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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第十三章
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ジージョの後継者

 夕日を受けて橙色に染まった騎士たちの眠る墓地で、真新しい墓標の前に立つ男が一人。

 彼は、「悪かったな」と呟いた。


「こんくらいしか、してやれねぇよ……」


 そう言って、彼は墓標を後にした。

 夕日が、彼の背をほのぼのと暖めたが、彼は知らんぷりを決め込んだ。


 トスカノ国の罪人を記載する名簿から、ジージョ・ポターの名前が消えた。

 ロゼット・カヌ・リョクスからの要請だった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 マクサルト出発の朝は、朝と言うにはあまりにも早く、まだ薄暗かった。

 その薄闇の中、船の前でマクサルトの人々は皆しみじみと泣き出したのだった。

 皆を誘導していたバドが、苦い顔をして俯いた。

 バドにはなんでだかわかった。


 皆はマクサルトへ死にに行こうと思っている。

 マクサルトで、死にたいと願っている!


「ふざけんなよ!」


 わっとバドが皆に怒鳴った。


「泣くんならなぁ、喜んで泣けよ! なんでそんな葬式みたいに泣くんだよ!? お前達はなんで助かった? なんで助かったんだよ!?」


 生きる為だろぉ……!と声を怒気で震わせながら、バドは拳を握った。


「マクサルトで生きろなんて言わねぇよ。オレがマクサルトを帰還先にしたのは、皆に真実を見て欲しいからだ。さぁ乗ってくれ! 生きる気のあるヤツだけ乗ってくれ!」


 でも、と誰かが言った。


「守護神様の加護無しに、どうやって生きろと言うのです……」


 今更ぁ? とバドは大袈裟に頭を抱えて見せる。


「なに言ってんの。加護なんてとっくに無くして地下で生き延びたじゃんか」


 皆が「そうだった」という顔をして、傍にいる者のお互いの顔を見合った。


「いいっていいって。喰いあぐねたら最悪、賊にでもなろうぜ〜」


 わはは、とどこかで笑い声が上がった。

 バドはニヤッとして「旅団とかもいいな」と両手をヒラヒラさせて見せた。

 子供たちが笑った。

 バドが微笑んで、皆に瞳を輝かせた。

 その輝きが、皆の心を照らし、不安や怯えの衣を脱ぎ捨てさせる。


「なんとかなるって!」


 そう言うと、バドは足の弱ったオバアを支えていたラヴィに手招きした。

 ラヴィがそっとオバアを座らせ、傍に来ると「ニヒッ」と笑う。


「なんですか?」

「ちょっと待ってな。おおい、ヘビ女! 交渉しようぜ! 聞こえてんだろ?」


 ガシャーン! とバドの足元に稲妻が落ちて、皆が固まった。

 バドだけがケタケタ笑ってレディ・トスカノの荒々しい登場を迎えた。

 レディ・トスカノは、稲妻の落ちて焼けた地面にスラリと立ってバドを睨みつけている。


『お前な、本当に殺してやろうか?』


 ケケケ、とバドが笑った。


「だってヘビなんだろ? なぁ、空飛ぶ船をくれよ」

『……私はランプの精じゃないよ』

「できねぇの?」

『出来なくは無い。ブラグイーハの作った船に、私の魔力を燃料とすればいい』


 バドは多忙をおして、見送りに来たクリス皇子を媚びた目で見た。

 クリス皇子はしょうがない弟を見る様な顔で笑った。


「どうせ使わない。好きにしろ」


 ヤッタ、とバドはレディ・トスカノへ顔を向けた。


「じゃあ、盗まれると困るから、船長にしか飛ばせないやつにしてくれ。あと、船長に危害が加わりそうになったら、あんたのピシャン! みたいなのが落ちる機能とか欲しいな」


 ホイホイ希望を挙げるバドと、ふんふん何てこと無しに聞いているレディ・トスカノを、一同は目を丸くして見守った。


『ちょっと希望が多すぎやしないか? まあいい。で、船長はお前か?』


 バドはニヤ、と笑うと、ラヴィをレディ・トスカノの前に押し出して、彼女の陰からひょいと顔を出した。


「船長はラヴィ・セイルだ」

「バド!」

「ラヴィ・セイルの魔法の船と、オレの目玉を交換だ。……死んでからなんだよな?」

『そうだ』

 

 ラヴィが首を振った。


「バド! そんな、ダメです」


 バドはパチッと片目をつぶった。


「いーんだ」

「バド! わたくしは貴方と……」


 まだ何か言い掛けたラヴィを遮る様に「なぁ、いいだろぉ?」と甘える様にレディ・トスカノに問いかける。


『船を飛ばし続ける力を何かと常に交換してくれるなら、いい』


 例えば……と、レディ・トスカノがラヴィの腰の辺りを指さした。ラヴィは「あ」と声を上げて、故国から持ち出した宝石を入れた袋に触れた。


「宝石ですか?」

『うん。美しい、私の力になるものを』

「じゃあ、当面の分は超セレブな俺様が用意してやるから、俺もその船乗せろやぁ」


 ロゼがハイハイと手を挙げた。


「ロゼさん!?」

「いいじゃん、俺も連れてけよぉ。ほれ、女の一人旅なんか物騒だしぃ」


 バドが思い切り顔をしかめて「お前と行く方が物騒だ!」と喚いた。


「あ、でも、確かに用心棒がいてくれたら助かります」

「ラヴィ!」


 うふふ、とラヴィは笑う。

 一緒に行くつもりだった。なのに、バドはそうするなと暗に言っている。

 それなら、このくらい気を揉ませたって、お釣りが来るわ。

 ラヴィはツンとしてバドを横目で見た。


「大丈夫ですよ。わたくしに危害を加えたら、ピシャン! なのでしょう?」

「そうだけど……そうだけど……ええー!? なにこの展開……」

「俺もビックリだぞ。ロゼ、『獅子の団』はどうするんだ」


 アスランが腕を組んで言った。ちょっと顔が怒っている。ロゼは「はん」と笑うと、アスランに中指を立てた。


「隊長はあんただろ?」

「……あ?」


 眉根を寄せて、アスランがポカンとした。


「あんたが『獅子の団』隊長だ」


 そう言いながら、ロゼは満足だった。

 

 よぅ、これでいいだろ?

 これで、チャラにしてくれよ……。


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