあ、お答えするしかないじゃない? 本当はもっとお話ししたかったんだけど、そろそろ始めますか。ええっと、そうね。ラバラさま、ちょっとこちらへ来て下さる? 」
ルエラは、応接間の窓際、日の光が心地よく入ってくる少し広い空間にラバラを招いた。
そして、ステラとララにはその両脇に立ってもらう。
3人に向かい合って少し離れた所に立ったルエラは、両手を上げて何かを唱え出す。
そして、ゆっくりとその両手を下に降ろすと、3人の頭の上から光の輪が降りてきて、足下のカーペットに美しい文様を描き出した。
「魔方陣…」
ララがつぶやいたとおり、それは魔方陣だった。
そのあとルエラは呪文を唱えつつ手のひらを胸の前であわせ、しばらくするとパッと両手を開く。
すると、空中にカードが浮かび上がり、それはシャッフルされながら天井近くへと上がって行った。
天井で踊るカードを、まるで指揮するように両手で操るルエラ。カードが次第に黄金に輝きだし、やがて目を開けていられない程の光が3人に降り注いだかと思うと。
パアン…
と、何かかはじけた。
呆然とする3人の手の中に、1枚ずつカードが入っていた。
「ふうーん」
3人からカードを受け取って見ていたルエラは、なかなか結果を言わない。
「うーん。どうしようかなー、私が行くのが一番手っ取り早いんだけど」
「え? 」
「それだと貴女たちが解決したことにならないし。それに、いまはこっちが忙しくて、手が離せないのよねー。まあ、この3人なら大丈夫」
なんとも意味深な言葉をつぶやいたあと、ルエラは3人にカードの意味と、もう一つ、呪文とそれを利用する方法を教えていく。
「あなたたちの時代って、リトルペンタちゃんに触ってもはじけて消えないのね? だったらその子たちと…、あら? もう一つ、プラチナブルーの子はなんて言うの? 」
教えたはずのない事柄を言い出すルエラに驚きながらも、ララが答える。
「リトルダイヤです」
「リトルダイヤちゃん! かわいいー。でね、ちょっとラバラさまにはきついけど、一角獣に乗ってもらわなきゃならないわね」
「年寄り扱いするでない。一角獣くらい、乗れるわ」
「あら、ごめんなさい。じゃあ、これからそのあとの事を言うわね」
綺麗に微笑みながら、ルエラは話を続けていくのだった。
少し長い伝授会議? のあと、ラバラたちからR-4の話を聞いたルエラは、
「ええ?! ロボット?! 会いたーい。ねえ、ここにその移動部屋の入り口、持ってきてもらってえ。そうしたら貴女たち、また旧市街まで戻らなくてていいじゃない」
と、いつもの調子でお願いなどしている。
ラバラはやれやれと言う感じで、もう本当にどちらが子孫かわからない口調で言う。
「しようのない奴じゃの、お前さんは。仕方がない、ステラ、連絡を入れてやれ」
「はい」
ステラは、この、チョッピリわがままでフランクで、けれどひとつも高慢なところがない伝説の魔女がとても好きになってしまっていた。それはララも同じだった。
それで、面倒がるR-4をかわるがわる説得して、なんとか入り口をこちらへ持ってこさせることに成功した。
「モウ、戻る時の座標計算ガ、狂っちゃっタジャない」
ぶつぶつ言いながら出てきたR-4をひと目見ると、ルエラは「可愛いー」と、いきなり瞬間移動して抱きしめる。
「あレー」
恥ずかしがりながらも、おとなしくそのままにされているR-4。
「珍しいのお。R-4が素直なよい子じゃ」
からかうラバラに「うるさいヨ」と言いながらも、ルエラの抱擁には何か特別なものを感じているようだった。
「それでは、これでな」
「そうね、残念だけど」
「もう会うことはないようじゃの」
2人にはわかっているようだ。2つの時間を繋ぐのは、この短い逢瀬のみだと言うことを。その雰囲気は、他の2人にも充分伝わっている。
涙目でルエラを見つめるステラとララを、またギュッと抱きしめるルエラ。
「ありがとう、ここまで来てくれて。ねえ、貴女たちには貴女たちの課題があるわ。だから、必ずそれをクリアしてね。だってそれは、貴女たちの時代に生きる人にしか挑戦できないことなのよ。ある意味うらやましいわー」
「そう、なんですか? 」
「ええ、すっごくエキサイティング! なんだもの」
グッとコブシを上げてみせるルエラに、泣き笑いで頷く2人。
「もう、それくらいにして、そろそろ行くぞ」
「「はい」」
もう一度ギュッとハグして、移動部屋へと入るステラとララ。
ラバラはニヤリと笑いながら、固い握手を交わす。ルエラもいたずらっぽくニヤリと笑って、そのあとウインクなどして見せた。
扉が閉まると、空間がグニャグニャと歪みだす。
そうして、そこにあったはずの扉があとかたもなく綺麗に消えてなくなった。
コンコン、とノックのあとに声がする。
「新行内です」
「入れ」
ガチャ、とドアを開けて1人の青年が部屋へ入ってきた。
「報告書です」
「おう、ご苦労」
手塚はさっと目を通して、璃空を見上げた。何か言いたげに見る璃空に、うん、と1つ頷いて目で促した。
「未来からのお客は帰ったのですか? 」
「らしいな」
苦笑しながら応接室のあるあたりを見やる。
手塚たちは会わない方が良いというルエラの意見により、彼らはラバラ一行に会っていない。
「会いたかったか? 」
同じように目をやっていた璃空がかぶりを振って、だが感慨深げに言う。
「260年後。それまで、いえ、それ以降もクイーンシティが存続してくれている。その事実がわかっただけで、嬉しいです。俺たちのしていることは、無駄じゃないと」
「そう、だな」
座っていた椅子から立ち上がって、窓へ近づくと、手塚は外に広がる景色を眺める。
同じように外を見やる璃空は、まさか自分がクイーンシティ国王になるとは、そして、自分の子孫が作った、さっきまでそこにいたロボットに、未来で出会うことになろうとは、このとき、知るよしもなかった。




