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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第十三章
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異形

 バドの身体にジージョから発せられた青い光がぶち当たると、すぐに彼は起き上がった。

 ラヴィはその姿を見てハッと息を飲んだ。

 バドは人間の形こそ残しているものの、異形の種の姿をしていた。

 ……ちょうど、レディ・トスカノが怒りを露わにした時の様に、口が裂け、四肢は爬虫類そのもので、地にペタリと付けた足は異様に大きく、人間のそれでは無くなっていた。

 バドは手に持った「トカゲの尾」をパックリと開いた口へ入れ、ゆっくりと飲み込んだ。ゴクンと喉が不器用に動き、途端、尻からずるりと尾が生える。


「……バド……?」


 震えながら囁くラヴィを、チラリとも見ずに、醜く変化したバドはガラス玉の様な瞳でブラグイーハを見据えている。

 見据えられたブラグイーハは不機嫌そうに目を細め呟いた。


「……憑いたか」


 ぴしゃんと床を尾で撃って、バドはニヤッと笑った。

 顔はもうほとんどトカゲに近いのに、いつものニヤニヤ笑いと妙に被った笑い方だった。


『なんもかんも、終わらせてやるよ』


 ザラザラした声でバドが言って、大きな口を開けると炎を吹いた。

 ブラグイーハはサッと腕で炎を一払いすると、かざした手から光の矢を放つ。

 バドのガラス玉の様に変化した目が青く発光し、光の矢がジュッと音を立てて蒸発した。

 不器用そうな動きとは裏腹に、恐ろしく早く高く跳躍して、バドがブラグイーハの目の前に詰め寄り、喉元を鋭い爪で薙いだ。ブラグイーハはそれを避け、振りかぶったバドの腕を剣で打ち落とした。

 少なくとも、打ち落とされた、とラヴィは目をつぶったのだが……バドは剣を腕で受け止め、ブラグイーハに笑っている。


『……勝てねぇよ。トカゲ君はバッチシ目を覚ましてんだから』


 ブラグイーハの胸ぐらを掴んで、バドは容易に彼を宙に持ち上げ吠えた。


『オレ達に手を出した事、後悔させてやるから覚悟しやがれ!』


 ブラグイーハは奥歯を噛みながら笑った。

 長い黒髪が乱れて顔に張り付いている。

 ……彼は汗をかいていた。生まれて初めての、冷や汗だった。

 でも何故か、彼の胸が高鳴る。

 その胸の高鳴りは、生の実感。 

 

 私は生きているのだな……。


 怒れる鬼神を前に、ブラグイーハは思った。


 アーウィン、お前は死んだのに。


 気丈だと思っていたエレンも、アーウィンを追う様に二人の幼子を残して死んだ。……死因は知らない。彼はトスカノにいたから。

 バドがブラグイーハの顔に拳を打ち込んで、床に叩きつけた。

 フー、フー、と息を荒げて自分を見下ろすバドを見て、ブラグイーハは「違う、こんなハズじゃない」と虚しく思う。

 アーウィンもエレンも死んだ。今は二人の忘れ形見が、醜い姿でトカゲに蝕まれている!


「トカゲめ……」


 ブラグイーハは起き上がり、口の血を袖で拭った。剣を構える。


「ア・レン、私と歩むよりそのケダモノを選ぶのか」

『違う。ケダモノはお前……イヤ、オレ達だ。犠牲者の命を差し出して来たオレ達がケダモノなんだ!』

「差し出したのは土竜一族だ!」


 バドが首を激しく振った。汗なのか涙なのか、水滴が飛んだ。


『……違う。ブラグイーハ。……マクサルト人だ』


 ブラグイーハの血の気が引いた。

 マクサルト人? マクサルト人だと!?


「お前は自分が奴らと同じだと言うのか……遥か昔から、お前の一族を利用して来た奴らと」

『そりゃムカつくよ。ムカつくぜ! でも、見事だとは思わないか。奴らは隠し通してオレ達にマクサルトを愛させた!』

「何を言っている!!」


 ブラグイーハが剣を振った。

 バドは俊敏にそれを避けて、ブラグイーハの腕を掴んだ。

 二人の胸板が盛り上がり、大きく上下に揺れている。

 掠れた声で、バドが言葉を絞り出す。


『土竜一族が何もかも裏方を引き受けてたとは思わないのか。

 自分たちの良心に従えば、国が枯れるのを知っていたんだ。

 そんな秘密を抱える事に、恐怖を感じなかったとは思わないか? 

 心安らかに、死を迎えられたと思うか? 

 ……こっちの話になんだけどさ、キリング小父さんがオレに妙にベタ付く理由が判った。

 後ろめたかったんだ。心が痛かったんだ!』


 そう言いながら、バドは自分の声が震えるのを感じた。

 自分で自分の出した答えに、まだ納得が出来ない。


 ―――でも。

 オレは信じるよ。

 人間の良心を。


 ブラグイーハが、今までとは打って変わった様な形相をして、大声を張り上げた。


「黙れ!」


 恐ろしい程の怒りが、ブラグイーハの心を燃え上がらせていた。

 そして同時に、酷く寂しかった。

「お前は余所者だ」とポンと外に弾かれた様な、そんな寂しさを感じた。


「ぐうぅぅううう……」


 渾身の力でバドの腕を振り払い、ブラグイーハは自身の類稀なる剣さばきでバドから生えるトカゲの尾を切り落とした。

 ギャー! とバドが叫んで、床を転がった。

『またしても!』とバドが発していた声とは違う声がした。

 ブラグイーハは荒い息でトカゲの尾に駆け寄った。

 

 ……もう一度!


 もう一度?

 部外者だった私が、一体、何を?

 

「おおおおおぉぉーーー!!」


 ブラグイーハは剣を振り上げる。

 全てから拒絶されたと感じる、痛々しい心から血を流して。



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