青空紀行文-A.D.21C.
私がおなかに力をこめると
大きな白い翼が背中から生えてきて
私を空へとつれてゆく。
見ると、私の下には、青々と広がる海や
いくつもの銀色の塔がきらめいていて、
私はカモメとたわむれて笑いながら、
雲のすきまを駆けてゆく。
私が息を吹けば、それは風となって、
惑星をまわる旅に出る。
渋谷のセンター街の喧騒から、
竜の骨が埋もれゆく、灼熱炎天下の砂漠まで。
私がくしゃみをすれば、世界に吹雪が吹き荒れる。
冷房が効きすぎた、夏の日のコンビニみたいに。
気付くと私の隣には、一緒に白熊が飛んでいて、
ちょっとだけ嬉しくなる。だからこうして両手を広げて、風に任せて笑う。
眩しく照りつける太陽を見上げて、
ふと、それの中でアルバイトをした時のことを思い出す。
内側には実は、沢山の自電車がずらりと並んでいて、
それを皆で頑張って漕いで、表面を輝かせるのだ。
当然くたくたに疲れたけれど、
お弁当に入っていたタコさんウィンナーのお味と、
中が思いのほか快適な気温だったことが、印象に残っている。
――夜の間は、ちょっとだけお休み。
瞼の裏にはオリオン座を浮かべて、
お風呂上がりの指先で、そっと白鳥座を撫でて。
でも、心配しないで。始発列車はすぐだから。
六時三十分のタイマーが鳴ったら、
私もすぐに、新しく産まれる朝日を、迎えにいってあげるから。
麦わら帽子を被り、勘で角度を調節する。
手紙をしたためて、屋根裏部屋で昔見つけた年代物のボトルに詰めて、
そのまま空の風の渓流の中へと、そっと流してみる。
森と川と空と海を超えて、
素敵な二十三世紀に届きますように。
吟遊詩人は夢を見る。
吟遊詩人の夢を見る。
明日はどんな世界へ行こうかと、
ぼんやりと楽しく考えを巡らせながら、
今日もキンキンに冷蔵庫で冷やした
アイスバーをかじる。