ラヴィの提案
ロゼの表情が困惑に揺れて、しばらく黙った後腕組みをすると、「で、どうすんの?」とクリス皇子に向き直った。
クリス皇子は心なしか安堵した様子で頷くと、今後の展開を話し出した。
「まずはマクサルト人が本当に捕えられているのか確かめる」
ふん、とバドが鼻を鳴らした。オジイの話と見解が、間違っている訳が無い、と彼は苛立った。
「それはオレとジルでやる。動けるようにしてくれよな」
「ああ。場所の目星は付いている」
クリス皇子はそう言ってロゼを見た。
「多分、リョクスだ」
「だろうよ。広いし、程よく王都から離れてる」
ロゼも頷いた。領地を強引に立ち退かされ、(領主である母は甘んじて受け入れていたが)利用され続けていたのだと思うと、大して思い入れもある訳ではないのに腹が立つ。
「俺も行くぜぇ」
大掃除しねーと。と、余計な一言を言って、バドと睨み合う。
「よせ。ロゼット、『呪い封じの門』同様にリョクスには人が近づかない様に気を配っているはずだ。王都からリョクスへ続く道も、さりげなく封鎖されていたな」
ロゼが頷く。
「道を城壁で封鎖しちまった」
国を支えたリョクスは簡単に忘れ去られ、そこへ続く道は荒れ、城壁の外でその道を見つけたとしても、今や誰もたどろうとはしない。
「だが、お前は家までの道を忘れていまいな?」
「たりめーです」
「よし。この船でひとっ跳びに行きたいところだが……目立つからな。『獅子の団』を動かすのも、避けたい。単独で道案内を頼めるか?」
ロゼは片手をプラッと上げて応じた。
「でも、皆を捉えている所に見張りや警備は無いのか?」
バドが鼻を摘まんで言った。
クリス皇子もロゼも頷いた。
「当然あるだろうな」
「どうせゴロツキ共のかき集めさぁ」
「どの位の人数がいるだろう」
バドの問いに、クリス皇子が首を振った。
「判らない……城に戻り次第出来るだけ調べるが、行った方が早いかも知れない」
「じゃあ行く」
バドが即答して、ジルが薄く笑った。
「どれ程いようが、構いません」
「待ってくれ。マクサルト人の確認ができ次第、一度戻って来てはくれないか?」
はぁ!? とバドが喉から不満そうに声を奮った。
「小さいとはいえ、一国の人数だ。どうやって一斉に動かすつもりだ? それに、言及する為に父が何をしているか、証拠がいる。確信が無ければ私も父を責める事が出来ない……だって息子なんだよ」
バドはしばらく黙ってクリス皇子を睨みつけた。
クリス皇子の心境なんて、バドからしたら、知ったこっちゃない話だ。それどころじゃない話だ。「なに甘い事抜かしてやがる」と、張り倒してやりたい位目の前の男に苛立ちを感じたが、確かに自分とジル二人だけでマクサルトの人々を移動させるのは無理だ、と考え直した。
「……わかった」
「この鳥野郎がひとっ飛びしてきゃ話は早いんじゃねぇ?」
「構いません」
バドがアハッと笑った。
「いいさ。オレ、自分の目で見たいし」
クリス皇子が頷いた。
「では、君たちがリョクス偵察の間、出来るだけ父の目を逸らせておこう」
そう言うと、クリス皇子は隣に座るラヴィの方を見た。
彼女は事の成り行きに不安気な様子で、愛らしい顔を曇らせている。
クリス皇子はそんな彼女の細い肩を、そっと手で覆った。
「事が済むまで、しばらく貴女を何処かで保護します。何不自由無い様、計らいますので安心してください」
保護、とラヴィは呟いた。
また何処かに押し込められるのか、と思うとウンザリする。
それに、バドの事だって心配だ。彼が国と国民の為に、得体の知れない敵へ立ち向かって行くのを知っていて、涼しい顔で何不自由無くかくまわれていられるだろうか?
そんな事、出来ないわ。
そう思って唇をキュッと引き結んだ瞬間、ラヴィはパッと閃いた。
「わたくしにパルティエ皇女をやらせて下さい」




