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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第十三章
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煽る風

 鳥は飛ぶものだ

 好きに飛んで、好きに枝にとまる

 どこを飛ぶのも

 どの枝を選ぶのも

 それは鳥の決める事だ


-----------------------------


 空飛ぶ船は、ラヴィが行きたいと思う方向へ、勝手に進んだ。

 マクサルトへ向かう飛空艇を先導しながら、ラヴィは自分の船に乗り込んだバドとデッキから『呪い封じの門』を眺めている。

 空はのどかな昼下がり。もう閉じられていない大きな門は、静かに船を迎え入れる。

 バドがあくびをして、両腕を空へ伸ばした


「早起きしたから、眠くてしょうがねぇや。まだ着くまで時間もあるし、一緒に寝る?」

「眠くありません」

「つれねーの」


 船がマクサルトへ着いたら、バドとはお別れ。ラヴィはそう思うと、眠ってなどいられなかった。少しでも彼との時間を過ごしたかった。


 でも、寝て過ごそうなんて、バドはわたくしとのお別れがそれ程惜しくないみたい……。


 ラヴィは寂しく思い、俯いた。二双の崖が、彼女の顔に、影を落とした。

 バドはこれから国を背負って行こうとしている。出発前に皆を激励していた彼を見て、ラヴィは「ああ、この人は王になるのだ」と眩しく思った。


 わたくしなどに、構っている余裕なんてないのだわ……。


 それにしたって、随分素っ気ないではないか、アッサリし過ぎている。自分達に芽生えた目に見えないものが、そんなに薄いものだったのだろうか、自分ばかりが、とても大事に愛しく思っていたのだろうか、とラヴィは思って俯いた。

 とても寂しい気持ちだった。


「ラヴィ?」


 顔を覗き込まれて、ラヴィはハッとする。


「どした?」


 ラヴィは慌てて顔を上げて、微笑んで見せた。

 優しいフリだけはするのね、と切なく思うと、途端に素直な気持ちが溢れて止まらなくなってしまって戸惑った。胸の内だけに留めるのは、ラヴィには出来なかった。

 彼女はとても素直に呟いた。


「…………寂しいです」


 眉を歪ませて、バドはニヤッとした。それから、おいで、とラヴィの手を引いて、デッキの船首に連れて行くと、追い風を受けてラヴィに向き合った。

 そうしていると、ラヴィはバドから風を受けている様に感じた。

 バドが芝居じみた様子で、片手を胸の前に、もう片手を背に回し、お辞儀をした。


「ラビリエ・イソプロパノール様。覚えておいででしょうか? 貴女はここでワタクシめに、改名をご依頼致しました。

 ……ワタクシめの国の言葉でそれは、『笑顔』と言う意味の言葉でございました。

 そして、それは、ワタクシめが幼き日にどんな時でもそうしている様にと言い聞かせられ、身を持ってその教えに救われて来た言葉で、ございます……」

「……バド」


 彼はお辞儀をしたまま、顔を上げない。

 長い前髪が後ろから吹く風に揺れ、ニッと笑っている大きな口元だけが伺い知れた。


「ご自分の風に乗る、と、貴女はご自分で決められた。ワタクシめも、風に乗り、その名の通り微笑んでいる貴女でいて欲しい」


 バドが顔を上げた。なんて目をしているのだろう、空より青く、日を受けた湖よりも輝いている。


 そう、彼の瞳に光源など要らない。そこには一艘の船。飛んで行く。どこまでも、どこまでも……。


「出来れば花びらに乗せてその御前にひれ伏していたい……なんちゃって。でも、君はそれを望まないだろ?」


 涙ぐみ、迷いを見せるラヴィに、バドが両手を広げ、大声を上げた。


「君はラヴィだ!」


 彼女が立っていられるか試す様に、一際強い風が吹いた。

 ラヴィは煽られそうになりながらバドへ飛び付き、彼の首にしがみ付いた。

 バドはそれを受け止め、抱きしめ、「オレの、ラヴィ(笑顔)」と囁いた。


「……君を呼ぶ度に、救われてた」


 背中に回された腕が、優しい。

 もっと強く抱きしめて欲しいのに。

 船が崖の狭間を抜けて、明るい日差しが差した。

 二人は顔を上げ、眩しさに目を細め、各々の未来を見詰め始める。


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