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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第十三章
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こころを解いて

皆を運ぶ為の船は、収容人数の多さから、イソプロパノールの花嫁を迎えに来た飛空船が選ばれた。

他にも二隻の大型の船があって、マジで世界征服を目論んでたんじゃ、とバドは鳥肌がたった。

渋々といった体で案内役を引き受けたロゼと、自分も行きたいと言い張ったラヴィを共に、馬を飛ばして首都から少し離れた荒野に向かうと、飛空艇はすぐに巨体を現し風を受けて堂々と佇んでいた。

飛空艇を見たトカゲ―――やっぱり男の子の姿をしている―――は、「ふん」と言い、気怠そうにバドを見上げた。


『上手く出来てる』


 彼の尻尾の力を溜めて置く場所があり、それが原動力を造り飛ぶ仕組みだと言う。

 バドはサッパリ分からないので、深く追求せずに聞き流した。


 分かったところで、なんになるってんだ?

 

「良く解んねぇや。やっぱ血で飛ぶのか?」

『うん。僕なら君の血を一滴で飛ばせるよ』


 僕なら、という言葉がバドには引っ掛かった。ブラグイーハなら? という質問は怖くて出来なかった。


「……よし」


 後ろを見るのは止めだ。ロゼを見ろよ。もうリョクスへ向かって馬を飛ばしてる。

 まぁ、スゲェ面倒臭がってたからだけど。


「良かったですね」


 ラヴィが馬を寄せて来て言った。バドがイヒッと笑い掛けると少し切なげに微笑んだ。


「どうした?」

「え?」

「なんか、悲しそう」

「そうですか? そんな事は……」


 言葉じりを濁しながら、ラヴィは巨大な飛空艇を仰ぎ見る。豊かで長い紅茶色の髪が、風を含んで柔らかく膨らんで揺れた。


「わたくしたち、この船で出発しましたね」

「……ああ」

「色々ありました」

「……うん」

「辛くて、悲しい事がたくさん」


 しんみりするのは嫌いだ。バドは唇をちょっと尖らせて、馬の鬣を弄んだ。ぶるる、と馬が抗議して首を振る。

 ラヴィが頬を膨らませた。


「もう、聞いてますか?」

「ああ、聞いてる、聞いてるって」

「もう、いいです」


 プイとそっぽを向いて、ラヴィは馬を早足で歩かせた。バドが追いつくと、更に馬の歩調を速める。更に追いつくと、今度は全力で走り出した。


「おい! なんだよー」


 バドも負けじと馬を走らせるが、馬術はラヴィの方が上だった。

 ラヴィがちょっと振り返った。微笑んでいる。

 悔しくなって、なんとか彼女に追いつくと、バドは馬の上に手綱を持って立った。


「え!? ちょっと、バド!?」


 馬もラヴィも悲鳴を上げたが、かまうもんか。バドはラヴィの後ろに飛び乗ると、ラヴィから手綱を引っ手繰った。

 馬が暴れて、ラヴィはきゃあきゃあ言って馬にしがみ付いた。

 ようやく馬が落ち着くと、バドもラヴィも笑い出した。涙が出るほど笑って、笑って、息切れをして、それが収まった頃、バドはラヴィを後ろからギュッと抱きしめた。ラヴィは抵抗せずに、彼の腕にそっと触れて、「聞いて」と囁いた。


「ロゼさんがジージョさんを罪人扱いした時の事覚えていますか」

「……ああ。君は、凄く怒ったなぁ」

「そうなの。……わたくし、ロゼさんにとても怒りました。でも、違うんです」


 腕の中のラヴィが震えている。


「……自分に怒っていたの……」


 バドは柔らかいラヴィの髪に顔を埋めて頷いた。彼女のすすり泣きが悲しい。


「……そんなわけないって……自分に」


 バドは彼女の気持ちが痛い程判って「もういいよ、話さなくていい」と彼女を抱きしめる腕に力を込めた。


「……良いヤツだったよな」


 嗚咽しながら、ラヴィがこくんと頷いた。腕に暖かい滴を感じた時、バドはもう引き返せない感情を持ってしまった事実に打ち抜かれた。

 バドは死に際の様な息を吐いて、ラヴィを抱く腕に何度も力を込めた。

 こんな気持ちで、女の子を抱きしめたのは初めてだった。身体中から、炎の様な想いが湧き上がって、口から吐き出されようとするのを、バドは止めた。


 言っちゃいけない。

 言っちゃったら、きっと。


 だってラヴィ、君に鳥かごは似合わねぇよ。




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