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蜥蜴の果実  作者: 梨鳥 
第十二章
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オレ達は

 七年前の王の婚約パーティは七日続いた。

 だとしたら、トスカノのしきたりとして結婚披露宴は一日足して八日のハズなのだが、王はその半分の日数で良いと皆に命じた。

 トスカノの古い人々は不吉だと囁き交わし、新しい人々はその分早く仕事に戻り、稼ぎを出せると頷いた。どちらに理があるにせよ、宴は全て滞りなく進み、とうとう四日目の宵を迎えた。

 今夜で城の大ホールに四日続けて灯り続けた火が消える事だろう。

 そして王は、花嫁を妻とするだろう。


 トスカノの特技は、センスの良い飾り付けだ。

 イソプロパノール城に比べたら幾分か狭く、見劣りのする大ホールも、彼らの手に掛かれば魔法の様に息づき、最先端の美しい披露宴会場に変化した。

 幾千のロウソクの灯に、国産のシャンデリアが細やかな煌めきを放っている。光の粒が人々に降り注ぎ、着飾った女達の宝石に吸い込まれ、色を付けて再び光る。

 ジージョは高貴な人々が汚した食器や床に落ちた食べクズの回収を忙しくしながら、与えられた仕事の合間に、上座に据えられた人形の様なラヴィを何度も盗み見た。

 トスカノへ着いた時、ロゼはすぐにジージョを牢に入れる様言い張ったが、ラヴィが反対し、クリス皇子に掛け合ってくれた。

 卑しいものを見る目つきだったクリス皇子に、未来の婚約の記念にナイトが欲しいとねだり、ジージョを指名してくれたのだった。

 ならば今彼女の傍に立派な格好で据えられていてもいいはずなのだが、さすがにそれはクリス皇子が許してくれなかった。

 でも、ジージョは満足だった。

 自分がラヴィのナイトに指名されるなんて、(しかも本人から!)夢の様で、誇らしくて嬉しくて爆発しそうだった。

 ジージョの給仕係はクリス皇子が提案し、ジージョもそれに頷いた。何故なら、ここなら目立たずにラヴィを傍で見守れるからだ。


 ラヴィ、綺麗だなぁ。(ジージョは心の中ではどもったりしない)

 でも、悲しそうだ……。


 ラヴィが悲しいと、ジージョも悲しい。ジージョは汚れた皿を山積みに持って、溜め息を吐いた。


-----------------------------


 この四日間の宴が始まる日没前に、バド達がジージョの待機していた飛空船に戻って来た。皆泥だらけで、暗い顔をしていた。そして、クリス皇子に表情と同じだけ暗い報告をした。

 アスランが無事だった事だけは、朗報だったけれど、彼はリョクスという所にマクサルトの人達の為に残ったという。ロゼは怒っていたが、ジージョは「アスランらしいなぁ」と彼を誇らしく思った。

 クリス皇子はバド達の報告に、眉すら動かさなかった。

 「そうか」と言って椅子から立ち上がると、レディ・トスカノの名を呼んで、彼女に力を貸して欲しいと頼んだ。

 

 レディ・トスカノはクリス皇子の頼みに対し、少しだけ渋った。


『なんの為に力を貸すのか解らない』

「解らないだって?あんたの国が常軌を逸した方法で成り立ってんのに?」


 バドが横着そうに顔を歪めてレディ・トスカノに言うと、彼女は小首を傾げた。


『そうかな? そんなに、変かな?』

「変だろー!」

『同種族同士の搾取は良くある話じゃないか。

お前が変だと言うのは、搾取の方法の事を言いたいのだろうが、では、別の方法なら良しとするのか』


 はぁ!? とバドが目をひん剥いてレディ・トスカノを睨み付けた。


「いいわきゃねーだろ! オレの国の……!」

「まぁ待てよぉ」


 割って入ったのはロゼだ。


「俺もこの女と同じ意見だ。でもよぉ、ガタガタの国を押し付けられるのはあんただぜぇ」

「一向に構わないよ。国が傾こうと、土地に玉が眠っているのには変わらないから」


 そうだった、怠け者の守護神(?)だった。と、バドがキツめに鼻を摘まんでいると、クリス皇子が静かに言った。


「ここに来た目的をお忘れですか? ……父の瞳は、きっと汚れている事でしょう」


 レディ・トスカノはそれを聞くと、心なしかしゅんとして見せた後、ガラリと人が変わったかの様に、万物が凍り付きそうな燃える瞳で、トスカノ城の方を見据えた。室内だというのに、長い長い髪がふわりと逆立ち、蛇の様に波打った。


『そうしたら即、制裁を喰らわしてやろうよ』

「なんだか当てにならねーなぁ」


 バドが頭の後ろで腕を組んだ。その横で、ジルが「神仏なんてそんなものです」と薄く笑った。


-----------------------------


 結局、ジージョにはレディ・トスカノが味方になってくれたのかどうか解らない。でも、バド達がどうやら納得している様なので、大丈夫なのだろうと思っていた。


 でも、宴は始まってしまった。


 宴前に、王の間でクリス皇子が王をどうにかするハズだったんじゃなかったっけ?

 クリス皇子も王も、ラヴィさえ、何事も無かったかの様にしている。

 王は悪いヤツじゃ無かったのだろうか? だとしたら、クリス皇子はラヴィを諦めるのだろうか? 


「ジージョ、ジージョ!」


 小声で呼ばれて、ジージョはハッと顔を上げた。

 いつの間に傍に来ていたのだろう? 立派な礼服を着ているから一瞬判らなかったけれど、彼の隣に並んだ人物のニッと笑ったその顔は紛れもなくバド。


「わ、わああ、ば、バド! い、い、いつのまま、間にい、いたの? うぅわぁあ、か、か、かっこ、いいよぉ」

「シ! 声デカいって。カッコいいのは元からだろぉ? ……もうすぐダンス?」

「う、うん。そ、そ、そのま、前に、か、かたずけ、るん、るんだ」

「そっか。頑張ってんな。手伝うぜ」

「み、み、みんな、た、助けれた?」


 皿をかちゃかちゃ鳴らしながら、ジージョは少しだけ遠慮がちにバドに聞いた。


「おうよ。ロゼのヤツまで来やがってサ! 『タイチョー!』ってさ」


 ジージョはニッコリ笑った。バドは彼の、人を決して笑いものにしようとしない、否、そうしようと思いつきもしない所に、少しだけの面倒臭さと、尊敬めいたものを感じながら、話を続けた。


「『鷲の団』ってのも出てきてさ、アスランの話を聞いて無条件で味方してくれた。アスランはスゲェよな……。披露宴の事を聞いて気が気じゃないオレに、マクサルトの皆は任せろって言ってくれた。

 正直、どうしてそこまでって思った……。なぁ、クリス皇子はなんでボサッと突っ立ってるんだ? 何がどうなってんの?」

「わ、わ、わから、なな、いんだ」


 鼻から息を出して、バドが鋭い目つきでラヴィを盗み見る。一瞬だけ鋭さが消え、切なさが光ったが、ジージョがそれに気付く前に、彼はサッと目を伏せた。


「なんか変だ。ラヴィは操られてんの? ジージョ、ラヴィとなんかしゃべった?」


 ジージョは悲しげに首を振った。ラヴィとは披露宴準備の前から接触が無い。 食事の皿を下げたりする際に、近くに寄れない事も無いが、一度そうしてコッソリ目を合わせようとして、ラヴィが彼を避ける様にしてからは、近寄りがたくて遠くから彼女を眺めているだけだった。


「そっか……。アイツ気取ってるよな。オレの事もフッたんだぜ。マクサルトであんなに思わせぶりにしといてさぁ!」


 汚れ物で山積みになったワゴンを引きながら、ジージョはバドにニコニコした。


「で、で、でも、も、もどって来た」

「あ?」

「ラ、ラヴぃ、の、たた、ために」


 バドがニヤッとして、ジージョの尻を軽く蹴った。ジージョもクスクス笑った。  

 演奏家たちがダンスの曲を奏で出した。

 二人は薄ら笑いをして顔を見合わせた。


「結婚なんかさせねーぜ」

「う、う、うん」


 バドがジージョの腕を取って、自分の手首を彼の手首に軽く押し付けた。


「マクサルトの儀式だ」


 俺たちは血を混ぜた兄弟。

 かつて父とブラグイーハがそうしていた事を、彼は知らない。


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