暗い檻の中で
少女は檻のなかにいた。
いつからそこにいるのか、とうにわからない。
食事は地面から生えてくるキノコだ。
不思議なことに、食べても明日になるとまた生えている。
檻は、少女が脚を伸ばして寝れるほどに広い。
しかし、少女はいつも檻の端っこのほうでジーッとしていた。
周りは真っ暗でほとんど何も見えない。
地面は岩肌でゴツゴツしている。洞窟だろうか。
少女の一番古い記憶は、全身真っ黒の化け物にここに閉じ込められたということだけ。
それ以外は何も覚えていない。外の世界がどんなのかも知らない。
だが、言葉は知っていた。
檻の外の真っ暗闇の中から、ひそひそと聞こえてくるのだ。
それはどうということのない会話であった。
肉屋の店主が風邪をひいただとか、
隣近所で火事があって大変だっただとか、
恋人と喧嘩しただとか。
少女はそのひそひそ話を楽しみにしていた。
それこそが彼女の世界そのものであったからだ。
暗く冷たい檻の中、
膝を抱えて耳をすます。
ひそひそ……ひそひそ……
今日はどんな話が聞こえてくるのだろうか。