『獅子の団』と『鷲の団』3
「おりゃー! 教えなかったか!? 攻撃は、最大の防御ナリー!!」
アスランが声高に一声吼えると、『獅子の団』の騎士達は「うおぉおおおーーー!」と一気に燃え上がり、『鷲の団』の奇妙な筒など恐れもせずに一斉に突撃を開始した。
ロゼが目を丸くしてあたふたした。
「お、オイ、ウォーじゃねぇ……っ!」
「そうだ! そんなもん、棒っきれだ! 突っ込め―! 挟み撃ちだー!」
「待て、隊長は俺……」
「ウォー!」
「勝機は我らにアリー!!」
ロゼははぁー、と大きく溜め息を吐いた。もうイヤ。俺、凄く困ってます。
団長を捕えられて士気も指揮も無い『鷲の団』は、『獅子の団』の迫力におかしな筒でボンボンと虚しく宙を打つのがせいぜいで、ほとんどの者が覇気に固まって構える事も出来なかった。
ああ、どうせなら、使い慣れた弓矢を持って来れば良かった、と多くが後悔をした。
そうしたら、こんなにマゴマゴしなかったかも知れない。否、どっちにしろお終いだ。団長があんなに容易くねじり上げられてしまった。
ほとんど諦めて無抵抗な『鷲の団』を騎士達数人で剣を突き付け一纏めに囲ってしまうと、
「おう、皆見事だな!」
と、アスランが晴れやかに笑った。
「ハイ!」とか「オス!」とか、褒められた犬の様に『獅子の団』の騎士達が力強く返事をする。
ロゼはもう、ただ目を細めて力なく立っているのがやっとだった。
アスランは騎士達に「オウ!」と答え、縛り付けられて座り込むホーク隊長を見る。
ホーク隊長は観念して、アスランを見据えた。
どうやってか分からないが、戻って来た。
何の為に? 否、分かり切っている。
俺への復讐に違いない。
さて、とアスランが彼の前にしゃがみ込んで顔を覗き込むと、
「殺せ」
と、ホーク隊長は唸った。
アスランの細長い眉が、ぐいと上に上がった。
「俺の負けだ。お前の部下を、殺そうとした」
「ああ、あれはいただけなかった」
「……こんな事が世間に知れたら、どうせ失脚だ」
項を垂れるホーク隊長に、「ザマァ、ハゲ鷲!」とロゼが意地悪く笑った。
「たりめーだ。死んだ後でも言いふらしてやるからなぁ」
「ロゼ、止めろ」
ロゼを厳しく止めると、アスランはボリボリ頭を掻いた。
彼が何か言い掛けた時、『鷲の団』の誰かが小さな声を上げた。
「殺さないで下さい」
ハッとして、ホーク隊長はそちらを見る。
『獅子の団』の騎士たちの足の間から、懇願する様にこちらを覗いて、『鷲の団』の騎士達が口々に懇願しだしたのだ。
「ホーク隊長をお許し下さい」
「殺さないで下さい」
「お願いします」
彼らにとっては、命の惜しい隊長なのだろう。それもその筈、ホーク隊長は、身分や容姿の不味さが突っかかって、なかなか騎士に昇進出来ない者達を積極的に『鷲の団』に採用していた。自分の様で放っておけない、とは絶対に口に出さなかったけれど、部下達はその隠された意図に気付いていて、感謝していた。
慕う隊長がいるのは、『獅子の団』の騎士達も同じ。彼らもまた、ロゼやアスランに同情を求める眼差しを向けて、居心地が悪そうにしている。
うんうん、とアスランが腕組みをして深く深く頷いた。
「ホレ見ろ、ホーク」
「お前ら……」
ホーク隊長は、歯を食いしばって俯いた。
「殺さねぇよ」
「……すまねぇ」
「部下に命乞いなんか、させんなよ」
「……情けねぇ……」
なに、大丈夫さ! とアスランが笑った。
「仲間しか、見てねぇよ……」
はぁぁああああ~!? と、ロゼは胸中で喚いた。
でも、彼を除く全員からキラキラが溢れ出ていて、馬鹿馬鹿しさに声も出せなかった。
ロゼは、キラキラなんか、大嫌いだった。




